気づいたら知らない学園にいました   作:椎名

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24話 ガルデモに報告

竜胆に報告するのは後回しにし、岡野は先にガルデモの皆に明日のオペレーションを報告するため、普段彼女達がバンドの練習場所に使っている空き教室へと向かっている。

今の時間帯は授業をしている時間なので、廊下や階段には誰もおらず、周りは静かだ。

 

「……あれ? そういえば音が聞こえないぞ?」

 

学習棟A棟の階段を昇っている時にふと気づく。いつもなら階段を昇る前に音が聞こえるはずなのに、今は何も音が聞こえないのだ。

 

(もしかして、今日練習がないとか…?)

 

いや、もしかしたら丁度休憩中なのかもしれない。それとも本当に休みだったりして……。

どちらにしろ、確認をしなければわからないので階段を昇りきった後、空き教室のドア前までたどり着き、岡野は二回程軽くノックをした。

 

「えーと……誰かいますか~?」

 

 

………………

 

 

答えは返ってこない。しばらく待ってみるがやはり答えは返ってこないようだ。

 

「……開けても大丈夫…だよな。本当にいないかどうか気になるし」

 

別に女子の着替えを覗く訳でもないので、開けてもしいたとしても文句は言われないだろう。そう無駄に自分に言い聞かせると、空き教室のドアに手を伸ばし、あまり音がしないようにゆっくりと開ける。

すると、後ろの方に机と椅子が寄せられている中、一つだけ席があり、そこには座っているのは岩沢だった。

足を組んでおり、指で机をトントン、とリズム良く叩きながら何か考え事をしている。

 

「あ、何だ、岩沢さんいたんじゃん」

 

「…………」

 

声を掛けたのだが、岡野の言葉が聞こえていないのか、岩沢は何も答えず、ひたすら何かを考え込んでいる。

 

(あれ、無視された……? というか何でわざわざ後ろの方にある机を引っ張ってきたんだ?)

 

座るだけなら椅子だけ持ってくれば良いのでは? そう思いふと机を見てみると、そこには一枚の紙とシャープペンシルが置いてあり、紙には何か歌詞らしきものと音符みたいなものが途中まで書かれていた。

 

「えっと……常識ぶってる奴が笑ってる、次はどんな嘘を言う――」

 

「――!!?」

 

思わず紙に書いてある歌詞を読み上げると、やっと気づいたのか、岩沢は驚きの表情ですぐさま岡野の方へ素早く振り返る。

 

「……何だ、岡野か。脅かすなよ」

 

知っている人だと認識したからか、岩沢は表情から緩み、小さく安堵の溜め息を付いた。

 

「あ、ゴメン。声を掛けたんだけど反応してくれなかったからさ。ところでその紙……」

 

「あぁ、これ? 見ての通り、今新曲を作ってんだ」

 

岩沢は机にある歌詞や音符が書いてある紙を取り出し、見せびらかすかのように紙をピラピラと動かしている。

 

「……でも、今はこの後の歌詞をどうするか悩んでるんだよね」

 

「ちょっと覗いたけど、まだ途中みたいだったからね」

 

「あぁ、今回はバラードにしてみようと思っててさ」

 

「ば、『ばらあど』……?」

 

音楽の知識がロクにない岡野にとっては聞き覚えのない単語を聞き、少々間抜けな発音をしてしまう。

 

「もしかして、バラード知らない?」

 

「え!? あ、いや、そんな事ないよ! し、知ってる知ってる!!」

 

「ふ~ん……。じゃあ、バラードって何だ?」

 

バラードを知ってると嘘を付く岡野だが、それが嘘だと岩沢は勘付き、すぐさまバラードの意味を岡野に問いかけた。

 

「うっ…! そ、それは……」

 

考えるような仕草を見せる岡野だが、当然意味すら知らないので答えられる訳がなく、ただ時間が経つだけだった。

 

「……じ、実は全く分かりません。知ったか言ってすみませんでした!!」

 

このまま黙っても仕方ないので、岡野は斜め45℃綺麗に頭を下げ、嘘言った事を素直に白状して謝った。

 

「素直で宜しい」

 

「……それで話は戻るんだけど、『ばらあど』って何?」

 

やや変な発音だが、岡野は改まってバラードの事を岩沢に尋ねる。

 

「そうだね……簡単に言えば静かな歌、と言えば言いのかな」

 

「つまりゆっくり歌うって事?」

 

岡野の答えに岩沢は「そういうこと」と言って軽く頷く。

 

「…ところで、何か用があってここに来たんじゃないのかい?」

 

「……あ」

 

バラードの話をしていた所為で本来の目的を忘れかけていたが、岩沢の言葉でその事を思い出した岡野は、すぐさま岩沢に明日のトルネードの事を報告した。

 

 

「明日……ね。そりゃまた急だな」

 

「まあ~……ついさっき決まった事だからね」

 

岩沢の言っている事がもっともすぎて岡野はあまり言葉が見つからず、そう答える事しかできなかった。

 

「わかった。他のメンバーはあたしが伝えとくよ」

 

「うん、何か急で悪いね岩沢さん」

 

「あんたが謝る事じゃないだろ? それに、歌が歌えるんだったら急だとしてもあたしは大歓迎さ」

 

迷惑どころか、寧ろ歌が歌えるなら大歓迎と言う辺り、彼女がどれだけ音楽に情熱を持っているのかがわかり、ひさ子や関根が音楽キチと言う気持ちも分かる気がしたが、死後の世界にいるにも関わらずそんなひとつの事にこれだけ頑張れる岩沢を見て岡野は純粋に凄いと思えた。

しかし――

 

(その反面、俺は…何をしてるんだろうな?)

 

岩沢の言葉を聞いて岡野はそう思い至った。

自分には岩沢のようにひとつの事に頑張れる物がない。

ゆりみたいに打倒神という目標すらない。

ユイみたいに憧れの人がいてその人を目標にして頑張れる事がない。

ただ時間が経てばいつかは戻るだろうといって自分から記憶を取り戻そうと行動をしようともしない。

せいぜい自分がやった事とすればギルドで敵である天使を避難させようと爆発の事を伝えようとして失敗したぐらいだ。

しかもその行動の結果、ゆりに注意を喰らう始末。

やってる事が半端な事ばかりだ。

岡野は自分の駄目なところばかりを考えているからか、岩沢の言葉を聞いてから黙ってしまっていた。

 

(……? どうしたんだこいつ? 急に黙り込んで…)

 

自分の言葉に反応せず、何故か黙り込んでいる岡野を見た岩沢は、足のつま先で岡野の膝を軽く突付いて声を掛けた。

 

「おい、いきなり黙り込んでどうした?」

 

「……あっ」

 

すると、岡野はハッ、と我に返ったような反応を見せる。

 

「あ……ご、ごめん。ちょっと考え事をしてて」

 

「考え事って、何の?」

 

「……えっと」

 

自分のダメダメさを考えていた、だなんて情けなくて言いたくない。

なので岡野は話を逸らそうと必死に他の話題を考えると、頭の中にふと竜胆の事を思い浮かんだ。

 

(……他に話のネタが思いつかないし、竜胆の事を話すか)

 

そうと決まると、岡野はすぐさま竜胆の事を話題にし出した。

 

「あ~、ちょっと竜胆の事をね。明日のオペレーションの事は岩沢さんに伝えたから次は竜胆に報告しなきゃいけないんだよ」

 

「竜胆? …………あ~、問題ばかり起こしてるっていう新入りか」

 

流石は野田をも凌駕した戦線一の問題児というべきか、あっさりと話題を変える事ができ、その瞬間だけ竜胆に感謝をする岡野だった。

 

「そういや新入りと聞いて思い出したけど、この空き教室に鍵ができるってさ」

 

「え? この教室に鍵が付けられるの?」

 

岡野の質問に岩沢は軽く頷く。

 

「練習中にも関わらずその新入りが入って来るんだ。あいつが来たら入江がすぐ怯えるから練習どころじゃなくなってね。だから次の日にその対策に空き教室に鍵を付けろってひさ子がゆりに抗議したって話」

 

「うわぁ……」

 

最早岡野はつっこむ気力すら湧かなく、口から出てくるのは小さな溜め息だけだった。

まさか鍵を付けるまでの支障をもたらしているとは思ってもいなかった。

 

(……というより、ここまで迷惑を掛けてる大問題児を俺は今から明日の報告をしなきゃいけないのか…)

 

そう考えるだけで岡野は億劫になってきた。

 

「…さて、あたしはそろそろ再開するかな。何か閃いてきたし」

 

岩沢はそう言うと、机の上に置いていたシャープペンシルを取り出し、途中までだった歌詞を書き始める。

 

「あっ、じゃあ俺もそろそろ行くよ。またね岩沢さん」

 

歌詞を書き始めている岩沢の邪魔をする訳にもいかないので、岡野は教室のドアまで移動し、出て行く前に岩沢に別れのあいさつを言う。

 

「あぁ、また」

 

向りむく時間すらもったいないのか、岩沢はじっと机の方を見ており、紙に歌詞や音符を夢中に書きながら岡野に短く返事を返すだけだった。

 

(かなり集中してるみたいだし、静かにドア閉めるか)

 

少しでも岩沢に歌作りを集中させるために、ドアを極力音を立てないようゆっくりと開け、閉めるときも音を極力立てないようゆっくりと動かし、岡野はすぐに空き教室から去った。

 

 

【学習棟A棟 1F 廊下】

 

1階の廊下を歩きながら岡野はゆりに殴り飛ばされた日向の事を思い出す。

 

(そういえば、日向も明日の作戦知らないよな?)

 

日向はゆりに殴られて下へと落ち、その間にゆりがオペレーション・トルネードを決行すると言ったので、その間に死んでしまっていた日向も竜胆同様、明日の作戦を知らないはずだ。

 

(だとしたら、どっちを先に教えといた方がいいかな?)

 

――いや、もしかしたら大山や音無が教えている可能性もあるかもしれない。

それと同時に教えるのを忘れているという可能性もあるが……。

だとすると先に竜胆にこの事を伝えて、その後に日向が明日の作戦を知ってるかどうかを確認するという順番の方がいいだろう。

 

(竜胆を探すにしてもどう探せば………あっ)

 

何か良い考えが閃いたのか、岡野はブレザーの内ポケットに仕舞っている無線機を取り出し、ボタンを押した。

 

「えっと……遊佐さん。今大丈夫?」

 

『岡野さんですか、何か用ですか?』

 

岡野が無線機で連絡を取ったのは遊佐であり、遊佐はいつもと変わらず淡々とした口調で話している。

 

「あのさ、竜胆のいる場所ってわかるかな?」

 

『…………』

 

竜胆という名を聞き、遊佐は思わず黙り込んでしまう。

 

「あ、あれ? 遊佐さん? 聞こえてる?」

 

『あっ…すみません。少々インカムの調子が悪いらしくて…』

 

竜胆の名を聞いて黙ってしまったなどと言えない。

なので遊佐はインカムの調子が悪いという嘘を付いた。

 

「あ、そうだったんだ。だったらゆりにその事言った方がいいんじゃない?」

 

『……そうですね。後でゆりっぺさんにこの事は伝えておきます。この事は誰にも言わないでくれませんか?』

 

そんな遊佐の嘘を岡野は疑うことなくあっさりと信じ、遊佐は嘘だとバレないよう岡野にこの事を口外しないよう頼み、先に「何故?」と言われる前にその嘘の理由を言うべく話を続ける。

 

『今回の事が他の人に知られたら今後の作戦などに、また今回の様な事が起きるのではないかと疑問に思われてしまうからです』

 

「…つまり、そんな疑問を持たれると作戦に支障が出るかもしれないから誰にも言うなって事?」

 

『はい』

 

嘘だと気づいていない岡野はそれらしい理由を聞き終えると、何ひとつ遊佐の言葉に疑問を感じていないからか、すぐに答えを返した。

 

「うん、わかった。この事は誰にも言わないよ」

 

『ありがとうございます。そうしてくれると助かります』

 

「いやいや、別にいいって。ずっと使ってたらいつか調子が悪くなるもんね。仕方ないよ」

 

『……そうですね』

 

本来はその様な事態にならぬよう、いくつかのインカムを用意しており、調子が悪くないかこまめにメンテナンスをしていると、常に万全と言っても過言ではない程のチェックをしているなどと、今の……今後の岡野が知る事はなかった。

 

『…それで、彼の現在地を知りたいのは明日の報告をするためですか?』

 

少々話がずれてしまったが、遊佐は先ほどの話が嘘だと勘付かれる前に本題へと入った。

 

「あっ、もうその事知ってたんだ」

 

『はい、オペレーターですから』

 

「そ、そうなんだ……」

 

よくわからないが突っ込まない方が良さそうだと思い、岡野はやや曖昧な答えをした。

 

「…で、さっきも言ったけど竜胆が今何処にいるかわかるかな?」

 

『……現在竜胆さんがいると思われる場所は生徒会室付近だと思われます』

 

「え? な、何で生徒会室……?」

 

何故よりにもよって敵である天使がいる可能性が高い生徒会室付近にいるのだと疑問に思ったのだが、その疑問はすぐに解決した。

 

『恐らく天使を口説いてるのかと』

 

「あぁ~……」

 

あの竜胆ならやりかねない。いや、やるだろう。岡野はそう純粋に思った。

 

「生徒会室付近か…。ありがとう遊佐さん、助かったよ」

 

『いえ、これもオペレーターの仕事ですから』

 

遊佐がでは、また、と最後に言うと通信が切れる。

 

「タイミングを見計らって竜胆に声を掛けないといけないな…」

 

恐らく口説いてる途中に話しかけたら怒り、その怒りを間違いなく自分にぶつけるだろう。天使と話していない時に出くわせばすぐに話すのだが、天使と話していたのなら彼女には気の毒だが、話し終えるまで待つことにしよう。

そう決まると、岡野は生徒会室付近まで早歩きで向かうのだった。

 




以上、24話でした。

自分なりに3人称視点で書いてると思うんですが、果たしてこれは3人称視点なのでしょうか? 正直そこが不安です…。

あと、何故遊佐が竜胆の名前を聞いただけで黙り込んでしまったかと言いますと、Heaven's Doorで遊佐は何やら男関連の過去を持っているので、その所為で黙ってしまったという勝手な解釈にしています。
本当ならこの事は話の間に入れたかったんですけど、どういう感じに混ぜればいいのかが上手くできないorわからなくてできませんでした…。 orz

今回の話は久々(?)の岩沢の登場でしたが、果たしてこんな口調で良かったですかね? もし違っていたら岩沢さん好きの方々、申し訳ありません!!


それではまた次回!

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