艦隊これくしょん~雪花幻月~【未完凍結中】   作:幽々やよい

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3,初陣、壱

「ただいま参りました!電なのです!」

 

 

『どうぞ、入ってきて。』

 

 

「はいなのです。」

 

 

  電は幽に呼ばれ、提督室へと来ていた。今日は、廿日市基地の提督室が直って最初の出撃が予定されている。その連絡のため、電はここにいる。

 

 

「さて、今日はようやく最初の出撃をします。」

 

 

「はい!」

 

 

「今回は、基地の正面海域に出撃してもらうわ。目的は基地正面海域の警備。私も、隣の特殊通信室から『艦娘特殊リンクシステム』を用いて、支援通信を行うわ。」

 

 

「了解なのです!」

 

 

「今回の装備は、12.7cm連装砲とこの前開発した61cm三連装魚雷でいくわ。装備の準備はしてもらっているから、そのまま出撃ドッグへ向かって。」

 

 

「はい、なのです!それでは、失礼するのです。」

 

 

「はーい。…さて、私も準備しますか。大淀さん、どう?」

 

 

「『艦娘特殊リンクシステム』、起動状況は大分良好です。いつでも接続できるような状態ですよ。」

 

 

  『艦娘特殊リンクシステム』。国際連合に所属している技術者たちが総出となり作り出した、艦娘を運用していくためのシステムである。

  頭に端末をセットした状態で艦娘に接続することで、自らの視覚、聴覚、嗅覚、触覚を飛ばしてその艦娘の周囲の情景や情報を見る・聞く・感じることができる。さらには対象の艦娘と深くリンクすることで、艦娘の動きや火器・艦載機管制も制御することができるが、これは使用者に大きな負荷をかけるため使用していない提督も少なくない。

 

 

「わかったわ。ありがとう、大淀さん。」

 

 

「いえいえ、お互いさまですよ。」

 

 

「ふふ、そうね…。」

 

 

  二人の間でシステムについての話が終わるとすぐに、出撃ドッグにいる電から通信がかかった。

 

 

『電、出撃ドッグに到着。出撃前の準備完了しました!』

 

 

「終わったのね、了解したわ。じゃあ、自分の出る水路の前に立って。」

 

 

『了解なのです!』

 

 

  繋がったままの通信からは、電がおそらく走っているであろう足音が聞こえてくる。その音は、途中から金属の上を走っている音へと変わり、そしてとまった。通信には、電の移動完了を伝える通信がはいる。

  幽は椅子に座り、リンクシステムの端末を身に付け、起動させた。暗い視界の中に複数の文字の羅列が高速で流れたあと、視界が電の周囲の情景へと移る。そして、幽は電へと声をかけた。

 

 

「よし、いくわよ。第1艦隊旗艦、駆逐艦電、出撃!」

 

 

『出撃します!電の本気を見るのです!』

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

  提督からの指令を受け、電は出撃ドッグへ向かっていた。初めての出撃なので、心なしか歩く速度が速くなっていた。

 

 

(今日は初めての出撃なのです。しっかりと自分の仕事をこなして見せるのです!)

 

 

  電はかなりやる気の入った状態で移動し、ふと気づくとすでに出撃ドッグの前に立っていた。

  電は中に入り、出撃準備などを行ってくれる妖精さんに挨拶をする。

 

 

「こんにちは、今日はよろしくなのです!」

 

 

「あ、電ちゃーん。こんちはー。」

 

 

  この妖精は、基地内では『壱華』と呼ばれている。妖精の中では珍しく、かなりコミュニケーションがとりやすく、ペラペラと言葉を話すことができる。なので、基地の妖精の中でも結構話すことが多い。

 

 

「出撃だよね~?提督さんから連絡もらって、第1出撃ゲートに艤装と装備準備完了してるよー。」

 

 

「ありがとう、なのです。いつでもでれますか?」

 

 

「出れるよー。あ、リンクシステム接続用艦娘側端末をつけてー。」

 

 

「はい。」

 

 

  艤装が準備完了していることの確認と端末をつけることを行った電は、通信機を起動し幽へと連絡をとりはじめた。

 

 

「電、出撃ドッグに到着。出撃前の準備完了しました!」

 

 

『終わったのね、了解したわ。じゃあ、自分の出る水路の前に立って。』

 

 

「了解なのです!」

 

 

  電は自らが出る水路の前に移動する。少し離れていたので、若干駆け足で移動した。少しかかってから、幽に対して自分の出撃位置に着いたことを伝える。

 

 

「電、移動完了しました!」

 

 

『よし、いくわよ。第1艦隊旗艦、駆逐艦電、出撃!』

 

 

「出撃します!電の本気を見るのです!」

 

 

  電は、目の前にある青い出撃という文字が光るパネルの上に飛び乗る。向かいにある艦娘艦名表示板が回転し、さまざまな艦娘の名前が表示される。『暁』『響』『雷』と彼女の姉達の名が表示されたあと、彼女のものである『電』が表示される。

  電の背に艤装が現れ、装着される。靴も航行用のものへと変化し、電は水路へ飛び進んでゆく。進む途中で右手に12.7cm連装砲を、腰に61cm三連装魚雷を装着し、出口へと駆ける。そして、電は眩しい光の中へ飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「現在、周囲に異常はないのです。」

 

 

『了解したわ。そのまま航行を続けて。』

 

 

「はいなのです!」

 

 

  電は出撃ドッグを出てから基地正面海域の警備を行い、基地周辺を航行していた。空は雲がほとんど無いほどの快晴、海も非常に穏やかで青く、外に出るのが絶好の機会だった。

 

 

「このまま何も起こってくれないといいのですが…。」

 

 

  電は周辺を見渡してみる。今の状況だとかなり遠くの方まで見られるが、艦影らしき影やちょっとした波の変化等というものは見られなかった。しかし、自分から見て何だか少し違っているように感じるというか、不自然感が抜けない部分があった。

 

 

「司令官、ちょっといいですか?」

 

 

『何かしら、電?』

 

 

「1ヶ所、特に何もないんですけど気になる部分があるのです。行ってもいいですか?」

 

 

『危険にならない範囲ならね。いざというときのために、いつでも砲や魚雷を撃てるようにしておきなさい。』

 

 

「了解なのです。」

 

 

  電は自らの進行方向を変え、不自然に感じた部分へと進んで行く。いつ砲雷撃戦になってもいいように準備をしながら歩を進めつつ、その周辺に注意を集中させる。

  電が海を進み、持っている12.7cm連装砲の射程内へと不自然な場所が入ったとたん、海中から駆逐イ級が飛び出してきた。

 

 

「…っ!こちら第1艦隊旗艦電、敵深海棲艦駆逐イ級と遭遇!戦闘へと移行します!」

 

 

『了解。じゃあいくわよ。『艦娘特殊リンクシステム』、モード転換。戦闘モードへと移行!』

 

 

  幽の言葉によりシステムがモード移行し、電の左腕にブレスレットのようについていた端末が通信機に近い形の腕輪へと変化した。

 

 

「なのです!」

  電は、連装砲を構えてイ級に対して発砲する。しかし、電の連装砲が放った弾は、イ級の中心からは少々ずれてしまっていたらしく、小破に満たない程度の傷を与えただけに終わってしまった。

 

 

  イ級は電に対し、お返しと言わんばかりに口を開け、口の中にある 5inch単装砲を電に向けて放った。

 

 

「よけちゃいます!」

  電は左に動き、イ級の砲撃をかわす。そして、再びイ級へと連装砲を向けた。

 

 

(さっきは外しちゃったけど…、次は当てて見せます!)

 

 

  電はイ級に向けて連装砲の照準を絞り、中心に照準が定まったところでロックした。

 

 

「今度こそ…、命中させちゃいます!」

 

 

  電の砲弾が、イ級に向かって飛んで行く。その弾は、一直線にイ級へと進む。そして、吸い込まれるようにイ級へと命中した。

 

 

「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…」

 

 

  イ級が叫び声をあげる。今の電の砲撃により、イ級はすでにほぼ大破と言える状況になっていた。あと一撃でも当てれば、イ級は轟沈するであろう。電は、戦いやすいよう少し距離をとった。

 

 

(あともう少しなのです。あと一撃でも当てれば、イ級を倒せるのです。)

 

 

  電はイ級に更なる追撃を与えようと、再び進んでいく。砲の射程圏内にイ級が入ったときに、イ級に向けて砲の照準を合わせた。そして照準が定まりいつでも砲を撃てるようになったとき、電の中で異変が生じた。

 

 

「…っ!?」

 

 

  電の中に、電のものとは違う感情が大量に流れ込んできた。自分で動きのとれぬ船であった頃の自らの感情が突如として流れ込んできて、様々な思いが衝突し始めたのだ。

  『ここでやらなければ自分がやられてしまうかもしれない、対話など出来る状況ではない』という思いと、『敵であるとしても助けたい、もしかしたら分かり合えるかもしれない』という思いが激しくぶつかりあい、電の中で混ざり合っていく。

 

 

『…!…!』

 

 

  幽が電に必死に話しかけているが、電はそれを聞けるほどの余裕がなかった。頭の中を駆け巡る膨大な量の情報の処理に追われ、他のことができる余裕がなかったのだ。

  電は連装砲を構えた形で、冷や汗をかきながら立ち尽くしていた。イ級を倒すべきなのか、倒さず対話を試してみるべきなのか。その迷いから、電はトリガーを引けない。そして、脳内の思考による過度な負荷により、

 

 

 

 

 一瞬、電は完全に動きが止まってしまった。

 

 

 

 

 

 

  イ級は、その一瞬を狙ったかのように、最後死力を振り絞り電に対して5inch連装砲から砲を放つ。

 

 

『…ま!…なづま!電!』

 

 

「っ!」

 

 

  電は、幽の呼び掛けによってなんとか思考の渦から抜け出し、向かい来る砲弾を確認。即座に回避行動をとるために左方へ動こうとするが、

 

 

  時すでに遅し、砲弾は電へと直撃し爆発した。




投稿遅れました。すみません。用事片付けてたら、遅くなってしまいました…。

次話は早く投稿出来るよう、頑張ります。

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