真・恋姫†演義~舞い降りる賢君~   作:残月

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太公望、孫策と出会う

 

 

 

川で釣りをする太公望はボンヤリとしながら昔を思い出していた。

 

 

「……本当に、あの場所に似ておるのう」

 

太公望が呟いたあの場所そこに、ここが驚くほどに似ていた。

「似ておるか……色々思い出してしまうんじゃろうな」

そう言って、太公望は空を見上げる。

 

 

『釣れてますか?』

『大物が掛かったようだのう』

 

 

思い出すのは、かつての会話。

思い出すのは 、あの時の気持ち。

 

 

「我ながら……女々しいのう……」

 

 

太公望は自傷気味に笑う。

あの時は戻らない。

あの者にはもう会えない。

 

 

『太公望、俺は親父の後を継ぐぜ!』

『静かにせぬか、魚が逃げてしまうわ』

 

 

父の意志を継いだ者は父とは違った性格だが民に慕われていた。

出来の悪い生徒の様な存在だったが直向きに国のために頑張っていた。

 

 

「これは……ワシの……未練……」

 

 

太公望は瞳を閉じたまま呟く。

一人は国を起こす前に逝った。

一人は国を起こしたが2年後に逝ってしまった。

 

 

「……ワシは迷ってるのかの」

 

 

太公望は沈んだ気持のまま釣りに没頭するのであった。

 

 

 

 

気分転換と城を抜け出し、森へと足を踏み入れた雪蓮は鼻歌交じりに歩いていた。

何故、彼女の機嫌が良いか。

仕事から解放され自由になったから。

袁術に余計な仕事を言われないから。

理由は様々だったが一番の理由は違った。

 

 

「今日は良いことがありそうなのよねー」

 

 

それは勘だった。

自身が良く当てにする勘。

的中率が高く、戦場では勘で幾度も命を救われた。

その勘が言っている。

 

『今日は良いことがある』と

 

そんな彼女は気分を良くしながら森を散策していたが、ふと川の音を聞き、其方に足を向けた。

これも勘だった。何かがあると。

そして、その勘は当たったと思えた。

森の木々を抜けた先に。

釣りをする一人の青年を見てしまったから。

 

彼は絵になっていた。

言葉を失ってしまった。

その景色に文字通りは雪蓮は声が出なくなってしまったのだ。

それは一枚の画のようで、どこか神秘的な雰囲気さえ感じた。

雪蓮は手を伸ばしてみたくなった。彼に触れてみたくなった。

見たところ、青年は釣りをしている。ならば、なんて声をかければいいかなんて簡単だ。

 

「はは……」

 

雪蓮は緊張していた。ただ話しかけるだけなのに。

彼女をよく知る人物が見れば鳩が豆鉄砲を食らった顔をするだろう。普段の彼女らしくない行動と表情に。

雪蓮は青年の後ろに立ち、そっと彼の肩に手を乗せた。

そして、ゆっくりと口を開く。できるだけ自然に、いつものように笑顔で。

 

 

「ねぇ……釣れてるの?」

 

 

雪蓮の言葉に青年。太公望は酷く驚いた表情で呟いた。

 

 

「……姫…発?」




太公望は姫昌と姫発を思い出してしまいました

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