目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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コミュニケーションナイト

 それはキキョウジムを突破し、エンジュシティに戻って数日経過してからの話だった。温泉で特訓の疲れを癒し、黒尾と蛮とナイトの四人でマッサージチェアに並んで座りながらフルーツ牛乳を飲んでいると、その時ナイトは突然爆弾を投下した。

 

なうお(恋をした)

 

「ぶっ」

 

「ゴギャ!?」

 

「ふぉ!?」

 

 思わぬ事態にフルーツ牛乳がのどに詰まりそうになる。それを何とか自分の胸を叩いて持ち直し、直ぐ横のポケモン用マッサージチェアで体を揉まれているナイトへと全員で視線を向ける。マッサージのせいか若干賢者タイムに突入している部分もあるが、ナイトの表情はマジ顔だった。全員でナイトを見ていると、自分の足元の影が割れ、そこから頭だけをギラ子が出してくる。

 

「マジか。ハードボイルド系を気取っているこのブラッキー、絶対に雌に言い寄られるけどそれを袖にしつつ一夜の過ちを……! って感じのキャラだと思ってたのに裏切りやがった」

 

「お前はお前で一体何を言ってるんだ―――おう、とりあえずどういう子とか教えてくれよナイト」

 

 影から出てきたギラ子が此方の股の間に座り込んでくるが、それを無視してナイトへと視線を向け、真剣な表情で考えているナイトを見る。一切の冗談はないらしく、ナイトはうむ、とポケモン獣言語を使って呟き、そして視線を持ち上げ、此方の方へと向けてくる。

 

なーう(アレは先日の事だ)……」

 

がおー(なんか語り始めたぞ)

 

「しっ、今いい所です」

 

 そしてナイトは語りだす。

 

 

 

 

 ナイトの話は妙に臨場感があったり、感情移入がすごくて話が長くなりがちであったため、それを簡単に纏める。話を纏めると、ナイトは先日、自由時間の間にエンジュシティを自由に歩き回っていたらしい。そしてその時、運命の出会いに出会ったとか。ここら辺、女子勢である黒尾とギラ子は大いに沸き立っていた。というかギラ子は性別不明な筈だったのに、なぜ思いっきり雌型なのだろうか。ともあれ、そんな訳でナイトはエーフィーに出会ったらしい。そしてそのエーフィーに一目惚れ、そのままデートに誘い、エンジュシティを観光デートしたのだとか。

 

 しかし連絡先を交換するの忘れたりと、少し馬鹿なミスをしてしまい、また逢いたいのに会う方法が解らないらしい。しかし今回のナイトは本気も本気らしく、番を狙ってアタックしてみるとか言っている。雌とかそこまで興味ねぇ、とか言っていたナイトがこんなのである。さぞや美人? 美ポケ? なエーフィーなのだろう。

 

なーおー(言葉で語れば陳腐に)……なおー(そういう雌だった)

 

がおーん(ガチなパターンっすわ)

 

「うーん……」

 

 ナイトの恋、か。イーブイ時代から良く知っているだけに、こいつのこういう変化もちょっと驚きなものだ。まぁ、それでナイトが幸せというか、何というか生きる活力に満ちているならそれでいいと思う。ナイトがデートに成功したというのならきっと、脈があるんじゃないかと思うし。それにこれ、解決しないと間違いなくバトルに身が入らないだろうと思うし。ともあれ、自分から見たナイトというポケモンは、かなり良個体だ。普通のブラッキーよりも肉体的に秀でる様に育ててあるし、

 

 ポケモンコンテスト、”かっこよさ”のマスターランクで優勝しているし、モテない理由がない。ポケモンの中で、ポケモンコンテストのリボンを得ている事は、バトルでのことを抜けばかなりのモテ要素なのだ。なおコンテスト自体に興味があったのは蛮とナイトだけだ。蛮がたくましさ、そしてナイトがかっこよさ。

 

 二人とも、雄だってことを考えれば、まぁ、なんでお前らコンテスト出場したかったの? って理由が見えてくる筈だ。

 

 ともあれ、他のブラッキーよりも一回り体が大きく、屈強で、それでいてレベルも高い―――うむ、いけるな、これは。そのエーフィーがどこのエーフィーだかは知らないが、それでもウチのナイトがフラれる要素が見られない。というかそんなものなしにこんな面白イベントを見逃すわけがない。それにエーフィー―――というか”ブイズ”をエンジュシティで保有している場所なんて限られている。どこのエーフィーかはもうわかったようなもんだ。

 

 マッサージチェアから飛び上り、フルーツ牛乳を一気に飲み干し、そしてそれを捨てながら宣言する。

 

「俺は応援するぞナイト!! 今すぐ会いに行こう! 俺の手持ちの番となるエーフィー……トレーナーとして一目見なきゃあいけねぇなぁ!」

 

なうー(お前)……!」

 

 感動した様な様子でナイトがマッサージチェアから飛び降り、そして俺の前に立つ。その姿に膝をついて、そして抱き合う。そうやってナイトと友情を確かめつつ、内心では確実に面白がってやっている事を軽く謝罪しておく。悪いなナイト、お前の話はいいネタになりそうだよ。

 

「アレ、絶対半分は面白がっていますよね」

 

ガオガオ(恋は盲目)

 

 そんな訳で、ナイトの恋を本気で応援する事になった。

 

 

 

 

 まず最初に確認すべきなのはエーフィーの居場所はどこにいるか、という点だった。これに関しては勿論、というか最初から知っている人間なら知っている。このエンジュシティに訪れた”プレイヤー”はこの街のとある施設へ、秘伝マシンの取得の為に向かう場所がある。世界が現実化するとあれほど簡素な街じゃなくなるし、もっと複雑で広く、大きくなってくるわけだが、それでも施設はある―――舞妓と遊べるお店なども。

 

 あとは遊郭も。行く必要は一切ないが。

 

 ともあれ、イーブイを含めたその進化先の総称、つまりはブイズを保有している事でエンジュシティの舞妓の姿は記憶に良く残っている。初代ブイズ、つまりはサンダース、シャワーズ、ブースターにイーブイ。この四匹は確実に舞妓の所に存在しているのを自分は知っている。だからおそらく、エーフィーもまた、この舞妓の所のエーフィーだと思っている。そもそもイーブイ自体がかなりレアなポケモンだ。野生の中で群れを形成していても、その群れが小さく、数も少ないのだ。その為、イーブイは個体数が非常に少ない。だからイーブイを所有しているトレーナーはイーブイに卵を産ませ、それを通す事で個体を増やして育て屋におすそ分けしたり、数を増やそうとする。

 

 舞妓の所にイーブイがいるのであれば、おそらくは高い確率でエーフィーもそこにいるだろう。そういう予想をし、舞妓と遊べるお店へと半分スキップの様な状態で向かう―――ナイトが。自分がスキップしているような姿を見せると肉食獣達のリミッターが吹っ飛ぶので、トレーナーとしてそこらへん、気を使わなきゃいけない部分もある。ともあれ、エーフィーの確認をする為にまずは舞妓の所へと向かい、そして到着した。

 

 店の前でナイトは足を止め、

 

()なうなー(また逢える喜びか)……」

 

ガオ(キモイ)

 

「お静かに」

 

 黒尾の尻尾が蛮を背後から叩き、黙らせる。ギラ子もギラ子で物凄く楽しそうに状況を眺めている。お前らホント暇人だなぁ、と思いつつも目の前の扉を開き、そしてその向こう側へと抜ける。若干背中に突きつけられる視線が痛いが、それを無視して入口近くの着物姿の管理人、或いは受付の人物へと寄る。

 

「おや、トレーナーの方ですかいな。となると予約ではなく……バトルの方になりますぅ?」

 

 そう言って受付の人物はポケモンボールを取り出す。いや、違う、と否定して軽く手を振る。

 

「あ、いえ、実はウチのブラッキーなんですけど、おそらくはそちらのエーフィーに一目惚れしちゃった様で……。出来たらなんかの縁ですし、なんか会わせる事でもできたらなぁ、という次第で。いえ、勿論駄目なら駄目でもいいんですけど、折角珍しいブイズですから、多少は好きにさせたくって」

 

「あー、成程! 確かにかっこいいブラッキーをお持ちの様で! そういう事でしたら少々お待ちください! ポケモンのお見合いなんて久しゅうございまして、まずは件の子を連れてきますね、えぇ!」

 

「どうもありがとうございます。今度はここにり―――いや、何でもないです。えぇ」

 

 口が滑らない様に気を付けつつ視線をナイトへと向けると、ナイトがかっこつけようと頑張って胸を張る姿が見えた。お前、本当に地味な所に気を使うよな、なんて事を口に出す事なく考えていると、奥の方から廊下を歩く舞妓の姿が見える。その横に連れているのは紫色のイーブイの進化したポケモン、エーフィーだ。その長い耳が特徴的で、美しく、そして”優雅”という言葉が似合うポケモンだ。個人的にはイーブイの進化形の中でも、エーフィーが一番の美しさを、かわいらしさをニンフィアとイーブイが、そしてかっこよさをサンダースとブラッキーが取れていると思っている。

 

 唯一王とシャワーズはごめんなさい、好みじゃないんだ。

 

 ともあれ、そんな事を考えている間にエーフィーが近くへとやってくる。その美しさ、神秘さに関してはやはりブイズ一だと思う。こうやって見るエーフィーの姿はかなり毛並みが良さそうだし、それにレベルもおそらく推定50から60ぐらい、かなり鍛えられている。少なくともバッジ四個級の実力はあるんじゃないかと思う。この美しさ、可愛さならナイトの番にもいいんじゃないかな、と思い、視線をナイトへと向ける。

 

「おい、いい()じゃないか。こんなのとお前デートしたのか、羨ましいな」

 

 そうナイトへと言葉を向けると、ナイトが言葉を返してくる。

 

なぁう(悪い)ななーう(この子は)なうなう(俺の知っている子)ななううー(ではない)なーなう(それはそれとして)なう()うなーう(美しいな)ななーうー(もしかして)なう()ななう(探してない)?」

 

 笑顔で視線をナイトから外し、そして視線を舞妓へと向ける。

 

「すいません、ちょっと教育的アレしますね」

 

「へ?」

 

「盛ってる馬鹿を裏次元へシュゥ―――!!」

 

 思考を読んだギラ子が壁にやぶれたせかいへの入り口を生み出し、そこへと向けて真っ直ぐ蹴りをナイトへと叩き込み、その姿をやぶれたせかいへとシュートする。この馬鹿はあのエーフィー以外は考えられないとか吠えていたくせに別個体見つけたらこれかよ。

 

 とりあえず、視線を舞妓へと向け、

 

「あ、お騒がせしました、いずれなんかの形で詫びます―――とりあえずナイトォ! 教育的指導ォ!」

 

ななぁーう(ポケモンの)! なーなー(反応だ)! ななー(抗いたくない)!」

 

 控えめに言って屑だった。完全に下半身全開で思考しているだけだった。流石に言い訳不可能である為、ギラ子を含めた全員でそのまま自由に、遠慮なく暴れる事の出来るやぶれたせかいへと突入する。

 

 

 

 

 その後、午後は完全にナイトの教育的指導に費やされた。結局、あの舞妓以外でエーフィーの所有者はエンジュシティには存在しない為、

 

 一つの疑問は残される。

 

 ―――一体、誰のエーフィーだったのだろうか、と。

 

 しかし、その事を考えると、どうしてか考えてしまう。

 

 横にエーフィーとピカチュウを連れ、修行の合間の気分転換にエンジュもんじゃでも食べに来ている赤帽子の姿を―――。




 結局エーフィー雌なら何でもいいのかよぉ! というお話。

 赤帽子の人っもずっとシロガネぼっちしてられる訳じゃないし、たまーに降りてきてるんじゃない? というオニキスな人の考え。

 まぁ、ロマンあるよね! という事も。最近ギャグってないので完全なギャグ回。真面目な顔で馬鹿を追い求めるのです

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