目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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ポケモンリーグ一回戦

『―――エントリーナンバーワン! カントー地方のトキワシティ出身! ポケモントレーナー・オニキス! 知っている奴は知っている! 何せ非公式な試合でなんとシンオウ地方のチャンピオン、シロナの撃破経験のある驚異のトレーナーだからだ! カロスリーグベスト4! イッシュリーグベスト4! 大舞台での優勝経験はない、だが今年のシード枠を捥ぎ取り、そして伝説のポケモン”ルギア”を捕獲したあいつはまさに今年のポケモンリーグの優勝に、いや、ポケモンマスターの座に一番近い男かもしれないぞ―――!』

 

 ゆっくりと歩きながら、スタジアムに入場する。

 

 最初からゴーグルは既に下ろしてあり、それで正解だったかもしれない。スタジアムに入場するのと同時に、爆発する声援と、そしてシャッターの音や光が一斉に空間に満ちる。ある程度のその光をゴーグルで弾きつつ、揺らぐこともなく、真っ直ぐフィールドの端へと向かって歩く。時折聞こえてくる歓声には知っている声が響いてくる。

 

「ヘイ! オニキスボーイ! ドント・ルーズ!」

 

「恥を晒すんじゃないわよ」

 

「頑張れよ兄ちゃん!」

 

「……ふんっ」

 

「頑張ってくださーい!」

 

「愛されているねぇ、オニキスちゃん」

 

 影の中から姿を出す事もなくそう言って来るギラ子の言葉に胸中、口に出す事のない言葉で応える。

 

 ―――知っているさ。

 

『さあ、そんなオニキスに対するはホウエン地方のフエンタウン出身! ポケモントレーナー・コモラ! ホウエンリーグベスト8! カロスリーグベスト4の経験のある猛者だぁ! カロスリーグではあとわずか、という所で勝利を逃したが、そのリベンジに闘志を燃やしてやってきたぞ、セキエイ高原に!』

 

 実況の声が響き、フィールドの反対側からコモラの姿が見えてくる。落ち着いた色合いのロングパンツにシャツ、そしてベスト―――活動的な格好をしている青年だ。年齢は……自分よりも一、二、下程度かもしれない。相手も此方を観察する様な視線を向けているが、此方の表情はゴーグルを装備する事で読む事を妨害する。ポーカーフェイスもちゃんと出来るように訓練している―――相手もそれは同じだろう。

 

 だから純粋に、読み合いの勝負だ。

 

『さあ、ここで二人に関する基本的な情報の開示です! 解説は予選から引き続き―――』

 

『マサラタウンのオーキドじゃ』

 

『ワカバタウンのウツギです』

 

『の、お二方で進行します! それではオーキド博士、ウツギ博士、オニキス選手とコモラ選手の基本的な戦術の説明をお願いします』

 

 歩き、フィールドの端に到着する。息を吸い、そして吐きだしながら心を落ち着け、そして集中力を高めて行く。不思議と頭の中がクリアになっているのが解る―――いや、これもワダツミの―――ルギアの加護だ。どんな状況でも冷静に落ち着け、そして思考力をフルに活用し、回転力を高めるという。ボス等の経験の高い人物、賢い人物、或いは指示能力が高い人物であればこれぐらい、簡単にできるのだろう。だが自分としては欲しかった技術の一つであり、こうやって得られたのは幸いだった―――ピンチの時、考える時間を生み出せる。

 

『うむ、オニキス選手も、コモラ選手もどちらも天候パーティと呼ばれる、天候を変化し、その環境に適応するようにポケモンを戦わせるタイプのパーティーを率いておる』

 

『天候パーティー……通称天候パですが、これは色々と種類がありますね。まずはにほんばれによって晴天で戦う晴れパ、あまごいを使用して雨の中で戦う雨パ、すなおこし等ですなあらしを発生させて戦う砂パ―――メジャーとなるものはこれぐらいですね。一部の地域だと珍しい天候霧パなんてものもあるらしいです』

 

『その中でもこの二人はかなり珍しい、いや、特異とも言うべきパーティー編成を行っておる様じゃの。オニキス選手は複合天候パ、そしてコモラ選手は砂固定パとして非常に優秀なトレーナーである事を証明しておる。儂もできるなら今ここで説明したいところじゃが……観客も選手の方も待ちきれないようじゃな!』

 

 オーキドの笑い声がスピーカーを通して聞こえてくる。だがそれは一切心を乱すには至らない。逆に、頭はドンドン深海の底へと沈んで行くかのような冷静さを得て、静かに戦略と戦術を組み上げる。冷静になる、それだけの話だ。だがそれだけでいい。頭は冷静に。心は夢で燃え上がらせ、そして手で勝利を掴む。掴め、

 

 ―――掴むんだオニキスッ!

 

 目を見開く。フィールドの反対側にいるコモラへと視線を向け、目を合わせる。言葉は必要ない。トレーナーに言語はいらない。視線が合えばそれでバトル。闘争は言語以上に語ってくれる。故に、お互いに放つ言葉なんてない―――闘争本能に身を委ね、トレーナーとしての血を活性化させる。この瞬間、この場所で、燃え上がらないポケモントレーナーは、

 

 死んだ方がいい。

 

『それでは長らく待たせました! カントー・ジョウト統一ポケモンマスターリーグ! 初戦! オニキス選手対コモラ選手、開始ぃ―――!!』

 

 その言葉を待っていた。血がマグマの様に滾っている。頭は冷静でクリアなのに、体はこんなにも熱く、戦いを求めている。酸素を求めるように口を開きながら、腰のベルトへとボールを求め、それをスライドさせる様な動作でスナップさせ、一切手から離す事なくポケモンの入っているボールを動かし―――そしてその中に入っている絆によって繋がれたポケモンを出す。

 

「行け、黒尾―――!!」

 

「行け、グライオン―――!!」

 

 二体の亜人種がフィールドに出現する。その瞬間、セキエイスタジアムそのものを包む様に昼の光が消えて行き、太陽が閉ざされる。その代わりに夜の闇が世界を覆い、かすかな月と星の光が道しるべとなる。それと同時にスタジアムのフィールドに突風が生み出され、大地を削りながら砂を巻き上げる。一瞬で闇の世界に砂嵐が吹き荒れ、狂う様に環境を変化させる。その中に黒尾とグライオンが睨み合う。刹那の間、黒尾とグライオンは睨み合い、砂嵐と闇が争い合う。だが二律背反の効果が砂嵐を上回り、砂嵐の永続を許すが、夜の展開を許す。お互いに想定していた事態が発生し、

 

「戻れ黒尾!」

 

「戻れグライオン!」

 

 観客のどよめきを無視して次のポケモンへとバトンを回す。

 

『これだぁ―――! オニキス選手の”夜”! 知らない人は多いでしょう、何と言ってもオニキス選手は新しい天候である”夜”を発見し、技マシンにまで仕立て上げた新戦術の開発者! それでいて固有の能力でフィールドに同時に天候を二個まで展開できる! このおかげでオニキス選手は複合天候”融合”パとしても有名だぁ―――!』

 

『全く未知の領域ですね』

 

『儂もこうやって見るとワクワクして来るものじゃの。オニキス選手の”二律背反”も面白いが、コモラ選手の”永久砂獄”もまた極悪じゃ。なんとか夜を展開できたが……これで砂嵐は永続展開を約束されてしまったの、ここからは難しいぞ』

 

 流石オーキド博士、良く解っている。だけど負けはしない。天候パとして、”次世代の天候パ”を生み出したトレーナーとして、ここで負ける訳にはいかないのだ、天候パにだけは負けてはならないのだ。口に出す事なく叫びながら、ボールをスナップし、入れ替えながら素早くフィールドに次のポケモンを繰り出す。

 

「月光ォ―――!!」

 

「鉄回王ッ! ……!?」

 

 同時にフィールドにポケモンを出現させる。此方が出現させたのは月光であり―――相手はギガイアスであった。原生種のそれは出現と同時にロックカットで体を削りながら鋭利なフォルムを形成し、加速し始めるその全く同じ、登場のタイミングで月光がどくびしとまきびしを大量に撒き散らす。夜の闇にまぎれる様な色をしたまきびし達はもはや判別するのは不可能な様に撒かれた。解っている、ここはサザラか蛮を出すべきだ。砂嵐という環境の中、影響されずに動き回れるのはあの二体、そしてクイーンのみだ。それ以外を出せば砂嵐に容赦なく削られるが、

 

 おかげで意表を突けた。

 

 月光のみがわりが作成される。ギガイアスの放つストーンエッジがみがわりを貫通しながら月光へと届き、その姿を吹き飛ばす。ストーンエッジで破壊されたみがわりはカウンターを叩き込む様に爆発を起こし、ギガイアスの体を傷つけ、吹き飛ばす。とはいえ、砂嵐によって強化されたその体は全くと言っていいほど傷ついていない。

 

「忍びであるが故、己の名誉よりも使命を果たさせてもらうで御座る」

 

 ギガイアスがみがわりに吹き飛ばされた僅かな時間に、月光が水を生み出し、それで遊ぶように周りに振り撒き、染め上げ、そして環境を濡らして行く。砂嵐の砂が水分をたっぷりと吸い込み、大地も砂から泥に近い環境に変わり始める。それでも砂嵐は継続し、止まらない。その勢いは若干収まった。それでいい。ギガイアスのストーンエッジが月光へと突き刺さり、その姿を吹き飛ばす。ボールの中へと月光を戻しながら、ボールをスナップさせる。相手もポケモンを入れ替えるのが見える。

 

「良いアシストだった、お疲れ月光―――そして見せつけろ、削いで行けクイーン! 公式戦デビューだ!」

 

 ボールからクイーンを放つのと同時に、相手のフィールドに出現したのはシュバルゴだった。鎧を身にまとった、ランスを二本握ったナイトの様な亜人のポケモンだった。サイクルを回す上で受けを挟んできた、という所だろうか。確かに統一砂パならバトン交換は簡単に行えるだろうが、そのサイクル破壊がクイーンの主な役割だ。声に出す事なく指示を飛ばせば、鈍足のシュバルゴへと接近し、ドラゴンクローがハルバードによって放たれる。

 

「快ぃ感っ!」

 

 シュバルゴのタイプを破壊したのが見えた。狂笑を響かせながらバックステップを取ったクイーンはそのままボールの中へと戻って行く。破壊に成功したという条件を満たしたため、バトンが発生し、そのままバトンを次のポケモンへと―――サザラへと繋げる。一秒以下、コンマ五秒以下の時間でバトンを完成させ、クイーンが消えた瞬間にはサザラのボールを握り、その姿を出していた。

 

「おおおォォォォ―――!!」

 

 登場と同時に炎を纏ったギルガルドを正面へと向かって振るい、それでフィールドを薙ぎ払い、一気にシュバルゴを焼き払った。天候の変化が出来ない為、サザラを戻す事が出来ない。何時もの様に戦術が機能していない事に歯痒く感じながらも、シュバルゴがボールの中へと消え、代わりに原生種のキリキザンが出現する。

 

「もどれサザラ!」

 

 サザラをボールへと戻そうとすれば、それにおいうちをキリキザンが叩き込んでくる。今ので半分ほど体力を削らされたか、と脳内で見た目からの破壊力と仲間のステータスから計算する。まだ出せるな、と判断しながら次のポケモンを出す。

 

「テンポを手繰り寄せろ!」

 

なーお(任せろ)

 

 ナイトがフィールドに出現し、接近したキリキザンが攻撃を叩き込んでくる。それをナイトは回避しようとするが、喰らわされる。そうやって攻撃を喰らいつつも素早く動き、闇の中へと姿を紛れるように動く。全天候適応能力を持っているナイトに砂嵐によるダメージは発生しない。故にキリキザンから距離を取り、

 

 吠えた。

 

 キリキザンが強制的に戻され、ボールの中へと戻って行き、そしてその代わりに丸くなってドンファンが出現して来る。しかしシュバルゴやキリキザンとは違い、どくびしに対する耐性を持たないドンファンは丸くなっても、出現するのと同時に踏み、そして毒状態になる。漸く、漸く流れがこっちへ来るな、そう思いながらナイトへと指示を出す。

 

「まもれ!」

 

 ナイトが攻撃から身を守るのと同時に、ドンファンの高速スピンが発生する。設置物を除去しようとするそれはしかし、ナイトが回避した為に不発に終わり、その隙を突くようにナイトが接近し、ドンファンにすれ違いざまに噛みつき、投げ飛ばす。ここまでだな、と判断し、闇の中へと紛れるようにナイトが姿を消し、ボールの中へと戻ってくる。

 

 この勝負に選んだ面子は黒尾、月光、ナイト、サザラ、クイーン、蛮だ。アッシュ、そして災花には少々このバトルは相性が悪すぎる。そして砂嵐が弱まり、ある程度相手の構成が見えた今、一気に相手のサイクルを破壊する為に動くべきだ。

 

「行け、クイーン!」

 

「―――戻れ、交代するぞ!」

 

 此方がクイーンを出すのに合わせて相手もポケモンを交代する。そのわずかな隙に竜の舞を取らせ、積ませておく。そうやってコモラが出してくるポケモンは、

 

 ―――メタグロスの亜人種だった。

 

「目標確認……滅砕します」

 

「へぇ、楽しそうな子ね」

 

 メタグロスは場に出るのと同時にコメットパンチを放ってくる。天賦殺しでそれを回避したクイーンがメタグロスに接近し、すれ違いざまにハルバードを放つ。その動きに連動するように直感的に回避動作に入ったメタグロスを追いかけるようにクイーンとメタグロスの超高速地上戦が始まる。コメットパンチの反動を利用した跳躍回避をクイーンが尻尾を生やし、それを鞭のように大地に叩きつける事で体の動きを加速させ、追いかける。二転、三転と居場所を交代しながら発生する追撃戦を、クイーンが一撃を叩き込む事で終焉させたかのように見え、

 

 ハルバードはメタグロスの表面を触れる事で動きを止める。即座にバックステップからの回避動作に入るのはさすがとしか言いようのない動きだった。

 

「……クリアボディの発展系か……!?」

 

 天賦殺しのクイーンとはいえ、これは辛い。そう判断し、クイーンをボールの中へと戻す。かなりやり辛い相手だ。舌打ちをしながら、今度こそ蛮をフィールドに出す。ぬかるんだ足場に立ちながら、蛮が吠えるように降臨する。砂嵐は既に発生している為、その影響を受けてその能力が強化される。バトンは渡せるが―――何時だ。それを思考しながら蛮に指示を出す。正面からメタグロスの姿へと向かって、直進する。その姿にすかさずコメットパンチが叩き込まれるが、

 

「耐えろ蛮ちゃん!」

 

「ゴギャァァァァォォォ!!」

 

 蛮がコメットパンチを正面から受け止め、コメットパンチを喰らいつつも前進する。そのまま二発目のコメットパンチを喰らいながらもメタグロスを掴み、

 

「倒れるまでばかぢからだッ!」

 

 ばかぢからで殴る。完全にメタグロスとの正面勝負、逃げ場のない、デスマッチが始まる。メタグロスが静かに放つコメットパンチに対応する様に、蛮の咆哮がスタジアムそのものを轟かせるような咆哮で応え、ばかぢからで殴る。そのまま、コメットパンチ三発、四発、五発と叩き込まれるのを耐えながら、蛮も同じくばかぢからで五発殴り返し、

 

 そして相打つ様に両者が倒れる。

 

 ―――天賦のメタグロス。クイーンとの戦闘を見れば直感力に優れ、高い回避能力を持った怪物であるのが見えている。だったらノーガードで潰す事が最善の選択だ。故に、自分のパーティーで一番男らしく、そして気合が入っている蛮以外にはこの役目は与えられない。気合で攻撃を耐え、相手が沈むまで攻撃を叩き込む。

 

「お疲れ様蛮ちゃん! さあ、一体目のエースを落とした! 流れを掴むぞ黒尾!」

 

 これで4:4、頭の中で計算しつつ黒尾をフィールドに出す。対応する様に相手のフィールドに出てくるのはグライオンだった。バトル開始時と同じ構図になったな、と思いながら黒尾に指示を飛ばし、きつねびが展開される。もっと早い段階で出したかったが、こればかりはどうしようもない。相手に対して交代のプレッシャーを与えるつもりだったが、

 

 敵もステルスロックを撒いて来た。此方側に尖った岩が浮遊する様に展開される。

 

 ―――ここが中盤戦だ。

 

 思考を超加速させる―――脳内がクリアになって行く―――時間がゆっくり流れるように光景が遅くなって行き―――そして動きがほぼ停止する。自分も、誰もが動けない状況の中で、時間をかけて高速で思考する。ここが中盤戦だ。しっかりと考えろ。今の状況は4:4で、全体としてはどうなっている?

 

 天候は夜・砂嵐。

 

 自陣にステルスロック、敵陣にまきびし、どくびし、きつねび。

 

 此方はサザラが体力半分まで喰らわされ、ナイトが軽度のダメージ、クイーンと黒尾が砂嵐ダメージを蓄積している。

 

 相手はギガイアスが軽度消耗、ドンファンが手負い、グライオンが無傷、そしてキリキザンも無傷に近い。

 

 ―――一番面倒なのは間違いなくキリキザンの存在だ。ドンファンは落とせる、ギガイアスもクイーンかサザラで一騎打ちに追い込めば勝てる自信がある。だがこの状況で一番面倒なのは、あのキリキザンがサザラを撃破してしまった場合の話だ。そうなると火力不足で此方が詰む可能性が高い。となると”サザラを温存させつつキリキザンを撃破する”事が勝利の条件だ。

 

 俺が相手ならこの状況でどうする? まず面倒なのはナイトとクイーンだ。黒尾は間違いなく一撃で沈める事が出来るから、チャンスが回れば確実にやってくるだろう。だから考えて―――グライオンからキリキザンへのバトンタッチ、そこから一気に抜いて行く事が相手のスタイルになるだろう。となると、ここで取る選択は解った。そのサイクルを破壊する。

 

「黒尾、燃えろぉぉぉぉぉぉ―――!!」

 

「Vジェネレェェェェェトォォ―――!!」

 

 指示通り炎を全身から放ち、黒い災禍をフィールドに発生させた。一瞬だが完全に砂嵐を粉砕して灼熱の地獄を生み出し、グライオンの全身を焼いた。それでグライオンは倒れ―――なかった。食いしばる様な表情でボールの中へと戻って行く。そのグライオンと交代する様に出てくるのはギガイアスだ。本来はキリキザンだったのだろうが、Vジェネレートを目撃した後では絶対に鋼タイプを持つキリキザンを出す事は出来ない。故に出現したギガイアスはロックカットで軽量加速化しつつ、どくびしを踏み、

 

「二律背反……!」

 

 ―――やけどを喰らった。

 

 酸素を求めるように息を吐きだしつつ、頭痛を抑え込んで二律背反による”二種状態異常発生”を完了させ、ギガイアスを追い込みに入る。ギガイアスが直後、ストーンエッジを叩き込み、その一撃で黒尾を沈める。彼女の姿をボールへと戻せば、それに合わせるように相手もギガイアスをボールの中へと戻す。

 

「―――クイィィィィ―――ン!!」

 

「―――至高の君よ、貴方に勝利と愛を」

 

 ボールから放たれたクイーンと相対する様にドンファンが丸くなった状態で出現する。高速回転しながら出現したドンファンは出現と同時に設置物を全て弾き飛ばしながらクイーンへと接近し、二人が正面から衝突して来る。良く鍛えられており、凶悪ではあるが、天賦でも色違いでもない。故にクイーンのスペックが最大限に発揮は出来ない。

 

「それでも、勝利の花を飾りたいのですわ」

 

 ドンファンのころがるを正面から受け、弾き上げた姿を追う様に飛び越え、頭上から両断する様にドラゴンダイブが放たれる。それでドンファンが大地へと叩きつけられ、そのまま倒れた。着地したクイーンが荒い息を吐きながら竜の舞を重ねながら次の敵を待ち―――コモラがグライオンを放ってきた。

 

 設置物がない状況、グライオンは傷つく事もなく降臨し、

 

「後は任せましたよ星砕……!」

 

 グライオンはそう言葉を吐き、出現するのと同時に自分も良く知っている技を―――いやしのねがいに似た技を発動させた。倒れたグライオンが即座にボールの中へと戻りながら、次に出現して来るポケモンは―――あの天賦メタグロスだった。改良、或いは改造された癒しの願いは瀕死のポケモンすらも蘇らせた。そしてそれは、

 

 終盤でエースが二体という状況を生み出させてしまった。

 

 ベルトのモンスターボールが震える。

 

「あぁ、解っている―――クイーン、魂を燃え上がらせろ……! 出来ねぇとは言わせねぇ……!」

 

「ふふふふ、貴方の為であれば不可能でさえ可能としましょう―――!」

 

 メタグロスとクイーンが再び正面から衝突する。覚醒指示を繰り出し、クイーンの上昇効果を最大の状態へと引き上げる。反応するようにメタグロスも強化され、再び高速戦闘には―――ならない。コメットパンチを正面から受けたクイーンが極限の集中力を一閃に乗せる。

 

 ―――それがメタグロスの体を抜ける一閃となり、ブリーダーとしての判別能力を通し、”直感力”を両断したと認識する。

 

「これで……胸を張って倒れられますわ……ね……」

 

 直後に受けるコメットパンチによってクイーンが吹き飛ばされながら沈む。ボールの中へとその姿を戻しながら、ボールをスナップさせ、交換し、そして終盤戦に入ったのを自覚する。

 

 2:3の状況、

 

 相手はギガイアスとメタグロスとキリキザン、

 

 此方はナイトとサザラ。

 

「終盤戦だ……決めて行こう、ナイト」

 

なお(ああ)なーおん(何時も通りな)

 

 垂れ流す汗を堪えながら、ナイトを繰り出した。対する相手はメタグロスを交代させない。知っていた事だ。だが直感は破壊している為、最終段階の準備は完了していると言っても良い。かなり細い綱の上で綱渡りをしている。それを自覚しつつ息を吐き、

 

 ナイトが吠える。

 

 強制的にメタグロスが押し戻され、そしてギガイアスが出現して来る。その姿が一瞬で加速し、ストーンエッジで火傷による減退を一切見せる事もなく、ナイトを殴り飛ばした。その攻撃を受けてナイトは大きく吹き飛びながら着地し、

 

「―――なーお(後は)なーお(任せたぞ)

 

 勝利への願いを託した。ナイトの願いが力となって最後のポケモンへと―――サザラへと備わる。ナイトをボールの中へと戻し、そして最後のボールを―――サザラの入ったボールを握る。ロケット・コンツェルン製の最新の耐竜属性グローブ、サザラの竜のオーラの先行充電用の専用グローブ、

 

 それがサザラの戦意に耐えられずに、弾けるように消し飛び、ボールからエネルギーを逆流させながら腕に傷を刻み込む。その痛みを愛おしく思う。このエネルギーと痛みの分だけ、自分のポケモンが本気で俺を勝たせようと、魂を燃やしてくれているのだ。愛しく思わない理由がない。だからボールを握り、ボールそのものを破壊する様にサザラが飛び出してくる。

 

「■■ァァ■■■ォォォッ―――!!」

 

 吠えるように出現したサザラの咆哮と戦意と殺意が恐怖となってギガイアスの心臓に突き刺さり、一瞬だけ動きを止める。その瞬間、両手でギルガルドを握ったサザラがそれを振るう。虹の軌跡を描く極光の剣が剣閃を描きながら一瞬だけ動きを停止させたギガイアスの姿を切り裂き、そして観客席の保護シールドまで吹き飛ばす。激突し、沈黙して倒れたギガイアスの姿を見て、サザラが吠える。

 

「グルルルゥ、ギャァ■■■■■■ァァァ■■■ォォォ―――!!」

 

 新たに出現したメタグロスのコメットパンチをキングシールドで受け流しながらサザラが回り込む様に一瞬で接近して来る。それに反応するメタグロスがギルガルドを片手で払い、キングシールドをもう片手で払いのけるが、

 

 最大の武器であるそれらを囮に吹き飛ばさせて、はかいこうせんがメタグロスに正面から衝突した。その姿が吹き飛び、サザラが反動を無視して無理やり体を動かしながらキングシールドとギルガルドを回収する。今の反動無視で相当体力を奪われたはずだろう。

 

 が、

 

「サザラぁ―――!!」

 

「これが―――」

 

 両手で握ったギルガルドからきょっこうのつるぎが放たれる。七つの剣閃が色鮮やかな軌跡を描きながら斬撃をメタグロスへと切り刻む。クイーンが直感を削り殺した今、メタグロスには天賦特有の”直感的な回避”が行えず、

 

 回避した先で残りの六閃に墜落した。

 

 入れ替わるように即座に最後のポケモンが―――キリキザンが出現する。エース殺し、天賦殺し、

 

 つまりはサザラの天敵になる存在だったがエース二人抜きを行い、かつテンションが最高の状態に乗ったサザラがもはや敗北するイメージは浮かばない。本当はこんな事をしては駄目なのだろう、戦術を個人の能力で乗り越える事なんて。だがこの流れ、そしてこの力、

 

 今ならいける筈だ。言葉を吐きだす必要もなく、魂で繋がる仲間の意思を受け取り、弾ける竜のオーラを纏いながら突き進む。全ての上昇効果、それをギルガルドへと集中し、一閃に集中された極光の刃を振り抜き、

 

 逃げ場もない、大斬撃を決める。

 

 全てが白に染まり、光が炸裂しながら空間を粉砕した。

 

 もはや語るまでもない。

 

「―――エースの誇りだ」

 

 勝敗が決した。

 

 残されたのは振り抜いた姿のサザラと、倒れたキリキザンの姿だった。

 

 かなり、際どい戦いだった。最後はサザラ任せの暴力になってしまったのは間違いなく減点の対象だが―――今は勝てた、それでいい。

 

 深く深呼吸をして体の中に酸素を送り込めば、砂嵐と夜が解除されて行く。戦闘が終了し、勝者と敗者が決定されたのだ。その事実を受け止めたコモラは目の端から軽い涙を零し、言葉を残す事もなく、キリキザンをボールの中へと戻し、去って行く。彼の戦いは終わってしまった。言葉はいらない。慰めもいらない。誰もがこうやって勝ち、そして敗北してポケモンリーグへと進んできたのだから。

 

 故に手向けは次の勝利で。

 

『―――はオニキス選手ぅ! 凄い! 凄いぞぉ! 相手を確かめ合う序盤! お互いの立場を盤石にするための中盤! そして勝負を決める為に暴れた終盤! どれも凄まじいバトルだった! いいのか!? こんなバトルが初戦であっていいのかぁ! 凄いぞ! 今年のポケモンリーグはレベルが違うぞぉ―――!』

 

 実況の声に笑いつつ、軽く息を吐き、心と体を落ちつけながら近づいて来たサザラの頭を撫でる。

 

「お疲れ様。流石俺のエースだな」

 

「私がいる限りは絶対に敗北なんてさせないわ。貴方の夢は私で……私達全員で叶えるから」

 

「あぁ、信じているとも」

 

 苦笑しながらサザラをボールの中へと戻す。まずは手持ちの治療、そうしたら試合観戦をし、次の試合の対戦相手に対して調べたり準備をしたりしなくてはならない。

 

 ともあれ、

 

 ―――これでベスト16が確定した。




 重大なミスを行っていたから修正して再投稿!! ごめんね! キリキザン君忘れてた!

 というわけでこれがポケモンリーグレベルですよ。合計で9戦、これクラスが繰り広げられます。いや、もっと激しくなるかも。

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