目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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戦後処理

『くっ殺せ』

 

『くっころ! くっころ!』

 

『いやぁ、流石私達のトレーナーね。惚れ直すわ』

 

なぁうー(くっころ)! なぁうー(くっころ)!』

 

『いやぁ、ルギア様も捕まっちゃいましたか! くぅー、残念ですね! ほんと残念ですわ! 我がVジェネレートの活躍があってこうなっちゃったんですよね! いやぁ、残念です! 捕まっちゃった伝説とか伝説じゃないですよねー!』

 

がおー(くっころ)! がおー(くっころ)!』

 

『エンテイ貴様ぁ―――!!』

 

 ―――ボス、聞いていますか。何とか生き残りました。でも死にそうです。ルギアを殴った拳が砕けました。超痛いです。

 

 ルギアとの戦闘が終わって連れていかれた場所はアサギジムだった。その中にいる一室で上半身を裸にし、包帯を巻いて貰った―――ジムリーダーのミカン自身に。美少女に介抱されるという絵図は実に悪くない。ルギアはマスターボールに捕らわれている為に完全なくっころ状態だし、全てが予定通り進んで本当に飯が美味い。まだ食べていない訳だが。そんな事を考えながらオボンのみを食べていると、自分が座っている椅子のあるこの部屋は、おそらくは医務室かなんかなのだろうが、にミカンがやってくる。

 

「えっと、お久しぶりですオニキスさん。ジム戦以来ですね」

 

「そっすね。いやぁ、こんな事件で再び会う事になるとは一切思いもしませんでしたよ―――はっはっはっは」

 

『白々しい……!』

 

 ルギアの抗議の声はガンスルーし、ミカンのえぇ、そうですね、という言葉に頷く。

 

「このルギア暴走事件は―――」

 

「―――全部仮面の男(マスク・オブ・アイス)の仕業です」

 

 ―――ごめんね! 本当にごめんね!! 冤罪でごめんねマスク君! 俺の敵になった事を悔やんで! 悔やんで苦しみながら死ね!!

 

 

 

 

 ―――全部仮面の男が悪い。

 

 冗談でも何でもなく、”ルギア暴走事件”と名付けられたこの出来事はそういう風に処理”させた”のだ。こう見えてもボスの弟子、悪事と嘘と虚構には慣れている。若いジムリーダーを騙す程度の事は難しくはない。これがタンバシティではなくアサギシティを選んだ理由だ。タンバシティのシジマは経験豊富な大人であって、アサギシティのミカンはまだ若い。つまり騙しやすいという所でもある。だったらロケット団の手管を利用し、騙す事も難しくはないのだ。

 

 というわけで全ては仮面の男が悪いという事になった。

 

「いや、偶然スイクンと出会えた事は幸運でしたわ。エンテイを捕まえた事で繋がりができたというか……まぁ、そのおかげでホウオウが捕獲済みだって解ったんですよ―――仮面の男に。こうなるとやっぱり不安になってくるのは対となるルギアの存在ですからね」

 

「そして調べに行ったら見事戦闘中だった……という事ですか」

 

「えぇ、残念ながら仮面の男によってルギアは暴走していたようでして……このままだとルギア自身も、そして周囲も危ない、陸に上げない事には勝つ事も出来ないので、一番近かったアサギにまで連れてくるハメになってしまったのは本当にすみません。ですがそうしなきゃルギアに対して勝機を見出す事すらできなかったんです……」

 

「いえ、貴方のやったことは実に立派な事です。悪から……新生ロケット団からルギアを守ろうとしたその意思はまさに尊いものだと思います。正直な話、事前に相談してくれればジムリーダーとして助けてあげられたのにという気持ちはありますが、被害を食い止めた事と、ルギアの捕獲は偉業です。心の底から祝福し、尊敬します」

 

 ミカンがそう言って照れながら笑みを浮かべてくる。あぁ、美少女を騙して笑顔にさせるのって最高だなぁ。

 

『笑いすぎて腹が痛い』

 

『貴様ら覚えてろよ、この屈辱は絶対に忘れんからな。いいか、絶対に絶対に覚悟していろよ』

 

『ルギア様ぁ、ここだと後輩なんですよねぇ、ちっとVジェネレートの練習したいんでぇ、付き合ってくれませんかぁ』

 

『エンテイ貴様ぁ……!』

 

『ホウオウ様に恩はあっても、引きこもりのルギア様にはそういうの一切ないんですよねぇ』

 

『ルギアと唯一神、なんか超楽しそうで御座るな』

 

 まぁ、何だかんだで唯一神も活躍出来た事は嬉しいんじゃないだろうか。準伝説だから公式戦の参加は出来ないのだから、こういう機会でしか使用する事ができない。まぁ、それは抜きにして流石炎系統のポケモンの頂点の一つ、あっさりとVジェネレートを覚えてしまったし、その破壊力も今、保有しているポケモンの中では最強の破壊力を持っている。仮面の男が保有しているホウオウの事を考えると、これで満足してはならない。更に唯一神を、そしてルギア自身を鍛える必要がある。ルギアは海上から切り離す事で大幅に弱体下させる事ができたが、ホウオウを陸から切り離す事は難しい。だからルギアをぶつけて、ある程度相殺させなきゃ駄目だ。対ホウオウの事を考えると、どうしてもルギアの育成が必要になってくる。

 

 それとは別に、これからは警戒ランクも上昇するので、持ち歩くポケモンも増やしたが。

 

 まぁ、ホウエン地方が”ゲーム通り”の内容で進むのなら、グラードンとカイオーガの登場でレッツ・アポカリプス! な状態に突入してホウエン地方消滅の危機に瀕するから、それまでに最低限実戦で使用できる伝説種を保有していないと、真面目にホウエン地方が滅ぶ可能性がある。ゲンシグラードンやゲンシカイオーガだった場合は世紀末ゲージ倍ドン! という感じに突入するし。最初はギラ子でもどうにかならないかと考えたが、

 

 ―――オニキスちゃんがポケモンマスターになったら言う事聞いてあげるよ。ベッドの中でもな!

 

 という発言があったので、”最低限”ポケモンマスターになるまでは対ホウエン地方用にギラ子を育成する事ができないのだ。まぁ、それを解決する為のルギアもゲットした。重要なのはここからルギアを説得する事だが、そこに関してはそこまで不安はない。ホウオウに関してはルギアも理解しているだろうから、それを救う事を考えていると知れば、ルギアも間違いなく手伝ってくれるだろう。まぁ、それに対伝説とか以外で伝説のポケモンを運用する事は現在、全く考えていない。

 

 現状サザラとクイーンが伝説殺しに成長しているが―――まだまだ足りないと言わざるを得ない。ルギア戦はマスターボールがあったからどうにかなったようなものだ。ルギアが周辺の被害を考えずに戦えば、なみのりでアサギシティを沈め、”海を広げる”事さえできたはずだ。だからアサギシティを人質に、そしてマスターボールで捕獲ラインを見極め、最速で勝負を終わらせに行った。そうじゃなきゃあと一日は戦い続けていたような、そんな気さえする。その場合、ポケモンの前に俺が死んでいただろう。

 

 足りない、まだ力が足りない。

 

「オニキスさん!」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

 もう、ちゃんと聞いていないと駄目ですよ? とミカンに怒られてしまう。ごめんなさい、と謝りつつ、ミカンの言葉に耳を傾ける。

 

「とりあえず、今回の件でポケモン協会はホウオウの探索、仮面の男への完全敵対と警戒に入る事にしました。各地のジムリーダーにも今回の件は報告され、そして共有されるでしょう。とりあえず、オニキスさんは今日は絶対安静ですからね! バッジも8個揃えていますし、治るまで色々と禁止です。いいですね?」

 

「あ、はい」

 

「では私はジムの仕事があるので、そちらの方へと向かいます。それでは」

 

 ペコリとミカンは頭を下げ、笑みを浮かべたまま去って行く。うーむ、無垢な美少女を騙している悪い男の図、実に素晴らしいものがあるのではないだろうか。まぁ、それは置いて、ミカンの気配が遠ざかり、この部屋に盗聴器の類がない事を確認してから腰からボールを取り出し、そしてその中に入れられているポケモンを出現させる。

 

「―――ふん」

 

 出現するのはスカート部分がハーフサイズになっている白と海の色の千早姿のポケモンだった。長い白髪に黒いリボンを両側に結んだけわしい表情の女が―――ルギア、ルギアの亜人としての姿だ。その姿は出現するのと同時に此方へと向け、そして中指を突きつけてくる。

 

「地獄に堕ちろ。滅びろ。貴様には死すら生温い。くたばれ」

 

「トレーナーに対してこの扱いである。ん? ルギアちゃーん、俺はお前を一対一で屈服させたトレーナーなんだぜ? んン? ちょっとその態度は間違ってるんじゃないかなぁ……なぁ、そう思わないか唯一神」

 

 椅子に座ったまま足を組み、背を背もたれに預けたままボールから唯一神を出現させ、アームレストに頬杖をつくようにルギアへと視線を向ける。出現した唯一神は腕を組みながらうんうん、と頷き、ルギアへと視線を向ける。

 

「そうですね、トレーナー。このエンテイ、否、唯一神、トレーナーに捕まった当初は不満を持っておりました。まるで芸人のオチ担当の様に扱われ、気付いたら海にドボンされ、深海で攻撃は出来るのかをテストする為に何度も沈められ、その度にモビーの玩具にされたり。ですが、今、目の前でルギアがくっころ状態なのを見ているとはっきり言ってどうでも良くなってきました。トレーナー、一生ついて行きます。取り合えずルギアはパシらせましょう」

 

「エンテイ貴様ァ!」

 

『流石あの男の弟子ね』

 

『ボスの弟子ですからね』

 

 黒くなきゃロケット団ではないのだ。ともあれ、ルギアには暴れる様子はないし、逃げ出す様子もない―――当たり前だ。天下のマスターボールを利用しているのだから。少なくともルギアはマスターボールの中から自由に逃げ出す事は出来ない。これがハイパーボール等であれば、多少の力技、或いは干渉で破壊し、突破する事もできるだろうが、マスターボールは”ご都合主義”とまで謳われた最強のモンスターボールだ。これを使ったポケモンは時空を超える伝説であろうとも、決して逃れる事は出来ない。故にルギアが逃げるチャンスはこうやって正面から話し合い、或いはボールから出ている時だ。

 

「とりあえずルギア、ネタは抜きにする。俺に従え」

 

「……いいだろう、条件付きであれば貴様に従わなくもない」

 

 此方の要件をルギアはあまりにもあっさりと了承した。中指を降ろし、長くだぼだぼの袖の中へと手を戻し、そのまま腕を組んだルギアは唯一神へと視線を向け、

 

「絶対零度」

 

「―――」

 

 必中の必殺で唯一神を凍らせてから視線を此方へと向け直した。

 

「まずは貴様はどう思っているが知らんが、我は本来は我が”ぎんのはね”を保有する天運の子に試練を与え、乗り越えた場合に従おうと決めていたが―――貴様が挑んだのは原初の法則。野生の掟。それに挑み、そして貴様は勝利した。野生であった我もそれには従おう。だが無論、決められたルール内で我を屈服させたわけではない。故に完全に服従していると思うな」

 

「それに関しちゃあ重々承知だよ。俺も別にお前を使って暴れたいから捕まえた訳じゃないしな」

 

「ならばそこは問題ないだろうな。であれば、我を捕まえた責任として我が友―――ホウオウの解放を手伝ってもらおう。それが我が貴様に要求する我を従える対価だ。我が友ホウオウは現在悪しき者によって完全に屈服されている。そして、その者によって育成され、本来以上に強くなっている所があるやもしれん。陸上で戦っている限りはおそらく、我一人では勝てん」

 

「それに関しても安心しろ。仮面の男は元々殺害対象だ。ホウオウの蘇生強化能力は悪用されるとクソ面倒だ。誰かの手に渡るべきじゃないと俺も思っている」

 

 これに関しては本音だ。そして自分の捕まえたポケモンに関しては一切ロケット団やボスに提出する気はない。我のポケモンは我のもの、ポケモントレーナーとしての最低限の誇りだ。それを見抜いたのか、或いは嘘を見抜く力があるのか、ルギアは頷きながら納得する。

 

「偽りはないようだな。貴様の悪辣なやり方には”悪”を見る事ができるが、しかしトレーナーとしての在り方には決闘する者としての”誇り”が見える。悪童ではあるが腐ってはおらず、という所だろう」

 

「あんまし恥ずかしい話はしないでくれよ……ま、俺の下にいるのが不満ってなら唯一神にも言った事だけど、別のトレーナーを探すか、自由にしてやるよ。ただ、俺が上でお前が下だ。マスターボールありきとはいえ、お前に一回は勝てた―――お前の底は見えたから次も絶対に勝てる」

 

 断言し、その言葉にルギアが笑みを浮かべる。

 

「吠えたな人間。……が、良い。契約を守るのであれば我も異論はない。貴様と共に真の悪を滅ぼす災厄として君臨しよう。だが心せよ、我が契約に背くというのであれば―――その時は手段を選ばずに貴様を滅ぼす」

 

 ルギアの威圧感たっぷりの言葉に、ボールの中から声が漏れてくる。クイーンの声だ。

 

『あらあら、素敵な言葉ですね。その時は是非ともルギアさんの表情を絶望の色に染めて、そしてこころが壊れるまで可愛がってあげたくなりますね。私、昔から伝説とかの神聖な生き物を心が許す限り壊したり穢したりしたいと思っていましたのよ。薬漬けにしてしまうのも面白そうですわね』

 

『一番ロケット団してるのってクイーンだよね』

 

 ほんと、なんでこのオノノクスはここまで精神ぶっとんでるんだろうなぁ、なんて事を思いつつ、言う。

 

 大丈夫だろう、と。

 

 それに、

 

「―――ボス以外に俺が殺されるかよ」




 るぎあ が なかま に なったぞ !

 そして全部仮面の男が悪い。バトルの始まる瞬間を見ていないんだからいくらでもいいわけできるね!! やったよ!

 育成リストにルギア追加、そして手持ち(控え)にクイーンも追加。

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