気づいたら知らない学園にいました   作:椎名

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14話 鈍足は辛いよ

【ギルド連絡通路 B1】

 

「これが地下かぁ……。初めて見るかも……」

 

上には明かりが何箇所かあるのだが、ひとつひとつの明かりの大きさは小さいので少し暗く、先が全然見えない。

しかし、まさか学園の下にこんな地下があるなんて普通の人なら誰もが思わないんだろうな

 

「おい、誰かいるぜ!」

 

藤巻が持っている懐中電灯を照らし、目の前の人影の正体を確かめると、そこには野田の姿があり、何やらキメポーズまでとっている。

 

「うわぁ……バカがいた…」

 

そんな野田を見た日向は呆れながら言葉を発し、日向以外のメンバーは日向に続いては何も言わなかったが、呆れた表情をしている。

というよりどうやってここに来たんだろう……。俺達が来たルートからだったら台車をどかさないといけないけど、台車はどかされてる形跡もなかったし……謎だらけだな。

もしかして体育館以外のルートもあるって事なのか…?

 

「音無とか言ったな。俺はまだお前を認めてはいない!」

 

俺がどうやって野田がギルドの地下に来たのかを考えてる間に野田は常に持っているハルバートを音無の方へと向ける。

 

「わざわざこんなとこで待ち構えてる意味がわかんないよな?」

 

「野田くんはシチュエーションを重要視するみたいだよ」

 

「意味不明ね」

 

日向と大山が野田の事を言ってる後にゆりは呆れながら顔を横に振る。

 

「別に認められたくもない」

 

「貴様ァ……!今度は1000回死なせてやはああああぁぁぁぁぁァァッッ!!!!!」

 

音無の挑発的な答えに、野田は音無に近づき襲いかかろうとしたが、横から巨大なハンマーが現れ、野田を吹っ飛ばす。

 

「ゴファッ!!!」

 

野田が壁に激突した後、ハンマーの追い討ちが来て追加攻撃される。

それだけでは終わらず、壁にぶつかった衝撃で野田の上から岩が崩れて見事に埋められた。

 

「臨戦態勢ッ!!」

 

ゆりがそう叫ぶと、みんな武器を取り出して構える。

 

「トラップが解除されてねぇのか!?」

 

皆迅速な動きをしてる反面、俺はどうすればいいのかがわからなくなったが、俺は日向に首根っこ掴まれてしゃがむ形になった。俺だけではなく音無も首根っこ掴まれたみたいだ。

 

「何事だ?」

 

「見ての通りだ。ギルドの道のりには対天使用の即死トラップがいくつも仕掛けてある。

その全てが今も尚稼動中という訳さ」

 

音無の問いに、日向は説明しながら答える。

トラップを解除したんじゃないのかよギルド側はよ……。

 

「トラップの解除忘れかな?」

 

「まさか俺たちを全滅させる気かよ!?」

 

「いいえ、ギルドの独断でトラップが再起動されたのよ」

 

大山と藤巻の疑問に、ゆりはギルドの独断で再起動させたと答える。

 

「何故?」

 

松下五段は何故ギルドが独断でトラップを再起動させたのかをゆりに聞く。

 

ふと、俺はギルドがトラップを再起動させるひとつの理由を思い浮かんだので恐る恐るゆりに尋ねてみる。

 

「も、もしかして………天使が現れたからトラップを再起動させたとか……?」

 

「えぇ、正にその通りよ岡野くん」

 

マ……マジかよ………。

まさかとは思ったけどこんなタイミングで天使が現れるなんて最悪すぎだろう……。

 

「ギルドの連中は、俺達がいるのを知っててこんな真似をするのか?」

 

「あなたは何もわかっていないようですね。何があろうとわたし達は死ぬ訳じゃない。死ぬ痛みは味わいますが」

 

「それが嫌なんだが……」

 

高松は、自分達は死ぬ訳じゃないと答えるが、音無は実際目の前でトラップに引っかかり、今や崩れた岩に埋まってる野田を見ながら言う。

 

「しかしギルドの所在がバレ、陥落すれば銃弾の補充などが失くなる。それでどうやって天使と戦うというのです?」

 

確かに高松の言うとおり、ギルドが陥落すれば武器が作れなくなり、戦う手段が無くなってしまう。

 

「ギルドの判断は正しいわ」

 

「天使を追うか?」

 

「追うって……トラップが解除されてないのに追うなんて無茶だろ!!ここは一旦戻ろうよ!!」

 

日向の天使を追う案に、俺はすぐさま反対をする。トラップがあちこち仕掛けられてる中、天使を追っかけるなんて無謀すぎる。

 

「岡野の言うとおりだ、天使はそのトラップで何とかなるだろ?戻ろうぜ?」

 

音無も俺と同じく戻った方がいいと意見をする。

 

「トラップはあくまで一時的な足止めに過ぎないわ。……追うわ、進軍よ!」

 

俺と音無の意見も虚しく、ゆりは進軍すると宣言をした。

俺は進軍を反対したが、周りが周り、ゆりの言う事に従うようなので結局進む事になってしまった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

【ギルド連絡通路 B3】

 

皆、銃を構えながら慎重に先へと進む。

唯一何の武器も持っていない俺は、特に意味はないと思うがなるべく真ん中の位置にいるように歩いている。

 

「そういや、どんなトラップがあるんだよ?」

 

「いろんなのがあるぜ~?楽しみにしてな」

 

音無はどういうトラップがあるのか日向に聞くと、日向はやや楽しそうに答える。

楽しみにできるかよ…。よくそんな軽いノリな感じで言えるな……。

 

「まずい、来るぞ!!」

 

後ろにいる椎名さんの言葉に全員後ろを向く。

すると通路が揺れ出し、少し離れたところから天井が崩れて、巨大な黒い鉄球が落ちて来て俺達のいる方へ転がってくる。

 

「走れッ!!」

 

椎名さんは皆にそう言い先に走るが、俺は鉄球が天井から落ちてきた瞬間、こちらに転がってくるのだと瞬時に理解したので先に走り出した。他のメンバー達は少し遅れて走り出す。

 

「ハッ……ハッ…ハッ…!!」

 

俺は全力で走っているが椎名さんにあっさり抜かれてしまう。あなた速すぎませんか!!?

しかし、その後にどんどん他のメンバー達にも抜かれる。くそっ!!ただ単に俺が遅いだけかよッ!!!!

 

「こっちだ!早く!」

 

椎名さんは横道の通路にいる。あそこなら鉄球に当たる心配もなく、あそこが鉄球の回避ポイントなのだろう。

ゆり、藤巻、大山、松下五段、TKの順に、横道の通路に入って行った。

最初に先頭にいた俺は、とうとう一番後ろにいた日向、音無、高松に追いつかれた。

 

「うおぁ!!?」

 

音無が何か叫んだので横を見ると。日向と音無の姿が見当たらなく、今鉄球から逃げてるのは俺と若干後ろの方にいる高松の二人だけとなった。

 

(死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない………!!!)

 

心の中で何度も死にたくないと言いながら無我夢中で走っているが鉄球はどんどん近づいていく。

何で足が遅いんだよ俺ッ!!もっと速く走ってくれよッッ!!!!死なないとはいえ死ぬ痛みを味わうなんて嫌だ!!!

 

「岡野ッ!!」

 

誰かが俺の名前を呼んだのが聞こえ、ハッと我に返る。横道の通路にいる椎名さんが俺に手を伸ばしている。

俺は走りながら椎名さんの方へと手を伸ばす。もう少し、後もう少し…もう少し…!届いてくれ!!

 

 

――ガシッ!

 

 

そして、俺は手を掴む事ができた。

椎名さんが皆がいる通路の方へ引っ張ってくれ、俺は足がもつれて地面へと倒れる。

 

「ハァッ……ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ……!!!」

 

息がかなり荒くなっており、身体の震えが止まらない。さっきまで自分達の方へ転がってる巨大な鉄球から死ぬ気で逃げてきたのもあるし、もし椎名さんの手を掴む事がてきずそのまま鉄球によって潰されてしまったらと思うと頭の中は恐怖でいっぱいだ。

 

「高松くん以外は無事みたいね。行きましょう」

 

ゆりは今いる生存者の状況を確認し、先に進むと言うが、一方の俺はまだ息が整っていなれば汗も止まらず、身体はまだ震えている。

 

「お、岡野くん。大丈夫……?」

 

「ハァッ…ハァッ…!ゲホッゲホッ…ゲホッ!!……っぐぅ!」

 

心配しているのか、大山は傍へと寄ってくるのだが俺は呼吸困難な状態になっており、死にかけた思いをしたからか、涙まででている始末だ。

 

「ね、ねぇゆりっぺ。岡野くん、かなりヤバイんじゃない?」

 

「……そうね。非戦闘員なんだからこうなってしまうのは当たり前なのかもしれないわね」

 

 

 

 

【Side―音無】

 

「うおぁ!!?」

 

後ろから襲ってくる鉄球から必死に逃げている音無だったが、突然後ろから誰かに飛びつかれてそのまま右端の方へと倒れこむ。

このままでは鉄球に潰されてしまうと思っていたが、端の方に倒れていたからか、鉄球はそのまま通り過ぎてしまう。

 

「のわああああぁぁぁぁぁあああ!!!!!」

 

前の方から誰かの悲鳴が聞こえてくる。恐らくトラップから逃げ切れなかったのだろうと音無は推測する。

 

「高松の声……。やられたか……」

 

身体の上半身をわずかに起き上げ、誰が自分に飛びつき、喋っているのかを確かめると日向の姿があった。どうやら彼が音無の事を助けたみたいだ。

 

「高松くん以外は無事みたいね。行きましょう」

 

ゆりは鉄球が転がっていった方と音無と日向がいる方を見て現状の生存者を確認し、行きましょう、とあっさり言う。

 

「いいのかよ?助けなくて」

 

ゆりのあっさりの決断を聞いた音無は鉄球にやられてしまった高松を助けないのかを近くにいる日向に問いかける。

 

「死ぬ訳じゃない、ほっといても自力で抜け出して地上に戻るさ」

 

「そうなのか?」

 

日向は立ち上がりながらそう答える。

 

「ほらよ」

 

「おぉ、わりぃ」

 

日向はまだ立ち上がっていない音無に手を差し伸べくれたので、音無は手を差し伸べてくれた日向の手を掴み、立ち上がる。

 

「さっきは助かったぜ」

 

音無は先ほどのトラップの時に自分の事を助けてくれた日向に礼を言う。

 

「いいってことよ!俺さ、お前のこと結構気に入ってんだ」

 

と言ってウインクをする日向に音無は

 

「これなのか……?」

 

左手を右頬に当てて尋ねる。

どうやら日向が先ほどやったウインクを見て音無は、彼はそっち系の人だと思ってしまったらしい。

 

「違ぇよ!!」

 

もちろん日向は全力で否定をした。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

音無と日向は皆がいる横道の通路へ行くと、地面に座りこんでおり、身震いしている岡野の姿があった。

 

「お、おい!岡野、大丈夫か!?」

 

それを見た音無はすぐさま岡野の傍へと駆け出し、彼の様子を確かめる。

 

「ハァ…ハァッ……ハァッ……。だ、大丈……夫。す…少し……ゲホッ!…落ち着いたよ……」

 

「本当に大丈夫かよ!?あんまり無理するな!」

 

そう言って震える身体と荒げた呼吸を少しでも落ち着けせるために背中を優しく擦る。

 

「岡野くんには悪いけど、今は先に進む事を優先するわ。

音無くん、悪いけど岡野くんに肩貸してくれないかしら?」

 

「正気かよゆり!!?岡野はここに置いていった方がいいだろ!!元々コイツは非戦闘員なんだ!それに今はこんな状態だし、ここの通路にいた方が安全じゃないか!!」

 

「ここに置いていったら天使にやられてしまう可能性だってあるのよ?それでも置いていく?」

 

「そ、それは……」

 

音無はゆりに反論をするが、ゆりの天使にやられてしまう可能性だってあると聞くと言葉を失ってしまう。

もし本当にそうなってしまったら岡野が余りにも可哀想すぎると思ってしまったかだ。

 

「だ、だけど……」

 

それでも何か安全な方法があるはずと、根拠のない反論を言おうと言葉を出そうとするが

 

「案ずるな小僧、岡野に何かがあったら私が守る」

 

凛とした女性の声が、音無の言葉を遮った。

声の方へ顔を向けると、そこには長い襟巻きや手甲、足甲など、忍者のような衣装を着ているのが特徴の椎名の姿があった。

小僧……というのは自分の事なのだろうかと、椎名の目を見る音無だが、椎名はジッと音無の方を見ているので、どうやら小僧というのは自分の事なのだと理解する。

 

「コイツには前に、私の大事な物を見つけてくれた借りがある……。その借りを返す時が来た……」

 

借りとは何の事なのだろうと考えるが、そんなわからない事を考えても答えは出るはずがないので音無はすぐに考えるのをやめた。

 

「それで音無くん。どうするの?岡野くんは置いていくの?」

 

「……いや、ゆりの言うとおり、岡野を連れて進もう。岡野、大丈夫か?」

 

再びゆりが音無に岡野を置いて行くのかを問いかける。

今いる通路にいた方が安全と言っていた音無は岡野を連れて行くと、最初にゆりが言った案に賛成をした。

 

「だ、大丈夫……。結構、楽になって来たから……」

 

音無に声を掛けられた岡野は大分呼吸が整ってきたようだが、まだ声と身体が震えている。

 

「立てるか?」

 

「う、うん……。何とか」

 

音無は岡野が上手く立てるか心配するが、岡野は大丈夫と言って自分で立ち上がろうとすると、膝がガクガクと情けなく震えており、中々上手く立ち上がれずバランスを崩してしまう。

 

「……あまり無理はするな」

 

バランスを崩し、倒れてしまいそうだった岡野を椎名が支えた。

 

「あ、ありがとう……椎名さん」

 

「私が支える。歩けるな?」

 

「う……うん……」

 

椎名は岡野の右側の方に行き、自分の肩を貸し、そのまま進もうとすると

 

「Leave it to me!」

 

TKが椎名が支えていない左側の方を支える。

 

「TK………」

 

TKが自分の事を支えてくれる事に少し感動をしていた岡野だったが

 

「Don't worry,be happy!」

 

「い、いや……その英語は間違えてる気がするけど……」

 

最後の英語の間違いで若干感動が薄れた気分になってしまったようだ。

 

「はいはい、いつまでも馬鹿やってないで行くわよ。椎名さん、TK、お願いね」

 

ゆりがそう言うと皆は足を進める。

時間が経っていくと、岡野はやがて落ち着きを取り戻していき、一人でも歩けるくらいまでになり、椎名とTKに礼を言い、ゆり達戦線メンバーは改めて先へと進んでいった。




以上、14話でした。

今回は主人公である岡野の何ともまあ情けない回でした。

一応活動報告で主人公紹介が書いてありますが、岡野は戦線では一番足が遅い設定です。

なので誰よりも先に走ったのにほぼ全員に抜かれてしまうという事になりました。ちなみに体力も全然ありません。

それではまた次回で

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