目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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コミュニケーション蛮

 体を思いっきり伸ばしながら、ホテルの前から歩き始める。まだ時間は少々早いという程度だが、椅子を取るのであればこれぐらいがいいだろう、と判断している。そう思って先にホテルから抜け出すと、後ろから足音を立てながら蛮が走って追いついてくるのが見える。軽く片手で挨拶しながら蛮を迎え、軽くその肩を抑え、蛮の上の方へと座る様に移動する。身長は通常のバンギラスよりも小さいが、それでも体格や横幅に関しては普通の人間よりも大きかったりするので、肩の上には普通に座るだけの余裕がある。

 

 正確には肩ではなく背中の突起の一つなのだが。

 

「よう、おはよう。お前は早く起きたみたいだな」

 

ギャォー()ガーオ(苦手だし)

 

 そう言えば飲むタイプじゃなかったよなぁ、と昨夜の光景を思い出す。簡単に言えば宴会を手持ちの面子でやったのだ。どうやら現在のセキエイ高原にはゴールドとシルバーも来ているらしく、唯一神も顔を出しに来ていたのだ。そう言うわけで久しぶりに揃ったジョウト地方のフル手持ちメンバーで軽く宴会を楽しんだのが、大体馬鹿が飲みすぎた結果、グロッキーになっているという状況だ。月光と災花は他の面子の介抱でホテルに残っているし、ワダツミは昨夜の情事で動けなくて、無理やりナイトに飲まされまくった黒尾は完全にダウンして使い物にならない。最初から最後までほとんど酒に手を付けなかった蛮だけがこうやって自由に動き回れている。

 

 まぁ、あとはギラ子もいるのだが、セキエイ高原は割と監視が厳しい―――というかエリートトレーナーの数が多い、ほいほい自由に出てくる事はないと思っている。だから現状は自分と蛮の二人だけだ。朝の涼しい風を気持ちよく感じつつも、街の中には確かな熱気が満ちている。それを肌で感じて思わず笑みを零しつつ、蛮に乗ったまま、セキエイスタジアムへと向かって行く。

 

 既にスタジアム前には人の列が出来上がっている。本日から開始されるポケモンリーグの予選、その観戦の為に多くの人々が集まっている。長蛇の列の横を抜け、入口へと進む。一般入場口とは違う、関係者用の入場口があり、胸のバッジを見せればそのまま中へと入る事が出来る。故にそのまま、止められる事無く蛮と共にスタジアムに入り、蛮から降りる。

 

「さて、適当な席を探しに行くか」

 

がーお(うーい)

 

 受付嬢にウィンクしつつ片手を振り、ポケモンセンター等のエリアを抜け、奥のスタジアム席へと向かう。人混みはぼちぼち、という感じに増えている。それと同時に偵察する様な目線も此方にはある―――流石にシード枠を獲得していると顔が売れる。しかもバックにロケット・コンツェルンがあるとなると、更に悪目立ちしてしまう。まぁ、それでもスポンサーにシルフ・カンパニーを持っている赤帽子よりは随分とマシだと思う。ともあれ、スタジアムへと上がり、最前列の席を見つけ、蛮と並んで座る。予め用意しておいたオレンのみを二個取り出し、それを自分に一個、そして蛮に一個渡して、齧りながらスタジアムを見る。

 

「何時見ても広いなぁ……」

 

 広い。とりあえず広い。かなり広い。凄まじく広い。それがセキエイスタジアムだ。ただ当然と言ってしまえば当然なのだ、このセキエイスタジアムでは最強のトレーナーを決める為の戦いが繰り広げられるのだ、その中には勿論超弩級のサイズを誇るポケモンだって出場して来ることがある。そう言う事を想定して、セキエイスタジアムはカントーとジョウトを合わせて、一番大きなスタジアムとなっている。それは勿論他の地方でも行われるポケモンリーグ、ポケモンスタジアムにも言える事だ。実際、20mを超えるホエルオーが存在するのだから、サイズに関しては正しい話だ。

 

 各所にはスクリーンが設置されており、バトルをちゃんと見る配慮もされているし、色々とやりやすい環境になっている。

 

「あ、そこのラッキー! ポップコーン二人分、ドリンクはオレンジュースで」

 

 言葉に反応し、ラッキーが振り返る。

 

「ルゥゥゥゥァァァキィィィッッイヒィッ!」

 

「……がお(おう)

 

 えらく巻き舌なラッキーの販売員からポップコーンとジュースを購入し、それを蛮と一緒に並んで持ちながら、スタジアムの方へと視線を向ける。スタジアムの中央、フィールドではポケモン協会の会長、オーキド博士、四天王のイツキ、キョウ、シバ、カリン、そして最後に現チャンピオンであるワタルがいる。その内、キョウとワタルは此方に気付いた様で、視線で挨拶して来るので、此方もアイコンタクトで挨拶を返しておく。

 

 そんな事をしている間にドンドン人が増え、空席は人で埋まって行き、直ぐに座って見れる席は埋め尽くされてしまう。ドンドンと近づく開催の時間を確認しつつ、説明やスピーチを行っている四天王を見て思う。

 

 寂しいものだ、と。もうキクコもカンナも四天王ではない。キクコは歳が辛く、そしてカンナは現在は休業中となっている。実に寂しいものだと思う―――バトルが出来ないのだから。

 

「おー、開会式だ。久しぶりに見るなあ」

 

ぎゃおーん(懐かしいなぁ)

 

 チャンピオンロードに生息するファイヤーから強奪された聖炎でスタジアムを灯して、今年のポケモンリーグが開催される。そんな事を考えながら開会式の話を聞き流していると、蛮とは逆側の席に座ってくる姿が見える。

 

「ボンジュール! なんてな、元気にやってるようじゃねぇか」

 

 そんな声に横へと視線を向ければ、隣の席へと腰を下ろしたのは茶髪のツンツン頭の少年―――赤帽子を思い出させる彼のライバル、グリーンの存在だった。僅か13歳という年齢でトキワジムのジムリーダーに就任しており、それでいてチャンピオンに降臨した経験もあるという正しく怪物的としか評価する事の出来ない少年。それでいて現在、ポケモン界のトップブリーダーでもあるのだ。いきなり現れたグリーンに驚きつつ、笑顔を浮かべて迎え、握手を交わす。

 

「今年のシード枠勝ち取ったってな? やるじゃねぇか。ポケモンリーグ出場おめでとう」

 

「サンキュ―――ってグリーン、お前はどうなんだよ」

 

「俺か? この俺様がポケモンリーグの出場枠を勝ち取れない訳がないだろ! ―――って言いたい所だけど、もう既に一回勝ち抜いてチャンピオンになって称号取っちまったし、今年もパスパス! レッドの奴が出場するなら俺も考えなくもないけど? あいつ、公式戦出場不可だからな……」

 

「あぁ、うん……」

 

 公式戦不敗。馬鹿の様に見えるが、これは真実なのだ。5タテされた状態からピカ一匹で6タテしかえすのは当たり前、というレベルでミラクルを起こしまくるのだ。その結果、公式戦に出場するとポケモンバトルが成立しないという事で、出場の禁止が言い渡され、永世チャンピオンの称号を得てしまったのだ。ちなみにちゃんとチャンピオンとしての給料は受け取っているらしい。貯蓄だが数千万というレベルで溜まっているんじゃないだろうか、あの13歳は。

 

「しっかし……へー、育ってるじゃん、そのバンギラス。かなり特殊っぽいけど」

 

「お、解っちゃう。卵から生まれた直後からトレーニングを完全にコントロールして肉体作りして、今でも食事に気を使ってるから体のつくりがそこらへんのバンギラスとは全然違うぜ、こいつは」

 

「へぇ、じゃあアイツといい勝負しそうだな」

 

「アイツ?」

 

「あぁ、さっき見かけたバンギ―――ってなんだ、一試合目で出てるじゃん」

 

 グリーンの言葉に引き戻される様にフィールドの方へと視線を向ければ、第一試合目の準備が始められていた。フィールドの両側にはトレーナーが立っており。片側のトレーナーの横には黒いバンギラスが立っていた。それは蛮とは違い、3mには届くであろう巨体を持っており、それでいて凄まじい凶暴性をその体に内包しているのが見える。だがそれではない。ブリーダーとして数多くのポケモンを育成してきた経験が、女の横に立っているバンギラスの本質を図鑑もなしに見抜かせてくれる。

 

「バンギラスの変種―――ダークタイプかアレ!」

 

「正解。俺も見た時は目を疑ったぜ、まさかのダークタイプだしな。現状野生でしか確認されておらず、従う事を極度に嫌がる為、”捕まってもトレーナーを殺す”という闘争本能をポケモンに与えるダークタイプのバンギラスだよ。天賦ギャラドスでももうちょっと大人しいと思うぐらいの凶暴性は感じるだろ?」

 

 グリーンの言葉を聞きつつ、視線は黒いバンギラスへと向けられる。そのトレーナーは黒いバンギラスに絶大の信頼を置いているのか、ボールにしまう事も、入れ替えようとする素振りも見せる事がなく、そのままバンギラスをフィールドに立たせ、まるで挑戦者を迎える覇者の様に立たせる。急いでトレーナーの姿を記憶し、ポケギアを使ってトレーナーの情報を調べ始める。

 

「完全にノーマークだったぞ……」

 

「あぁ、俺も初めて見るトレーナーだし、初めて見るぜ、ダークタイプのバンギラスとか。これでダークといわの複合タイプですなおこし持ちのとつげきチョッキ持ちとかだったら耐久地獄を見るな」

 

「やめろ。やめてくれ」

 

 とは言いつつも、頭の中で素早く対抗策を作って行く。ダークタイプのポケモンは、”全てのタイプに耐性を持つ”というタイプだ。ハッキリ言えばチートと呼べるタイプであり、”絶対トレーナーが操る事が出来ないタイプの一つ”とも言われている。その理由は簡単で、グリーンが言った通り、トレーナーを殺すタイプだからだ。それにどんなに頑張っても、後天的にダークタイプへと進化する様なポケモンはこの世に存在しない。

 

「名前は……エヴァ、地図にも乗ってないシロガネ山の麓の村出身か。ダーク使いのエヴァ、メモっとくか。過去のデータがないかスポンサーにも聞いておこう」

 

「ま、そんぐらいはやらないと予選を観戦する意味はないよな」

 

 現実的に考えるとまず一番有効なのは”相性破壊”を利用する事だ。この場合、クイーンが一番の適任だろう。クイーンはとにかく破壊する事に特化している。相性破壊、持ち物破壊、そして特性破壊。これによって相手の耐久ポケモン、エースポケモンを活躍できない様に削ぎ殺すのが彼女の戦闘方法だ。だからダークタイプと戦う時は、クイーンでダーク相性を破壊して戦闘するのが一番有効だろう、次点でマツバの様に毒や睡眠でハメて殺す事だろう。

 

 まぁ、それでも、

 

「フンヌッ!」

 

「ま、ウチの子が見ていてライバル心を燃やしているっぽいし、アレコレ対策を練るのは野暮かもしれないな」

 

「ははは、かもしれないな」

 

 二人で笑いながら蛮へと視線を向けると、蛮はサムズアップを向けてくる。

 

ガオ(俺が)ギャァ(最強の)ガーオ(バンギラスだ)!」

 

 そう言って絶対に負けないとアピールして来る、息子の様なポケモンの頭を軽く撫で、視線を戦闘を始める黒いバンギラスへと向ける。是非とも戦ってみたい。

 

「お、いたいた、グリーン!」

 

「こんなところにいたのね、もう! って、あれ、懐かしい顔がいるじゃない!」

 

「あらあら、まあまあ。悪巧みですか?」

 

 次々と現れてくるカントージムリーダーズの姿にお手上げだ、と両手を上げて降参を見せつつ、軽く笑って旧交を温める。

 

 かつてはロケット団として戦った敵だった。

 

 だが戦いは終わり、悪はその敗北を認めた。

 

 故に今はただの知人、

 

 再びボスが立ち上がるその日までは―――。

 

「頑張ろうぜ、蛮ちゃん。活躍期待してるぜ」

 

ガーオ(任せろ)ガオー(親父)ギャォ(勝たせるから)

 

 ポケモンと軽く手を叩き合ってからジムリーダーたちを含め、開始されたばかりのポケモンリーグ予選の観戦を始める。

 

 きっと、これは、楽しい日々になる。




 蛮コミュというよりは若干予選観戦という感じだけど、割と蛮ちゃんの頼りになる可愛らしい所を見せたので満足。

 でかくて凶暴そうな子が可愛らしいジェスチャーを見せるのはギャップがあっていいもんです。

 というわけでついに登場、最後のタイプで禁断のタイプ、ダークタイプ。受けるダメージは全て半減。与えるダメージは全てばつぐんという狂ったタイプ。

 そして手持ちの整理というか把握できていない人が多いので紹介

黒尾:デルタ因子で悪タイプを追加しているキュウコン
月光:変幻自在の場をかき乱すタイプのサポートゲッコウガ
ナイト:完全に受けと積みを意識したブラッキー
災花:居座り型極運アブソル 主人公の運調整も行っている
蛮:肉弾戦車型の小柄なバンギラス 特技はシャイニングウィザード
サザラ:ついにサザンガルドという固有種を公式に認めさせたギルガルド装備のサザンドラ
クイーン:破壊、天賦狩り、色違い狩りに特化したオノノクス
アッシュ:メガリザードンを目指して育成中のデルタ因子リザードン

 ちょっと長くなったけど、簡単に説明するとこんな感じで

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