―――レッドというトレーナーに突き抜けた能力はない。
あえて表現するなら”天運型”とも呼べるタイプのトレーナーだろう。能力の資質に関しては全てが3~4段階程度、どれかがトップクラスに突き刺さる様には育たない、”器用貧乏”か、或いは”器用万能”とも呼べるタイプだ。いや、元々は器用貧乏だったのだ。だがそれを圧倒的な天運によって埋めて、疑似的に器用万能の領域に引き上げていた。レベルが足りないならトレーナーと出会い、自分と相性の良いポケモンと出会い、優れたライバルと出会い、成長する為の苦難と出会い、そして勝利し続けた。そうやってレッドという少年は、僅か十歳で最強の称号を獲得するに至った。それはまさに天運の呼んだ奇跡の一年だった。
だがそれでレッドは満足しなかった。
”所詮は天運”と理解していた。
だからシロガネ山へと籠ったのだ。チャンピオン、或いはポケモンマスターにのみ許されたこの場所は、徹底的に鍛える為の場所であり、レッドにとっては何よりも都合の良い場所だった。なぜならレッドという少年は、彼の天運を好いていなかったからだ。それは実に”男らしくない”というのがレッドの結論だったからだ。オツキミ山、シオンタウン、タマムシゲームコーナー、シルフカンパニー―――そしてポケモンリーグ。成長したのはトレーナーとしてだけではなく、人間としても、だ。レッドの前に立ちはだかったポケモントレーナーたちはどれもこれも、恐ろしいぐらいに強く、そして自分の考えを持った者達だった。
そして、ボスと相対して、その意思の強さを受け、レッドもまた成長したのだ。このままではいけない、と。少年だったレッドはそこで恐らく、初めて真剣な、魂を込めた大人の姿というものを見たのだ。彼もまた、別の意味でボスによって―――サカキによって魂に火を付けられた存在だったのかもしれない。故にレッドはシロガネ山に籠った。もう戦いを天運任せにしたくなかったから。吹雪の中で指示を出せるように強く、どんな環境でも的確に把握できるように統率力を、どんな状況からでも的確に読める様に、そして信じたポケモンを理解し、自分の力で頼らずに育てる。
そうやって、レッドは己を鍛え上げた。
そう、
―――レッドの成長期は終わっていない。
成長を続ける最強のトレーナー。それこそが”主人公”なのだ。環境に適応し、ルールを理解し、そして前へと進む。強くなる為、ライバルに胸を張る為に、かつて倒した存在を馬鹿にしない為に、レッドは強くなる。もっと知って、もっと強くなる。
天運と”初代”ルールの理不尽は、
完成された、トレーナーへと成長を遂げる―――。
先発に容赦なくエースを叩き込んでくる自信は流石だな―――。
黒尾と相対するピカを見る。持ち物はまず間違いなくでんきだまだろう。それ以外に持たせる道具はない。天候は―――夜。環境というアドバンテージはまず間違いなく此方が奪った。そしてそれに加えてツクヨミを完全捕獲した事によって、”二律背反”以外の加護も入手した。それが間違いなく、この一戦における情報のない武器となるだろう。ともあれ、自分の記憶が正しければピカは速攻型だ。そして何より、レッドが一番信頼する最強のエースだ。それを開幕で繰り出してくるというトレーナーは少ない。”ここぞ”とも言える状況で繰りだし、確実に勝利する為の布石だからだ。
つまり、最初から叩き込んでくるのがレッドとしての”ここぞ”という状況なのだろう。
黒尾とピカを挟む様に、レッドと相対する。
―――同時に走りだす。
これは公式試合ではない。
野良の試合、草試合。
フィールドは駆け巡る事の出来る場所全て。
トレーナーの立つべき場所は制限されない。ポケモンも。
最良の指示の場所は自分の足で走って確保しないといけない。だから自分もレッドも、繰り出す指示を決めた瞬間に走りだした。それはポケモンの攻撃が当たる距離であり、しかし的確に状況を把握し、そして戦う事の出来る距離へ。迷う事無く踏み出しながらレッドが唇を動かす動きに合わせて、それよりも早く指をスナップさせる。
「ピカ、ボルテッカー」
電撃を纏って神速で進んできたピカと入れ替わるように黒尾をボールの中へと戻し、代わりにナイトを繰り出した。瞬間、ピカのボルテッカーがナイトに衝突し、その体を大きく吹き飛ばす。山頂から弾き飛ばされそうだったナイトは空中で体勢を整え直しながら、一瞬で瀕死直前まで追い込まれた体力をオボンのみで回復させながら着地する。
「
が、耐えた。
昔のナイトは、同じ100レベルでもそれが不可能だった。ボルテッカー一撃でオーバーキルされていた。とはいえ、序盤からオボンを使うハメになったのは地味に辛い話ではある。が、バトン効果が発動する、生き残ったナイトがボールの中へと戻ってくる。一撃目のボルテッカーを、充電の乗った状態のそれを完全にスカせたのは行幸だ。充電分の威力が下がれば、別のポケモンでも一撃程度なら耐えられる。攻撃を受けた事と夜である事によってバトン効果が発動してナイトがボールの中へと戻ってくる。ポジション確保の為に走りながら、ボールを入れ替え、
「行け、蛮―――メガ、シンカァ!」
迷う事無く弱点を突いて攻撃できる蛮を繰り出す。光に包まれメガシンカしてメガバンギラスへと進化した蛮はすぐさまストーンエッジを放つ為の準備を完了させるが―――ピカの速度の方が圧倒的に早い。その体は帯電しており、効果が切れている筈の充電を継続させていた。そうして、再びピカが閃光となって、黄金色の輝きを放ちながら駆けて行く。ジグザグに走行してから残光だけを残して、一瞬でトップスピードになり、ボルテッカーが蛮を穿つ。フィールドを駆け巡っている此方にでさえ蛮への衝突の衝撃、それは伝わってくる。吹き飛ばされそうなその威力を堪えつつも、
「―――ストーンエッジ……!」
蛮がダメージを持ちこして戦闘を続行する。握っている
「……」
「行け……!」
それに対してレッドが繰り出すポケモンは知っている、無論、知識として―――エーフィだ。エーフィに合わせる様に此方もナイトを繰り出す。原生種のポケモンがフィールドに立ち、お互いに睨みあい、そしてナイトが口を開く。
「
「
どうやらナイトに思う事があるらしい。が、迷う事無く指示を繰り出す。ピカに攻撃を喰らって減った分を回復させるために月の明かりを浴びる様に指示した瞬間、不利であると判断したレッドがエーフィをボールの中へと戻して行きながら、すかさず別のポケモンを繰り出してくる。出現と同時に山頂を揺らしながらその場所を大きく占領する十メートル級のポケモンは、
「……」
「んぐぉー」
カビゴンだった。超耐久型のカビゴン。正面から戦えば面倒なのは目に見えている。迷う事無くナイトに指示を繰り出し―――そして吠えさせる。ナイトの吠えるによって強制的にカビゴンがボールの中へと押し戻され、そして交代が発動する。
―――笑みをレッドが浮かべた。
「ガメェェェェェ―――!!」
まるでそれが当然の様にカメックスが吠えるの交代の後に出現し、そして登場と同時に背中のカノンからしおふきを放ってくる。よく見ればカメックスの首元にはスカーフが巻かれてあるのが良く見える。それがこだわりスカーフである事を見抜きつつ、素早く避けろ、とナイトに指示を与える。が、カメックスの一撃はナイトの動きを逃がさない。まるで追尾する様に必中の一撃が直角に曲がる様にナイトを叩き、その姿を吹き飛ばす。が、ナイトがそれにギリギリ耐える。クソ、と言葉を吐き捨てながらボールの中へとナイトをバトン効果で戻す。
水ポケに対する武器が少ない事がこのパーティー数少ない弱点だと個人的に思っている。それをカバーする為には、大技を繰り出すか、或いはサブウェポンとして保有しておくのがベストだが、一致もしていないサブウェポンで倒せるとは思えない。となると一致する大技で戦う必要がある。
「―――サザラ……!」
どうしようもない状況を覆すのが、
「エースの仕事よ」
砂嵐を切り裂きながらサザラが登場する。カメックスが迷う事無く繰り出したしおふきをサザラがキングシールドで受け流しながら直進し、懐へと踏み込んだ所でギルガルドを振り下ろし、せいなるつるぎをその体へと叩き込みながら後ろへと抜けて行く。倒れないカメックスが素早く振り返りながらしおふきを繰り出すが、その威力は下がっている。サザラの攻撃後の硬直を狙ったしおふきはその体を穿つが、耐え抜いたサザラがそのままキングシールドで押すようにバッシュを繰り出し、そして再び背後へと抜ける様な三連撃を完成させる。
カメックスが倒れる姿を確認しながら、咆哮を響かせる。砂嵐が消え、その代わりに星天が、雲海を明るく照らす星々の輝きがシロガネ山に降り注ぐ。サザラをボールの中へとバトン効果で戻しつつ、素早くナイトを繰り出す。合わせる様に繰り出されたのはカビゴンの姿だった。交代させるかどうかを悩むのは一瞬だけ。再びナイトに月の明かりを浴びせ、回復を狙う。星々が輝く今、その回復量は最大に達する。
が、
「ごぉーん」
気の抜けた声と共に―――カビゴンが最速で行動してきた。
カビゴンというポケモンにはありえない速度を発揮し、一瞬でナイトへと追いついたカビゴンが踏みこみ、拳を作り、そして抉り込む様に拳を叩き込み、一撃でナイトの姿を跳ね上げ、そして浮かび上がったナイトの姿を掴み、その姿をそのまま大地へとダンクしてからのしかかりとじしんを同時に、ナイトへと倒れ込む様に放った。
起き上がったカビゴンの下にいるのは完全に伸びて、そして目を回しているナイトの姿だった。
ナイトをボールの中へと戻しつつ、お疲れ、と静かにナイトへと伝える。カビゴンの事を受け要員かと思っていたが―――違う。恐らくは蛮と同じタイプ、超物理特化型に再育成されているのだろう、このシロガネ山という環境で。それを見抜けなかった自分が悪いのだ。居座らせずにボールの中へとカビゴンが戻って行く。それを潰せないどころか受け要員を失ってしまった事に歯痒さを感じつつ、素早く、次にどうするかを考える。
このシロガネ山という場所で、全力で走り回りながら指示を繰りだしているせいか、お互いに呼吸が段々と荒くなってきている。
それでも状況は4:4、お互いにイーブン。
中盤戦にはここから突入、アドバンテージを奪った方が終盤戦を優位に進める。カビゴンを戻された以上、相手は居座るつもりはない―――交代型の動きに近くなっている。元々のレッドは完全に居座り型、某スタイルからすれば”ボーティー”とも言える動きだ。だがその動きは駆逐され、レッドのスタイルはもっと洗練されてきている。居座らずに、ポケモンを切り替えて読みを乱すように、プレッシャーやアドバンテージを奪う事を意識する様な、”熟練のスタイル”へと変質しつつある。だが、そう、まだ、
―――成長途中だ。
―――レッドには師がいない。
そこが、狙い目だ。
「アッシュ……!」
「……」
メガリザードンZであるアッシュを繰り出すのと、そしてレッドが原生種のリザードンを繰り出すのは同時だった。リザードンの先を行くリザードン、それがアッシュだ。種族値的には完全に勝利しているが、アッシュとレッドのリザードンの間には埋められない”経験”が存在している。それが唯一の問題だが、それを抉るのがトレーナーの仕事だ。
レッドと同じタイミングで指示を繰り出す。
りゅうのはどうを放ってきたリザードンの攻撃をアッシュがドラゴンクローで切り裂きつつ、高速ドラゴンダイブを放ち、一気にリザードンへと接近する。口から炎を漏らし、闘志を燃やすリザードンがそれに反応し、体を反らしながら尻尾を振るい、ドラゴンテールがドラゴンダイブと衝突し、リザードンが僅かに押し負ける様に弾かれる。が、立て直しはリザードンの方が早く、すかさず放たれたきあいだまがアッシュの体へと直撃し―――アッシュがそれを耐え抜きながら流星群を呼び寄せ、頭上から直下させた流星によってリザードンを大地へと叩きつける。それに連続で続け様に星天を解除し、普通の夜へと環境を戻しながら流星群を発動、再びリザードンを流星で穿つ。直後、アッシュがボールの中へと戻ってくる。
ボールを切り替え、アッシュから黒尾へとポケモンを繋げる。流星群の二連撃を受けたリザードンは猛火の如く炎を荒ぶらせながら、よろける体を持ち上げる。黒尾が登場し、夜空が展開される。そこで迷う事無くレッドがリザードンをボールの中へと戻しながら、
「バァァァアナ!」
フシギバナを繰り出した。その隙を突いて狐火を黒尾に設置させ、交代から火傷を発生させるプレッシャーを相手に押し付ける。それを見たレッドが指示を繰り出す。フシギバナが根を張り、そしてにほんばれを呼ぶ―――星天がフシギバナの頭上で輝き始める。舌打ちしながら黒尾にVジェネレートを放たさせる。接近した黒尾の絶技が一瞬でフシギバナを飲み込む。が―――フシギバナは倒れない。厚い脂肪を保有していたとしても、耐久力が高すぎる。
……炎耐性か!
徹底的に炎への耐久力を高める様に育成されているのかもしれない。だとしたら氷か飛行じゃないと辛い。迷う事無く黒尾をボールの中へと戻し、そして入れ替える様にサザラを繰り出す。その瞬間を狙いすました超極大のソーラービームが放たれる。タイプ相性を無視した究極技を混合させたソーラービームがサザラの姿を飲み込み―――そしてサザラがそれを紙一重で食いしばった。
「う、ら、あぁぁぁぁぁぁ―――!!」
怪物のような咆哮を轟かせながら放たれたはやてのつるぎがフシギバナの体力を穿つ。その体力を極限まで削ぎながらも、フシギバナはまだ倒れず、ソーラービームの二射目を放ってくる。駄目だなこりゃ、と判断しながら素早くサザラをボールの中へと戻し、そして代わりに盾になる様に黒尾を場へと繰り出す。
黒尾をソーラービームが穿ち、その姿を一瞬で沈める。
黒尾の怨念が解き放たれる。殺意と恨みが闇の手となって回避の出来ないフシギバナの体を貫き、みちづれにする。
「すまん」
静かに黒尾へと攻撃を押し付けた事を謝る。レッドのフシギバナも倒れ、状況は3:3に移る。
迷う事無く、ここで思考を加速させる。
レッドのパーティーに特徴的なのはその暴力的なまでの”攻撃力の高さ”にある。攻撃、特攻関係なくレッドのパーティーはかなり攻撃力が高い編成になっており、全てのポケモンが必殺級の破壊力を持っている。それはレッドの元々戦っていた環境が”先手必殺”という環境にあり、今の様に受け回しという事が有名ではなく、出来ない環境でもあったことだ。だからレッドのポケモンは総じて火力が高い。そして同時に、耐久力も高い。耐えて、そして殴る。それがレッドパーティーの基本である。
基本的にレッドがポケモンに積み技を指示しないのは、元々場に出た時にレッドの戦意に反応する様に自動的にポケモンが強化される様な信頼をお互いに築いているからだ。だから―――タイミングを、サイクルを崩すならそこだ。カビゴン、それがこの不利を覆す為に絶対に潰さなくてはならない相手。新たに得た
それをハメるには最高のタイミングだろう。
故に繰り出すポケモンを決める。高速思考が解除され、そして通常の時間の流れへと戻って行く。既に何時間も全力疾走を続けた様な疲労が体に圧し掛かってくる。だけどそれでも心は敗北を認めない。だから一切苦悶の表情も、そして疲れも顔に見せる事無く、呻き声の一つすら上げずに動く。それはレッドも変わらない。いや、笑っている。俺も、レッドも、笑っている。全力で戦い、そして認め合う事が出来る仲なのだ。笑わずにはいられない。楽しい。やっぱり、ポケモンバトルは楽しい。
楽しまずに何がポケモンバトルだ。
「災花……!」
「……」
「ごぉーん!」
終盤戦へと突入するという状況に、繰りだされるポケモンはカビゴン。凄まじい戦意を見せるカビゴンはまるでレッドの戦意に呼応するかのようにその力を強めて行く。それを見た瞬間、笑みを浮かべる。
「卑怯とは言うなよ―――」
その上昇効果が反転した。上昇し、強化するはずだった能力が全て反転し、そして弱体化へと変化する。強化されるはずだったカビゴンは逆に力を失い、急激な変化に驚きを隠せないでいる。その隙にメガシンカしながら災花が穿つために行動に出る。それをレッドは笑みを浮かべながら迎えた。
「……卑怯なんて言うもんか。頑張って手に入れた力を否定する事なんて―――」
迷う事無くレッドがカビゴンを引き戻す。だが災花のおいうちが急所を連続で穿つように放たれ、カビゴンの体力を奪って行く―――それでもカビゴンは倒れる事なくボールの中へと戻って行き、そして下降効果がリセットされる。それと入れ替わるように繰り出されるのはエーフィだった。此方はポケモンを入れ替える様な事はせずに、そのまま災花で戦闘を続行する。エーフィというエスパータイプのポケモンを穿つ為に災花がそのまま連撃に入り、
辻斬りが連続で決まる。
一瞬で奪われるエーフィの体力。その姿が倒れ―――そしてみちづれが発動する。みちづれがそのまま災花の体に喰らいつき、そして体力を一気に自分と同じ状態へと引きずり落とす。素早く災花をボールの中へと戻す。考えもしなかった、
「まさかお前がみちづれなんかに頼るなんてな」
「……そうでもしないと勝てないからね」
その言葉に、お互いに小さく笑う。何故だか可笑しかった。でもそれでいい。楽しくなきゃ、ポケモンバトルじゃないのだから。だけどこれで状況は2:2であり、お互いに損耗したポケモンが残されてしまった。状況をひっくり返すポケモンは当然、
「サザラ―――!」
「カゲ―――!!」
弾けるオーラを纏い、手袋を吹き飛ばし、モンスターボールを粉砕しながら射出し、サザラをフィールドに繰り出す。同時に、レッドも全力でリザードンを放っていた。モンスターボールが粉砕されており、燃え尽きて、部分的に溶解していた。お互いに全力までポケモンの力を―――それこそトレーナーがそのままでは耐えられないだけの力を引きだし、相対させた。
きょっこうのつるぎを迷う事無く放ったサザラの一撃を、リザードンが正面からぼろぼろになりながら受け止め、そのまま全力で突き抜けてくる。七連撃を喰らって食いしばりを貫通させても、主を勝利させたいという一心で戦闘を続行させるリザードンがそのまま接近し、ブラストバーンをゼロ距離から放ってくる。キングシールドによって防がれた瞬間、反動を無理やり殺したリザードンがサザラと掴み、
その場でちきゅうなげを、半分ジャーマンスープレックスの様な感覚で繰りだし、大地へと自身諸共叩きつけた。
「ク……ソ……」
「ぐるるぅぅ……」
そしてサザラとリザードンが同時に倒れた。もし、先行加熱をレッドが行っていなければ、あのキングシールドで防いだ後、サザラの方が復帰が早かっただろう。となると上昇反転の使用タイミングをミスったか? いや、違う。この状況を生み出せたのだ、これで良い。最後の一匹だ、
全力だ、
「アァァァッシュゥゥゥ―――!!」
先行加熱を行う。モンスターボールを繰り出す右腕が炎上するが、それに構う事無くアッシュを放つ。同様に全力でレッドがカビゴンを繰り出し、アッシュとカビゴンがフィールドに揃う。瞬間、カビゴンが先制を奪って拳を、ばかぢからで振るって来る。反応し、割り込む様に守るを指示する。それによってカビゴンの攻撃がスカされ、一瞬の隙が生み出される。
その隙に、Vジェネレートが叩き込まれる。
煉獄にカビゴンが飲みこまれ、しろいハーブをアッシュが飲みこんだ。それでもカビゴンは倒れない。怪物的としか評価する事の出来ない耐久力で、Vジェネレートを受けても倒れずそのままアッシュへと接近し、その体をばかぢからで穿ち、殴り飛ばす。叩きつけられたアッシュの体力に限界が来る。
「が―――」
が、
「ぁ―――」
それを、
「ぁぁぁあああああ!! 私も、エースなのよ―――!」
食いしばった。そしてそのまま、Vジェネレートが再び炸裂する。シロガネ山の山頂を赤く照らす極大の煉獄が、まるで残された体力の全てをつぎ込む様に放たれ、大地を全て赤く染め上げる。その中央に捕らわれたカビゴンの姿が見えなくなり、数秒間炎が続く。
そして炎が消えた後で、
「……」
―――カビゴンは立っていた。
「う、そ……」
体力を使いきって立つのも辛いのか、翼を広げる事もなく、片膝を大地につけながら、両足で立つカビゴンをアッシュが睨む。此方も全力でカビゴンを睨む。まるで敗北を認めないと言わんばかりに立ちはだかるカビゴンの姿に恐怖すら感じられるなか、
レッドが歩いてくる。
「―――お疲れ様、ゴン」
そう言ってレッドが軽くカビゴンに触れた瞬間、
無言で、言葉を発する事もなく、後ろへとカビゴンが倒れる。もうすでにカビゴンは体力が尽きていたのだ。ただ、それでも、主を敗北させたくはない。それだけの願いでずっと、倒れずに立ち続けていたのだ。その本来の習性は怠け者。しかし、それを超越するだけの信頼関係がこのトレーナーとポケモンにはあったのだ。
「あーあ……」
レッドはどこか寂しそうに、だけど嬉しそうに、
「僕の負けかぁ……悔しいなぁ……」
「はぁ……勝った気がしねぇなぁ……ほんと……」
ゆっくりと大地へと倒れるアッシュをボールの中へと戻しつつ、レッドと視線を合わせ、互いに小さく笑い合い、
そしてほぼ同時に、大地へと倒れる。
ポケモンバトルは楽しい。
それはそれとして、
体力が超限界だった。
vsレッド戦、終了。
これが公式戦だとピカだけで3タテする。実機環境だとピカチュウが足を引っ張るらしいけど、最悪の相性相手を鎮めるぐらい無茶苦茶なのがレッドさんなのである。ともあれ、これでシロガネ山での死闘も終わり。
このお話もいよいよ残すところ後1戦。レッドさんを倒したからこそ、漸く戦う資格が生まれたとも言えるあの人が最後の相手だよ。
レッド手持ち
ピカ(でんきだま)
カゲ(ラムのみ)
カメ(拘りスカーフ)
フッシー(白いハーブ)
エーフィ(光の粘土)
ゴン(先制の爪)