気づいたら知らない学園にいました   作:椎名

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26話 デビュー戦(笑)

この俺、竜胆零は今校長室まで足を運んでいる。

昨日あの岡野という馬鹿クソゴミモブ野郎からオペレーション・トルネードがやるという報告を聞いたからだ。

 

「ちっ! ったく、昨日素振りしてたのに誰とも会えやしなかったぜ!!」

 

そう、素振りの練習をしていたのだが誰とも会えやしなかったのだ。

これじゃあせっかく明日に向けて密かに頑張ってるアピールが意味ねぇじゃねぇか!!

 

「……っと、どうやら着いたか」

 

一人で愚痴ってる間に校長室前まで着き、ドアノブに手をかけようとするが、俺はある事を思い出す。

 

「――そういえば、ここ合言葉が必要だったな。確か『神も仏も天使もなし』」

 

校長室の扉前で合言葉を言って、俺はドアノブに手を掛ける。

…………ドアノブに触れて何も起きないという事は解除されたのだろう。

俺はそのまま扉を開けて部屋の中へと入った。

いるのはどうでもいい野郎共、岩沢、椎名、ゆりだ。

 

「来たわね、竜胆くん」

 

部屋に入ったばかりの俺にゆりは声を掛けてきた。

うん、いつも通りの可愛いゆりだな!

 

「よう、ゆり! あの野郎から報告を聞いたぜ」

「知ってるわ。昨日岡野くんが竜胆くんに報告をしたって連絡は聞いたから」

「…そうか」

 

……んだよ、あのクソ野郎もうゆりに連絡してたのかよ。

モブ如きがいちいち余計な事を言いたがっ………ん?

 

「そういや、アイツはいないのか?」

 

校長室の辺りを見渡すが、岡野のゴミが何処にもいないのだ。

なので一応ゆりにその事を聞いてみると

 

「ああ、もしかして岡野くんの事? ちょっとおつかいに行かせてるから今日はいないのよ。そもそも彼、陽動部隊の雑用だし」

「ふ~ん……雑用ね…」

 

なるほどな、あの野郎雑用だったのか。

ハッ、モブには相応しいじゃねぇか、雑用なんてよ!

 

「んじゃあ、そろそろ説明に入ろうぜゆりっぺ」

「そうね。では今回の作戦を説明するわ」

 

丁度いいタイミングに藤何とかの野郎が俺とゆりの話を割り込み、ゆりも作戦の説明を始めた。

藤壺の野郎………俺とゆりの会話を邪魔しやがって。

…まあいい、早く俺の実力を皆に知らせたいしな。

大活躍をすれば皆メロメロになる事に間違いなしだぜ!!

 

「―――という事で、竜胆くんと音無くんは第二連絡橋で待機して頂戴」

「またあの場所か……」

 

――っと、どうやら話が進んでたみたいだな。

どうやら俺は音無の野郎と同じみてぇだ。

ホントなら一人の方が奏と話しやすいし、何よりも二人きりになれるから拒否したいとこだが、んな事したら確実に怪しまれる。

ここは何も言わねぇでおくか。

 

「なぁに、心配しんな音無! またそっちに天使が来ても俺らがすぐに駆けつけてやっからよ」

 

日向の野郎は音無の肩を優しく掴み、余った方の腕は自分の腕にドンッ、と軽く叩いてウィンクをする。

そんな日向の言葉を聞いた音無の返答は

 

「これなのか?」

 

と自分の左手の甲を右頬に当て、やや引き気味の表情をする。

 

「違ぇよッ!! ちゃんと俺『ら』って言ったじゃねぇか!?」

「えぇッ!? 俺『ら』って事は僕達日向くんに何か意味深な事されてから音無くんと合流するって事なの!? 男の人に襲われるなんて僕嫌だよぉ!!」

 

大山は怯えながら半泣きになり、日向との距離をジリジリと離している

どうやらコイツの口ぶりからすると日向のホモと同じ班みたいだな。

 

「何もしねぇよ!! どうなったらそういう話になんだよ!!?」

「なぁゆりっぺ。俺と大山を他の班に移動させてくれねぇか? コイツと一緒にいると何されっかわかんねぇからよ」

「そうね。じゃあ藤巻くんと大山くんは高松くんの班に――」

「何!? あなた達俺をボッチにでもさせたいんですか!!?」

「あさはかなり……」

 

……っち、うっせぇ野郎共だ。

これが女性達の戯れだったらどれだけ嬉しい事か。

あ~あ~、早く皆とイチャイチャしてぇなぁ~。

 

 

――――――――――――

 

 

竜胆が校長室にいる同時刻―――

 

「えぇっと、ゆりから貰った地図だと……このまま真っ直ぐか」

 

ゆりが書いたのか、それとも他の者が書いたのかはわからないが、手書きの地図を頼りに岡野は懐中電灯を灯し、一人暗闇に包まれた場所を進んでいる。

 

「……しかし、このタイミングで予備の弦が切れてるとかタイミング悪すぎるだろ」

 

そう、それは作戦会議集合1時間前の事だ―――

 

 

――――――――――――

 

 

「ギターの弦が切れた?」

「そう、岩沢さん達から聞いた事だけど軽く演奏をしてたらプツン、とね。張り替えようにも丁度弦がないのよ」

 

無線機を通して突然ゆりに呼ばれた岡野は校長室へ行くと、その内容はこれからのライブに控えてる岩沢のギターの弦が切れてしまったの事だ。

作戦会議集合が1時間以上前だからか、まだ誰も来ておらず校長室にいるのは深く椅子に座っているゆりと、その向かい側に立っている岡野の二人だけだ。

 

「だから俺にその弦を取りに行けと?」

「そういうこと。話が早くて助かるわ。場所はオールドギルドなんだけど、あなた場所知らないでしょ?」

「オールドギルド? 確かギルド降下作戦の時にチャーさんが言ってた……」

「そう、よく覚えてたわね。話は戻すけど、あなたにオールドギルドの場所を知らないでしょ?」

 

ゆりはそう言って椅子の引き出しから二枚の紙を取り出し、それらを岡野に差し出す。

 

「ん? これって地図と……」

 

岡野はその二枚の紙を受け取る。

片方の紙はオールドギルドの道のりまで記された地図だとわかるが、もう一枚は何やら沢山の事書き記されている紙だった。

 

「岩沢さん達が、「どうせ弦を取りに行くなら他のもついでに取って来てくれ」って言っててね」

「……際ですか」

「あっ、ちゃんとギルド側には話は通してあるから大丈夫よ。その紙を見せればすぐに持ってきてくれると思うし。それと暗いだろうからコレ、懐中電灯ね。それじゃあ頼んだわよ~~」

 

 

――――――――――――

 

 

(思えば、ギルドの人達ってずっと地下に篭ってるのかな?)

 

会話する相手もおらず、一人暗闇の地下を歩き続けているからか、ふと疑問に思った事を考え始める。

 

(こんな息苦しいところにいたら身体壊すんじゃないか? 下手したら病気……って、ここは死後の世界だから関係ないか…)

 

考えれば考えるほど、地下にいるギルドの人達が心配になってきたが、ここが死後の世界なのだと思い出すと自分が先ほどまで考えていた事が意味のない事だと悟った。

それからもちょっとした疑問や、どうでもいい事を何度も自問自答をしながら地図に記された通りに進んでいくと、今まで自分の足音以外静寂だった空間の遠くから何かの音が聞こえてきた。

 

「……という事は、オールドギルドはもうすぐか」

 

紙をポケットにしまい、音がする方へ小走りをする。

音のする方向へ近づくにつれて音も騒がしくなり、やがて人の声までもが聞こえ、そしてオールドギルドへとたどり着いた。

 

「ここがオールドギルドか……」

 

かつてのギルド降下作戦で見た光景とは違って工場らしき建物はなく、場所も最下層と違って広いというわけでもない。

見てもわかるくらいに色々と不足している物があるのだが、そんな状況も気にしていないくらいに活気よく作業をしている人達の姿があった。

 

(……っと、今はのんびりとギルドの作業様子を見てる訳にはいかないや。早く弦を貰って戻らないと)

 

ゆりが話は通してあるとは言っていたが、果たしてここにいるギルドメンバーは全員知ってるのだろうか…?

少しの不安が浮かんでしまうが、結局は誰かに話しかけないといけない事に変わりはないので近くにいる作業員に声を掛けた。

 

「あの~、すみません」

「ん? 何か用か? 今忙しいから早くしてくれよ」

「えっと、これを取りに来たんですけど……」

 

岡野はゆりから貰ったもう一枚の紙をポケットから取り出し、作業員に見せ、作業員はその紙を手に取る。

 

「……あぁ~、ゆりっぺが言ってた雑用ってお前の事か。わかった、今からチャーさんにコレ見せに行って来るからそこで待っててくれよ」

「あ、わかりました」

 

岡野が軽く頭を下げて了承すると、作業員は小走りをし始め、チャーがいると思われる方向へと向かっていった。

数分経つと、先ほどの作業員が走って行った方角からチャーが大きめのリュックサックを背負い、こちらへと近づいてきた。

 

「待たせたな新入り、話はゆりから聞いた。これを持っていくといい」

 

チャーはそう言うと、背負っていたリュックサックを岡野に手渡し、岡野はそれを受け取るのだが

 

「うげっ……!?」

 

想像していたよりも重かったのか、片手だけでは持ちきれず、リュックを地面に落としてしまいそうだったが素早くもう片方の手で掴み、リュックを落とさずに済んだ。

 

「こ、これ……何か重くないですか…?」

 

重々しいリュックをややぎこちなく背負い、チャーに重い理由(わけ)を聞く。

 

「あぁ、その中に入ってるのはガルデモの頼んだ道具だけじゃないからな」

「え? じゃあ、他に何が入ってるんですか?」

「ゆりが頼んだ物(ブツ)だ。少し銃が欲しいとか言ってたからついでに入れといてくれと言われてな」

「そ、そうですか……」

 

その事を早く言って欲しかったと思う反面、こんなに重いリュックを片手で軽々と持ち上げていたチャーの腕力が凄まじいと思った。

 

「それと、これをやろう」

 

チャーが作業服の内ポケットから何かを取り出し、それを岡野に差し出す。

 

「……拳銃?」

 

チャーは岡野に差し出した物は拳銃だった。

 

「でも、俺は陽動班だから天使とは……」

「念には念という奴だ。前にギルドに来た時みたいな事もあるかもしれんからな。使わないのなら他のメンバーに渡せばいいさ」

 

チャーは岡野の手を掴み、拳銃を無理やり手に置いた。

 

「……では、ありがたく受け取ります」

「随分と律儀な奴だな……。まあいい、早く戻った方がいいぞ。あまりダラダラしていると作戦に支障が出るからな」

「そうですね。それでは失礼します」

 

チャーに軽い一礼をすると、岡野は地上へ戻るために急いで走り出していった。

しかし、これから労働地獄が待っているとは、この時の岡野は知る由もなかった――

 

 

――――――――――――

 

 

【第二連絡橋】

 

「早く現れねぇかなぁ、かな……いや、天使は」

 

この場所に待機して早10分は経った。

未だに奏の姿が見当たらず、俺は何度も足踏みをしながら奏が来るのを待っている。

 

「正直俺は来て欲しくないんだがな……」

 

警戒をしているのか、音無はあちこちを見渡しながら奏が此処に来て欲しくないと願っているみてぇだ。

まあ、正直コイツの戯言なんかどうでもいいがな。

 

「ハァ……ハァ…ハァ……ッ」

 

後ろからやけに荒々しい息声が聞こえ、振り返ってみると、そこには今日一切見なかったクソ岡野の姿があった。

大きな荷物を背負っており、おぼつかない足取りをしながらこちらへと近づいてくる。

 

「お、岡野? どうしてここにいるんだよ! 陽動班は食堂でライブの準備をしなきゃいけないんだろ?」

「ハァ…ハァ……。あ…新しい武器を……み、皆に渡すよう…ゆりに……頼まれて…」

「新しい武器だぁ?」

 

モブは疲れ果てた顔をしながら背負ってあるリュックを地面に置き、音無に新しい銃を渡し、俺にも銃を渡した。

正直銃なんて使う機会はねぇと思うが、まあ適当に内ポケにでも入れとくか。

 

「じゃあ……他の人にも渡さなきゃいけないからこれで……」

 

武器を渡し終えたカス野郎は再びリュックを背負い込み(しょいこみ)、身体をフラフラさせながらこの場から去っていった。

 

「だ、大丈夫なのか? 岡野の奴……」

「ハッ、雑用なんだからどうだっていだろ? あんなクソ」

「お前……! 何でそんな事しか言え―――」

「……来たッ!」

 

俺の言葉が気に入らなかったのか、音無は俺に怒声を浴びようとしたのだが、俺の目は既に連絡橋の方へ向いており、その連絡橋には一人の少女を見つけ、俺は音無の怒声を遮った。

その少女の名は立華奏。小柄な体型をしており、瞳は金色に輝いており、夜の満月に浴びているからか背中まで伸ばしてある艶やかな銀色の髪は美しく輝いている。

 

「……ッ! ま、また来た…!!」

 

音無の野郎はようやく奏の存在に気づき、慌てて銃を奏に向けて構えだす。

あのアホモブが来るまであちこち警戒してた癖に慌ててやんの。この俺に文句言おうとしてっからこうなんだよバカが。

 

「おい音無。テメェは手ぇ出すな。天使は俺がやる」

 

俺は音無が構えてる銃を手で掴んで下に降ろし、前に出る。

 

「なっ……!? 何馬鹿な事言ってるんだ!! お前が思っている以上に天使は危険――」

「うっせぇッ!!!」

「うっ…!?」

 

音無の奴がゴチャゴチャとうるさいので俺はモブから受け取った剣を音無の首元に突きつけると、奴は怯んだ。

 

「これ以上何か言うと先にお前の首を跳ねるぞ……。わかったか?」

 

俺はそう言うと音無の首元に突きつけてた剣を引っ込み、鞘にしまいこむと奏の方へと歩く。

音無がいるところとそれなりに距離があるはずだから話し声は聞こえないだろう。

俺はそれを確認すると、奏に話しかける。

 

「よう、奏」

「あなたは確か……竜胆くん?」

 

奏は可愛らしく首を傾げて俺の名を呼んだ。

くううぅぅ~~!この仕草がめっちゃかわええ!!

 

「今から食堂にでも行くのか?」

「………」

 

奏は返事こそしなかったが、コクリと小さく頷く。

 

「今さ、食堂でライブをしてるんだよ。それが終わるまでここで一緒にのんびりしないか?」

「………」

 

今度は首を横に振る。

 

「無断でライブを行うのは校則違反だから…」

「そんな事言わないでさぁ。今回ぐらい見逃してくれないかなぁ?」

 

俺は甘い言葉で奏に頼み、肩を掴もうとすると

 

「……Guard Skill Hand Sonic」

 

と小さく呟き、奏の右腕から刃が現れる。

俺はそれを見た瞬間、すぐに奏との距離を取り、元々持っていた自分の黒剣をいつでも鞘から抜けるよう構える。

 

「これも生徒会長も務めだから、邪魔をするなら……」

「……本当なら君とは戦いたくなかったんだが、仕方ない。俺にも守りたい者がいるんだ。可哀想だけど、ここは通さないぜッ!!」

 

俺は鞘から黒剣を取り出し、上空(そら)に向けて剣を差し、そのあと戦闘態勢に入る。

やっべぇよ! マジやっべぇよ!! さっきの台詞といい、ポーズと言い、俺決まりすぎだろ! 我ながら惚れ惚れしそうだぜ!!

 

 

―――と、竜胆が自画自賛してる中、音無は。

 

(な、何なんだアイツ……? 話してる内容こそわからないが、天使に馴れ馴れしく話していては剣を上に向けあた後変な構えをして……)

 

竜胆と天使の会話内容を全く知らない音無からすれば、竜胆のやっている行動がとても痛々しく見えており、それと同時に呆れてもいた。

 

 

「どおおぉぉぉりゃああぁぁッ!!!!」

 

俺は地を蹴り一気に奏との距離を詰めて右手に持っている黒剣を振り上げ、奏に目掛けて力いっぱい振り下ろす。奏は後ろへと飛び、俺の攻撃を躱した。

力いっぱい振り下ろした剣は当然地面を思い切り叩きつく事になるが、俺の余りの力に地面が軽くだが粉砕し、コンクリートの欠片が散らばる。

俺は少し地面に刺さってしまった剣を引っこ抜き、それを肩に担いで奏の方に向き直す。

 

「よっと……。見たか奏? これが俺の力だ。これを喰らえば奏も只じゃすまない。だからここは大人し――!?」

 

俺の忠告を無視したのか、はたまた聞く前だったのか。

奏は此方へと走りだし、ハンドソニック(右腕の刃)を構えて俺の胴体目掛けて鋭い突きを放した。

反応こそは遅れたが、まだ充分に避ける事が可能だった。

俺は身体を横にずらし、奏の突きを避ける事に成功したが、避けた後の風圧が俺を襲い掛かった。

 

「うぉ……ッ!?」

 

急な風圧が俺に襲い掛かってきた事にビックリこそしたが、言う程強いモノではない。軽い風が流れたようなものだ。

恐らくさっきの風圧は奏の突きによって生まれたものだろう。

気を改めて奏に目を向けると、奏は既にハンドソニックを俺目掛けて斬りかかろうとしていた。

俺はそれを受け止めようと黒剣を自分の目の前に出す。

 

「ぐ……ッ!?」

 

予想をしていたより一撃が重く、片手では耐え切れないと察した俺はもう片手を使ってどうにか受け止められ、奏のハンドソニックを適当に弾き、今度は俺が奏に攻撃を仕掛けた。

上、中、下、様々な箇所から斬りつけ、奏はそれらを全て受け止めている。しかし、全てはこの俺の計算通り。

 

「つぇぇぇえいッッ!!」

 

黒剣を両手で力強く掴み、俺は腰を低くして奏の身体目掛け、相手を吹き飛ばすぐらいの勢いで下から斬り上げる。

当然、奏はその剣撃をハンドソニックで受け止めようとするが

 

「!」

 

俺の斬り上げ攻撃を受け止めきれず、右腕が肩より上まで挙がり、奏の胴体に大きな隙ができた。

俺が奏を斬ろうとすれば当然奏は右腕のハンドソニックで防ぐ。

何度も受け止めれば徐々に腕の感覚が痺れていくはず。俺はそれを狙ったのだ。

その結果、奏はさっきの俺の攻撃に耐え切れず、右腕が上へと挙がってしまった訳だ。

流石は俺。あったまいぃ~~!!

 

「うぉりゃッ!」

 

俺は剣の方向を側面に変え、大きく隙ができた奏の腹に平打ちを放つ。

本当だったらカッコ良く峰打ちをやりたかったのだが、あいにく俺が扱ってる黒剣は両刃だ。なので傷つけないで攻撃するには側面で叩く平打ちしかないのだ。

まあ、これはこれで決まった勝利だ―――

 

「……Hand Sonic VersionⅢ」

「は?」

 

俺は自分でも間抜けすぎると思える程の間抜け声を発してしまっていた。

左腕から精製される刃は右腕の刃とは全くの別物だった。左腕の刃は右腕の刃より長く、剣先は3つに分かれ、その形は正にトライデントだ。

奏はトライデント型のハンドソニックを俺が平打ちした黒剣の側面に思い切り突いた。

結果はなんと―――

 

「んなッ……?!」

 

何と、俺の黒剣の側面に貫通しており、奏は左腕を俺の黒剣ごと自分の方へ引き戻し、一度ハンドソニックを解除する。

貫通された跡が残っている黒剣は奏の手元にあり、奏はそれを川の方へと投げ捨てたのだった。

 

「これであなたの武器はなくなったわ」

 

奏は俺の方へと向き直し、今度は両腕から同時にハンドソニックを精製し、俺の方へとジリジリ近づいてくる。

こ……こんなはずじゃ……! まさか、俺の剣が破壊されるなんて……!!

 

(何か…! 何か武器になる物……あっ!!)

 

俺はモブ野郎の岡野から受け取った物を思い出し、急いで内ポケから銃を取り出してすぐ構え、引き金を引こうとすると

 

「Guard Skill Delay」

 

奏は残像を残すほどの速さで俺の目の前まで距離を詰め、銃口をバラバラに斬り裂いたのだった。

 

「嘘………だろ…!?」

 

奏はハンドソニックを振り上げる。このまま振り下ろせば俺は死ぬ。

そう思ったが、一発の銃声が大きく響き渡った。

 

「………」

 

その銃声と同時に、奏は大きく膝を着いた。

膝に銃弾の跡があり、そこから血が出てきている。

俺は後ろへ振り向いた。

 

「竜胆ッ! 早くこっちに来い!! 天使はすぐに起き上がるぞ!!」

 

そこには銃を構えてる音無の野郎の姿があった。

 

「テ、テメェ! 手を出すなと言った――」

「んな事言ってる場合かッ!! いいから早くッッ!!!」

 

俺は戦いの邪魔をした音無に怒声を浴びせようとしたが、俺の怒声は音無の更なる怒声によって打ち消された。

あ……、あの野郎…! 調子に乗りやがってぇ……!!

 

(……ウゼェがアイツの言うとおり、今は音無のとこに戻るっきゃねぇ…!!)

 

くっそぉ……!! 本当だったら勝ってたのに…! 平打ちなんかしなきゃ普通に斬って勝ってたのに…! 勝ってたのに勝ってたのに勝ってたのに勝ってたのに勝ってたのに勝ってたのに勝ってたのに勝ってたのに勝ってたのにぃぃ………ッ!!!!!

 

 

――――――――――――

 

 

【学園大食堂 内部】

 

「ッチ……!」

 

あぁ、イライラする……! あんな舐めプしなければ余裕で勝てたのによ…!!

あのまま斬れば俺の圧勝だったのによぉ……!!

 

「俺の圧勝…………いけねぇいけねぇ! 相手は奏だったもんな」

 

そうだ、相手は奏だったんだ。余りの怒りで相手が誰だったのか忘れてたぜ、危ねぇ危ねぇ~。

 

「ばあちゃん、とんかつ定食をひとつ」

「あいよ。ちょっと待ってな」

 

オペレーション・トルネードが終わり、俺はフードコートにいる。

あれから音無の奴が他の野郎共と椎名が来るまで一人で足止めをしていた。

んで、その音無の野郎は俺の少しの列で……

 

「音無くん凄いよ! 一人だけで天使の足止めをしたなんて!」

「そ、そんな事ないって。運が良かっただけさ。それに、岡野から貰った銃もあったってのもあるから俺の力って訳じゃないさ」

 

……と、一緒の列にいる童顔の大山にマンセーさせられてるみてぇだ。

んでマンセーさせられてる本人は謙虚(笑)な発言をしておられると。マジキメェ。

 

「確かトリモチランチャーだっけか? それに当たったらネバネバすんだっけ?」

「えぇ、粘着性がとても優れており、普通の人間なら力だけで取ろうするのはまず不可能です」

 

日向のホモの問いに高松の馬鹿は知的(笑)に眼鏡をあげてトリモチの説明をしている。まあ、ちょっと時間が掛かったとはいえ、奏は簡単に引き剥がしたけどな。

 

「そのトリモチランチャーというのは最近出来た物なのか?」

「いえ、そもそもトリモチランチャーは少し前にギルドで作られており、いくつかは完成していたのですが、以前の天使の襲撃によりギルドを爆破したため、完成してたトリモチランチャーはその爆発と共に失ってしまったのです」

 

続いてのデブ五段の質問を馬鹿松が再び眼鏡をあげて説明をした。

 

「あいよ、とんかつ定食お待ち」

 

食堂のおばちゃんが俺の頼んだとんかつ定食を出し、俺はそれを受け取って適当な席に座ると何と!

 

「ここ、座っていいかしら?」

「へ?」

 

俺の向かい側の席にはトレーを持ったゆりの姿があった。

当然俺はOKと承諾し、ゆりはありがと、と軽く礼を言って座り込んだ。

 

「で、どうだった? 天使と戦った感想は」

 

ゆりはトレーに乗ってる肉うどんを食べながら俺に天使と戦った感想を聞いてきた。

 

「まあ、中々強かったかな? 本気を出せば普通に勝てるぜ?」

「でも今日は殺されかけたって聞いたわよ?」

「うっ……! あ、あれはたまたま調子が悪かっただけだよ! たまたまな」

「ふぅ~~ん……たまたまねぇ~…」

 

ゆりはニヤニヤと意地悪な顔をして俺を見ている。

こんな表情をしてるゆりも可愛いぜ!! ……と言いたいとこだが、ぶっちゃけ最悪だぜ…。

本来なら今日のデビュー戦で奏を軽くあしらってゆり達の好感度を一気に鷲掴みするハズだったんだが、それができなかったんだからな…。

 

「ま、まあ! 次は俺一人で天使を追い払ってやるから安心しろよゆり! 俺もゆりと同じ打倒神だからな。それに、生前の頃は理不尽な事ばかりだったさ……。あれは――」

 

グフフフフ……。こうやってさり気なく自分の辛い生前の話をすればゆりは「そんなに辛い事があったのにそれでも神に立ち向かうなんて竜胆くん素敵!」ってなるはずだ。

今回が失敗したからって挫折する俺じゃあないぜ。目指すは俺だけの俺による俺のためのハーレムだからな!!!

 

 

 

竜胆が自分の不幸(嘘)話を勝手に語ってる間、ゆりはすぐに違う席へと移動をした事を、竜胆が気づく事はなかった。

 

ちなみに、岡野は地上へ戻った後何をしていたのかというと、岩沢達がいる空き教室へ向かい、頼まれた物を渡す。するとゆりから連絡が掛かり、食堂の外にいるメンバー達に武器を渡して来いと命令され、疲れた身体に鞭を打ちながら岡野は必死に食堂へと向かい、各自配置場所に待機してるメンバー達に武器を渡した。

これで終わりかと思った岡野だが、『鬼』・『悪魔』と呼ばれているリーダーのゆりはそうはさせなかった。

岡野が疲れている事をわかっていながら、更にいつも通りのライブ準備をするよう、ガタイの良い陽動メンバーを使い、彼を引きずりながら食堂へと強制連行をさせ、最早動かない身体を無理やり動かせ、ライブの準備とライブ終了後の後片付けをさせた。

全ての仕事を終えた陽動メンバーは皆食堂へと行き、夕食を食べるのだが、その中に岡野の姿はなかったとか。




以上、26話でした。

何かあれですね、今回はコロコロと視点が変わっているのでわかりにくかったかと思います。申し訳ありません…(汗)

あと戦闘描写のところもわかりにくかったかと思います…。
何かここのところ後書きで謝ってばかりな気が……

それと今回の話で出てきたトリモチランチャーは実際のAngel Beats! 本編ではありません。わかっていると思いますが念のためという事で

それではまた次回。

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