【自販機 掲示板前】
――ガコンッ!
「ふぅ………。最初だからか、思ってたよりは疲れなかったかな」
早速始まった雑用の仕事が終わり、自販機でkeyコーヒーを買ってすぐに飲む。
そういやユイは俺と同じ雑用なのに見かけなかったな…。たまたま最後まで見かけなかったか、別のとこでも雑用の仕事があったのかね?
「ん~……。まだ6時も経ってないのか。今から食堂に行くのもなぁ~」
話し相手でも探して暇でも潰すか? …いや、思ってたより疲れなかったとはいえ、疲れてるからあちこち誰かを探し回るのは嫌だな。だとすれば………。
「…屋上でも行ってみるか?」
――――――――――――
【屋上】
「おぉ~~、見晴らしがいいなぁおい! 夕日がめっちゃ綺麗だよ!!」
今の時間帯は夕日が出ており、風もいい感じの弱さで気持ちがいい。
こりゃ中々いい場所じゃね?あまり人は来なさそうで静かそうだし、ボーッとするだけでも暇がつぶせそうだし。何ヶ月この学園にいたけど、屋上は一回も行ったことがなかったからな。ただ淡々と学園生活を過ごしてただけだからあまりウロウロと他の場所に行こうって意欲が沸かなかったから。
「…おっ、人がいっぱいいるな。屋上からだからよく見える良く見える」
部活に励んでいるもの、友達と寮へ帰るもの、部活の風景をベンチに座って見てるものと、様々だ。こんな光景を見てたら誰もここが死後の世界だなんて思わないだろう。
まあ、一度自分が死ぬ体験をすれば嫌でもここが死後の世界だと気づくが。
「そういう意味では椎名さんに感謝………していいのかこれ…? いや、しちゃ…いけないな、うん…」
いかんいかん、何で俺は俺を殺した人に感謝しなくちゃいけないんだよ。俺は決してマゾではない、絶対にだ。
「……ん?」
屋上からボーッと下の光景を見ていると、もの凄い速さで走っている人がいる。
しかもその人は俺がこの世界で初めて殺された人だ。
「…一体何があったんだろう……」
あちこちを見回しながら走っている。
何かを探しているのか?それともあれも修行なのか?
「……とりあえず、下に降りてみよう」
下に降りても椎名さんはいないと思うけど、とりあえず下に降りよう。
知らないままにするより知った方がいいしな。
「ん~………、当たり前だけどやっぱいないな…」
下まで降りて外に出たのだが椎名さんの姿は影も形もなかった。
普段椎名さんがいそうな場所って何処だろう?
昨日は体育倉庫にいたけど、まさか普段あそこにいる訳はないよなぁ…。
……まあでも、可能性はなくはないから行ってみるかな。他に椎名さんがいそうな場所なんて見当つかないし。
――――――――――――
【体育倉庫】
体育倉庫のドアを開け、誰かいないかを確認すると奥から何やら物音がする。
もしかして椎名さんがいるのかと思い、そろりそろりと物音がする方にいくと。
「……ここにもない…」
と、何やら絶望しきった顔をしてる椎名さんがいた。
あんな表情をするなんてよっぽどの事があったのか…? とりあえず聞いてみない事には何も始まらないし、聞いてみよう。
「し、椎名さ~ん……。どうしたんですかぁ…?」
「!!?」
俺はなるべく柔らかい声で椎名さんに話しかけると、椎名さんは俺の声に気づくとビクッ!と反応し、もの凄い勢いでこちらに振り向く。
「な……何用だ………」
「いや…用があるというか何というか……。あちこち見回しながら走ってるのを見てさ、何かあったのかな~って思って椎名さんを探したんだ」
「…………」
「ほ、ほら! 昨日『同じ戦線の仲間なんだから仲良くやろうぜ?』って言ったじゃん? 仲間なんだからさ、何か困った事とかがあったら相談……というか……助け合うっていうか何ていうか……」
何かいい事を言おうと口走ったのはいいが、途中でどう言えばいいのかがわからなくなって言葉が詰まってしまう。肝心なとこで言葉を詰まらせるとか台無しすぎだろ……。
「…ないんだ………!」
「え……?」
「子犬のぬいぐるみがないんだ……!」
「ぬ、ぬいぐる………み…?」
「私の大事な物なんだ……」
「……………」
椎名さんの口から予想外な言葉が出てきて、俺は唖然とする。
いや、だって………ぬいぐるみだぞ? ぬいぐるみ。しかも椎名さんが、だ。
ゆりだったら『ぬいぐるみ? あんなの、「これをサンドバッグに使ってください♪」って言ってるようなもんでしょ?』って言いそうなのに、椎名さんは“大事な物”と言った。
……いやいや待て、もしかしたら“修行の時に使う大事な物”なのかもしれない。
修行をしてる椎名さんだ、そういう意味での“大事な物”なら充分に有り得る……って、今はそんな事を考えてる場合じゃない。
「わ、わかった……。俺も探すの手伝うよ。それで、椎名さんは何処ら辺まで探した?」
どんな意味での“大事な物”であれ、大事な事に変わりはない。
それに、事情を知った以上、放っておく訳にもいかない。
「……子犬を失くしたのは私が不覚だったからだ、お前は手伝わなくても構わない…」
「事情を知っちゃったら余計に手伝わない訳にはいかないよ。こうやって助け合うのも仲間じゃんさ」
暫く沈黙した後、椎名さんはゆっくりと口を開き
「…………わかった。すまない…」
と答えた。どうやら手伝ってもいいようだ。
これでもしまた断られたら流石に何も言えなかったよ……。
その後、何処まで探したのかを聞き、どんな感じのぬいぐるみなのかも聞くと、椎名さんは何処からだしたのか、ペンと紙を取り出して子犬の絵を描いてくれた。
描いてくれた子犬の絵を受け取り、俺と椎名さんは二手に分かれてそれぞれまだ探していないところへと行く事になった。
時間になったらまたこの場所に戻る事にすると決め、子犬のぬいぐるみを探しに向かった。
片っ端からいろんなところへと行ったのだが、ぬいぐるみは見つからず、ただただ時間は経っていくばかりになり、外もどんどん暗くなっていく。
「あぁ~……全く…何処だよぬいぐるみぃ……」
俺は今、生徒会室前のところにトボトボと歩いており、何時間探しても見つからないぬいぐるみをまだ探し求めている。
「外もすっかり暗くなってるし、こりゃあ次の日に出直し………」
――ガラッ
俺の言葉を遮るかのように生徒会室のドアがガラリと開く音がし、そのドアを開けた人は
「…岡野くん、何をしているの?」
「た、立華……さん…?」
この学園の生徒会長であり、死んだ世界戦線の敵でもある天使こと、立華奏の姿があった。
しかも立華さんが何かを抱きかかえており、その抱きかかえてる物は………!
「ああぁぁぁッッ!!!? そ、そのぬいぐるみはッ!!」
そう、椎名さんが描いてくれた子犬の絵と完全に同じだったのだ。
「うるさいぞッ! 喋るのならもっと静かにしろ!!」
「あっ、ごめんなさい………」
声がかなり響いたのか、生徒会室のドアが開き、生徒会副会長の直井から注意を喰らった。
俺が謝ると副会長は全く……、とボヤき、ドアをピシャリと閉めた。
「……このぬいぐるみがどうかしたの?」
「あ、あぁ~…そうだったそうだった。立華さん、そのぬいぐるみ何処で拾ったの?」
どうして立華さんが椎名さんのぬいぐるみを持っているのかが気になり、何処で拾ったのかを尋ねる。
「校庭に落ちてたわ」
「何時頃に見つけた?」
「5時間目の授業の時よ。窓から外を眺めてた時に子犬のぬいぐるみを見つけて、5時間目が終わってすぐに取りに行ったの」
「その子犬のぬいぐるみを持って何処に行こうとしたの?」
「ぬいぐるみの持ち主を探そうと…」
「何で今……? もっと早く探せたんじゃないの?」
「今日は生徒会の会議があったから……」
「だったら今から探さないで明日放送を使って呼べばいいじゃん……」
「……それもそうね」
こ……この人……天然なのか……? それともただアホなだけか……?
というかまたかよ! この淡々とした会話!! 面白みが……なくてもいいや別に…。
「…実はその子犬のぬいぐるみ、俺の友達のなんだ。良ければ俺に渡してくれるかな? 俺とその友達は手分けしてそのぬいぐるみを探してたんだ」
「そうなの? それなら……はい」
「え…? そんな簡単にいいの!?」
立華さんは何のためらいもなく俺に子犬のぬいぐるみを渡すので俺は思わずツッコむ
「……いけないの?」
「あ……いや…、いけなくはないんだけど……。普通は怪しむんじゃない? そのぬいぐるみが本当に俺の友達のだっていう確証はない訳だし…」
「……違うの?」
「ち、違くはないよ! それは本当に俺の友達のぬいぐるみで……」
「それならどうぞ」
「…………」
完全に立華さんのペースだ。この人は人を疑うって事はしないのか……?何かよくわからないけど俺がアホに見えるよ…。
せっかく子犬のぬいぐるみを俺に渡そうとしてくれてるんだし、素直に受け取るのが吉だな。
「じ、じゃあ……受け取ります…。…ありがとう立華さん」
「どういたしまして」
俺は立華さんからぬいぐるみを受け取り、立華さんは律儀にどういたしましてと言ってくれた。
しかし、全く表情が変わらないなぁホント。ユイとは大違いだ。
「それじゃあ、私はこれで」
「あ、うん…。じゃあね立華さん」
立華さんと別れ、椎名さんのぬいぐるみを手に入れ、まだ約束の時間ではないが体育倉庫へと行き、椎名さんの帰りを待つことにする。
「うぅ~む……。特に目立った傷がないな」
子犬のぬいぐるみをよく見ていなかったし、まだ時間もあるのでぬいぐるみのあちこちを見ている。特に傷とかはなく、立華さんが払ってくれたのか、汚れもないみたいだ。
子犬の背中側を見ると、何やらネジのような物がある。回すと何が起こるのか少し気になり、4~5回くらいネジを回し、床に置いてみると子犬が動いた。こいつ、動くぞ……。
「このぬいぐるみ、誰が作ったんだろうな…。戦線の中に裁縫が得意な人なんかいるのか?」
俺が知り合ってるメンバーで裁縫ができそうな人……か…。
ゆり…はできるっていうイメージすら沸かないし、男メンバーは論外。岩沢さんは……音楽キチみたいだし、ひさ子さんは何か不器用に見せて何かできそうっていう感じがするな。
関根さんはそもそも興味がなさそうだけど、入江さんは裁縫ができそうってイメージがあるなぁ。ユイは絶望的な気がする。
まあ、あくまで俺の勝手な想像なんだけど……。
子犬のぬいぐるみがあちこち動くのをじっと眺めていると外から足音が聞こえ、どんどん大きくなっている事から、ここへ近づいているのがわかる。
「……見つかったか?」
その足音の正体は言うまでもなく椎名さんで、閉めずに開けっ放しにしていた体育倉庫の入り口の前に立っている。
ちょうど椎名さんが来たと同時にぬいぐるみの動きは止まり、子犬のぬいぐるみを取り、椎名さんに見えるように見せると
「そ…………」
「そ?」
「それだぁぁ!!」
「うぉっ!!?」
目にも見えないスピードでこちらに向かい、子犬のぬいぐるみを素早く取る。
表情を変えず、クールな雰囲気を出している椎名さんが満面の笑みでぬいぐるみを愛らしくぎゅう、っと抱きしめている。どうやら純粋に“大事な物”だったみたいだ。
「だ、大事な物が見つかってよかったね…。じゃあ、俺はこれで」
「…待て」
何時までもここにいるのも悪い気がするのでそっと去ろうとしたのだが、椎名さんに呼び止められしまう。
「……お前には借りを作ってしまった」
「いや、借りって……。別に借りを作らせたり見返りが欲しくてやった訳じゃないから気にしなくていいよ」
「…それでは私の気が済まない。お前が何て言おうが借りは返す」
「そ、そうですか……」
そこまで借りを作らせたくないんですかあなたは。
……本人がここまで言うのならこれ以上は何も言わないけど…。
「……それと、この事は誰にも言うな」
断る理由もないし、椎名さんからすれば今日の事はあまり皆に知られたくないんだろうな。
なのでコクリと頷いてわかった、と言った。
「じゃあ、今度こそ俺はこれで……」
「待て」
今度こそ帰ろうかと思ったのだが再び椎名さんに呼び止められる。次は何なんだ?
「…まだ礼を言っていない。借りを作ったとはいえ、礼を言わないと失礼だからな。なので言わせてもらう…………ありがとう…」
真っ正面から礼を言うのが恥ずかしいのか、最後のありがとう、の声が小さいが、聞き取れるレベルなので俺の耳はちゃんと椎名さんのお礼の言葉は聞こえた。
ここでもし『ん? 何か言ったか?』って言う奴は相当最低な野郎だと俺は思うよ。
「どういたしまして。もしまた何かあったら遠慮しないで言ってよ。そんじゃあお休み!」
俺は最後にお休みと言って体育倉庫を出て行く。
何か流れ的にお休みって言っちゃったけどまだ晩飯食ってないから食堂に行かないと…。そこで椎名さんとまた会ったら気まずくなりそうだな……。
(早く行って早く食べるか…)
その後は食堂に行って飯を食べ、寮に戻って歯磨いて風呂に入りすぐに寝た。
椎名さんと食堂とかでハチ合わせになんなくてよかったよかった…。
以上、第8話でした。
ぶっちゃけ椎名回でもありますねコレ(笑)
いやぁ~…あれですね。
一人称視点だけじゃなくて三人称視点もいれたいですね。
でも難しいんですよね~……。
何といいますか、説明するのが大変ですし上手く説明できるのかも不安です。
でもいずれは三人称視点をやりたいです。その時は文章の指摘をできればお願いします。
あ、もちろん今の文章の指摘もできればお願いします。