艦隊これくしょん~雪花幻月~【未完凍結中】   作:幽々やよい

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少し遅れてしまいましたが、「初陣」の最後です。

電が回復した後の話です。


5,初陣、参

 

『どうー?しっかり通信繋がってる?』

 

 

「大丈夫なのです。通信状況、良好なのです。」

 

 

  電は今、海の上にいる。あの大怪我を受けて回復してということから、最初の航行だ。

  空は蒼く、太陽が光を放ち水面を照らす。海の波は穏やかで澄み、空を映し出していた。

 

 

『今回は大丈夫だと思うけど、無理はしないでね。』

 

 

「わかってます。それも、すでに10回目なのです。」

 

 

『心配なのよ!まあ、緊急事態になったら私も補佐するから。』

 

 

「了解なのです。では、航行を開始するのです。」

 

 

  電は機関を起動させる。機関の動く音が鳴り、そのうち動作が安定した。

  電は、広い海へ向かって航行を始めた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

  電は航行を続け、ある場所へたどり着いた。その場所は、電にも記憶がある場所だった。

 

 

「やっぱりここなのですか…。羅針盤妖精さん…。」

 

 

  そこは、前回電が駆逐イ級と戦闘を行った場所であった。戦闘を行い、沈みかけた場所。その分、電の警戒は以前に増して強くなっていた。

 

 

(もうあんな思いはいや……、絶対に生きて帰るのです!)

 

 

  電がその決意をしたとき、電は不可解な白波がみえた。

 

 

(波?にしては、今の潮流にそぐわない波なのです……。……!まさか、魚雷!?)

 

 

  電は急いで回避行動をとる。急速で右旋回をしたため、かなりの波と音を出してしまった。不可解な白波はやはり魚雷であり、直前まで電がいたところに来て過ぎていった。

 

 

(まずったのです!敵に既にマークされてる!)

 

 

  電の読み通り、少し離れたところで駆逐イ級が浮上した。白波に気付いていなければ、さっきの一撃で沈められていたかもしれない。電は自分のミスを悔いた。

 

 

(しくじったのです……。でも海上にいるなら、私が勝つ!)

 

 

  電はイ級に対して急速に距離を詰める。イ級も同じく、電に対して距離を詰める。イ級が12.7cm連装砲の射程圏内に入ると、電は連装砲をイ級に向けて構え引き金を引いた。

 

 

「命中させちゃいます!」

 

 

  連装砲から弾丸が放たれる。それは一直線でイ級へと向かって行き、爆発する。しかし、当たりどころが悪かったらしくたいして傷は受けておらず、小破に満たない程度のものであった。

 

 

  ここで、電は相手のイ級の姿をこの戦闘で始めて見た。そのイ級には、弾を受けたと思われる傷が刻まれていた。その場所は、前回ここに来たときに、2発目にイ級に当てた場所だった。

  その傷で、今電が戦っているのが前回電を沈めかけたイ級だとわかったのだ。

 

 

  そして幽もまた、このイ級が持つ傷に気付いていた。

 

 

(あの場所の傷……。前の時とおなじイ級ね……。)

 

 

  そして、二人は共通の思いを持った。

 

 

((あのときはやられたけど、今度はこっちの番!)なのです!)

 

 

  イ級は5inch連装砲を電に向けて構え、撃った。放たれた弾丸は電へと飛来するが、電は右へ左へ回避行動をし危なげなく避けた。イ級はさらに続けて連装砲から何発か撃ってくるが、電は余裕を持って回避行動をし、危なげなく避ける。

  電は避けつつイ級に接近していく。そして、イ級が12.7cm連装砲の射程圏内に入った。

 

 

(撃ち抜いて見せるのです!)

 

 

  電は射程圏内に入った時点からイ級に対して連装砲を構える。照準が完全にイ級に定まり、電はトリガーに指をかけた。

 

 

『電!行きなさい!』

 

 

「絶対に……命中させるのです!」

 

 

  電は、連装砲のトリガーを引く。二人の強い思いと共に放たれた弾丸は、一直線にイ級へと向かって飛んで行く。イ級は砲弾を多数撃った為か、身動きが取れなくなっていた。そして弾丸はイ級に吸い込まれるように飛び、イ級にぶつかり爆発した。

 

 

「ガアアア……」

 

 

  イ級は叫び声を少しあげたあと爆散し、周囲に煙が広がった。

 

 

「勝った……のです……?」

 

 

  電は、相手が爆発した事、それを視認したことから、やっと勝ったという喜びが込み上げる。

 

 

「やったのです!勝ったのです!」

 

 

『よくやったわ、電。でもまだ海の上よ。何が起こるかわからないから冷静にね。』

 

 

「は、はいなのです!」

 

 

  一瞬浮かれてしまった気持ちを、幽の言葉で引き締め直した。そして煙がはれていくなかで、うっすらと人影が現れてきた。

 

 

「……敵……?」

 

 

  正体がわからないため、いつでも動けるように機関と連装砲を準備する。煙がほとんど晴れ、もう少しで正体が分かるとなったとき、その人影の元が自分のもとへ飛び出してきた。それは、電には思いもよらない存在であった。

 

 

「電!久しぶり!大丈夫だった?」

 

 

「あ……、暁お姉ちゃん……?」

 

 

「そうよ、私よ!覚えてるでしょ?」

 

 

  初めて見たときは、ビックリしすぎて認識が出来なかったが、冷静さを取り戻すにつれこの少女が『暁』(お姉ちゃん)であると『電』(わたし)の船の記憶が言っていた。

 

 

「……!暁お姉ちゃん!久しぶりなのです!司令官!暁お姉ちゃんがいるのです!」

 

 

『はい、落ち着きなさい電。私が日本海軍廿日市基地提督の簓雪よ。で、あなたは暁で間違いないのね?』

 

 

「もっちろん!私が特Ⅲ型駆逐艦、暁型の1番艦『暁』よ!」

 

 

『あなたは私たちの廿日市基地所属になるということでいいのかしら?』

 

 

「そうね、行くあてもないし電がいるこの基地にお世話になるわ。」

 

 

『わかったわ。よろしくね暁。後でまた詳しく紹介するわ。電!そのまま二人で基地に帰投してちょうだい。』

 

 

「了解なのです。暁お姉ちゃん、基地に帰るのです。」

 

 

「そうね、案内よろしく頼むわ。」

 

 

  電と暁は基地への帰投を開始する。帰投の航路を進み続けて基地まであと少し、というところで電が何かを発見した。

 

 

  「暁お姉ちゃん……、あそこに白い何か見えませんか?」

 

 

「え?白い何かって何?」

 

 

  暁は最初は電の言っていることがわからなかったが、電が指し示す方向を見ると、言うとおり何か白いものが見えた。

 

 

「ほんとだ。何かあるわね。明らかに波の泡の白じゃないし。」

 

 

「見に行ってみますか?」

 

 

「そうね、行ってみましょうか。でも、しれーかんへの連絡はいいの?」

 

 

「はわわわ、忘れてたのです!すぐにするのです!」

 

 

  電は、暁と気になるものを確認するために幽へ許可をとった。幽の了承を得て、二人は白いものへ近付いていく。かなり近くまで来てその白いものの正体を確認したとき、二人は驚愕してしまった。

 

 

「ど、どういうことなのです!?」

 

 

「何、なんでこんなところに!?」

 

 

  浮いているのは人の姿をしていた。ただし、人間ではなく、深海棲艦でもない。浮いているのは、艦娘であった。しかし、この艦娘は本来の万全な状態とは異なっていた。

  上半身のみを海に浮かべ、下半身は水の中へ沈んでいた。水上へ出ているセーラー服も、それ以外の身に纏ったものも、大分ボロボロになっており、所々血が滲んでいる。潜れる艦娘でありながら、その姿は本来の潜り方とは明らかに違っていた。

 

 

「何で……何でここに……」

 

 

  そして、暁は驚きのあまり、大声で叫んでしまった。

 

 

 

 

 

 

「何でここに、ボロボロになった伊58がいるのよ!?」

 

 

 

 

 

 

 




次話からは、廿日市基地に新しい仲間『暁』が入ってきます。伊58は一体どうしたのか……。

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