今回は比較的短めです。
電率いる第1艦隊は、南西諸島防衛線から榛名を連れて帰還した。射撃を受けた暁以外はあまりダメージをくらってはいなかったが、基地司令である幽から、まず入渠からという命令が出たのでとりあえず入渠ドックに向かった。
その頃幽は、提督室で大淀、雷と一緒に書類等の整理を行っていた。
「司令官、これ、終わる気がしないわ……。」
「しょうがないでしょ。というか、貴女達が追加した書類もあるのよ。」
「……ああ、あの件ですね、幽さん。」
幽が言っているのは、今回の出撃の少し前に起こったある大喧嘩である。
ある案件について、自分の意見が正しいと暁と雷が喧嘩を始めたのがきっかけとなったのだが、いつもだったらそういったものに口を出さない電まで参戦してしまい、響が止められなくなって人的被害とその周囲の物的被害が出た事件である。
人的被害としては3人それぞれが怪我を負ったことが挙げられ、物的被害としては床や近くにあった部屋の戸や壁が大きく破損したことが挙げられる。
3人はその後幽から大目玉をくらい、3時間営倉の中で正座させられながら反省文を50枚書かされるという罰をくらった。
「あれは、本当にごめんなさいでした。」
「謝るのはいいから、口じゃなく手を動かして。」
「はい……。」
3人は、その後黙々と作業を進める。作業もある程度進み書類もかなり減ってきたところで、入渠を終えた電達第1艦隊達が部屋に来た。幽は一先ずペンを置いて書いていた書類を脇に置き、7人を招き入れる。
『司令官、電です。』
「どうぞ、入っていいわよ。」
『失礼するのです。』
扉をあけて7人が入ってくる。旗艦である電が執務机から見て左側に並び、それに合わせて残りの6人が一列に並んだ。
「南西諸島防衛線への出撃において敵主力艦隊を撃沈し、全任務完了したのです。また、当該海域にて金剛型戦艦榛名が仲間に加わったのです。」
「 高速戦艦、榛名です!あなたが提督なんですね?よろしくお願い致します!」
「廿日市基地司令の簓雪幽です。よろしくね、榛名。電、報告ありがとう。皆、お疲れ様。明日と明後日は私の都合で完全休養日にするから、身体の疲れを落としておくように。」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
「それじゃあこれで……。」
「あ!ちょっとwaitネー!」
幽が話を切り上げようとしたとき、突然金剛がそれを遮って止めてきた。
「ん?何かしら?」
「さっきの連絡の時に伝え損ねていた事があるんです。」
「伝え損ねていた事?金剛と神通だけ?」
「はい。」
「あ、そういえば二人とも先ほど敵空母と話していましたよね。その内容ですか?」
「そうネー。」
「あら、そうだったの?で、どんな内容かしら?」
「じゃあ話すネー。」
金剛と神通は、二人で互いの足りないところを補いながらヲ級から聞いた話を伝える。その話を聞いて、今までその話を知らなかった第1艦隊の面々と大淀、榛名、雷は驚愕をあらわにし、幽も眉をひそめて険しい表情になっていた。
「……と言うことなのネー。」
「な……、あの敵艦隊は本来の編成ではないということですか……!?」
「そんな、あれでも結構強かったわよ!?下手すると、それより強い可能性もあったってこと!?」
皆が驚愕の声を上げるなか、電は冷静に次のように述べた。
「……問題はそれだけじゃないのです。……司令官。」
「ええ……。まず、目下一番の疑問は、『本来のヲ級』の失踪ね。」
「はい……。例え艦娘に
「確かに……。あくまで
「うーん……。」
この場にいる全員がこの事について考えるが、一向に考えられる理由が浮かんでこない。
「気紛れ……でしょうか。」
「仲間から追われてるってことは、相応の力は持ってたんじゃない?それが気紛れで失踪……っていうのはちょっと変な気がするわ。」
「確かに一理あるのです。」
「何か理由があったのかしら?」
「理由……。さっぱりわからないネー。」
「ただの気紛れなのか、それとも何かしらの理由があって失踪したのか……。」
「うう……。謎は深まるばかりなのです……。」
「そうね……。……よし、一旦この事は置いておきましょう。このまま考えていても埒があかないわ。」
「そうですね。雪風ちゃんが、考えすぎて顔真っ赤にしてますし。」
「ふ、ふにゅ~……。」
「Oh!雪風、大丈夫ネー!?」
先ほどの疑問の思考の
これ以上この疑問について考えるのは無理だと考えた幽は、全体に声をかける。
「取りあえず解散にしましょう。誰か、雪風を医務室に連れていってあげて。あ、電と神通、暁はちょっと残ってほしいの。」
「了解しました。赤城、お先に失礼します。」
「じゃあ、雪風を医務室に連れていくネー!」
「は、はい……。お願いします~……。」
「では、私も失礼いたします!」
「Oh、榛名!後で基地内を案内するネー!」
「よろしくお願いします、金剛姉さま!」
赤城と金剛、雪風、榛名の4人が部屋から出ていく。全員が完全に出たのを見計らって、電が幽に質問した。
「残りましたけど……、何の用件なのです?」
「ちょっと待ってて。さっき呼び出して、そろそろ来るはずだから。」
「呼び出し?何のこと?」
「司令官の言う通りに待つのよ。そろそろ来るから。」
「む、雷に言われるのは癪だけど……。わかったわ。」
「むむむ……!」
「むむむむ……!」
「ほーら、喧嘩しない。もう来るわよ。」
幽がそういった直後、提督室の扉が叩かれる。ドアを開けて入ってきたのは、羽黒と響だった。
「羽黒、ただいま参りました。」
「響だよ。司令官、用事って何かな?」
「それは今から説明するわ。取りあえず近くに来てちょうだい。」
幽は全員が近くに来たことを確認して、本題について述べ始めた。
「皆には、明日用事があって完全休養日にすることは伝えたわよね?」
「はい。聞きました。」
「神通は?」
「私も那珂ちゃんから……。その件についての話ですか?」
「ええ。で、実はこの中の数名に明日の提督業務を少しやってほしくて。」
「え?そんなに遠くに行くの?ていうか、大淀さんがいるわよね?」
暁が、ふと思い浮かんだ疑問を口に出した。まあ、普段幽と大淀の二人が同時にいないということは無かったので、思い浮かぶのも当然だった。それに対し、幽はこう答えた。
「大淀さんには別件で和歌山基地に行ってもらわなくちゃいけなくて……。私も明日は呉の本営に行かなきゃいけないから。」
「わ、和歌山っ!?」
「かなり遠いね……。」
廿日市から和歌山港まではかなりの時間を要するため、その行き先を知った六駆の全員は驚いてしまった。
「はい……。ですが、この基地に幼馴染みの提督が着任しているんですよね。」
「ええ。そこと演習を組むために細かい打ち合わせをしようと思ったんだけど、急に呉行きの用事が入っちゃって……。」
「なるほど……。大淀さん、頑張ってきてくださいね。」
「はい。ありがとうございます、羽黒さん。」
「で、話を戻すんだけど。電と羽黒は、私と一緒に呉まで来てほしいの。」
「は、はい!」
「はいなのです!」
「そして、神通、暁、響、雷は四人で協力して業務をやってちょうだい。大まかに順序を紙に書いて、執務机の上に置いておくから。」
「了解しました。」
「「「むー……。」」」
「?」
配役を教えてすんなり終わる、というシナリオを幽は考えていたが、どうもそういう風にはいかないらしかった。
何故むくれているかがわからなくて疑問符を掲げている幽に、暁が3人を代表してこう言った。
「電だけ基地の外に出て遠くまで行けるんだから、私たちにも何かご褒美が欲しいわ!」
「……。」
要するにかいつまむと、「電だけ遠出できてずるい!私たちはお仕事やらなきゃいけないんだから、せめてご褒美ちょうだい! 」ということらしい。
つまり、自分達にもなにか見返りをくれと言っていた。このちょっとした嫉妬に気がついた幽と神通、大淀はふふっと微笑み、幽が3人に対してこう返した。
「ふふっ、わかったわ。ちゃんと出来たら、ご褒美をあげるわ。」
「了解よ!」
「私に任せて、司令官!」
「了解だよ。不死鳥の実力、見せてあげる。」
3人は幽の言葉を聞いて、俄然やる気を出していた。それが空回らなきゃいいなぁと幽は思いつつ、改めて全員を向き直させ声をかけた。
「まあ兎に角!明日は皆、よろしく頼むわ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
気合いの入った大きな声が、提督室から響き渡った。
……偶然大量の紙を持って部屋の前を通っていた吹雪が、大声に驚いて転んだ上に紙を全部ぶちまけてしまったのは余談である。
艦娘紹介
03 暁
艦種 駆逐艦
役職 第1艦隊(、第2艦隊)
所属 廿日市基地
簡易紹介
初のドロップ艦娘。イ級を倒した後の爆炎の中から現れた。
六駆の中ではお姉さん的立ち位置のはずなのだが、電より発言力は弱い。
お姉さんらしく見せたいのだが、その行動が結果子どもっぽく見えてしまっているため、かなり迷走している。
艦隊の中では一番対空戦に強く、その実力は他の廿日市艦娘に比べ突出している。だが、対空被弾率も高い。
最近は少し紅茶に興味を持ちだし、金剛から色々教わっている。
うむむ……。投稿が遅れないようにしなければ……。
書きたいことは沢山出るのに、文章にして現せない……。