気づいたら知らない学園にいました   作:椎名

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18話 下の名前と決闘と

【学習棟 中庭】

 

ギルドは結局爆破して天使と一緒に巻き込み、オールドギルドへ行ってギルドの奴らはそこで新たに武器作りを行う事となった。

天使を爆発に巻き込んだのはいいが、近くにいる岡野も一緒にその爆発に巻き込まれたのだ。

ゆりに助けなくていいのかと尋ねても、その内自力で戻ってくるだろうと言った。

岡野はギルドの存在こそ知ってはいたが、実際に行ったのは今回のオペレーションで初めてだったらしいので本当に戻ってこれるのか心配だ。

こんなところで適当に散歩なんかしてないで岡野を助けにいった方がいいのかもしれないが、入れ違いになるかもしれないし、今度は俺が戻って来れなくなるかもしれないので無闇に動く事はできない。ただ岡野が無事に帰って来る事を祈ることしかできな……

 

「あっ、音無! やっと見つけたよ~」

 

……どうやら祈る必要はなかったみたいだ。

俺が心配していた岡野が今こちらへと向かってきているからだ。

 

「お、岡野……お前、いつ戻ってきたんだ?」

 

「え?戻ってきたって?」

 

「そりゃあギルドから地上にだろう!!」

 

「いや……目が覚めたら何故か保健室にいたんだよね」

 

保健室に……? 誰かが岡野を地上まで連れてったって事か?

だとしたら誰なんだ?戦線メンバーの誰かか?

 

「まあ、そんな事より音無。下の名前思い出した?」

 

「え?」

 

突然岡野は俺の下の名前について聞いてきた。

いきなり話が変わったのと、思い出せてない名前の事を聞いてきたので俺は少々間抜けな声を出してしまった。

 

「……まだ思い出せてない感じなのか?」

 

「……そりゃあそうだろ。そんな簡単に思い出せたら苦労はしないって」

 

俺自身、早く記憶を取り戻したいけど記憶はそう簡単に戻ってはくれない。

同じ記憶喪失者の岡野だって知ってるはずなのに何故記憶の事を聞いてきたんだ?

 

「そう…だよね、ごめん……。でもさ、名前が思い出せなくても知る事はできるんじゃないかと思って音無を探したんだよ」

 

「名前を?」

 

「うん。自分の名前がしらなくてもここは学園なんだから探そうとすれば自分の名前を探せるんじゃないかな? それに、名前を知ったら記憶が思い出す可能性もあるかもしれないし」

 

「……なるほど」

 

言われてみれば確かに。ここは学校なんだから自分の名前だってあるはずだ。

自分の名前を確認する材料が沢山あるのにどうして自分から自分の名前を知ろうとしなかったのだろう、俺は……。

 

「それで……どうする? 自分の名前を探すのなら俺も手伝うよ」

 

「いいのか? 名前を探すくらいなら俺一人でも大丈夫だぞ?」

 

「いいっていいって、同じ記憶喪失同士なんだしさ」

 

……せっかく手伝ってくれると言っているんだ。ここはお言葉に甘えて手伝って貰おう。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

【Side―岡野弘樹/事務室】

 

まずは音無に事務室に行ったかを聞くと、まだ行ってないらしいので奨学金を貰うついでに自分のフルネームを尋ねるという作戦……とまでは言わなくてもいいか…。フルネームを尋ねるという案で行く事にした。ちなみに俺はただの付き添いという形で一緒に事務室にいる。

 

「えっと……すみません」

 

「はい、何でしょう?」

 

音無は事務室にいる40~50代くらいの男の人に声を掛けると、その人はきちんと返事を返してくれた。

 

「まだ今月の奨学金を貰っていないので受け取りに来たんですが」

 

「学年とお名前は?」

 

事務員の人は名簿を取り出し、学年と名前を確認してきた。

一応事務室に入る前に音無に学年は3年と教えたのだが、流石に自分が何学年なのかは知っていたみたいだった。

 

「3年の音無です」

 

「3年の音無…音無…音無……あっ、あったあった。確かにまだ音無くんは奨学金を受け取ってないみたいだね」

 

「フルネームで書いてありますか?」

 

「フルネームで?えっと……音無……結弦(ゆづる)さんって書いてあるよ」

 

音無“ゆづる”。珍しい名前だな、中々聞かない名前だと思うな。

 

「ちょ……ちょっと名簿見せてもらってもいいですか!!?」

 

音無は自分の名を知った瞬間、事務員の人が持っていた名簿を強引に奪い、自分の名前を確かめている。

 

「音無…結弦………。これが俺の名前……」

 

「……何なんだね一体。いきなり名簿を取って」

 

強引に名簿を取られたからか、事務員の人はちょっとムッとした顔になっている。

 

「あっ、す、すみません! えっと…その………そう! 彼って良く名前の漢字が間違われるから確かめたかったみたいなんですよ!」

 

「……そうか。確認したい気持ちはわかるが、これからはさっきみたいな取り方をしないようにと音無くんに言っておいてくれないか?」

 

「は……はい。本当にすみませんでした」

 

音無が名簿に釘付けしてる間に俺が代わりに謝り、どうにか咄嗟に思いついた嘘を事務員の人は信じてくれたみたいだ。

俺は再び謝ると、事務員の人は奨学金を取りに行くために少し席を外す。

少し経つと戻ってきて奨学金が入ってる封筒を俺が受けとり、音無の肩を叩くと、ようやく名簿から目を離して俺の方を見て、奨学金の封筒を受け取る。

俺と音無は事務員の人に一礼して事務室を出た。

 

「それで音無。何か思い出した?」

 

「…………いや、今のところは何も思い出せないな…」

 

「そっか……」

 

やはり名前を知ったぐらいじゃあ思い出せないか。

もしかしたらと思ったけど、そう甘くはないみたいだ。

 

「…でも、ありがとな岡野。わざわざ俺のために名前の事を教えてくれたり、一緒に事務室まで来てくれてさ」

 

「別に大した事をやった訳じゃないから気にしなくていいよ」

 

「いや、そんな事はない。俺は記憶を早く取り戻したいと思ってた。だけど自分から記憶を取り戻そうとする努力をしようとはしなかった。自分の下の名前だって、確認する材料が沢山あったのにそれを探そうとすらしなかったし、その案すら思い浮かばなかった。本当にありがとうな」

 

「お……大袈裟だって。そこまで礼を言わなくてもいいのに」

 

俺はそこまでいい事なんかしてないし、礼を言われる事なんかしていない。

俺はただ、嫌な考えから逃げるために記憶のない音無の名前を探すという案を利用した最低な奴なんだから……。

 

しかし、実際にそんな事を言えるはずはなく、俺はただ苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

【学園大食堂 内部】

 

もう昼頃になるので食堂へ行く事となり、俺と音無は二人で食堂に行くと、フードコートら辺に日向と大山と藤巻がいるのに気づき、あちらも俺らの事を気づいたみたいだ。

 

「おっ、音無と……岡野じゃねぇか! 無事に戻って来れたんだな~」

 

日向は笑いながらこちらへと近づき、俺の左肩を何度も叩く。

てっきり日向とかが俺を保健室まで運んでくれたのかと思ったんだけど、違うみたいだな。

音無も俺が地上に戻ってきてる事に驚いてたみたいだし……。

戦線メンバーじゃないとすれば、俺を保健室まで運んでくれたのはもしかして―――

 

「ねぇ、あそこにいるのって遊佐さんじゃない?」

 

「ん? あ~、ホントだ」

 

大山が指差し、その向けられた指の方を向くと、そこには確かに遊佐さんの姿があり、それを見た日向は納得したのだが、隣の席に男の人が座っている。

髪は金で真紅の瞳をしており、顔はすれ違ったら思わず振り返ってしまう程の美形だ。

そんな金髪の男は遊佐さんに何やら話しかけているみたいだ。

 

「あれ、ナンパなのかな…?」

 

「だろうな」

 

「でもNPCがあんな事するか? しかも戦線メンバーによ」

 

俺がナンパという案を出すと、藤巻は同意したが日向はNPCがナンパをする訳ないと否定する。

 

「ね、ねぇ……。早く助けた方がいいんじゃない? あの人、遊佐さんに近づいちゃってるよ…? このまま近づいたらキ……キキキスしちゃうよ…?」

 

「流石にキスはしないと思うけど……」

 

だが、金髪の男がどんどん遊佐さんに近づいてるのは確かだ。

どちらにしろ早く止めに行った方がいいだろう。

 

「とりあえず、早く止めに行こうぜ?」

 

「だな、さっさと追っ払って飯でも食うか」

 

日向と藤巻がそう言うと、俺達五人は遊佐さんと隣に座ってる男の方へと向かい、藤巻が金髪の男に話し掛ける。

 

「おいテメェ、ウチの戦線メンバーにナンパするたぁいい度胸だなぁ」

 

「……あぁ? 何だテメェ?」

 

藤巻は金髪の男にガン飛ばすように睨みながら言うが、金髪の男は藤巻の方を見てこちらも負けじと藤巻を睨み返した。

 

「俺は遊佐と二人で話をしてんだよ。関係のねぇクズ奴はどっか行ってろッ!!」

 

「んだとッ!!?」

 

「ふ、藤巻くん! 落ち着いてって!!」

 

「食堂でそんなモン抜こうとするなって!!!」

 

「離せぇぇぇぇ!! コイツぜってぇぶっ飛ばすッッ!!」

 

「ぶっ飛ばすならそんなモン抜くなっての!!」

 

金髪の男の言葉に頭にきた藤巻はぶっ飛ばすと言いながらいつも持っているドスを抜こうとしたのだが、大山と音無がそれをさせまいと藤巻を抑え、日向は安全の為に藤巻からドスを奪い取った。

 

「ハッ、単細胞が。………でさ遊佐、ここの案内をしてくんないかな?」

 

藤巻達の行動を見て鼻で笑った後すぐさま遊佐さんの方へと振り向いては、先ほどとは逆に笑顔になって優しく遊佐さんに話し掛ける。凄い変わり身の早さだな。

 

「お断りしますと何度も申しているのですが……」

 

「そんな恥ずかしがる事ないって!! 確かに周りが気になるのはわかるけどさ、いざとなったら俺が守ってやるよ!」

 

金髪の男は爽やかな笑みを見せ、どさくさに紛れていきなり遊佐さんの頭を手に置いて撫でようとしたのだが、遊佐さんは数歩後ろへと下がって見事回避する。

 

「私はこの後やらないといけない用事があるので校内の案内は他を当たって下さい」

 

最初に金髪の男が言ってた案内と言うのはこの学園の案内の事だったのか。

という事は、この人は俺達と同じ人間という事なのだろう。

 

「じゃあ! その用事を手伝ってやるぜ!!」

 

「もう間に合ってますので結構です」

 

「遊佐……。そんなに見栄張らなくたっていいんだぜ? いや、そういう遊佐も可愛いけどさっ♪」

 

物凄い自己解釈だな。どうやったらここまで都合よく解釈をできるんだよ。

あの人の頭ってどんな風にできてるんだか逆に気になるわ。

 

「嘘ではありません。彼がそうなのですから」

 

遊佐さんはそう言うと俺の方を向き、金髪の彼も遊佐さんの見た方向を見て俺と目が合った。

 

「……だってさ、日向。わざわざ遊佐さんの仕事を手伝うなんて熱心なんだな…」

 

「いや、どう見ても俺じゃなくてお前だろ」

 

もしかしたらと思ったのだが、どうやらそんな事はなかったみたいだ……。

 

「テメェェェェ!! 遊佐に何をするつもりだッッ!!!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さいって!! 俺何も知りませんよ!!? それに何もしませんから!!」

 

「口ではどうとでも言えるだろうが!! ……こうなったら実力でテメェを叩き潰して遊佐を救う!!! 遊佐を賭けての決闘だァァァッ!!!!!」

 

こうして、意味のわからない理由で俺は流されるまま、金髪の男と決闘をするハメになってしまった。




以上、18話でした。

投稿が物凄く遅れてしまって申し訳ございません……。

本編の時よりかなり早く下の名前を知った音無と、新たなキャラクターが登場して終わりました。

次で金髪の男の名前を出したいと思います。

それではまた次回で

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