それはもうホントに。内心ウハウハになる程に。
どうも、おはこんばんにちは。私は至って普通の一般人である。
む、前にも似たような紹介をした覚えが……。いや、余り気にするほどでもないだろう。
それよりもだ。私は世界の崩壊という現象に遭い、摩訶不思議な力を使えるようになった。原因は全く分からない。
私はその摩訶不思議を以って無の世界から何とか脱出し、見慣れない校舎の広場に降り立つもとい、不法進入をしてしまう事に。当然ながら、内心パニックに陥ったのは言うまでもない。
そこで胸が大きい少女と一悶着を起こしてしまい、結果として降参した。まさか真打登場と言わんばかりの謎の男性が現れ、二対一と圧倒的不利に陥ったのだから仕方ない。
それからしばらくの間、どのような処遇を受けるのかと内心恐慌状態になりながらその時を待っていた。
そして学園長室に呼び出され、眼鏡の男から宣告を言い渡される。
……ん? この学園に入学しろと? それは一体どういう事なのか。
いや、少し考えれば分かる。つまりこの学園に入学する事で処分を見送るのだろう。だが、当然ながら監視付き。例えれば無期懲役の刑務所生活という訳だ。
私個人としては、もっと厳しい刑罰が執行されるかと思っていた。鞭打ちとか主に拷問の類いを想像していたので、この処遇には願ったり叶ったりだ。
それに、私には住む場所が無い。先刻私が巻き込まれた世界の崩壊と共に自宅も消失してしまったのだから、困り果てていた所である。私が通っていた学び舎も丸ごと消失してしまったので、これを機に新しい学生生活を送れるのなら嬉しい事この上ない。
どうやらこの学園は寮生活が中心らしく、敷地面積が非常に広い。恐らくだが、有名大学より広いであろう。
衣服に関しても制服を後日支給してくれる様だ。……しかし些か処遇が軽すぎるのではないだろうか。
いや、油断は禁物。きっと私が油断して気が緩んだ所を襲うつもりだ。その後は拷問を科せられ、私の持つ摩訶不思議な力について洗いざらい吐かされるに違いない。想像しただけでも身震いする。
此処に安息の地は無いようだ。精神面での苦痛から攻めるつもりか。なんと陰湿な刑罰なんだ。本格的に私を殺しに掛かっている。
まあそうだとしても、衣食住を確保出来たのは大きい。これは有難い事だ。その点だけは学園長に感謝しよう。
それと、私が質問した時に酷く驚いた様な表情をしていた。はて、私が何か可笑しい事を言ったのだろうか。恥ずかしくて堪らない。
現在、私は転校生という事でメイガス達に紹介する為に教卓の隣に立っている。
以前にも言ったが、私は動揺し易い。つまり私がどのような状態になっているのかは誰もが分かる筈。
緊張し過ぎて死にそうだ。
内心バクバクである。冷や汗すら出ている。大勢の前で自分を見せびらかす程、私は大胆ではない。寧ろ逆だ。
それにメイガス達の視線が怖い。こんな変哲もない一般人が超常の存在である魔道学園に居るのだ。変人だと思われても仕方ない。変態と思われていたら精神的に大ダメージを負うが。
そしてもう一つ、私の緊張のボルテージが極限まで達してしまっている理由である。
浅見リリスが教師であった。
何という事だ。この少女、生徒ではなく教師側だったとは。計算外にも程がある。
幾ら私に非があるとはいえ、ここまでやるとは汚いぞ魔道学園。徹底的に私を監視下に置くつもりか。
生来、ここまで束縛を受けたのは初めてだ。こんな未知、私は要らないというのに。
ここはさっさと自己紹介を済ませてしまおう。緊張で内心死にかけているが、これを乗り切れば何とかなる。
いや待て、パニックに陥っている私は自分で何を言っているのか分からないのだった。これはヤヴァイ。益々パニックを加速させるだけではないか。死にそう。
限界だ。堪らず私は浅見リリスに一言伝え教室から出て行き、その場を離れる(当然、浅見リリスに何を言ったのかすら分からない)。しかしこの行為は現在進行形で醜態を晒してしまっているようなもの。転校初日から失敗してしまうとは公開処刑ものである。ぎゃーす。
とはいえ、黒歴史を量産してしまうよりは遥かにマシだ。笑いものの種にでもなれば即死してしまうレベルである。
私はしっちゃかめっちゃかになっている内心を落ち着かせる為に静かな場所を探す事にした。それと同時に学園長から受けた説明を思い返す。
この学園は魔道士の育成を目的とするらしい。学園長は魔道士を“メイガス”と言っていた。
メイガスは人の道を外れ、文字通り魔道へと踏み込んだ者の総称だとか。あの生徒達も見習いではあるが全員メイガスという事か。私自身は人の道を外れたつもりはないのだが。
彼ら彼女らは世界の理から外れ、異世界・異次元・超常現象などの研究を続けている。その為、個人のずれた精神、主張が基礎的資質となっており、人間の倫理観から逸脱した思想家が殆どを占めている。
つまりあのメイガス達は皆んな狂人で戦闘狂のヒャッハー集団だったという事か。何て危ない学園なんだ此処は。(※違います)
その魔道士達は皆が全て、魔道書なるものを手にする為に研究に励んでいるらしい。だが生憎と私は魔道書のようなものは持ち合わせていない。むしろ必要無いと思う。
私が思うに魔道士というより、魔術師や錬金術師の方が浪漫があるのではないだろうか。いや、これは私が思っているだけで、魔道士と魔術師はあまり変わりが無いのだろう。
それはさておき、学園長が言うには魔道には各分野があるらしく、『
そして、私と一悶着起こした相手である浅見リリスは各分野の魔道を極めし者である七人、『トリニティセブン』の一人らしい。
やはり彼女は強者だった様だ。どうりで流星を墜としても容易に迎撃される訳だ。
しかもそれが七人いるとなれば、私が生き延びる確率が格段に下がってしまっている事は自明の理。これから先、彼女達との接触は避けた方が良いだろう。私の平穏の為である。少しでも長く享受していたいのだ。
さて、私もこの魔道学園に入学するというのならば、それなりに魔道を研究せねばならない。特にトリニティセブンに対抗する手段を講じる為にも必須なものである。
魔道士見習いは、まずそれぞれの「テーマ」探しから始まる。そして魔道士自身の「テーマ」を研究し、成果を出して「実行」に移すことで
……なのだが、一般人である私にはさっぱり解らない。私の持つ摩訶不思議な力の場合は想像と奇妙な詠唱だけで充分であり、其方の方が解り易いのだが、摩訶不思議な力をより確固にする為だ。出来る限りの努力はしよう。
取り敢えず、魔術に関する書物を読み漁るとしよう。それに都合良く、図書館へと辿り着いた。
早速、十冊程度の魔術関連の書物を抜き出し、適当に読む。
そこで私は違和感に気付く。
……どういう事だ、これは。
まさかと思い、十冊程度の書物を読み流し、そこでも違和感を感じ取る。別の書物を抜き出し、それも読んでみた。
間違いない。だが私にはこの違和感の原因が全く掴めない。だが、確かに違和感は感じている。これは何なのだろうか。
───私はこの書物を全てを読んだ事がある。
既知感、とでも言うべきだろうか。いや、この既知感は寧ろ懐かしさを覚えるものだった。
何故、
しかし、余り気にする程でも無い。逆にこの既知感は私を落ち着かせてくれる。悪くない。
人生は未知を既知に変える作業とは良く言ったものだ。む、これは誰の言葉だっただろうか。まあ良い。
私は日が暮れるまで書物を読み漁る事に没頭した。書物を一つ読む度に魂が歓喜している。「ふむ、これは確かそういうものだったな」と私でありながら別の私が思い返し笑みを浮かべている気がして。
いつの間にか私は五百以上もの書物を読了していた。しかもその内容は一字一句覚えている。
不思議な事だが、一冊読む毎に幾百の魔術を使えるようになった感覚がするのだ。今の私はどれ程の魔術を使えるのだろうか。
ふむ、本当に私は平凡な一般人なのだろうか。いよいよ解らなくなった。
だが不安は無い。理由は一つ、魂が主張しているのだ。今のままであれば良いと。
私は一般人である。故にそうなのであり、これは誰にも干渉する事は出来ない。自己完結の世界に否定の要素は入り込めないのだ。
私は学園長から用意された部屋に入り、ベッドの上に座る。ふぅ、と溜息を一つ。
まさかこの短期間でこれ程の体験をしようとは。関ヶ原の戦いもビックリである。いや、私にしたら戦が一日で終結した関ヶ原にビックリなのだが。
さて、少し魔術でも使ってみるとしようか。先ずは私が密かに憧れを抱いていた錬金術と行こう。
元々、これは黄金を創り出す技術の追究を中心とし、不老長寿の霊薬の調合と重なり合う中で、広く物質の科学的変化を対象とするに至った古代・中世における一種の自然学だ。この知識は図書館の一件で思い出した既知の一つである。
等価交換の法則もあるらしいが、錬金術とはまた別のものだ。両手を合わせて地面に手を付け槍とかを創り出す現象は正に浪漫なのだが、私の中にある既知の知識はそうでは無かった為、内心残念に思う。
すると突如として、この部屋に違和感を感じ取る。地震と停電が同時に引き起こされ、事故か何かかと推測する。
だが何時まで経っても違和感が払拭されない。取り敢えず真っ暗のままでは何も見えないので魔術で明かりを点ける。あれ、魔術を使うのはこれが第一号ではないだろうか。あの時の超新星爆発や流星墜落は魔術ではないと思うのでノーカウントだ。
私は部屋から出る為にドアの前に向かいドアノブを回す。
だが開かない。
……おかしい。ドアノブを回して開かないドアは最早ドアではない。ドアの形をした何かだ。どこでもドアはドアを超越した何かだが。
ならば窓から脱出しようとそこへ向かい、扉を開けようとする。
だが開かない。
いや、何故開かない。窓は空気を換気する為にある筈なのに、これは全く窓としての機能を果たしていない。どこでもドアは……やめた。現実逃避は止めにしよう。つまりこれは───
閉じ込められた。
はっきり言うとそうなのだろう。目の前の現実を受け入れなければ前には進めないぞ私。
予想していたとはいえ、これは十中八九トリニティセブンの内の誰かの仕業だろう。この魔道学園に転校して数日は平穏を享受出来ると思っていたのに、転校初日から仕掛けて来るとは。この学園はどこまで私を嫌っているのか。泣きそうだ。
風呂にも入っていない。というかこれから入ろうとしていたのにそれすらさせないとは。恐怖を通り越して怒りが沸いて来た。
よし。こんな現象、無かった事にしてやる。私が想像する現象はこれだ。
───素粒子間時間跳躍・因果律崩壊
これも既知の知識にあったものだ。自身と世界を素粒子化し、多元宇宙ごと過去の時間軸へ跳躍、それによる現在と過去の抑止力を利用して対象を消滅させる。
しかし本気でそれをしてしまえば世界が拙い。故に範囲を学園のみに絞り、効果を限定的にして極限かつ極小に抑える。要するに簡易型の術である。
とはいえ、これを例え全力で行使したとしてもメイガス達やトリニティセブン、学園長には全く効果を得られないだろう。奥の手も隠し持っていたであろうし、私自身このような陳腐な業で倒せるとは思っていない。
既知の知識のお陰で幾万もの魔術を行使出来るようになったとはいえ、私は一般人であり、魔道に関しては初心者も良い所だ。
つまりあれらと比較すると、隔絶とした差があるのだ。それもまだ未完成。成長の余地があるのは此方もそうだが、相手も同じなのだ。もしかすると一生越えられない壁なのかも知れない。
兎に角、違和感が消え去り脱出に成功する。着替えと風呂の用具を持って行く事も忘れない。ちなみに下着に関しては急いで買いに行った。
しかし、廊下を歩いているが人の気配がしない。もう寝静まったのだろうか。
メイガス達は日々魔道の研究をしているのだから、毎日疲れ果てているのだろう。生活習慣がしっかりしていなければ身体が保たない。狂人の集団だというのに、そこら辺は遵守しており、何とも憎めない。
かく言う私も変化の連続で疲労が溜まっている。風呂で汗を流して直ぐに寝てしまおう。魔術を試すのは後からでも遅くない。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
浅見リリスは思う。
この幼い少女は一体どのような人生を送って来たのだと。
「君にはこの学園に入学して貰うよ」
学園長室にて、この学園の長であるビブリアが少女、カール・クラフトに告げる。
カールは学園側に降参を意を示し、実質拘束状態となっていた。だがその様な状況下に置かれても平然と構えている姿。まるで動じていない、寧ろ何も問題ないと言わんばかりの態度。ビブリア学園長すら勝ち目がないと覚悟させられた実力を持つ彼女なのだから、その姿勢も当たり前であった。
「ん、分かった」
そして、ビブリアが告げた処遇についても、二つ返事で了承する。すると彼女が問い掛けた。
「私、この世界の魔道、良く知らない。教えて欲しい」
「!?」
それはリリス達に驚愕を与えるものだった。あの計都彗星を墜とす程の強大な術と力を保有しているというのに、魔道を知らないとは。
いや、彼女は“この世界”と言った。つまりそれは異世界から来たという事に他ならない。
恐らく、カールが居た世界の崩壊が原因となり、彼女がこの世界にやって来た一端を担っているあの崩壊現象が誘発された。そしてカールが虚無からの脱出の際に何かしらの方法を行使して世界規模の衝撃波へと繋がったのだろう。もしそうだとしても、彼女と同次元の存在がいたとなれば世界そのものが消滅してもおかしくない。もしかすると世界の真理、または摂理を知っている可能性も充分に有る。様々な憶測が飛び交う中、学園長は彼女にこの世界の魔道とビブリア学園について説明する。
カールは表情一つ変えずに説明を聞く。だが知っているかの様に聞いているそれは、この世界のあり方と現状確認をしている様にも見えた。
「……大体分かった。ありがとう」
説明を終え、カールはぺこりと頭を下げる。その仕草は愛嬌があり、微笑ましいものがある。
しかし学園長の説明だけでこの世界の理を理解してしまったのだろう。彼女の神威が徐々にこの世界に適応している。寧ろ支配してしまわんとこの世界の理をも侵食していた。
「それでは、教室に案内します。ついて来てください」
「分かった」
浅見はその現象に驚愕しつつも、彼女を自分が担当するクラスに紹介する為に案内する。その浅見の後ろからトコトコと付いて来る彼女は親の背を追い掛ける子どもの様だ。
ビブリアはその光景を見て微笑み、二人が去った後にそれを崩す。
「カール・エルンスト・クラフト=メルクリウス……か」
彼は幼い少女の名前を反芻する。魔道を極める大魔公がその意味を知らない筈は無く。珍しく彼の表情は怪訝なものになっていた。
「まさか、ね」
ビブリアの疑問は絶えない。カール・クラフトの経歴は一切謎に包まれている。出生に関してもだ。それ故にどうしても知りたいと思わせる未知でもあった。
「ふむ、彼女の謎を解き明かすのも面白そうだね」
ビブリアはそう、不敵に笑った。
一方浅見は教卓の前に、カールはその隣に立ち、転校生の紹介をしていた。
「本日からここに転校して来たカール・クラフトさんです。皆さん仲良くしてあげて下さい」
浅見がそう言うも、生徒達は皆が静まり返っている。
転校生が来た前例はある。基本的に転校生の殆どは魔力が高い者達であり、その度に生徒達によって噂の一つでもされて騒ぎ立っていた。
だが今回は違う。誰もが彼女の魅力に目を奪われ、誰もが彼女に畏怖していた。
最初こそ彼女の静謐さと可憐さに好奇、好意と言った正の感情の籠った視線が注がれていたものの、直後に恐怖へと変質した。
神威。
僅かに漏れ出ているそれ。可憐な容姿と幼い体格に不釣り合いである神威を感じ取り、本能が恐怖しているのだ。
「カール・エルンスト・クラフト=メルクリウス。
……よろしく」
その異常な状況下に置かれている場であってもカール・クラフトは平然としており、淡々と自己紹介を済ませる。
誰もそれに応えない。否、反応出来ない。彼女の紡ぐ言葉だけで魂を鷲掴みにされる錯覚を受けているメイガス達では最早抗う事すら出来ないのだ。
「……ッ」
それを初めから解っていたかの様に、カールの表情、瞳は無色から悲哀の色へと変える。
それを横目で視認した浅見は何も言えなかった。カールが異常極まる存在であるのは浅見も既知である。
故にそれが問題なのだ。世界法則から逸脱した存在。法に囚われず、逆に己の法則を以って支配下に置ける神威とは人間にとって忌み嫌うもの。
世界の化外であるカール・エルンスト・クラフト=メルクリウスは万人に拒絶されてしまうのだ。彼女にその気がなくとも、因果がそうさせる。
しかしカール・クラフトはそれすらも操る神格そのものだ。だがそれをしないという事はどういった意味を持つのか。
すると、カールは扉に向かって歩き出す。
「ち、ちょっと!? カールさん!?」
「……先生」
「な、何でしょう?」
不意に声を掛けられ、驚き少し焦りながらも返事をする。彼女からは既に神威を感じられなくなっていた。
「私、異端の存在。だから此処に居ない方が良い。
……さよなら」
「!」
か細い声でそれだけ言うと、教室から退出してしまう。その時の彼女の背中が、やけに寂しく感じた。
浅見は理解した。何故態々神威を発してまでメイガス達に恐怖の感情を植え付けたのか。
そうしなければならなかったのだ。自分は、カール・エルンスト・クラフト=メルクリウスは化物か、それ以上の存在なのだと。その行為だけで、彼女の経験した壮絶な人生を物語っている。
実を言えばカールと初めて邂逅した時、彼女の神威に当てられて気絶したメイガス達は半数以上に上っている。彼女はそれを予め知っていて、態と自分から遠ざける行為を取っているのだ。
『
彼女はその強大なる力を持っているが為に、伴う責任を果たさねばならない。その際に、他人を巻き込みたくないのだ。友人ならば尚更である。過去にそう言った悲劇を経験してしまっているのだろう。あの哀愁漂う雰囲気はそれが原因となっている筈だ。
常人なら発狂するであろう出来事を経験して尚、平然としつつ彼女が人間だと自称する理由が多少なりとも解った気がする。
優しすぎるのだ、彼女は。
故に友人を作らない。作るとしても、彼女と同等の力を持つ者のみに限られる。だがカール・クラフトに見合うだけの力を持つ者が果たしてこの世に存在しているだろうか。
「……っ」
浅見は苦悩する。全てでは無いが、カールの抱える壮絶な過去の一端を理解した彼女は、出来る限り支えになりたいと思うようになった。
しかし浅見にはそれをするだけの力が無い。カールが強過ぎる為に。他のトリニティセブンや魔王であろうと、彼女には釣り合わない。
心の底で泣いているであろう彼女を孤独から救い出すにはどうすれば良いのか。浅見にはそれを見出せない。
それが何よりも悔しかった。
神無月アリンは思う。
カール・クラフトとはどこまで化物染みているのかと。
ビブリア学園に戻って来た彼女は早速ながらとある噂を耳にする。
それは転校生の話。メイガス達から盗み聞きをするに、転校生はなんとあの大魔公と同等の実力を持つ少女らしい。同じトリニティセブンの一人である浅見リリスと一悶着あり、お返しとばかりに巨大隕石を墜としたそうだ。
何て馬鹿げているのだ。神無月はそう思わざるを得なかった。魔王や大魔公同士が争えば世界崩壊は確実。だが世界規模の天変地異を引き起こし、挙げ句の果てに魔道ではない何かを扱うなど見た事も聞いたことも無い。
それ故、神無月は否が応でも彼女の実力を身を以て知りたかった。それがどのような結末を迎えるとしても、後悔しないつもりでいた。
とはいえ、真っ向から挑むのは御法度。最強の魔道士である大魔公すら勝ち目がないと言わしめた程の力を持つ少女と手合わせをするのは
そこで神無月は少女の部屋に魔術で細工をした。所謂、部屋を別の空間へと転移させ遮断する術式。“箱庭術式”とでも名付けようか。
何れはここの学園に転校するであろう少年にも仕掛けるつもりである。この術式の対象の第一号が彼ではない事は残念だが、致し方がない。
しかしこの術式はベッドの裏に施している。正攻法な手段はそれを破壊すれば良い。少女なら即座に看破されてもおかしくはない。
先ずはお手並み拝見。
「……あの転校生はどうするのかしら」
校舎の屋上で、それを傍観する神無月アリン。カール・クラフトの術を見られれば良し。もしもそれを此方で模倣出来るのなら尚良し。これは単なる小手調べだけではなく、計算されたものだった。図書館から帰って来た所を見計らい、箱庭術式が発動する。
カール・クラフトに変化は無し。行動といえば変わらない態度でドアと窓の異常を確認するのみ。恐らく術式がベッドの裏に施してある事は気付かれている為、このまま術式を破壊なり消滅なりすると踏んでいた。
筈だった。
「!?」
突如として、カール・クラフトから凄まじい神威が溢れ出る。急激な変化に神無月は驚愕を隠せない。
(何……あの子の力。桁外れにも度が過ぎる……!)
そして神無月は異常に気付く。箱庭術式が、いや、カール・クラフトを閉じ込めていた筈の空間に無数もの亀裂が走っている。彼女の神威に空間そのものが耐えられないのだ。
理解出来る。あの少女は憤怒に染まっていると。
これは余りにも計算外だ。彼女を怒らせるつもりは無かったが、まさかここまで怒りに染まるとは。
しかし少女、カール・エルンスト・クラフト=メルクリウスの本領はここからだった。
彼女はまるで指揮者をしているかの様な動作を取る。その動作に一体どういった意味が込められているのかは解らない。
だが、神無月アリンは知る事になる。
───
───
「あッ……ガァ……ッ!?」
ノイズが走る理解不能の言語が紡がれた瞬間、神無月に形容し難い苦痛が襲う。
何だこれは。理解出来ない。これは痛みの概念に類するものではない。まるで
世界の根源から消失せんとする感覚。世界の抑止と消滅現象に巻き込まれた対象は始まりから無かったことになる。この業はそういうものなのだ。だが、誰も理解出来る筈がない。これは神のみが振るって良い業なのだから。
その業の被害は神無月のみに非ず。この学園全てが意味不明な術の範囲内に指定されており、メイガス達は愚か、トリニティセブンである浅見や果てには学園長すら神無月と同じ苦痛を味わっている。
そして神無月は魔力に大きなダメージが入っている事に気付く。同時に全身の力が抜け、倒れ込んだ。
「う…ぐ……ぁ」
神無月は恐怖した。これは魔王で在ろうとどうにもならない存在だと。むしろ指先一つで消し飛ばされるのではないかとすら思わせる程に。魔王の存在が矮小に思わされるとは神無月にとって生来初めて味わう未知である。
しかも恐ろしい事に、この術は相当な手加減が加えられてあったのだ。もしも全力で行使された場合世界が、いや、多次元という単位で宇宙が消滅していただろう。
それらを振り返り完全に此方に非があると自覚する。触らぬ神に祟りなしとは良く言ったものだ。彼女の逆鱗に触れ、今こうして消滅寸前にまで追い込まれた。後悔先に立たず。
故に神無月アリンは決意する。
彼女、カール・エルンスト・クラフト=メルクリウスには無闇矢鱈に接触しない事を。
その数日後、この世界の魔王になるべき少年が一人の幼馴染みを救おうと転校して来るのである。
一般人(笑)、転校初日からボッチになる。どうしてこうなった。(すっとぼけ)
勘違いも加速する。
※無期懲役の刑務所生活
違うし。むしろ保護欲MAXで入学させたんだってば。
つまり一般人(笑)はヒビリ。おk?
※静まり返るメイガス達
要約すれば、
メイガス達「幼女だ可愛いprpr」
ロリニート「緊張で死にそう」(神威ボンッ)
メイガス達「ぅ ゎ ょ ぅ ι゛ょ っ ょ ぃ」
※既知感
diesの要素といえばこれでしょ。
今回出て来た既知感だが、別に永劫回帰している訳ではない。
尚、一般人(笑)が既知感を感じる毎に神格が強化されていきます(白目)
※様々な憶測
全部外れである(ゲス顔)
※箱庭術式(作者が勝手に命名)
原作一巻、第二話(プロローグが0話だったので実質第三話)にてアリンがアラタ君に仕掛けた術と同じもの。
アラタ君の場合は魔道書であるソラを騙して術を施してある場所を聞き出しニンジャとセリナ、リリスの連携で脱出出来た。むしろ此方が正攻法。一般人(笑)は力技(白目)で脱出した。
そのせいでビブリア学園全員がとばっちりを受け、エラい目に遭う。解せぬ。
※素粒子間時間跳躍・因果律崩壊
読みはエレメンタリーパーティクル・タイムパラドックス。
トンデモ占星術の一つ。元は第三天、ネロス・サタナイルの業をアレンジしたもの。
この業は神の癌である自滅因子に対しては特攻の威力を発揮する。つまり対獣殿用。
一般人(笑)は箱庭術式を無かったことにする為にわざわざ使用した。ビブリア学園のメイガス達が消滅しなかったのは範囲と効果を限定的かつ極限に抑えていたから。
ただし魔力にダメージが入った為、丸1日は起き上がれない。次の日は休校になった。
ちなみに一般人(笑)はその日も図書館で書物を読みまくり内心ウハウハだった(笑)
しかしたった1話でここまで伸びるとはウルキオラの小説以来ですね……。
本当にありがとうございます。
この話は一万文字を平均としてやっていくつもりなので更新が遅いです。
それだけご理解していただければ嬉しく存じます。
m(_ _)m