目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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タンバ海岸

「頑張れ! 頑張れ! お前の絶望はすぐそこだ! さぁ、足掻けるだけ足掻け! 足掻くんだよ!! ハァ―――ッハッハッハハァ―――!」

 

「トレェェ―――ナァ―――!!」

 

 断末魔を上げながら唯一神が海の中へとゆっくりと沈んで行く。また沈みやがった、なんて事を思っている間にモビー・ディックが出動する。素早く海の中に潜ると、そのまま唯一神が沈むよりも早く潜り、そして唯一神を掬い上げ、背の上に乗せて急浮上する。そうやってほとんど溺死状態の唯一神、その口の中へとげんきのかけらを投擲し、シュートに成功する。数百メートル離れた沖の口の中に命中させるとは地味に人間やめているような気がするが、イシツブテ合戦している連中よりはマシな範囲である。

 

 というか強肩とコントロール力はボールを投げる的な意味でトレーナー必須技能だし。

 

 ともあれ、そうやって復活させた亜人種姿の唯一神を見て、頷き、

 

「うい、唯一神ちゃんもう1セット行こうかー。と言うわけでモビーちゃんと浜辺を往復で泳ごうね」

 

「助けてホウオウ!」

 

 ついに唯一神がホウオウに助けを求めるが、モイー・ディックのしおふきがその姿を海の中へと叩き込み、強制的に水泳が再開される。ほのおタイプの唯一神―――エンテイは、水のある環境にその肉体が適してはいない。勿論生きる為に水分を補給するのは基本的な陸の生物として当たり前の事だ。ただ長時間泳ぐ事や、浸かる様には出来ていない。だから必然的に、ダメージに近い負荷がポケモンに発生する。じわじわと体力を毒の如く奪って行くのだ。それを何度も経験すれば、ポケモンはそれに慣れてくる。

 

 そもそもポケモンと言う存在の進化に関するプロセスで不明な部分が大きいのだ。レベルで進化しないポケモンがいれば、交換によって進化するポケモンがいる。レベルが1上がったら急に進化するという不思議生態を持っているポケモン。そんな生物が一代で特定のタイプへの耐性に目覚める事はありえる。姿の変化を伴わない進化。それが自分がやっている事だ。

 

 ポケモンは戦いに、環境に、そして自分の経験に合わせて主として進化している。だったらその方向性を固めれば良い。そうやって、唯一神に対して水タイプの耐性を施すのだ。

 

「オラオラ、沈み始めてるぞォ! もっと気合入れて泳がねぇか! 陸にいたから蛮ちゃんはハイドロカノンを受ける事で訓練にしてたんだぞ! 自分がどれだけ恵まれているのか解ってんのかぁ!? お前もハイドロカノンかあまごいハイドロポンプを相手にしたくなきゃ死にそうなほど頑張って泳げ!!」

 

「ホウオウゥ―――!!」

 

 唯一神の絶叫が響く。それをギラ子と並んで絶叫の心地よさにうっとりとしつつ、眺める。何時の時代も、上から目線で頑張っている奴を見下すのは気持ちが良い。不思議とギラ子と一緒にいると心が闇系のアレに染まりそうな気がする。後ろから蹴りを叩き込んでギラ子を海の中へと突き飛ばし、視線を背後の浜辺へと向ける。

 

 そこには道着姿の集団と、ポケモン達の姿が見える。

 

 メガトンキック、メガトンパンチ、ここら辺のわざはかなり苦しいが、訓練を重ねれば人間でもその内繰り出せる、というデータがある。タンバジムのジムトレーナー達はこれに近い状態に入っている。その為、拳や蹴りである程度ポケモン達にかくとう属性のダメージを出す事ができる。それを通してポケモンに対してかくとうのダメージを与えて耐性を身につけさせることができる。

 

 そんな訳で、視線を浜辺で格闘訓練を行っているトレーナー達へと向ければ、彼、彼女達が殴り、ガードしたりでかくとう技の受けを行っているのが見える。それは勿論ポケモンとトレーナーが一体感を得る為の訓練であり、そしてポケモン側にかくとう耐性をつける為の訓練でもある。これは経験的な話だが、等倍のタイプよりは弱点のタイプの方がこういう耐性を取得しやすいと思っている。なんというべきか、等倍のタイプ相性だとポケモンに”危機感”が生まれないのだ。逆に弱点タイプだと、生命に対する危機からか、弱点攻撃に対する耐性をある程度取得できる。

 

 まぁ、と言っても凄まじいものじゃない。

 

 二倍ダメージを一.五倍に抑えるとか、そういうレベルの話だ。それでもありとなしでは大きく話が違ってくるのだが。

 

 ポケモンの才能領域的な問題から、取得できる弱点耐性は一つ程度だ。そしてほぼ悪統一パーティーである以上、必ず突き刺さるかくとうタイプに関してはどこかで弱点耐性を付けておきたいものだった。ただ、かくとうタイプのポケモンは持っていないし、こういう育成に関しては安定した環境がないと非常にやり辛い。困っていたところを、

 

 シジマに助けられた。

 

 月光や災花、黒尾に拳を蹴りを繰り出し、それを彼女たちは受け止めている。現在、そういう耐性を既に取得しているのが蛮、そしてナイトだ。サザラに関してはそういう耐性を取得する才能領域に別の技能や資質を覚えさせたい所だし、参加させていない。問題なのは喰らえば吹き飛ぶような脆弱な三人、そして水技で簡単に吹き飛んでしまう唯一神の存在だ。耐性付与指導を申し出てくれたシジマには感謝してもしきれない。

 

「この調子だと明日、明後日には完了しそうだなぁ―――あ、モビーちゃんー! 唯一神沈んだからもっかい引き上げて……はいはい、シュ―――ヒット! うし、起きたな、再スタートできるよやったね! 泳げー! えーと、そうだそうだ、明後日には確実に終わりそうだな、ポケモンリーグや赤帽子戦に向けて憂いが一つ減るわ」

 

 ばくれつパンチ、マッハパンチとかは割と良く見るかくとう技だ。対あくポケモン用のサブウェポンとして持っているのも珍しくはない。だからここで軽く耐性を付与できるのは良い事だ。

 

 そう思って頷いた直後、

 

「とぅ!」

 

「ちょ―――」

 

 凄まじい速度で砂浜からダッシュで抱き着いた姿が浜へと此方の姿を押し倒し、びしょ濡れにする。幸い、リゾート用のトランクスにサンダル、そしてビーチ用ハーフスリーブパーカーという恰好になっているから濡れても平気だが、

 

「何しやがるこいつ!」

 

「えー! だってオニキスちゃん自分の世界に引きこもっているんだもん! つまんなーい!」

 

「こいつかまってちゃんかよ……!」

 

 割とそうだけど。

 

 塩水の中から体を持ち上げようとすると、再びギラ子がタックルを繰り出してくるので、それを見切って回避し、通り過ぎる姿に回転蹴りを叩き込んで海の中に叩き込む。その姿を見て心癒されようかと思ったが―――片手で水面をタッチし、それで跳ねるように体勢を整え直し、回転しながら水面の上に着地した。

 

「ほぉぁ!?」

 

「全ては破れた世界的なパワーの応用なのよ」

 

 ドレスにコートという姿のままでその動きを成功させている上に、しかも一切濡れていないのだから改めてこいつ化け物だ、と認識する。自分でもどうしようもない存在だ。一応対抗策として伝説キラーのサザラを育成途中なのだが、まだまだ先は長そうに思える。そんな事を考えている間に、近づいて来たギラ子が質問して来る。

 

「あの塵芥が出来る事、オニキスちゃんなら出来るんじゃない?」

 

「できなくはないよ―――落ち着いた場所で一週間以上かかると思うけど」

 

「ん? どういう事?」

 

「ん―――」

 

 どう説明するかを考える。まぁ、別に隠すことでも何でもないし、この見た目だけは子供の怪物が、少しでも此方に興味を持って、恭順してくれる様になってくれれば儲けものだ。そう思って、自分とシジマ、そして大勢のトレーナーが行っている、ポケモンの育成という事に関しての話を始める。

 

「まず最初に説明するなら、人間の才能の容量ってのは多少変動しても、割り振れる量ってのが決まってるんだよ。簡単に分けると指示能力、育成能力、運動能力、そして特殊能力だ。各分野の代表を出すとすれば指示がボス、育成が緑色、運動がマチス少佐、そして特殊能力がナツメだ。それぞれの分野において、五段階評価で出来る評価の内、五段階目に達している人物達だ。マチスはマルマイン数匹の自爆喰らっても死なないしな」

 

「それは人間かどうか怪しくなってくる」

 

 偶にあのアメリカンっぽい軍人はポケモンか、ポケモンのハーフじゃないか疑いたくなってくるが、ポケモンと人間の間には子供が生まれない。それは確実な話だ。まぁ、だから避妊とか一切気にせずヒャッホー! とズコバコやっちゃう人がいるのだが。まぁ、今は本当に関係のない話だ。

 

「ともあれ、こんな風に大まかに人間の才能ってのはリソースとして振り分けられる―――だけどその中でもまたカテゴリー分けがされるんだよ。今回の話はこの育成能力のサブカテゴリーに関する話、って訳だ」

 

「ほうほう」

 

 ギラ子が海の上で体育座りで座り、此方の話に耳を傾ける。思いっきり違和感のある姿なので、誰か早くこの邪悪の本性を目撃してツッコミを入れて欲しい。この苦労を誰か是非とも共有して欲しい。ボス―――もしかして鬱陶しいからギラ子を押し付けたんじゃないだろうか。

 

「とりあえず、育成能力のサブカテゴリーは全部で三つ、”練度育成”、”能力開発”、”技術指導”の三つに大きく分けられる。練度育成ってのは極端な話、レベリングだ。どれだけポケモンを効率的に、そして早くレベルを上げられるかって能力だ。この能力の高いポケモンブリーダーは、たとえレベルが下の相手であろうと、多くの経験をポケモンに対して与える事ができる。これの代表者は緑色の奴だな。全トレーナーの中で最もレベリングに優れていると言っても良い」

 

 おそらく一週間も与えれば、十匹のポケモンをレベル100にする事が可能だろう。それがレベリングの頂点に立つという才能だ。単純にして明快な事、レベルが高ければ強い。そういう事だ。

 

 そして唯一、トレーナーでありながらレベルの限界突破が出来る可能性を保有している存在でもある。まだ一切の報告は存在していないが、遠い噂によればレベル100からレベル101へと上がる、かなり薄い手ごたえを感じている、そんな噂を聞いた。もし本当にあの緑色がそれを達成すれば、間違いなく歴史に残る偉業となるだろう。

 

「んで二つ目の能力開発が俺の得意なタイプだ。ポケモンが持っている才能を引き出す、ポケモンが覚えられない技を覚えさせる、教える、ポケモンが保有している才能という領域を理解し、そしてそのポケモンがその種族としてできること以上を出来る様に導くってタイプだ。もうお前は知っているだろうけど、シャドーダイブの原理を理解して、お前専用だったそれを皆に覚えさせたのが能力開発型の出来る事だ」

 

 まぁ、他に有名なのは”わざ教えマニア”とか、”わすれオヤジ”とか、この連中も能力開発型だったりする。”たくすねがい”や”てんのつるぎ”も自分が既存のわざとわざを合わせたり、その方向性を組み替える事によってポケモンの中で新たな形として生み出したのだ。他にも災花の復讐心、闘争高揚、そういうのを引き出したり、付与したりするのも能力開発型の特徴だ。

 

「んで最後に来るのが技術指導型だ。これはトレーナー、或いはブリーダー自身が自分の肉体等を通してポケモンに技術やスキルを教える事だ。あっちの半裸フェスティバルを見れば解るけど、タンバジムのシジマさんとその門下生達は基本的には技術指導型だし、そして運動能力に秀でているタイプだ。こういう連中は物理技に関する耐性をポケモンに教えられたり、物理技を回避するコツやその直感力を育成できたりする」

 

 つまり俺がシジマを真似してかくとう耐性をポケモンに仕込もうと殴り合っても、ほとんど経験が生まれない。それを伝える能力がないからだ。

 

「と、いう風に育成能力内のサブカテゴリー的に、俺はそういう類の才能ってもんがないのよ。まぁ、その代わりにお前に”あくうせつだん”とか”ときのほうこう”仕込んだり、他の連中にシャドーダイブ教えたり、一部のオリジナル技をわざマシンに登録させたりとか、そういうのを得意にしているんだよ。まぁ、多少は羨ましくなるんだけどな」

 

 ちなみにこの際言っておくが、技を教え、開発するという能力に関してはおそらく自分が世界最強ランクだという自負を持っている。他の誰もが自分の様に技を開発、そして伝える事は出来ないと思っている。緑色のが育成能力の練度育成が五段階の内五段階であれば、俺は育成能力の技術開発が五段階の内五段階になっている。ポケモンの育成という点においては、あっちに対して一方的なライバル心を抱いているつもりはある。

 

「ほー……色々と複雑なんだね」

 

「まぁな。俺は育成にほとんどの才能が、後は指示関係だったわ。身体能力は並で、特殊能力は一切存在しなかったよ。まぁ、特殊能力がなかったからこそこんなに育成上手なのかもしれないけどな」

 

 ほー、とギラ子は言葉を吐き、

 

「じゃあさ」

 

 と、邪悪な笑みを浮かべる。

 

「―――赤帽子って子はどういうタイプなの?」

 

 その言葉には苦い笑みを浮かべるしかない。

 

「そうだなぁ……」

 

 赤帽子、最強のトレーナー、

 

 彼を評価するとすれば、

 

「―――最強の凡人だよ、彼は」

 

 その言葉にギラ子は首をかしげるが、おそらく、それのみが赤帽子を表現する為の最も適切な言葉なのだ。彼ほど普通なトレーナーもいない。指示能力は高い程度、育成能力は並で、身体能力もちょっと高く、特殊な力もない。勇気、そして経験、それを力に心で前へと突き進んできた、不屈の凡人。

 

 戦うという事に対して最も適応してしまった、平凡的な能力のトレーナー、

 

 戦う者―――レッド。

 

 それが最強のトレーナーだ。




 オニキス君を五段階で表現するなら指示4、育成5、運動3、能力0というタイプ。まぁ、能力0の人間が割かし多い世の中ではあるんだけどね! 総合的な才能の容量で考えるとオニキスくん、結構秀才って感じのクラスかなぁ、と。

 タンバ海岸で君も唯一神を一緒に拷問だ!!

 でもそんな事よりも大半の人はきっと「お前手持ちとの関係どこまで行ってんだよ!!」って思っているんだろうなぁ

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