ティンクル☆くるせいだーす~最高神と流星の町~   作:TRcrant

21 / 22
大変ご無沙汰しております。
色々な事情(詳しくは活動報告を参照)で遅れてしまい、大変失礼しました。

今回は、生徒会への助っ人……ではなくこれまで登場していない人物との話になります。
当然ですが、リメイク版のみの書き下ろしの話になります。
口調など気を付けてはいますが、もし間違っていたらご連絡いただけると幸いです。

それでは、どうぞ!


第20話 急襲の薙乙女

集合場所でもある九条低前へと戻った僕は、神楽が戻ってくるのを適当な柱に寄りかかって待っていた。

待っている間、何か彼女がドジでもしたのではないかという不安に苛まれて落ち着かなかった。

 

「浩ちゃん!」

「帰ってきたか」

 

どれほど待ったのだろうか。

僕の姿を見つけてパタパタと手を振りながら駆け寄ってくる神楽の姿に、僕は今まで寄りかかっていた柱から離れると神楽の方に向かう。

 

「お疲れ。で、どうだった?」

「こっちは全然。魔族の魔の字も出なかった。浩ちゃんの方はどう?」

「猫魔族が三体ほど出て交戦した」

 

神楽の問いかけに答えた僕は、その時の状況を詳しく話す。

 

「なるほどね~。それだったら十分問題はないかな」

「ああ。だから今後、魔法陣の作成にはこれを使って行こうと思う」

 

話を聞き終えた神楽の満足げな反応を見た僕は、この仮面を穂ナック的に利用することに決定した。

これで問題がすべて解決したかに思われたのだが、

 

「あれ? それじゃ私がこれを持つ意味は?」

 

神楽に言われてようやく僕は、最大の問題点に気が付いた。

”これを神楽が持つ意味がない”という初歩的な問題に。

 

「………緊急用という事で」

しばらく考えた僕の出した結論は、我ながら拍し抜けなものであった。

というよりそれ以外にはありえない。

 

「今の間は何っ!?」

「それじゃ、コスプレ用で」

「投げやりに言った!? って、私にそんな趣味はないわよ! あの人じゃないんだから!!」

 

ノリツッコミを返すあたり、神楽も色々な意味で成長しているようだ。

最初に会った頃は首をかしげるだけで終わりだった時とはまるで違う。

……このような形で実感するというのもいろいろ複雑な心境だけど。

 

「確かに、これを彼女に渡したら……」

 

僕は今作った仮面をあの人に贈った時のことを想像してみた。

 

『そうなのね! これで露出プレイをしなさいということなのねッ! ご主人様っ!』

 

「………緊急用で持っておけ」

「そ、そうだね! 今嬉々として仮面を受け取る姿が目に浮かんだわ」

 

嬉しそうに体をくねらせながら仮面を受け取る彼女の姿を思い浮かべてしまった僕は、半ば押し付けるような形で神楽に手渡した。

 

(というより、絶対にあいつでも僕には”ご主人様”と呼ぶことはないか)

 

とはいえ、それ以外は絶対に言いそうで怖い。

 

「今後、これを持っていることは秘密という事で」

「ええ。このままだと神様としての威厳が無くなっちゃう。……まあ、元からないんだけど」

 

もしこの仮面のことを離せば僕の想像通りの事態にもなりかねない。

それを防ぐための僕の提案に、神楽も即座に納得してくれたようだ。

それよりも、いつから腹黒くなったんだ?

確かに、最近神界内では『変態神がいる』なんて噂が立ち始めているけど。

 

「さあ、仮の仕事に戻ろう。そろそろお昼だ」

「そうだね。あーあ、こうして休日は終わって行くのね」

 

ため息交じりに言う神楽の背中には、哀愁が漂っていた。

確かに今回のテスト結果は、活動時間の制限を解除することができる非常に有意義なものであった。

だが、彼女にしてみれば貴重な休み時間を奪われているのだから溜まったものではないだろう。

尤もそれが僕たちの本来の仕事なのだが。

そんな神楽の肩を優しくたたきながら、僕たちは九条家の中に入って行くのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「また失敗だにゃ」

 

先ほど聖沙に部下たちを襲撃させた場所から人気のない場所の方へと移動したパスタは、悔しさと悲しさから肩を落としていた。

 

「一体なんなのにゃ! あの白仮面は」

 

パスタはあと少しで奇襲が成功するところでそれを妨害した白仮面……浩介に憤怒し始める。

 

「今度あいつに会ったら、ズタズタにしてやるにゃ!!」

「「「にゃー!!」」」

 

怒りに満ちたパスタの言葉に、周りにいた自身の部下である猫魔族も声を上げた。

 

「うぅー、またソルティアに嫌味を言われるにゃ」

 

かと思えば再び哀愁を漂わせながら、パスタはその場を後にする。

だが、パスタは知らない。

倒そうとしている者が、どれほど強いのかを。

そして、何者であるかを。

浩介と魔族たち、それぞれの休日は静かに、されとて不穏な雰囲気を漂わせながら幕を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11月11日

 

いやだいやだと言っても経ってしまうのが時間というものだ。

そんなわけでついにやってきてしまった、地獄の日

 

「はぁ……」

 

自分に宛がわれた部屋で、僕は深いため息をつく。

生徒会の手助けなら、まだよかった。

なんだかんだ言っても役に立てる可能性があるからだ。

だが、僕がやるのは退魔族専門の『流星クルセイダース』という組織のサポートも含まれている。

これでは、敵に僕が何者であるかを知られる危険性が更に高まる。

しかもこちらにはメリットらしいものがなに一つもない。

(それに、あそこには魔王がいる)

彼に出会ったのは二回ほどだが、僕の直感が彼が魔王であることを激しく主張していた。

それが神によるものなのかそれとも別の何かなのかは別だが。

そして、魔王がいるということはそばには大賢者パッキーが必ずいるはずだ。

彼とは前に何度かあったことがある。

覚えていないかもしれないが、もし覚えられてでもいたら僕の踏み込まれたくない核心部分にまで踏み込まれる恐れがある。

 

(課題は山積みだな)

 

町中に張り巡らされた魔法陣の対処、これからなるであろう味方(かどうかは分からないが)に自分の存在が知られないようにする。

数え上げればきりがない。

だからといって何もしないというわけにはいかない。

 

(でも、一つずつ解決していくしかない)

 

僕は覚悟を決め心の中でつぶやくと、いつものように九条家のシェフとしての仕事を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは言ったものの、やはりそう簡単に割り切れる訳でもなく、僕は気分を落ち着かせるためにわずかな休憩時間を利用して散歩に出ていた。

 

「そう言えば、この近くに神社があったっけ」

 

数日前に地脈調査を行った際に見つけた神社がこの近辺にあることを思い出した僕は、そこに足を運ぶことにした。

階段を上った先にあったのは、神社と外を区切るように建てられた鳥居だった。

鳥居には”飛鳥井”という文字があったことから、ここは飛鳥井神社という名前なのだろう。

 

「お参りでもするか」

 

結局最後は神頼みかと心の中でツッコみつつ、僕は鳥居をくぐり神社の境内に足を踏み入れた。

次の瞬間、周りの木々がどよめくように音を立てる。

 

「何、怯えているんだ」

 

僕はため息をつきながら言葉を吐き出す。

このような神社に祀られている神の階級は低級か中級かのどちらかに当たる。

神社とはいわば自分たちの居場所(家のようなもの)であり、そこに別の神が立ち入るのを非常に嫌がるところがある。

昔、低級の神様が中級神が祀られている神社に入ったことに腹を立て上役の神に猛抗議をしたという話を知り合いから聞いたことがある。

本人は全く気にも留めていない様子だったが。

 

(まあ、僕の場合は大丈夫か)

 

一応、位では最高神という位置づけになっているのだ。

文句の言いようがないだろうし言われても無視するだろう。

ということで、僕は本殿のほうにゆっくりと歩み寄っていく。

本殿の前に近づくにつれて草木のざわめきも大きくなっていく、

 

(面倒な)

 

あまりの怯えられように注意する気もなくなった僕は、無言で五円玉を賽銭箱に入れると二礼二拍手でお参りをする。

お願いごとの内容はもちろん、”仕事がうまくいくように”というものだ。

もっとも世界の命運をかけた仕事がここの神社に祀られている神にかなえられるのか否かは別だが。

それはともかく、無事にお参りを済ませた僕は、仕事場に戻るべく本殿に背を向ける。

 

(何者かが狙っているな)

 

背後のほうで何者かがこちらを仕留めようとしているのを僕は察知していた。

 

(いきなり剣を出すのもあれだし、手短な物を武器にするか)

 

そう思って周囲を探してみると足元に木の枝が落ちていた。

まるでこれを使えと言わんばかりに落ちているそれを、僕は武器として使うことにした。

後の気配に注意しながら立ち止まった僕は、地面に落ちている木の枝を軽くかがんで手にする。

 

「隙ありっ!」

 

それとほぼ同時だった。

女性と思われる声と同時に、先ほどまで感じていた気配が一気に近づくのを感じたのだ。

いきなり仕掛けてきたのは予想外だったが、気配自体は感知していたのでそれほど問題にならない。

僕は後ろの方に振り返ると手にした木の枝を横に軽く振るう

 

「なっ!?」

 

何らかの武器を持っていたのか、霊力によって強化された木の枝が何かを弾き飛ばした感覚が伝わってきた。

襲撃した相手は、いきなり自分の武器が弾き飛ばされたことに驚いているようだが、それはこちらも同じだ。

弾き飛ばしたと思っていた武器はしっかりと襲撃者の手にあったこともだが、襲撃者が僕と同じ年代(自分の身体的特徴であって、実年齢ではない)でしかも小柄の女子だったことの方が強かった。

短く着られた紫色の髪の少女は、その姿から子供の巫女であることが伺える。

最初は子供だと鷹をくくりそうになったが、雰囲気はそれを否定するほどに鋭く、甘くかかると痛い目を見ることがすぐに理解できたために、考えをあらためたのだ。

 

「………」

 

僕は無言で手にしていた木の枝を地面に落とした。

中途半端な長さの木の枝は不利な状況に陥りやすくなるからだ。

 

「やぁっ!」

「っ!」

 

一瞬のことだった。

彼女の武器(薙刀)をこちらに振り下ろしたかと思うと、それとほとんど同時にオーラのような物か現れた。

それが危ないものだと本能的に悟った僕は、慌ててサイドステップでその場を離れた。

それから間を置かずに、風切り音が聞こえてきた。

見れば先ほどまで僕が立っていた場所の地面に一筋のへこみがあった。

 

(お、恐ろしい)

 

もしあのオーラをなめていたり、回避が遅れていたりしたらしたら怪我ではすまなかっただろう。

 

「ふっ!」

 

素早い動きで一気に彼女との距離を縮めた僕は、拳を彼女に向けて振り下ろす。

 

「っ!?」

 

(何っ!?)

 

僕は目の前の光景が信じられなかった。

今のは明らかに一撃を相手に与えることができたタイミングのはずだ。

それなのに、彼女は横に転がり込むような感じでそれを躱して見せたのだ。

 

(これは、加減をするなんてできないな)

 

最初は相手は同年代の女子なのだから、多少は加減をするか、などと考えていたのだが今のを見てそれが無理であることを悟った。

でも、相手に怪我をさせるのはいただけない。

ではどうすればいい?

 

(あれしかないか)

 

答えなどもう出ているも同然だった。

 

「せやっ」

「……」

 

今度はこちらの番だと言わんばかりに薙刀を手に迫ってきた彼女に対して、僕は目を閉じると深呼吸をする。

彼女が僕の近くにまで迫ってきたのを感じた。

普通であればこのような状況で目を閉じるというのはあり得ない行為だ。

降参だというふうに相手にとられかねない。

それ以前に自殺行為にも値する。

だが、別のとらえ方をするのであれば、それは集中するための行為であり、大きな一手を打つ準備段階という風にもとらえられるだろう。

僕としてはどちらでもよかったが、できれば前者のようにとらえてほしなと思いながら、意識を集中させる。

片方の足を後ろに動かし、同じく片腕を後ろに動かす。

今度はもう片方の足を軽く前に出して、後ろに動かした足を片方の足よりも前に出す。

打ち出すのは僕がこれまでに習得した中で唯一人間の力だと勘違いされやすいものだ。

その名も

 

「高の月武術、圧っ!!」

 

高の月武術だ。

その中でも、“圧力″エネルギーを纏った片腕を前につきだして相手を吹き飛ばす効果を持っている。

 

「くぅっ!?」

 

僕が吹き飛ばしたのは、彼女ではなく彼女が手にしていた薙刀だ。

相手を吹き飛ばすという防御だけではなく、攻撃にも使えるという利便性の高い技なので重宝している。

 

「チェックメイト」

 

最後に彼女の首筋に手を突きつければ、終わりだ。

 

「不覚っ」

 

彼女も悔しげではあるが大人しく負けを認めてくれたので、僕は突きつけていた手を静かに離すと彼女から数歩後ずさることで離れる。

 

「で、なにゆえにいきなり襲った?」

 

これが普通の模擬戦だったらいいのだが、あいにくとこれはそういうわけではないので、僕は彼女を問い詰める。

 

「ただ者ではない雰囲気を纏っていた故物の怪だと思ってついからだがうごいてしまい」

「ついって……」

 

彼女の言う物の怪が文字通りのことを指しているのかは、それとも別の何かを指しているのかは分からないか、間違って襲われた方はたまったものではない。

だが、彼女の申し訳なさそうな表情はどことなく怒れなくさせるのだ。

 

「まあ、こっちもちょっと手荒いことしてしまったんだし、お互い様と言うことで」

「なんと心の広いお言葉、それがし感服いたしましたぞ」

 

こちらとしては当たり前で無難な事を言ったつもりだったが、どうやら彼女の中では予想以上にそれが良い答え方だったようで、目を輝かしていた。

 

「よければあなたのお名前をお聞かせ願えないでしょうか? それがし、飛鳥井神社の

巫女をつとめている、飛鳥井 紫央と申します」

 

何故か僕の名前を聞いてきたかと思えば、少女は古風な口調で名前を名乗った。

 

(しかし、どうしたものか)

 

相手はしっかりと名前を名乗った。

であるならば、僕もまた名前を名乗るのが礼儀だ。

だが、彼女が黒幕の一味ではないとは言い切れない。

あの女性教師、千軒院先生のようにここの世界にもぐりこんできているのかもしれない。

ありえないとは思いつつも、そういった可能性を考慮しておくことこそが一番重要なのだ。

それはともかくとして、そういった理由で名前を名乗るべきなのか悩んでいるのだ。

 

(名乗るとしても偽名とかだな)

 

ウソの名前を教えるのは少々申し訳ないが、ここは緊急措置ということで許してもらおう。

 

「これはどうもご丁寧に。僕の名前は」

 

そんなどうでもいいことを考えながら、僕は

 

「高月浩介。よろしくどうぞ」

 

名前を言ってしまった。

しかも一番言ってはいけないほうを。

 

「浩介殿ですか。こちらこそ以後お見知りおきを」

 

訂正しようにもできない感じのため、僕が取れる行動は

 

「それじゃ、用があるので、失敬っ」

「あ、待―――――」

 

後で僕を呼び止める声が聞えるが、それに構うことなく僕は階段を半ば飛ぶような形で駆け下りた。

 

 

 

 

 

「どうして……」

 

どれほど走っただろうか。

人気の無い住宅街に出た僕は、足を止めてポツリとつぶやく。

本当は偽名を言うはずだった。

それなのに、僕が口にした名前は一番言ってはいけない名前だったのだ。

 

(敵じゃないみたいだから良いけど)

 

それだけが唯一の救いだ。

なにせ、今後会う可能性は限りなくゼロに近いのだから。

そんな淡い期待を胸に、僕は職場に戻るのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。