【河原】
金髪の男と決闘をする場は、一般生徒が来る事のない河原となり、相手は何時の間にか黒い剣を持っていた。
ちなみに俺とあの男以外にいるのは遊佐さんと音無、日向、大山、藤巻がいる。
皆の方をチラリと見てみると、遊佐さんは左手を左耳に当てており、口が動いている。
他のみんなは遊佐さんと話している感じではない。もしかして……
「おい! お前もさっさと武器を出せ!!」
金髪の男は怒鳴りだし、俺に武器を出せという。何? そんなに戦いたいの? バトルジャンキーなの?
「いや、武器なんて持ってないんだけど……」
「……テメェ、この俺を舐めてんのか…?」
俺が武器を持ってない事を知った金髪の男はかなりご立腹みたいだ。
そう言われても俺は非戦闘員なんだから持ってなくて当たり前だろ。つうか、持ってる方がおかしいんだよ普通は。
「……それで、決闘のルールは?」
決闘といっても、いろんな決闘があるし、ルールとかも決めなきゃいけないので、決闘といった金髪さんにルールはどうするのかを尋ねる。
「降参して負けを認めるか、死んだ方の負けだ!!」
「殺しもありかよ!!?」
「どうせ生き返るんだから構わねぇだろ?」
死んでも生き返る事を知ってるのかよ!?一体何者だよ、この人……。
「岡野、これ使え」
皆と一緒にいた藤巻は俺の近くに来て、いつも持ってるドスを渡してくれた。
「岡野、これもだ」
日向も俺の傍へと寄り、銃を俺に渡す。天使はいないのに持ち歩いてんのかよ!?
「いつ天使と戦う事になっても大丈夫なためにな!」
あぁ、際ですか……。
「というか、武器を渡すくらいなら止めてくれよ!」
「大丈夫だって、今遊佐がインカムを使ってゆりっぺ達を呼んでるみたいだからよ」
日向は顔を近づけて小言で話す。……やっぱインカムで話してたのか。つうか顔近い。
「じゃあ、ゆり達が来るまで時間稼げと…」
俺も合わせて小言で話す。つうか顔近い。
「そういうこった。まあ頑張れ」
うへぇ……無理だろう……。つうか顔近い。
「おい!! いつまでコソコソと話してやがる!!! そろそろ始めるぞ!」
相手も痺れを切らしたようで、再び怒鳴りだしたので、藤巻と日向は音無達がいる方へと戻っていく。
俺は藤巻に貸して貰ったドスをベルトのとこに上手く収まるようにしまい、銃を両手で持ち、構える。とりあえず当たらなくても銃があるとわかってるならそうそう突っ込んでこないはずだ。
「やっとやる気になったなぁ。そんじゃあ、始めェン!!?」
金髪の男が俺に襲いかかると思いきや、彼の頭の横にクナイらしき物が刺さり、そのまま倒れる。
「え!? 何!? 何が起こったの?」
俺が言いたかった事を、大山が代弁してくれ、音無も一体何が起きたんだ?という顔になってる。俺も今そんな顔をしていそうだけど。
「あさはかなり……」
「え? わっ!!? 椎名さん!?」
いつからいたのか、俺の横には既に椎名さんがいた。
「もしかして、あれを投げたのって……」
「私だ」
やっぱりか。あのクナイみたいのを投げるのは椎名さんぐらいだからもしかしてと思ってたけど、本当にそうだとは…。
「ゆりが遊佐から連絡があったと言ってな。私は先に此処へと向かったのだ」
「それにしては来るの早いね」
「あさはかなり」
いや、意味がわかりませんから。
「無事に間に合ったみたいですね」
椎名さんがあさはかなりと言って会話が終わると、遊佐さんがこちらへとやってきた。
「あっ、遊佐さん。わざわざ増援を呼んでくれてありがとう。あのまま戦ってたらどうなってた事やら……」
「…いえ、お礼を言われる程ではありません。……岡野さん」
「ん?」
「……すみませんでした」
遊佐さんが頭を下げて謝ってくる。
「ゆ、遊佐さん…?」
遊佐さんが頭を下げて謝るのを見て俺は戸惑い、何で頭を下げたのかが一瞬理解できなかったが、金髪の男の事で謝ったのだと理解し始めた。
「私のせいで、あなたを巻き込んでしまって……。私の不注意でした。あの様な軽率な行動が、こんな結果に招いてしまって…」
「え…えぇっと……」
こんな遊佐さんは初めてだ……。
俺はどうすればいいかわからず、戸惑う事しかできない。こ、ここは気にしてないよ! アピールor励ましだ。うん! そうと決まれば実行だ! 俺ッ!!
「……あ、あれだ! ドンマイだよドンマイ! 別に気にしてないって! 失敗は誰にでもあるんだからさ。ドン・マイケル!!」
「………」
俺は若干テンション任せで遊佐さんを励まそうとするが、最後の余計な一言で場の空気が凍った気がした。
「暴れたりしたら厄介だし、ロープとかで縛った方がいいな。椎名っち、ロープ持ってねぇ?」
「………」
椎名さんは無言で何処からかロープを取り出し、日向に渡す。日向はサンキュ、と言って金髪の男を縛り、黒い剣は音無が回収する事となった。
それらが終えた後、タイミングよくゆりと戦線の人達が来て、金髪の男をそのまま元校長室へ連れていく事となった。
あれ? 何でだろう。何か涙が出てきた。
――――――――――――
【元校長室】
「…さて、あなたの名前は?」
「俺は竜胆零(りんどうぜろ)だ。零と呼んでくれて! ゆり!!」
縄を縛られてるにも関わらず、爽やかな表情で自己紹介をする金髪の男。ゆりだけではなく、椎名さんの方も見てるし。あ、遊佐さんの方にも向いた。
三人共こいつ頭おかしいんじゃね?的な目で見ており、というか若干引いてるし。
残念なイケメンとは正にこの事か。
「……それで、竜胆くんはここはどんな世界なのかはわかってるの?」
あまりのアホさ加減にゆりは呆れながらも竜胆という男の事を名前では呼ばないで苗字の方で呼び、会話を進めようとする。
「零で構わないのに…。いや、まだ名前で言わせるのは早すぎたか? くそっ…! 俺とした事が……!!」
うわ…こいつ何かブツブツ呟き始めては自分の世界に入っちゃってるよ。
……ん? 待て、何でゆりの名前を知ってるんだ?コイツは…。
「……ねぇ、ゆり」
俺はゆりの元に近づき、小声で話しかける。
「…何?」
ゆりも合わせて声を小さくする。
「何であいつ……竜胆はゆりの名前を知ってるの? まだ名乗ってないよね?」
「えぇ、私もそこが気になってたのよ。遊佐さんも、名乗ってないはずなのに自分の名前を知っている事に驚いていたらしいわね……」
「遊佐さんも? ……謎が深まるばかりだな。もうこの世界では死んでも生き返る事も知ってては、剣を持っていたし」
「恐らくあの剣、自分で作ったんでしょうね」
「……だろうね」
戦線に入ってないのにこの世界では死んでも死なない事を知っていたり、剣を作り出していたりと、謎だらけの男だ。もしかして、ここが死後の世界って事も知ってるのか?
「……ハッ! おいテメェ!! 何ゆりに近づいてんだ! さっさと離れやがれ!!」
さっきまで自分の世界へトリップしてた奴がやっと我に返ったようだ。というか、何でまたあいつに怒られてなきゃいけないの? 俺
「静かにしやがれってのテメェッ!」
「あんま暴れんなって!!」
縄で縛られてるにも関わらず、暴れだす金髪の男を、藤巻と日向が二人掛りで止める。かなり暴れてるな……。
「とりあえず、一旦離れるよ…」
「……その方がいいわね」
俺はゆりの傍から離れると、金髪はピタッと暴れるのをやめる。
ようやく話す事ができるようになったので、ゆりは再び同じ質問をする。
「…それで、竜胆くん。あなた、ここがどんな世界なのかわかる?」
「ん? あぁ、ここは死後の世界だろ? 生前の記憶があるしな。だから俺は死んだんだって知ったんだ」
おいおい、いくら何でも順応性高すぎだろ。普通死んだとわかってもそう簡単認めないし、認めたくないだろう。ますます謎だらけだ、この金髪さん……。
「へぇ、珍しい奴もいるもんだなぁ~」
「黙れクソモブ」
順応性の高い竜胆を褒めた日向なのだが、暴言を吐かれて凄く落ち込んでしまった。どんまい、後で水道水奢ってやるから
「それ奢りじゃねぇだろぉ!!?」
「日向くん、うっさい」
「…はい」
ゆりの一言に日向は黙り、一度溜め息をついてゆりは話を再開した。
「……それで、何で遊佐さんに話しかけてたの?」
「いやぁ、俺まだこの世界に来たばかりだからこの学園を案内して貰おうと思ってな。それで遊佐を見かけたから案内して貰おうと思ったんだよ」
「ハッ、良く言うぜ。遊佐があんだけ断ってたのにしつこく何度もお願いしてたんじゃねぇか。学校の案内なんてただの口実だろ」
「ア? 何だこのかませ犬。お前俺の視界に入んないでくれる? ウザイったらありゃしねぇんだけど」
「んだとテメェッ!!?」
竜胆に暴言を言われまくった藤巻は完全に頭に血が昇り、ドスを抜いて竜胆の頭を突き刺そうとする。
「ふ、藤巻! ここは押さえて!! 押さえて!!」
「さっきから誰かが暴れてはそれを止める作業ばっかだなぁおい!!」
「離せ二人ともぉぉぉ!!」
俺が先に藤巻を止めに入り、次は日向も加勢して藤巻を止める。
「藤巻くん、落ち着きなさい! …あなたも、うちのメンバーにいちいち喧嘩腰にならないで」
「…っち。あぁ、すまないな、ゆり」
「全く……。それであなた、これからどうするの?」
「いやぁ、できれば戦線に入隊しようかなって思ってるんだ」
戦線の事まで知ってるのかよ!?そんな情報何処で手に入れたんだよ……。
こいつ、ホントにこの世界に来たばかりの奴か?
「何でも、今は天使と戦うのに人手が足りないらしいじゃんか? それに俺だってこのまま消えたくねぇし、神がいたらぶん殴りたいさ。俺戦力になるぜ?」
「………」
どうやら人手が足りない事まで知っているようだ。
竜胆の入隊希望を聞いたゆりは考えてるのか、目を閉じて沈黙をして、竜胆も含め、俺達はその答えを待つ。
「…………わかったわ。入隊を許可するわ」
「……何?」
「おいゆりっぺ! 正気か!? こんな奴を戦線に入れんのかよッ!!」
椎名さんは小さく『何?』と、顔はいつも通りクールな表情だが、驚いており、藤巻はゆりの入隊許可を反論する。まあ、あんな事言われたから当然反論するわな。
「今は人手不足だから一人でも多く欲しいとこなのよ。それに彼、自分から戦力になるって言ってたんだから腕に自身はあるんでしょ?」
「あぁ、剣の腕なら誰にも負ける気しねぇ! 戦いなら任せろ!」
椎名さんの投げたクナイであっさりやられたのはあえて黙っておこう。一応不意打ちみたいな感じだったし。
「音無くん、縄を解いてもいいわ」
「ゆり! いいのかよ!? また暴れるかもしれないんだぞ!?」
「安心しろ、そんなカッカと怒る俺じゃねぇよ」
音無がああ言うのもわかるな。でも大丈夫だろ、俺が女性陣に近づかなければ暴れないみたいだし。
音無は縄を解くと、竜胆は真っ先にゆりにへと近づき、手を握る。
「ちょ……!」
「これからはよろしく頼むぜ、ゆり」
竜胆はゆりをじっと熱い眼差しで見つめており、ゆりはある意味目のやり場に困っているのか、視線を合わせないであちこちを見渡している。
「え、えぇ……よろしく…頼――」
―――バンッ!!
「ゆりっぺぇぇぇぇ!!! そんな奴あああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
ドアが勢い良く開き、野田が現れたのだがすぐさまトラップで吹き飛ばされていった。
……だんだん誰かが死ぬ度に嫌な気分になってた抵抗が薄くなって来たな。生き返るとわかっているからかな?
…いや、感覚が麻痺してきてるんだ。どんなに死んでも死ぬことはない世界にいる所為で。
「……まあ、あのアホはほっといて…椎名も遊佐もよろしくな!」
竜胆はゆりの手を離すと、椎名さんのとこへ行き、ゆりと同じく手を握ろうとするがあっさりと避けられる。次は遊佐さんの方へ近づき、手を握ろうとするが、遊佐さんにも避ける。
「何だよぉ、照れなくてもいいのにぃ~」
うわっ、気持ち悪っ。椎名さんの名前まで知ってんのかよ。この調子だと、こいつガルデモのメンバーとユイの名前まで知ってんじゃないか? ファンクラブがあるくらいなんだし。
……こうして、謎だらけで残念で気持ちの悪いイケメン、竜胆零が死んだ世界戦線に加わる事となった。
以上、19話でした。
もっと厨二臭い名前にしようとしたんですけど、どうも思い浮かばなくてこんな中途半端な名前になりました。
“神”とか“闇”とかを使う名前にすればよかったかも……。
それではまた次回