「おおーおー、悪目立ちしてるわ! はっはっはぁ―――っはっはっはっはっは!」
『それでいいのか貴様……』
チャンピオンロードをワダツミの頭の上で、両手を組んだ状態で飛び越えて行く。その速度は緩やかであり、速度はそこまではなく、軽い風を顔と体に感じる。実際、まだ予選には数日まであるし、シード枠を獲得しているから予選前にセキエイ高原へと向かう必要だってない。だがポケモンリーグに出場するトレーナー達を甘く見る事は一切ない。彼らは全員ライバルなのだ。あのジムリーダーたちの情けも容赦もない戦術を超えて出場権を奪い取ったトレーナー達なのだ、弱い訳がない。だからはやめにセキエイ高原へと向かうのはしっかりと予選を観戦する為だ。
予選と本戦で繰り出してくるポケモンを変えてくる可能性はあるが、それでも完成されたパーティーというものは入れ替えが難しい。故に予選に出場して来るトレーナー達のポケモンも、そのまま本戦に出てくると思っているし、それで確実だと思っても良い。だから予選で偵察を行っておけば、それだけ有利になるのだ、情報を集めてある程度の対策を組む事が出来るのだから。その事に対してルギア―――伝説種であるワダツミで派手に登場する意味はあるのか? と言われると、
全く意味はない。
「男はな、派手に登場するのと無駄にかっこつける事に生きがいを感じるんだよ。どうせポケモンリーグで優勝するつもりだし、お前を捕獲したって話も有名になってるだろ。見せつけるだけ見せつければいいんだよ。俺の気分が良いからな」
『貴様は本当に最悪だな』
「ロケット団の幹部候補だったんだぜ? 人格破綻者じゃない訳がねぇだろ」
必要があれば遠慮なく相手をぶっ殺す様な男に一体何を求めているのだろうか。そんな事を思いつつ立ったまま、ゆっくりとセキエイ高原に到着する。セキエイ高原はその名の通り、広大な高原に存在する一つの都市であり、中央に存在するセキエイスタジアムを中心に商業が発達している。このセキエイスタジアムが利用されるのは年に一度のみ、
ポケモンリーグシーズンの終わりに行われるポケモンリーグ、四天王戦、チャンピオン戦の流れを一つとする”カントー・ジョウト統一ポケモンマスターリーグ”になる。この年に一度の最強のトレーナーを決定するバトルだけでセキエイ高原は都市を発達させてきたと言っても良い、それだけ年に一度のこのリーグは、カントーとジョウトからあらゆる人を集める。トレーナー、企業、ブリーダー、ショップ、持ち物売りや”教え屋”等がこの戦いの為にやってくるのだ。
そんなセキエイ高原の頭上をワダツミで飛行して抜けて行き、都市の中心に位置するポケモンスタジアム前へと移動して行く。地上から二十メートル程の高さまで高度を下げたところで、ワダツミから飛び降り、受け身を取りながら着地する。ポケモントレーナーたるもの、ポケモンの攻撃を喰らう事ぐらい想定しなくてはならない―――この程度の高さであれば、まず死にはしない。その程度にはトレーナーの身体能力は高い、というか鍛えないと死ぬ。
「ご苦労ワダツミ。引き続き護衛を頼むぞ」
「やれやれ、見世物は好きではないのだがな」
背後へと亜人の姿へと変化したワダツミが着地し、此方の動きに従うようについてくる。最初はクイーンが無理やり心を折ったが、それからは自分も一ヶ月の時間をかけてきっちりきっかりワダツミの調教は行った。ギラ子とは違い、一人でちゃんと撃破したため、そこらへんのラインは非常に低かった、というか捕獲された時点で半分は心が折れていたのかもしれない。ギラ子はそこらへん、ボスと共同戦線でやった上にマスターボールではなかった。だからあんな風に自由な姿を見せているのかもしれない。
まぁ、いい。あの伝説もいつかは屈服させる。真面目に。何時までも振り回されるのは癪だ。
そんな事を考えながらセキエイスタジアムの入口へと入る。スタジアムの入り口部分は受付と待合室、そしてポケモンセンターやフレンドリィショップが合体した、複合型のエリアになっている。そこに入り、軽く辺りを見渡してからリーグ受付へと向かう。周りの視線が自分へと向けられているのを自覚しつつ、それを無視してワダツミを連れたまま、リーグの受付へと向かう。既に出場登録は終わらせており、その証でもあるリーグ参加バッジは既にミリタリージャケットに、他のバッジと共に装着済みだ。今回セキエイリーグへとやって来たのは、確認と、そして拠点の変更の為だ。既にエンジュシティの拠点は引き払う準備が完了してある。予選は参加しないからポケモンの登録を行う必要は本戦からだ。なので、後は次の宿を確保するだけだ。
「―――というわけで、出場者向けに防犯と、後ポケモンを自由にさせられるような宿を探しているんですけど」
「トレーナーカードの提示をお願いします」
「ういうい」
受付嬢にトレーナーカードを提示させ、受付嬢がデータを照会しつつオススメを纏める時間をカウンターに寄り掛かるようにしながら、潰す。予め自分でもある程度の候補は絞ってあるが、やはりリーグ関係者である事を証明し、こうやって紹介を貰った方が遥かに安く、そして整った設備で泊まれるというのは事実だ。ポケモンリーグ前の調整は終わっているが、それでも何かがあった場合に備え、施設のある場所に泊まるべきなのは事実だ。カウンターに背を預けたまま、ワダツミの方へと視線を向ける。
「……どうした」
「いんや、やっぱお前らって見る分には普通の人間だよな」
ワダツミの姿を見る。ミニスカート風の千早姿、少々普通なファッションではないが、それでも大体は人間の姿に近いと言っても良い。ワダツミを傍に寄せて、その髪を手に握り、指の間で撫でるようにその感触を確かめ、そして手を伸ばしてワダツミの頬に触れる。ワダツミは少々恥ずかしそうに頬を赤く染めるが、それを無視し白い髪の先を撫でつつ、ワダツミの肌の感触を確かめる。人間の肌よりも冷たい―――深海に生息するという特性上、そういう体温をしているのかもしれないが、肌や髪の感触は寧ろ知っている女よりも整っており、かなりいい感じだ。
「なんかラブコメの波動を感じる」
影の中から出てきたギラ子をワダツミが蹴り戻す。ワダツミもワダツミで、このパーティーの空気というか、環境というものには非常に慣れた様な気がする。
「で、どうよ。慣れてきたか」
「貴様の傍若無人っぷりにか? まぁ、だったらもう諦めた。貴様、もし我が暴れたとしても即座に対応出来るように戦術と奥の手を用意した上で首輪を仕込んだだろう、我に」
「まぁな」
いや、しかしホント冷たくて気持ちがいいし、髪の毛もさらさらしていて気持ちが良い。これ、寝る時に抱き枕にしたら気持ちよく眠れそうだなぁ、なんて事を思いながら振り返り、ちょうど検索等が終わった受付嬢の方へと振り返り、トレーナーカードを返してもらう。
「トキワジム及びロケット・コンツェルン所属のオニキス様ですね、確認が完了しました。ロケット・コンツェルン名義で既にC地区のホテル・セキエイのロイヤルスイートが取られております。その御様子だと連絡はなかったようですね? ……オニキス様はシード枠によって予選が免除されておりますので、手持ちの登録は本戦前、二週間以内にお願いします。予選は五日後から開幕の予定です、参加の義務はありませんが、観戦をする場合であればお気を付けください、それでは」
受付嬢が頭を下げる。その姿を見て頭を掻きながら数歩離れる。
「……参ったなぁ。ロケット・コンツェルンとのスポンサー契約は凍結中な筈なんだけどなぁ」
そう、ロケット・コンツェルンはボスが別地方へと武者修行をする為に一時的にスポンサー契約を凍結したはずなのだ。なのに、ロケット・コンツェルン名義、そしてスポンサー契約が復活している。その言葉の意味は一つしかない。ロケット・コンツェルンがまだ活動していない今、”誰かが命じて手を回した”としか思えない。そしてこんな事をやる様な、いや、出来る様な人物は、自分が知る中では一人しか存在しない。その人物が手を回してくれたことに、少しだけ胸の奥がじーん、と来る。滅多に口にも態度にも出す様な人物ではない。それだけに今回の件は感動できる。
『ボスも祝福してくれているんですよ、出場を』
『
ロングコートにボルサリーノ帽姿で顔を隠しつつ、ぶっきらぼうにそう言うボスの姿―――実に想像しやすく、それが面白くて小さく笑い声を零してしまう。ボスは今、ジョウトにいる。それは間違いがない。どこにいるかは、そして何をしているか、それを自分は今は知らない。連絡を入れようとしてもつながらないからだ―――まぁ、それは自分がおそらく仮面の男にかなり近い場所にいるのが原因なのだろう、自分の動きを悟られたくはない為、情報を制限しているのかもしれない。それでもどこからか見ている、そして応援してくれているのだ。
なるべく早い内にジョウトの問題を解決し、そしてシルバーを逢わせたい。
まぁ、その前に自分の前にある問題を片付けないといけないのだから、余所見をしている余裕はない。
―――ポケモンリーグは正しく魔境という言葉が正しい戦場だ。どのトレーナーも一騎当千の強者ばかり、それをなぎ倒して行かなきゃいけないのだ、他の事を考えるだけの余裕は自分にはない。仮面の男、ホウオウ、それらに関する事は今は金と銀の少年、最強の赤帽子、そしてボスに任せるとする。
―――この布陣で敗北するイメージが一切湧かない訳だが。
「っと、立ちどまっちゃってたか。ホテルへ行こう」
「ひゃぁぅっ! 貴様ぁ!」
「はははは!」
ワダツミのケツを軽く叩きながら横を抜けて外へと向かって歩き出す。こう言ってはあれだが、ワダツミの姿にはある意味威厳がない。まぁ、当たり前と言ってしまえば当たり前だ。ワダツミは伝説種の中でも特に珍しく、”文明に一切かかわる事のなかった伝説”なのだから。グラードンやカイオーガ、ディアルガやパルキアは、ああいう伝説のポケモンは人の歴史や生活に関わった伝説のポケモンだが、ホウオウやルギアに関しては極度に人との接触を断っている。特にルギアに関しては文献がほぼ存在しないというレベルで人間との交流が存在しない、孤独な伝説でもある。
だから、まぁ、なんというか、張子の虎というか―――まぁ、そこはワダツミの名誉の為に黙ろう。
ワダツミを連れてセキエイスタジアムから出ると、ワダツミがなぁ、と声をかけてくる。
「どうした」
「何故貴様は私を犯さないんだ」
それをまるで当たり前の様にワダツミは言ってきた。そしてその理由は解る。
「貴様も解ってるだろ、トレーナーとしての特殊な技能はほとんどが先天性のものだが―――後天的に付与する方法もある。才能のない人間はどんなに訓練しても鍛える事が出来ないが、力の一部を我らから受ける事は出来るだろうに」
生々しい話だが、亜人種の方であれば、ヤる事は出来るのだ。そしてこれは一部の非常に強いポケモン―――それこそ準伝説や伝説級のポケモンに限る事だが、性交渉を通してそのポケモンの持つ能力をある程度加護として受ける事が出来る。たとえば、ある伝説種と交わる事で得られる加護には、矛盾形容と二律背反の遂行が存在する。つまりは二つの違う天候が存在したとして、
それを同時に発生させる事を可能にしたりする。
そういう力を、伝説はトレーナーに与える事が出来る。
ここまで言ってしまえば解る話だが―――天候融合夜パ、これはギラ子からの加護を受けた事によって成立しているパーティーなのだ。まぁ、つまりはそう言う事なのだ。
ただ、まぁ、
「俺、外道で屑である自覚はあるけど、下種にまで堕ちるつもりはないからなぁ……まぁ、そこらへんは紳士的に向き合うって決めてるんだよ。来るもの拒まず、されど自分からは追わないよって話だけで」
「マジ!?」
「お静かに」
影の中から出現したギラ子にストレートを叩き込んで影の国へとお帰りいただく。
「お前から求めない限りはそういうのなしで」
「ふむ、成程な」
「ちなみに―――」
「お静かに」
影から出現したギラ子に拳を繰り出し、それを見切られるが、ボールから勝手に出てきたクイーンが素早くドラゴンクローを叩き込んで影の中へと叩き戻し、そのままボールの中へと戻って行く。忠誠心の高いポケモンがいると便利だよなぁ、なんて思いつつ、
「うっし、ホテルへ行く前にそこらへんのエリートトレーナーと視線を合わせてくる」
「なんだその儀式は」
ワダツミの声に呆れつつ、答える。
「太古から続くトレーナーの挨拶だよ!」
ワダツミの背を押すようにセキエイ高原を、バトルを求めて走り出す。
―――ポケモンリーグはすぐそこまで来ている。
エロい事するとパワーアップするのはファンタジーの基本です。
あ? 全年齢? ジャンル違い? 聞こえんなぁ。まぁ、そこまでエロとか生々しい話は好きじゃないから程々にしか会話に出さないけどね。まぁ、伝説は捕まえること以上に価値がありますよ、ってお話。
そしてボスはツンデレ。