気づいたら知らない学園にいました   作:椎名

31 / 32
どうも、お久しぶりです。
良ければどうぞ。


30話 天使エリア侵入作戦

空き教室を出て行った後、ライブが始まるまで暇を持て余した俺は一先ず屋上に行き、これからどうするかを考える。

 

「んー……今から体育館に行っても早すぎるし、かといって一人で行くのもな。」

 

となると、誰かを誘ってライブを見に行くという選択になる。

校長室にいるメンバーは立華さんの部屋に潜入する為誘う事はできない。

なので実行部隊であるメンバー達以外のメンバーを誘わなければならない。

 

(…じゃあ、野坂でも誘うかな。)

 

野坂なら快く承諾してくれるだろうし、陽動部隊の中では一緒にいる事が多いから親しくもある。

ガルデモのライブを一緒に見ようといえばホイホイ………

 

「あっ、ガルデモっつったらユイの事思い出した…。」

 

そう、恐らく陽動班……いや、戦線の中で一番ガルデモに大変お熱であるユイがライブに来ない訳がない。どうせならユイも一緒に誘っといた方が良いだろう。

そうと決まれば早速二人を誘いに行こう。

 

 

☆★☆

 

 

【体育館】

 

「岡野、今何分くらいだ?」

「約55分ってとこ。」

「もう5分前だってのに、思ってたより人来てねぇな。」

 

辺りを見渡し、野坂がボヤく。

あれから野坂とユイを誘い、ユイが混む前に早く体育館行こうという提案をしたので、30分前には体育館に着いたのだが人がほとんどおらず、ライブ開始10分前になってる今もそこまで人が来ていないのだ。

 

「目に見えて少ないね……。」

 

もし、ライブが始まっても予定より観客が増えず、盛り上がらなかったら天使……立華さんはここには来ないのだろうか。

それとも、盛り上がりに関係なくライブを止めに足を運びに来るのだろうか。

 

「ライブが始まったらホイホイ観客が来るから大丈夫だよ! それより早くライブ始まらないかな〜。」

「ユユユユイちゃんはホント、ガガガルデモのライブがす好きなんだだな。」

「ふふ〜ん、ユイにゃんの手に掛かればガルデモの曲を弾くのも歌を歌うのも訳ないのです!」

 

噛みまくりの野坂の言葉にユイにゃん(笑)は誇らしげに胸を張る。野坂の女子に対して噛みまくりになる喋り方も最近では当たり前になってきている。一応本人もそれを自覚しているらしい。

 

(…ん?)

 

僅かにステージ端のカーテンが動くのに気づきそちらの方に目線を向けると、その隙間には遊佐さんがいた。恐らくどのくらい客が集まったのか確認をしているのだろう。

そう解釈した俺は談笑している野坂とユイの方へ目線を戻し、それと同時に思い出した事があった。

 

(そういえば俺、こうやって客としてガルデモのライブ見るの初めてかも。)

 

ガルデモのライブ自体は陽動の仕事をやっている時に見ていたが、観客としてこうやってガルデモのライブを真正面から見るのは今回で初めてだ。立華さんの事とかゆり達の作戦とかが気がかりだけど、何もできない俺が考えても仕方がない。今は素直に目の前のライブを楽しもう。

 

数分経つとステージのカーテン側からギターの激しい音が鳴り響き、ステージのカーテンが上へと開かれる。

そこにはガルデモメンバー達の姿があり、一般生徒達も待っていました、と言わんばかりに声援を上げる。

 

「来たぜ来たぜぇ! こんな近くでガルデモメンバーを拝めるなんて俺はとんだラッキーボーイだぜ!」

「キャーー! 岩沢さーん!!」

 

野坂とユイも他の観客と同様にガルデモがいる目の前に興奮をしている。

 

「す、すごい……。」

 

かくいう俺は野坂とユイを含める観客達の雰囲気に呑まれている。

正直、陽動側で見るライブと観客側で見るライブがこんなにも違いがあるとは思わなかった。

それ程までにガルデモのバンドは、この学園の生徒達を魅了させているのだろう。

そんな事を考えている間にガルデモの陽動ライブが始まり、俺はすぐさま岩沢さん達の方へ目を向けた。

 

 

★☆★

 

 

とある通路の扉前には天使エリア侵入作戦のメンバーであるゆり、松下五段、野田、音無、竹山、そして扉の鍵穴をピッキングしている日向がいる。

日向が扉の鍵穴をピッキングし終えると、ゆり達を見て首を縦に頷く。鍵を開けることに成功した合図だ。

皆も日向の合図に頷き、先に松下五段が扉のドアノブに手を掛け、素早く、そして静かに開ける。

扉が開いたのと同時に野田が真っ暗な部屋に先行し、続いて日向も部屋へ侵入する。

野田はハルバートを、日向は銃を構え、部屋に誰もいないか見渡す。

 

「進路クリア」

「クリア」

 

二人の確認の言葉を聞いたゆり達は部屋の中へと入っていく。

 

「よし、まずは侵入成功ね。竹山くん、コンピュータよろしく。」

「クライストとおよびください。」

「ほら、音無くん。ドア閉めなさいよ!」

 

ゆりはトランシーバーで侵入成功の報告をし、最後尾の音無にドアを閉めるように命令をする。

竹山は部屋の奥にある机の上にノートパソコンを置き、電源を起動している。

音無はゆりの命令に従い、ドアを閉める。

 

「いや、これって……」

 

暗闇の中、壁にあるスイッチを押す音無。

すると真っ暗だった部屋に光が満ち溢れる。そこは女子寮の一室だった。

突然灯りが点いた事に音無以外の戦線メンバー達は一斉に驚愕する。

 

「ただの女子の部屋荒らしじゃねぇかよ! 犯罪だぞ!」

「貴様何をする!」

「女子寮だぞ! 電気を消せ!」

 

音無の近くにいた野田がすぐさま電気を消し、松下五段が声をあげる音無を後ろから取り押さえる。

しかし、音無はそれでも口を止めることなく再び声を荒げる。

 

「しかもコンピュータで制御だぁ!?パソコンが一台あるだけじゃねぇかよ!」

 

そんな音無の言葉をゆりは耳を傾けず、机の上にある天使のパソコンを起動する。

起動したパソコンにはパスワード入力画面があった。

 

「これよ。このパスワードの所為で天使の情報を得ることができなかったの。」

「なるほど、こういう事は僕の力の見せ所だ。解析に入ります。」

 

すると竹山は、自分のノートパソコンと天使のパソコンにケーブルを繋げ、作業を始める。

手を一切止まる事も休めることなくキーボードを素早く入力していき、徐々にパスワードの解析をしてきていく様子を見せる。

 

「ほう、一応使えるみたいだな。」

「うむ。天才ハッカーという名は伊達ではないな。」

 

作戦が始まる前は竹山の事を戦力外扱いしていた野田も彼の仕事ぶりを見て素直ではないが、ハッキングの腕前を認めているようだ。

音無を取り押さえてる松下五段もその光景を見て竹山の力を大いに関心している。

しかし、音無は人のパスワードを勝手に解析しているゆり達の行き過ぎた行動を見過ごせず、なんとか止めようと暴れだす。

 

「おいおいおい、 勝手にパスワードを解除するなんてプライバシーの侵害――」

「それ以上騒ぐと、喉元掻っ切るぞ!」

「いっ!?」

 

野田にハルバートを喉元に突きつけられ、音無は怯み、身動きがとれなくなる。

 

(天使エリア侵入って言うんだからどんな凄い要塞的な場所なんだと最初に想像してた自分がアホみたいじゃねぇか……!)

 

思い返せばオペレーション・トルネードは食券の巻上げ。ギルド降下作戦は地下の降下と、一種のネーミング詐欺を感じる。作戦名に騙されたのはこれで3回目だ。

 

「そ、そういや、天使エリアが天使の部屋だなんて岡野は知っているのか? あいつもまだ入ったばかりなんだろ?」

「岡野くんも初めてだけど女子寮って事は普通にわかってたわよ。あたしにそのこと確認してきたし。作戦会議では説明しなかったけど彼も今回の侵入内容を知ってるわ。」

 

どうやら本当に何も知らなかったのは自分だけのようだ。何だか変に妄想を肥大化していた自分が馬鹿みたいに思え、音無は大きく落胆をする。

そんなやりとりをしている間に、竹山のパスワード解析は順調に進んでいったのだった。

 

 

○●○

 

 

ひとつの歌が終わった後も周りの歓声が止まらない。身体全体に振動して伝わるガルデモの音楽、観客の沢山の歓声、熱気。

どれもオペレーション中の裏方に回っていた時には味わえなかったものだった。

俺はそんな光景を感動している中、右隣にいるユイが不安そうに辺りを見渡しているのに気付いた。ユイの更に隣にいる野坂はすっかりライブに夢中になっていてその事に気づいていないようだ。

 

「ユイ?」

 

周りの歓声もあり声がなるべく聞こえるようユイの近くに寄り、声を掛ける。

 

「うひゃい!? な、何なにナニ!? いきなり!」

 

声を掛けられるとは思っていなかったのか、それとも顔が思っていたより近かったのか、ユイはオーバーに驚愕をする。

 

「わ、悪い。そんな驚くとは思わなくて。それよりも何周りをキョロキョロ見てるんだ?」

「あ、それは…」

 

そういうとユイはその後は何も言わず後ろの観客達を見る。俺も釣られてユイと同じ方を見渡す。するとある事に気付いた。

 

「まだ周りに空きがあるな。」

「うん、少し集まりが悪いっぽいから。」

 

いつもならもっと来てるのに、とユイは力弱く付け足す。

いつもガルデモのライブを見ているユイだからこそ感じた違和感なのか。

初めよりは確実に観客人数は増えているが、それでもまだ足りないという事なのだろうか。

 

(でも、掲示板に堂々とライブ広告をしてるから少なくとも教師達は止めに来るだろうな。)

 

集まりが良かろうが悪かろうがこれは確実だろう。しかし…

 

(立華さんはどう出るんだ? 来るとしたら教師達より先に来るのか、後からか。それとも一緒に来るのか…。もし来るとしたらゆり達の作戦は成功して立華さんの部屋が……って、そんな事考えても仕方ないだろ!)

 

考えたって自分には何も出来ないと思っていてもつい考えてしまう。何でこんなにも立華さんの事を心配してしまうのだろう。

気になるから? 可哀想だから? 何度か話したから?

その答えを見つける前に次の曲が始まり、俺はガルデモ達に目線を戻す。

 

(あ、この前奏って……)

 

そう、ユイが散々話してくれた曲、Alchemyだ。

 

 

★☆★

 

岩沢の心は焦りが見えていた。

 

(どうして…もっと集まってくれ…!)

 

確かにライブは盛り上がっている。しかし、体育館の辺りを見渡すとまだ観客が足りない。

もっと引き寄せないと陽動が成立しない。

これではポスターの告知、ライブの準備をしてくれた皆、そして岡野に申し訳が立たない。

もっと観客を引き寄せるんだ。

そして岩沢は次の曲の前奏を弾き始める。

その前奏を聴いたひさ子は驚愕をした。

 

(Alchemy!? こんな序盤で…?)

 

Alchemyはガルデモの一番の人気曲であり、それをこんな序盤の内に披露するのだ。

しかし、一度弾き始めたら退くことはできない。ひさ子はすぐさまリードギターを弾き、入江と関根もそれに続き、曲が始まる。

人気曲というのは伊達ではなく、観客がより一層盛り上がる。

 

「いいぞぉ!」

「Fooooooooooooo!!!!」

 

他の観客と同様、ユイと野坂もAlchemyを聴いて歓声を上げ、Alchemyと知った途端NPCの観客達が続々と体育館に集まり、更に歓声が熱気が高まり、体育館が埋まり始めていく。しかし――

 

「こらぁ! お前たち、何をしている!」

「おとなしく寮にもどれ!」

 

とうとう教師たちが現れ、観客の学生たちに寮へ戻るよう怒声をあげる。

 

「ヤダよぜってぇ見てぇもん!!」

「そうよ! お前らこそ出てけッ!」

「そうだそうだ!」

 

しかし、ガルデモのライブを楽しんでいる学生たちは猛反発をする。

教師と学生が言い争っている中、扉から新たな人物――天使が現れ、その存在に岩沢はいち早く気づいた。

 

(来やがった。皆、もっと盛り上がってくれ。――いや、そうさせるのは誰でもない。あたし達の力なんだッ!)

 

教師たちが介入しても尚盛り上がりは沈む事なく継続している。

そしてカーテン越しから天使の姿を見かけた遊佐はインカムでゆりに報告をする。

 

「天使、出現しました。」

 

 

○●○

 

 

【女子寮/天使エリア】

 

『天使、出現しました。』

 

天使の出現。という事はまず最初の関門は突破したということになる。

次の関門は天使が体育館にいる間にどれだけ敵の情報を掴めるかである。

遊佐からの報告を受けたゆりは了解、と返事をする。

 

「竹山くん。」

「今、パスワードを高速で割り出せるプログラムを走らせています。すぐ終わります。あと、僕のことはクライストとお呼びください。」

 

竹山がそう告げてから数秒後、パスワード画面に『COMPLETE』の文字が現れる。

パスワードが解除された証だ。

 

「パスワード解除成功。入りました。」

「よくやったわ竹山くん! 全てのデータを移して!」

 

ようやく念願のパスワード解除に成功し、ゆりは興奮気味にPC画面の前に顔を近づける。

 

「時間が掛かりすぎます! 1時間は必要です。あと、僕のことはクライスト――」

「ハードディスクごと引っこ抜くか?」

 

日向もゆりと同様PC画面の前に顔を近づけ、竹山の言葉を遮る。

 

「バレるじゃない!」

「じゃあどうする!?」

「とりあえず怪しいデータを見せて竹山くん!」

「クライストです!」

 

ゆりと日向の板挟み状態になっている竹山は腕を伸ばし、Enterを押す。

すると画面には沢山の名簿が写り、日向が先に口を開く。

 

「学生リストか? これ。」

「NPC? いや、あたし達も混ざってるか…」

 

その沢山の名簿の中にはNPCだけではなく、死んだ世界戦線のメンバー達の名もいくつか見かける。

 

「単なる名簿だろ? 怪しいもんなんて何もねぇ。やっぱり犯罪行為じゃねぇ――」

「黙れ!」

「ウゴッ!?」

 

首元にハルバートを向けられていたが、とうとうそれは音無の口の中に入り込み、音無しの頬がゴムのように伸びて喋る事が困難となった。

そんな中、再び遊佐から報告が入り、ゆりはトランシーバーを取り出す。

 

「何? もしかして皆取り押さえられたの?」

『いえ、竜胆さんが現在、教師達と交戦している模様です。』

「……ハアッ!!? 交戦?!」

「交戦だぁ!? 何やってんだあいつ!」

 

ゆりに続き、近くで報告を聞いてた日向も驚愕の声を上げる。

 

「交戦竜胆か……。」

「あいつ…勝手な事をしおって!」

 

遊佐の報告は聞こえていないが、二人の反応と声を聞いて大方の内容を察した松下は落胆の声を。野田は怒りの声をあげている。

音無は口にハルバートを突っ込まれて喋れないが、明らかに目を引きつっている。

 

「~~~~仕方ない! もう始まってる以上止められないしそのまま放置よ! 少しでも時間稼げるならそれで―――」

『竜胆さん、取り押さえられました。』

「つっっかえねぇあいつッ!!!!」

 

即座に竜胆が教師達に捕まる報告が入り、侵入中にも関わらずゆりは怒りの余り大声をあげた。




以上、30話でした。

やっと投稿できました……。
それではまた次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。