艦隊これくしょん~雪花幻月~【未完凍結中】   作:幽々やよい

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色々考えながら書いていたら、結構時間がかかってしまった……。

今回から、少しずつキャラ紹介を後書きでやっていきたいと思います。


9,呟き

  金剛と羽黒、赤城の三人がこの鎮守府に配備されてから、2週間が既に経っていた。

  この2週間の間、廿日市基地の艦娘たちは実力を身に付けるため、また実践経験を積むため、訓練や基地内演習、艦隊レベルがそこそこある海域への出撃を繰り返していた。今日もまた、再編された第一艦隊のメンバーは出撃をしていた。

 

 

「赤城さん、索敵をお願いするのです。」

 

 

「わかりました。観測機、発艦してください。」

 

 

  第一艦隊は、駆逐艦に比べて大型艦である3人が着任したことによりそのメンバーが少し変化していた。

  旗艦である電と軽巡神通はそのままに、戦艦の金剛と重巡の羽黒、空母の赤城と残りの3人の駆逐艦の中で実績を着実に積んでいる雪風がそのメンバーとして活動していた。暁と吹雪は、今は基地で幽の手伝いと新しい艦娘(なかま)の建造をしている。

  実を言うと、艦隊を動かす上でシステム上6人という制限は存在していない。ただ、6人を超えると脳への負荷が重くなっていくので、あまり推奨されていないのだ。幽も本当は全員の出撃をしようとしたが、近くにいた大淀が全力で止めた。

 

 

  話を戻そう。正規空母である赤城が来たことと明石が色々なものを幽の不許可で造っていたことで、第一艦隊の戦闘は以前よりも変化してきていた。

 

 

「敵影発見しました!戦艦1、雷巡2、軽巡2の駆逐1です!」

 

 

「軽巡2!?今までの報告と違うネー!どういうことデス!?」

 

 

『ほら、あまり大声を出さない。例え違ってもやるのにかわりないのよ。』

 

 

「そうですね、無駄口はせずいきましょう。」

 

 

『じゃあ会敵するわ。総員戦闘準備。』

 

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

 

  各々が改めて戦闘準備をし、全員の準備が済んだところで赤城は弓に矢をつがえ、弦を引いた。

 

 

「第一次攻撃隊、発艦してください!」

 

 

  赤城は遠くにいる深海棲艦に向かい、艦載機を放つ。 矢は深海棲艦へと飛ぶ最中に、九九式艦爆と天山へと姿を変える。天山は明石が趣味で造っていたため、使うことができた。

 

 

「……艦載機より入電、駆逐艦及び軽巡2隻を撃沈しました!」

 

 

「後は戦艦と雷巡ですね。」

 

 

  その羽黒の放った言葉の直後、先程まで一言も話していなかった雪風が突然こんな言葉を放った。

 

 

「電ちゃん!私が注意を引き付けます!」

 

 

「えっ?あっ、ちょ、ちょっと待つのです!」

 

 

『雪風、待ちなさい!』

 

 

  雪風は電や幽の制止も聞かず、相手へと突っ込んでいってしまった。

 

 

「これはまずいのです!」

 

 

『仕方ないわね……。皆、雪風を補佐しつつ動きなさい!絶対に沈ませないわよ!』

 

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 

  艦隊は先行してしまった雪風を追い、深海棲艦へと向かっていく。敵方である深海棲艦もまた同じく、雪風に気付きこちら側へと向かってきた。

  まもなく敵戦艦の射程範囲に入るというところで、雪風は12.7cm連装砲をいつでも構えられるように準備する。その目は戦艦ル級を見つめていた。

 

 

(絶対に敵を撹乱して見せます!)

 

 

  敵の射程圏内に入ったとたん、戦艦ル級が雪風に対して砲撃を行う。雪風はそれをいとも簡単に避けてみせ、さらに敵へと近づきル級を撹乱させていった。

 

 

  その頃、後から雪風を追っていた5人も金剛の射程圏内に入っていた。

 

 

「金剛さん!敵戦艦に砲撃してほしいのです!」

 

 

「わかったネー!いくヨ!」

 

 

  金剛は自身の持つ35.6cm連装砲を構え、敵戦艦ル級に照準を定める。照準が安定したところで、金剛は砲撃する。放たれた弾は、真っ直ぐ戦艦ル級に向かって飛んでいき、直撃した。

 

 

「当てたネー!」

 

 

「皆さん、さらに攻めていくのです!」

 

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 ・・・・

 

 

  戦艦ル級への金剛の砲撃を直接見た雪風は、自分の動きが効果を出していると感じていた。

 

 

(もっと皆の役にたってみせます!)

 

 

  雪風はより皆の戦況を良くするために、更に動いていった。

 

 

  ただし、相手を撹乱しようと動いているなかで、雪風はあることに気が付いた。

 

 

「あれ?さっきと何か違う……。」

 

 

  いつの間にか敵が戦艦ル級しかいなくなっている。先程までは一緒にいたのにである。

  雪風はハッとした。目の前からいたはずの雷巡の姿が消えている。では、いたはずの雷巡はどこへ行ったのか?(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

  雪風がもし自分が同じ立場だったらと考え始めたとき、少し離れたところからある声が聞こえた。

 

 

「雪風ちゃん!危ないのです!」

 

 

  その言葉を聞いて、ある種の直感から雪風はすぐさま後ろを見た。すると、もう避けられない位置にまで敵雷巡の魚雷が迫っていた。振り向いたばかりの雪風に向かって、白波をたてて4本の魚雷が襲い来る。

 

 

(この攻撃はまずい!私、沈んじゃうかも……。沈むのは……。)

 

 

  雪風は轟沈への恐怖から、全く身動きがとれなくなってしまった。『駆逐艦雪風』は、かつての大戦において1度も沈まなかった武運艦である。しかし、そんな船でも敵の砲撃を受け轟沈してしまいそうな経験はあった。水底へ沈んでしまうことへの恐怖、自我を失うことへの恐怖、それが雪風の身体を支配して完全に固めてしまっていた。

  しかし、深い思考の渦に飲み込まれそうなすんでのところで、雪風にある声が聞こえた。

 

 

『雪風、聞こえる!?貴女の身体、一瞬借りるわよ!』

 

 

  次の瞬間、雪風は自らの意思で身体を動かせなくなった。そして両足で思い切り海面を蹴り、魚雷を避けるために身体が勝手に跳ねた。

  これで攻撃を避けられたと思った雪風だったが、左足先が少し反応が遅れて残ってしまったらしい。それが魚雷に触れてしまったため魚雷は爆発し、雪風はその衝撃波と煙の中に巻き込まれる。

  雪風の意識が失われる直前、雪風は一瞬敵である雷巡が小さく放ったある言葉を聞いた。

 

 

「ハ……、レ……ラク……ナ……レバ。……センカンセイキ……マ二。」

 

 

  この言葉の後、雪風は完全に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

  雪風が目を覚ますと、目の前に白塗りの天井があった。

 

 

「……?ここはどこなんでしょう?」

 

 

  いつの間にかベッドで寝かされていたらしい。よく見ると、この部屋は伊58のいる医務室であることがわかった。雪風はベッドから上体を起こし、ぼんやりと前を見る。すると、医務室の入り口が開く音がして雪風に声がかけられた。

 

 

「あら、起きたのね雪風。」

 

 

「……司令官。」

 

 

  医務室に入ってきた幽は、雪風が寝ているベッドの脇においてあった椅子に座り、雪風の方へ向き直った。雪風も同じく、幽の方向を向く。

 

 

「身体の調子とかはどうかしら?ほとんど傷は無いと思うけど。」

 

 

「はい……。大丈夫です。あの……。」

 

 

「何かしら、雪風?」

 

 

  雪風は話したいことを言いかけて1度引っ込めてしまったが、意を決して口を開き伝えた。

 

 

「……本当に迷惑をかけて、すみません。」

 

 

「……何故謝るのかしら?」

 

 

「今回私が沈みかけたのは、周りを見ないで行動してしまったのが原因です。司令官がいなかったら……、私は沈んでました。」

 

 

  こう言って謝る雪風に対し、幽はこのような今回の件の本質を突き詰める質問を投げ掛けた。

 

 

「ならば何故、貴女はそのような行動をとってしまったのかしら。」

 

 

  雪風は完全に止まってしまった。それもそのはず、この質問は彼女自身の弱点をさらけ出さなければいけない問題である。人は、自分の弱点はあまりさらけ出したがらない性格を持っている。だから、答えに詰まってしまうのは、ある意味当たり前のことなのだ。

  しかし、雪風は多少の悩みは見えたものの自分の中にある考えを純粋に答えた。

 

 

「……私は、今の第1艦隊で一番弱いです。金剛さんや羽黒さんみたいな火力も持っていないし、赤城さんみたいな艦載機運用能力も、神通さんみたいな機動力も持っていない、電ちゃんみたいな艦隊の指揮能力も持っていないです。……だから、私に今出来るのは敵を撹乱させることだと思って、あの行動をとりました。」

 

 

「……。」

 

 

  雪風の本心を聞いた幽は、少し顔をうつむけてから、再び顔を上げ雪風にこう告げた。

 

 

「雪風、貴女は自分が何も持っていないって言うけど、そんなことはないわ。」

 

 

「え……?」

 

 

  幽の言葉を聞いた雪風は、驚く。そして幽は、さらにこう続けた。

 

 

「貴女もちゃんと持っているわ。例えば、直感力とかね。」

 

 

「直感……。でもそれは、あまり皆の役には……。」

 

 

「そんなことないわ。今回の件が良い例ね。雪風が直感的に囮になったから、皆が深海棲艦を狙いやすくなったのよ。」

 

 

「いいえ、私はそんなこと考えて……。」

 

 

「過程はどうであれ、貴女は自分が囮になるしかないと感じたのでしょう?なら、ある種の直感よ。」

 

 

「でも、私は沈みそうになって……。」

 

 

「それはまた別の問題よ。」

 

 

  幽はそう断定して、囮になったことと沈みかけたことの関連性が無いことを示した。そして、こう続ける。

 

 

「沈みかけたのは、周囲を上手く観れていなかったから。もう少し周囲への意識を持っていれば、攻撃を避けられたと思う。」

 

 

  幽は、さらに続ける。

 

 

「艦隊行動を行う上で必要なのは、協調性。協調性を持つには、周囲がしっかりと見えていないといけないわ。貴女は時々、1つの考えに集中してしまって周囲が見えなくなることがあるわ。それを完全に、とは言えないけれど極力無くしていくようにこれから特訓しましょう。」

 

 

「……はい!」

 

 

「それじゃ、もう少し身体を休めておきなさい。」

 

 

  幽はそう告げて部屋から出ていこうとする。その幽を、雪風が呼び止めた。

 

 

「……あの、司令官!」

 

 

「……何かしら?」

 

 

「もう一度……、第1艦隊の一員として私を出撃させてください!」

 

 

  幽は部屋から出ようとドアの方へ向けていた身体を雪風の方へ向き直す。その表情は、今までになく真剣な顔だった。

 

 

「……今言ったわよね。周囲が見えなくなることがあるって。そんな状態の娘を、戦場に出せると思うのかしら?」

 

 

  幽からは今までにないほどのきつい言葉が出る。雪風は、こうなるとなんとなく感じていた。しかし、その上で雪風はこう言った。

 

 

「……確かに司令官の言う通りです。でも、司令官の話を聞いてどうしても行かなきゃと思うんです。私のこの弱点は、戦場でなければ完全に治ることは無いと。」

 

 

  雪風は幽の方へ顔を向け、いつになく真剣な眼差しを幽に送り懇願した。

 

 

「お願いします、もう一度だけ、私を出撃させてください。」

 

 

  雪風のこの姿に幽は少し驚いた表情を浮かべてから、溜め息をはいた。そして、こう言った。

 

 

「はぁ……。まさか、ここまで本気になるとは……。で、貴女たちはどう思う?(・・・・・・・・・・)

 

 

「へ?」

 

 

「……バレてたみたいなのです。」

 

 

「テートクは鋭いネー……。」

 

 

「何時から気付いていましたか?」

 

 

「最初から。バレバレよ、貴女たち。」

 

 

  ドアが開き、電と金剛、神通が入ってくる。どうやら、ドアの前で聞き耳をたてていたらしい。幽は気付いていたみたいだが。

  部屋へ入ってきた3人に対して、幽は再び同じ質問をかける。

 

 

「で、結局どうなの?」

 

 

「その件は、外で5人で話して決めたのです。」

 

 

「赤城と羽黒もいたの?」

 

 

「さっきまで……。今はお二人とも工厰ですが。」

 

 

「そう。で、結果は?電。」

 

 

  電は一度黙ってから、雪風の方を向き5人の意見を述べた。

 

 

「……次からは相談したり、周りを見て動いてください。これが一点。」

 

 

  電は右手の指を更に立て、2本にする。

 

 

「全員に、きちんとした謝罪をしてほしいのです。これが二点目。」

 

 

  そして、と電は言い更に指を立てる。右手は3を示している。

 

 

「三つ目……、もう、二度とあんなことはしないでほしいのです……。すごく心配したのです……。」

 

 

  電は三つ目を言いながら、少し泣き出してしまった。それほど今回の件が辛かったのであろう。それを見た雪風も、電の気持ちを感じとり泣きながら謝罪した。

 

 

「ごめんなさい……、ごめんなさい……!」

 

 

  幽と金剛、神通は、二人が泣き止むまで少し離れたところから眺めていた。

 

 

 

 ・・・・・

 

 

「さて、私もそろそろ戻りますか。」

 

 

  雪風と電が何とか持ち直したのを確認して幽は提督室へ戻ろうとしたが、それに気づいた雪風に呼び止められた。

 

 

「あ、しれぇ、ちょっと待ってください。」

 

 

「また?何なのかしら?」

 

 

「いや、実は意識を失う前に雷巡がボソッと話しているのが聞こえて……。」

 

 

「雷巡チ級が話していた、ですって!?」

 

 

「ど、どういうことなのです!?」

 

 

「雪風、説明を求めるネー!」

 

 

  雪風の放った言葉に、その場にいた面々、その中でも人前では滅多に驚かない幽もさすがに驚愕してしまった。なぜなら、そんなことは今まで前例が無かったからである。

  説明を求められた雪風は、自分の記憶にある分だけの説明をする。その説明を聞いて、全員は更に驚いていた。

 

 

「雷巡チ級がそんなことを……。」

 

 

「ビックリしたネー……。」

 

 

「本当にそんなことが……!」

 

 

「参ったわね、これは。雪風、貴女ナイスよ。情報ありがとうね。」

 

 

  幽に誉められて少し喜ぶ雪風。しかし、流石にこの情報の流出は不味いと考えた幽は箝口令(かんこうれい)をしくことにした。

 

 

「皆、この情報はかなり重要性が高い。だから、この基地以外に必要以上に情報が流れないように箝口令を出す。今いない娘たちには、私が後で伝えておくわ。」

 

 

「「「「「了解」」」」」

 

 

「じゃあ、先に戻るわね。」

 

 

  幽は第1艦隊の面々を残し、提督室の方へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

  幽は今、提督室ではなくその隣にある特殊通信室にいた。幽の向かいには、大淀が座っている。

 

 

「……というわけらしいの。」

 

 

「そんなことがあったんですか……。」

 

 

「この話は今までの深海棲艦の定説も変わってくるものだし、下手に流出とか厳禁なのよね……。」

 

 

上層部(うえ)が酷いことになりそうですね……。」

 

 

  そう、上層部(うえ)が大変なことになって組織として上手く運営出来なくなる可能性が有るため、幽は今回箝口令をしいたのだ。

  そして、二人は雪風の言葉の中にあった唯一の疑問点について話す。

 

 

「そして、1つわからないこともある。『センカンセイキ』って聞いたことある?」

 

 

「いえ、全くないです……。新種でしょうか?」

 

 

「その可能性が高いわね。『センカン』って位だから、今の戦艦ル級みたいなものなのか、はたまた戦艦種で戦艦以上の力を持つものなのか……。私たちには、まだ知らない深海棲艦がたくさんいるのね……。」

 

 

「はい……。『センカンセイキ』の報告はどうしますか?」

 

 

「まだしないわ。存在自体が掴めていない時点で、上に空っぽの報告するわけにはいかないし。……一応先生には知らせるけど。」

 

 

「了解です。……何事も起こらないといいんですけど……。」

 

 

「そうね……。」

 

 

  幽と大淀は部屋から出る。すでに夜の帳は降り、辺り一面が闇に包まれている。近場にスイッチが無かったので、二人は闇の中、廊下を歩いていく。その行く先は更に深い闇に覆われていた。

 

 

 

 

 

 






~キャラ紹介~

01 簓雪幽
性別 女性
年齢 22歳
階級 中佐
所属 呉鎮守府廿日市基地
簡易紹介
小さい頃に両親を失い、その後御簓に拾われ育てられる。その間に大淀と出会ったらしく、現在でも親交が続いている。
事故とその後の出来事のショックからか、両親の顔と名前、自分の名前と住所を忘れてしまっている。
未だ不明な点があり、電には『仲間みたいな雰囲気』と思われていたり、金剛には『何かを隠している』と言われるなど、謎の多い人物である。

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↑こんな感じで進めていきたいと思ってます。

そろそろ南方海域に突入させたいです。幽の秘密も出せるようにしたい……。

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