「そういえば今更だけど、再テストはどうだった？ほら、一カ月前の」
途中まで帰り道が一緒なので立華さんと二人で帰っている。ふと再テストの事を思い出し、結果はどうだったのか聞いてみる事にした。
「無事に終わったわ。全教科満点」
「そっか、よかったじゃん」
満点とかすごいなぁおい。俺、最初の日はちゃんと出てたけど結構難しかったぞ？あの問題。
あっ、でも再テストするんだから問題は違うのか。
「えぇ。これもあなたのおかげなのかもしれない……」
「俺の？」
俺のおかげ？特に何もしてないよな俺……？
「うん。あの時、あなたが私に頑張れと言ってくれたから」
『…そっか。じゃあ、明日テスト頑張れよ。そんだけ勉強をしてれば絶対良い点取れるさ』
「あぁ……あの時…か」
俺は一ヶ月前に食堂で再テストをするハメになってしまった立華さんに言った言葉を思い出す。
しかし、よくその時に言った言葉を思い出せたな俺。ちょっと自分を褒めてあげたいよ。
「普段は頑張れとか、そんな言葉は言われないから嬉しかったの」
「友達とかには言われなかったの？」
「……いないわ」
「いない？いくら何でも友達一人もいないなんて事は……」
「“ここにはいない”の。皆消えちゃったから……」
「あっ………」
そうだ、ここでは学園生活を送ると消えてしまうんだ。例えそれが受けてるフリだとしても。だからこの世界に来た人達と友達になってもいずれは消えてしまうんだ。そして、結局はまた一人になってしまう。
「……立華さん。どうして、学園生活を送ると消えるの？」
ふと、前に立華さん聞きたい事があるという事を思い出し、丁度いい機会なのでどうして学園生活を送ると消えてしまうのかを尋ねてみる。
「……ここに来る人達は、みんなまともな青春時代を過ごしてない人達なの。
だからそういう人達が充実した学園生活を送るとその生活に満足して成仏するの……」
「まともな青春時代を過ごしてない？」
「気づかなかった？」
「う……うん……」
じゃあ、戦線の皆はまともな青春時代を過ごしていなかったって事なのか？
「で、でも！ 俺は今までちゃんと学園生活を送ってたぞ！！？ でも消えないでここにいる！！」
「学園生活を送っても消えないのなら何か他にやり残したがあるのかもしれない」
「や……やり残した事…？」
「何か生前にやり残した事とかない？」
「…………」
やり残した事がないかを聞かれても、記憶がないのでやり残した事があってもわからないし思い出せない俺は黙ることしかできなかった。
「……人には言えない事？」
「あ……いや、そういう訳じゃないんだ。ただ……俺には記憶がなくて…」
「……あなたも記憶がなかったの？」
「“あなたも”？」
もしかして音無の事か？
「この世界に来たばかりの人も記憶喪失だったの」
“この世界に来たばかりの人”という事はやはり音無か。俺以外の記憶喪失者と言われたら音無くらいしか思い浮かばない。
あいつも俺と同じで目覚めた時には何も思い出せなかったらしいし。
「あぁ、今日戦線に入った新入りの事か。……でもまあ、日向が時期に戻るって言ってたし、気長に待つよ」
「うん。私に協力できる事があったら言ってね」
「ハハハ……。その時はよろしく頼むよ」
形としては一応はお互い敵同士なんだけどな。まあ、その事は言わなくてもいいか。
「……っと、もう寮に着いたか」
話し込んでる間にもう男子寮に着いたようだ。まだ聞きたい事はあるけどまた今度でいいだろう。
時間はまだまだ沢山あるんだ。焦らずに行こう。
「じゃあ、私は自分の寮に戻るわ」
「うん、わかった。ありがとう立華さん、わざわざ俺の話を聞いてくれて」
「ううん、気にしないで。誰かとこんなに話したのは久しぶりだから……」
「……そっか。それじゃあね」
俺は女子寮へ帰る立華さんに軽く手を振り、見えなくなるまで振り続ける。
寮に着かなかったらもっとこの世界の事を聞けたんだけど仕方ないな。早く自分の寮室に戻らないと。
――――――――――――
【男子寮 岡野弘樹の部屋】
「立華さんからいい情報が聞けたな」
ここは生前にまともな青春時代をしていない人達が集まる世界だという事と、恐らくここは生前に何かやり残した事がある人達が集まる世界でもあるという事だ。
「……その二つのどちらかか、それかどっちも条件を果たせばこの世界からおさらば……つまり、成仏できるって事だな」
この事をゆり達は知らない気がするし、教えた方がいいかな？
（……いや、やめとこう。言ってもあまり信じてくれないかもしれない）
そんな事を言ったとしても『その情報誰から聞いた？』と聞かれて、天使から聞いたなんて言ったら大変な事になるだろうし、。高確率でスパイ疑惑掛けられちまう。
「………寝るか」
とりあえず寝よう。まだ時間は沢山ある。そう、沢山あるんだから。
それこそ無限に…………。
――――――――――――
【次の日 校長室】
「高松くん、報告お願い」
「はい」
今高松が報告している内容は、どうやら武器庫の弾薬の備蓄がそろそろ尽きそうなので、次に立ば………天使と一戦交える前に補充しておく必要があるとか。
「新入りも入った事だし、新しい銃も必要なんじゃないの？」
大山は昨日戦線に入った新入りの音無も入った事なので新しい武器も必要なのではないかとゆりに言う。
「……そうね、わかったわ。本日のオペレーションはギルド降下作戦と行きましょう」
ゆりは大山の言う事に納得をし、今回のオペレーションはギルドへ行く事となったみたいだ。
（ギルド降下作戦ね……。地下から行くんだから確かに降下だな）
そんなどうでもいい事に納得をしているが、そういえばギルドに行くのは今回で初めてだな。地下にあるとは言ってもどんな風な場所なんだろう。
……ん？何か音無が身震いしてるぞ。一体どうしたんだろう……。ちょっと聞いてみ――
「どうした？ 音無」
――ようと思ったが代わりに日向が身震いをしてた音無に声を掛けたみたいだ。
「高いのは、得意じゃないっつぅか……」
突然音無はいきなり高いのは得意じゃないなどと言ってきた。
あぁ～……、“降下”って言葉を聞いたから空から降下すると思ったのか。
「別に空から降下するって訳じゃないから変な心配は要らないよ」
「岡野くんの言うとおり、空から降下じゃなくてここから地下に降下よ」
「あぁ、何だ地下かぁ～……って地下ぁぁぁ！！！？」
最初は空からではないとわかって安心した音無なのだが『地下』という言葉を聞いて激しく驚く。
「私たちはギルドと呼んでる。地下の奥深くよ。そこでは、仲間たちが武器を作ってるの」
「じゃあ……天使にばれないようにって事か？」
「そうね。ギルドを抑えられたら武器支援がなくなり、私たちの勝ち目はなくなるわ」
ゆりはそう言うと、パソコンのキーボードを何処かしらを押す。
『へ～い』
すると、随分と軽い感じの声を出す男の人の声が聞こえてきた。
さっきキーボードを押したのはギルドの人と連絡を取るためだったのかな？
「あたしだ、今夜そちらに向かう。トラップの解除を頼む」
『了解～。今夜だな、待ってるぞ』
そんな短い連絡をすると、通信はすぐに切れた。
「……よし、今回はこのメンバーで行きましょう」
ギルドの人と連絡を取り終えたゆりは、今この部屋にいる戦線メンバー達で行くと言う。
今この部屋にいるメンバーは俺とゆりを除けば、日向と大山とTK、松下五段と高松と藤巻に音無、そして壁際に立っている椎名さんだ。
「あれ？ ねぇ、野田くんはいいの？」
「あっ、そういえば野田の奴いないな……」
大山が野田の事を言うと俺は野田が本当にいないか辺りを見渡すが、本当にいないみたいだ。ハルバートを常備してるから気づかない訳はないし、どっか行ってんのか？
「あのバカはどうせ単独行動でもしてんだろぉ？」
大山の言葉に日向は呆れながら答える。
「それじゃあ、時間になったら体育館に集合する事。いいわね？」
「なあ、非戦闘員の俺も行く事に入ってるのか？」
「ん？ 当たり前じゃない。それに、まだ一度もギルドに行ったことないんでしょ？安心なさい、トラップだって解除するように言ったんだから」
「そうそう、トラップの解除を忘れたとかないから大丈夫だって！」
ゆりと日向が俺を安心させるよう言葉を掛ける。
ギルドがどんな場所なのかを見るために行ってみたいという気持ちはあるのだが、それと同時に不安もあるので断ろうとしたのだが、どうも断れる雰囲気じゃなくなったので、結局俺もギルド降下作戦に参加する事となった。
――――――――――――
【自販機 掲示板前】
「さて……集合時間になるまでまだまだ時間はあるな……」
自販機でkeyコーヒーを買い、掲示板に貼ってある連絡用紙を流し目で見ながらコーヒーを飲む。
「すいません、ちょっといいですか？」
「え？あっ、はい」
丸くまとめてある大きな紙を持ってる一般生徒の男子が俺の近くにおり、俺は彼が持ってる丸まった大きな紙を見てそれを掲示板に貼るのだと理解し、すぐに掲示板から離れた。
そして一般生徒の男子は大きな紙を広げるのだが丸くまとめたせいか、また丸まってしまう。
「あの……良ければ手伝いますよ。今暇ですし」
「え？いいんですか？ありがとうございます」
近くにいるのに何もしないのは流石に気が引けるし、一人だと時間が掛かるだろうと思い、俺は手伝うことにした。
「それじゃあ、俺が画鋲を刺すのであなたは紙がまた丸まんないように抑えてくれませんか？」
「わかりました」
俺は言われた通りに紙が丸まんないように抑え、その間に一般生徒の男子が左上から画鋲を刺し、次は右上に画鋲を刺す。
上二つを刺し終えたので次は下の方の紙を手で抑えて再びその間に左下、右下と画鋲を刺していき、大きな紙を貼り終えた。
「いやぁ、ありがとうございます。おかげで早く終わりましたよ」
「いえ、気にしなくてもいいですよ。丁度この場に居合わせてただけですから」
「それじゃあ、まだやる事があるので俺はこれで」
そう言うと一般生徒は軽く一礼をし、その場から去る。
紙を抑えてる間にわかったが今貼られた紙はテストの順位発表の用紙だった。俺は1位の人の名前をすぐさま確認をすると
1位 立華 奏
と書いてあった。
昨日立華さん本人が言っていた通り、全教科満点だった。
「おい、さっき貼り出されたテストの順位結果見たか？早く来いって」
「どれどれ～……うわっ、ホントだ！ 俺と250点以上の差じゃんかよぉ……」
「今回のテストは難しかったのに満点だなんてすごいね、生徒会長」
ついさっきテストの順位表が貼られたからか、一般生徒達がどんどん集まってきて、その何人かは全教科満点を取った立華さんの事を話している。
これ以上集まってきたら出るに出れなくなりそうなので、俺は掲示板から離れた。
テスト結果の紙を貼るを手伝ったのでまだkeyコーヒーは半分以上残っており、さっさと一気飲みをし、飲み終えた缶は缶入れのゴミ箱に捨てて何処か暇を潰せる場所がないか捜し求めようとすると
「あっ」
後ろから子供らしさが残ってる女の声が聞こえ、振り返ってみると、俺と同じ陽動部隊で雑用をやってるユイの姿があった。
自販機の前にいるという事は何か飲み物を買おうとしてたのだろうと俺はそう考える。
とりあえずあいさつはしとかなくては。
「よっ、ユイ。自販機で何か買うのか？」
「うん。さっきまで練習をしてたから喉渇いちゃってね」
ユイの言う練習はギターの練習の事だろう。今日は陽動の仕事がないから他の陽動班の人達は暇を持て余してるのだろう。この世界には娯楽の場所なんて存在しないのだから余計に暇だろうな。
「だったら練習する前に水を買っとけばいいじゃん。そうすればわざわざ自販機まで来なくてもいいだろうに」
「え～～。先に買ったら冷たくないじゃ～～ん！！」
「そりゃあ……そうだけ――」
「おっ、岡野じゃねぇか！お前何して………」
俺とユイが話している途中に男の声が俺の名前を呼んだ。
振り返らなくても知ってる声なのだが一応後ろを振り向くと、同じ陽動部隊の野坂の姿があった。
野坂はユイの方を見ており、喋っていた口がピタリと止まっている。
しばらくすると野坂は俺を自分の近くの方まで引っ張りだし、顔を近づけて小声で喋りだす。
「お……、お前！！ 何であのユイにゃんといるんだよ！！！」
「な、何でって……偶然会ったとしか言えないんだけど……」
「そうっじゃっねえぇッッッ！！！ 何でユイにゃんとあんなに親しそうに喋ってるんだっよぅッッ！！！？」
「そ……そりゃあ知り合いだし……」
「何だっっっとぅぅ！！！！？？ ユイにゃんとどういう関係なんだよテッッメェェェ！！！」
「………友達…だと俺は思っているけど……」
「と・も・だ・ち・だ・とッッッ！！！！？？ 何でNPCみたいな顔をしてるお前がユイにゃんみたいな可愛い娘と友達なんだよぉぉぉぉぉぉ！！！！！」
小声で話しているが野坂の声は普段の声よりも甲高くなっており、若干興奮気味で俺に質問をしまくってくる。
ていうかNPCみたいな顔って何だよ。NPCみたいな顔ってよ。コイツ一発殴ってやろうか？ 殴らないけど
「あのぉ～……。何を話してるんですか？」
「え……？ あっ……あああぁぁぁぁあああのののののの………。べ、べべべ別にたた大した事とじゃなないいいいぃぃぃよ！！？」
野坂の乱入によって一人置いてけぼりになったユイは俺と野坂が二人で何を話しているのかを尋ねると、野坂はもの凄くテンパりながら喋っている。
「お、おおおぉぉぉおおおお俺はのの野坂って言いましゅ！ よよ……よろしくお願いしししまふ！！」
見事なまでに噛みまくりながらの自己紹介だった。
もしかしてコイツ……女の人と話すの初めてとか？…いや、流石にそれはないかな？
陽動にだって女の人はいるんだから多分初めてではないと思うんだけど……。
「えっと……ユイです。よろしくお願いします」
相手があまりにもパニくりながらの噛みまくった自己紹介を見たユイは若干心配な表情をしながらも意外な事にきちんと自己紹介をし返した。
「うっ…………！」
う？
「うおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおあああああぁぁぁぁッッッ！！！！！！！！」
「うおぉっ！！？」
「ひやぁっ！！？」
野坂は急に大声で叫びだしたので俺とユイはほぼ同時に驚く。そして何故か野坂は涙を流しており、そのまま何処かへと走り去ってしまう。
俺とユイはただそれを見届ける事しかできなかった。
「あれ………何だったの…？」
「ごめん……俺もわからない……」
「そっか……」
これは少し後の事だが、俺にとっては2回目のオペレーション・トルネードで遊佐ちゃん派と言っていた野坂だが、ユイを間近に見れたのと、自己紹介をしてくれたのが嬉しかったのか、後にユイにゃん派……つまりユイのファンクラブへと移動したらしい。
てかそんなポンポンと移り変わっていいのか？ ファンとしてよ……。
――――――――――――
【体育館前】
「まだ誰もいないかな？」
野坂が突然の逃亡（？）をした後はユイと適当に屋上で駄弁り、早めに集合場所に行っておこうと思ってユイとわかれ、体育館前に着いたがまだ誰もいない。1時間前に来たのだから当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
「あら、岡野くん。早いわね」
俺が体育館前に着いてから数10分後にゆりがやってくる。
「そう言うゆりも来るの早いね」
「私はリーダーだから早く来るのは当然よ」
「……それもそうだな」
だからと言って40～50分前に来るもんなのかね…？いや、1時間前からいた俺が言える事じゃないんだけど。
「……それで、あなたが戦線に入って一カ月経ったけど、記憶の方はどう？」
唐突にゆりが俺の記憶の事について聞いてきた。一応俺の心配をしている……のかな？
「サッパリ……だな。元から過去の記憶がないんじゃないかってくらい戻る気配がないや」
「………そう」
嘘を言う必要もないので俺は何ひとつ嘘を言わずに答えると、ゆりは下を向いて残念そうにしている。
「……まあ、気長に待つよ。何も今すぐ記憶が戻って欲しいって訳じゃないんだからゆりが気にする事じゃないよ」
「……強いのね、岡野くんは。私なら一カ月経っても記憶が戻らなかったら凄く不安になると思うわ」
「ハハハハハ、買い被りすぎよ。俺はただポジティブに考えてるだけだって～」
頬をポリポリと掻いて苦笑いしながら答える。
正直、まだ記憶が戻らない事は不安だが、あまり心配されたくないので悟られないようにしたい。
天使を消し去るという事は未だに団結をしていないが、何だかんだで一ヶ月も戦線にいるともう皆仲間なので心配は掛けたくないという気持ちがある。
なので俺は心配を掛けないよう明るい声で答える。
「それでもよ。何か記憶を取り戻せるきっかけがわかったらあたしに言いなさい」
「……うん。ありがとう、ゆり」
その後、集合時間になる前に他のメンバー達が集まったので体育館の中に入り、男メンバー何人かで椅子収納台車を出すと、皆台車があった場所へと入り込み、奥へと進んでいく。
覗いてみると皆地下への入り口らしくところから下へ降りていっている。
残るは俺だけなので、俺も続いて下へと降りて行った。
以上、13話でした。
まあ、天使とユイとゆりの女性メインキャラと話す回みたいになりました。
ここのところ女性キャラと話してばっかで男性キャラとあまり話していないような……。
どうにか男性キャラとも上手い具合に話せる話を作りたいです！
それではまた次回で