【ギルド最深部入り口前】
「やっと……戻ってこれたか…」
長い長い梯子を登り終え、前を見ると煙が大きく巻き上がっている。
すると煙から人影が見え、こちらへと向かってきてるみたいだ。恐らく立華さんだろう。
俺は人影の方に走り出し、立華さんの名前を呼ぶ。
「立華さん!立華さん!!」
「……岡野くん?」
立華さんは自分の名前を呼んでるのが俺だとわかり、足を止める。両腕に刃物らしき物があるが後回しだ。ゆりとかが来る前に早く伝えてこの場から離れさせないと…。
「立華さん。ここはもうじき爆発をするんだ!」
「爆発?」
「そう、爆発。しかも立華さんごと巻き込んでだ。だから早く………」
「岡野くん!退きなさい!!」
引き返した方がいいと言う前に、後ろからゆりの叫び声が聞こえる。もう追いついたのか!
「………」
「うおゎッ!?」
立華さんは何も言わずに俺の事を軽く横へ押し飛ばした。
俺が立華さんから離れた瞬間に一発の銃声が放たれ、立華さんの左足のふとももに命中し、立華さんは足を崩した。
「Guard Skill Distorsion」
――バンッ!バンッ!バンッ!!
立華さんは何かを呟いた後、2~3発の銃声が聞こえ、ゆりがいると思われる方を向くと、音無も一緒におり、二人で立華さんに銃を撃っていた。
しかし、ゆりと音無が撃った弾は立華さんに当たらず、見えない何かによって弾かれ、ふとももに命中したはずの銃弾が取れ、撃たれた傷はみるみるうちに塞がっていく。
(一体何なんだよあれ………?銃を見えない何かで防いだり撃たれた足の傷が治ったり……。明らかに人間のできる事じゃないだろ……)
もしかしてゆりの言うとおり、立華さんは本物の天使なのか……?
普通の人間ならあんな変な能力なんてできるはずがない。
「対応が早すぎるッ!!」
ゆりは立華さんの対応の早さに驚いている間に、立華さんはゆっくりと立ち上がる。
「ちっ!」
ゆりは銃を投げ捨て、何処からかナイフを取り出して立華さんに接近戦で挑む。
立華さんはゆりの攻撃をヒラリとかわし、両手にある剣でゆりに攻撃するが、ゆりもかわす。
お互いに相手の攻撃をかわしては、お互いの刃が当たって火花が散ったりする。
戦う事ができない俺は、戦ってる二人を見ている事しか出来なかった。
「Guard Skill Delay」
立華さんがまた何か呟き、今度は突然残像が見えるくらいに速くなった。
ゆりはどうにか反撃をしようとするが、当たるのは本体ではなく残像で、本体は背後に回りこんでおり、ゆりもその事に気づき、どうにか立華さんの攻撃を防ぐ。
しかし、徐々に相手の速さにに対処仕切れなくなったのか、どんどん追い詰められていく。
音無は援護しようとするが、動きが早くて照準が定まらないらしく、下手に撃てない状態みたいだ。
「あっ……!」
ゆりのナイフは大きく弾き飛ばされ、丸腰になってしまう。
立華さんは丸腰になってしまったゆりに容赦なく腕から出ている刃物で刺そうとするのを見て、俺はどうにかしなきゃいけないと思い立ち上がり、ゆりの方へ走ろうとするが
「くぉの!!」
先に音無がゆりと立華さんのとこに来ており、立華さんに体当たりをする。
音無の体当たりのおかげでゆりは間一髪で助かったみたいだ。
「音無くん!」
「まだ立ち上がるみたいだぞ!」
立華さんは音無に体当たりをされた後、すぐに立ち上がろうとする。
「……くそぉっ!」
俺は立ち上がろうとする立華さんに飛びつき、両腕を押さえる。
「別にわざわざ殺そうとしなくても……!」
見た目とは裏腹に何て力だよ……!これじゃあ長くは押さえられない。
「ここはもうすぐ爆発する。だから巻き込まれる前に早く引き返した方が……」
「……邪魔をするなら、あなたでも容赦はしない」
「ち、違う!俺はそんなんじゃ……」
「三人とも退けぇぇーーー!!!!」
後ろから大きな叫び声がし、声がした方を向くと、そこには大きな赤い砲台があった。砲台まであるのか!!?
「岡野くん!!危ないッ!!」
「…ッ!しまっ……」
――ズブシュ……!
俺が砲台を見ている隙に、押さえてた両手は振りほどかれてしまい、立華さんは俺の腹を腕から生えてる刃物で突き刺した。
「ブゥ……ォ……アァ………ッ!!」
口から大量の血を吐き出し、刺された腹からも血がどんどん溢れ出てくる。
椎名さんの時は一瞬の痛みだったが、心臓一突きじゃなく腹を刺したからか、まだ意識があり、刺された激痛が俺の身体を襲う。
「ア、アァゥ………!オウゥゥェ……」
痛くて身体が動かない。意識も朦朧としてきた。俺はまだ血を吐き出している。
俺は……俺は一体何がしたかったんだ………?
勝手に行動して………、立華さんにここから離れるように言おうとしたら刺されて………。何か馬鹿みたいだよ……。
――――――――――――
【保健室】
「…………」
目を開け、ゆっくりと上体を起こし、何処なのかを確認すると、此処は保健室みたいだ。
「確か俺は……立華さんに刺されて…」
刺された腹を見るが、どうやら完治しているみたいだ。
上は何も着ておらず、若干こげてるワイシャツだけあってブレザーはない。
ズボンははいていたが、ズボンも若干こげているみたいだ。
死んでる間に爆発にでも巻き込まれたのか?もしかして……。
(……後で誰かに聞こう)
とりあえず完治はしたので、俺は焦げてるワイシャツを着て、保健室から出る事にした。
――――――――――――
【自販機 掲示板前】
流石に焦げてる制服でウロチョロするのも恥ずかしいので、一度自分の寮室に戻り、ストックしていたSSSの制服に着替え、自販機まで行ってkeyコーヒーを買って軽く一口飲む。
「ハァ~~……」
一口飲んだ後に俺は大きなため息をつく。……結局、何もできなかった。
立華さんを放っておけなくて、例え生き返る事がわかっていても放って置けなくてあの場から離れるようにさせようとしたのだが駄目だった。
それどころか、逆に立華さんに殺されてしまう始末。ただ無駄死にで終わってしまっただけだ。
「一体俺は、何をしてるんだよ………」
あぁ……自分の浅はかさが愚かしい……。
俺は自販機に寄りかかって再び溜め息をついた。
「何を溜め息ついてるのよ?」
「うおぉッッ!!!?」
立華さんの事と自分の事を考えてた所為か、目の前にゆりがいた事に気付かず、気づくと思わず驚いてしまう。
「そこまで驚く必要はないじゃない」
「ゴ、ゴメン……。ちょっとボーッとしてたから気づかなくて…」
「ふーん……。まあ、そんな事よりどいたどいた」
ゆりは興味がなさそうに素っ気なく言うと、自販機に寄りかかってる俺にシッシッ、と手を払う。
どけって事はゆりも飲み物を買いに来たのだろう。どけと言われて断る理由なんてないし、確かにこんなとこにいたら邪魔なのですぐに自販機から離れる。
――ガコンッ!
ゆりは何の飲み物を買ったのかを見ると、俺と同じkeyコーヒーだった。
「……何?さっきからジロジロ見て」
keyコーヒーを飲もうとするのだが、俺が見ているのに気づき、見られてるのが気にくわないのか、不機嫌そうな顔をしてこちらを睨み付けるように見てくる。
「あっ、いや……。ただ…同じコーヒーだったからさ…」
「何?いけないの?」
「い……いけなくはないけど…」
「じゃあ、そんなにジロジロ見なくてもいいじゃない」
そ……そこまでジロジロと見てはいないと思うんだけどなぁ……。
と言ってもあまり意味なさそうなのでゴメン、と言っておく。
いつまでも此処にいたら自販機を買いに来る人の邪魔になりかねないのでお気に入りの屋上へ行こうと足を動かすのだが――
「……ねぇ、何であの時天使のところへ行ったの?」
ゆりの言葉を聞き、動かした足を止める。
「……あの時って?」
ゆりの言った“あの時”は何なのか理解したが、思わずわからないフリをしてもう一度尋ねてしまう。
「ギルドを爆破する時よ。あの時あたしは戻って来なさいと言ったのにあなたはそれを無視して梯子を登っていき、天使の目の前にいた。あの時あなたは何をしていたの?」
「…………」
答えられる訳がない。
天使に……立華さんに爆破する前に引き返すように言おうとしたなんて言えない。
もしそんな事を言ったとしたら、激怒されるか天使のスパイなどと言われてしまうかもしれない。
なので俺はただ黙り込むだけだった。
「………まあいいわ。今回のオペレーションで天使が現れた所為とはいえ、結果的にあなたを危険な目に合わせてしまったから追求しないであげる」
話はそれで終えるかと思ったが、ゆりがただし、と付け加え話を続ける。
「天使に何をしようとしたのかは知らないけど、彼女はあたし達死んだ世界戦線の“敵”だという事は忘れない事ね。現に彼女に刺されたのが何よりの証拠なんだから」
ゆりはあくまで天使は敵だと俺に忠告をすると、今度こそ話が終わり、ゆりはkeyコーヒーを一口飲んでまたね、と言ってそのまま自販機から去っていった。
(立華さんが敵………か……)
俺は今まで立華さんの事を敵として見ていなかった。
恐らくゆりは俺が立華さんを敵として見ていない事に薄々気づいていたのかもしれない。でなきゃあんな忠告を言わないと思う。
(敵……だとしても、立華さんは本当に神の使いか何かなのか?)
確かに腕から刃物が出てきたり、銃弾を弾いたり、残像が見えるくらいの動きをしたりと、全てが人間離れな芸当をしていたが、それだけで神の使いだと決められないと思う。
……逆に言えばそれ以外で神の使いじゃないと決める事もできないけど…。
この世界はロクに青春時代を送ってない人達が来る場所なのだから、恐らく立華さんはそのロクに過ごせなかった人達に学園生活を満喫させようとしてるのだろう。
前にゆり達にこの話を教えた方がいいのか考えたけど、今思えば他の戦線メンバー達はまともな青春時代を過ごせていないという共通点があるのだから意外とこの事を知っているのかもしれない。
(……だとしたらこの事を知らないのは前の俺と音無って事になるのかな?)
俺と音無の共通点は記憶喪失。
なので自分達はロクに青春時代を過ごせていないのかすらわからない。
「……ん?音無…?」
そういや、音無は確か自分の苗字しか覚えてないんだったっけ?
「自分の名前が覚えて無くても、知ることぐらいはできるじゃん……」
ここは学園だ。
例え自分が下の名前を知らなくても、名簿や出席簿などを見れば自分の名前を知る事だってできるし、もしかしたら下の名前を知って何か思い出せるキッカケもあるのかもしれない。
……といっても、そんな簡単に思い出せるのかはわからないけど。
(まあ、やらないよりはやった方がいいかもな。何事も)
自分の記憶の方はサッパリだけど、音無の方はもしかしたら思い出せるのかもしれない。
同じ記憶喪失同士なんだ。このくらいの手伝いくらいはしてあげたい。
少なくとも自分の名前を知ってマイナスになる事はないだろう。
(立華さんの事もあるけど、今は音無を探して名前探しにでも行きますかね)
そうと決まると、俺はkeyコーヒーを飲み干し、ゴミ箱に入れ、音無を探しに足を運んだ。
同時に、仲間の記憶を取り戻す方を優先して、立華さんの事の方を後回し……もとい、逃げていった。
自分の記憶の事といい、立華さんの事といい、嫌な事ばかり逃げていく最低な野郎だよ、俺は………。
以上、17話でした。
もうね、あれですね。岡野が超ブレてますね。そんな気がします…(汗)
そんな訳で、次は音無くんの名前を調べる話になると思われます。
それではまた次回で