気づいたら知らない学園にいました   作:椎名

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ちらほらと戦線メンバーが出てきます


3話 勧誘

「ねぇ、聞きたい事があるんだけどいいかしら?」

 

彼女、仲村ゆりは今俺が座ってるベッドの隣に座ってくる。といっても少し間は空いてるからな?

 

「聞きたい事? 俺が答えられる範囲なら」

 

「そう……じゃあ、あなた、いつからこの学園にいたの?」

 

「いつから?」

 

いつからと言ってもどう答えればいいのか困る。

気づいたらこの学園にいて、気づいたら学園生活を送っていたから。

 

「答えられないの?」

 

「いや、どう答えたらいいかわからなくて……。いつの間にかこの学園にいた訳だし…」

 

「じゃあ、この学園に来る前の記憶は?」

 

「ないよ。記憶喪失なのかもしれないから病院に行こうと思ったけどここから出られないし…」

 

「……そう」

 

質問に答えていると彼女は一人で何か納得している様子だ。

さっきの質問には何の意味があるんだろう。それに、彼女がしてきた質問は今俺が悩んでる事だった。

偶然なのか、はたまた、何かを知っているのだろうか?今度は俺が彼女に質問しようとすると

 

「ねぇ、さっきから――」

 

「あなた、戦線に入らない?」

 

いきなり戦線に入れと、訳のわからない事を言われ、俺は

 

「…………はぁ?」

 

と言った。そりゃあ意味不明な事を言われたらこんな態度を取ってしまうだろう。

 

「聞こえなかった?戦線よ、死んでたまるか戦線」

 

「いや、ちゃんと聞こえたけど……。戦線って何? しかも死んでたまるか戦線?」

 

「そう、死んでたまるか戦線」

 

名前からして入りたくない。というより入る意欲すら沸かない。

いきなり勧誘してきた意味もわからないってのに……。

 

「いや、お断りしたいのですが…」

 

「あたし達がこの世界の事を知っていても?」

 

「!!?」

 

今、何て言った?この世界の事を知っている…?

 

「お、教えてくれ!! ここが何処なのか、俺はどうしてここにいるのか、俺は何で記憶がないのか!!!」

 

俺は興奮気味に彼女に迫り、肩を掴む

 

「ちょ…! 痛いわよ………落ち着いて!」

 

「…あ、ご、ごめん……」

 

自然と仲村さんの肩を掴んだ手が力を強めていたみたいらしく、俺はその事に気づき、すぐに手を離す。

 

「落ち着いた? ちゃんと順番に教えるわ。ここは死後の世界。つまりあなたは死んでるのよ。それと記憶喪失はよくあることよ。ここに来て記憶喪失になってる人は何人か見てきたわ」

 

「……………」

 

「? どうしたの?」

 

流石にこんな嘘を言われても………なぁ?

 

「嘘をつくならもっとマシな嘘を付いて欲しかったよ……」

 

あぁ……今なら昨日会った遊佐さんの気持ちがわかるかもしれない。

聞く人を間違えたのかもしれないな……。

 

「嘘じゃないわよ、否定したい気持ちはわかるけど事実なのよ。順応性を高めなさい、そしてあるがままを受け止めるの」

 

「そうだねーオムライス美味しいよねー」

 

「コイツ……人が下手に出てるからって調子に乗って…!」

 

拳をわなわなと震えさせている。余程怒っているのだろう。

順応性高めても自分が死んでてここは死後の世界と言われても受け止められませんよ~~だ。

 

「ここが死後の世界だって普通信じられる訳ないじゃんか。何か死後の世界だっていう証拠か、証明できる事とかないの?」

 

「……一応あるわよ」

 

「え? あるの?」

 

「ええ、この世界では死んでも生き返るの。……というよりあたし達はもう死んでるから死ぬ痛みを味わう。けど時間が経てば元に戻るわ。あなたもその光景を見るか体験すれば嫌でも認めるでしょ?」

 

「俺、お好み焼きはソースはかけないでマヨネーズだけかけて食べるんですよ」

 

あーバカらしいバカらしい。

もう彼女の妄想話を聞くのも面倒になったので俺は適当な事を言うと

 

「どっせい!!」

 

とうとうキレたのか、彼女の右ストレートが俺の顔へ飛んできて

 

「かぴゅっつ!!!?」

 

俺は変な奇声を上げて吹っ飛ぶ。

パンチで人って吹っ飛ぶんだ…。こんな経験めったにないんだろうなぁ……。

俺の意識は途絶えた―――――

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

気が付くとそこは知らない場所だ、しかもソファの上に寝てたようだ。さっきまで反省室という名の牢獄に入ってたのに……。

 

「お、気づいた。お~いゆりっぺ、気づいたみたいだぜぇ!」

 

青髪の男が俺の方を見てからゆりっぺと言う人を呼ぶ。

 

「そんな大声出さなくても聞こえてるわよ」

 

聞き覚えのある声、身体を起きあがらせ、その声をする方を見ると

 

「おはよう岡野くん」

 

「……仲村さん。確か反省室にいたのに…」

 

そう、一緒に反省室にいた仲村ゆりだ。

椅子に寄っかかり、足を組んで堂々と座っている

 

「あなたが気を失ってる間にだして貰えたの。あたし一人じゃ無理だったから日向くんが運んでくれたわ」

 

そう言って青髪の少年に指差す。

彼が日向という事だろう。とりあえずお礼を言おう

 

「わざわざここまでありがとうな」

 

「なぁに、気にすんなって。困った時はお互い様ってな」

 

中々いい人そうだ。いつも変な事ばかりしている奴らでもこういう人もいるんだな。

 

「あ、それとあたしの事はゆりで構わないわ。みんなはゆりっぺって言ってるけど」

 

「いもっぺ?」

 

「フンッ!!!」

 

何処から出したのか、野球ボールが飛んできて俺の額にクリーンヒットする

かなり痛い……。頭がカチ割れそうだ…。

 

「“いもっぺ”じゃないわよ!! “ゆりっぺ”!!!」

 

「いや、どっちにしたって田舎臭い……」

 

「もう一度くらいたいかしら?」

 

「ゴメンナサイ…」

 

ゆりはもう一つの野球ボールを持ちながら邪悪な笑みを浮かべているので俺は即座に謝った。

…いい加減ここが何処なのか気になったので聞いてみよう

 

「ここって何処の部屋なんだ…?」

 

この学園はかなり広いし、一々あちこち回るのが面倒なのでまだ全ての場所が把握しきっていない。

 

「ここは元校長室だよ」

 

「今はあたし達、戦線が使ってるんだ」

 

最初に茶髪の少年が俺達がいる場所を教えてくれ、次に赤髪の少女がこの元校長室は自分達が使っていると説明してくれる。

 

茶髪の方の彼は特にこれといった特徴がなく、ごくごく普通の容姿をしている。

 

赤髪の方の彼女は制服の長袖を捲くっており、ギターを抱えている。……確かガルデモの人だっけ?

 

「確かガルデモの岩……岩沼さん?」

 

「岩沢だよ」

 

普通に間違えてた。少し恥ずかしい……。

 

「ガルデモを知ってるって事は前からここにいたのか?」

 

「まあ、そういう事になるかな?」

 

日向の質問に俺は曖昧な答えをする。

まあ、前からいたと言っても、約2~3ヶ月前ら辺だけど。

 

「前からいるのによく消えなかったなお前」

 

黒髪で目つきの悪い893的な雰囲気をだしてる男に言われる。消える?何のことを言ってるんだ?

 

「…ってそれより、ここが元校長室って事は……校長先生は?」

 

「追い出したわ」

 

こいつ悪魔だ、間違いなく悪魔だ。

 

「そんな事より岡野くん、結局入隊するの?」

 

入隊?あぁ、反省室の時に言ったあれか

 

 

『あなた、戦線に入らない?』

 

 

…なんて言ってたな

忘れかけてたがコイツらは銃を平気に使う集団だ。入ったら俺も戦いに繰り出されそうで怖いな………。

 

「いや……正直に言うと入りたくない…かな…?」

 

「む?何故入りたくないのだ?」

 

ちょっとトゲトゲしてる茶髪の身体が太い……というか大きい人が何で俺が戦線に入りたくないのか聞いてくる。

 

「だって、昨日生徒会長をハチの巣にしようとして銃を撃ちまくってたじゃん…。本物だし。それに、あんな戦いはやりたくないよ……」

 

「昨日って事はオペレーション・トルネードの時じゃねぇか」

 

オペレーション・トルネード?何だそれ?

 

「大丈夫よ、入隊したら必ずしも戦うって訳じゃないわ。

戦う以外にも陽動班の手伝いやギルドの手伝いとかがあるから」

 

陽動? ギルド? 知らない事だらけだ……。いや、知らないのは寧ろ当たり前か…。

 

「まあ、それは入隊したら説明するわ。それで、どうするの? 入隊する? しない?」

 

「……考えさせてくれないかな?」

 

「いいわよ、考えるならここ以外の場所になるけど」

 

「うっ……」

 

なんて奴だ……。

しかし、ゆりが反省室で言った事が真実なのかはわからない。

かと言ってここで断ったらまたあの生活に戻ってしまう。

あの生活に戻るくらいならいっそ……

 

「貴様かぁぁぁ!! ゆりっぺを侮辱した輩はぁ!!!」

 

「!?」

 

俺は慌てて扉の方へと振り向く。

紫色の髪の男が何か……って、ハルバートって奴じゃないかアレ!!?

 

「ゆりっぺ! 俺は反対だ、こんなもやしみたいな奴を入れアアアアァァァァァアアアァァッッッ!!!!!」

 

扉を開け、部屋に入ろうとする前に男の横から巨大なハンマーが振ってきて男は窓ガラスを破り外へと吹っ飛んでいった。

 

「ふ、吹っ飛んだ!! さっきの人外に吹っ飛んだぞ!!?」

 

俺は慌てて校長室の窓を開け、確かめる。

 

「うっ………!?」

 

校長室前の廊下にいた男の姿がそこにあった。

この高さから落ちたから助からないだろう

 

「あ~ぁ、あいつ何やってんだよ」

 

「ま~た落ちやがったぜあいつ」

 

日向と893モドキの人が呑気な台詞を言っている。人が死んだのにどうしてそんな事言えるんだ?それに『また』…? 他のみんなもやけに落ち着いている。

 

「何で……何でそんな冷静なんだよ!!? 人が死んだのに何で…!?」

 

「岡野くん落ち着いて、一度話したでしょ? 死んでも生き返るって。野田くんもその内したら戻ってくるわよ」

 

「まだそんな事を………!」

 

「まあまあ落ち着けって。アイツならちゃんと戻ってくるからさ。

ここは一旦待とうぜ? なっ?」

 

ゆりの淡々とした態度に俺は腹が立ち、大声で怒鳴りつけようとしたが、日向に止められる。

 

「……わかったよ」

 

俺は一先ず日向の言う通りにし、野田と呼ばれる死んだ男を待ち続ける事にした。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

結果、制服に血の汚れなどがあったが野田本人はピンピンして戻ってきた。

今度は吹き飛ばされずに済んだみたいだ。

今俺は信じられないと言うな表情をしているだろう。

正直俺はまだ死んでも生き返るなんていまいち信用できてない。だけど野田は戻ってきた。

 

「信じるようになった? ここが死後の世界って」

 

「……まだ完全に信じ切れてないけど、今は信じるよ。それと入隊の件だけど、入る事にするよ」

 

俺には記憶がない、せめて記憶が戻るまではこの戦線にいる方がいいかもしれないと思い、入隊する事を決意した。

入る事を告げるとみんなは歓迎ムードになった

 

「ようこそ、死んでたまるか戦線へ。歓迎するわ岡野くん。

じゃあ、今ここにいる戦線のメンバーを紹介するわ。

彼が日向くん。一応やる時はやるかもしれない男よ……多分」

 

「俺の紹介酷すぎませんか!? あなたッ!! ……オホン!俺は日向だ、これからは仲間なんだからわからない事があったら聞いてくれよな!」

 

ゆりの紹介にツッコミ、わざと咳払いをして、そういい、右手を差し出す

 

「俺は岡野弘樹、よろしく」

 

俺も右手を差し出し、お互い握手する。

 

「続いて彼は大山くん、特徴がないのが特徴よ」

 

「戦線へようこそ、岡野くん。仲良くやってこうね」

 

特徴がないのが特徴だと思っていたが本当にその通りだったとは……。

 

「彼は松下くん。柔道の五段だからみんなは敬意を持って松下五段と呼んでいるわ」

 

「よろしくな」

 

「あ、こちらこそ」

 

俺は松下五段と握手する。

うわ、やっぱ手もデカイな。…てか、学生で柔道五段を取るのって無理なんじゃなかったっけ?

 

「彼は藤巻くん」

 

「藤巻だ、よろしくな坊主」

 

「あ、うん。よろしく…」

 

ぼ…坊主って………。

あんたも俺と年変わらないでしょうに…。

 

「さっき本人が名乗ってたけど彼女は岩沢さん、陽動部隊のリーダーよ」

 

「岩沢だ、改めてよろしく」

 

「あ、こちらこそ」

 

「そしてあのハルバートを持っているのは野田くん」

 

「俺は貴様の入隊なぞ認めんぞッ!! ゆりっぺが入隊を認めたから何も言わんが、本当ならこのハルバートでギッタギタに……」

 

いろいろと危ない奴だ。あまり近づかないようにしよう……。

うん、それがいい…。

 

「あ、そういえば遊佐さんとくの一みたいな格好をしてる人がいないな…」

 

「遊佐さんと椎名さんを知ってるの?」

 

「あ、まあ…遊佐さんの方は成り行きで…。椎名って人はくの一みたいな格好をしてた人の事?」

 

「そうね、当たってるわ。椎名さんは何かしばらく修行に行ってくるといってそれっきり」

 

修行って……。

…って、それよりいくつか質問してみるかな、せっかくだし。

 

「あ、質問したいんだけど」

 

「何かしら?」

 

「そういえばここは死後の世界って言ってたけど、学生しかここに来ないのか?」

 

「そうね、基本ここに来る人は基本学生。それとこの世界ではみんな歳は取らないの」

 

まあ、死んでるのなら歳は取らないのかもな。

しかも学生限定の死後の世界か……、学生限定に何か理由でもあるのか?

 

「他に質問は?」

 

「何で生徒会長を殺そうとしてたんだ?あの人、別に悪い人でもないのに……」

 

「それは…彼女が天使だからよ」

 

「は?」

 

「あたし達の目的は天使を消し去る事。でなきゃこっちが消されるわ」

 

天使? あの生徒会長が? 別に羽が生えてる訳でもなければ天使の輪もない。俺たちと同じ人間だ。

それに消し去る? 消される?どういう事だ?

 

「この世界で学園生活を過ごすと消えてしまうのよ」

 

「き、消えるって……! 普通に学園生活をするだけで?」

 

「ええ、あたし達の仲間の何人かはそれが原因で消えたんだもの。ちなみに模範生のフリでも駄目よ」

 

だからこいつ等は授業も出ずに変な事をやっていたりしていたのか。

…でも待って欲しい、じゃあ何で俺は消えてないんだ?

されるとは言え普通に学園生活を過ごしていた。なのに消えずにここにいる。

そんな事を考えているとゆりは続けて喋りだす。

 

「あたし達がかつて生きていた世界では、人の死は無差別に訪れるものだった。だから抗いようもなかった。だけどこの世界は違う、天使に抵抗すれば存在し続けられる。抗えるのよ」

 

「抗って存在するのはいいけど……天使を消してどうするつもりなんだ?」

 

「天使を消し去れば、この世界を手に入れることができるのよ!」

 

世界を手に入れる…。

自分達を消そうとする天使……生徒会長を消し去ればいつまでも存在し続けられる。

邪魔者が消えればそれは楽園となる。

この戦線に入ってる奴らはみんな楽園を手に入れようと抗っているのか。

 

「だから、戦いましょう、共にね」

 

ゆりが手を差し出す。

俺はその差し出された手を

 

 

 

 

 

 

掴んだ

 

こうして俺は、死んでたまるか戦線へ入る事となった。

後に知る事になるが、最初は死んだ世界戦線という名だったとか…。




3話終了です。
ある程度話が進んだら主人公紹介を書こうと思ってます。

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