気づいたら知らない学園にいました   作:椎名

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10話 オペレーション・トルネード

【校長室】

 

「さて……高松くんの報告だと食券がそろそろ尽きる頃だと言ってたので、今日は作戦名“オペレーション・トルネード”を実行するわ」

 

ゆりが何処から取り出したのかはわからないがベレー帽を被り『実行するわ』と言うと、部屋の電気が消えて暗くなり、ゆりの座ってる校長席の後ろから大きなスクリーンが用意されて映像が映し出される。映像には俺達戦線の象徴と言っても良いクラスSSS(スリーエス)のマークがあり、その後に“オペレーション・トルネード”という文字がでてくる。

 

「オペレーション・トルネードって………確か前に日向が言ってたアレか…」

 

「あら?日向くんから内容を聞いたの?」

 

「うん、俺が戦線に入った日にね。一緒に食堂に行って飯食う時に俺が尋ねて教えてくれたんだ」

 

「そう、なら細かな説明は要らないわね。

岡野くんは食堂でライブの準備と、送風機を回す仕事をするの。簡単でしょ?

そこら辺の説明は他の陽動のメンバーに聞いた方が早いわ」

 

「……わかった。…あとさ、やっぱり食堂でライブとかしたら天使は来る……よね?」

 

「そりゃあ来るわよ、ライブを中止させに」

 

「来ない日とかはないの?」

 

「来ない日なんてないわ。天使だもの」

 

「………だよねぇ…」

 

改めて質問をしてみたが来ない日とかはないらしく、やっぱライブを止めに立華さんは来るみたいだ。

 

「他に質問はある?」

 

「い……いや、もうないかな…」

 

俺がもう質問はないと答えると、ゆりはそう、と若干素っ気無く答え、その後は天使の進行を阻止するバリケード班にそれぞれ指定されたポジションに武装待機するようにと説明をしている。

天使が現れたら各自発砲をすればそれが増援要請の合図になるらしく、銃声が聞こえたらそこの場所に駆けつける事、と陽動の俺も含めて説明をしてくれた。

 

「それでは、オペレーション…スタート!!」

 

 

 

 

 

【学園大食堂 内部】

 

「えっとぉ………配置場所はこんな感じでいいの?」

 

「あ~~、もうちょい右だな。ひとつだけでも照明がズレてたら結構目立つぞ」

 

「そ、そうなんだ……。じゃあ……このくらい?」

 

「あぁ、そのくらいだな。あとは他の奴らにやらせとくから他のとこを手伝って来い」

 

「わかった」

 

少し早めに食堂へ行き、陽動メンバーの人に何をやればいいのかを聞いて、さっきまで他の陽動メンバーの人達に教えてもらいながら照明の配置をし、まだ作業が終わっていないところへと手伝いに行く。

大分人……というかNPCも集まって来ており、俺達陽動部隊の作業準備も終わってきた。

 

「よし……。あとはこの無線機で遊佐さんに報告をすればいいんだな」

 

照明班と音響班のスタンバイもOKのようなので俺は遊佐さんが渡してくれた無線機を取り出し、遊佐さんに連絡をする。

 

「こちら岡野、照明班と音響班のスタンバイは完了したよ」

 

『了解しました。ご報告ありがとうございます』

 

短い通話をし、遊佐さんとの連絡は切れる。

いつの間に俺が遊佐さんに無線機を貰ったのかというと、食堂の入り口で遊佐さんが俺を待っていたようで、準備が終わったら自分に連絡をするようにと言い、その時に渡してくれたのだ。

 

「さて……と。俺は送風機のとこに待機だっけな」

 

そろそろ岩沢さん達も動いてると思うし、ボーッと突っ立ってたら邪魔になる可能性もあるので、すぐさま送風機のある場所へと移動をし、自分が指定された場所へ着く。

しばらくすると食堂が暗くなり、俺達陽動部隊が付けた照明が点き、ガルデモのライブが始まる。

この曲は確か………そう、『crow song』だ。この前ユイが最初に弾いた曲の奴。

やっぱベースやドラムとかがあるから派手だなぁ……。しかも観客達の歓声ももの凄い。

ユイも上手いけど、岩沢さんはもっと上手い。何というか~……そう、歌に気持ちがあるというか何というか……何かを感じるな。

本気でこの曲を歌ってるという感じがよく伝わる。思わず聴き入ってしまいそうだ。

 

「………!」

 

一人の戦線メンバーの人が右腕を上にあげて左右に振っている。確かあれは送風機を回す合図だったっけ……。周りのメンバー達は送風機を回し始めているので間違いない。俺も急いで送風機を回すためにボタンを押す。

すると送風機は周り始め、ライブを見て熱狂してるNPC達が手に持っている食券が送風機の風で上空に舞い上がっていき、それと同時にガルデモのライブが終わった。

 

(これが終わったら残るは後片付けだけかぁ……)

 

この後すぐに飯を食えないのが残念だがこれも雑用の宿命。早めに片付けられるといいな……。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「よいしょ………っと…。他にまだ片付けるのってある?」

 

「いや、それで最後だぜ。お疲れ新入り」

 

ライブで使った物の後片付けも済み、食券を受け取りに行く。

天使と直に戦った人達は食堂から舞ってきた食券を取るのだが、俺達陽動班は食券のメニューがランダムに配られる。

オムライス以外食べない俺からすればランダムはやめて欲しいという気持ちもある。

 

(……仕方ない、交換とかしてオムライスの食券を手に入れるしかないかな)

 

何人かの陽動メンバーの人に話しかけ、肉うどんやカツ丼などの食券とオムライスの食券を交換して貰い、俺の手にあるいくつかの食券は全てオムライスの食券へとなった。

 

(よしよし、これで今日のオムライスは確保できたな。並ばかりなのが残念だけど……)

 

一応大盛りは1つあるのだが、特盛りからのサイズが1つもないのだ。

……まあ、特盛りはともかく、NPCがメガとギガを頼むわけがないか……。俺しかオムライスのメガとギガを食べてないみたいだし。

 

「おばちゃん、オムライスの大盛りを1つと並を2つで」

 

「あいよ、ちょっと待ってな」

 

おばちゃんがオムライスを用意してる間に俺は飯を食ってる戦線メンバー達を見る。

皆普通に飯を食ってみるみたいだけどあんな呑気に食べてて大丈夫なのか……?でも、天使は襲ってきてはいないし、辺りを見渡しても天使がゆり達の方に向かってる姿もない。

 

「はい、オムライスお待ち」

 

後ろから食堂のおばちゃんの声が聞こえ、俺はおばちゃんの方へ振り返り、オムライスを受け取ってゆり達のいる席へと行き、ちょうど高松の左の席が空いている。一応高松に座っていいか訪ねると、あっさりとOKして貰ったのですぐに席に座る。

 

「……ねぇ、こんな呑気に飯食って大丈夫なの?天使に襲われたりとかはされないのか?」

 

「わたし達はただご飯を食べているだけです。別に校則違反をしている訳ではありませんので襲われる心配はありませんよ」

 

「そ……そういうもんなの……?」

 

「そういうものです。天使は校則違反などをした時以外は動きません。つまり、こうしてゆっくりご飯を食べてても襲われる可能性は0なのですよ」

 

「ふん! 例え飯食ってる時に襲われようがどうという事はないがなッ!!」

 

高松は眼鏡をクイッと上げながら天使が何故食事中に襲わないのかをきちんと説明をしてくれ、その話を聞いてたのか、野田がいきなり強気な発言を言いながら炒飯を食べている。

 

「お前今回天使に押されてたじゃねぇかよ」

 

「あさはかなり……」

 

そんな野田の言葉にツッコミを入れる日向と、『あさはかなり』しか言わない椎名さん。

どうやら野田はトルネードの時に天使と交戦をしていたのだが押されていたようで、殺される一歩手前のところに皆が助けに来てくれたとか。

 

「野田でも天使を倒せないなんて凄い強さなんだな……。しかも銃弾を弾いたりしてるけど、あれって天使しか使えない能力なの?やっぱ」

 

「神から授かった能力だからじゃねぇのか? 神の側近なんだからあんな能力を使えてもおかしくはないぜ」

 

次に俺の疑問を答えてくれたのは、高松の右隣にいる藤巻だった。

藤巻を信用してない訳じゃないが、他の人にもそうなのかと聞くと、皆うん、と頷いた。

 

「神から授かった………ねぇ……。何でわざわざそんな事をするんだろう……」

 

「『何で』とは……どういう事だ?」

 

「うわぁ!? 椎名さんが喋った!!?」

 

「Unbelievable!!」

 

俺の言葉に反応する椎名さんと、椎名さんが喋った事に驚く大山とTK。

いや、そこまで驚くのか?椎名さんが喋っただけで。

 

「いや……、俺達を本当に消すつもりならもっと簡単に消せるんじゃないかな~と思ってさ」

 

「どうしてそう思ったのです?」

 

俺の隣にいる高松はまた眼鏡をクイッと上げており、俺に質問をするが、無視してる訳ではないが俺は話を続ける。

 

「天使にもう何人かのメンバーは消されたんだろう?だったら神だって俺達を消す事だってできるんじゃないか?神自らの手で俺達を消す事なんて簡単なはずだと思うんだけど……」

 

“本当に神がいれば”の話なんだけどな……。

 

「そう言われてみると確かに……」

 

後ろの席に座って飯食ってる戦線メンバーの人達も俺達の話を聞いてたのか、何人かは俺の話を聞いて納得している者がいる。

 

「神だってそんな万能な存在じゃないのよ。天使があたし達の仲間を消したからって、神も私達を消せるっていう確証はないでしょ?」

 

そんな中、野田の隣に座ってるゆりだけは俺の意見を否定し、話を続ける。

 

「それに、仮にあたし達を消す事が可能だとしても何らかの理由でこちらに来れないとか、実体がないとか来れないとか色々考えられるんじゃない?

でも、そんな話をしたって結局どれも確信はない。意味のない議論よ」

 

「じゃあ……神はいないのか?」

 

「……あたしはいると信じるわ。見た事はないけど」

 

「……だったら、天使に聞けばいいんじゃないの?」

 

「この世界の根幹についてはノーコメントよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

まあ、もし立華さんが本当に神の側近とかだったら答えるはずもないか……。

神の側近じゃなかったら『何言ってんだコイツ?』と思って答えられなくて黙ってしまうってのも有り得るんだけど。

……おっと、長話したからオムライスが冷めてるかもしれね。

まだ並1つしか食ってないからさっさと食べないと……!

 

(……あ、意外と少し冷めたオムライスもイケるな)

 

オムライスを食い終えた後は各自解散となり、俺は戦線メンバーの男子達と一緒に寮へと帰り、それぞれ自分の寮室へと戻った。

 

(今度立華さんに会いに行ってみるかな……。色々と聞きたい事があるし…………って、会いに行くのは危険だ。もしかしたら他の戦線メンバーの人に見られるかもしれないし……)

 

仕方ない、いつまで考えても意味ないので寝るとするかな……。

いつか立華さんと話せる機会はあるはずだ。最初は早く記憶を取り戻したいと思っていたが、焦ってはいけない。時間は無限にあるんだからゆっくりと記憶を取り戻せばいい。

 

少し前とは違い、大分心に余裕ができたのか、俺は“早く”ではなく、“ゆっくり”記憶を取り戻すという考えになっていた。




以上、第10話でした。

今回は岡野が初のオペレーションの参加と、天使と神についての疑問を聞くのと、冷めたオムライスも意外とイケるという回でした。

恐らく次で本編がスタートし、音無も登場します。

岡野を上手く本編に絡めるように頑張りたいところです。

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