――パァン! パァン! パァン!
ゆりが校長室の窓を開けて銃を試し撃ちをしており、銃声がうるさいので俺と音無は両手で両方の耳を塞いでいる。
「はい、音無くん。初めてでも撃てるわ」
銃を撃ち終え、ゆりは試し撃ちした銃を音無に差し出す。
音無はゆりが差し出した銃を受け取り、果たして天使に効果があるのかを聞くと、ゆりはとりあえず足を狙えば追ってこなくなると言う。
「女の子相手にか? 傷はすぐに癒えるのか?」
「そういうのは経験して覚えていきなさい、あたし達はそうして来たんだから」
「……いいだろう」
音無がそう答えた瞬間、部屋の点いてた電気は消え、ゆりは校長室の後ろにあるスクリーンを用意し、いくつかのパソコンの電源が点いてゆりはベレー帽を被る。
「いい返事ね、音無くん。まず、あなたに慣れてもらうために、いつもやっている簡単な作戦に参加してもらうわ。作戦名、“オペレーション・トルネード”」
オペレーション・トルネードか……。俺は前に1回やった事あるから今回で2回目だな。
何をやればいいのかは大体覚えたし、今度は前回よりはスムーズにできるといいな。
「ト、トルネード……」
音無はトルネードという言葉を聞き、何かを考えている。一体どんな想像をしてるんだ……?
「生徒から食券を巻き上げる!」
「その巻き上げるかよッ!!」
何かゆりが巻き上げるって言うとトルネード的な意味でじゃなくて物理的な意味で巻き上げそうだよな。本人の前では絶対に言えないし、言ったら殺されそうだけど。
「つうかいじめかよ!! 失望したぜ、武器や頭数だけ揃えやがってよぉ!! ……いぃ!?」
野田がすぐさま音無の首元にハルバートを突きつける。
「貴様、それはゆりっぺに対する侮辱発言だ……撤回してもらおうか!」
「何でだよ!!?」
「待て待て待て野田!! そんなすぐに脅すなよ!!? 音無、別に俺達は一般生徒に脅(おびや)かすような事をする訳じゃないんだ。確かにゆりが巻き上げるって言ったから物理的な意味での巻き上げるに聞こえなくは……」
「チェストォォッッ!!!!」
「アルゴリズムッッ!!?」
後ろからゆりの強烈な蹴りが俺の頭にクリティカルヒットをし、俺は蹴られた頭を抑えてその場にしゃがみこむ。し……しまったぁ……、音無に分かってもらうために説明しようと思ったのはいいけどゆりの事を言わなきゃよかったよ………。頭マジ痛い……。
その後、ゆりは音無に巻き上げるの意味を教え、前回俺に教えてくれた事を音無に説明をした。どうやら音無はゆり曰く楽な場所である第二連絡橋に配置されたようだ。
「作戦開始時刻は18:30。オペレーション、スタート!!」
【学園大食堂 内部】
やる事は前回の時と一緒なのでやはりというべきか、スムーズに準備が進む。
それに陽動メンバーは結構いるし、サボらないできちんと準備をすれば20~30分で終わる。
「……よし、こんなもんで大丈夫かな?」
「あぁ、何処も問題はないみたいだな。それじゃあ遊佐ちゃんに連絡頼むわ」
「わかった」
少々ガタイの良い一人の陽動メンバーは俺にそう言って何処かへと走り、聞こえてるかわからないが俺はわかった、と言ってブレザーの内ポケットから無線機を出す。
「いいよなぁ~……。新入りのお前が遊佐ちゃんに連絡をする役を貰えるなんてさ~」
遊佐さんに連絡をしようとすると、一緒にステージの準備をしてた俺より少し背が低い男の陽動メンバーが口を尖らせながら羨ましそうに言いながら現れる。コイツは俺の友人の野坂(のさか)だ。
「なあなあ、一回だけ俺にその連絡させてくれよ! な?」
「いや……いきなり連絡する人が変わったら駄目でしょ」
「じゃあ、せめて声だけでも聞かせてくれるだけでいいんだッ! 頼むよ~、俺達友達(ダチ)だろぉ?」
「……まあ、聞くだけなら別に問題はないけど」
「おぉ~~!! マジか! 恩にきるぜ岡野ッ!! 俺はお前の友達でホント良かったぜ!!」
野坂はあまりの嬉しさに舞い上がっており、俺に抱きつこうとしたが俺はそれを避ける。嬉しいのはいいけど俺に抱きつくなよ……。
「そんな大袈裟な………。何でそこまで遊佐さんの声を聞きたいんだよ?」
「馬鹿野郎おめぇ! 欲を言えば近くで顔も見てぇよ!! でも遊佐ちゃんはオペレーターだし、普段何処にいるのかわからねぇからせめて声だけでも聞こうと思ったんだよ! それに、遊佐ちゃんは戦線の中では結構人気あるんだぜ?」
「え? そうなの!?」
「あたぼうよ! というより、人気があるのは何も遊佐ちゃんだけじゃねぇんだぞ?
ゆりっぺや椎名ちゃん、ガルデモのメンバー達だって人気はあるんだぜ?それぞれのファンクラブがある程だしよ。あっ、あと陽動に可愛い娘がいるからその娘のファンクラブもあるぞ。確かユイって娘だったな」
――ズテンッ!
ゆりや椎名さん達も人気があり、ファンクラブがある事を知って驚いていたが、ユイのファンクラブがあるのを聞き、驚きのあまりズッコケてしまった。
「おいどうしたんだよ岡野。急にこけてよ」
「な……何でもない……。何でもないから……。とりあえず早く遊佐さんに連絡をしないと…」
「おっ! ついにか!! キタキタキタァァァ!!」
「聞くのはいいけど静かにしろよ? 絶対」
野坂のテンションが異常にHIGHになっており、途中で騒ぎ出しそうな気がして心配だが、だからと言って早く連絡をしないと作戦の支障がでてしまうので騒がないことを祈りつつ、無線機で遊佐さんに連絡を取る。
「え~……こちら岡野。遊佐さん、こちらはいつでもいけます」
『こちら遊佐です。ご報告ありがとうございます。ファンの方達も集ってきているので各自すぐに指定された場所へ向かう様に言ってください』
俺は最後に了解、と言って遊佐さんとの通信を切る。
「うっひょおおぉぉぉぉぉ!!! 声を聞いただけで癒されるううぅぅぅ!! やっぱ俺は遊佐ちゃん派だぜええぇぇ!!!!」
遊佐さんとの連絡が終えると、ずっと静かにしていた野坂が急に騒ぎ出し、再び一人で舞い上がっている。
遊佐ちゃん派って事は、コイツは遊佐さんのファンクラブにでも入ってるのか…?
「あんまり騒ぐなよ。遊佐さんの話を聞いてたなら早く指定された場所に行った方がいいぞ?」
「それもそうだな、そんじゃあ俺は先に指定場所に行くわ~」
野坂はすぐさま自分の指定場所へ向かったようなので、俺は他の人達にも指定された場所へ行くようにと言う。
……さて、俺も行かないと。
――――――――――――
指定された場所は前回と同じで送風機が沢山ある場所だ。
今頃みんな外で銃撃戦をしているのだろうか、その中には今日戦線に入ったばかりの音無も加わっている。いきなり銃を使って戦う事になったみたいだけど、大丈夫かな……。
(……あっ)
食堂が暗くなり、しばらく時間が経つとガルデモ達のとこに明かりが付き、ライブが始まり、それと同時にNPC達も騒ぎ出す
今日も『crow song』か。前も同じのだったけどまた同じ曲やって大丈夫なのか?
違う曲をやった方がいいと思うんだけど………
(……同じ曲でも大丈夫……ぽいな。すんごい歓声みたいだし……おっと、回せってサインか)
前の時と同じく、一人の戦線メンバーの人が右腕を上にあげて左右に振っているので、すぐに送風機のボタンを押す。
送風機は周り始め、ライブに熱中してるNPC達が持ってる食券が上空に舞い上がっていき、外まで飛んでいった。今日はどのくらいオムライスの食券を買った人がいるんだろうなぁ……。
――――――――――――
「あ~~……終わった終わったぁ」
「さっさと飯食いに行こうぜ」
「そうだな、今日手に入った食券貰わないとな」
片付けが終わった人達はみんな食券を貰いにいく。前の時と同じなら俺も食券を貰いにいくのだが、どうやら普段岩沢さん達が使った楽器を運ぶメンバー達がいたのだが、天使に消されたのか、消えてしまったので急遽俺がやる事となってしまったのだ。
楽器と機材は空き教室まで運ばないといけないので結構時間を喰ってしまう。あぁ……早くオムライスが食べたいよ……。
――――――――――――
【学習棟A棟 空き教室】
「これで終わりかな……?」
重たい機材をそっと置き、何か忘れてないか確認し、何も忘れていないのでやっと終わる。
「ハァ……やっと飯だ。また食堂に行かないと」
いちいち移動しなきゃなんないからホントめんどくさいなぁ……。
―――――――――――
【学園大食堂 内部】
当たり前と言えば当たり前だが、もう人はほとんど…というよりいない。かなり遅くなっちゃったけど飯食えるかな……? 一先ず券売機でオムライスのギガを買い、フードコートへ行く。
「すいませ~ん……オムライスのギガを頼みたいんですけど」
「あら、随分と来るのが遅かったね~」
「あ、はい…。ちょっとライブの後片付けをしてたら遅くなって……」
「ガルデモのライブの後片付けかい。そりゃご苦労だったね。ライブをやるのはいいけど、先生達に許可貰わないでやってるんだろう? ちゃんと許可を貰ってやらないと、いつか先生達にライブを中止させられちゃうんじゃないのかい?」
「そ、そうですね……。今度皆に言っておきます……」
「その方がいいよ。実はあたしもガルデモは好きなんだ………おっとゴメンね、長話をしそうだったよ。オムライスのギガだね、ちょっと待ってな」
少々話し込んでしまったが、おばちゃんはオムライスを作る作業へと入り、オムライスができるまで俺は近くの席の椅子に座る。
「もう誰も……いないよな」
誰もいないとわかっているのだがつい辺りを見渡してしまう。
一ヶ月前ぐらいまでは一人で食う方が好きだったが、今では一人で食うのは少し寂しいと思えてきたのだ。みんなと話して、笑いあいながら食事をする楽しさを覚えたからだろう。
前のトルネードの時は皆と食べる事ができたけど、今回はかなり遅くなったな。
「あんちゃん、オムライスのギガできたよ~」
おばちゃんが俺を呼んでいた。俺はそれに気づき、オムライスを取りに行き、わざわざ呼んでくれたおばちゃんに礼をいう。
「いただきます」
………うん! やはりオムライスは最高だな。いつもながら食が進む進む。
「ごちそうさま」
誰とも話す人がいないからか、あっという間に食い終わってしまった。
一人で食べていると時の流れが早く思えるな。俺は食い終えた皿を片付け、食堂を出る。
――――――――――――
【第二連絡橋 付近】
「ふう~~………」
食休みがてらに連絡橋の下の川を眺め、周りを見渡す。
夜だから当たり前だろうが、外は誰もおらずシーンとしている。
……何か俺だけがこの世界に取り残されたって感じがしなくもないな。もう他の戦線メンバー達は寮に帰って寝ちゃったのかね?
「……そこで何をしてるの?」
突然後ろから女の子の声が聞こえたので身体が跳ね上がり、慌てて後ろを振り返ってみると
「た………た、立華……さん?」
後ろから俺に声をかけた女の子の正体は、我ら死んだ世界戦線の敵である天使こと、立華奏さんだった。
「消灯時刻はもうとっくに過ぎてるわ」
「あ、あぁ~~……そう、だね。立華さんも帰るところ?」
「あたしはもう少し見回りをするわ。まだ寮に戻ってない生徒がいるかもしれないし……」
「こんな夜遅くに一人で?」
「これも生徒会長の役目だから……」
相変わらず真面目な娘だ。……いや、真面目過ぎるんだな。
「今日はこの辺で終わりにしなって立華さん。疲れてるだろ?」
「疲れてないわ」
「もう皆寮に戻ってると思うよ?食堂には誰もいなかったし」
「食堂以外にいるかもしれないわ」
「と……とにかく!今日の見回りはこれで終わり!!! Are you OK?」
「……Yes」
あっ、意外とノリいいんだな立華さん。
「よし、じゃあ帰ろう」
少し無理やり感があるかもしれないが、生徒会長だからって何もそこまで真面目にやらなくてもいいだろうに……。
帰り道は途中まで一緒なので、俺は立華さんと帰る事になった。もし他のメンバー達に見られても寮まで強制的に連れてこられたといえば通じるだろう。多分……。
以上、12話でした。
わかる人にはわかる(?)かも知れませんが、にじファンの時は陽動メンバーの野坂というモブ的なオリキャラと、食堂のおばちゃんとの会話はありませんでした。
それ以外はちょっと文章が変わってるぐらいでほとんど変わっていません。
いやぁ、あれですね。岡野は主人公なのに戦わないからか、全然目立ってないですね。というか目立つ要素がないですね~(笑)
それではまた次回で