「いやいや、かなり強く育てているみたいだね、ポケモン。僕も結構育成に関しては自信を持っていたんだけど、その攻撃力と耐久力には驚かされたよ。まぁ、二軍で戦ったから負けるのは当たり前と言ってしまえば当たり前かもしれないんだけど」
「いやいや、あの先発に出したゲンガーのくろまなのろい、アレマジで厄介でしたわ。序盤の流れは完全に掴んでましたって。アレ、徹底的に序盤で流れを作る為に育成した絡め手タイプのゲンガーですよね? 体力と防御力関係が他のゲンガーよりも結構高く感じましたわ」
「うん、基本的にはゲンガーで起点を作って、ヤミラミで徹底的に崩して、そして追いつめられそうになったらムウマージに交代、そこでペースを崩していたずらごこころを持ったヤミラミで再び掻き乱す、という感じの構成なんだ。基本的にバッジを四つしか取得していないトレーナーだと搦め手で戦わずに、ごり押しで勝ち進んできた人も多いからね。僕はエンジュジムを預かる上で他のトレーナーの見本として、徹底的に持続ダメージを利用した絡め手で戦うって事にしているんだ。まぁ、おかげで嫌われやすいんだけど……」
「ノーマル、エスパー、かくとうって一番使う系統のタイプのわざ通じませんからね。その上でみがわりやまもる、のろいにさいみんじゅつとかガンガン使えばそりゃあ嫌われますよ。誰だってキレますよ。結局の所マジックガードかマジックミラーを持って来るぐらいしないとペースを崩す事できませんし。いや、まぁ、速度で上回れば上からたたく事も出来るんでしょうけど、それだけじゃどうにもならないって事を教える為のヤミラミなんでしょうが」
「うん。まぁ、慣れた人達は漸くカゴのみとかオボンのみを持たせる事の大切さを学んでくれるんだけどね。こうでもしないとひたすら脳筋プレイを進めるトレーナーが多くて……」
そうやって和やかにエンジュジムのジムリーダー、マツバと談笑している。場所はエンジュジムから大きく変わり、エンジュシティ内部の茶店になっている。ジム戦が終わってバッジとわざマシンをマツバから受け取ると、バトルに使ったポケモンや戦術が面白い、という事からマツバ行きつけの茶店へと招待された。相手の奢りらしく、なら遠慮する必要もない。事実、茶店の出してくるみたらし団子は絶品であり、そして数年間食べる事もなかったものである故に、感動さえ覚える事ができた。
横で勝手に三皿ぐらいお代わりしている金髪ぼさぼさロリに関しては、たぶん奢りの範疇外なので、此方が払わなきゃいけないんだろうなぁ―――。
ともあれ、マツバとこうやってバトル後の軽い談笑のタイムに突入しているが、やはり面白い。というのも、やはりジムリーダーは若くても色んな事に精通している。基本的にタイプ統一型パーティーであるジムリーダーは、そのタイプに対する知識が深いだけではなく、その弱点に対応する為に、弱点となるタイプに対しても深い理解を持っている。
たとえば、マツバのエンジュジムはゴーストタイプのジムだ。
ゴーストタイプの弱点はあくタイプが一番有名で、効果的だ。
「まぁ、今回はウチのアブソルで強引に突破させてもらいましたけど、やっぱ一軍には……?」
「うん、メインパーティーの皆には対悪技の訓練を受けさせているよ。相性的に突き刺さるのを訓練である程度緩和させる事ができるなら、それで結構儲けものだしね。後はサブウェポンもある程度悪メタを想定して用意もしているね……まぁ、一番は戦術でガッチリとハメる事なんだけどね。どうせ僕はポケモンリーグに出場しないから言っちゃうけど、メインのゲンガーには”ひでり”や”すなおこし”の様に、場に出るのと同時に”のろい”が発動する様に鍛えてある。あとはアレだね、”ほろびのうた”の改造とかもちょっと頑張ってるよ。死のカウントダウンを相手側にのみ発生させるとか、割とプレッシャーがかけられて楽しいよ?」
「うわぁ……」
マツバのスタメンのガチっぷりにドン引きする。開幕のろいでまず捨て駒じゃない限り、絶対に相手に交代に対するプレッシャーを与える事ができる。その上その改造、或いは改良されたほろびのうたを決める事ができれば、これもまた相手に対するプレッシャーになる。
「ここにまきびしやステルスロックを混ぜて、まもるやねむカゴやってりゃあガリガリ削れますね」
「うん、それにいたずらごころのヤミラミもいるからね、そのまま居座るつもりだったらくろいまなざしからほろびのうた、さいみんじゅつって詰みに持って行けるからね。だから僕のポケモン達ははがねやいわタイプ並の体力と耐久力を目指して育成しているよ。ぶっちゃけ、ジョウトジムリーダーズで、3vs3シングルという環境だったら誰にも負けない自信はあるね」
3vs3シングルと6vs6シングルは環境が大きく変わってくる。3vs3は6vs6でいう”中盤戦”で終了するのだ。この場合、速攻火力型が有利に見えて―――そうでもない。耐久搦め手タイプが序盤から全リソースを打ち込んで相手をハメにいける、終盤戦の事を考慮しなくて良いから最初にポケモンを一匹使い潰す事が終盤戦で追い込まれる原因になったりしないのだ。3vs3だと最後の一人に追い込まれてからの3タテ、という状況も決して珍しくはないのだ。
「まぁ、今回は君のアブソルに完全に完敗だったけどね……やっぱりあくタイプ技は怖いよ。これがカントーだったらあくタイプの少ない環境だからゴースト対策だけで楽なんだけどなぁ……」
「まぁ、ウチのアブソルも結構な猛者っつーか、リーグ戦で戦う事を前提に育成してますからなぁ。最低で”復讐心”と”撃破高揚”がなけりゃあ紙装甲の速攻火力アタッカーとしては運用できませんわ。火力で後れを取ると一撃で落とされる可能性が高い子なんで、基本が”無被弾前提”の子ですわ」
復讐心というのは仲間の敗北、或いは負けた事に対して奮起し、能力を上昇させる資質。撃破高揚はその条件が相手を倒した場合、という指定になるだけだ。この二つは割と有名で、人気な資質でもある。特性とはまた別、ポケモンの性格や才能とリンクする様な部分だ。
ポケモンは本当に面白い。ゲームだとデータしかないが、リアルになると違う。
キレれば能力が上がる、怯えれば能力が下がる。当たり前だ、生き物なのだから。
それを資質として、あるいは”第二の特性”、”第三の特性”として育て、固定し、形にする。
育成力の高いトレーナーはそれが出来る。
「またピーキーなポケモンを育てているねぇ……アブソルと言えば確かホウエン地方のポケモンだっけ?」
「主な分布は、ですね。というかホウエン以外ではめっきり見ないんですよね、アブソル」
まぁ、アブソルがホウエン地方に生息している理由は大体解る。災害を知らせるポケモン、アブソル。その本当の使命は、グラードンとカイオーガが目覚めた場合、その先ぶれとして人々に脅威を伝える事だと個人的には思っている。まぁ、あくまでも憶測で、伝説の事を知っているから考えられる事なのだが。まぁ、それを抜きにして、我がアブソルは災害センサー、或いは”悪意センサー”として物凄い有能な能力を持っている。
「いいなぁ、他の地方のポケモンを自由に捕まえに行けるのは。オフシーズンじゃないと休みが取れない上に、それで旅行が出来るかどうかはまた別の話だからね。ジムリーダーになった事には後悔がないけど、君の黒いキュウコンとか、アブソルを見ていると自由な身分が羨ましくなってくるよ」
「いや、こっちもずっと旅をしている様なもんなので、安定した環境とトレーニング施設でポケモンを育てられる事に関してはホント羨ましいですわ。安定した環境がないとどうしてもバトルじゃないと
「隣の芝は青い、ってやつだね」
マツバのその言葉に軽く笑う。普通に楽しい。久しくポケモンについて、心から語り合う事の出来る相手はいなかった。自分の周囲の人間というか、知っている人間は大体年上か、簡単に連絡の出来ない相手ばかりだ。まずロケット団繋がりでキョウとマチスは年上、ナツメに関してはツンツンすぎて話す気になれない、どっかの残念美人チャンピオンに関しては論外と評価し、赤帽子は魂の底からポケモン狂いな上に引きこもり、緑の人はなんか全体的に存在感が苦手。あのヘアースタイルカッコいいとか思ってるなら相当恥ずかしい。まぁ、赤帽子と緑の人に関しては完全に年下なのだがアレ。
あと残念美人のトゲキッスだけは絶対に許さない。絶対にだ。
ガブリアスはフライゴンで抹殺に成功したのでどうでもいいがトゲキッスだけは許されない。
ガチとか害悪とかそんな領域じゃない。許されないと言ったら許されない。滅べトゲキッスめ。
「顔が強張ってるけど……?」
「あ、いや、昔戦ったガチパを思い出してただけです」
「あぁ、いるよね、偶に。物凄いガチパ。僕も対戦してきた相手でゴーストタイプに通じる上に反動のないはかいこうせんを放ってくるカイリューと戦った事があるよ。あの日は真面目に死を覚悟したよ」
「それってもしかしなくてもワで始まってルで終わる名前の人じゃありませんかねぇ……」
「最近、りゅうせいぐんの改良を行っているらしいよ。そろそろ天候でりゅうせいぐんとか編み出しても驚かない」
「もう全部あの人でいいんじゃないかなぁ」
服装のセンスが壊滅的なドラゴン使いを思い出す。はかいこうせんを捻じ曲げて自由にコントロールしたり、初見のドラゴンポケモンを屈服させたり、マグマの中に飛び込んでも無事生還したりと、激しく意味の解らないインフレを起こしているドラゴン使い。強い、強いのだ。確かに強いのだ。ただし服装のセンスが死滅している。あの年齢でマントはマジないと思う。まぁ、既に世の中には無反動りゅうせいぐんというものがあるのだ、カントー最強の四天王、いや、現チャンピオンはきっと、今日もあのセンスの欠片も感じられない服装で頑張っているだろう。
というか、何故チャンピオンにはこう、残念な人間が多いのだろうか。
石フェチとか。
アイス狂いの残念美人とか。
ファッションセンスだけは来世に期待したいドラゴンマスターとか。
あと筋肉。
まぁ、やはり天才となんとやらは紙一重、という事なのだろう。正気のままでは強くなれない、どっかぶっ飛んでなきゃ強くなれない。そういう事なのだろうと思って、納得しておく。ともあれ、みたらし団子とお茶を飲み終わってしまった。結構マツバと話し込んでしまったが、久しぶりにポケモンや共通の話題に関して充実した話し合いができた。横でずっと黙々とみたらし団子を食べ続けていたギラ子の分だけは自分で支払い、そのほかはマツバに奢ってもらう。
立ち上がりながら、マツバと握手を交わす。
「いや、実に充実した時間を過ごせました。楽しかったです」
「いやいや、此方こそ。これからチョウジかコガネジムかな? まぁ、どちらにしろ君の実力なら間違いなく一気に残りのバッジも取れるだろう。今年のポケモンリーグにはジムリーダー枠があるかどうかは解らないけど、もしあったとしたらポケモンリーグで会おう」
「開幕くろまなのろいは止めてください」
マツバとほぼ同時に吹き出しながら、ショルダーバッグに手を伸ばし、わざマシンケースから一枚のディスクを取り出し、それをマツバへと差し出す。
「ウチのキュウコン、デルタ因子でデルタ種化した特異個体なんですよ。元がひでりロコンの。おかげで本来はにほんばれが発動する筈のひでりが悪のデルタ因子で夜を展開する様になったんですよ。自分はこの特性を”よぞら”って呼んでいるんですけど、これをわざマシンで抽出して、ポケモンに習得できるわざにしました。”よるのとばり”ってわざマシンで、夜の間はゴーストとあくタイプの威力が上昇、ゴーストダイブはタメなしで打てる様になります。たぶん、ジムリーダーの中でマツバさんなら一番使いこなせると思うので、どうぞ」
それをマツバは受け取ると、少し困ったような、しかし恥ずかしそうな顔を浮かべる。
「ありが―――」
「―――あ、ただしなんか発見とかコンボ見つけたら即連絡で。これポケギアの番号なんで」
「だと思ったよ……」
軽い笑いを残しながら、そこでマツバと別れて茶店から離れる。マツバはそのままジムへと戻るらしく、直ぐに視界から消えてしまった。満足げな表情のギラ子を連れて、エンジュシティの外へと向かって歩き出す。このあと直接タンバシティへと唯一神に乗って移動する予定だが、流石に街中で唯一神を出すだけの勇気はない。
まぁ、充実した時間だった。しかし気になる事はある。
「ギラ子、お前終始静かだったけどなんで?」
「オニマツ……マツオニ……」
「腐った考えは止めなさい。……止めてください」
声を震わせながらそういうと、冗談だ、と笑いながらギラ子が言う。
「私だって空気ぐらい読める」
「嘘だ……!」
「まぁ、正直に言うと知らない人間に対して興味はないどうでも良かっただけ」
「あ、はい」
そういえばギラ子、基本的になんであれ、接するのは自分と、自分の手持ちと、そしてボスとボスの手持ちだけだ。それ以外の存在に対してはまるで存在していないかのように、最低限の認識と接触しか行わない。或いはそれは自分と戦い、勝利した人間と、それ以外の有象無象の区別なのかもしれない。改めてこの姿だけなら幼女の怪物の精神構造が全く人間とは違う事を認識し、
同時にその事実が激しくどうでも良い事を理解し、
手を繋ぎながらエンジュの外を目指す。
「さて、タンバに行くか」
「タンバでどうするの?」
「ジム戦と育成かなぁ」
「スタメンの?」
「いや、唯一神に水耐性つけたいから―――とりあえずタンバ近海に沈める。それでルギア釣れたら楽しくね。ルギア一本釣り!! な感じで」
『!?』
ボールの中から響いてくる唯一神の全力の抗議を無視する。軽く笑い声を漏らしつつ、
タンバシティへと向かって、旅を再開する。
トップ環境は魔境です(震え声
というわけで軽くコミュりつつ次はタンバへ。唯一神というフレアドライブ非搭載型の乗り物を手に入れたのででっていうの如く海へ乗り捨ててタンバへ。
唯一神は犠牲になったのだ、犠牲(オニキス)の犠牲にな……。