遊佐から竜胆のいる場所を教えてもらい、現在竜胆がいると思われる生徒会室付近まで来た岡野。移動してる間に今日の授業終了のチャイムが鳴り、廊下に生徒達がゾロゾロと現れる。そんな大勢の生徒がいる中、辺りを何度も何度も見渡すが、竜胆の姿は影も形も見当たらない。
(…生徒会室前にでもいるのかな?)
だとしたら万が一という事もあるので、見つからないよう少し遠く離れてる隠れられる壁に隠れ、両目どちらも4.0ある目を使って生徒会室前を見てみると
(あれ、まだいない?)
そこにはまだ竜胆の姿はなく、その代わりに見つけたのは生徒会室前に置いてある立て看板だけだった。
(何だろう、会議とかかな?)
生徒会が生徒会室に集まってやる事としたら生徒会会議ぐらいだろう。
もしかしたら他の事なのかもしれないと思いつつも、あの立て看板には何て書いてあるのかを知りたいという小さな興味心が岡野の中で徐々に湧き始め、生徒会室前まで足を運ぼうとするのだが
「おい、テメェ」
「!!?」
後ろから不意に声をかけられ、岡野は思い切り動転し、ゆっくりと背後を振り返る。
その姿と声の主は、岡野が明日の作戦を報告しようと探していて、その反面一番会いたくない人物、竜胆零だった。
「やっぱりテメェか…。何でこんなとこにいるんだよアァン!?」
竜胆は真紅色に染まっている瞳を大きく見開かせ、岡野の事を思い切り睨みつけてくる。その瞳はまるで見るだけで人を殺せてしまいそうだと思わせる程の迫力と殺気が混じっている。
そんな竜胆の睨み付けを見た岡野は慌てて目を逸らし、何かされる前に作戦の報告をしようと口を開いた。
「ちょ……待ってよ! 実は君の事を探していたんだよ!! 明日の作戦があるからそれを伝えるために!」
「……あ? 明日の作戦? それってオペレーションの事か?」
“作戦”という言葉を聞くと、先ほどまでの竜胆の殺気に満ち溢れていた睨みはなくなっていき、平常な表情へと戻っていった。
「そ、そう。オペレーション・トルネードっていう作戦なんだけど……」
「ほう……ついにこの時が来たか……!」
岡野から作戦名を聞くと竜胆の口元はニヤリと浮かべ、グフフ、と奇妙な笑い方をしている。
~~~~~~~~~~
「ほう……ついにこの時が来たか……!」
来たぜ来たぜぇ、オペレーション・トルネード!! やっと俺の実力を見せれる時が来たようだなぁ!!
この作戦で大活躍をすればその活躍はあっという間に噂され、そしてその噂はもちろん女性メンバーの皆にも行き渡る。つまり! 俺の強さを知った女性達は俺の事を意識し始め、そのまま順調に好感度を上げまくれば―――
「グフ…グフ……グッフフフフフフ……!!!!」
想像しただけで笑いが止まらねぇ…! 娯楽場所がないとはいえ、歳を取らない世界っつうだけでも充分すぎるくらい最高だな。
「え~……、えっと……集合時間だけど…」
「あっ? あぁ~、そういやまだ時間聞いてねぇな。何時(いつ)頃だ?」
本来ならこんな奴と会話する前にぶっ飛ばすとこだが、んな事したら明日の作戦に出れねぇからな。今は我慢して会話してやっか。
「え? あ、16時前には校長室に集まるようにだって」
「4時に集合か…。おい! 今何時だ!!」
「い、今? 今はもう3時半ぐらいだけど……」
こうしてはいられねぇ、今すぐ何処かそれなりに人目のつくところで剣の素振りでもして明日の作戦に向けて特訓でもしてるアピールを見せねぇと!!
そうと決まれば早速行動だ! 俺はクズモブ野郎から用件を聞き終えると、すぐに駆け出して適当な特訓を開始するのだった。
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「な、何なんだ? 一体……」
作戦の報告をすると竜胆は突然奇妙な笑い方をし、以外な事に集合時間を聞いてきたり、時間を聞いたら何処かへと走って行ったりと、まさに台風のようだった。
「……でも、作戦の事を聞いたら突然大人しくなったよなぁ、竜胆の奴。しかもオペレーション・トルネードの事を知ってるみたいだし」
戦線に入る前から竜胆は戦線の女性メンバー全員……正確に言えば戦線に重要な女性メンバーの名前を知っており、本来なら今日初めて聞くはずの作戦名までも既に知っている素振りをしていた。
一時は天使が送り出した使者なのでは? という説が流れていたらしいが、あの過度な女尊男卑さを見てその仮設はあっさりと却下されたとか。
「ん~……。わからない事を考えても仕方ないか」
それにいつまでも生徒会室付近にいたら生徒会や天使に怪しまれるかもしれない。
なので生徒会室から離れるために移動をする岡野だが――
「何か忘れてるような……」
ピタリと足を止め、忘れている事を考えるのだが、その答えを見つけるのにさほど時間は掛からなかった。
「………あっ、日向だ!」
日向。彼も竜胆同様明日の作戦を多分知らない人物だ。
探しにいって報告をした方がいいかもしれないが、もしかしたら既に普段校長室に集まっている中の常識的なメンバーの大山、高松、松下五段、そして少し前に入ったばかりの音無の誰かが教えているのかもしれない。
「…でもやっぱり知ってるかどうかの確認はしよう」
やっぱ気になるし、と言葉を付けたし岡野はポケットから無線機を取り出し、再び遊佐に連絡をいれる。
『今度は何でしょう?』
「あ~……あのさ、今度は日向のいる場所を聞きたいんだけど大丈夫かな…?」
『日向さんでしたら―――』
――――――――――――
「―――ハッ!!?」
目を覚ますと、身体を勢い良く起こし、周りを確認する。
部屋には誰もおらず、自分の身体の上には白い布団がかけられており、下は白いシーツが敷いてある。
「……て事は、ここ保健室か」
自分のいる場所がわかると、日向は軽い溜め息をつく。
「てか、何で俺はこんなところに…?」
ここにいるという事は、自分は何処かで死んだのだろう。
長年の死亡経験をした日向はそう確信をして、自分の記憶を探り始める。
「確か今日、俺は校長室にいて……それでゆりっぺが遅く来て……それから俺をなぐっ―――」
そう、そのままゆりっぺに殴られて窓まで吹っ飛び、そのまま重力に吸い込まれて硬い地面に叩きつけられ、死んだ。
「……全く、リーダーになってもあの暴力的なところは相変わらずだなぁ」
やれやれ、と言葉を付け足し日向はベッドから降り、自分の上履きを履いて一先ず保健室から出ようとドアに手を伸ばす。
しかし、日向が自分でドアを開ける前に勝手にドアが開いた。
「あ、目覚ました?」
保健室前の廊下側には岡野の姿があった。
恐らく彼が自分より先にドアを開けたのだろうと日向は頭の中ですぐに理解できた。
「お、岡野? 何でこんなとこにいんだよ?」
「そりゃあ、お前をここまで運んだ張本人だもん。ほい、keyコーヒー」
「え? あ…サンキュ」
岡野は二つのkeyコーヒーを持っており、その一つを日向に渡し、日向は軽い礼を言って受け取る。
「ここまで運んだ張本人って事は、お前が一人で運んだのか?」
さっきまで自分が眠っていたベッドへ戻り、日向は貰ったkeyコーヒーの蓋を開けながら既にkeyコーヒーを飲み始めている岡野に質問をする。
「ん~…まあね。正直、人一人を背負って保健室まで連れて行くのはホントしんどかったよ」
「だったら松下五段やTKとか力のある奴に手伝って貰えばよかったじゃねぇかよ」
「いや、そうしたかったんだけど……流石にこれ以上遊佐さんに頼るわけにもいかないなぁと思ってさ」
「は? 何でそこで遊佐が出るんだよ?」
「まあ、そこら辺も今から説明するよ」
岡野は日向がゆりのハイパー・メガ・カノンパンチを喰らって死んでいた後の事を話した。
ゆりのきまぐれで明日オペレーション・トルネードが決行する事。
明日の作戦をまだ知らないガルデモのリーダーである岩沢と問題児の竜胆に報告をした事。
死んでいる日向は明日の事を誰かに聞いたか、聞いていないかを確認するために探した事。
竜胆と日向を探すのを遊佐に手伝って貰った事を。
「――なるほどな。わざわざ俺の為にそんな事を……そんな事を………!」
話を聞き終えた日向は顔を下に俯かせ、喋るにつれて涙声になってきている。
「岡野ぉぉぉ!! お前はなんっっって良い奴なんだああぁぁ!!!! お前こそ俺の真の親友だぁぁぁぁ!!!!」
「ちょ!? ちょっと待って! わかった! わかったから腰にガッシリと抱きつくなって!! 暑苦しいから離れろって!! そして何か若干顔赤らめてない!!?」
死んだ世界戦線で最古参のメンバーでありながら戦線のメンバーの中で一番散々な扱いをされてきた日向からすれば、今回の岡野のちょっとした気遣いがとても嬉しく感じてしまい、思わず抱きついた。
岡野は何度も離れるよう日向に言葉を掛けるのだが、日向はそれを拒否し、寧ろ「お前を一生離さない」など、『コレ』なのか? と思われてもおかしくない発言を本人は自覚なしに、しかも大きな声で発した。
そんな大声で叫べば当然一般生徒、戦線メンバーの耳にも入り、その日は日向はもちろんだが、岡野も皆から『コレ』扱いをされてしまうのには30分も掛からなかった。
岡野はどうにかしてその誤解を解こうとするのだが、中々一筋縄ではいかなく、誰も信じてはくれなかった。
それでも岡野は諦めずに訴えた結果、明日の作戦が開始する前に誤解を解く事ができた。ちなみに日向はというと、前から『コレ』疑惑があったからか、岡野以上に難易度は高く、しばらくの間は誤解を解く事ができなかった。
余談だがこの騒動のおかげで岡野は少し間だけ日向を避けるようになったとか。
以上、25話でした。
にじファンの時にはなかった話をいれようと思うのはいいのですが、その所為で投稿速度が遅くなってしまうなんて本末転倒ですよね~……(汗)
それではまた次回。