キテレツ大百科 ハルケギニア旅行記   作:月に吠えるもの

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♪ お料理行進曲(間奏)



コロ助「水の精霊さんが、奇天烈斎様と会ったって本当ナリか?」

キテレツ「どうもそうらしいよ。奇天烈斎様はこのハルケギニアへやってきて、精霊さんを助けたことがあるんだって」

コロ助「奇天烈斎様がいてくれたなら、冥府刀もすぐ直してくれるナリね~」

キテレツ「でも、この世界のどこかにまだ奇天烈斎様の手がかりがあるかもしれないんだ。それを見つけてみせるさ!」

キテレツ「次回、水の精霊のお友達? 奇天烈斎様の謎を追え」

コロ助「絶対見るナリよ♪」



水の精霊のお友達? 奇天烈斎様の謎を追え

アンリエッタ王女との謁見を終えたキテレツとルイズ達は王宮を後にしていました。

皇太子ウェールズはそのままトリスタニアの王宮に身を寄せることになりましたが、非公式の亡命であるためその存在は公にはされません。

王宮にいる限りはレコン・キスタも簡単には手を出せないでしょう。

何はともあれ、これでルイズのアンリエッタ王女から託された密命は終わったのです。

 

「お姫様と王子様達はこれからどうなるのかしら」

「きっと結婚するナリよ。今頃、お城でチューをしてるナリ」

 

シルフィードと一緒に空を飛んでいくキント雲の上で呟くみよ子にコロ助が楽しそうに言います。

 

「まあ、それだったらハッピーエンドって所でしょうけど……そうはいかないんじゃないかしら」

「どうしてナリか?」

 

ため息をつくキュルケにコロ助は尋ねました。

 

「コロちゃん。ルイズがアンリエッタ姫殿下に渡した手紙を覚えてる?」

「あの手紙がどうかしたナリか?」

「忘れたのコロ助? あの手紙はお姫様から王子様へのラブレターで、あの手紙が世間に知られるとお姫様の政略結婚が台無しになっちゃうんだよ」

 

よく分かっていない様子のコロ助にトンガリが説明します。

 

「どうして手紙一枚程度でパーになるっていうんだ?」

「政略結婚をしようっていう時に別の人と恋人だった、なんて知られたらそれはスキャンダルになるんだよ。重婚罪って言って、婚約をしている人以外の人と恋人だったりするのはいけないことなんだ」

「そう。トリステインとゲルマニアが軍事同盟を結ぶためには姫様とゲルマニアのアルブレヒト三世閣下との結婚が前提になってるのよ。ウェールズ皇太子との仲が知られたら、それが取り消しになって同盟も成り立たないわけ。分かった?」

 

みかんを食べているブタゴリラにキテレツとルイズが説明します。

 

「ふうん。ところで、あのお姫様が結婚するっていうゲームマニアって国の王様はどんな奴なんだ?」

「ゲルマニア。正確には王様じゃなくて皇帝よ。うちの国の皇帝、アルブレヒト三世閣下は確か今年で四十……え~と、忘れちゃった」

「おっさんかよ。あんな可愛いお姫様とじゃあ、似合いそうにないぜ」

 

あっけらかんと話すキュルケにブタゴリラはため息をつきます。

 

「キュルケさん、自分の国の一番偉い人なのに興味ないの?」

 

みよ子はどこか関心の薄いキュルケに怪訝そうにします。

 

「別に。元々ゲルマニアは諸侯の貴族達が利害一致で集まってできた国だし、アルブレフト閣下だって元はその一人だったのよ。閣下は皇帝の座を手にするために自分の政敵を親族もろとも塔に閉じ込めちゃったくらいなんだから」

「うわ……酷いことするんだね、その人って」

 

キュルケの話を聞かされる中、トンガリは苦い顔で驚きました。キテレツ達も同じです。

 

「それだけゲルマニアは弱肉強食なのよ。まあでも、皇帝として国をちゃんと纏めておられるんだから決して無能な人ってわけじゃないわ」

「そんなだからゲルマニアは野蛮な国って言われるのよ……」

 

キテレツ達と同じように話を聞いていたルイズは呆れた顔をしていました。

 

「そんな人と結婚して、お姫様は大丈夫なのかしら……」

「姫様は政略結婚なんて望んでいるはずがないわ。本当はウェールズ皇太子様と結婚したいはずなのよ」

 

心配そうにする五月にルイズはきっぱりと答えます。

 

「ならすりゃあ良いじゃねえか。せっかく自分の城まで連れてきたんだからよ」

「それができないから姫様は悩んでおられるのよ。好きな人と自由に結婚できない立場なんだから……」

 

事情が何も分かっていないブタゴリラの言葉にルイズは顔を顰めます。

たとえ結婚できなくても、アンリエッタは愛しているウェールズに死んで欲しくないから亡命させようとしたのです。

それだけウェールズ皇太子のことを大切に思っているのでしょう。

 

「お姫様が可哀相。せっかく大好きな王子様と生きて会えたのに、結婚できないなんて……」

「でも、あたし達が何を言ったってどうにもならないわ……姫様が嫁がない限りゲルマニアと軍事同盟は結ばれないんだし……」

 

アンリエッタに同情する五月にルイズは呟きます。

 

「でも、大好きな人が生きてくれているってだけでも良いことだと思うよ」

「そうかもしれないけど……やっぱり可哀相だわ……」

 

キテレツの言葉を聞いても五月は苦い顔を浮かべたままです。

 

「いっそのこと、お姫様と王子様が崖落ちでもしちまえば良いんじゃねえのか?」

「何のことナリ?」

「駆け落ちのこと言ってるんだよ」

「あんたねえ。そんなことしたらスキャンダルどころかゲルマニアが怒って戦争を仕掛けてくるじゃないの! 変なこと言うもんじゃないわ!」

 

とんでもないことを軽々しく口にするブタゴリラでしたが、訂正をしたトンガリにルイズは怒鳴ります。

 

「何で僕を怒るのさ! 言ったのはブタゴリラなのに!」

「トンガリ君。こんな所で言い争ったって仕方がないわよ」

 

みよ子は言い返すトンガリを宥めます。

 

「ま、そこはアンリエッタ姫殿下とウェールズ皇太子次第ってところかしらね。安易に駆け落ちなんてするほど無責任じゃないでしょうけど」

「当然よ、まったく……」

 

キュルケの言葉にルイズは拗ねてしまいます。

 

「さあ、湖が見えてきたよ」

 

空の上で言い合いを続けられる中、キテレツが声を上げました。

トリステインの上空を南に飛び続けていた一行が今目指している場所は、水の精霊が住まうラグドリアン湖なのです。

ルイズの仕事は終わっても、キテレツ達にはまだやるべきことが残っていたのでした。

 

 

 

 

一行はラグドリアン湖に着陸し、キテレツは水の精霊に会うための準備をしていました。

リュックとケースを開け、中からアンドバリの指輪と水の精霊の涙が入った小瓶を取り出します。

 

「最初に来た時よりやっぱり水が引いているわね」

「精霊さんが戻してくれたのね」

 

五月とみよ子は湖の水位が以前より明らかに下がっていることに気が付きます。

 

「でも、この分じゃ元の水位に戻るまでまだ時間がかかるわね」

「どれくらいかかるの?」

「さあ……何週間か、何ヶ月か……一気に元に戻るわけじゃないでしょうし……」

 

トンガリの質問にルイズも推測をしながら答えます。

今はキテレツ達が最初に来た時よりせいぜい50センチ程度しか水位は下がっていないように見えます。

 

「指輪を返してあげればもう水が増えることなんて無いんだし、大丈夫だよ。よし! 準備オーケー! タバサちゃん、またお願いするよ」

 

キテレツは座り込んでいるシルフィードに寄りかかるタバサに声をかけます。

タバサはキテレツの元まで歩み寄ると、この間と同じように風の魔法で湖底へと向かうべく魔法を使おうとしました。

 

「キテレツ! あれを見るナリ!」

 

その直前に突然コロ助が声をあげて湖の方を見つめていました。

一行も岸辺に集まってきて、湖に注目します。

 

「お?」

「あれは……」

 

離れた湖面が下から光だし、ゴボゴボと水しぶきを盛り上がらせていました。

しかもそれは徐々にこちらへと近づいてきています。

 

「あれってひょっとして……」

「来たばかりなのにいくら何でも早すぎない?」

 

明らかに水の精霊であることには違いありませんが、みよ子とルイズは向こうからやってきた上にそれがあまりにも早いことに目を丸くします。

 

「やっぱり、これがあるのが分かるのかな」

「ま、水の精霊の宝物なんだし、指輪の魔力を感じたのかもしれないわね」

 

キテレツが手にするアンドバリの指輪にキュルケは納得したように頷きます。

 

「うわっ!」

 

岸辺から少し離れた所までやってきた水しぶきは途端に激しくなり、水柱を噴きあがらせます。

驚いたトンガリは尻餅をついてしまいました。

 

『キテレツ』

 

水柱は声を発すると、その姿をまたもシルフィードと同じ竜の顔へと変えていきました。

 

「精霊さん。お待たせしました。精霊さんの宝物です」

 

前に歩み出たキテレツは手を差し出し、アンドバリの指輪を見せました。

すると水の精霊の体は薄っすらと光りだします。

 

『アンドバリの指輪……ああ……幾度もの太陽の昇沈と月の交差を経て、ようやく我が秘宝が戻ってきた……』

 

どこかうっとりとした声で呟く水の精霊は嬉しそうにしているのが分かります。

自分の宝物が戻ってきてくれたのを喜んでいる証拠でした。

 

さらにキテレツ達の元へと近づいてきた水の精霊は頭を下げて口を開きだします。

キテレツはその口の中へアンドバリの指輪を放り込みます。

指輪は水の精霊の体の中に取り込まれ、静かに浮かんでいました。

 

『キテレツよ……再び我が秘宝を取り戻してくれて感謝するぞ……』

「良かったナリね、精霊さん」

「今度からは泥棒に盗まれないようにずっとあんたが持ってたらどうだ? いっそのこと飲み込んだままでいるとかよ」

『単なる者の言う通りだ。我はもう秘宝は決して手離しはしない。邪な単なる者達に奪われるわけにはいかぬ』

 

冗談めいたブタゴリラの提案に水の精霊は意外にも乗り気なようでした。

指輪を水の精霊が直接持っているままであれば、泥棒も精霊が眠っている間に風の魔法で盗み出すことはできません。

水の精霊を倒さない限り、指輪は手に入らないのです。そう考えればその方が安全と言えます。

 

「この精霊の涙もあなたにお返しします。これのおかげで指輪を見つけることができました」

「もしかしてそれって水の精霊の涙!? あんた達、そんな貴重な物をどうして……」

「精霊さんから借りていたのよ。アンドバリの指輪を探すためにね」

 

小瓶を差し出すキテレツに驚くルイズに五月が説明しました。

 

『キテレツよ。貴様は今一度、我との約束を守った。誓いを果たした者には相応の対価が無ければならぬ。我が一部はそのまま進呈しよう』

「良いんですか? これはとっても貴重なものなんでしょう?」

 

まさかそのまま水の精霊の涙をもらえるとは思っていなかったのでキテレツは驚きます。

 

『構わぬ。かの者にも同じように我が一部を与えた。使いたければ好きに使うがいい』

 

しかし、水の精霊はまったく気にしていない様子でした。

 

「へぇーっ……良い物もらったじゃない。モンモランシーが欲しがりそうね……」

 

横から小瓶を覗き込むルイズは嘆息を漏らしました。

 

「でも何に使うの?」

「水の精霊の涙は魔法薬の材料になる」

 

みよ子の問いにタバサが答えました。

 

「どうせだったら闇市場にでも売ってみたら? かなりの額で買ってくれるはずよ?」

「う~ん……もしかしたら何か役に立つ時が来るかもしれないし、このまま持っておくよ。ありがとうございます、精霊さん」

 

キュルケからの提案をキテレツは断ります。

思わぬ物を手に入れましたが、これでキテレツ達の目的は果たされました。

水の精霊もアンドバリの指輪を口に入れたまま湖の底へ戻ろうとします。

 

「あ! あの、精霊さん!」

 

しかし、キテレツは慌てて水の精霊を呼び止めました。

 

『何だ、キテレツよ』

「どうしたのキテレツ君?」

「まだ何か用があるナリか?」

 

水の精霊だけでなく五月やコロ助、他のみんなもキテレツに注目しました。

キテレツはこれまで以上に真剣な顔になっており、水の精霊を見つめたまま言葉を続けます。

 

「精霊さんに一つだけお聞きしたいことがあるんです。精霊さんは以前に奇天烈斎という名前の人と会ったことがありませんか?」

「おいおい、キテレツ何言ってるんだよ」

「どうして奇天烈斎様のことを聞くナリか?」

 

キテレツの口から出てきた言葉にルイズ達以外の五人は目を丸くしました。

 

「いや。僕のことを知ってるみたいだから、まさかとは思うんだけどさ……」

 

水の精霊はキテレツのことを名乗ってもいないのにキテレツと呼んでいましたが、そもそも『キテレツ』というのはあだ名なのです。

親しい人でなければ知らないはずのあだ名の方で呼んできたというのは考えてみればあり得ないことなのでした。

 

「キテレツ斎?」

「キテレツ斎って?」

「キテレツ君のご先祖様よ。キテレツ君の持っている道具を発明した人なの」

 

ルイズとキュルケの疑問にみよ子が答えました。

 

「うん。江戸時代のすごい発明家だったのよね」

 

五月は奇天烈斎に会ったことがありませんが、キテレツの先祖の話は以前に少しだけ聞いたことがあるのです。

 

「トンガリ。ちょっと似顔絵を描いてみてくれる?」

「あ、うん。ブタゴリラ、ペンと紙を貸して」

「お、おう」

 

キテレツの指示に従ってトンガリとブタゴリラは準備をし、トンガリは記憶を頼りにスケッチを描いていきます。

水の精霊は黙ってキテレツ達を見守っていました。

 

「似顔絵って……あんた、そのキテレツ斎って人はどれくらい昔のご先祖様なのよ? 顔を知ってるの?」

「キテレツの家にその人の絵か何か飾ってあるんでしょ?」

 

怪訝そうにするルイズにキュルケが呟きます。

実際はタイムスリップをして何度も会っているわけですが、二人にそれが理解できるはずがありません。

 

「よし、できた! ちょっと急いで描いたから雑になっちゃったかもしれないけど……」

 

数分後、トンガリは手際よく作業を進めてスケッチを完成させます。

紙には総髪の髷が結われた初老の男性の似顔絵がはっきりと描かれていました。紛れも無くキテレツの祖先の奇天烈斎その人でした。

トンガリが口で言う割には上手く描けていました。

 

「へえ。これが奇天烈斎様……」

「意外とダンディな殿方じゃない」

 

絵を覗き込む五月は初めて目にする奇天烈斎の顔に嘆息しました。キュルケも興味深そうに絵を見つめています。

 

「こんな顔の人に見覚えはありませんか?」

「キテレツよ。我には単なる貴様達の姿は全て同じにしか見えぬ。しかし、貴様の体に流れる液体と同じ物を持つ者と我はかつて出会ったのを覚えている。その者はキテレツと名乗っていたのだ」

 

キテレツは似顔絵を見せますが、水の精霊は困ったようにそう答えていました。

 

「それじゃあこいつは俺たちの顔が分かってないってことかよ」

「どうやってワガハイ達を区別してるナリか?」

「水の精霊は人間を血の性質の違いで区別してる。親子や兄弟ならその性質が近いから血縁者かどうかも分かっているはず」

 

コロ助の疑問にタバサが答えました。

 

「いつその人と出合ったんですか?」

「我がキテレツと初めて出会ったのは月が1999回交差する前の時のこと。その時も此度と同じく欲にまみれた単なる者たちは我が秘宝を狙い、我が住処へと踏み入り秘宝を奪っていった」

「嘘……160年くらい前になるじゃない」

「正確には166年と7ヶ月前」

 

指を折ったりして計算をし驚くルイズにタバサがまたもぽつりと答えます。

 

「我はその時も秘宝を取り戻すべく、単なる者達を追い、この湖の水を増やさんとも試みた。しかし、何処から現れたキテレツは奇妙な道具を使い、秘宝を奪った単なる者達を蹴散らし、アンドバリの指輪を取り戻してくれた」

「奇妙な道具ってことは……本当に奇天烈斎様かも……」

 

昔話を語る水の精霊にキテレツは期待と関心が膨れ上がっていきます。

 

「かの者、キテレツは自らの同胞を救うために我が一部を欲していた。しかし、欲深き単なる者達はしぶとく秘宝を奪わんと攻め入ってきたため、我は条件として彼奴らを退治することをキテレツに願った。キテレツは見事に彼奴らを永久に退け、約束を果たしてくれた対価として我が一部を差し出したのだ」

「う~ん。精霊さんの話だけじゃ分からないナリね~」

「だったら航時機でその時代へ行けば良いじゃねえか」

「航時機は持って来てないから無理だよ」

 

ブタゴリラの案をキテレツは一蹴しました。

そもそも元の世界では航時機はオーバーホールの真っ最中なのでしばらくは使えないのです。

 

「過去へ行くって、どういうことよ?」

「何だよ、タイムスリッパを知らねえのか?」

「タイムスリップ! キュルケさん達に言っても分からないよ……」

 

ブタゴリラの言い間違えにトンガリは突っ込みます。

魔法が発達した異世界人であるルイズ達では過去や未来へ移動する時間旅行の概念を話しても理解してはもらえないでしょう。

キュルケはさっぱり訳が分からないようで首を傾げています。

 

「あんたのあの過去を写すカメラってやつを使えば良いじゃない」

「回古鏡ね。キテレツ君、試してみたら?」

 

ルイズの提案に五月も賛成しました。

 

「いや、それよりもっと良い物があるよ。ちょっと待ってて」

 

キテレツはケースの中から取り出した物を如意光で大きくします。

それは発明道具を入れていたケースと似たような小さなトランクでした。

 

「過去透視鏡!」

「そうさ。これで精霊さんが言っていた時間を覗いてみるよ」

 

声を上げるみよ子にキテレツは箱を開けながら答えます。中には二つのダイヤルに、フタの方にはモニターが備わっていました。

キテレツは箱の中に入っていたヘッドセットを身につけると、コードを接続します。

過去透視鏡はこのヘッドセットのカメラとマイクを通して見た対象の過去を遡ってモニターに映し出すことができるのです。

 

「確か、166年に7ヶ月前だったっけ?」

「そう。正確な日付までは分からないけど」

 

カメラは水の精霊に合わせ、ダイヤルを操作するキテレツが後ろや横から他の全員と一緒に覗き込んでくるタバサに尋ねます。

 

「それだけ分かれば十分さ。後は上手く調整をすれば……」

「あ。何か映ってきたナリ」

 

モニターにはしばらく砂嵐しか映し出されてはいませんでしたが、徐々に鮮明になっていきます。

ラグドリアン湖の湖畔の夜の景色がそこには映っていました。

 

「これが166年前のラグドリアン湖?」

「何もいねえじゃねえか」

「でも水位が全然違うね」

 

映像を見つめるルイズにブタゴリラ、トンガリが呟きます。

モニターに映っている湖の光景は水位が今よりずっと低い状態でした。これが本来のラグドリアン湖の景色なのでしょう。

 

「待って! 今、何か人が映ったわ」

「うん!」

 

五月の言葉にダイヤルを慎重に調整すると、モニターには人らしきものが映し出されていました。

 

「どうやらメイジみたいね」

「見た所、貴族じゃなくて盗賊みたいだけど……」

「それじゃあこれが精霊さんが言っていた泥棒?」

 

キュルケとルイズの頷きにみよ子はモニターに食い入ります。

マントを身につけた数人の男達は見るからに悪そうなゴロツキのような風貌をしていました。

 

『この間はよくもやってくれたな!』

『おとなしく水の精霊の宝をよこせ!』

 

キテレツがつけているヘッドセットのイヤホンからは男達の声が聞こえていました。

 

「おい、何も聞こえないじゃねえか。音を上げろよ」

「ちょっと待ってよ。今スピーカーを切り替えるから」

 

キテレツがスイッチを押すと、イヤホンから過去透視鏡本体から音声の発するのが変わりました。

モニターの盗賊メイジ達は杖を手にしたまま憤慨しています。どうやら誰かと相対しているようで、一行の目の前にはマントを羽織っている男性らしき人物が立っています。

しかし、夜の上に曇りなので周りはかなり暗く、姿がよく見えません。

 

『申し訳ないが、この湖の主はお前達のような悪者が来るのを大変迷惑にしている。すぐにお引取り願おう』

 

その男性は威厳のある声で盗賊達に向かって言いました。

 

「あっ……この声は……!」

「今の声って……」

「もう一回喋って欲しいナリ!」

 

キテレツはその男性の声を聞いた途端、愕然としてモニターに食い入りました。

コロ助もみよ子も同様にキテレツと一緒にモニターに顔を近づけます。

 

『何を!? 平民ごときが生意気な!』

『やっちまえ!』

 

盗賊達が呪文を唱えると、男性は手にしている杖の中に仕込んでいたらしい細長い棒を引き抜きます。

 

『ファイヤーボール!』

『エア・ハンマー!』

『ウィンド・ブレイク!』

 

盗賊達が魔法を放つと同時に男性が逆手に持っている棒が眩しいほどに光りだしました。

 

「これって、わたしの電磁刀なの!?」

 

放たれた魔法は男性が前にかざした光る棒に当たる寸前にあらぬ方向へと偏向されてしまいました。

五月は自分が持っている電磁刀と全く同じ効果を発揮したことに驚きます。

 

「……ああっ! き、奇天烈斎様!」

「奇天烈斎様ナリ!」

 

発光する刀の光に照らされる男性の顔を目にしてキテレツとコロ助は驚愕しました。

 

「本当だわ! この人、奇天烈斎様よ!」

「マジだぜ! 本当にキテレツのご先祖様じゃねえか!」

「本当にここに来てんだ!?」

 

三度笠を背に合羽を羽織っている股旅姿の男性は、紛れも無くキテレツ達が会ったことがある奇天烈斎その人だったのです。

キテレツの予測が当たっただけでなく、尊敬している人がこのハルケギニアにいた事実に興奮が治まりません。

 

「この人がキテレツのご先祖?」

「絵で見るのとは違うけど、中々威厳がおありじゃないの。しかも平民なのに強いわ」

 

キテレツ達が驚く中、ルイズとキュルケもモニターの映像を興味深そうに見守ります。

奇天烈斎が電磁刀で防いだ風の魔法は盗賊の一人に跳ね返され、吹き飛ばしたのです。

 

『こ、この……! うぐっ……!』

『うぎゃあっ!』

 

すぐに奇天烈斎は男の一人の懐まで駆け寄ると、呪文を唱えさせる暇も与えず鳩尾に一撃を叩き込みました。

間髪入れずに電磁刀をもう一人の胸に突き出して電気ショックを炸裂させます。

奇天烈斎はあっという間に盗賊達を倒してしまったのです。

 

「お見事ナリ! 奇天烈斎様!」

「さすが……」

 

発明家である奇天烈斎は意外にも武芸にも心得があることは以前にキテレツは身を持って知っています。

 

「これがキテレツ君のご先祖様……」

 

五月は初めて目にする奇天烈斎の姿と活躍に感嘆としてしまいます。

魔法使い三人を相手にしても全く苦戦することなく倒してしまった奇天烈斎はその後、盗賊達の杖を取り上げて縄でまとめて縛り上げていました。

 

『おお……懐かしきキテレツの声……1999の月の交差を経て、また彼の者の声が聞けるとは……』

 

ずっとその場で留まっていた水の精霊は過去透視鏡から聞こえていた音声にうっとりとしています。

キテレツは過去透視鏡のスイッチを切り、ヘッドセットを置きます。

 

「やっぱり、奇天烈斎様もここにやってきていたんだ……! すごい大発見だよ! まさかとは思ったけど、本当に来ていたなんて!」

 

これまでにない笑顔をキテレツは浮かべていました。

 

「ご先祖様がいただけでそんなに嬉しいの?」

「当然ナリよ。奇天烈斎様がいてくれたのが分かっただけでも嬉しいナリ」

「それに、あたし達が帰る手がかりが見つかるかもしれないんだから!」

 

問いかけてくるキュルケにコロ助もみよ子もまた満面の笑みで答えました。

 

「そっか……そうよね」

 

キテレツ達の最大の目的は、このハルケギニアから自分達の故郷の世界へと帰還することです。

その帰る手段をルイズが潰してしまったために今日まで様々な危険な冒険を繰り広げる破目になっているのです。

 

「奇天烈斎様もきっと元の世界へ帰ったに違いないんだ。それを見つけることができれば、僕達も帰れるはずだよ!」

「で、どうやって奇天烈斎様はここへ来て、帰ったっていうんだ?」

「それをこれから見つけるんでしょ?」

 

ブタゴリラにトンガリが呆れて突っ込みます。

 

「きっと、元の世界へ帰るための手がかりがあるはずだよ。それを見つけるんだ!」

「奇天烈斎様がいてくれたのが分かったなら、何か方法があるはずよね」

「うん。やってみましょう。きっと帰る方法が何かあるはずよ!」

 

まさかアルビオンでの冒険の果てに、ここで新たな手がかりを見つけることができたのは思わぬ収穫でした。

しかも奇天烈斎がこのハルケギニアという異世界を訪れていたという事実を知ることができたのは、とても有力な情報です。

キテレツ達は過去にもタイムスリップ先で奇天烈斎に助けられてきたことがあるので、この異世界でもまた助けられることになる結果になるかもしれません。

奇天烈斎の手がかりを他にも見つけることができれば、元の世界へ帰る方法もきっと見つかるはずです。

 

「ごめんなさい精霊さん、時間を取らせてしまって」

 

水の精霊はずっとその場に留まって待っていてくれたので、キテレツは思わず頭を下げます。

 

『良い。我も久しぶりに彼の者の声が聞けたのだから』

 

しかし、水の精霊もどこか満足そうにしていました。恩人の声が聞けたのが嬉しいようです。

 

「ねえ、元の世界ってどういうこと?」

「後で話すわ。信じられればの話だけど」

 

キテレツ達の故郷の事情を知らないキュルケはルイズに尋ねますが、それを今ここで長々と話している暇はありませんでした。

 

 


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