気づいたら知らない学園にいました   作:椎名

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もの凄くお久しぶりです。
短いですが投稿します。


29話 ひとりでできるもん

【学園大食堂内部】

 

「こんのダアホがあああぁぁぁぁぁああッ!!!!」

 

食堂に着き、既に夕食を終えたゆり率いる校長室に集まる者達と合流をすると、ゆりの第一声は食堂全体に響き渡る程の怒声だった。その怒声を聞いた一般生徒達はゆりがいる方へと注目をしており、ゆりは此方を見ている一般生徒を睨みつけると、生徒達は一斉に目を逸らした。

 

「明日は大事な作戦を控えてるというのに何問題なんか起こして生徒会に捕まってるのよッ!! あんた馬鹿なの!? 何処までノロマなの!!? 一回あんたの頭をカチ割ってその腐った脳みそを洗ってあげましょうか?!! それとも賢い人の脳みそと交換してあげましょうかぁぁッ?!!!」

「い、いや、待って。待てって! 元々問題を起こしたのは竜胆――」

 

ゆりのマシンガン攻めに付いていけず、元凶である竜胆の事を話そうとするのだが

 

「じゃあかしいぃ!!!」

 

と、ロクに話を聞かずに一蹴する。

 

「全く……、ホンット鈍臭いわね! まさか日向くんより鈍臭い奴が現れるなんて滑稽ね! 前代未聞!! 天変地異が起こりかねないわッ!!!! 今日の出来事の所為で明日の作戦に支障が出て、天使と神の秘密を暴く事ができなかったらどう責任取ってくれるのよ!!!」

「な……ッ!? 告知ポスターを無断で掲示板に貼り付けてる時点で支障も責任もあるのかよ!!」

「罰として! 明日体育館でやるライブのセットは全部あんた一人でやりなさい!! それと今日の夕飯は抜きよ!」

 

ゆりは俺の主張を無視し、一方的に明日のライブ準備と夕飯抜きを命じるだけ命じて素早くその場から去っていった。

 

「ハァッ!? ちょ、ちょっと待てよゆり! おいッ!!」

 

何度もゆりの名を呼ぶが、当の本人は俺の叫びをとことん無視を貫き、そのまま食堂へと出ていってしまう。俺は追いかけずただ呆然と見届ける形となった。

一難去ってまた一難とは正にこの事だろう。

 

「昼も食べてないのに更に夜まで飯抜きって……」

 

別にずっと食べなくてもこの世界では餓死はしないが、空腹をずっと感じるのはやはり辛い。

俺は近くの椅子に少々勢い良く座り込み、小さな溜め息を付く。

 

「まあ~…、今回は運がなかったとしか言い様がねぇな。今度オムライス奢ってやるから元気だせって」

 

普段ロクな目にしか遭わない日向も俺に同情をしてくれたのか、オムライスを奢ってくれると言ってくれた。

その優しさは今の俺には充分に身に染みる優しさだ。

 

「ふぅ……しかし竜胆の奴には困った者だ」

 

松下五段は溜め息を混じりながら頭を軽く掻いている。

 

「全くだ。好き勝手やっては迷惑しか掛けないとはな」

 

まさか問題児と呼ばれる野田の口からそんな言葉が出るとは誰もが思わなかっただろう。

その結果として、野田以外の皆は目を丸くしている。俺もその一人であるが。

 

「あ、そういや竜胆は?」

「竜胆もお前と同じで飯抜きだぜ」

 

俺の質問に答えたのは藤巻だ。

どうやら俺だけじゃなくてきちんと竜胆にも罰を与えてたみたいだ。

 

「でも、あいつは飯抜きだけで俺はそれ+(プラス)明日一人でライブ準備しなきゃいけないってのは何か気に入らないな…」

「あいつにもライブ準備なんかやらせたらそれこそ大問題になると思うぜ?」

「まあ、そうなんだけどね」

 

藤巻の言う通りだが、やっぱり納得がいかない。

これも雑用の運命なのだろう…。

俺はそう思うようにした。でないと、また反省室にいた時のように怒りが混み上がり、イライラするかもしれないと思ったからだ。

 

「……飯も食えないし、帰ろうかな」

 

いつまでもここにいたって余計に腹を空かしてしまうので、俺は席から立ち上がって皆に先に帰る事を伝え、食堂から出て行った。

明日はライブの準備をしなくちゃいけないし、腹も減ってるから寮に着いたらさっさと寝よう。

そう決めると、俺は足を急かすようにして男子寮へと向かった。

 

 

 

 

 

 

【体育館 ステージ裏】

 

「よい……しょっと! とりあえず、これで全部か?」

 

空は雲ひとつない快晴の中、俺は誰もいない体育館で今日の夜に行われるライブに使う最後の機材を丁寧に置く。

機材を置いた瞬間、音が木霊をするかのように辺りに響き渡る。ライブに必要な道具を全て運び終えた俺はふぅ、と一息をついた。

台車を使って運んだから大した疲れもなければ、時間も予想以上に掛かったという事もない。要は何事もなく普通に終わったのだ。案外一人でもできるもんだな。

時間を確認するため体育館の時計を見ようとすると、丁度チャイムが鳴り響いた。

午前の授業が終了したところみたいだ。

 

(昨日は散々だったけど、今日は中々良い感じかな。)

 

機材運びもキリが良く終わったところでもあるので、機材配置は昼食を取ってからにしよう。

俺は一先ず体育館を後にして、食堂へと足を運んだ。

 

 

【学園大食堂内部】

 

相変わらず食堂では一般生徒達が賑わっており、食券販売機とフードコートには沢山の行列ができている。

食券の方は『オペレーション・トルネード』でいくつか蓄えがあるのでそのままフードコートへと直行する。列の最後尾に並ぼうとすると、その最後尾に見慣れた姿があった。

戦線服を着ており、小柄な体型でピンク色の長髪。ほぼ間違いなくユイだろう。

俺はすぐさまユイのいる列へと並び、それと同時にユイに声を掛けた。

 

「よう、ユイ」

「へ? ……って岡野さん!?」

 

ユイは俺の顔を見ると偉く驚いている。何故そこまで驚く。

 

「いや、何で驚いてんの…?」

「あ、いや、だって……昨日生徒会に捕まったって聞いたから…」

「昨日の夜にちゃんと帰してくれたよ。ユイこそ、あの後上手く逃げれたのか?」

「うん。音無先輩と一緒にどうにかね」

 

どうやらあの後何事もなかったようだ。

ユイの口から聞いていないが、竜胆とは会わず逃げ切れたのかな?

もし会ったとしたら昨日の食堂でその話題が出るはずだしな。

 

「あのさ…ごめんね。昨日は」

「…え? 急にどうしたんだよ。ごめんねなんて」

「ほら、昨日はポスターの事とか、色々あったじゃん? だから、その事で…」

 

……まさか、ユイが普通に謝るだなんて思っても見なかった。

普段はあんな活発的で尚且つ毒舌ばかり吐いているのにだ。

何だかんだで素直な所もあるんだな。

 

「あぁ~……別に気にしてないって。竜胆に関してはもう前から絡まれまくってるし。昨日みたいなアホ騒ぎはあれで初めてって訳でもないだろ?」

「そうだけど……」

「だろ? だからユイが気にする事じゃないって。今日はせっかくのライブなんだから楽しく行こうぜ。」

「……うん、そうだね。そうだよね! べ~っつに岡野さんが何回生徒会に捕まっても気にしなくても良いよね~、岡野さん鈍臭いし!」

 

さっきまで沈んでいた顔とは打って変わり、いつもの明るい表情になり、それと同時に俺に対する暴言を吐き捲くるのであった。

……まあ、口を開くとアレだが、変に気まずくなるよりはマシだろう。

 

「鈍臭いのは余計だっての! それより、前の列進んでるから早く行かないと」

 

俺が前の列に指差して言うとユイはホントだ、と言って前の方へ向いて列の間を詰めたので後ろにいた俺も前に進む。

一番前に着くまではユイのガルデモ話や、お互いに最近あった面白い話で退屈な時間を潰し、最前列に着いてユイが本日のオススメ定食を頼み、食堂のおばさんが料理を持ってくると、ユイは友達と食べる約束があるらしく、小走りでその場を去っていく。

まだある程度の時間の余裕があるにしても早めに仕事を終わらすために、俺はオムライスの並を1つだけを頼み、すぐに平らげる。

食い終えたオムライスを返却口に置いて体育館に戻り、今度は機材をそれぞれの場所に配置する作業を開始する。

オペレーション・トルネードで何度も機材準備、片付けをしているので配置場所は完全に頭の中で把握している。陽動部隊の雑用は伊達じゃない。

 

「コイツで………終わりッ。」

 

最後の配置場所に置き、ステージから降りておかしいところがないかステージ全体を確認する。

特におかしな点は見当たらず、我ながら完璧な配置だと心の中で自分自身を褒める。

 

「あとは岩沢さん達の楽器くらいだけど……」

 

7時のライブに向けて練習をしていると思うのだが、楽器も俺が持っていかないといけないのだろうか。

 

「本人達に聞いてみないとわからないか。」

 

念の為に聞いておいて損はない。これで持っていくという事になっていたらゆりにどんな目に遭わされるやら……。いや、それよりも竜胆の方が気になる。

俺が楽器を持っていくという事になって、その持って行っているところを見られたら何を仕出かすかわからない。

岩沢さん達の楽器だという事を説明しても問答無用で襲い掛かる可能性だってある……というより襲い掛かる光景しか浮かばない。そう考えるとガルデモの練習場である空き教室に行くのが怖くなる。

 

「俺の考えすぎであって何も起こりませんように……」

 

誰もいない体育館で小さく呟き、俺は体育館を後にして空き教室へと足を運んだ。

 

 

【学習棟A棟 空き教室】

 

先ほどまで鳴り響いていた音楽は、俺が空き教室の扉前に来たと同時にピタリと止んだ。偶然にしてはナイスすぎるタイミングだ。

一応竜胆が近くにいないか左右の廊下を見渡し、誰もいないのを確認して俺はドアを開けず数回ノックをして、今入って大丈夫か尋ねる。

すると入って構わないよと、ひさ子さんの声が返してくれたので空き教室に入る。

俺がドアを閉めると、椅子に座っているひさ子さんが一番先に口を開く。

 

「どうした岡野、何か用か?」

「あ~、用というかちょっと確認したい事があってね。」

「確認?」

 

入江さんの言葉に俺は頷く。

 

「皆が使ってる楽器って俺が持っていくのか皆が持っていくのかがわからないからそれを知りたくて来たんだ。ゆりにライブを準備一人でやれって言われたから」

「岩沢さんどうします? わたし的にはおかのんに持って行かせるに一票をいれたいんスけど――」

「いや、楽器はあたし達が持っていくからもう大丈夫だよ。」

 

関根さんの要望を無視して岩沢さんは自分達で持っていくと答えたので俺もわかった、と答えたのだが、入江さんが使っているドラムセットが目に入った。

 

「……ドラムセットぐらいは俺が持っていった方がいいのかな?」

 

ギターとベースギターとは違い、ドラムセットは収納ケースがあるとはいえ大きい。

なのでこれくらいは男である俺が持っていこうと思い、岩沢さんに問いかける。

 

「あー、大丈夫大丈夫。収納ケースの片方は関根に持たせる予定だから。」

「えぇっ!? わたしですかぁ!!?」

 

岩沢さんの代わりにひさ子さんが俺の問いに答え、ドラムセットの片方を持っていくのが自分だと聞いた関根さんは驚愕の表情をしており、頭の上にあるアホ毛も関根さんのリアクションに合わせてピンッ、と上に立っている。

 

「前もわたしが持ってったんですよ!? たまには岩沢さんかひさ子さんが持っていって下さいよぉ!」

「前に活動日誌をすっぽかした罰だ。」

「横暴だぁッ!! 異議アリッ!!!」

「……という事で、別に持ってかなくていい感じ?」

 

ギャアギャアと騒ぎながら抗議してる関根さんを横目に、俺は岩沢さんに確認をする。

 

「そう……なるね。ライブの準備は終わった?」

「終わった終わった」

「じゃあ、もうやる事はないかな。残りの時間は好きにして構わないよ」

「や~~~っと終わったぁぁ……」

 

岩沢さんから終わりの返事を貰い、俺は大きく背を伸ばし、大きく脱力をする。

ようやくゆっくりする事ができる……。

 

「それじゃあ、俺はお先に失礼するよ。あと、ライブ見に行くから」

「お疲れ、楽しみにしてな」

「お疲れ様、岡野くん」

 

岩沢さんと入江さんのお疲れの言葉を貰い、俺は空き教室を出て行った。

さて、これからどうしようかなー。




以上、29話でした。

いやはや去年の5月以降ずっと投稿していませんでした。
気長に待っていた方がいるか怪しいところですが、ほんっっとうに申し訳ありませんでした!
久々に投稿したのに少し短いです、はい…。


自分が投稿をしていない間に沢山のAB!小説が投稿されており、徐々にですがAB!小説が増えて何よりです。もっと増えないかなー
恐らく次回の投稿も遅くなると思います。何度もしつこいですが、本当に申し訳ありません……(汗)

それではまた次回

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