真・恋姫†演義~舞い降りる賢君~   作:残月

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太公望、王を語る

 

 

 

 

「良い場所だ、街がよく見えるのう」

 

 

太公望は華琳と共に城壁の上へ来ていた。

街が一望出来て良く風が吹く場所だ。

 

 

「私の一番好きな場所よ……こうして街を……国を見れるのだもの」

「うむ、良い場所だ」

 

 

安らかな表情になった華琳に太公望も頬を緩ませ笑みを浮かべる。

短い会話を終えた後に来るのは沈黙。

 

 

「随分と『らしくない』行動だったそうだのう、曹操」

「………何がよ」

 

 

ふと漏らした太公望の言葉に華琳は不機嫌そうな顔になる。

 

 

「夏侯淵も言っておったぞ、曹操様らしくない態度と行動であったとな。他人を見定める所はいつも通りだったが今回はやり口が強引だったとな」

「まったく……あの子ったら……」

 

 

普段と違う態度に秋蘭が太公望に告げたのだった。

それを聞いた華琳は頭を抑え、悩む仕草を見せた。

 

 

「だがワシにも同じように見えた。お主、何を悩んで……いや、焦っている?」

「貴方は人の心でも覗けるのかしら?」

 

 

太公望の言葉に眉をピクリと上げながら華琳は太公望を睨む。

 

 

「ワシは全知全能ではないからのう。それに読心術を使っておるわけでもなし。お主が口に出してちゃんと言わん限り、キッチリ伝わることはないわい」

「ふ、ふん……」

 

 

華琳は太公望にそっぽを向く。

 

 

「お主は悩んでおるのだろう?自身の才能とかではなく、その在り方にな」

「………っ!」

 

 

華琳のの心臓がドクンと跳ね上がる、まるで華琳の心を見透かしたような言葉。

 

 

「やっぱり読心術を使っているんじゃないのかしら?」

 

 

華琳は太公望に食ってかかるが太公望は心外だと言わんばかりの表情をする。

 

 

「カカカッ、長年生きてきたことで培われてきた勘と洞察力というやつじゃよ」

 

 

そう言って彼は肩をすくめる。

 

 

「それにワシは見てきたんじゃよ。お主の様に王あらんとするがどうすれば良いか悩んでいた者にな………」

「…………」

 

 

華琳は太公望の言葉に聞き入る。

 

 

「これで正しいのか……自分は間違っているので無いかと……な」

「その人の最後は……どうだったの?」

 

 

華琳は太公望に尋ねるが太公望は口を開こうとはしなかった。

重く……閉ざされ開きがたくなっている。

 

 

「奴は王になる前に死んだ……ある理由から身体が弱くなっておっての衰弱しておった。だが王になるために歯を食いしばっておった。いつも言っておったよ『歴史の重みに押し潰されそうだ』とな」

「…………」

 

 

華琳は太公望の言葉を聞き逃さない様にしている。

 

 

「曹操よ、今のお主は奴と同じ悩み方をしておったわ。お主の場合は悩みと言うよりは焦りだがの。ま、奴は人の器を見るために武人を差し向けるなぞしなかったがな」   

「………判ってるわよ」

 

 

ニョホホっと笑うディフォルメ太公望は嫌味を重ね、華琳は苦々しく頷くのだった。

 

 

「焦っていた……か?そうね、そうかもしれないわ」

「焦るのが悪いとは言わぬ。だが悩みや焦りを自分の中に溜め込み続ければ自身の思いとて、変わっていくであろうな」

 

 

自身の思いを悟ったかの様に呟く華琳に太公望は言葉を重ねる。

 

 

「………覚えていなさい、呂望。王とは常に……孤独なものよ」

「それはお主の主観で考えた王であろう?」

 

 

華琳の言葉を嫌味な顔を浮かべながらカカカッと笑う太公望。

 

 

「曹操よ、孤独を恐れよ。部下では無く友を作り、悩みを打ち明けられる存在を求めよ」

「…………心に留めておくわ」

 

 

 

 

太公望の言葉を華琳は否定せず、心に刻むのだった




今回、太公望が話した王は『姫昌』です

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