キテレツ大百科 ハルケギニア旅行記   作:月に吠えるもの

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♪ お料理行進曲(間奏)


コロ助「五月ちゃんが見つかったナリ。無事で良かったナリね!」

キテレツ「魔法学院の人達にお世話になっていたみたいだし、ちゃんとお礼を言わないとね」

コロ助「何か、あのツンツルテンのおじさんも魔法使いのお爺さんも、キテレツの発明にすごい興味があるみたいナリ」

キテレツ「コルベール先生も僕と同じ発明家なんだよ。気が合いそうだ」

キテレツ「次回、カツ丼の再会! やっと会えたね五月ちゃん」

コロ助「絶対見るナリよ♪」



カツ丼の再会! やっと会えたね五月ちゃん

「シルフィード! きゅい! 素敵な名前! きゅい、きゅい!」

 

赤く焼けた夕日の空を進む風韻竜・イルククゥは喜びの声を上げていました。

主人であるタバサがイルククゥに、使い魔としての名前をつけてあげたのです。シルフィードには『風の精霊』という意味があります。

 

「ねえねえ、タバサさま! タバサさまのこと、お姉さまって呼んでいいかしら? きゅい!」

 

自分に名前をつけてくれたタバサにイルククゥもとい、シルフィードは嬉しそうに尋ねます。

すると、タバサは無言のままこくりと頷きました。

シルフィードがさらに嬉しそうにしている中、タバサはちらりと横を振り返ります。

 

「これが異世界の空か! すごい石鹸だな!」

「絶景でしょ?」

「でも、こんなに良い景色なんて日本じゃ見られないわ!」

 

シルフィードと並んで飛んでいるキント雲の上ではキテレツ達一行がはしゃいでいます。

タバサは無表情ながらも好奇の眼差しをキテレツ達に向けていました。

 

(あれが、サツキの友達……)

 

五月が迎えに来てくれると言っていたという友達がどんな相手なのかタバサも少しは想像していたのですが、そのずっと斜め上を行っていたことに驚きます。

まさかあんなマジックアイテムを使って空を飛べるような、不思議な存在だったのですから。

風竜並の速さで空を飛ぶあの雲はもちろんですが、自分の杖や人間の大きさを変えてしまうマジックアイテムなどタバサも見たことがありません。

 

(一体、何者……)

 

キテレツ達がただの平民ではないという事実にタバサの興味は強くなりました。

マジックアイテムは恐らくあれだけではないのでしょう。さっきキテレツが開けていたケースの中には様々な道具が入っていたのをタバサはちらりと見ていました。

 

(あの子がマジックアイテムを?)

 

タバサの好奇の目はキント雲を操縦するキテレツへと向けられます。

マジックアイテムは見た所、全てキテレツの所有しているもののようです。ということは、作ったのもキテレツなのではと考えます。

魔法の使えない平民がそのような代物を作ることができることに、タバサの関心はますます強くなるばかりでした。

 

「きゅい! お姉さま、お姉さま、そろそろ学院に着くのねー」

 

シルフィードが声を上げると、トリステイン魔法学院が見えてきます。

タバサが命じるとシルフィードは滑空を始めます。キテレツのキント雲もそれに合わせて付いてきました。

 

 

 

 

夕日の空の下、魔法学院へと続く街道を二頭の馬が走っていました。

 

「サイフはちゃんと持ってるでしょうね?」

「大丈夫。しっかりカバンに入ってるから」

 

ルイズと一緒に乗馬をこなす五月は肩に下げているルイズから渡されていたカバンをさすります。

 

「まったく……あんな所でスリに遭うなんて思っても見なかったわ」

 

手綱を握るルイズは顔を顰めていました。そして、数時間前のことを思い起こします。

今日の午後は二年生の授業はありませんでした。生徒達が使い魔とのスキンシップのために自由時間が設けられたのです。

五月と正式に使い魔の契約を結んでいないルイズは、半ば従者である五月を連れてトリスタニアの街へ買い物に行きました。

ところが、買い物をしている最中にスリに遭ったのです。五月はルイズから預かっていたサイフを盗まれそうになりました。

 

「でも、ちゃんと追い払ってあげたでしょう?」

「あんた……ずいぶんと腕っ節が強いのね。あんな奴を投げ飛ばすなんて……」

 

ルイズは五月を怪訝そうに見つめます。

スリをしようとした小男でしたが、五月はサイフを取られそうになった瞬間にスリの腕を掴んだのです。

しかし、スリは一人ではありませんでした。スリが失敗すると、仲間のいかにも悪そうな男が現れたのです。

公衆の面前で力ずくで強盗をしようとした男は二人に襲い掛かりましたが、五月は殴りかかってきた男の攻撃を避け、その勢いを利用して投げ飛ばしてしまったのです。

 

それでも強盗は五月に向かってきて、ナイフまでも取り出す始末でしたが、五月は何度も何度もかわしては投げ飛ばしていました。

最後には威勢の良い掛け声で一本背負いを決めたほどです。周囲の野次馬達からは拍手喝采が上がっていました。

その後、駆けつけた警邏の兵に強盗とスリは連行されていったのです。

 

あの光景は今もルイズの脳裏に焼きついていました。

大の男をまだ子供の五月が簡単に投げ飛ばしただなんて、信じられません。

 

「サツキ。あんたの友達って……本当に迎えに来るの? あんたの友達だって、平民なんでしょう?」

「うん。でもキテレツ君の発明品なら、きっとここにもすぐに来られるよ」

「何なのよ、そのキテレツっていうのは?」

 

五月はそのキテレツという人物のことをかなり信頼しているようで、ルイズも首を傾げます。

 

「キテレツ君は色々と便利な発明品を作って、色々なトラブルを解決してきたの。わたしも、キテレツ君にはお世話になってたわ」

「……何よ。平民が作るものなんて、銃とかそんな程度のものでしょう。あんな鉛玉を飛ばせるから何だっていうの」

「そんな物騒なものじゃないよ」

 

ルイズはツンと澄ましてそっぽを向きます。魔法の使えない平民に何ができるのかと、五月の話を頭から信じていませんでした。

 

「でも、ルイズちゃんもキテレツ君の発明品を見たらきっとビックリするよ。本当にキテレツ君の発明は魔法みたいなものなんだから」

「はあ? 平民が魔法を使えるわけないじゃない。……それよりもいい加減にご主人様って呼びなさい。あんたは使い魔じゃなくても、あたしの世話になっている間は従者なんだからね」

 

澄ました態度を取るルイズに五月は苦笑しました。

そんな中、二人の頭上を何かが通り過ぎていくのが見えました。

 

「あれは……」

 

見上げてみれば数百メートル上空を、二つの影が飛んでいます。どうやら魔法学院の方へ向かっているようでした。

大きな翼を広げて滑空する一つは、どうやら竜のようでした。

 

「タバサの風竜じゃない。そういえばお昼の前から姿が無かったみたいだけど」

「……あ!」

 

五月は風竜と並んで飛んでいるものをじっと眺めていると、突然驚いたように目を見開きます。

そして、手綱で馬を叩くとルイズよりも先に馬を全速力で走らせだします。

 

「ちょっと、何勝手にご主人様より先に走ってるのよ! 待ちなさい!」

 

ルイズも慌てて馬の速度を上げて五月の後を追いました。

 

 

 

 

魔法学院の庭にシルフィードが降下すると、キテレツ達の乗るキント雲も並んで着陸していきます。

 

「何だ、何だ!」

「ミス・タバサと一緒に変なのも来たぞ!」

「あの雲に乗ってきたのか?」

「あれは平民か?」

 

庭にいた生徒達が次々と集まってきます。全員、キテレツのキント雲を見て驚いていました。

 

「ここで待ってて」

 

シルフィードを降りたタバサがキテレツ達にそう告げ、魔法学院の本塔の中へと入っていきます。

 

「本当にここに五月ちゃんがいるのかなぁ……」

「あたし、あの子が嘘をついているとは思わないわ」

「そうナリよ」

「信じようよ」

 

不安な様子のトンガリを、キテレツ達はなだめます。

 

「しかし、ここにいる奴らはみんなマント着たりして、変な所だなぁ」

 

ブタゴリラはリュックの中からバナナを一本取り出して食べ始めます。

 

「みんなあのタバサちゃんと同じマントを着けているナリね」

「それじゃあ、ここにいる人達はみんな魔法使いなの?」

「きっとそうよ」

 

キント雲に乗ったままの五人は次々と集まってくる生徒達に戸惑いだします。

生徒達はキント雲を興味深そうに見つめては触ったりしていました。生き物なのか、マジックアイテムなのか、乗っているのは平民だ、と様々な話し声が聞こえてきます。

 

「こらこら! 君達、そこで何をしているのかね!」

 

そこへ、庭の一角で生徒達が集まっている光景に目が付いたコルベールがやってきました。

 

「コルベール先生! この平民達がいきなり……」

「んん?」

 

コルベールは人ごみを掻き分けていき、キント雲に乗ったキテレツ達と相対します。

 

「おや? 君達は……この学院の者ではないようだが。ここは関係者以外、立ち入り禁止ですぞ」

「すいません。僕達、タバサちゃんに連れられてここまで来たんです」

「ミス・タバサに?」

 

キント雲を降りて答えるキテレツにコルベールは目を丸くしました。

タバサが連れてきたというだけでも驚きですが、何よりキテレツ達の格好がハルケギニアの平民とはあまりにも異なっています。

 

「ワガハイ達、五月ちゃんに会いに来たナリよ」

 

そして何より気になったのは、明らかに人間ではないコロ助の存在でした。

眼鏡を手でかけ直し、しゃがみ込んでコロ助の顔をじっと見つめます。

 

「君は……人間……かね? いや……これは、ガーゴイル?」

「何するナリか。ツンツルテンのおじさん。ワガハイはがーごいる、じゃなくてコロ助ナリよ!」

 

ポンポン、とコロ助の頭をつつくコルベールにコロ助は叫びだします。

ツンツルテンと言われて、コルベールは微妙な顔をしました。

 

「タバサちゃんにここに五月ちゃんがいるって教えられて来たんです」

「サツキ? 君達は……サツキ君の言っていた、友達とやらかね?」

「はい。僕、キテレツと言います」

 

キテレツに五月の名前を持ち出されてコルベールはさらに驚きました。そして、五月が言っていたキテレツの名を名乗ったことで確信へと変わります。

 

「いやいや……迎えが来ると彼女が言っていたのだが……まさか本当に、こんなに早く来るとは……」

 

後頭部を掻いて参ったような顔でキテレツ達を見回しました。

 

「やっぱり、ここに五月ちゃんがいるのね!」

「ねえ、おじさん! 五月ちゃんはどこにいるの!? 会わせてよ~!」

「こらこら、落ち着きなさい」

 

トンガリに縋りつかれるコルベールですが、教師らしく落ち着いた態度でなだめます。

 

「君達、ミス・ヴァリエールはまだ戻らないのかね?」

「さあ? ゼロのルイズがどこに行ったかなんて知りませんよ」

「あいつ、午後の自由時間に召喚した平民と外に出たまんまなんですよ」

 

コルベールが生徒達に問いかけますが、みんな首を横に振るばかりです。

 

「なあ、オセロのルイズって何だ?」

「ゼロのルイズ、でしょ? さあ……何かのあだ名じゃない?」

 

ブタゴリラの天然を交えた疑問にトンガリ自身も想像します。

 

「ところでミス・タバサはどこに?」

「タバサちゃんは塔の方へ行ってしまって……。ここで待っているように言われているんです」

「ふむ……入れ違いになったかな……。分かった、ここで待っていなさい。さあ、君達は早く解散しなさい!」

 

そうコルベールが生徒達に叫ぶとみんなキテレツから離れていきます。

コルベールも小走りでタバサが入っていった本塔へと向かいました。

 

「でも何で五月がこんな所に来ちゃったんだろうな?」

「さっき、召喚とか言ってなかった?」

「ポンカン?」

「召喚よ。つまり、魔法使いが動物とかを呼び出す魔法のこと」

 

今度はみよ子がブタゴリラの天然に突っ込みました。

そうしてキテレツ達が立ち往生している中、正門の方では一頭の馬が駆け込んできます。

 

「やっぱり……!」

 

馬を飛ばして大急ぎで魔法学院へと戻ってきた五月の目に、見慣れた子供達の姿が映りこみます。

途端に道中も期待に輝いていた顔がますます喜びに満ちていました。

 

「キテレツ君! みんな!」

 

馬を飛び降りた五月は手を振りながら駆け寄っていきます。

 

「見て! 五月ちゃんよ!」

「本当だ! 五月ちゃんだ! 五月ちゃ~ん!」

 

キテレツ達の方も捜し求めていた五月の姿に喜んでいました。トンガリは誰よりも早くキント雲から降りて駆けていきます。

 

「心配したぜ! 五月!」

「無事で良かったわ!」

「五月ちゃん、怪我はない? 僕、本当に心配したんだよ?」

「こっちは五月ちゃんを見つけるのに苦労したナリよ」

「でも良かったよ。こんなに早く見つけられたんだから」

 

五月と再会したキテレツ達は口々に五月の身を案じ、そして安堵していました。

 

「みんな……きっと来てくれるって信じてたよ……!」

 

大切な友達は危険を省みず自分を助けに来てくれました。一体、何が起きるか、どんな危険が待ち受けているのかにも関わらずにです。

そのことがとても嬉しくて、五月は思わず瞳を潤わせていました。

 

「ありがとう、キテレツ君! みんな……!」

 

五月はキテレツの手を取り、感極まっていました。声もどこか涙声です。

 

「いやぁ……そんな……」

「キテレツは本当に頼りになるナリ!」

「五月ちゃんのためだったら、どこへだって追いかけていくよ!」

「これが本当の、カツ丼の再会って奴だな」

「ブタゴリラ君。それを言うなら、感動の再会でしょ?」

 

再会を喜び合い、はしゃぐ子供達の姿に、先ほど解散したばかりの生徒達がまたも集まってきます。

 

「何よ……あの子達は……」

 

追いついてきたルイズは、五月が見慣れぬ平民の子供達と親しく話している光景を蚊帳の外から見届けていました。

 

 

 

 

タバサがオスマン学院長を呼んできて、コルベールも一緒に戻ってくるとひとまず一行は学院長室へと移動しました。

ただし、大勢で入ると迷惑になるので入るのはキテレツと五月だけです。

残りの四人は外で待つことになりました。

 

「君がミス・ヴァリエールの呼び出したサツキ君の友達の……キテレツ君、と言ったかの?」

「はい」

「それはあだ名で、本名は木手英一って言うんです」

 

ソファーに座ってキテレツ達とオスマン学院長達は向かい合います。

 

「うむ。しかし、まさかこんなに早く迎えが来るとは思わなんだな……」

「君達の故郷は、ここからそう遠くないのかね?」

「信じてもらえるかどうか分かりませんけれど……僕達は、別の世界からやってきたんです」

「別の、世界?」

 

キテレツの言葉にコルベールもオスマンも目を丸くしました。

 

「じゃあ、やっぱりここはわたし達が元いた世界とは全然違うのね。一体、キテレツ君達はどうやってやって来れたの?」

「うん。僕の作った冥府刀を使ってね。これで、この世界と僕達の世界を繋いだんだ」

 

キテレツはリュックから取り出した冥府刀を見せます。

 

「すごい……キテレツ君、そんなものまで作れたのね……」

「我々のいる世界とは別の世界……ハルケギニアではないどこかか……実に興味深い話だな……」

「じゃあ、ちょっと試しにやってみますね」

 

立ち上がったキテレツはオスマンの机の前で冥府刀を構えます。

 

「冥府刀、スイッチオン!」

「わっ!」

「おお!?」

「何と!」

 

キテレツがスイッチを入れれば冥府刀の刀身は赤く光りだし、三人は驚きの声を上げます。

 

「えいっ!」

 

そして、空間を切りつけると、何も無い場所に光輝く時空の裂け目が出来上がりました。

 

「すごい……」

「こ、これは……」

「何と……」

 

五月もオスマン達も開いた口が塞がりません。目の前に浮かぶ時空の裂け目からは不思議な光が放たれていました。

 

「ちょっと覗いて見てください」

 

キテレツが促すと、オスマンとコルベールはキテレツが作りだした光の裂け目の中へ顔を突っ込みます。

 

「これは……!」

「おお……!」

 

オスマン達の目に飛び込んできたのは、これまでに見たことのない光景でした。

そこはキテレツ達の通っている表野小学校の屋上で、表野町を一望することができます。

ハルケギニアでは考えられないほどに大きな町が目の前に広がり、空には飛行機が轟音と共に飛んでいました。

遥か彼方には都心のビルが霞んで見えます。

 

「コ、コルベール君……ワシらは、夢を見ているのかの?」

「い、いえ……これは、夢ではありません……」

 

呆然とするオスマンとコルベールは目を見開いたまま、驚くばかりです。

彼らの常識では決して考えられない出来事、そして光景が目の前で起きたことに夢か幻かと錯覚してしまいます。

 

「今二人が見たのが、僕達の住んでいる世界なんです。信じてもらえますか?」

「すごい……こんなものを見せられて信じないわけにはいかないな」

「同感じゃ……」

 

顔を引っ込めると、キテレツは冥府刀のスイッチを切ります。

光の裂け目は跡形もなく消えてしまいました。

 

「だが、こんなすごいことができるマジックアイテムを……まさか、君が作ったのかね?」

「発明したのは、僕のご先祖様ですけどね」

「キテレツ君は、魔法みたいな不思議なことができる発明を作る才能があるんです」

 

コルベールはずいずいとキテレツに迫って顔を近づけだしました。

 

「そ、それじゃあ……あの丸いガーゴイル人形も君が!?」

「コ、コロ助のことですか? ガーゴイルじゃなくて、カラクリ人形ですよ」

「お、おお……! 何と、あそこまで精巧に動く上に、自分の心を持つ人形を作ったとは! おっと……!」

 

興奮するコルベールは眼鏡を落としてしまいます。

 

「素晴らしい! 君は素晴らしい発明家だ! その若さであれほどの物を作るとは!」

「い、痛いですよ!」

「これこれ、やめんか! コルベール君!」

 

子供のように目を輝かせ、歓喜に打ち震えるコルベールはキテレツの肩を掴みます。それをオスマンが見咎め、杖で小突きます。

 

「おっと……失礼しました。つい興奮を……」

 

落ち着きを取り戻したコルベールはソファーへと戻ります。キテレツも冥府刀を手に五月の隣に戻りました。

 

「うむ。君達がこのハルケギニアとは別の異世界から来たというのは、これで証明された訳じゃな」

「しかし、ということはミス・ヴァリエールは異世界から使い魔の召喚を行ったというわけですね」

「そういうことになるの……。実に不思議なものじゃな。我々のいる世界とは別の世界が存在し、さらにその世界から召喚を行えたとは」

 

キテレツにしてみれば四次元を通ってあの世へ行ったことがあるのですが、ここまで不思議な世界があったのは驚きました。

 

「じゃが、サツキ君。これで君が帰る手段は見つかった訳じゃな」

「では、君達は帰るのかね? 元の世界に」

「はい。キテレツ君達と一緒に帰りたいと思います」

 

五月はきっぱりと答えました。自分達が帰るべき場所。それが表野町なのですから。

 

「そうか。しかし、我らも無断で君を呼び出してしもうて申し訳無かったの」

「わたしも、短い間ですけれどお世話になりました」

「五月ちゃんがお世話になったようで、ありがとうございます」

 

オスマンは謝罪を、五月とキテレツは感謝のために頭を下げました。

 

「あの……ルイズちゃんは、この後どうなるんです?」

 

ふと、五月は自分を召喚したルイズのことが気になり、コルベールに尋ねました。

 

「本来、メイジが召喚した使い魔はその使い魔か召喚したメイジ……どちらかが生涯を終えるまで新たな召喚はできないのだよ」

 

つまり、ルイズか五月のどちらかが死ななければならなかったのです。

だから再召喚は無理だとコルベールはルイズに告げていたのでした。

 

「だが、君達が元の世界に帰れば恐らくまた新たな召喚は可能となるだろう。ミス・ヴァリエールにはもう一度召喚の機会を与えよう」

「そうですか。ルイズちゃん……とても寂しそうな子だったから心配していたんです」

 

五月は一日だけとはいえ、ルイズと一緒に過ごしましたがルイズに対してある印象を感じていました。

それは孤独――自分が抱えていたものと同じです。しかも彼女には五月のような友達さえいません。

だからあそこまで使い魔を欲しがっていたのだろうと感じていました。かつて五月が北海道で唯一友達となった子牛を可愛がっていたように。

 

「でも、また僕達の世界にあの光る鏡が出てきたらどうするのさ」

「ああ。その時は決して君達は触れてはならん。本来、使い魔の召喚と契約は鳥や猫などの動物に対して行うものじゃ。ワシのモートソグニルのようにな」

 

ふと、オスマンの肩に小さな白いネズミが上ってきました。これがオスマンの使い魔です。

 

「もしもまた、召喚のゲートが君達の世界に現れるようなら、何か動物を入れてやればよい。それで召喚された動物を、彼女の使い魔としよう」

「でも、その動物もいきなり別の世界に送られるなんてちょっと可哀相」

 

五月でさえいきなり異世界へ飛ばされてしまって戸惑ったのです。猫や鳥となればキテレツ達のように仲間が助けにくるわけにもいきません。

 

「ワシらも元いた場所に使い魔を送り返す魔法を開発せねばならんかもな」

「ええ。同感ですね。今後、このようなことがないように」

 

コルベールはキテレツの方を見ると、何か決意したような顔をしています。

 

「キテレツ君。私も君が作ったあのメイフトウのように、異世界を繋ぐ発明をいつか作ってみせようと思う。君の世界を、もっと見てみたいのだ」

「ホッホッホッ。コルベール君は変わり者じゃが、ここまで奇天烈なものを見せられてさらに刺激されたようじゃな」

 

 

 

 

学院長室を後にしたキテレツと五月は長い螺旋階段を降りていました。

 

「本当にキテレツ君には感謝のしようがないわ」

「それほどでもないよ」

「でも、たった一日で迎えに来てくれただなんてびっくりしたよ」

「一日? 僕達は、あれからすぐに五月ちゃんを追ってきたんだよ。ついたのはお昼前だったんだよ」

 

五月はこのハルケギニアで一日を過ごしましたが、キテレツ達にしてみれば五月がいなくなって数時間しか経っていません。

 

「どういうことなの?」

「う~ん……きっと、僕達の世界とこの異世界とじゃ、時間の流れが全然違うんだな。こっちでの一日は向こうの数十分でしかないんだ。実際はどうなのか分からないけど……」

「でも、それなら今すぐ帰れば向こうではそんなに時間が経ってないってことよね」

「うん。きっとそうだよ。早くみんなと一緒に表野町へ帰ろう!」

 

他の四人は建物の外で待ってるようです。急いで合流して冥府刀を使い、元の世界に帰らなければなりません。

ずっと長居していれば、本当に何が起こるか分からないのです。

しかし、五月はその前にお世話になった学院の奉公人やルイズへ挨拶をしようと考えていました。

 


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