気づいたら知らない学園にいました   作:椎名

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31話 最後の歌

「このライブは我々の許可もなく行っているモノだ。即刻中止にしろッ!」

「何でだよ! 俺達の楽しみを奪うな!」

「帰れ!」

「出てけ!」

 

教師達の言葉に耳を貸す気はなく、後方にいる一般生徒たちはいまだ反発をしている。

 

「いい加減にしろッ!!!」

 

流石の教師達も我慢の限界となり、生徒達を強引に掻き分けようと前進しようとしたその時――

 

「おらぁ!!」

「ぶほっ!?」

 

突如何者かが教師の顔面を殴り飛ばし、前に現れる。

その人物は、肩まで掛かっている金髪と真紅の瞳が特徴であるこの俺、竜胆零さ!

 

「けっ、人がライブを楽しんでるとこに邪魔しようとしてんじゃねぇよダボが。」

「おいお前! 教師を殴るとはどういうことだ!」

 

殴られた教師とは別の教師が俺に向かいながら怒声をあげるが

 

「うるせぇ!」

「へぶっ!」

 

俺は近づいてきた教師の腹部に蹴りをいれ、吹き飛ばす。

 

「こいつを取り押さえろ!」

 

後ろで見ていた一人の教師のその言葉が号令となり、他の教師達は一斉に俺様を取り押さえようと襲い掛かってくる。

 

「掛かってこいや教師ども!! 俺の女達の邪魔はさせねぇ! あいつらは俺が守るって相場が決まってんだ!!!」

 

俺は自分の髪をかきあげながらカッコイイ名言を言い、教師たちに殴りかかる。

 

(フッ、我ながらカッコ良く決まったぜ。これであわよくば岩沢たちと……)

 

 

※Emergency! Emergency!※

 

 

【竜胆零/脳内妄想】

 

「竜胆、あんたやるじゃないか。」

「その……あたし、あんたの事、改めて惚れ直したよ。」

 

俺の右側から岩沢とひさ子がそっと俺に寄り付く。

岩沢はいつも通りクールな口調だが、照れているのか頬を赤くなっており、ひさ子は気恥ずかしそうにしており、目を逸らしつつも素直な感想を口にしている。

 

「ハハハ、ありがとうな岩沢。ひさ子も俺に惚れ直しただなんて、照れちまうな。」

 

そんな彼女達の言葉を俺は無下にせず、極上のイケメンスマイルで答える。

 

「竜胆~。だ~いすき!」

「竜胆さん……ステキです…。」

 

続いて左側からは俺の腕に飛びつく関根と、顔を赤らめながら俺の傍に近づいてブレザーの端をそっと掴む入江が現れる。

 

「フッ、当たり前だろ? お前達は全員、俺の大切な華なんだから……。なっ?」

 

ウィンクをすると皆、ますます俺の虜となり、俺への愛の言葉を沢山口にしてくれる。

全く、イケメンも楽じゃあないが、こいつらの笑顔を見れるのなら苦じゃない。それどころかその笑顔と愛の言葉が俺を元気にしてくれる。

 

「お前らは、俺が絶対に守ってやるからな!」

 

俺は順番に皆の頭を撫で、最高のスマイルを彼女達に魅せる――――

 

 

◯◯◯

 

【現実/体育館内】

 

「ぬふふふふふふ……!」

 

ヤバい…想像しただけで笑ニヤけが止まらない……。

よーし、俺はやるぞ!

 

「うわちゃあぁぁぁぁああああ!!!!」

「うぶぅぉえッ!」

「ミノムシッ!!」

 

俺は教師達を岩沢達に行かせないよう、教師どもに殴り、蹴りをひたすらぶち噛まし、教師どもは汚い声をあげて吹き飛ぶ。誰も俺を止める事はできねぇぜ!!!

 

「今だ、捕らえろ!」

「え?」

 

いつの間に背後に回り込んでいたのか、ガタイのいい教師が俺を捕まえ、床に押さえつける。

 

「うごっ…!!てめぇ!離しやがれ!!!くせぇんだよ!!!!」

 

俺は必死に暴れまくるのだが、中々振りほどく事ができない。まさか背後にいたなんて気づかなかった。完全に油断してた…!

 

「大人しくしろ!」

 

だが、もう一人の教師が俺を押さえるので、俺はほぼ身動きが取れなくなる。

 

「離せッッての……! 早く離せゴルァ!! 殺すぞクソ共がぁぁッ!!!!」

 

くそッ! 剣を使えばこんなクソ教師共なんて楽勝なのによ…!

こんなことなら剣で斬り殺せば良かったぜ……ッッ!

 

 

■□■

 

 

『竜胆さん、取り押さえられました。』

「つっっかえねぇあいつッ!!!!」

 

竜胆が教師達に捕まる報告が入り、侵入中にも関わらずゆりは怒りのあまり大声をあげる。

 

『引き続き、陽動班も取り押さえられました。天使が戻ります。』

 

再び遊佐の通信が入った。どうやら岩沢たちもすぐに捕まってしまったようだ。

報告を聞き終えるとゆりは舌打ちをする。

パスワード解除に成功をしたが、肝心の天使の情報を暴く事ができずじまいの結果となってしまった。

 

「……ここまでね。」

「今回も得る物無し、か…。」

 

ゆりがPC画面から離れると同時に日向も画面から離れ、残念そうに溜め息を吐く。

後ろにいる松下も日向同様溜め息を吐き、野田は不機嫌な表情を浮かべながら舌打ちをする。

そしてゆりは撤退の宣言をする。

 

「退散するわよ。」

 

 

□■□

 

 

ステージに上がった教師達が岩沢さんをはじめ、ひさ子さん達や遊佐さんを取り押さえており、岩沢さん達は身動きが取れない状態になっている。

もちろんその光景を一般生徒達は黙ってはおらず、教師達に猛抗議する。

 

「くっそ!ふざけんなよッ!!」

「やめてあげてぇ!」

「俺達のためなんだよ!離してやってくれよぉ!!」

「彼女達の音楽が支えになってるの、お願い!」

 

ステージに上がらせない様、教師陣はステージ前で生徒達を抑えており、最前列にいた俺たちも岩沢さんを助けにいく事が難しい状況になっている。

 

「岩沢さん達を離せやゴルァ!」

「ちっ、教師がこんなにいちゃ助けにいこうにもいけねぇな。くそっ…!」

 

ユイも一般生徒達と一緒に抗議をしており、野坂はどうにか岩沢さん達を助けに行けない今の状況を悔しがっている。

 

「今までは大目に見てやってただけだ。図に乗るな!!」

 

一般生徒の抗議を教師達は耳を貸す気は全くない。悔しい事に、ステージの上にいる教師達の所まで行ける者は誰もいないのだ。

 

(くそっ。立華さんはもう体育館から出て行ったみたいだし、目の前で抑えてる教師を掻い潜っててもまだ何人かの教師が待機してやがる……。)

 

ましてや俺と野坂は陽動の雑用であり非戦闘員だ。

複数の教師達と対峙したらすぐに捕まる。

後ろで暴れてた戦闘員の竜胆でさえ取り押さえられたんだ。俺たちがどうこうできる状況ではない。

 

「楽器は全て没収だ。学園祭でもあるまいし、二度とこんな真似をさせんぞ!」

 

そう言って教師はステージ後ろの真ん中に置かれている岩沢さんのギターを手にし、捕まった岩沢さんは驚愕の表情を浮かべる。

 

「ふん、これは捨てて構わないな?」

 

岩沢さんのギターを手に、吐き捨てるように言い放つ教師。その直後、岩沢さんの口からポツリと言葉が漏れ出した。

 

「…触るな」

「あん?」

 

小さいが感情が篭った言葉であり、ギターを手にしてる教師は思わず聞き返す。そしてーー

 

「それに…!触るなああぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

岩沢さんの想いの声が体育館全体に響き渡り、教師の手を振りほどいて駆け出した。

ギターを持っている教師に体当たりし、力ずくでギターを取り戻した。

 

「やめんかぁ!」

 

ひさ子さんを取り押さえてる教師がギターを奪い返す岩沢さんを見て注意をする。

岩沢さんの方に視線を向いてる隙をひさ子さんは逃さず、教師の顎に頭突きを入れる。

 

「グフッ…!」

 

教師は頭突きに怯み、捕まえてた手が緩む。緩んだ手を振りほどいたひさ子さんは駆け出し、ステージ裏の階段へと駆け込み、そんなひさ子さんを一人の教師が追いかける。

追いかける途中に、うつ伏せで倒れこんで捕まってる遊佐さんが、手を使い、教師の足を上手く引っ掛ける。ひさ子さんを追いかけた教師は遊佐さんのそばで盛大に転んだ。

 

「おい、岡野。」

 

野坂が俺の脇に肘を軽く突く。

野坂が何を言おうとしているのかは大体察しがつき、俺は無言で頷く。

一般生徒達を抑えてる教師と待機してる教師達の視線がステージの方へ向いている。

このチャンスを俺たちは逃さず、目の前で抑えてる教師と教師の間を下から掻い潜った。

 

「なっ…! おい、待てお前達!」

 

生徒達を抑えてる教師がワンテンポ遅れて気づき、待機してる教師達は更にワンテンポ遅れて気づいてから俺たちを取り押さえようと近づく。

しかし、反応が遅かったからか、足が遅い俺すら捕まえる事ができず、俺と野坂はステージの上へ登った。

すると目の前には、教師達がギターを取り戻した岩沢さんに近づき、ジリジリとステージの後ろへと追い詰めている。

 

「やめろってのぉ!!」

 

いち早く野坂が動き出し、岩沢さんに近づく教師二人を後ろから掴み、思い切り引っ張る。野坂に引っ張られた二人の教師は突然の事で抵抗できず、思い切り尻もちをついた。

その間に俺は岩沢さんの元へ向かおうとするが、入江さんと関根さんを取り押さえてた教師が俺の方へと向かってくる。

このままでは俺も捕まると思ったがーー

 

「おりゃあ!」

 

関根さんが俺に向かってくる教師の足に飛びつき、教師はそのまま勢いよく地面に叩きつけられる。

関根さんに続き入江さんも教師の片方の足を掴み、身動きが取れないようにする。

礼を言いたかったが今は岩沢さんの元へ向かうのが先なので俺はそのまま岩沢さんの元まで走り、岩沢さんの前にたどり着く。

 

「こいつ、大人しくしろ!」

「いでででで! いてぇぞおい!」

 

野坂は一人の教師に床へ抑え付けられているらしく、岩沢さんのギターを取り上げた教師がこちらに近づく。

 

「退け!」

 

教師は俺が男子だからか、荒く掴みかかり、思い切り俺を払い飛ばす。

 

「うぉわっ!」

 

俺はあっさりと教師に退かされ、倒れる。

しかし、すぐに起き上がり教師の腰に掴みかかった。

 

「貴様…! 離れろ!」

 

教師は振り解こうとするが、俺はそれに精一杯抵抗をする。

しかし、その精一杯も虚しく解かれ、再び払い飛ばされるのだった。

教師がギターに手を伸ばすその瞬間、岩沢さんは突如ギターを弾き始めた。

岩沢さんの目の前にいる教師の動きが止まり、抗議している生徒達もピタリと動かなくなり、岩沢さんへと目線に集中させる。そして俺も岩沢さんへ視線を向けるのだった。

音量こそ出ているがエレキギターと比べると静かであり、これが前に岩沢さんが言っていたバラードなのかと理解した。

 

「新曲…?」

 

観客席からユイがポツリと漏らす声が聞こえた。

前奏が終わり歌い始めた岩沢さん。その歌の歌詞を俺は知っていた。

 

(確かこの歌詞、前のオペレーション報告の時に……)

 

それは以前、岩沢さんにオペレーションの報告をした時に書いてあった歌詞と全く同じモノだった。

 

 

皆が岩沢の歌に聴き入ってる間、階段を登り放送室に駆け込んだひさ子は岩沢の歌声を全校放送で学園中に流した。

放送で流れてる歌を聴き、立ち去った天使は立ち止まる。

天使だけではなく、様々な場所にいる一般生徒達も全校放送で流れている歌声を聴いて立ち止まっている。

それは天使エリアにいるゆり達も例外ではなく岩沢の歌に聴き入っていた。

ゆりはすぐさま我に返り、この瞬間を逃さずパソコンの方へと近づく。

 

「竹山くんっ!」

「はいっ! クライストとお呼びください!」

 

竹山はEnterキーを押す。

すると竹山のノートパソコンには人間の全体図が現れ、英単語らしきものまで載っている。

その英単語をクリックすると、人間の右手の甲から刃のような物が出てきた。

続いて他の単語をクリックすると人間が横へと移動する時に沢山の残像が現れる。

これらの単語は天使が戦闘している際に口にする単語と同じだった。

 

 

 

 

今この体育館にいる人全員が岩沢さんの歌に聴き入っている。それは近くにいる教師も例外ではない。

中には涙を流す者もいた。

そして歌は終わりを迎えようとしており、歌い終えた岩沢さんはただギターを弾いている。

 

――これが、私の人生なんだ。

こうして歌い続けて行く事が。

それが、生まれてきた意味なんだ。私が救われたように、こうして誰かを救っていくんだ。

やっと……

やっと、見つけた……―――

 

ギターが弾き終え、歌が終わると、ギターが落ちる音が辺りを木霊する。

 

「岩沢……さん?」

 

さっきまで歌っていた岩沢さんの姿は何処にも見当たらず、あるのは先ほどまで演奏に使われていた岩沢さんのギターだけだった。

 

 

 

★★★

 

 

【翌日/校長室(元)】

 

「わかった事をまとめてくれ、ゆりっぺ。」

 

日向が昨日の作戦結果の報告を尋ねる。

ゆりは校長席の前で左右に歩き回りながら今回の作戦で得られた情報を話す。

 

「天使は自分の能力を自分で開発してた。それは、私達が武器を作る方法と同じだったのよ。」

 

神の手下と言われている天使が戦いの際に使う刃、銃弾を弾く謎の現象、高速移動。

それらの能力の作り方はゆり達と酷似しているという事なのだろう。

 

「それって、どういうこと?」

 

大山の問いに歩き回っていたゆりの足は一度立ち止まる。

 

「確信がないの……。今はまだいえない。」

 

そう答え、ゆりはそのまま校長席の椅子へと座り込む。

天使の能力は天使自身が作っているという事はわかったのだが、何故神の手下と言われてる天使が自作しているその理由がわからない。恐らくゆりはその理由がわからないのでさっきの様な答えを言ったのだろう。

 

「では、もう一つの案件です。」

 

ゆりの報告まとめが終わり、立ち上がった高松は次の案件を述べる。

 

「岩沢さんは、何処に消えてしまったのか。」

 

机の上には岩沢さんのギターが置いてあり、その疑問について野田が最初に開口する。

 

「天使に消されたんじゃないのか。」

「ライブ中だぞ?」

「じゃあ何が起きたっていうんだ!」

「誰が一体、岩沢さんを…。」

 

野田に続き日向、大山などが様々な疑問の声をあげる。

しかしどんなに疑問の声をあげてもわからずじまいであり、ゆりを除く戦線メンバーは一斉に俺へ目を向け、日向が俺に尋ねる。

 

「なぁ岡野、岩沢は何処に消えちまったんだ?」

 

俺は岩沢さんが消えたあの現場で一番近くにいたので尋ねられるのは必然的だろう。

岩沢さんが何故消えたのか。消えた理由はわからないが、消える条件を満たしたのはわかる。

岩沢さん自身が何かの未練をなくし、満足したのだろう。

 

「それは…――」

「誰でもないわ。」

 

俺が何て言えばいいか言葉に迷っている間に、ゆりが俺の代わりに答えた。

 

「あの子が納得しちゃった…。それだけの話よ。」

「………。」

 

何処へ向けているかわからないゆりの寂しげな視線。

結局ゆりのその一言で岩沢さんの案件は終わり、今日は解散する事となった。

 

 

――――――――――――――――

 

【食堂/入り口付近】

 

時間は昼休み。食堂には大勢の生徒達が昼食を取っている。

そんな中、俺は食堂の出入り口である人が食堂から出るのを待ち伏せている。

そしてとうとう目的の人物が出入り口から現れ、俺はその人物の名を呼んだ。

 

「――立華さん。」

 

俺が名前を呼ぶと、彼女は足を止め、こちらに顔を向ける。

 

「何かしら?」

 

相変わらずの無表情と、人を疑うという概念を持たないような純粋な眼をしている。

立場上、敵同士であるにも関わらずこんな普通に敵の呼びかけに答えるなんて警戒していないのだろうか。それとも敵として見ていない、または気にしていないのか。

まあ、自分の腹に刃物を容赦なく刺した人に話しかける俺が言える事ではないと思うが……。

 

「ちょっと、いいかな。」

「?」

 

 

【屋上】

 

戦線メンバーの誰かに見られるのは流石に変な疑問を持たれそうなので、一先ず屋上へ呼ぶことにした。

一緒に屋上に行くのもまたアレなのでちょっと遅れると言って先に屋上に行かせ、俺は自分と立華さんの分の飲み物を買い、後から屋上に向かった。

 

「ごめん、俺から言ったのに先に待つ形になって。お詫びと言って…いいのかわからないけど、とりあえずこれ。」

 

立華さんに自販機で買ったkeyコーヒーを渡す。立華さんの好みがわからなかったからついコーヒーにしてしまったのだが大丈夫だろうか。

 

「ありがとう、いただくわ。」

 

立華さんはお礼を言い、keyコーヒーを受け取る。どうやら大丈夫のようだ。

 

「それでさ、ここに呼んだのは昨日の岩沢さんの事で聞きたい事があったんだ。」

「昨日?」

 

俺は無言で頷き、keyコーヒーの蓋を開け、一口飲む。

最初はゆりに聞いてみようと思った。校長室で最後に言ったあの言葉、ゆりはほぼ間違いなく岩沢さんがこの世界から消えた理由を知っている。

しかし、その事を俺が質問してもゆりはちゃんと答えてくれるのだろうか。否、ゆりは恐らく答えてくれない。

ゆりは俺の事を戦線の仲間だとは思っているだろうが、何処かで俺の事を疑っており、感じているはずだ。彼は打倒神に賛同していない、天使を敵として見ていないと。

じゃなきゃギルド降下作戦が終わった後に、天使は自分達の“敵”だと俺に忠告をしないはずだ。

なのでどちらかというと戦線に入って数ヶ月の俺より天使に攻撃をしてる音無の方を信頼してるだろう。

だから立華さんに聞こうと思った。

 

立華さんなら俺の質問に答えてくれる。そう思って立華さんの所まで足を運んだのだった。

立場上は敵同士となっているが、この世界について相談する事に対しては立華さんを信頼している。

 

「岩沢さんがステージから消えたのって、あれがこの世界の消え方なの?」

「……。」

 

立華さんは無言で頷く。

 

「あんな一瞬に消えて、別れを告げる事もできないなんて……。」

「…納得したから、彼女はこの世界から去ったの。」

「納得……?」

 

納得。立華さんの発した言葉はゆりと同じものだった。

 

「彼女自身が何かを叶え、見つける事ができたからこの世界からいなくなったの。」

「それって、岩沢さん本人が何かに満足して、この世界から去ったって事なんだよね? 何かを叶えられたから、成仏できたんだよね?」

「……。」

 

立華さんは頷く。

 

「そっか…。」

 

この世界を去る時は、もっと綺麗に去れるものだと思っていた。しかし、現実はそんな綺麗に終わらせなかった。

それは余りにも唐突で、別れの挨拶を交わす事もできずに消えてしまう。残された者は辛い。

 

「立華さんは、この世界に来た人達が目の前から消えるのを沢山見てきたの?」

「……。」

 

再び無言で頷く。

 

「この世界で親しくなった人も消えて、寂しくなかったの?」

「…皆満足してこの世界から去れたんだもの。仕方のない事だわ。」

「………。」

 

表情を変えずにそう答える立華さん。

寂しい、と答えなかったがきっと寂しいはずだ。ゆり達みたいにこの世界に留まる仲間、友達はおらず、たった一人この世界で学園生活を送っているんだ。寂しくない訳がない。

 

「………。」

「………。」

 

そして訪れる沈黙。消える話をしたからか、雰囲気が少し重い。俺の所為だけど…。

何かを話さなくてはと思い話題を探すと、前から気になっていた事がふと思い浮かぶ。

 

「あっ、あともうひとつ聞きたい事が――」

 

俺がそれを口にしようとした途端チャイムが鳴り、俺の言葉を遮った。

なんてタイミングの悪い……。

 

「それじゃあ、次の授業が始まるから。」

 

そう言い、立華さんは屋上の扉の方へと足を運び出す。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

「?」

 

俺の制止の言葉に立華さんは立止まり、俺の方へと顔を向けてくれる。

 

「その――さ。話、聞いてくれてありがとう。話せて少し、スッキリできたよ。」

 

最後の話題を聞けなかったのは残念だが、今回の話を最後まで聞いてくれて、答えてくれた事に俺はお礼をした。こんな話をできるのは立華さんしかいないから本当に感謝している。

 

「どういたしまして。」

 

俺のお礼の言葉を律儀に返答し、立華さんはそのまま言葉を続ける。

 

「岡野くんもありがとう。コーヒー、ごちそうさま。」

「へ?」

 

突然の感謝の言葉を立華さんから貰い、俺は間抜けな声を漏らす。

 

「あっ……う、ううん! き、気にしないでよ! 元はここに呼んだ俺が遅れたからお詫びに渡しただけだし!」

 

ハハハ、と最後に笑いを付け足す。

何だか突然気恥ずかしくなってしまい俺は大声で返答をした。

お礼を言われるのに慣れていないという訳ではないのに、何故だか妙に照れくさかった。

 

「それを言いたかっただけなんだ。じゃあ――」

「それじゃあ行きましょうか。」

「ゑ?」

 

行く? 何処へ行くのだろう。

 

「もう授業が始まってるわ。私も一緒に行くから、授業に出て。」

「あ、はい……。」

 

なるほど、そういう事か…。

生徒会長だから目の前で授業をサボるだなんて見過ごせないもんな。

拒否しても無理やり連れていく可能性もあるだろうし、ここは素直に従おう。

 

(…それに、俺の話を聞いてくれたお礼もあるし。)

 

今まで授業を受けても消えなかったんだからまた授業に出ても問題はないだろう。

飲み干したコーヒーをゴミ箱に捨て、俺は立華さんと一緒に俺のクラスの教室へ向かい、俺を送り届けた立華さんは自分のクラスへと戻っていった。

授業中、俺は昨日の岩沢さんが最後に歌ったあの歌がずっと頭の中でリピートされ続けていた。

岩沢さんが歌ったあの歌を、俺はこれからずっと忘れる事はないだろう―――




以上、31話でした。

やっとアニメ3話終わる事ができました…。
にじファンの頃と大分岡野の立場と行動が変わりました。
わかっているとは思いますが、岩沢さんが最後に歌ったのは『My Song』です。
気になる方は是非、本編3話を見てください。

それではまた次回

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