目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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伝説殺し

 ―――ホウオウ戦はある意味で戦いだ。

 

 ”精神”との戦いだ。

 

 ホウオウをハメる事まではいいが、ここからが本当の意味での戦いになる。ヤナギに捕まって数年間拘束されていたホウオウ、その憎悪は凄まじいものになる。それこそ伝説級のポケモンならではの憎悪だ。放っておけば間違いなく報復に出る為、何が何でも心を折らなきゃいけない。だから何度も何度も殺し、蘇らせ、そして心に絶望を刷り込んで行く。その作業はたった一日で終わるわけがない。何十と同時に使役しているポケモン達と共に、ホウオウが心を折るその”数日の間”をここから動く事もなく、ポケモンを休ませる事もなく、ずっと監視して行わなくてはならないのだ。ある意味耐久レースだという事もできる。ホウオウかこっち、どっちが先に諦めるかの。

 

 そうやって始まるホウオウとの戦い、初日。ホウオウは激しく暴れている。宿り木の種は体にまとわりつくが、ホウオウがそれを聖なる炎で焼き続け、脱出しようと常に激しく暴れている。伝説の見せる底なしの体力に、死亡時に体力や状態が完全復活する事と合わせ、常に油断する事の出来ない状況になっていた。だがそんなホウオウとは裏腹に、スイクンとライコウの体力は限界に近づき、そしてあっけなく倒れる。モンスターボールでスイクンとライコウを捕獲し、それをホウオウへと見せつける。ホウオウが更に怒り狂い、念話を通して殺す、と脅迫して来るが、その姿を見下して笑い、初日は終了した。

 

 二日目になるとホウオウはまだ暴れるが、その勢いは初日ほどではなくなってくる。ついでにホウオウの前でスイクンとライコウの育成を始める。準伝説、伝説、そしてダークタイプのポケモンは問答無用でボールに備えられている恭順効果を無効化する事が出来る。それは準伝説等に備わるデフォルトの能力だが―――エンテイ、ライコウ、スイクンは元々、”普通のポケモン”だったのだ。それがホウオウの力を通じて蘇生し、そして準伝説の力を手に入れるに至ったのだ。つまり、その中身に関しては普通のポケモンのままなのだ、大体が。経験している年月だってそんな多くはない。だから普通の鍛えられたポケモンにでさえ敗北するのだ。そんな事もあり、ホウオウと違ってライコウとスイクンは”強者に従う”と言うポケモン本来の本能が色濃く残っている。

 

 それを使ってスイクンとライコウを屈服させる。

 

 そのまま、ホウオウ攻めにスイクンとライコウを参加させる。

 

 もはやスイクンとライコウはトレーナーに逆らう事が出来ない。それを利用し、ホウオウを殺す作業に二体を参加させる。それを理解した瞬間からホウオウの暴れる勢いも、そして呪詛の声も一気に跳ね上がる。実際、ホウオウは伝説の力を持っているのだ―――呪われろ、そう思えば実際に人間程度であれば呪う程度の事は出来る。だから呪われた。体中を激痛が駆け巡り、そして殺しに来るが、それで何らかのリアクションを見せる事は許さず、ひたすらホウオウへの地獄の責苦を続けさせる。ライコウとスイクン、今までホウオウの味方だったポケモンが捕まって参加している事で、一気にホウオウの勢いが落ちた。

 

 ホウオウを助けてくれる存在はいないのだから。

 

 三日目―――ホウオウが大人しくなる。もう既に三日目に突入すると、ホウオウの殺害回数は余裕で三桁を超え、四桁へと突入する。手の空いているポケモンに食料を調達させ、それを食べながら殺し、スイクンとライコウを目の前で育成させながらホウオウを殺し、見下すように、そして現実を突きつける様に殺す。二日目までは殺すとはっきりと宣言していたホウオウも、三日目になると言葉が変わってくる。偶に殺してくれ、と言葉が飛んでくる様になってくる。どうやら相当ライコウとスイクンに裏切られたことがショックだったらしく、心が弱っているらしい。所詮伝説も生き物、味方に裏切られれば弱るか。そんな事を思いながらも、

 

 作業は止めない。ホウオウは殺し続ける。スイクンの背の上に乗って、ひたすら痛みに耐えつつ、ホウオウの苦しむ姿を眺め続ける。ホウオウが不死であっても、その肉体を全て丸ごと消滅させれば完全に殺す事だって出来る。そういう意味で殺してくれ、とホウオウは願っているのだろうが、そんなものを叶える筈もなく、首を折るだけじゃ芸がないので、もっと丹念に痛みが伝わるようにダメージを与えてから殺す。一瞬の隙を許す事もなく、ホウオウを殺し続ける。

 

 そして四日目、ホウオウは何もしゃべらなくなった。

 

 だが目に光が宿ってる。

 

 続行。

 

 五日目、喰らった呪いの激痛のせいで一睡もできていないが、その痛みが和らいできた。呪いを与えるホウオウ側の意思が弱っている証拠だった。もはや逃げ出そうと足掻く事は一切しない。だが、それでも目の中には僅かな死への懇願が見える。つまりまだ考えるだけの意思が残っているという証拠だった。つまり続行する。

 

 六日目、目から完全に光が消えている。成すが儘、動くこともなく、怨嗟を放つわけでもなく、呪いの痛みもなくなっているから、完全に思考を放棄している。だから無理やり思考を巻き起こすように”海”から引きずりだし、10万ボルトを叩き込み、意識を覚醒させ、

 

 再び海の中へと叩き込んで作業続行。この日はよく眠れた。

 

 七日目、久しぶりによく眠れたのでいい気分になりつつホウオウの姿を眺めながらステーキを食べた。七日目は神様が休んだ気がしていたので作業を続行した。

 

 休め、という神はいないから。

 

 八日目、ホウオウの溺れている姿をポケギアの写真機能に残しながら、そんな気分だったので更に一日延長。

 

 

 

 

「さて……大分遊んじまったけど、そろそろいっか。スケジュール押してるし」

 

 手を振ってポケモン達に動きを止める指示を与える。ホウオウを逃がさないように警戒しているポケモン達はそのまま、殺す為に水流操作と、宿り木の種を放ち、操っていたポケモン達が動きを止める。そのまま、ホウオウが沈んでいた海そのものを消失させる。歩いて、動くことなくそのまま倒れ伏すホウオウへと近づき、その顔の前で足を止める。蘇生したばかりなのでホウオウの肉体は完全に回復してあるし、今からでも全力で戦闘を行う事が出来るだろう。だがその肉体とは裏腹に、ホウオウの目は完全に死んでいる。

 

 冗談の類ではなく、一切の希望を見せず、ひたすら絶望とストレスを受けた結果、完全に無気力な状態となっている。そんなホウオウの前にモンスターボールを取り出し、それを触れそうな距離まで伸ばす。決して触れる事はない。あと少し、あと少し手を伸ばせば―――という距離にはあるが、自分からは決して動かす事はない。

 

「さあ、ホウオウ。お前が今までの憎悪を忘れ、俺への忠誠を誓うのであれば今までの行いは全て忘れて、大事に扱ってやる―――さあ、選べ。このまま地獄を彷徨い続けるか、或いはポケモンとしての従う喜びを理解するようになるか。お前の意思で選べ」

 

 迷う事無くホウオウがモンスターボールに嘴を伸ばし、自分から中に納まる。考えるだけの思考力が残っているからやり直し―――なんて事も一瞬だけ考えたが、一週間でこれだけ追い込む事が成功したのだから、それはそれで成果なのではないか? と思わなくもない。何せ、既に一ヶ月の内、二週間を経過させてしまったのだ。グリーンの協力でオーバーハンドレッドを達成しようと頑張っているが、いかんせん、経験値が圧倒的に足りない。そう言う事もあって、ホウオウの無限地獄はいい経験値稼ぎでもあった。四天王戦に向けて限界を一つ突破する事を目標としているが、やっぱり難しい。ともあれ、

 

 もはやシロガネ山に用はない。長居してしまったが、まだ赤帽子と戦う準備も覚悟もない、ホウオウの無限地獄が終わった時点でここから出る約束なのだ。だから撤収作業を始める。飛行する事の出来ないポケモンはドンドンとモンスターボールの中へと戻して行き、それをそれをカバンの中へと放り込んで行く。ワダツミもボールの中へと戻し、そして道具の類を飛行ポケモン達に持って運ばせて行く。軽く自分の肩を叩きながら、欠伸をかみ殺す。

 

「ふぅ……まぁ、一週間か。四天王戦まであと二週間……グリーンには協力してもらえるし、いっちょオーバーハンドレッド目指して育成してみっか。さて、システムなんてものは存在しないけど、限界突破は出来るのかどうかって所だな……」

 

 ただグリーンは手持ちに関しては”レベルが101”になっている個体がいくつかある。それを考えれば、間違いなく不可能ではないのだろう。まぁ、その方法が恐ろしく面倒で、そしてハードなのだが。まぁ、それは後回しだ。とりあえずは38番道路の自宅へと戻る事を先決とする。今まで戦闘を繰り広げていた場所を見渡し、溜息を吐く。大分派手にやらかした。生態系は変わらないが、それでも地形は軽く変えてしまった。やはりクレイモアと地雷のパーティーはちょっとやりすぎだったかもしれない。だがそれはそれとして、やり切って気分はいいので、それでよしとする。

 

「うし、帰るか」

 

 モンスターボールを振るいながら大きく跳躍すれば、足元に潜り込む様に赤い姿が割り込み、そして空へと上がるのと同時に本来の大きさにまで巨大化する。赤と白をベースに虹色の輝きを持つ伝説のポケモンホウオウ、それは一言も言葉を発する事無く、完全に所謂”レイプ目”状態で自分を背の上に乗せ、そしてシロガネ山から出る様に飛翔する。先導に関しては他の飛行ポケモン達が存在する為、命令なんかしなくても向かう方向は知っている筈だ。だから命令をするわけでもなく背中の上で腕を組み、そして口を開く。

 

「一つ、後学の為に教えてやろう―――」

 

 自分がトレーナーとなる原因になったのは間違いなくトキワジムで初めてポケモンバトルを行った、あの感覚が原因だ。だけど同時に、恐怖が常に心の中にあったのだ。襲われたら怖い、殺されてしまう。そんな恐怖が常に胸の内には巣食っていた。だから何よりも最初に学んだのは真っ当なポケモンバトルの方法ではなかった。そもそもその時はまだポケモンリーグには興味がなかったし、強くはなりたくても本気ではなかった。それよりも生き残りたい気持ちでいっぱいだった。だから学んだことはトレーナーとしての事ではなく、

 

 どうやって外敵を排除するか、生き残るか、相手をハメて殺す方法。

 

「―――俺は野戦の方が強い。あと覚えておけよ、テメェの名前は今日からカグツチだ」

 

「―――」

 

 応える様にホウオウ―――カグツチの咆哮が響き渡る。良い子だ、と軽く褒め、必要な脅威の排除が終わったので、家へ戻る。

 

 ―――ここからが、四天王戦に向けた対策と準備の本番だ。




 オニキスくんは伝説殺しと呼ばれ始めている様です。なおスイクンとライコウは興味ないのでリリース予定だそうで。

 あと数話コミュ回を挟んだら四天王かねぇ。

 皆は誰とのコミュが来るか解るかな?


 こう、堕としたりするの好きだけど性癖の押しつけって良くないよね? と思うから自然とシナリオに混じるようにプロットに前々から組み込みながら描写をやんわりとソフト表現にするという無駄な努力。自分の性癖だからこそあえて描写を薄めにしてステマするのです……。

 心を折るのが好きであって、洗脳は嫌いなのです(半ギレ

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