気づいたら知らない学園にいました   作:椎名

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主人公紹介は活動報告にあります。


6話 立華奏

【校長室】

 

「……生き返った…のか…?」

 

目を覚ますと、どうやら俺は校長室のソファーのところで寝ていたみたいだ。

流石に血だらけの制服はゆり達が処分したのか、今俺は上半身が裸であり、毛布が被さってある。

 

「……皆、何処にいったんだ?」

 

腕時計を確認するが、8時はとっくに経っており、10時になる頃だ。

なのに誰もいない。

 

――ガチャ

 

「目が覚めたようですね」

 

開いたドアから女の人が現れる。金髪のツインテールの少女、遊佐さんだ。

 

「遊佐…さん?」

 

「一昨日ぶりですね、岡野さん。コーヒーです」

 

遊佐さんは制服のポケットからコーヒーの缶を取り出し、それを俺に渡してくれ、俺はそのコーヒーの缶を受け取る。

 

「あ、どうも……って、あのでかいハンマーは?」

 

そう、ドアを開けようとしたら巨大なハンマーが振ってくるはずだ。

なのに振って来る気配はないみたいだ。

…あ、遊佐さんから貰ったこのコーヒー上手いな。えっと名前は……keyコーヒーっていうのか。

 

「合言葉を言えば何も起こりませんよ。あれは天使対策のトラップですから」

 

「天使対策の……トラップ? 合…言葉?」

 

合言葉なんて聞いてないんですけど…。

ていうか、そこまで徹底をしてるとはな……。

 

「そ、それより他のみんなは!? 何で誰もいないんだよ?」

 

「ゆりっぺさん達はテストを受けに行ってますよ」

 

「…………何でテスト?」

 

まともに授業とかを受けたら消えるって言ってたのに何でテストなんて受けてるんだ…?

 

「何でも、天使を陥れるためにテスト0点にさせる作戦とか……戻ってきたみたいですね」

 

廊下からガヤガヤと声が聞こえる。ゆり達が帰ってきたんだろう。ドアからゾロゾロとみんながやってくる。

何人かは知らない人がいるな。あと、日向達が死んだ俺をここまで運んでくれたとか。

後でまた日向に礼を言わないとな。

 

「あら、岡野くん。目を覚ましたみたいね。気分はどう?」

 

「最悪な気分だよ……」

 

ゆりの問いに俺は低い声で即答をする。

トラップに吹き飛ばされるわ椎名さんに殺されるわ…。最悪な1日な気がする

 

「それより! 何で合言葉を教えてくれなかったんだよッ!! 入隊したら普通合言葉を先に教えるんじゃないのか!? 普通!!」

 

「そんな事より高松くん、一昨日から始めた作戦の結果を報告して頂戴」

 

え? 無視?

 

「今回の作戦はテストで天使を0点に陥れるために可能な限り沢山のメンバーを連れ、天使と同じ教室でテストを受けました」

 

「はい質問」

 

「解答用紙を回収する時に戦線の誰かが騒ぎ、全員の注目を浴びてる隙に天使の解答用紙ともう一つの解答用紙をすり替える作戦で、初日は順調に進んでいました」

 

また無視かよ。

つうか一昨日のテストん時に隣のクラスで騒いでたのお前らだったのか!!

 

「はいッ! 質問!!!」

 

「しかし、次の日は騒ぎすぎてしまったのか、生徒会に包囲され、為す術もなく捕まってしまいました。そして今日、テストを受けにいったところ、我々はそれぞれの教室でテストを受けるハメになってしまい、作戦は失敗に終わりました」

 

あ、昨日反省室に連れられたのはゆりだけじゃなかったんだ。

 

「そう、今回の作戦は騒ぎすぎたのが失敗だったの。他にも何かこれが失敗だったというのはある?」

 

「ゆりさーん! 質問があるんですけど!!」

 

「人数が多すぎたってのもあるんじゃねぇか?」

 

「そうね、藤巻くんの言う通りだわ…。次は6~7人ぐらいがいいのかもしれないわね」

 

「ゆりっぺさん! いもっぺさん!! 質問があ…」

 

「フンスッ!!」

 

「ぶぇら!!?」

 

いもっぺと言われて反応したのか、何処からかサッカーボールを出し、俺の顔面目掛けて投げ、見事にヒットし、俺は変な奇声を上げた。

 

「何よ、うるさいわね! もう少し静かに言いなさいよ!!!」

 

「さっきから手を上げて質問って言ってたよね!!? 何で俺が悪い感じになってるの!?」

 

「貴様ァァァ!!!! ゆりっぺを侮辱する気かァァァァァァ!!!!」

 

野田は俺の前に現れ、俺の首元にハルバートを突きつけてくる。

 

「してねぇよッ!! あなた話聞いてました!!?」

 

「くぅおぉぉぉらあぁぁぁぁ!!! 静かにせんかぁぁぁ!!!!!」

 

「ゆりっぺさん、うるさいです」

 

ゆりが部屋に響くぐらいの大声で叫び、遊佐さんは冷静にうるさいとツッコミを入れている。

もうヤダこいつら……。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「それで、質問があるんだけど…」

 

「何?」

 

ようやくゆりに質問する事ができた…。

野田はハルバートを振り回して暴れようとするし、暴れようとする野田を松下五段と藤巻とTKって言う人が止める事になるし。

騒ぎ出すゆりを日向と大山と高松って人が宥める事になるし。

椎名さんはあさはかなりしか言ってなかったし。

遊佐さんはノンビリとkeyコーヒーを飲んでたし。俺も飲んでたけど……。

 

「何でテストで天使を0点にさせようとしたんだ?」

 

「岡野くんは彼女が生徒会長だというのは知ってるわよね?」

 

そりゃあもちろん

 

「全教科の点数を0点にさせる事で生徒会長の座から降ろさせるの」

 

「降ろさせる事で…何か変わるのか?」

 

「さぁ? どうなるかはあたしも読めないわ。ただ、わかる事といったら今までとは違う変化が起きる事ぐらいね。今までは生徒会長という名目で私達と衝突をしていたけど、ただの一般生徒へと成り下がった時、彼女はどんな行動を取るのか見ものだわ」

 

……酷い作戦だ。大人数で一人の少女を陥れようとするなんて。銃弾を弾く謎の力を持っているけど、そこまでする必要はあるのだろうか?

それに、他のメンバー達は生徒会長は天使だって事を何も疑っていない。

あの変な能力を使っているからか?

 

「何か他に質問ある?」

 

「あ、いや……特にないと思う…」

 

「? わかったわ。じゃあ、今日でテストは終わりみたいだし、昼前だけど解散!」

 

パンッと手を叩き、解散の合図をするゆり。みんなは昼食を食べに食堂へと向かう。日向や高松に一緒に食べないかと誘われたか断った。誘われるのは嬉しいが今日は一人で食べたい気分だ。

その時にTKと高松とはお互い自己紹介しあった。TKは謎の多い奴で、高松は知的に見えるが実はバカだとか。

ゆりから新しい制服…もとい戦線の制服を貰い、合言葉は『神も仏も天使もなし』と、今度はちゃんと教えて貰った。

解散するまで寝てる時に被さってあった毛布で隠してたとはいえずっと上半身裸だったから助かる。

それと日向は昨日合言葉を教えなくて悪いと謝ってきた。

今度オムライス奢ってくれたら許すと言ったら特盛り以上は勘弁してくれと言われた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

【学園大食堂内部】

 

一人で静かに食べたいので、食堂にいる生徒が少なくなるまで校長室でボーッとしてた。そして今は食堂でオムライスを食べようとしたのだが

 

「座っていいかしら?」

 

「え?」

 

天使こと、生徒会長の立華かなでが俺の向かい側の席に座った。まだいいよと言ってないのに…。まあ、構わないんですけどね。

 

「あ、それって…」

 

生徒会長が食べているのは麻婆豆腐だ。辛すぎて殆どの人が食べないと言われてるメニューだ。色だけも辛そうに見えるよなこれ。

 

「麻婆豆腐だけど。…好きなの?」

 

「あ、いや…、食べた事ないな。かなり辛いって聞くし」

 

「みんなが言う程辛くないと思うけど…」

 

「へ、へぇ…。そうなんだ。」

 

とても辛くなさそうには見えないんですけど……。

辛い物が好きなのか…?

 

「そういえば、昼食べるの遅いんだな生徒会長。なんか用事でもあったの?」

 

とりあえず何か話題を出してみる事にした。

こうやって天使と話す機会なんてないだろうし、今の内に何かと話をしてみよう。

俺はゆり達とは違って彼女を敵として見ていないし。

 

「…えぇ、色々と」

 

「色々?」

 

「そう、色々と」

 

「その色々を詳しく聞きたいんだけど…」

 

「そうなの?」

 

「そう」

 

「わかった」

 

何だろう、この淡々とした会話は……。

 

「…それで、何をやってたの?」

 

「初日のテストの解答について先生と話していたわ」

 

「初日のテスト?」

 

あ、もしかしてゆり達の……

 

「うん。解答が白紙で名前が天使ってなってたの」

 

なるほど、あいつらはアホの集まりだったのか。それが今わかったわ。

…だって、流石に天使はないだろ? 天使は……。

その気になれば生徒会長の名前なんて簡単に調べられるだろ。

 

「…結局どうなったの? テストの解答」

 

「誰かのイタズラという事で、明日再テストをする事になったわ」

 

「そうなのか…。大変だな」

 

せっかくテストの問題を解答したのに、ゆり達の妨害の所為でまたやらないといけないなんてな……。

でも、0点にならなかったのが不幸中の幸いかな?

 

「仕方ないわ。それに、ちゃんと授業を受けているし、何度も復習もしてるから大丈夫」

 

凄いな、何度も復習してるなんて……。

テスト前しか勉強してなかった俺とは大違いだな。流石は生徒会長。

 

「…そっか。じゃあ、明日テスト頑張れよ。そんだけ勉強をしてれば絶対良い点取れるさ」

 

「うん。ありがとう」

 

こんな普通に会話をしてる限り、彼女が敵だなんて到底思えないな…。

一応敵でもある俺の向かい側の席に座ったり、俺の言葉にありがとうってちゃんと言ってくれた。

そりゃあ、変な能力を持っているけど、とてもいい娘じゃないか。

 

「じゃあ、俺はこれで…」

 

オムライスを食い終えた俺は席から立ち上がる。さて、いつまでも話してる訳にもいかないし、ここらで話を終わらせてさっさと片付け……

 

「待って」

 

「ん?」

 

……ようとしたのだが、生徒会長に呼び止められたので俺は立ち止まり、振り向く。

 

「…あなたの名前は?」

 

「俺の名前?」

 

意外すぎる。まさかあっちから名前を聞いてくるなんて……。

まあ、せっかく名前を聞かれたんだし名乗っとこう

 

「…岡野弘樹。君は?」

 

まあ、知ってるんだけどね。でもこの場の流れ的に知らないフリをでもしておこう。

 

「……立華奏」

 

「立華さん…ね。じゃあ、今度こそ俺はこれで」

 

「うん。ありがとう、岡野くん…」

 

ありがとう? 何でありがとうなんて言ったんだろう。話してくれたからか? ……まあいいか。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「そういや、俺は戦線で何をやるんだろう…?」

 

飯を食い終え、一人男子寮へ帰ってる時に、ふとこれからどうなるのかという事が頭に浮かんだ。

戦いたくないとは言ったけど、そう言ったからって戦わないという訳にもいかないかもしれない。

 

(銃なんて物騒なモン、使いたくないし…)

 

……戦わないで済む事を祈るしかないなぁ…。




以上、第7話でした。

高松とTKが現れたが、何一つ喋ってないTK。
TKェ………。

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