目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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トレーナーという生き物

 モーモー牧場の外、39番道路の道の上に二十メートルほどの距離を開けて、バトルを申し込んできた相手と相対する。相手の手には此方の様に、モンスターボールが握られている。既に此方のモンスターボールはその内側から響いてくるように、闘気を感じさせている。ボールの中のポケモン―――既にサザラは戦闘の準備を完了させているらしい。これはひょっとして、本当に大人げない6タテを達成するかもしれない。そんなちょっとした不安と共に、向こう側のトレーナーを確認する。

 

 右手で握るモンスターボールが少しだけ痛い。

 

「お前、少しだけ抑えろ、格下相手に情けないぞ」

 

 モンスターボールにだけ聞こえる様にそう言葉をかけると、ボールから感じる気配が少しだけ、しゅんとしたものに変わる。暴君のクセして何気ない子犬属性とはこれ、何事―――まぁ、慣れたものだ、落ち着いたのならそれで良い。相手がボールを構えるのに合わせ此方も構え、ボールをスナップさせるように振るい、素早く開閉を行う。

 

「行け、サザラ!」

 

「頼んだよサンドパン!」

 

 先行と共に道路の中央に二つの姿が出現する。此方のは青いポニーテールのハイレグの様な姿のサザラだが、その左手にギルガルドの盾が、そして右手に剣が握られている。サザラに同調してか、本来は金に近い色をしたギルガルドが黒に近い色に染まっている。そんなサザラと相対するのは黄色い姿だ。短パンに黄色いキャミソールに針の様にツンツンと尖った長い金髪、亜人種のサンドパンの姿だ。

 

「すなあらしだ!」

 

「砂パか?」

 

 即座に発生するすなあらしの中、サザラが踏み込み、剣をサンドパンへと向けて一気に振り下ろす。それを見ていたサンドパンが砂嵐の中で加速し、ギリギリといった様子でサザラの攻撃を回避する。それを見ながら素早く考える。砂パ―――すなあらしという技、そして天候を起点にポケモンの能力と防御力を上げて戦う、メジャーなタイプのパーティーの一つだ。特性のひでり、或いはにほんばれを起点とした晴れパ、あめふらしやあまごいを起点とする雨パと違って砂パは少々派手さに欠ける。

 

 というのも、砂嵐中に強化される技はほとんど存在しないから、チャージなしソーラービームや、必中かみなりみたいな事がないのだ。その代わり、砂嵐のダメージはいわタイプ、じめんタイプ、そしてはがねタイプ以外のポケモンを容赦なく削る。きあいのタスキを削る、という意味ではかなり有用な戦術だ。サポーターやメインアタッカーであればきあいのタスキを装備している事は多い為、ステルスロックを出さずにそれを潰せるのは一手浮く様なものだ。それにステルスロックとは違って頻繁にダメージが発生するのも利点の一つだ。

 

 ただ、この先、アサギジムへと向かうなら、相手ははがねタイプのジムリーダー、ミカンだ。

 

 はがねタイプにすなあらしは通じない。そこを考えると、これで終わりというわけではないのだろう。

 

 

「サザラ」

 

「へいへーい! 隠れていないで出て来いよへーい!」

 

 サンドパンの次の行動が入る前にちょうはつが入る。次の行動へと移ろうとしていた相手の動きが止まる。それと同時に一緒に発動したいばるも発動し、サンドパンがキレた姿を見せる。が、相手はそこで冷静に対処する様に、ボールを前へと突き出してくる。交代する様だ。それに合わせて、

 

「おらよ」

 

 赤い光へと消えて行くサンドパンへと向かって、盾を上へと投げたら剣を両手で握り、黒い剣閃を飛ばす様に赤い光へと叩き込む。サザラのおいうちが決まり、おそらくはそれでサンドパンを落とした。落ちてくる盾をキャッチする頃には次のポケモンが飛び出してくる。

 

「ゴローニャ! 練習通りに!」

 

「ん、岩タイプはめんどくせぇな」

 

 原生種のゴローニャが出現する。出現するのと同時にサザラが敵を落としたため、テンションと共にその能力が上昇されて行く。歪な笑みを浮かべながら此方からの指示を口で出す必要もなく、考えた事、思った事を察し、それを行動へと変える。即ち出てきたポケモンに対して前進し、その剣を叩き込むというアクションを取りに行く。発動する技はふいうち、相手が攻撃するという意思に対して反応し、その先を取るように攻撃を叩き込む技。

 

「かてぇ!」

 

「グォォォゥ!」

 

 サザラの刃がゴローニャへと叩き込まれ、そしてそれを耐える様に声を漏らしたゴローニャがサザラの体を両手で掴む。

 

「おいおい、気安く体に触れていいのは―――」

 

 サザラがそう言おうとした直後、ゴローニャの気配を察し、即座にサザラが口を開き、かえんほうしゃを放つ。が、圧倒的にタイプ相性が悪い。いわタイプではサザラにはそこまで有効な技がない。両手が開いていればギルガルドで殴れたものの、すなあらしで強化されたゴローニャの耐久とその元々の種族としての堅牢さを一撃で突破するのは不可能だったらしい。

 

 ここまで来ると何が待っているのかは大体解る。

 

「ゴローニャ! 大爆発!」

 

「マジかよぉ―――!」

 

 サザラを掴んだ状態でゴローニャが大爆発を起こした。ぎゃあ、という悲鳴と共にサザラが一瞬で爆発に飲み込まれる。すなあらしを内部から吹き飛ばす様な衝撃に一瞬天候が澱むが、それでも砂嵐は変わらず吹き続ける。爆発の後には立ち尽くすゴローニャと、それに捕まった、少しだけ焦げているサザラの姿がある。

 

「俺の! ゴローニャは! だいばくはつを使った時体力が残るように訓練されている!」

 

「ニャー!」

 

「やめろー! 人を芸のダシにつかう―――ギャァァ―――」

 

 そしてゴローニャが再びだいばくはつを発動させた。二連続だいばくはつとかいう近年稀に見る脳筋プレイを見て個人的には大満足だが、サザラが若干可哀想だ。ゴローニャが倒れ、そして髪の毛が完全にチリチリになったサザラが口から黒煙を吐きだしながら道路に着地する。

 

「ぶっ殺す」

 

『格下相手に本気になっちゃって恥ずかしい子ね……』

 

 零距離二連だいばくはつとか喰らったら誰でもキレるわ。

 

 だけどこれだ、こういう馬鹿みたいな戦術を思いついてくるトレーナーが野良には存在するのだ。だからポケモンバトルは面白く、止められない。自分よりも強い相手を、見た事もない凄まじい戦術を、それを相手にして勝負する事が楽しい。それらに勝利したときの愉悦感で背筋がゾクゾクしそうになる。まぁ、とりあえずは、

 

「まだいけるな?」

 

「無論、いけるぜ」

 

 零距離で大爆発を喰らっても生き残っているサザラがバックステップを取りながら剣と盾を構え直す。持たせている道具はラムのみである為、その耐久力は純粋に生まれ持っての種族値と、そして気合から来るものだ。純粋に、ただ純粋に負けず嫌いで極悪に強いだけなのだ、こいつは。

 

「ハッサム、バレットパンチ!」

 

「ハハハハハ、温い! 温いぞ!」

 

 場に出た赤い鎧のハッサムが素早い拳をサザラに叩き込むが、盾でガードする様に弾きながら、そのまま懐へと踏み込み、その胴体にせいなるつるぎを叩き込む。ハッサムが吹き飛びながら体勢を整え直す。その頭には白いハチマキが巻かれているのが見える。タスキか、そう思った直後には二発、三発目のバレットパンチがサザラに命中する。それで軽くふらつきながらも両足で立ち、即座にハッサムへと追いつき、

 

 盾で殴り飛ばす。

 

「もっかいお願い、サンドパン!」

 

「こいやぁ!」

 

 出現したサンドパンが砂嵐の中に紛れる様に姿が霞む。しかし瞬時に相手の居場所を見切ったサザラが両手でギルガルドの剣を握り、踏み込み、そして夜の闇が降りはじめてきたこの時間帯、近くの影を刀身に纏わせて攻撃タイプを変更させ、夜という時間帯の恩恵を威力の上昇と共に受ける。放たれる複合技が夜の闇を纏いながらサンドパンへと一直線に、斬撃の波動の様に叩きつけられ、その姿が大きく吹き飛ぶが、サンドパンが堪える様に着地し、そして大地を叩いた。直後に発動するのはじしんだ。大地が揺れ、砕け、そしてそこに攻撃を放った直後のサザラが落ちそうになる。

 

「お前が落ちろ」

 

 体勢を崩し、落ちながら横へと回転してサザラは再び、やみのつるぎを放った。じしんを放ったサンドパンを薙ぎ払い、そして吹き飛ばす。逆さまになったサザラが片手で大地を掴む様に倒立し、そして体を一瞬だけ支え、背中の翼を羽ばたかせて軽く飛び上がる。空に軽く浮かび上がった状態で、次のポケモンを待つ。

 

「い、いったいそのポケモンはどれだけ体力があるんだ……」

 

「……」

 

 ボールを確認し、サザラの体力データを確認する。それを見て軽く溜息を吐き、視線をフィールドへと戻す。

 

 次にフィールドに出てくるのはドンファンだった。原生種のドンファンは出現するのと同時に丸くなり、そしてそこで円を描く様に回転し、

 

 すなあらしを激化させる。すなあらしが更に激しくなり、強力なものとなってサザラとドンファンに襲い掛かる。ただ、タイプ的にそれを受けても平気なドンファンとは違い、激化したすなあらしはサザラを容赦なく抉る。今迄気合だけで戦闘続行していたサザラは空中でポーズを決めたまま、無言で地に向かって落ちて行く。

 

 先程ボールで確認した残り体力は何と1%であった。

 

「お疲れ様サザラ! ゴローニャの二連大爆発で落ちなかっただけ凄いよお前は」

 

 耐性を保有している訳でもないのに大爆発を二発、バレットパンチを三発も耐えたのだ。ただ、それとは別に格下相手だからといって少々舐め過ぎという点に関しては口を出さざるを得ない。これは後で反省会だな、と思いつつ、

 

「行け、蛮ちゃん! こっからは一歩も引くなよ!」

 

ガァァァァォ(俺は芸人とは違うからな)!」

 

『芸人じゃねぇぇぇぇ! ゴローニャマジ許すまじ』

 

 お前そんな事が言えるぐらい元気ならもうちょっとフィールドで頑張れよ、と思いつつバンギラスの蛮を繰り出す。普通のバンギラスよりも小柄バンギラスであっても、その怪獣的な強さは変わらない―――いや、上がっている。登場と同時に一直線にドンファンへと向かったバンギラスがドンファンとの衝突を正面、片手で押さえ、そのまま持ち上げ、宙に投げる。それを追撃する様に拳を握った蛮が飛び上り、

 

「ばかぢから」

 

 ばかぢからで殴り飛ばした。弾丸の様に放たれたドンファンが大地へと半ば埋まるように叩きつけ、目を回して気絶する。大地を砕きながら着地した蛮が咆哮を轟かせ、敵を倒した事に高揚し、その力を高める。

 

「くっ、バンギラスとはなんとも羨ましいポケモンを……! 砂パには必須なんだよなぁ……」

 

「シロガネ山にしかヨーギラスは生息しないからなぁ、ジョウトでは」

 

 砂パを運用するなら特性ですなあらしを保有するポケモンが欲しい。そうすれば黒尾みたいに、指示を出さなくても登場と同時にフィールドを有利な空間へと作り変える事が出来るからだ。こうなると指示する手が一手開く、これは非常に重要な事だ。まぁ、今の状態、大体相手のパーティーは見えてきた。基本的な砂パでありながら、ちゃんとはがねタイプ対策に格闘や地面タイプを用意してきている。すなあらしは主に耐久力の補強とタスキ潰しを目的としているのだろうと当たりをつける。

 

 オーバー50としては漸く戦術が形になって来た、というレベルだろう。

 

 負ける理由はない。蛮は卵の頃から育て、そして大きくなる筈だった肉体を圧縮させる事でより密度の高い筋力を手に入れた、超重量級の存在だ。すなあらしの恩恵を受ける事を考え、

 

 負ける理由はない。

 

「蛮ちゃん、こっからはばかぢからのみで蹂躙していいぞ」

 

ガオー(ヤッター)!」

 

 その宣言と共に蹂躙を開始した。




 ということで、砂パを運用し始めたってレベルのトレーナーとの戦闘ですわ。オーバー50、つまりレベル50を超えた辺りから戦術とかを考え始め、自分に合うタイプは? どういう戦い方がいいのか? そう言うのを考え始める。

 大体60オーバーで形になって、70からは完成度を求める方向性。

 訓練次第では新しい技とかコンビネーションを開発できるから、タイプ統一パとかが恐ろしく強い世界観ですわー。

 なおハピナスやトゲキッス現役時代&現役地方(白目

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