【男子寮 岡野弘樹の寮室】
「………」
ふと目を覚ます。今何時か、近くに置いてある目覚まし時計を見て確認すると
「…6時頃か」
確か日向が言うには8時に集合と言ってたな。2度寝したら9時過ぎてしまうかもしれないし、起きとこう。
「………川の方に行ってみようかな…」
あそこは校則違反で行ってはいけなかったが、もう授業を受ける気がないし、別に問題ないだろ。
それに、あそこは静かそうだし、早速行くか~。
――――――――――――
【河原】
――サアアァァァ……
川の水は静かに流れていく音が聞こえ、その流れる音が何とも心地良い。
周りは誰もおらず、俺しかいないから川の音が良く聞こえる。
「ん~~……! 来て良かったな~~。やっぱこういう静かな場所は最高だね」
水の音を聞きながら上機嫌に川に沿って歩いていると、少し遠くに誰かがいる。あのくの一のような格好をしてる人は確か…
「……!」
俺の気配に気づいたのか、くの一の少女がこちらに振り向く。
青がかった長い髪に赤に近い瞳。そして長い襟巻きをしており手甲と足甲を付けている。ゆり達とは違い、露出度が高い服に改造してあるみたいだ。
……ちょっと目のやり場に困りそうかも…。
まあ、お互いに目があったので俺は流石にUターンする気にはなれず、くの一の少女の元へと向かい、彼女の近くにまで来た。
「何奴…」
えっと……確か椎名…だっけ? 椎名さんが俺に何者なのか聞いてくる。
「あ、どうも…。昨日戦線に入る事となった新入りの岡野弘樹です」
ここはとりあえず素直に自己紹介をし、頭をペコリと下げる。
「…新入り?制服はNPCと同じ物のようだが」
「昨日渡されてなくて…。日向が言うには今日渡してくれるって言ってたんだ」
「……そうか」
戦線の制服ではなく、模範生の制服を着ている俺に椎名さんは疑問を抱いたので、戦線の制服を着ていない理由を簡単に説明すると、椎名さんはあっさりと納得した。
「ところで椎名さんはここで何してるの? ゆりから聞いた話だと修行しに行ったって…」
「ここで修行をしていた。…何故私の名を知っている?」
おっと、いきなり知らない人に名前を言われちゃそりゃ疑問に思うよな。俺はすぐさまこれもゆりから聞いたというと、再び納得してくれた。
意外と素直に納得してくれるのは助かるな。
……しかし、ここで修行してたんだ…。何の修行をしていたのか気になるけど、そこは触れない方がいいだろうな。
というか、ここなら戦線の誰かしらは見つけそうだけどなぁ…。誰もこの近くを通らなかったのか?
「お前は何しにここに来た?」
「たまたま早く起きたから散歩してたんだ。今日は校長室のとこに9時集合って聞いたからそれまでの暇を潰すためにね」
「……そうか、ならちょうど良い」
ちょうど良いって、何がですか…?
「貴様がどのくらい出来るのか、試してやろう…」
………もの凄く嫌な予感しかしないが一応聞いてみよう。
「た、試すって……何をですか…?」
「決まっている。貴様の…実力をだ…!」
どうしてそうなるんですか!!?しかもめちゃくちゃ速くこっちに来るし!!もう何が何だかわからな………
―――ドシュ!!
――――――――――――
「………ハッ!!?」
ガバッと音がするぐらい勢いよく起き上がる。何で自分はこんなところに寝ていたんだろう…ん?何か液体みたいのに触ったぞ?
何を触ったのか確認するため下を見ると
「………血…!?」
俺が倒れていた場所には大量の血があり、着ている制服は黒いが、制服も血だらけになっている事に気づいた。
「な、何で!? 何で血がこんなに…!! よく見れば制服も血だらけだし……!」
血で汚れてる制服を見ていると、左胸側に細い穴が空いており、そこの周りから血が広がったようになっている。
「何で穴が空いて……そういえば椎名さんは!?」
辺りをキョロキョロと見渡す。しかし、彼女の姿は見あたらない。さっきまで話していたはずなのに……。
どのくらい時間が経ったのか腕時計を見ると
「7時半過ぎ!!? 椎名さんを見かけた時は6時40~50分頃だったんだぞ!?」
もしかして壊れたのか? それなら納得はいくんだけど…高い場所から落ちでも無傷で済む腕時計だからそれはないだろうし……。
「と、とにかく! 学園の方に戻ろう。そこで時計を見れば時間が経っているか経っていないかわかるはず!」
俺は急いで学園へと戻った。
――――――――――――
【学園 グラウンド付近】
「ハァ…ハァ…、7時42分……間違いない…」
やはり河原で1時間以上気を失って……違う、死んでいたんだ。
俺を殺したのは間違いなく椎名さんだ。
野田が死んで生き返った時は半分は信じたが半分はまだ疑っていた。
もしかしたらみんなグルで俺を騙そうとしたんじゃないかと思っていたが、今回ばかりは信じるしかないみたいだ。
…ここが、死後の世界だという事を……
「……校長室に行こう。今は、そうしよう…」
正直、ショックだ。ここが死後の世界という事は、自分は死んだという事なのだから。
しかも死因がわからない上、自分の名前以外の記憶は何もない。あるのはこの学園をある程度過ごした記憶だけ……。
記憶を取り戻したいが、同時に思い出したくない。
死んでしまったくらいなのだから思い出したくない記憶もあるのかもしれない。
だからといって、何も思い出せないのも嫌だ。そんな二つの思いが浮かび上がってしまう
――――――――――――
【校長室前】
「…あっ」
考え事をしながら歩いていたらいつの間にか校長室の前に着いていた。
時間は……54分…うん、時間前には辿り着いたみたいだ。椎名さんもいるのだと思うと少し抵抗が……。
仮にも自分を殺した人だからなぁ…どういう顔をすればいいんだか…。
制服は血だらけになってるけど、このまま入るか。
「ハァ……」
ため息をつき、ドアに手を掛け、開けようとすると横から何かが迫ってくるのに気づく。
「―――――ッ!?」
振り向くとそれは昨日、野田を吹っ飛ばした巨大ハンマーだった。
当然避ける事はできず、そのまま窓ガラスを破って外まで華麗に吹っ飛ぶ。
あんなデカイハンマーにぶち当たったからか、ロクな思考ができず、頭の中がグチャグチャな感じになっており、真っ白になっている。
唯一わかるとしたら自分の身体全体に激痛が走ってるのと、頭からどんどん下へと落ちていってる事だけだ。
―――ゴブシャッ!!!
頭からもの凄い痛みが来て、その痛みを味わったと同時に俺の意識はそこで途切れた。
椎名さんに心臓一突きされ、巨大ハンマーに吹っ飛ばされて頭から落ちて死ぬ。何という死に方でしょう。
それではまた次回!