俺が戦線に入隊する事が決まった後、今日は特にやる事がないので各自解散となった。
腹が減ったし、ささっと食堂に行くかな~。
「岡野~!」
日向が俺の方へ小走りで向かって来ている。何か用でもあるのだろうか?
「ん? 何か用か?」
「つれないなぁ~、せっかく仲間になったんだから一緒に飯食おうぜ?」
「…いいのか?」
「当ったり前よ。一人で飯食うなんて寂しいじゃねえか。そんじゃ行こうぜ」
日向は俺を連れ、食堂へと向かう。
……そういえば誰かと飯食いに行くなんて初めてじゃないか?
――――――――――――
【学園大食堂内部】
「さーて、何食べっかな~」
日向はポケットからいくつかの食券を取り出す。
カレーに肉うどんにカツ丼……沢山あるな。
「かなり持ってるな。そんなに持ってて金大丈夫なのかよ?」
「ああ、これはオペレーション・トルネードでとった食券だよ」
またオペレーション・トルネードって奴か……。
「気になってたけどそのオペレーション・トルネードって何なんだ?」
「あぁ、そういや説明してなかったな」
日向が言うには食券を巻き上げる作戦だと言っている。陽動班のガルデモが食堂でライブをやり、かなり盛り上がったら大きな扇風機みたいのを回して一般生徒…もといNPC達の食券を外まで巻き上げるという作戦だ。
しかし、ライブをしていたら生徒会長…天使が止めに来るらしい。
だからライブを中断させられないよう、戦うメンバーが昨日の夜みたいに銃撃戦をして足止めしていたようだ。
何でも天使には特殊な力があるようで、昨日みたいに弾を弾く能力があれば腕から刃が出るなど、とても天使とは思えない能力ばかりを備えているらしい。
「生徒会長って人間やめてたんだ。初めて知ったよ俺…」
「まあ、天使だから人間やめてるわな~。よし、今日はカレーにすっか。おばちゃん! カレーお願い!!」
「あ、俺はオムライスのギガで」
俺と日向はそれぞれ頼んだ品の食券を渡す。
「あいよ! ちょっと待ってな」
「なあ、さっき言ったギガって何だ?」
「オムライスのサイズだよ。普通、大盛、特盛り、メガ盛り、ギガ盛りまであるんだ」
「そんなにあるのか!!?」
寧ろ知らなかったのかよ?俺より死後の世界にいるのに。
「はいお待ち! カレーとオムライスのギカだよ」
俺と日向が適当に駄弁ってると、食堂のおばちゃんがすぐさま俺らが頼んだメニューを持ってきた。
日向のトレーにはカレー、俺のトレーにはオムライスが乗る。
「で…でか過ぎじゃねぇか? それ……」
「今日は腹が減ってるからね~。昼飯食ってないし」
俺と日向は空いてる席へ行き、そこへと座り、食べ始める。
ちなみに何で自分で食券を買わず、わざわざオペレーション・トルネードという回りくどい方法をやっているのか聞くと、これも天使に反抗するための作戦らしい。
飯を食ってて幸せと感じただけでも消えてしまうとか…。
それ嘘だろ? だったら俺は何百回消えてんだよ。
オムライスを食ってる瞬間程の幸せはないってのに。
【Side―日向秀樹】
しっかし、凄い量だなぁ…。もうオムライスのサイズが凄く大きい。もう大きいとしか言えないぐらいだ。
何人前あるのか聞いてみると8人前はあると言ってる。
岡野は美味しそうにバクバクと食べている。あいつのオムライスを見てビックリしてるNPCまでいやがるよ。
あんな幸せそうに食ってるのを見てると、今にも消えちまうんじゃないかって思っちまうぜ……。
「日向、手が止まってるぞ、食べないのか?」
「え? あ、ああ。食べるって」
俺は慌ててカレーを食べ始める。
お前の所為で手が止まっていたとは流石にいえない。
「うわぁ! みゆきち! 凄い量だねアレ!! あんなおっきいオムライス見るの初めてだよ私!!」
「し、しおりん…。少し声のトーン落として…大きいよぉ……」
「関根、騒ぎすぎだぞ…って、何あれ? オムライス…?」
岡野のオムライスを見てはしゃいでいるのが関根。
はしゃいでる関根を見て少しオドオドしているのが入江ちゃん。
関根に注意しようと思ったら岡野のオムライスを見て驚愕しているのがひさ子だ。
この三人も岩沢と同じ、“Girls Dead Monster”のメンバーだ。
「よう、お疲れ。練習終わったのか?」
俺はひとまず3人にお疲れと声を掛ける
「あ、日向いたのか」
「全然気づきませんでした~」
「いたよ!!最初からいたからな!!?」
せっかくお疲れとあいさつしたのに何でこんな扱い酷いの!!?
こんなの絶対おかしいよッ!!!
「わ、私は気づいてましたよ~…」
ホント、入江ちゃんはいい娘だよなぁ~……。他の二人はあんな事を言ってたのにこの娘だけは………ヤベッ、思わず涙がでそうだ…。
「まあ、それはどうでもいいとして…、もしかして岩沢が言ってた新入りって…」
俺のツッコミはどうでもいいですか、そうですか…。
もうこういう事にはゆりっぺで十分に慣れたさ……。
「そう、今馬鹿デケェオムライスを食ってるのが今日入った新入りだよ」
岡野の方に指差して言う。本人は二人と話してるみたいだ。
…って、もう半分食い終えてるし!!?
【Side―岡野弘樹】
「ねぇねぇ! 隣いい?」
「ん?」
声を掛けられたので振り向くと、隣には金髪でアホ毛が上にミョ~ンと一本生えてる娘がおり、さらにその隣には紫の髪の大人しそうな娘がいる。
俺の返事を待たず、金髪アホ毛の娘は普通に俺の右隣に座り、紫髪の娘は金髪アホ毛の娘の隣に座る。
日向の方には茶髪の短いポニーテールをした人が座って何か話してるな。この三人、見た事あるなぁ……。
「………あ、確かガルデモの…」
「おっ? 私達を知ってるのかい? ボーイ」
金髪アホ毛の娘はアホ毛と長い髪をピョンピョンと躍らせながら自分達を知っているのかを聞いてくる。
やっぱりガルデモの人だったんだ。てかボーイって…。
ここは場の空気的に名前を当てないとな。
「関沼さんと……入沼さんだっけ? 日向の方に座ってる人はひさ沼さんかな?」
二人はガックリとして、ひさ沼さんはズルッとこける。
あれ?また間違えた?
「沼じゃないよ! 私は関根だよ! そしてこの娘は入江!」
あ、そうだ。関根と入江だ。思い出した思い出した
「あたしはひさ子だ! ひさ沼って誰だよ!!」
「キャー! ひさ沼さ~ん♪」
「よし関根、覚悟はできてるな」
「あはは…冗談ですってぇ~…。だから首締めだけは……ぐるじいでず…ッ」
関根さんはひさ子さんに思い切り首を締められているのか、顔の色が青くなっている。これはひどい
「…止めなくて大丈夫なの? アレ……」
関根さんの隣の席にいた入江さんの方へ顔を向け、関根さんとひさ子さんに指差しながら止めなくていいのか聞くと
「あ、あはは…。いつもの事だから……」
と、入江さんは苦笑いしながら答える。苦労してるんだろうな、この人。
再び関根さんがひさ子さんに首を思い切り締められてるのを見て俺は、関根さんはいたずら好きなんだと確信した。
――――――――――――
「ごちそうさまでした…っと」
「結局残さず綺麗に食べやがったよ…」
山になる程あったオムライスは綺麗さっぱりなくなった。
こんなに上手い物を残す方がどうかしてるぜ。
俺は食い終えたオムライスの皿を片付けにいき、自分が座っていた席へと戻る。
「あ、まだ君の名前聞いてなかったね」
関根が思いついたかのように訪ねる。
「そう…だったね。俺は岡野弘樹って言うんだ。よろしく」
「よろしくお願いします、岡野さん」
俺が自己紹介をすると、入江さんはわざわざ丁寧に頭を下げ、よろしくという。
律儀でいい娘だなぁ。
「こっちこそよろしく」
ひさ子さんは見た目通りっていうか、サバサバとした感じでよろしくって言った。
「よろしくね~、私の事は関根先輩と呼びたまえよ少年!」
「お前はすぐに調子に乗るなッ!!」
ひさ子さんが調子に乗って偉そうな態度をかます関根さんにチョップをし、クリーンヒットする。
「あだぁ!! ……うえぇ~ん、みゆきちぃ~…ひさ子さんがいじめるよぉ~…」
「お~よしよし」
関根さんはまるで子供のように泣いて入江さんに飛びつき、入江さんはチョップされた頭を撫でてよしよしとやっている。まあ嘘泣きなんだろうけど。
…そういえば岩沢さんがいないな。
「えぇっと…ひさ子さん。岩沢さんは一緒じゃないの?」
「あぁ、岩沢の奴もう少しで何かが閃きそうだとか言ってまだ空き教室に残ってるよ」
「閃きそうって、何を…?」
「そりゃあ歌だろう」
歌…?
「岩沢さんは音楽キチだからね~」
さっきまで入江さんに泣きついてた関根さんは元に戻っており、ひさ子さんに続いて喋った。
ガルデモメンバーにさえ音楽キチと言われる程、音楽が大好きそうで何よりです……。
「そういえば新人も増えた事だし、制服渡さないとな。ゆりっぺにこの事を言うのすっかり忘れてたぜ」
日向が俺の着てる制服を見て言い出す。
「制服?」
もしかして日向が着てるのと同じ制服の事か?
「あぁ、今日は渡されなかったけど明日また校長室のとこに来れば貰えるだろうぜ」
「わかった、じゃあ俺はそろそろ帰るよ」
俺はもう帰ろうかと思い、椅子から立ち上がる。
「え? もう帰っちゃうの? もっといろいろと話そうよ~」
「いやぁ……昨日といい今日といい、いろんな事が起こりすぎたから何か疲れちゃって…。だから今日は早めに寝たいんだ…」
俺もいろいろと話していたいが流石に疲れているので寝たい……。
「まあ、お前からすれば信じられない事ばかり起こったようなもんだからな~。ちなみに明日は8時頃に集まれっつってたからお前もそんくらいの時間に来ればいいと思うぜ」
「あいよ、じゃあまた明日」
俺は日向達に手を振り、食堂を出て行った。
――――――――――――
岡野が帰った後、食堂に残ってた俺らは解散し、寮へ帰ろうとしてるとこだ。大山の奴もう部屋にいるのかな?
「……あぁッ!!? 岡野に合言葉を言うの忘れてたァ!!!」
校長室に入るには合言葉が必要だ。合言葉は『神も仏も天使もなし』
合言葉を言わずに入ると今日の野田みたいに巨大ハンマーの餌食になってしまう…。
「今から探すったって、あいつの部屋何処だぁ…?」
流石にひとつひとつ探すのは面倒だ。
……そして俺は決意する
「…すまねぇ岡野! お前の犠牲は無駄にしねぇ!」
その場でパンッと音がする程の勢いで手を叩き、この場にいない岡野に謝った。
――――――――――――
【男子寮 岡野弘樹の寮室】
「……!?」
突然背中がゾクリとした。明日嫌な事が起こりそうな気がする、そんな気がするんだけど……。
「…あっ、どうしてゆりは反省室に来たんだろう」
そういや聞くのをすっかり忘れてた。明日にでも聞いてみるかな。
「ともかく今日は寝よう…」
風呂に入り、歯磨きをし、スウェットに着替えてベッドへと向かい、布団に入る。
…副会長に反省室へと連れられてはゆりに殴られ、ここが死後の世界で自分は死んでいると言われる。
野田が戻って来たのを見てあの場では信じると言ったけど、まだ心の何処かでここが死後の世界だなんて信じる事ができない…。
今日だけでいろいろあった…。
知らない学園で授業を受ける生活とは別れ、天使に抗う人達の仲間になった。
ゆりはあの時―――――
『だから、戦いましょう、共にね』
と言って、ゆりが差し伸べた手を俺は掴んだっけな。
しかし、俺は別に天使……生徒会長、立華奏の事を敵とは全く思っていないし、戦線の皆と一緒に天使を倒そうだなんて団結もしていない。
…いや、敵と言われても敵だという実感がない。
天使と戦っていないからこんな事が言えるだけなのかもしれないが……。
そもそも俺がこの戦線に入ろうとした理由は、NPC達と言われてる奴ら達と授業を受けているより、アイツらといた方がこの世界の事がもっとわかるかもしれないし、何よりも俺自身の記憶を取り戻す時間を稼ぐためだ。
記憶を取り戻した後の事は考えていないが、今は早く記憶を取り戻したい。それだけを考えていた。
――――気づくと俺は自分でも知らない内に眠っていた。
音無と竹山くん以外のメンバーは本編突入する前に何とか会うようにさせたいですね。
上の二名はストーリー通りの話の時に登場させようと思っています。
感想、お待ちしております。