目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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48番道路

 タンバシティの付近には最近オープンしたばかりのサファリゾーンが存在する。47番道路、そして48番道路を抜けた先に存在するサファリゾーンは元々はカントーのセキチクシティに存在するサファリゾーンを再現したものであり、ジョウト固有の原生種達がのびのびと生活している。ルールはカントーと変わらず、500円でサファリボールを30個、ポケモンの使用禁止で利用できるという内容になっている。500円で捕り放題、これはサファリゾーン大赤字では? なんて考えもあるだろうが、サファリゾーンで使用するサファリボールはぶっちゃけた話、サファリゾーンで採取できる材料から作れる為に低コストだし、サファリゾーン自体が生態研究の為に利用されている為、スポンサーがそこそこ存在している。

 

 その上、ポケモンが捕まっても卵はバンバン生まれてくるので、特に面倒を見る必要もなく、維持コストだけを気にさえすれば費用に関してはそこまで問題なかったりする。だからと言ってぼろもうけではないらしいが。

 

 何故自分がこんな事を知っているかというと、セキチクシティのジムリーダー、キョウとはロケット団を通した知り合いで、同志であり、スポンサーの一人としてキョウもセキチクシティのサファリゾーンには支援をしていたのだ。それで一緒に酒を飲む機会があった時、そんな事をちょろっと聞いたのだ。

 

 ともあれ、タンバシティから47番道路へと向かうロケット団員の姿が見えた。その道の先に存在するのはサファリゾーンしか存在しない。必然的に、その団員の目的はサファリゾーンであると予想した。

 

「ナツメから話を聞いて数日しか経ってないのに、もうエンカウントか」

 

 誰にも聞こえない様に、小さくそう呟きながら、追跡を行っていた。モビー・ディック以外のポケモンは全てボールの中、ギラ子も追跡の妨げになる為、一旦姿を消して貰っている―――なんてことはない。此方以上の隠密能力と消音で真横を歩いている。腹立たしい話だが、この見た目だけロリは此方よりもあらゆる分野で上回っているらしく、自分以上に隠密が上手い。ポケモンのクセに。

 

 ともあれ、そうやってこっそりひっそり、十数メートル先にいるロケット団員の姿を追跡していた。

 

 ぶっちゃけてしまえば―――今も自分はロケット団だ。と言っても立場的には割と微妙な物であって、完全な団員ではなく、やはり正しく言えばボスの弟子、或いは付き人という言葉がしっくりくる。何せ、ロケット団の悪事に関して、自分はほとんど加担してはいなかった。やっていたのはボスから繰り出される課題をクリアーする事、ポケモンに関する知識を増やす事、トレーナーとしての修業を重ねる事、そして自分が持っている伝説や三鳥、特性等の知識だった。リアルから見ると魔境と化しているポケモンバトルの環境だったが、それでもその状況を一変させる様な知識は多くあった。

 

 それをボスに語り、教える対価として弟子にして貰っていたと言っていい。

 

 ある意味では、唯一のトキワジムのジムトレーナー、という存在だったかもしれない。

 

 カントーのトキワの森でボスに救われて、そして弟子入りしてから、それからほとんどの時間はボスと一緒に活動していた為、自然と団員には顔が割れている。だからロケット団、団員に接触すれば普通に”お、オニキスじゃねーか!”という感じに声をかけられる可能性はかなり高い。ただ、同時に自分がボスと共に他の地方へと旅立った、という話はあまりにも有名だ。その為、ボスに対して犯行を企てているような連中であれば、即座に襲い掛かってくる可能性がある。

 

 現在、ボスは別の地方で武者修行をしている。あの赤帽子を倒すまでは、ボスは再びロケット団として活動する気はないだろう。少なくとも、それがボスの悪としての誇り、敗者の矜持だ。故にロケット団は最低限の活動、ロケット・コンツェルンの維持を除けばその悪行を止めているべきなのだが、ジョウトに流れ込んでいる。

 

 つまり、ボスのいいつけを破っている馬鹿がいるという事だ。これは許しがたい。

 

 そういう事から、音と気配を殺し、尾行を続ける。47番道路に入った団員はそのまま尾行とかに一切気にする事無く道路を駆け抜けて行き、草むらを抜けて48番道路へと向かう。48番道路の奥にはサファリゾーンへと繋がるサファリゲートが見える。が、そこでサファリゲートへと入る事はなく、横の崖をゴルバットを使って降りて行く姿が見える。

 

 完全に崖の下に消えたのを確認してから、ポケットから鏡を取り出し、その反射で崖の下の様子を確認する。

 

 ゴルバットに運ばれる団員はそのままゆっくりと降下すると、崖の途中にある窪みの中へと入り込んで行くのが見える。それを数秒間、そのまま確認し、鏡をポケットの中へと戻す。

 

「”ひみつのちから”辺りでここらの岩盤にアジトでも作ったか? まぁいい、調べるのが優先だな。この場合は―――」

 

「んふふふふ」

 

 ボールに手を伸ばそうとすると、横から気持ちの悪い笑い声が聞こえる。

 

「いいんだよ? 私を頼ってもいいんだよ? 位相をズラして認識しなくなるのも、時をズラしていない時間に入るのもできるよ? オニキスちゃんが望めばなぁーんでもやってあげるよぉ? あ、後パルキアとディアルガは死ね」

 

「ボックスに帰ってください」

 

「その願いは私の力を超えている」

 

 クソが、と毒づきながらギラ子から視線を外し、腰から月光の入ったボールを取る。横へと向かって開閉ボタンを押し、割った卵の様にボールを開き、そして閉める。基本的なスキルではあるが、ポケモンを場に出す時、隙はなるべく少なくしておきたい。投擲するスタイルが一般的だが、自分の様にクイックアクション、或いはサイレントアクションを行いたい時は、こういう地味な出し方が人気だったりする。

 

「にんにん」

 

 出現した蒼いくノ一は片手で印を結ぶポーズを決める。その姿に軽く苦笑しつつ、崖の下へと指を向ける。

 

「あいあい、親方様の言っている事は解っているで御座るよ。ちょっくらスニーキングミッションをして来るで御座るよ」

 

 ショルダーバッグから取り出した無線機を片方、月光へと投げ渡す。双方のスイッチがついた状態で受け取ったそれを月光は胸の間にしまうと、溶ける様に姿を消す。視線を崖の下へと向ければ、僅かな空間の揺らぎが月光の軌跡を教えてくれている。ただそれも、数秒後には窪みの中へと消える事で見えなくなる。さてさて、どうなるかな、と思いつつ無線機の向こう側から聞こえてくる音に耳を傾け、集中する。

 

 数分間、聞こえてくるのは布の擦れる様な音だが、最初は小さく、そして次第にクリアになって行く人の声が聞こえる。

 

『―――で―――ゾーンで暴―――援―――よ』

 

『馬鹿―――やったら怒ら―――じゃねぇか。それよりも―――』

 

『とりあえずだ―――は替えを欲しがって―――ではポケモンが捕まえ放題だ。幸い、サファリの職員はそう多くはない。俺達のポケモンなら十分に制圧して、強奪する事は―――。まぁ、上納金もあるし、仕方がない。さっさと―――』

 

 話の内容は断片的だが、ほぼ確実にサファリゾーンへと攻め入り、ポケモンを強奪して売るという内容だ。完全にアウト。もしボスが活動再開を命令したのであれば、誰よりも最初にチャンネルを持っている自分へと持ってくる筈だ。こんなどう見ても下っ端の連中が自分を出し抜くのはありえない。少なくともそれだけの信頼はあると確信している。

 

 即ち、

 

「ギルティ」

 

『了解、殲滅と捕縛に入るで御座る』

 

『ん? 何だ今の声―――おい急に暗くうぁぁぁ―――』

 

『な、何だお前あぁぁぁぁ―――』

 

 無線機の向こう側から悲鳴が聞こえてくる。銃声、ポケモンの咆哮、そして斬撃と打撃の音。奇襲という状態から月光が敗北するビジョンが一切見えない。崖を超え、その斜面を滑り落ちながら下まで一気に下がり、窪みの所で軽いアクロバットを取る様に中へと入り込む。予想通り、”ひみつのちから”で押し広げられた空間らしく、件の技で広げられた証拠として整えられていない岩肌、そして大地が見える。ただ結構拡張だけはしてあるようで、結構な広さをアジトは保有している。

 

 その奥へと入り込んで行くと、凄惨な現場が広がっている。

 

 まず押しつぶされたように死んでいる人間の姿が三つ、亜人種のゴルバット、アーボックとヘルガーも纏めて胴体が両断されて、血溜まりを作りながら沈黙している。そこから視線を外して横へと目を動かせば、壁に背を押し付ける様に立たされている団員の姿が五人ほど見える。その横には”みずしゅりけん”を指の間に細かく挟み、何時でも殺せるように構えている月光の姿がある。怯える様に震えている団員が此方へと視線を向け、そして息を飲む。

 

「お前……オニキス!」

 

「よう、久しぶり―――つっても俺はお前らの顔を覚えてないんだけどな。っつー事はマジでコスプレじゃなくてウチん所の下っ端か。で、状況は解ってんだろ? 俺がどういう奴かも解ってんだろ? んで、俺が欲しい答えってのも解ってるよな、勿論」

 

 此方の傲慢な物言いに、誰も喋らない。驚いている―――というよりは恐怖を感じているのだろう。実際、ロケット団の中でボス直々に薫陶を受けた奴なんて存在しない。戦いを教えて貰ったのは俺ぐらいだ。そしてボスの戦い方とは―――ロケット団の戦い方だ。

 

 堂々と王道に悪事を行い、手段を選ばずに目的を達成する。

 

 蹂躙、蹂躙あるのみ。

 

「はーい、一人目ー」

 

「にんにん」

 

 みずしゅりけんが月光に一番近かった一人の首に突き刺さり、即死させる。力なく倒れる死体を見た一人が、その場で失禁しながら失神し、倒れる。運悪く気絶できなかった団員は更に体を震わせながら、怯えた様な視線を向け、唇を震わせる。が、次の瞬間には口を開き、吐きだす様に言葉を放ってくる。

 

「ま、ままま、待て、オニキス、待つんだ。俺達は何もしていない。まだ何もしていないんだ! 命令を与えた奴はカーツとシャムって仮面を被っている連中で、その上に仮面の男(マスク・オブ・アイス)って名乗る奴がいる! こいつが新首領を名乗って、仲間を一気に引き抜いているんだよ! なぁ、頼むよ、もう二度と裏切らねぇからよ!」

 

 欲しかった情報が一気にやってくる。ここで心か脳内を読む事の出来るポケモンがいれば、非常に楽だったのだが、生憎と今の面子ではそんな事も出来ない。悲しい事に確認は出来ないのだ。さて、ボスならこの状況どうしただろうか―――まぁ、カリスマにものを言わせて殺さずに状況を自分の理想の方向へと持っていくだろう。

 

 だが生憎、オニキスと名乗る男に運命力は存在しない。

 

 バトル中に都合よく進化する事はない。

 

 眠ったポケモンがタイミングよく起きる事はない。

 

 良いタイミングで助っ人が来るような事はない。

 

 赤帽子やボス、緑色のツンツンヘアー等のトレーナー達は、天運とも呼べるものを持っている、だからこそ選べる選択肢が存在する。だが生憎とオニキスにはない。自分にはそんなものは存在しない。だから、常に確実性のある選択肢を選ばないといけない。

 

「悪いな、裏切り者は信じられないんだわ」

 

「ひ―――」

 

 死刑を執行する月光から視線を背け、ポケギアで連絡を入れる。リストの中にはナツメやキョウ、信用できる身内の名前が載っている。その中からおそらく、現在は一番自由に動く事の出来る男へと電話を入れる。

 

 数秒間、コールが繋がるのを後ろから悲鳴を聞きつつ待ち、

 

『はい、もしもし此方マチス』

 

「お前その顔とガタイで真面目に”はい、もしもし此方マチス”ってマジかよ」

 

『お前は今どこに泊まってるんだ? マルマインのプレゼントしてやるよ! 最近だいばくはつ特化型マルマインの育成に成功して、テストで三階建ての家を跡形も残さず消し去る事に成功したぞ! お前を第一犠牲者にしてやるから待ってろよ』

 

「お前なんでそんなに煽り耐性低いの? まぁ、それはそれとして、こっちでの動きを軽く掴んだから、仮面の男(マスク・オブ・アイス)とかいう自殺志願者に関してちょっと調査宜しく」

 

『キョウにでも―――ってアイツは四天王か。まぁナツメにはこっちから連絡を入れておく。あんまり派手にやりすぎるなよ』

 

「ういうい、じゃあな少佐」

 

 ポケギアの通話を切り、背後へと視線を向ける。仕事を終えた月光が血を洗い流しながら寄ってくるので、それをボールの中へと戻し、出口へと向かう。ここ、軽く潰しておいた方が良いだろうなぁ、と思いながらボールから蛮を出し、その背中の突起物に片足を乗せる。

 

 崖に出たところで、蛮が崖に手をかけ、

 

「ロッククライム」

 

 一瞬で崖を駆け上がる。蛮の背中から降りつつ、じしんで下の秘密基地の崩落を指示し、軽く体を捻る。

 

「―――うっし、暇潰しにはなったな。そろそろジムにジムリーダーが戻ってりゃあいいんだけど」

 

『……ホウオウよ、私はもしかしてとんでもないトレーナーに捕まったかもしれない……』

 

「私の様なのに好かれている時点でお察しの事だよ唯一神ちゃん」

 

『!?』

 

 ボールの中から聞こえる唯一神の悲鳴を受け流しつつ、軽くジョウト地方で始まる大きな異変、その片鱗を目撃できたことに満足し、

 

 とっととこのド田舎から去る為にジムへと再び向かう。




 ロケットダイーン!(二重の意味で

 腐ってもロケット団。初代時点で既に割とポケ殺しや人殺ししてたよねぇ、ポケモンは。割とカラカラのお母さんのイベントとか印象深かったなぁ。

 なんでガラガラの幽霊ピッピ人形で成仏してまうん。

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