公孫賛が治める地『幽州啄郡』を目指す太公望と雛里。
「流石に歩きだと遠いのう」
「す、すみません。私も朱里ちゃんも途中まで商隊の馬車に乗せて貰っていたので馬は借りなかったんです」
雛里は商隊の馬車に乗せて貰い幽州啄郡の途中まで来ていたらしい。
商隊は其処から別の町に行ったらしく雛里は其処から徒歩で向かうつもりだった。
その町から幽州啄郡は近く大丈夫だろうと判断したのだが即座に人攫いに遭遇。
その後すぐに太公望に助けられて今に至るのだと言う。
「いや、謝らずとも良い。それに言い方を変えればお主達が馬を借りなかったからワシと雛里は出会ったんじゃからな」
「はい!そうですね師叔」
太公望の言葉に嬉しそうにする雛里。
「それにワシもずっとスープーに乗っておったからの。偶に歩くのも悪くない」
「スー……プー……?」
太公望の言葉に小首を傾げる。
「うむ、ワシが乗っていた霊獣じゃ」
「れ、霊獣でしゅか!?」
太公望が霊獣に乗っていた事に噛みながら驚く雛里。
「どどどんな霊獣だったんですか」
「う、うむ。名を『四不象』と言って。種族は……龍になるのぅ」
興奮気味の雛里に押されながらも四不象について説明する。
「り、龍……」
雛里はゴクリと喉を鳴らす。
そして雛里の脳裏には神話などに出てくる龍の姿が描かれていた。
長い身体に蛇のような鱗
威圧感を感じる二本角
神秘的な美しさや偉大さを感じさせる長い髭や鬣
そしてその頭の上に威厳有る姿で立ち竦む太公望
雛里はキラキラと夢見る少女の様に太公望を見上げていた。
「まあ、見た目はカバじゃったが」
「………え?」
雛里が脳裏に思い描いていた龍の絵にピシッとヒビが入る。
「うむ。見た目はカバで語尾に『~ッス』と付けておっての」
「カ、カバ……ッス?」
雛里の脳裏に思い描いていた龍の絵にはどんどんヒビが深く入っていく。
「うむ、それに龍と言っても肉食ではなく草食での。腹が減ったら道端の草を食っておった」
「………あうう」
既に雛里の脳裏の龍はガラガラと音を立てて崩れ去っていた。
いくらなんでも龍のイメージとかけ離れていたからだ。
「イメージと違ったか?だがの雛里。スープーはワシと共に長い時を過ごした友で有り相棒じゃった」
「そうなんですか?」
雛里の疑問に太公望は肯く。
「うむ、戦いの時も常にの。オマケを言えば周の国ではツッコミ担当じゃった」
「霊獣ですよね!?」
霊獣の予想外の扱いに声を上げて驚く雛里。
「ハッハッハッ気にするな。お、町が見えてきたのう」
「気にしますよ……師叔」
歩きながら話している内に幽州啄郡が視界に入る距離にまで来ていた。
「この大陸に来て始めての町か。楽しみだのぅ」
「ふふ、子供みたいですね師叔」
少しはしゃいだ様子の太公望に笑みを溢す雛里。
太公望と雛里はまるで兄妹の様に幽州啄郡の町へと向かうのだった。