目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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育成のこれから

 ―――大会では二位という結果で敗北してしまった。

 

 が、得るものはあった。そのせいでエンジュシティへと戻るのは少々遅れてしまった。しかし、ジムバッジ、そしてもう一つ、新たなものを手に入れた状態で唯一神の背に乗り、エンジュシティに帰還し、借りている部屋に全員で集まってもらっていた。戦利品であるジムバッジはジャケットの胸に装着しており、

 

 一番重要な戦利品を、部屋の中央の座布団の上に乗せ、全員の見える位置に置く。

 

 ―――ポケモンの卵だ。

 

 リザードン―――つまりはヒトカゲの生まれてくるポケモンの卵だ。大会で負けた後、あのリザードンのトレーナーを探し、この卵をアチャモと交換してきたのだ。どうやら各地域の所謂”御三家”を集める事を目的としているトレーナーらしく、快く交換してくれた。育て屋の様な安定した環境があれば卵の入手は難しくはないが、生憎と自分の様に地方から地方へと移動するトレーナーにとっては少々面倒なものになってくる。落ち着いた環境で相性と卵グループを考えなきゃいけないのだから、それもそのはずだ。

 

 ともあれ、重要なのはヒトカゲの卵を入手する事に成功した、という事だ。これで前々からやりたかった事が実現できる。

 

なーう(懐かしいな)なうなうななう(蛮も元は卵から)なーううな(産まれていたな)

 

「でしたね。カントーやジョウトを出る前にボスと一緒にコッソリとシロガネ山へと行き、入手してきたんですよね。ヨーギラスの頃は小さくて可愛かったんですけどね。尻尾を揺らせば追いかける様に手を伸ばして遊んだものでしたが」

 

「ギャァァァァォォォォォ―――!」

 

 恥ずかしさに蛮が悶えて吠えながら顔を隠している。体が大きくなっても、こういう所はまだまだ子供っぽいよなぁ、と思う。卵から育てた経験のあるナイトや黒尾と変わり、サザラと災花、月光の方は興味津々だった。この三体は元野生組だ。それぞれ野生だったところを奇襲し、一方的に捕獲した連中だ。ポケモンの卵はそんな珍しいものではないと思ったが、良く考えれば卵を育てるというのは未知の経験なのかもしれない。なんだかんだこの数年間、育成はやっていても卵関係の事はやっていないし。

 

「とりあえず話進めるけどこれ、ヒトカゲの卵な。蛮ちゃんで実験した時のデータが揃ってるから、蛮ちゃんの時には出来なかった事をやろうかと思う。これ、成功すればスタメン争いが激化する事なんだけどな」

 

「む」

 

 その言葉に皆が耳を傾ける。こうやって、旅を、そして戦闘を一緒にするメンバー達はボックスの中の他のポケモン達と競い、争い、そして今のポジションを勝ち取ったのだ。自分の所有しているポケモン達の中でもエリートの中のエリートという認識で問題ない。その面子の立ち位置を揺るがす、そういうリザードンを作ろう、という計画なのだ。

 

「まぁ、現実的な話、控えに追加して、状況次第で入れ替えるって感じの運用にはなるだろうけど、計画通り育てる事ができれば、間違いなく一軍級の実力になる筈だ」

 

「えーと……それってアレよね、前言っていたメガシンカの話。キーストーンとか言うのがないから私達は無理だって聞いてたけど」

 

「あぁ、それがベースだ」

 

 メガシンカというのは現在研究されているポケモンの進化現象だ。ポケモンに対応するメガストーンとキーストーンによって、種族の限界を超えた進化を果たすのがメガシンカだ。ある意味、進化ではなく変身という言葉が正しいかもしれない。何せ、メガシンカは一定時間の経過で解除されてしまうのだから。この現象、そして簡易化に関しては急ピッチで研究が進められているが、全く進んでいないというのが現状だ。

 

「あぁ、逆に考えるんだ。メガシンカするからめんどくせぇんだって。メガシンカに進化させればいいんだ、って」

 

 話は簡単だ。メガシンカは種の限界を超えた進化だ。だから元の姿に戻ってしまう。じゃあ種族の限界じゃなければ良い、そういう事だ。”メガシンカの姿に普通に進化させる”事を行えば、常時メガシンカ状態でいられる事になる。卵から孵ったポケモンをきっちり育てれば、そういう風に育てる事は可能であるに違いない。少なくとも、バンギラスという重戦車型のポケモンに本来存在しないスピードという概念を与えたのは自分だ。だったら出来る。出来るに違いない。ポケモンの改造という領域に関しては、

 

 自分はこの世界最強なのだと、そう自信を持っているから。

 

「拙者、思うのではあるが、これ、結構倫理感ギリギリでは御座らんか……?」

 

 月光のその言葉に全員が顔を揃えてうんうん、と頷く。まぁ、やっている事は確実にポケモンを使った実験だ。蛮が成功しているからいいけど、非合法スレスレの事をやっている自覚はある。だけど、とサザラが口を出す。

 

「ミュウツーやデオキシスよりはマシじゃね」

 

「じゃあ問題御座らんな」

 

グルルゥ(スタメン争いかぁ)

 

なーぉぅー(俺はオンリーだしな)

 

「リザードンってなるとアタッカーだから競合するのは私と蛮ちゃんぐらいかしら?」

 

「まぁ、基本的に私とナイトの座は不動のものですからね。ナイトはサポートと受けに特化しているオンリーワンな性能に仕上がっていますし。私は場に出るだけで戦術の起点が出来上がりますし。メガリザードンは話によるとどうやら超火力型で”ひでり”持ちのようですし、やはりアタッカー枠に入るんじゃないでしょうか?」

 

ガオ(アレ)? ガーオウ(俺やばくね)?」

 

「拙者と枠が被らないって事は拙者も安泰で御座るな。というか6Vである事に胡坐かいて余裕こいているとサザラ殿も結構ヤバイと思うで御座るよ。ほら、つい最近だいばくはつ二連で見事に無様な姿見せたで御座るし」

 

「ノーカン、アレはノーカン! ちゃんと最強個体としての安定感をジム戦では証明したでしょ! タンバジム! 3タテ!」

 

「安定感があるのはキンシよねぇ」

 

「おい」

 

 ギルガルドの表面が恥ずかしそうに赤く染まり、それをサザラが壁に叩きつける。ギルガルドが可哀想だから解放してやれよ、と思いつつ視線を集める為に軽く手をパンパン、と叩く。まとまりのなかった皆の視線が此方へと集まり、そして黙って此方の言う事に耳を傾けてくれる。

 

「さて、これで大体解って来たけど、ウチらのパーティーコンセプトは”夜”と”天候”だ。始まりは黒尾と出会った事、そして夜って変化天候に出会えた事だ。こいつを研究している内にエアロックとか色々研究して、どっかの最凶ロリのおかげで二律背反という概念に行きつく事ができた。そして今じゃあ夜をベースに天候の融合を研究、って訳だ。基本的に皆にはにほんばれとかのうむとか、あまごいとか天候変化技を覚えさせてきている訳だが―――こっから、もっとキツク、特化させていこうかと思う」

 

 今までやってきたこと、それを形にする時期が来たのかもしれない。

 

「とりあえずヒトカゲの孵化と育成に備えて、全員のコンディションと能力、そう言った部分を見直す。誰にも真似できない様な、”天候支配”ってカテゴリーを突き詰めていこうかと思う。今は融合や夜固定ってやってるけど、場合によっちゃあそれも解除して、天候切り替えって方向性に進むかもしれねぇ―――各自、覚悟はいいよな?」

 

「はい!」

 

 全員の揃った声に頷く。

 

「とりあえず一番最初にヒトカゲの孵化作業と、そして月光の特性変更から進めてく。今までは”へんげんじざい”でやってきたけど、最終調整に合わせて天候変化系統のに変化してく。お前の資質を考えれば間違いなく場に出た瞬間濃霧を発生させれる様になる筈だ。っつーわけでそういう調整とか入れてくから!」

 

 ふぅ、と息を吐く。パーティーのブレイン、そして舵取りはトレーナーの仕事だ。ポケモンの意見を聞きながらも、勝利の為のビジョンを、そのルートを構築しなきゃならない。毎回、育成プランとかを考え、それを発表したり実行しようとするたびに震えたり、緊張したりする。なんて言ったって、自分が扱っているのは一つの生物、その心と体なのだから。そういう方向性を考えたりするのはちょっと、緊張する。

 

「というわけでここにキョウさんに貰ってきたポケルスと、そしてコンツェルン本社で保管されていた隕石が用意されています」

 

「さすが主」

 

「もうこの時点で非合法臭がヤバイで御座るなぁ!」

 

「ポケルスは機密クラスで研究中だし、メガストーン自体も未公開な上に研究中のもんだからな。なんだっけ、デオキシスを生み出すのに使ったんだっけ? 隕石」

 

「これを卵の状態のヒトカゲちゃんに与えたり、孵ってもすり潰して粉にしたものを食べさせます。卵の状態でポケルスに感染したら一体どうなるんだろうね……!」

 

なーう(目がヤバイぞ)

 

 ナイトに指摘されておぉ、っと声を漏らす。まぁ、緊張するのはするわけだが、自分の考えが、発想が、行動がこの世界に、新たなポケモンを生んでいると考えると―――それはそれで興奮する。恋愛とかいろいろあるけど、それでも今は何よりも、こうやってポケモン達と前を向いて、一緒に戦う事が楽しい。赤帽子という最強のトレーナーを撃破する事を考えるのが楽しい。

 

 赤帽子を倒した先で、ボスと戦う事が待ち遠しい。

 

 それを達成するまでは、他の事はまだちょっと、考えられないと思う。まぁ、楽しいならそれで良いじゃないか、という考えだ。ちょっと向こう見ずなのは許して欲しい。といった所で、ヒトカゲ孵化の為の作業を早速開始する。

 

「ジャージをもてぇーい! これよりヒトカゲの孵化作業に入る!」

 

 それは、

 

「マラソンだ……!」

 

「あ、懐かしいですね。蛮の時も卵を片手にマラソンしてましたし」

 

なうなーう(偶に転んでたよな)

 

「ギャォ!?」

 

 服装をジャージに着替えながら、ヒトカゲの卵を抱え、そしてエンジュシティ内の公園のトレッキングコースを目指す事にする。

 

 とりあえず、ヒトカゲが孵化するまではエンジュシティから動かない事にする。ヒトカゲが孵化しても、即座には動けない場合があるし、何より落ち着いた環境がないとポケモンの調整や育成というのはやり難い。レベル上げだけだったらトレーナーに勝負を挑めば良い。だが本当の意味での育成、技の改良や資質の開花、そういう事は一度動きを止め、ちゃんと集中できる環境と状況でやらなきゃ意味がない。

 

 自分の人生、結構充実しているよなぁ、

 

 そんな事を思いながらヒトカゲの卵を片手で抱え、

 

 マラソンの為に外へ出る。

 

 おそらく、エンジュシティから数週間単位で出る事ができなくなるだろう。




 メガシンカ出来ない? 種として確立させればいいじゃない!

 グレーゾーンギリギリの挑戦が始まる。

 そして重要なお知らせ、碑文つかさ様から支援絵を頂きました。
 改めて感謝を!


【挿絵表示】


 http://www.pixiv.net/member.php?id=4431929
 ピクシブの方にもまだいっぱい素敵な絵があるから見よう(ダイマ


 次回、ヒトカゲ大地に立つ。

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