コロ助「うぎゃぎゃーっ! 森の中は怖い鬼がいっぱいナリよー!」
キテレツ「アルビオンには色々な怪物がいるみたいだからね」
コロ助「兵隊さんにも追われてるのに、そんな怖いのまでいるなんて冗談じゃないナリ」
キテレツ「でも、捕まらないように指輪を探すには、危ない森と山を越えるしかないんだ」
コロ助「とにかく、キテレツの発明をたくさん使ってやっつけるナリ!」
キテレツ「次回、大冒険! 空の国は危険がいっぱい」
コロ助「絶対見るナリよ♪」
アルビオンの港町スカボローは元々、ハルケギニアからアルビオンに定期船や貨物船で多くの人が訪れるため、広く大きな町です。
今ではアルビオンの反乱軍の一部が駐留しており、町の中には大勢の兵隊達の姿がありました。
そんな大きな町の中で、キテレツ達は兵隊達に追い回されていました。
「こっちよ! 急いで!」
先頭を走るキュルケがキテレツ達を手招きします。
キテレツ達は町の出入り口を目指して通りを走り続けますが、兵隊達は次から次へと現れていました。
その度にキュルケとタバサが魔法で退けていくのです。
「何で追われなきゃならないのさ! 僕たち、何にもしてないのに!」
「知るか! 俺に聞くんじゃねえよ!」
「とにかく早くここを出ましょう!」
喚き立てるトンガリにブタゴリラとコロ助を背負う五月が叫びます。
「待て! ガキども!」
「逃がさんぞ!」
兵隊達はいくら退けてもキテレツ達を追ってきます。前からも現れるのでキュルケとタバサは忙しなく杖から魔法を放ち続けていました。
「キテレツ! 例の金縛り玉だよ! あれを出して! あれを使うんだ!」
「こんなに大勢に使っても焼け石に水だよ!」
「じゃあ、何でも良いから他のを出してよ!」
「この状況じゃあ、そんな暇は無いよ!」
「何だよ! 肝心な時に役に立たないんじゃ意味ないじゃないか!」
「こんな時にそんなことを言ったって仕方がないでしょう!?」
キテレツに文句を言うトンガリをみよ子が叱り付けます。
とにかく今は出口に向かって走るしかないのです。
「お! 見ろよ! あそこが出口だぜ!」
「やったあ……!」
ようやく町外れまでやってくると、通りの一番先に城門が見えてきました。あそこを抜ければもう町の外です。
追っ手はタバサが退けてくれていたおかげで、まだ遥か後方にいます。
外で待っているシルフィードに乗って急いで町から離れてしまえばとりあえずは安心でしょう。
「あと少しよ! みんな、がんばって……っ!」
「……っ」
「げ……!」
「あんなにいっぱいナリー!」
「そんな……!」
キュルケが元気付けようとしましたが、前を向き直して足を止めます。タバサも他の六人も同様でした。
城門まで辿り着いたキテレツ達でしたが、そこにはこれまで最高でも一度に現れても10人以下だった追っ手とは比べ物にならない数の兵隊達が待ち構えていたのです。
キテレツ達が町の外へ逃げようとしているのが分かっている以上、先回りをされるのは当然でした。
「観念しろ! トリステインのスパイどもめ!」
「もはや逃げられんぞ!」
今までの追っ手にはメイジがいませんでしたが、今回は何人ものメイジの兵士達の姿がありました。
数こそ少ないですが、それでも平民の兵士も含めてキテレツ達の前に立ち塞がった兵士達は100人にも達します。
「まずいわね……」
キュルケは苦い顔を浮かべます。いくらタバサと協力したとしてもこれだけの数の兵士達をまとめて退けるのは無理でした。
それでも二人は杖を突きつけて兵士達を威嚇します。何もしないでいても魔法を撃たれてしまうだけです。
「追ってくるナリよ!」
立ち往生している間にも後ろからの追っ手は近づいてきます。これでは袋のネズミも同じです。
「き、キテレツ! 早く! 何でも良いから出して! あいつらをまとめて吹っ飛ばせるものとかさ!」
「わ、分かったから離してよ!」
トンガリに掴まれて揺さぶられるキテレツは大急ぎでケースを開き、一番下の段から取り出した物を如意光で大きくしました。
それは赤い房飾りのついた柄に七枚に分かれた葉っぱの形の扇が取り付けられている、大きなうちわでした。
その形は、まるで天狗が使っているうちわのように見えます。
「これは?」
「説明は後! ブタゴリラ、あいつらに向かってこれを思いっきり力を入れて扇いで!」
「おっしゃ! 分かったぜ!」
尋ねてくるみよ子ですが、キテレツはブタゴリラにうちわを手渡します。
ブタゴリラは兵士達と睨み合っているキュルケとタバサの間を通って前に出てきました。
「それはキテレツのね。タバサ」
キュルケとタバサはブタゴリラが持っている物を目にしてすぐに何をしようとするのかを察し、巻き添えを食らわないように身構えたまま後ろへ下がります。
「いくぜ! ……どおりゃあっ!」
得意の野球でボールを投球するように大きく振りかぶり、力いっぱいに叩きつけるようにしてうちわを一扇ぎさせました。
「きゃっ!」
「うっ!」
「……っ!」
「きゃあっ!」
途端、うちわから普通では考えられないほどの凄まじい突風が吹き荒れ、後ろにいたキュルケ達は思わずその余波に怯んでしまいます。
「うわああああっ!」
嵐のような突風を真正面から叩きつけられた兵士達は次々と紙切れのように外へと吹き飛ばされ、城壁に叩きつけられて気絶してしまいす。
100人もいた兵士達はあっという間にキテレツ達の前からいなくなってしまいました。
「すごーい!」
「タバサの風よりすごいわね……」
「こりゃすげえな……」
五月が歓声を上げる中、キュルケもタバサもスクウェアクラスのメイジが全力を出してようやく起こせるほどの突風を起こしたことに驚いてしました。
ブタゴリラもうちわの効果に唖然としている様子です。
「みんな! 急いで外へ! とにかく町を離れよう!」
「え、ええ! そうね! さ、行きましょう!」
先導したキテレツの言葉に我に返ったキュルケが声を上げると、他の六人も慌てて門を潜っていきました。
後ろからの追っ手はもうすぐ近くまで来ています。早くここを離れなければ捕まってしまいます。
「きゅい、きゅい~♪」
「乗って」
外では上空で待っていたシルフィードが草原の街道に降りてきます。一番に飛び乗ったタバサは一行に乗るよう促しました。
キント雲を取り出して大きくしている暇はありません。定員オーバーですが、シルフィードに乗って飛んでいくしかありません。
「待て! 逃がさんぞ!」
「おっと! もう一発食らえ! そら!」
「……うわああああっ!」
ブタゴリラが追っ手に向かってもう一度うちわを一振りさせると、先ほどのように突風が吹き荒れて兵士達を吹き飛ばしました。
もうこれ以上、追っ手が来る様子はありません。
「ブタゴリラ君! 早く乗って!」
「よし! いいぜ!」
シルフィードに乗り込んだみよ子が呼びかけるとブタゴリラも大急ぎでその背へと乗り込みました。
「退避」
「きゅいっ!」
タバサが短く命じると、8人もの大人数を乗せてシルフィードは空へと浮かび上がります。
翼を羽ばたかせ、大急ぎでスカボローの町の空域を離れていきました。
◆
シルフィードに乗って約3リーグほど北に離れた森まで逃げてきたキテレツ達は、一度そこで降りることにしました。
「ここまで来ればひとまず安心ね……」
森の中に降下したシルフィードから降りた一行はようやく小休止をすることができて思わずへたり込みます。
キュルケは安心しきった様子のキテレツ達を見て、思わず自分もホッと安堵していました。
「まったく……冗談じゃないよ。何でこんなことになるのさ……」
「ワガハイ達……何にも悪いことしてないナリよ……」
未だに愚痴をこぼすトンガリにコロ助も思わず呟きます。
「あの兵隊達……あたし達のことを知ってたみたいだったわ……」
「何で俺達がスパイスにならなきゃならねえんだよ……」
「スパイよ……」
疲れきったみよ子はブタゴリラの言い間違えを力なく訂正しました。
「どうしてわたし達のことを知ってたのかしら……キテレツ君の道具のことも知ってたみたいだったし……」
五月も騎士達がキテレツの如意光を使う所を見たことでスパイと疑ったことがとても気になっていました。
こんな空の上の外国の人間が、どうして地上にしかいなかったはずのキテレツ達のことやその道具の存在を知っていたのかが不思議でした。
「分からないよ……でも……ここじゃあ、僕達はおたずね者にされてるってことだけは確かなんだ……参ったなあ……」
一体どうして自分の発明道具の存在が知られてしまっているのかは疑問ではありますが、考えていても仕方がありません。
とにかくキテレツ達はこのアルビオンでは確実に追われる身であるという事実だけは受け入れないといけないのです。
「これじゃあ、普通に歩いて指輪を探すわけにはいかなくなったわね……」
キュルケも困った顔をして腕を組みました。それが今回の旅で一番の問題となることです。
「潜地球で隠れながら指輪を探したらどう? それなら見つからずにいられるよ」
「駄目だよ。指輪を持っている相手が動いているかもしれないから、合わせ鏡で方角を確かめながら探さないと」
トンガリの提案をキテレツは却下します。
しかも追われている以上、光をずっと出し続けていると見つかってしまう危険があるため、在り処の方角が分かったらすぐにしまわないといけません。
幸い、キテレツは今回の異世界での冒険のためにコンパスを持ってきていました。
「それにキント雲も目立ち過ぎるから、空を飛んで探すのも駄目だな」
「ええーっ!? それじゃあ、これから歩きナリか!?」
「歩きだけじゃさすがに辛すぎるわよ。アルビオンはトリステインと同じくらい広いみたいだし。そうでしょ? タバサ」
「そう」
タバサは鞄から取り出した地図を広げて見ていました。それは今回の冒険のために持参したアルビオン大陸の地図です。
「冗談じゃないよ! こんな暗くて陰気臭い森をずっと歩きだなんて!」
「それじゃあ何日も時間がかかっちゃうわ。何か方法は無いの? キテレツ君」
「大丈夫。ちゃんと用意してあるからさ」
喚くトンガリにみよ子も不安そうにキテレツに尋ねますが、キテレツはケースからある物を取り出して如意光で大きくしました。
「それは?」
「綺麗なリングね……」
五月が尋ねるそれは金色の小さなフープのようです。キュルケも思わず目を丸くしました。
「ああ! それは!」
「空を飛べる輪っかナリ!」
「これは空中浮輪と言ってね。こうやって頭に乗せると……」
みよ子とコロ助が声を上げる中、立ち上がるキテレツは空中浮輪を自分の頭上へと乗せます。
キテレツの頭上で浮かぶようにして乗っているリングからは微かな光が真下へと注がれているのが見えました。
「わっ! 飛んだわ!」
リングを頭に乗せたキテレツが軽くジャンプをすると、ふわふわと何メートルも上へと浮かび上がっていきました。
そのまま空中の高い木の枝の上へと着地したキテレツに五月は驚いています。
「このリングを乗せた物体の周りに反重力のエネルギーを発生させることができて、その力を利用して自由に空を飛べるんだ」
「う~ん……要するに空を飛べるマジックアイテムなのよね」
難しい説明が分からないキュルケは苦笑してしまいます。
キテレツは枝から飛び降りると、そのまま空中を自在に飛び回り、地上に降りてきました。
「まるで天使みたい……」
空を自力で飛んだキテレツに五月は呆然とします。このリングを身に着けたその姿は確かに天使のようでした。
「いつかこういう時が来るかと思って、みんなの分も作っておいたんだよ」
ケースからさらにキテレツは4つのリングを取り出し、一行に見せます。
空中浮輪は量産が簡単なので、いつか役に立つと思って以前から用意をしていました。
「ははっ! これなら歩かないから疲れなくて済むね!」
トンガリはリングを受け取って喜びます。
「わ、わ、わ……体が急に軽く……」
試しにリングを頭に乗せてみた五月の体がふわりと浮かび上がりますが、初めての体感に慣れずに戸惑います。
「すぐに慣れるわ。大丈夫よ」
「へへっ、こりゃあ楽チンだな!」
同じようにリングを装備したみよ子は五月の手を取っていました。
ブタゴリラもリングを頭に乗せて軽く低空を泳ぐように飛び回ります。
「キテレツ。ワガハイの分は?」
しかし、唯一リングを受け取っていないコロ助はキテレツに食いつきました。
「ごめん。五人分しかなくて……」
元々、空中浮輪は普段よく一緒にいたキテレツにコロ助、みよ子、トンガリ、ブタゴリラの五人が使うことを想定していたのです。
五月は再三の転校と編入を繰り返している身でしたので、用意ができなかったのでした。
「みんなだけ空を飛んでずるいナリ! ワガハイも空を飛びたいナリー!」
仲間外れにされたコロ助は大きく喚き立てますが、そこをキュルケがコロ助の体を抱き上げました。
「コロちゃんはあたし達と一緒にシルフィードに乗せてあげるわ。ね、タバサ?」
地図を見続けるタバサはこくりと頷きます。
コロ助は不満そうな顔をしつつもとりあえずは収まりました。
「そういえばタバサちゃんのドラゴンは大きいから目立っちゃうわ」
キテレツ達は空中浮輪で低空を目立たずに飛んでいけますが、シルフィードは森の中を飛ぶには体が大きすぎます。
「キュルケさん達は魔法で空を飛べないの?」
「う~ん……一応、あたし達もレビテーションで空は飛べるけど……あんまり長くは飛んでいられないのよ」
みよ子とトンガリの言葉を聞いたキュルケは苦い顔でそう答えました。
メイジの精神力に限りがある以上、長距離を飛び続けることはできません。故に移動はシルフィードに頼るしかないのです。
「キテレツ。ニョイコウを貸して」
「良いけど……」
そんな三人の会話を聞いたタバサは即座にそう告げると、キテレツは如意光をタバサに渡します。
「きゅい?」
タバサは如意光を手に、シルフィードへと歩み寄っていきます。そして、何の迷いもなく如意光の赤い光線を浴びせました。
「きゅいーっ!」
5メートルもの体長を誇るシルフィードはみるみる内に縮んでいき、あっという間に半分以下の小さな馬に近い大きさになってしまいます。
「きゅい、きゅい! きゅいーっ!」
「これなら目立ちにくい」
文句を言っている様子のシルフィードを無視してタバサは如意光をキテレツへと返します。
この大きさならタバサとキュルケ、そしてコロ助が三人までなら何とか乗せて森の中を飛ぶことができるでしょう。
「いつの間に使いこなしてやがるんだ……」
「何回も使ってるのを見てたんだもの。覚えちゃったのよ」
ブタゴリラはタバサが如意光の使い方が完全に分かっているのを見て驚きますが、逆にみよ子は感心していました。
「よし……それじゃあ、まずは合わせ鏡で……」
キテレツはリュックから合わせ鏡とコンパスを取り出し、合わせ鏡のスイッチを入れます。
すると、ミラーから放たれた光が森の中を一直線に突き進んでいきました。
さらにキテレツはコンパスを確認し、光が指し示している方角を確認します。
「……進路は北だね」
「今、私達はこの辺りにいる」
タバサは地図の一点を指差します。そこはアルビオン大陸の南端からすこし北に位置する森でした。
そこからずっと北へ行くと山脈が続くサウスゴータ地方を越え、さらにその北には首都・ロンディニウムがあるのです。
「うん。とりあえず三時間ほど飛んだら、もう一度方角を確認しようか。それじゃあ出発だ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。キテレツ」
「何だよ、トンガリ。せっかくのムードをぶち壊すなよ」
いざ出発、という時に出鼻を挫かれてブタゴリラが思わず文句を言います。
「僕達、追われているんでしょう? もしまた兵隊達が現れたらどうするのさ?」
「キュルケさん達がいるじゃない。それに五月ちゃんの電磁刀もあるわ」
「ワガハイもいるナリ!」
「コロ助はともかく、五月ちゃんの刀だけじゃ心細いよ。相手は魔法使いだっているんでしょ?」
みよ子とコロ助にトンガリはさらに反論しました。
確かにまた追われる状況になったら、キュルケとタバサや五月の電磁刀だけでは力不足になるかもしれないのです。
ましてや大軍で追われては多勢に無勢です。
「うーん。言われてみればそうだな……」
「ところでコロちゃんの背中にあるのって剣でしょ?」
キュルケはコロ助がいつも背中に差している刀を指差しました。
「どうせそれはオモチャでしょ? 期待できないよ……」
「武士の魂を馬鹿にするとは無礼ナリ!」
ため息をつくトンガリにコロ助は刀を抜いて剣先を突きつけました。
刀は見た目こそコロ助と同じくらいの大きさですが、実際は鞘から抜くとせいぜい30センチ程度の大きさしかありません。
一応、銃の弾を弾き返すくらいに頑丈ではありますが、所詮はオモチャでしかないので武器としては役に立たないのです。
「キテレツ。何か武器になるような道具は他にないの?」
「うーん。そうだな……使えそうな物と言えば……」
キテレツはリュックとケースから次々と道具を取り出して地面に置いていきます。
「こんな物しかないよ」
「たったこれだけ?」
取り出されたのは相手の動きを止める煙幕を出す金縛り玉の入った巾着袋、フーケから取り戻した即時剥製光、怪力を発揮できる万力手甲――
木製のランドセルのような箱にコードで繋がった時計と光線銃が付属された道具は、時間を止める効果を持つ脱時機です。
完全に時を止めることができれば色々な窮地を脱することはできるのですが……実は以前に巻き込まれた天狗との騒動で故障したままなので使うことはできません。
幸い、標的の時間を止めることができる光線銃の方はかろうじて使えます。
小さな竹筒のような道具は中にプロペラが入っており、展開して回転させると、それを見た人間の目を回して気絶させてしまうことができるトンボウというものです。
護身用として作っていた物なのですが、これも相手を傷つけることなく眠らせることができます。
「この如意光はできることならあまり乱用したくはないんだよな……」
そしていつもお世話になっている如意光もまた武器として使うことができますが、発明品を保存するのに使うので無闇な使用は避けたいのです。
「キテレツ君、本当に色々持ってきているのね……」
電磁刀以外にも様々な武器となる道具があることに五月は驚きます。
「ところで、カオルが持っているその道具は? すごい風を起こしたじゃない」
キュルケはブタゴリラがずっと手にしているうちわを指摘します。
「お、そういえばこいつもあったんだったな」
「それはかなり頼りになるかもね」
トンガリもあれだけの強風で兵隊達を吹き飛ばしたのを見て、うちわの効果に期待していました。
「何なの、このうちわは? 何だか、天狗が使うような物に似ているけど」
「それはね、最近新しく作っておいた道具で天狗の羽うちわって言うんだ」
「そのまんまね……」
みよ子が尋ねるとキテレツは新たな発明品を説明します。五月はまさしく名は形を表す道具に目を丸くしました。
ブタゴリラは天狗の羽うちわをじっと眺めています。
「そのうちわは強風を操る力を持ったうちわで、振る力の強さや勢いに比例して通常のうちわの何万倍もの突風を巻き起こすことができるんだ」
「それであんなにすごい風が起こせたのね……」
みよ子だけでなく、他の6人も実際に目にしたうちわの効果に納得しました。
「うん。振り方によって色々な種類の風を起こすことができるんだ。僕もまだ試したことはなかったんだけど、成功して良かったよ」
「へへっ、それじゃあこいつは俺が使わせてもらうぜ! 文句はねえな!」
「頼りにしてるわ。熊田君」
ブタゴリラは天狗の羽うちわが気に入ったようでした。五月も賛成のようです。
「とにかく武器に使えそうな物はこっちに入れておくから、使う時になったら渡すからね」
キテレツは如意光で小さくした道具をリュックへと移します。
五月の電磁刀にブタゴリラの羽うちわ、そして数々の武器をこれから使うことになる時がくることでしょう。
その時になったら、キテレツ達もそれらを手に戦わないといけないのです。
「分かったわ」
「できればもう追われるなんてこりごりだからね……」
みよ子が頷く中、トンガリは他の7人も思っていることを口にしました。
要は武器を使うような危ない状況にならないことが一番良いのです。
「それじゃあみんな、出発だ!」
「おおーっ!」
歓声を上げるキテレツ達は、空中浮輪によって空中へと浮かび上がり、北へ向かって森の中を飛んでいきます。
「あたし達も張り切っていきましょうか! タバサ」
「出発ナリー!」
小さくなったシルフィードに乗り込んだ三人も浮上すると、キテレツ達と共に森を進んでいきました。
※備考
今回のエピソードで出てきた道具『天狗の羽うちわ』についてですが、これは原作漫画の『スーパー天狗』の話に登場した『怪力面と羽うちわのセット』が原型となっている本作オリジナルの道具となります。
アニメ版にはスーパー天狗の話が無いため、羽うちわを単独の道具として登場することになりました。
また、道具の効果については原作漫画の効果と、ドラえもんのひみつ道具『風神うちわ』『バショー扇』をプラスしたものとして設定しています。