キテレツ大百科 ハルケギニア旅行記   作:月に吠えるもの

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♪ お料理行進曲(間奏)

コロ助「泥棒も捕まえられたし、奇天烈斎様の発明も取り戻せたし、めでたしナリね」

キテレツ「でも、また僕達の世界の物が見つかったんだよ」

コロ助「どうしてこの世界にワガハイ達の世界のものがたくさんあるナリか?」

キテレツ「それを学院長先生から聞くんだよ。あの人は剥製光のことに詳しいみたいだからね」

コロ助「ワガハイ、その間は学校のお祭りでタバサちゃんとコロッケを食べているナリ」

キテレツ「次回、友情のブドウ会? ルイズと五月の約束」

コロ助「絶対見るナリよ♪」




友情のブドウ会? ルイズと五月の約束

 

動かなくなったフーケのゴーレムはやがて、ボロボロと崩れて岩の瓦礫へと変わっていきました。

ゴーレムの残骸を眺めるギーシュは余計に安心してため息をつきます。

 

「ルイズちゃん!」

 

五月も電磁刀の刀身を小さくして収めると、森の中からルイズ達が姿を現すのが見えました。

一番後ろにはコルベールがついてきています。

 

「おお、無事だったんだね。いやあ、良かった良かった……しかし、あれは?」

 

五月が手を振っている中、ギーシュはキュルケがレビテーションの魔法で宙に浮かべて運んでいるものに目がいきます。

 

「ロングビルさんだわ」

 

ギーシュは唖然としながら立ち上がります。

ロングビルは目元を押さえておかしな体勢のまま彫像のように硬直していたのでした。

 

「ルイズちゃん、大丈夫!?」

「ハァイ、サツキ。タバサもギーシュも無事みたいね」

 

駆け寄る五月に対して答えたのはロングビル……フーケを運んでいるキュルケでした。

ルイズは俯いたまま、即時剥製光を手元に抱えて歩いてきます。

 

「みんな無事のようだな。本当に良かった……」

「あ、あれ? コルベール先生ではありませんか。どうしてここに……」

 

五月達を見回して安心するコルベールですが、ギーシュはコルベールがここにいる理由が分からず戸惑います。

 

「君らが心配になってね。サツキ君達と一緒に付いてきたんだよ」

「そ、それで、フーケは? ミス・サツキはロングビルがフーケと言っておりましたが……」

「ご覧の通りよ」

 

キュルケは浮かばせていたフーケの体を地面に降ろします。

 

「な、何でこんな風に固まっているのかね? もしもし?」

 

ギーシュは硬直したフーケに近づいて話しかけますが、当然返答はありません。

 

「キテレツ君の剥製光を使ったのね」

「そういうこと。杖は取り上げてるけど、学院に戻るまではこのままの方が良いわ。ほら、ルイズ」

 

キュルケがずっと黙っているルイズを促すと、五月の前に歩み出てきます。

 

「これ……あんた達に返すわ」

 

ルイズは何故か恥ずかしそうにしながら五月に即時剥製光を差し出してきます。

 

「ありがとう、ルイズちゃん」

 

剥製光を受け取った五月が笑顔で礼を言うと、ルイズは視線を逸らしていました。

 

「これもみんな、キテレツの作戦のおかげね。やっぱりサツキやあの子達がいてくれた方が良かったでしょ?」

「そ、そうね……」

 

キュルケに指摘されてルイズは口篭ります。

結局、ルイズ達の力だけではフーケを捕まえることはできなかったのですから、キテレツ達を拒絶してしまったことが恥ずかしく感じられました。

キテレツとコルベールの立てた作戦では囮役のコルベールがフーケの気を引き付け、その間に二人がいる場所へキテレツに誘導されたルイズとキュルケが奇襲を仕掛けるというものでした。

それでフーケを怯ませた所でコルベールがフーケの杖を折って魔法を使えなくさせる予定だったのです。

もっとも、ルイズの爆発で杖を吹き飛ばしてしまったので少し計画がずれてしまったのですが。

 

万が一の時はキテレツが潜地球から目眩ましの閃光魚雷を撃って援護をする話になっていました。

実際、キテレツからその話を聞かされていた二人は魚雷発射の合図をもらって巻き添えを食わないようにしたのです。

地中にキテレツ達が潜んでいるとは知らないフーケはそれによって無力化され、ルイズ達が捕まえることができたのでした。

 

「ミス・サツキの仲間がかい? しかし、どこにいるというのだね」

「そういえばあいつら、土の中にいるとか言ってたけど……」

 

ギーシュとルイズは辺りをキョロキョロと見回します。

 

『ワガハイ達はここナリ』

『今、地上に出るよ』

 

キュルケが持ったままのトランシーバーからキテレツ達の声が響きます。

 

「え? うわあああっ!」

 

ギーシュの足元の地面が光りだしたかと思うと、地中から潜地球が浮き上がってきたのです。

潜地球に押し上げられたギーシュは浮上した潜地球の上から転げ落ちてしまいました。

 

「な、な、な、何なのよ! これ!」

 

ルイズも地中から現れ潜地球に腰を抜かしてしまいます。

 

「大丈夫。キテレツ君達はこれに乗っているの」

「我々はこれに乗って、君達を追ってきたのだ」

 

驚くルイズを五月が手を引いて起き上がらせます。

 

「へぇー……こんなもので地面を潜っていたのね……」

 

キュルケもタバサも、潜地球を目の当たりにして驚いています。

空を飛ぶのはまだしも、地面を潜って移動できる乗り物なんて初めて見るのですから。

 

「やあ、みんな無事みたいだね」

「キテレツ君、コロちゃん!」

 

ハッチを開けて出てきたキテレツとコロ助に五月は安堵の笑顔を浮かべました。

 

「五月ちゃ~ん!」

 

続いて血相を変えて飛び出てきたのは、トンガリでした。

トンガリは潜地球から降りると五月へ真っ先に駆け寄り、その両肩を掴みます。

 

「五月ちゃん、大丈夫!? ケガはしなかった? 僕、五月ちゃんがやられちゃったんじゃないかって、とっても心配したんだよ!?」

「落ち着いて、トンガリ君。わたしは大丈夫よ」

 

ほとんど泣き顔で縋りつくトンガリを五月は宥めます。

 

「キテレツ君、これを」

 

五月はキテレツに剥製光と万力手甲の二つを差し出しました。

 

「うん。ありがとう、五月ちゃん。あの……先生、大丈夫でしたか?」

 

道具を受け取ったキテレツはコルベールに話しかけます。

コルベールはフーケに一度、剥製にされてしまっていたのですが、ルイズが元に戻していたのです。

 

「ああ。剥製にされるなど初めてであったが……」

 

毛の薄い後頭部を掻いてコルベールは苦笑します。

コルベールとしては剥製にされている間のことは何も覚えてはいなかったのですが。

 

「泥棒も捕まえられたし、これでインゲン落着ってやつだな」

「ブタゴリラ君。それを言うなら一件落着よ」

 

みよ子がブタゴリラの言い間違いを訂正すると、キテレツ達はおかしそうに笑い合っていました。

そんな微笑ましい光景をルイズ達は呆然と眺めています。

 

「本当に仲の良い子達よね」

 

キュルケがそう呟くと、ルイズはすぐ隣で笑っている五月をちらりと見つめ、すぐに目を逸らしました。

 

 

 

 

魔法学院へ戻ってきたルイズ達は報告のためにオスマン学院長の元へと訪れます。

オスマンを前に並ぶ四人の生徒の中、前へ出たタバサはずっと手にしていた破壊の杖が入れられたケースを机の上に置きました。

 

「うむ。よくぞフーケを捕まえ、破壊の杖を取り戻してくれた」

 

オスマンが一行の顔を見回すと、ルイズ達は一礼をします。ギーシュに至ってはバラを手にかなり誇らしそうな仕草でした。

 

「フーケの身柄は王宮へと引き渡した。君達も無事で何よりだ」

「ありがとうございます、オールド・オスマン」

 

生徒達の無事を喜ぶオスマンにルイズが代表して、礼を述べました。

 

「しかし、ミス・ロングビルがフーケであったとはのう……あ~あ……せっかくお尻を撫でても怒らない美人な秘書じゃったというのに、勿体ないわ……」

 

ボソボソと小さく呟くオスマンですが、四人には聞こえておらず呆然とします。

 

「ところで、コルベール君を知らんかね? 君達が朝に出発してから姿が見えぬのだが……」

「あ、先生でしたら今、キテレツ達と一緒にモット伯のお屋敷へ行っておりますわ」

「何じゃと? まったく……キテレツ君のマジックアイテムに興味を持つのは良いが、年甲斐もなくはしゃぎおってからに……。キテレツ君達が君達の後を付いて行ったのは分かっておるわい」

 

魔法学院へ戻る道中、ルイズ達とキテレツ達は別れていました。

キテレツ達はモット伯の剥製コレクションにされてしまったままの女の子達を元に戻してあげるために、取り戻した即時剥製光を持ってキント雲で屋敷へ向かったのです。

屋敷にはまだ兵士がいるのでキテレツ達だけでは入れないため、コルベールが付き添っていったのでした。

別れる際には剥製のままだったフーケを剥製光で元に戻し、暴れられたりしないようにタバサがすぐスリープ・クラウドで眠らせています。

 

「まあ、ともあれこれで一件落着というわけじゃな。さて……本来ならば君達の活躍を王宮に報告してシュヴァリエの称号を授けるなり、何か褒賞を与えたいところなのじゃが……」

 

オスマンのその言葉にキュルケとギーシュの顔が一瞬輝きます。

しかし、オスマンは一行の顔を見回し、申し訳なさそうな顔を浮かべました。

 

「盗賊を捕まえた程度で授与することはできぬとのことじゃ。世の中、色々と掟が変わるものじゃなあ」

 

ため息をつくオスマンに二人はどこかがっかりした様子です。タバサは興味もなさそうでボーっとしていました。

 

「いいえ。いりません」

 

しかし、ルイズだけはきっぱりとそう答えます。

 

「オールド・オスマン。キテレツやコルベール先生に何か褒賞は?」

「うむ。コルベール君にも君達同様に爵位の申請を行ったが、同じように却下されたわい。キテレツ君達は……残念ながら平民じゃからの」

「今回の任務の成功は、キテレツ達の全面的な助力があってこそのものです。それなのにわたし達だけが褒賞を授かるわけにはいきません」

 

そう答えるルイズをキュルケは意外そうな顔で見つめます。

 

「ただいま戻りました、学院長」

 

と、そこへ突然学院長室の扉からノックと共に声が響きます。

ルイズ達が振り向く、入ってきたのはコルベールでした。

 

「おお、コルベール君」

 

一礼して入室するコルベールに続いて、キテレツ達六人がぞろぞろと入ってきます。

 

「あなた達、もう終わったの?」

「うん。みんな元に戻せたよ」

 

キュルケの問いにキテレツが答えます。

剥製光で剥製から元に戻した女の子達は自分達の身に何があったのか分からず呆然としていましたが、すぐに我に返っていました。

モット伯が捕まったことを知らされると、すぐに実家へ帰りたいと次々に騒いでいました。

コルベールが馬車の手配をしたため、女の子達はそれが到着するまで待つことになったのです。

 

「最後はタバサちゃんのドラゴンよ」

「そうね。タバサのシルフィードもちゃんと元に戻してあげないとね」

 

みよ子の言葉にキュルケがタバサの肩を抱きます。

タバサがフーケ討伐に参加した最大の目的は自分の使い魔を元に戻すことなのですから。

 

「コルベール君。ワシに話もせんで、勝手にキテレツ君達と一緒に出かけたりせんでくれ」

「はあ……申し訳ございませんでした」

 

コルベールは苦笑しながらオスマンに頭を下げます。

 

「先生。ありがとうございました。先生達のおかげで、今回の任務を成功させることができました」

「キテレツもサツキ達にも、感謝してるわ」

 

ルイズがコルベールにも礼を述べ、キュルケはキテレツ達に微笑みかけます。

 

「ミス・サツキ、僕は君を尊敬するよ。あのフーケのゴーレムをも倒した君は、まさに理想のワルキューレだ……。僕は君の勇ましい姿を今一度、脳裏に焼き付けよう……」

「ちょ……ちょっと」

「五月ちゃんに何するのさ!」

 

酔ったような仕草で跪くギーシュは五月の手を取り、甲に口付けをしてきました。

五月は困惑して手を引き、トンガリが思わず抗議します。

 

「ははは……ところで君達。今回のことなのだがね……実は頼みがあるんだ」

「何ですか?」

 

コルベールがルイズ達の顔を見回し、言葉を続けます。

 

「今回のフーケの討伐に私はいなかったことにして欲しいんだ。君達はキテレツ君達と協力してフーケを捕まえた、ということにしてもらいたい」

「どうしてですか? コルベール先生の協力もあってフーケを捕まえられたのに……」

「先生は僕達にも色々と教えてくれたんですよ。先生がいなかったら、きっと今回みたいに上手くいかなかったはずです」

 

謙遜するコルベールにルイズだけでなく、キテレツ達も疑問を抱きます。

 

「良いんだよ。そもそも私はフーケの討伐に志願したわけではない。ただ、君達が心配になって勝手についてきたに過ぎないんだ。私はただの教師、それだけさ」

 

コルベールの言葉に、ルイズもキテレツ達も納得ができない様子でした。

そんな中、オスマンがポンポンと手を打ちます。

 

「さあ、今夜はフリッグの舞踏会じゃ。主役はもちろん、君達じゃ。用意をしてきたまえ」

 

オスマンのその言葉にルイズ達は思い出したようにハッとします。

 

「釣具のブドウ会?」

「舞踏会。ダンスパーティのこと」

 

ブタゴリラの聞き間違いにトンガリが即座に突っ込みました。

 

「それでは先生。わたくし達は急ぎの用がありますので」

「コロ助。これでタバサちゃんのドラゴンを元に戻してあげるんだ」

「分かったナリ」

 

コロ助はキテレツから受け取った如意光と即時剥製光を手に、キュルケ達に付いていきます。

 

「あんた達、何をしてるの?」

「僕達はまだ先生に用があるんだ」

「先に行ってて。ルイズちゃん」

 

退室しようとするルイズが呼びかけますが、キテレツ達五人は学院長室に残ります。

キテレツ達はコルベールと一緒にオスマンの机の前に立ちました。

 

「ワシに何か聞きたいことがあるのじゃな。言ってみなさい。力になるぞ」

「この箱の中にある物なんですけど……」

 

キテレツが言うとオスマンは杖を振り、ケースを開きます。

中には破壊の杖と呼ばれるバズーカ砲ことロケットランチャーが入っていました。

 

「キテレツ君達が言うには、この破壊の杖は彼らの世界の代物だそうです。確か……バズーカとか言ったね?」

 

コルベールが尋ねるとキテレツは頷きました。

 

「はい、間違いありません。学院長先生。これをどこで手に入れたんですか?」

「もしかしたら、これがあたし達が帰る手がかりになるかもしれないんです」

「何でも知っていることがあったら教えてください」

 

キテレツ達は次々にオスマンに問いかけます。

 

「なるほど……ふむ、そういうことか」

 

オスマンは一行の顔を見回しながら深刻そうにため息をつきました。

 

「これはな、ワシの命の恩人の形見なのじゃ」

「命の恩人?」

「誰だよ、そいつは」

 

トンガリとブタゴリラは目を丸くします。

 

「もう……三十年も前になるかの……ワシはあの時、森を散歩しておった。その時、ワイバーンに襲われてしまったのじゃ」

 

オスマンはヒゲに触れながら昔話を始めました。

 

「回覧板?」

「ブタゴリラはしばらく黙っていなよ」

 

またも聞き間違いをしたブタゴリラをトンガリが諌めます。これ以上、ボケをかましていては話が進みません。

オスマンは森でワイバーンに襲われてしまいましたが、そこを助けてくれたのが破壊の杖――バズーカ砲の持ち主だったそうです。

その人はもう一本のバズーカでワイバーンを倒しましたが、ひどい怪我を負ってたというのです。オスマンが学院に連れ帰り看護をしましたが、その甲斐なく亡くなってしまったのでした。

オスマンは残されたもう一本のバズーカを破壊の杖と名付け、形見として宝物庫に保管したということです。

 

「この破壊の杖に、そんな謂れがあったのですか……」

 

コルベールはバズーカを見つめて目を丸くしました。

 

「彼は亡くなるその時まで『元の世界に帰りたい』と、うわ言を繰り返しておったのじゃ」

「キテレツ君。その人って……」

「間違いないよ。僕達の世界からやってきた、どこかの国の兵隊なんだ」

 

オスマンを助けた人物は紛れもなく、キテレツ達の世界の住人です。

この異世界へやってきたのはキテレツ達だけではなかったのです。

 

「で、そいつはどうやってここへ来たっていうんだよ?」

「それはさすがに分からないよ」

「すまんの。ワシも彼がどんな方法でやってきたのか、最後まで分からなかったのじゃ」

「それじゃあ全然、手がかりにならないじゃない!」

 

きっぱりと言い切るキテレツとオスマンにトンガリが喚きだします。

 

「落ち着いて、トンガリ君。わたし達以外にも元の世界の人が来ていたなんて、すごい発見じゃない」

 

五月はトンガリを抑えて宥めました。

 

「そうよ。五月ちゃんの言う通りだわ」

 

どんな方法にしろ、元の世界からこの異世界へやってきた人がいたのです。

ならば、その逆で元の世界へ戻る手段もあるかもしれないのです。

 

「何にせよ、よくぞ恩人の形見を取り戻してくれたの。ありがとう」

「私からも、私の生徒達を助けてくれて本当に感謝するよ」

 

オスマンとコルベールはキテレツ達に深く頭を下げて礼を述べました。

キテレツ達は自分達が役に立てたことが嬉しくなり、笑顔を浮かべます。

 

「……ところで、君達がフーケから取り返したのは破壊の杖だけではなかったのじゃったな」

「即時剥製光のことですか?」

 

オスマンが何か思い出したように切り出してきます。

 

「今、思い出したのじゃが……ワシはあのマジックアイテムのことを知っておるよ」

「本当ですか!?」

 

突然のオスマンの言葉にキテレツは声を上げて驚きました。

 

「あれはそう……恩人と出会った日より七十年も昔じゃったかのう……ワシはその頃からこの魔法学院の長を勤めておった」

「話長くなりそう……」

 

どこかのんびりと語りだすオスマンにトンガリが呟きます。

 

「あの日、ワシはアカデミーで行われていた魔法実験の視察に付き合わされておった」

「アカデミー?」

「ああ……アカデミーというのは、トリステイン王室直属の研究機関でね。色々な魔法の実験や研究を行っている所だよ」

 

コルベールがみよ子に説明してくれましたが、どこか声に元気がありません。

 

「まあそうじゃ。あそこは年柄年中、魔法の研究ばかりしておるのだが、少々……というか過激な所があってなあ。ワシも連中には苦労させられておるわ。生徒がとても珍しい使い魔を召喚した時には『その使い魔を引き渡せ』とか言ってくるし……。人体実験やら解剖なんて当たり前じゃわい……」

「怖そうな所ね……」

「うん……」

 

ブツブツと文句を述べるオスマンにキテレツ達の顔が曇りだします。

そのようなおっかなそうな場所を想像するだけでも恐怖してしまいそうでした。

 

「あ、いやいや……すまんのう、話が逸れてしまったわい。とにかく、ワシはそのアカデミーの実験に付き合わされておったのじゃが、その召喚実験の最中に色々な物が召喚されおったのじゃよ。まあ、ほとんどはガラクタばかりじゃったがな。その中に君達のあの錬金の魔法銃があったのじゃよ」

「ほ、本当ですか? 学院長先生」

「うむ。あれは間違いなく、あの時召喚された物と同じだったわい」

「じいさん、どうしてそんな大事なこと教えてくれなかったんだよ」

 

ブタゴリラが不満そうに問いかけます。他の四人も同様のようでした。

 

「すまんの……ワシもさっきキテレツ君が取り出すのを見て急に思い出したものでな」

 

申し訳なさそうにオスマンは弁明します。

オスマンが即時剥製光を目にしたのは実に数十年ぶりと言えるのですから仕方がありません。

 

「じゃが、召喚されたその時、あれは魔法銃としては見なされておらんかった。ただの木製の銃という風にしか見られずアカデミーはすぐに売り払ってしまったわい。魔法銃の噂が立つようになったのは、さっきワシが話した恩人と出会った頃からじゃったな」

「何で調べたりしなかったんですか?」

「このハルケギニアはメイジの魔法が至上とされていてね。それ以外の技術などはどれも忌避されるものなんだよ」

 

キテレツが尋ねると、コルベールは切なそうにそう答えました。

しかし、そのアカデミーという大きな研究機関で悪用されなかったのは幸いだったかもしれません。

もっとも、三十年の間に誰かに悪用されていたかもしれないと思うと、心配でなりませんが。

 

「銃や剣といったものは平民の武器だから、アカデミーも大して関心が無かったのかもしれませんな」

「うむ。そうじゃろうな」

「つまり、剥製光は色々な国や人の手に渡っていたってわけね」

「きっと、その間に誰かが剥製光の効果を知ったんだ。それで魔法の道具として扱われるようになって、あの伯爵が最後に持っていたわけだ」

「それで、その噂をフーケが聞きつけたのね」

 

キテレツもみよ子も五月も次々にオスマン達の話に納得しました。

即時剥製光も五月のようにしてこの世界へ渡ってきたのです。きっと、奇天烈斎の時代から召喚されたのかもしれません。

 

「とにかく、良い収穫だったことには違いないね。この世界には他にも僕達の世界と関わりがあるものがあるはずだよ。それを探してみよう!」

 

それを見つけることによって元の世界へと帰る手段が見つかるかもしれないのです。

もしかしたら、キテレツ達以外に元の世界の人間がこの世界に今もどこかで彷徨っている可能性もありました。

 

「学院長先生、ありがとうございます」

「何の、何の。お役に立ててワシも嬉しいぞ」

 

キテレツが頭を下げるとオスマンもにっこりと笑いました。

剥製光やバズーカ砲がこの世界へ渡ってきた経緯を知ることができたのは、とても有益な情報だったのです。

キテレツ達が元の世界へ帰る方法も見つけることができるかもしれません。

 

「う~ん……」

「どうしたの、ブタゴリラ? おじいさんの顔なんか見たりして」

「なんじゃな? ワシの顔に何かついてるかの?」

 

何やら指で数えていたブタゴリラがオスマンの顔をじっと訝しそうに見つめています。

 

「じいさんって、歳いくつなんだ? 計算すると百年前になるぜ?」

「あ……」

 

ブタゴリラの言葉に思わずキテレツ達も反応してオスマンに注目しました。

即時剥製光がこの世界へ渡ってきたのが百年も前なら、オスマンの年齢は百歳を超えることになってしまいます。

 

「はて? ワシの歳はいくつだったかのう? 自分の歳を数えるのは七十ぐらいからやめてしもうてなあ……」

 

とぼけたように唸るオスマンにキテレツ達は呆然としました。

 

「じゃがしかし、長生きの秘訣は元気でいることじゃよ。それこそ、若いオナゴにちょっとイタズラができるくらいにの」

 

飄々とした態度で喋るオスマンですが、キテレツ達もコルベールも呆れた視線をぶつけていました。

 

「あ~あ……せっかく美人な秘書じゃったのにいなくなってしもうて悲しいもんじゃ。そう思わんか?」

「このエロジジイ……」

 

同意を求めるオスマンですが、コルベールはぼそりと呟いていました。

キテレツ達もボケるオスマンを見て、大きなため息をつきます。

 

 

 

 

フリッグの舞踏会はアルヴィーズの食堂の二階ホールで行われています。

着飾った生徒や教師達はいつも以上に豪勢な料理が並んだテーブルの周りや、会場のあちこちで歓談していました。

 

「コロちゃんには感謝感激なのね。きゅい!」

「元に戻れて本当に良かったナリね」

 

コロ助は山盛りのコロッケが乗った皿を手にし、バルコニーに顔を出してきたシルフィードと楽しそうに話をしています。

シルフィードは数時間前まで剥製にされたままタバサの部屋に置かれていました。タバサが中庭へと持ってくるとコロ助が如意光で元の大きさに戻し、即時剥製光を浴びせて元に戻したのでした。

元に戻るなりシルフィードはタバサのことをベロベロと舐めてとても喜んでいました。

もちろん、恩人であるコロ助のことも舐めて感謝したほどです。タバサも自分の使い魔が元に戻ったことが嬉しかったようで、コロ助に「ありがとう」とはっきり感謝しました。

 

「きゅいっ! 痛いのね!」

 

コロ助に感謝するシルフィードですが、そこへやってきたパーティドレス姿のタバサが杖でシルフィードの頭を叩きます。

 

「無闇に喋るの禁止」

「きゅい~……コロちゃん達はシルフィが喋れるの知ってるのに……」

「ここはパーティ会場」

 

涙目で文句を言うシルフィードですが、タバサは杖で後ろのホールを指しました。

誰もシルフィードが喋ったことに気がつかなかったようですが、これだけ大勢の人がいる場所で喋れば韻竜であることがバレてしまう恐れがあります。

 

「分かったのね……」

「う~ん……ほら、タバサちゃんもドラゴンさんもどうぞナリ」

 

叱られるシルフィードの姿に困惑するコロ助はコロッケが乗った皿を差し出します。

タバサは山盛りになったコロッケを興味深そうに見つめていました。

 

「きゅい、きゅい~♪」

「美味しいナリか? 今日のコロッケはトウモロコシとクリームの味ナリね。あ~ん……」

 

コロ助からコロッケをいくつかもらったシルフィードは美味しそうに食べています。

タバサは黙々とコロッケを手に取ると、一口味わってみます。

 

「……美味しい」

 

初めて食べてみた感想を呟くと、タバサは無表情ながら次々にコロッケを食していきます。

大好物のコロッケを次々に食べていくコロ助にも負けず劣らず、タバサも一口で半分以上を齧り付くほどでした。

それから二人と一頭は仲良くコロッケを食べ続けていました。

 

「タバサちゃんのドラゴンって喋れたの……!?」

「しーっ……これは秘密なの。タバサちゃんと約束したことだから」

「そうだったの……分かったわ」

 

バルコニーの入り口でコロ助達を眺めて驚く五月にみよ子が小声で話しかけます。

五月はシルフィードがとても珍しい韻竜であることは知らなかったのです。

 

「ぷはっ。このブドウのジュース、とっても美味いぜ! 喉に沁みるな!」

「お酒じゃないんだから……まったく、よく満喫してられるね」

「細かいことは気にすんなよ。こんなに美味い料理が食えるんだぜ」

 

肉料理とサラダを食するブタゴリラをトンガリが呆れて見つめます。

キテレツ達はパーティ会場の料理に堂々と手をつけることはできませんでしたが、シエスタが一行のために料理をワゴンで持ってきてくれていました。

子供なのでワインは飲めないので、同様にシエスタが用意してくれたジュースを飲んでいます。

 

「キテレツ。これからどうするのさ?」

「うん。そのことなんだけど、この世界には必ず僕達の世界と関わりがある何かが他にもあるはずなんだ。それを見つけてみよう」

「どうやって?」

「まあ急がなくても良いよ。今はこの世界で過ごしながら、少しずつ手がかりを見つけていこう」

 

食事をしながらトンガリとキテレツはこれからのことを話し合います。

 

「ママ……」

 

トンガリは元の世界へ帰りたいという思いでいっぱいであり、料理の味も分かりません。

 

「あっち行って! あの平民の娘と踊ってれば良いじゃない!」

「だから違うんだって! 僕は彼女の勇姿を貴族として褒め称えたってだけで……」

 

パーティ会場ではギーシュが必死になってモンモランシーに追い縋ります。

つい先ほどまでギーシュは自分の活躍を下級生の女子生徒達に囲まれて自慢していましたが、その場面をモンモランシーに見つかって怒られていたのです。

 

「またあいつフラれてんな」

「もう……五月ちゃんにあんなことしたりして……」

 

トンガリは五月の手にキスをしてきたギーシュを恨めしそうに睨みます。

 

「キュルケの姉ちゃんはどうしてんだ?」

「あそこにいるよ」

 

キテレツが指し示す先にはキュルケがたくさんの男に囲まれて楽しそうにしていました。

 

「ルイズちゃんは?」

「まだ来てないみたいだね」

 

五月から尋ねられてキテレツは会場を見渡しますが、ルイズの姿はありません。

今回のフーケ討伐に参加し、見事フーケを捕らえてみせた四人の主役が揃うまで、パーティは本格的に始まらないようです。

後はルイズの登場を待つのみでした。

 

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~り~!」

 

と、ちょうどそこへ衛士が大声で最後の主役の到着を告げます。

 

「うわあ……」

「ほへ~……」

 

キテレツ達は会場に姿を現したルイズに呆然とします。

パーティドレスに身を包んだルイズは普段の高慢ちきな少女という印象をまるで感じさせません。

まるでお姫様のように高貴な姿はキテレツ達だけでなく、会場の男子生徒達も唖然としていました。

 

「綺麗ね……」

「本当だわ……」

 

男子生徒達は次々にルイズをダンスを申し込もうと声をかけますが、ルイズは眼中にありません。

楽士達が演奏を始め、ダンスが始まります。ルイズはキテレツ達を見つけると、ゆっくり近づいてきました。

 

「あんた達も楽しんでるみたいね」

「まあ、おかげさまで」

 

話しかけてきたルイズにキテレツが答えます。

 

「お前も、孫にもいそうじゃねえか」

「馬子にも衣装」

「うるさいわよ」

 

トンガリに突っ込まれるブタゴリラをルイズは睨み返しますが、怒っている訳ではないようでした。

 

「ルイズちゃんは踊らないの? あんなに誘われてたのに……」

「良いのよ。いつもはゼロのルイズなんて呼んで避けてたのに、こんな時になって掌を返して近づいてくるんだから。下心が見え見えよ」

 

みよ子の言葉にルイズはちらりと後ろを振り返りながら答えます。

入学当初はルイズの家柄から媚を売ってきたり、取り入ろうとしてきた生徒達ですが、いざ魔法がまともに使えないことが分かれば『ゼロのルイズ』と馬鹿にしてくるようになったのです。

 

「まあ確かにそうだね……」

 

都合の良い時だけ近づいて仲良くしていようとするなんて、そんなのは友達とは言えません。

 

「どうかしたの? ルイズちゃん」

 

キテレツ達を見つめて黙り込んでいたルイズですが、少しすると突然頭を下げてきました。

 

「ごめんなさい。キテレツ、サツキ、ミヨコ、カオル、トンガリ……」

「ええ?」

「何だ? どうしたんだ?」

 

いきなりの謝罪にキテレツ達は戸惑います。

 

「あたし……あんた達にずっと嫉妬していたわ。あんた達は、あたしに無い物を全部持っていたから……」

「何だぁ? いきなり」

 

キテレツ達は顔を見合わせ、困惑しました。

 

「あたしにはあんた達みたいに信頼し合える友達なんていないわ……。けれど、あんた達はいつだって団結していられて、とっても輝いてる……。そんなあんた達のことがとっても羨ましくて、悔しかったのよ……」

「ルイズちゃん……」

 

突然語り始めるルイズにキテレツ達は呆然としてしまいます。

 

「本当にあんた達が羨ましいわ。あたしよりずっと子供で平民なのに、物怖じしないであんなに勇気が出せるだなんて……」

「俺達が年下って……お前、いくつなんだ?」

 

ブタゴリラがルイズの言葉に首を傾げて尋ねます。

 

「え? あたしは16よ」

「16!?」

「嘘お!?」

 

ブタゴリラとトンガリはルイズの年齢を聞いて驚きます。

 

「どう見ても16には見えないぜ」

「僕達と同じくらいかと思った……」

「何よ、悪かったわね。どうせあたしはキュルケみたいに大人の体じゃないわ」

 

二人にそう言われてルイズは拗ねたように顔を背けてしまいます。

 

「胸だってサツキより大きくないし……」

 

ぼそりと誰にも聞こえないように呟くルイズは五月をちらりと見つめました。

 

「ルイズちゃん。……ルイズちゃんは独りぼっちなんかじゃないよ」

 

前に出てきた五月がルイズに語りかけます。

ルイズは困惑したような顔で五月を見返しました。

 

「サツキ……」

「ルイズちゃんにだって、しっかり友達がいるじゃない」

「あたしに?」

「ルイズちゃんには、キュルケさんがいるわ」

「何言ってるのよ! キュルケは先祖代々の仇敵なんだから! 友達なんかじゃないわ!」

 

呆然としていたルイズですが、五月の口からキュルケの名が出た途端に怒鳴り散らします。

ブタゴリラとトンガリは思わず耳を塞いでしまいました。

 

「フーケを捕まえに行った時のことを覚えてる? キュルケさんはあんなにルイズちゃんのことを心配してくれていたのよ? それって、ルイズちゃんのことを嫌ってる訳じゃないことでしょ?」

 

ルイズは昼間のフーケ討伐の時のことを思い出します。

キュルケはゴーレムに叩き潰されそうになったルイズを助け、平手打ちを浴びせつつも檄を飛ばしてくれました。

 

「でも、あいつもあたしをゼロのルイズって……」

「キュルケさんはルイズちゃんをいじめてる訳じゃないわ。……わたしは、ルイズちゃんが他の人にいじめられても元気になって欲しいから、ちょっかいをかけてるみたいに見えるの」

 

以前、キュルケと約束していたことを破らないよう、ルイズには気づかれないように彼女の本心を伝えます。

それを聞かされたルイズは複雑な表情で俯き、顔を背けます。

 

「本当はルイズちゃんだって、キュルケさんのことを口で言うほど嫌いってわけじゃないんでしょう?」

「冗談じゃないわよ! あんな女なんて! ……あんな……女なんて……」

 

咄嗟に五月の言葉を否定しますが、不思議と否定しきることができません。

先祖代々の仇敵であり、嫌いであるはずのキュルケのことを心の底から憎らしいと思えないので複雑な気分でした。

 

「素直じゃねえ奴」

 

そんなルイズの姿を見て、思わずブタゴリラは呟きました。

ルイズの後ろでは音楽に合わせてダンスが続いています。五月はそちらを見ると、思いついたように笑います。

 

「ねえ、ルイズちゃん。わたしが一緒に踊ってあげるわ」

「え?」

「せっかくのダンスパーティなんでしょ? だったらちゃんと踊らないと、パーティに来た意味がないじゃない」

「で、でも……女同士じゃない」

「良いじゃない。女の子同士だって。ほら、行きましょう。ルイズちゃん」

 

五月は困惑するルイズの手を取り、二人は一緒に並んでホールへと入っていきました。

 

「本当に素直じゃねえ奴だな。友達になってくれって言やあ、それで良いのによ」

「仕方が無いよ。僕らと違って貴族のお嬢様なんだから」

 

ブドウジュースを一気飲みするブタゴリラにトンガリが答えました。

 

「五月ちゃんもあの子の友達になってあげたいのかしらね」

「そうだろうね。きっと、独りぼっちなのが見過ごせないんだよ」

 

みよ子もキテレツも五月がルイズのことを気にかける理由が分かったような気がして納得します。

 

「タバサちゃんもコロッケが気に入ったナリか?」

「美味しい」

「きゅい、きゅい~♪」

 

バルコニーではコロ助とタバサとシルフィードが仲良くコロッケを食べ続けています。

 

 

 

 

五月と手を取り合い、ルイズは音楽に合わせて優雅にステップを踏みます。ルイズに合わせて五月も付いてきていました。

 

「ねえ、サツキ。あんたが最初にここへ来た時に言ったわよね? 自分は別の世界から来たって」

「うん……」

 

ルイズに召喚された際、五月は自分が違う世界の住人であることを話しましたが、信じてもらえませんでした。

 

「その話……信じてあげるわ」

「え?」

「あたし、あんた達と先生の話を聞いてたの。あの破壊の杖もあんた達の世界のものだって」

 

ルイズは数時間前に学院長室から退室した後、すぐ気になって戻ってくると扉を挟んで中の会話を聞いていたのです。

 

「キテレツ達は……あたしが壊したあのマジックアイテムで違う世界から来たのよね?」

「うん。わたしも驚いたんだけどね」

「元の世界に帰れるアテはあるの?」

「ううん、まだ見つからないけど……。でも、この世界にはわたし達の世界と関係がある物が他にもあるかもしれない。元の世界に帰る方法も見つかるかもしれないわ」

「それが見つかったら……あんた達は帰っちゃうんでしょ?」

「うん……」

 

切なそうに俯くルイズに五月も苦笑しながらも頷きます。

 

「仕方がないわよね……あんた達にはちゃんと帰る場所があるものね……」

 

五月達の故郷では家族や大切な人達が待っている、ということを思うとルイズは自分が帰る方法を潰してしまったことを申し訳ないと感じます。

 

「でも……さよならは言わないわ」

「え?」

「ルイズちゃん達と別れる時が来ても……わたしは『さよなら』なんて誰にも言わない」

 

ルイズは五月の顔を見て、寂しそうな顔を浮かべているのを見て目を丸くします。

 

「友達と別れるのは辛いから……」

「サツキ?」

「わたしね、元の世界だといつもキテレツ君達と一緒にいられる訳じゃないの。前に話したよね? わたしの家がお芝居の仕事をしてるってこと」

 

ルイズは五月が旅芸人の仕事をしている、という話を思い出します。

 

「お仕事で色々な町を回らないといけないから、あちこち転校を繰り返してきたわ。だから、お友達ができてもすぐ離れ離れになっちゃうの」

「じゃあ、キテレツ達とは?」

「うん。キテレツ君達ともすぐに別れちゃうわ。またいつかキテレツ君達の学校に戻ってくるけど、それでも長くは一緒にいられないの」

 

花丸菊之丞一座の役者である五月は転校先で友達ができても、仕事の都合ですぐ転校してそれっきりになってしまいます。ひどい時には友達ができなかったこともありました。

故に転校してからもまた再会できるキテレツ達はかけがえの無い大切な友達でした。

 

「本当だったら元の世界じゃ、来月になったらまた転校することになってたのよ」

 

そして、六月になればまた別れの時が訪れるのです。

転校する時になっても、五月は決して「さよなら」とは言いません。

友達と別れるのはとても辛いのですから。

 

「サツキ……」

 

ルイズは五月が抱えている孤独を感じ取り、唖然としました。

 

「この世界に呼び出された時、もうキテレツ君達と会えないのかなって……本当は考えてたの」

 

五月はルイズに本音を打ち明けます。

 

「だから、キテレツ君達が助けに来てくれるって祈りながら……この世界でも新しい友達を作ろうって決めてたんだ」

 

寂しそうな顔を浮かべつつも、五月は微笑みます。そんな五月を見つめながらルイズは呆然とします。

五月は五月なりに、この異世界ハルケギニアで生き抜こうとしていたのです。

 

「メイドのシエスタさんとも……ルイズちゃんとも……。独りぼっちなのはとても辛いから……」

 

もしキテレツ達が助けに来てくれなければ、本当に五月はこの異世界で取り残されたまま独りぼっちとなってしまったことでしょう。

ルイズは五月が本当はとても不安であったことを知り、本当に申し訳ないと感じてしまいました。

 

「わたし、ルイズちゃんの使い魔にはなってあげられないけれど……この世界にいる間は、友達でいてくれるよね?」

 

使い魔として一生を共にすることはできなくても、友達として心を通わせたい。

それが五月のルイズに対する思いなのです。

 

「い、良いわよ……」

「ありがとう。……これからもよろしくね。ルイズちゃん」

 

恥ずかしそうに目を背けるルイズですが、五月は嬉しそうに微笑みます。

二人の孤独な少女は優雅な音楽の中、楽しそうに踊り続けました。

 

 


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