幽達や大淀が出張している間の基地の様子について、響を中心にしてお伝えします。
これが、今年最後の投稿です。
「工厰の大掃除だって?」
私、響は暁の発言に対して驚き、思わずこう返してしまった。
今日は、司令官たちが出張に出て2日目。司令官が残していった仕事を今日もやろうと思って提督室へ向かうと、すでに部屋に暁と神通さんがいた。その二人から挨拶の直後に「これから工厰の掃除をする」といきなり言われたので、こんな素っ頓狂な声を出してしまったのだ。
「いきなり工厰の掃除っていっても……。他の仕事はどうするんだい?」
「それがね響、司令官からのメモを見るとあとその大掃除しか書いてないのよ。」
「そのメモ、ちょっと見せて貰えるかい?」
私は暁からメモを受けとる。そのメモをじっくり読み返してみると、どうやら本当に後は大掃除しかないようだった。
「本当だね……。」
「というわけで、これから館内に放送をかけて、全員で清掃を行おうと思うんです。」
「工厰の掃除に全員いるかしら?」
暁がこんな愚かな発言をする。どうやら、今の工厰の惨状を忘れてしまっているらしい。
「暁、よく思い出してみて。あの工厰の状態なら、全員でも少ないくらいだよ。」
「……あ。そうね。あれは少人数では無理だわ。あの惨状じゃ。」
今工厰の内部は、明石さんが勝手に開発した武器等がかなり散乱していて、正直ごちゃごちゃをかなり通り越して混沌と言った方がいいような状態になっていた。もちろん、基地にいる全員がこの惨状を知っており明石さんに片付けるよう言っているが、すでに明石さん一人では手のつけられない状態になってしまっていた。
「この機会に全部片付けて、スッキリさせようってことね。」
「けど、あの量は少しやる気を削がれるな……。」
「ですが、明石さんも結構いい腕を持ってますから、あの中に掘り出し物があるかもしれませんよ。」
「言葉通りの掘り出し物か……。」
正直、その期待はかなりあった。明石さんは腕はあるのでかなり良い装備を開発することもある。それがあの中にあるかもしれないことは、薄々思っていた。また、基地の倉庫の中にあったものもいくつか出されているため、今まで知らなかった逸品が隠れている可能性も否定できない。そんなことを考えていると、少し削がれていたやる気が、また沸々とわいてきた。
「よし、やろう。それじゃあみんなに伝えないと。」
「私が各所に放送を入れるので、暁さんと響さんは先に工厰へ向かってください。」
「わかったわ。」
「了解だよ。先に行くね。」
私達三人は二手に分かれ、行動を開始した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
15分後、工厰の前に全員が集まった。神通の放送のおかげか、全員がジャージで集合していた。
「うん、いつ見てもこの景色には慣れないね。」
「うわ、剥き出しの包丁が見えてるんだけど……。」
剥き出しの包丁って……。危なすぎだよ、この工厰。
「皆さん本当にごめんなさい!手を煩わせちゃって!」
「それがわかっているなら、普段から掃除しなさいよ。」
「うっ!」ドスッ
「そうよ!私達に迷惑をかける前に自分でやるべきだと思うわ!」
「その通りですっ!」
「Me tooネー。」
「ううっ!」ドスドスドスッ
「あはは……。皆が正論過ぎて、さすがに庇えません……。」
「那珂ちゃんも無理かな~……。」
「グハッ!」
「皆さん、明石さんを責めていないで、こちらを向いてください。」
「確かに明石さんの自業自得で庇えはしないけど、それは可哀想だよ。」
「うっ」チーン
「さりげなく響がとどめ刺したわね……。」
明石さんが卒倒してるけど、気にしない気にしない。
「今回は二手に分かれて清掃をします。まず、駆逐艦の皆さんは、手前から中程までにある比較的軽めの物をお願いしますね。量が多いので、効率良く片付けてください。」
「わかったわ。」
「了解。不死鳥の力、見せてあげるよ。」
「雷に任せなさいっ!」
「が、頑張ります!」
「頑張って綺麗にしますっ!」
「やってやるにゃしい!」
「次に、残りのメンバーは奥の方にある重めの物の片付けをお願いします。量は少ないですが、かなり重いので気を付けてください。」
「了解だよー!」
「わかったネー!」
「一航戦の実力、ご覧にいれます!」
「皆さんに迷惑をかけてしまってるので、精一杯頑張ります!」
「では、皆さんそれぞれの持ち場について掃除を始めてください。質問があったら、私が明石さんに聞いてくださいね。」
『了解!』
基地をあげての工厰清掃作戦、通称FC作戦が始動した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「この量はやはりすごいな……。」
作戦開始から三時間が経過した。奥の方の5人はかなり片付けを進めているが、駆逐艦組の方はなかなか進んでいなかった。
一つ一つは運びやすく片付けやすいのだが、いかんせん量が多すぎてなかなか物がなくならないのだ。
「響~……、そっちはどう……?」
「まあまあ進んでいるかな?暁は?」
「ぼちぼちね……。」
「さすがの私も結構キツいわ……。」
いつもならそんなに泣き言を上げない雷も、流石にこの現状に参っているらしい。
「でも、色々知らないものが見れて結構楽しいよ。……たまに変なのがあるけど。」
「少しずつ綺麗になっていくのを見ると、達成感が出てきます!」
「この調子で頑張ろー!」
吹雪と雪風、睦月はこの状況でも楽しんで掃除をしてるみたいだ。雪風はちょっと不安だったけど、どうやらそれは杞憂だったみたいだね。
え?そういう私はどうかって?私も一応楽しみながら掃除をしてるよ。掃除をしてると色々新しい装備やら何故か工厰にある日用品やらが出てくるから、なかなか飽きないんだ。今まで使われていなかった電探や主砲とか、アルミニウム製の高性能調理器具とかがね。
「あれ?これは……。」
私が偶然手に取ったのは、製作途中の61㎝5連装酸素魚雷だった。ていうか、何でここにあるんだろうか?明らかに作りかけだけど……。
「……にしてもこれはすごい……。」
このままさらに作っていけば、かなり完成度の高い装備になることがわかるような出来だ。余計に製作途中なのが勿体ない。
でも、あれだけ自分に自信を持ってる明石さんが、何故これの完成を諦めたんだろう?そんなことを思っていると、重い荷物の清掃を終えた軽巡以上組がこちらに合流してきた。各々がバラバラに戻ってくるなかで、明石さんが私の近くに来た。
「ふあぁ~……。重いものやっと終わった~。あ、響さん、それ作りかけの61㎝5連装酸素魚雷ですよね?」
「うん。今さっき、片付けているときに山の中から偶然見つけたんだ。」
「はー、見つかって良かった~!いつの間にか何処かに混ざっちゃって慌ててたのよ。」
「次からは無くさないようにね。……そういえば、何でその魚雷製作途中なのかな?」
「あー、これね。ここまでは出来たんだけど、何か重要な部品が大幅に足りないらしくてこれ以上作業を進められないのよ。」
重要な部品が足りないらしくて作れない……か。自分達の実力を上げていけば、その内装備開発出来たりするのかな?っと、こんなことを話している場合ではなかったね。
「まあ……、作れるようになるといいね。」
「そうね。とりあえず今はこの事を置いておいて、先に片付けを進めましょう。終わるものも終わらなくなっちゃうから。」
私と明石さんは、雑談もそこそこに改めて掃除を再開した。さっきまでと違って人数が増えたからか、倍くらい早く掃除が進んでいく。この調子だとあと2時間くらいで終わるかもしれない。
作戦の完遂を目指して、私達は延々と荷物を倉庫へ運び続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「皆さん、お疲れさまでした。無事に片付けを終わらせることが出来ました。」
「はぁ……。やっと終わった……。」
「つ、疲れたわ……。」
掃除を始めてから6時間後、途中に昼食休憩等は挟んだものの無事作戦を完遂することが出来た。
途中変に装備などが積み重なった山に暁が下敷きになったり、何故か倉庫の中に荷物が入りきらないという事態が起こったりしたが、特に問題もなく掃除を終えられた。暁の方から問題大有りよ!と聞こえた気がするけど、とりあえず無視しようと思う。
掃除の甲斐あってか、かなり荒れていた工厰が一目見て綺麗だと思えるほど激変していた。明石さんは、これでもっと色々作れると喜んでいた。もっとも、偶然近くを通った大淀さんからもっと抑えてくださいと御叱りを受けていたけど。
さて、何とか作戦を終えた私達の手には、それぞれ清掃中に自分がほしいと思った物が1つずつ握られていた。メモに書いてあったんだけど、掃除の中で欲しいものがあったら1個は持っていっていいと司令官が言ってくれたんだ。
近くで見える人の分だけでも挙げると、暁がペンギンのぬいぐるみを持っていて、神通さんがコンパクトな本棚、那珂ちゃんが恐らく明石さん製のマイクを持っていた。そして私はというと……
「響は……何それ?」
「オルゴールだよ。装備の山の中から見つけたんだ。」
「それ、かなり綺麗ね!」
私はオルゴールを選んだ。このオルゴールは他のものとは違って、何故か第六駆逐隊の皆の小さな像が乗っている。字がボケててあまり読めなかったけど「鎮○○○○○」と書かれた箱の中に入っていたから、この基地の前の司令官が忘れていったものじゃないかと思う。
「よく見つけましたね。まだ使えるんですか?」
「うん。さっきゼンマイを巻けたから多分流れると思う……。」
「あ、じゃあ私聞いてみたい!」
「私も気になるネー!」
「……じゃあ、流してみてもいいかい?」
「ええ。いいですよ。」
「どんな曲が入っているのかな?」
「雪風もかなり気になります!」
「ちょっと待って……。よし、これで流れる?」
ゼンマイを巻いてから少し時間をおくと、オルゴールから音が鳴り始めた。良かった、まだ生きていたようだ。
オルゴールからは、『鎮守府の午後』がオルゴールアレンジで流れてきた。なるほど、さっきの箱に書かれていたのは、この曲名だったのか。確かこの曲は何処かの鎮守府の第六駆逐隊が作った曲だったかな?
「『鎮守府の午後』ですか。いい曲ですね。」
「うん、これはいい……!」
「このオルゴール、私たちにぴったりね!」
「ねぇ響、電達が帰ってきたら、また聞きましょう?」
「そうだね。電も入れて、第六駆逐隊皆で聞こう。」
「それは楽しみですね。」
「ええ、楽しみだわ!」
皆がオルゴールを囲みながら、笑いあっている。工厰も綺麗になったし、皆の笑顔も見ることが出来た。今回のこの作戦は、どうやら無事に成功し、終わったようだ。
艦娘紹介
04 吹雪
艦種 駆逐艦
役職 第2艦隊
所属 廿日市基地
簡易紹介
廿日市基地の2回目の建造で造られる。以外にも廿日市基地の古参の分類に入る。
吹雪型のネームシップ=睦月以外の駆逐艦全員のお姉さんだが、電や暁などの印象が強すぎてはっきり言って少し影が薄い。
毎朝ランニングをしており、早朝ランニング仲間の響と神通とは特に仲が良い。
第1艦隊ではないのでまだ本編には記されていないが、かなり聴力が優れているため対潜戦が得意。ただし、まだその実力を生かす機会がない。
甘いものが大好きで、よく飲食処間宮で甘味を食べている。しかし、珈琲や紅茶は苦手で、砂糖がないと飲めない。
というわけで、出張メンバーのいない中で行われた工厰清掃のお話でした。
明石を除いた清掃メンバー全員が、1個ずつものを貰っていますが、それを渡しても有り余るほどの装備等が、未だに倉庫の中で眠っている状態です。そして、これからも増えていきます(予定)。
今年の投稿はこれでまとめ、次の投稿は年を越した後になります。来年もよろしくお願いします。