真・恋姫†演義~舞い降りる賢君~   作:残月

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先に言っておきますがアンチ劉備ではありません


太公望、劉備に語る

 

 

 

 

兵士が孔明を呼びに行って程なくした後に謁見の間に数名、入ってくる。

 

 

 

「ひ、雛里ちゃん!」

「朱里ちゃん!」

 

 

離れ離れになっていた親友同士は抱き合い、再会を喜ぶ。

 

 

 

「良かった!良かったよぅ……」

 

 

朱里は涙を流して雛里を強く抱きしめた。

 

 

「私は桃香様や愛紗さんに助けて貰ったけど……雛里ちゃんを探したけど見付からなくて……もしかしたら町に先に行ったかと思って町に来たけど……町でも雛里ちゃんの姿は無くて……」

 

 

涙声で状況説明と謝罪をしていく孔明。

 

 

「白蓮様の所でもそれらしい人が……来たら報告してもらう様にお願いしてたんだけど……全然報告が無かったから……」

「やはり、そちらでも探しておったか」

「例え、特徴が合っていても占い屋の片割れであれば兵士も報告しずらかったのでないでしょうかな?」

 

 

孔明が雛里に説明を続ける中、太公望と趙子龍が会話を交わす。

 

 

「あの、貴方が士元ちゃんを連れてきてくれたんですか?ありがとうございます」   

 

 

太公望の前に立ったのは桃色の髪をした少女。

 

 

「うむ、ワシが連れてきたと言うより雛里がこの町を目指していたから共に来たが正しいの」

「それでもです。私の友達の友達を連れて来てくれてありがとうございます」

 

 

桃色の髪の少女は深々と太公望に頭を下げた。

 

 

「と、桃香様!そんなに軽々しくと頭を下げないで下さい!」 

 

 

と其処で黒髪の少女が止めに入った。

 

 

「軽々しくなんか無いよ。大事なことだから」

「しかしですね……」

「それは兎も角、名を名乗ったら如何かな?呂望殿が呆気に取られてますぞ」

 

 

言い合う二人の少女に待ったを掛けたのは趙子龍だった。

 

 

「あ、そうだね。私は劉備玄徳です」

「私は関羽雲長です」

「鈴々は張飛翼徳なのだ!」

「うむ。ワシの名は呂望じゃ」

 

桃色の髪の少女が劉備

黒髪の少女が関羽

小さく元気な少女が張飛

とそれぞれ自己紹介をしたのを聞き、太公望も名を返した。

 

 

「時に劉備よ……雛里は友人と共にお主の志に感銘を受け、お主を探していたと言っていたがお主は乱世に何を思うのだ?」

「え、私ですか……?」

 

 

太公望の真剣な眼差しに劉備は呆気に取られた。

急に雰囲気の変わった太公望に趙子龍は、ほぅと息を漏らす。

 

 

「私は……人々は飢えや病に苦しみ……日々野党に脅えてる。なのに、それを見て見ぬ振りをして私腹を肥やす者さえいます。私はこの世界を良くしたい……皆が笑って過ごせる世界に……」

 

 

太公望はその瞳を劉備を見据える。

そして重々しく口を開く。

 

 

 

「劉備よ……お主のその夢は、目標は素晴らしい。だがの、それじゃ駄目なんじゃよ。劉備だけでは無い、関羽も張飛も、お主らは間違っておる」

 

「え……?」

「な……?」

「にゃっ!?」

 

劉備が関羽が張飛が太公望の言葉に驚愕する。

 

「貴様、我々の……桃香様のどこが間違ってるっていうんだ!」

「愛紗ちゃん!」

真っ先に動いたのは、関羽だった。

関羽は青龍偃月刀を太公望に向けて構える、それを劉備が慌てて止めに入る。

だが太公望は冷静だった。

 

「ワシも同じじゃったからな……」

「「「!!」」」

 

静かに……それでいて重く響く太公望の声。

その重さに関羽が構えた青龍偃月刀は自然と下を向いた。

 

「ワシもお主らと同じじゃった。平和のためとか自分の目的のため、たった一人にそれら全てを……押し付けた。その結果、ワシは沢山のものを失ってしまった」

「な……私達はそんなつもり……」

 

 

太公望から感じる威圧感に関羽は言葉を失う。

 

 

「違わんよ、何もな。お主らは今、たった一人の人間に背負わそうとしておるではないか。自分の夢を、この国の未来を。劉備も民や仲間の声を受け、断りづらい状況になっておるが、ちゃんと自身の言葉を出しておるのか?」

「………」

 

 

 

劉備は言葉が出ない。

関羽も張飛も……

先程まで泣いていた雛里や孔明も泣き止んで太公望の言葉に耳を貸していた。

 

 

 

「『英雄だから、王だから』そんな理由は通らんぞ。奴らだってワシ等と同じ、一人の人間。そのような重み、耐えられるわけがない」

「なら……どうすれば……いいんでしょうか?」

絞り出したかのように出された劉備の言葉。

太公望はそれに対し、優しげに微笑む。

 

「コレばかりはワシが言ってはならんの。劉備の為にならん。それにワシは端者よ。ここからどうするかは、お主等が決める事だ」

 

 

そう言うと太公望は雛里へ歩み寄る。

 

 

「雛里よ。お主と過ごしたのは数日であったが楽しかったぞ。お主にこの国のことを学ばねばワシはもっと苦労をしておった」

「師叔………」

 

 

太公望は優しく雛里の頭を撫でる。

 

 

「お主の友人に会えたことだし、お主と過ごす旅も此処までだ。達者でな。では公孫賛、騒がせてすまなかったの」

「あ、いやいや!大したお構いも出来なくて申し訳なかった!?」

 

 

突然水を向けられ慌てる公孫賛。

 

 

 

「では、偉そうに説教をしてすまんかった。それではな」

 

 

そう言い残すと太公望は謁見の間を出ていった

太公望が出て行った後、謁見の間はシンと静まり返った。

 

 

「ふむ、何とも懐の深い御仁だったな」

 

 

趙子龍は興味深そうに太公望が出て行った扉を見詰めて呟いた。

 

 

「何処がだ!偉そうに説教をしただけではないか!」

「違います……きっと私達に気付いて欲しかったんだと思います」

 

 

怒り心頭の関羽だが孔明が口を開く。

 

 

「私達は桃香様の志に惹かれて集いました。先程、呂望さんが仰った様に理想を掲げて……」

 

 

 

孔明の言葉に誰もが聞き入る。

 

 

 

「ですがそれは理想の為に何かを切り捨てる形になります。先日の戦もそうです。相手が野盗とは言えど、被害は出ます……そして桃香様の地位が上がれば上がるほど理想の為に戦う形になります」

 

 

孔明は抱き締めていた雛里からは離れて立ち上がる。

 

 

「私達はまだ生きていますが、いつか私達の中から死ぬ者も出るかもしれません。その時、ちゃんと受け止められるでしょうか?今のままで……」

 

 

孔明の言葉に劉備や関羽達はゾッとする。

何かを失う怖さを改めて感じたからだ。

 

 

「多分、師叔は……占いをやる傍ら、劉備さんの情報を得ていたんだと思います。そして民から得た情報で劉備さんの人格や性格を知った上で自覚を持たせたかったんです多分」

「なるほどな本人がどんな人物かを知るために占いをしながら探りを入れていたか。本当に興味が尽きぬ方だ」

 

 

太公望を知る雛里が補足し、趙子龍は納得がいったと笑みを浮かべる。

 

 

「士元、呂望は何者なんだ?廬植先生が何年も口酸っぱく言い続けても自覚できなかった事をアッサリと自覚させるなんて……」

 

 

公孫賛も有り得ない物を見たと言わんばかりの表情だ。

劉備や公孫賛の先生である廬植が何年も劉備に注意し続けた事だが劉備の現実を見ない部分は直せなかったのだ。

にも関わらず太公望は会ってほんの数分で劉備の中に無かった物を掘り起こしたのだ。

 

 

 

「あの方は……嘗て賢者と呼ばれ、私達軍師が敬意を祓わねばならない方です」

 

 

雛里の言葉に劉備達は首を傾げた。

 

 

 

そして雛里の目には何かを決意したかの様な火が灯っていた。




書くだけ書きましたがアンチ劉備ではありません
この辺りも後の伏線です


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