キテレツ大百科 ハルケギニア旅行記   作:月に吠えるもの

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♪ お料理行進曲(間奏)


コロ助「ファンタジーの世界って、思っていたよりのんびりしているナリね」

キテレツ「呑気なこと言ってる場合じゃないよ。どんな世界でも危険はいっぱいなんだから」

コロ助「ワガハイ、みよちゃんと一緒に人さらいにさらわれてしまったナリ」

キテレツ「知らない人に話しかけられてついていっちゃ駄目だろ!」

コロ助「申し訳ないナリ……」

キテレツ「次回、トリスタニア捜索! 五月ちゃんを求めて」

コロ助「絶対見るナリよ♪」



トリスタニア捜索! 五月ちゃんを求めて

コルベールに魔法学院へと連れられた五月はひとまず、寮塔のルイズの部屋へと招かれました。

コルベールは魔法学院の責任者、オスマン学院長と話し合い、ルイズと五月をどうするかを決めるのです。

 

「何であんた達まであたしの部屋にいるのよ!」

「あら、いいじゃない。ゼロのルイズが召喚した使い魔がどんなものなのかを見るくらい」

 

部屋の主のルイズはベッドに両腕と足を組み腰掛けたまま怒鳴りました。しかし、壁に寄りかかったままのキュルケはルイズの怒りを軽くいなします。

 

「使い魔って……まだわたしはこの子の使い魔になるって決まったわけじゃ……」

 

膝に手を置いて行儀よく椅子に座る五月は戸惑いながら答えます。

 

「この子って……あんた、平民が貴族に向かってそんな口を聞いて良いと思ってるの?」

「そういえば、貴族とか平民とか言っていたけど……ここってもしかしてヨーロッパなのかしら?」

 

五月はルイズ達の身なりや物言いなどから、自分がずっと昔の世界へとタイムスリップしてしまったのかという考えも抱き始めていました。

タイムトラベル自体は前にキテレツ達と一緒に日本の平安時代へと行ったことがあるのです。

 

「ヨーロッパ? 何よそれ? どこの国? そんなの知らないわよ。とにかくあんたが平民である以上、貴族のあたしに気安く声をかけることは許さないわ」

「あ~ら、良いじゃないの。わたしは別に気安く声をかけてくれたって構わないわ。自己紹介が遅れたわね、わたしはキュルケ・フォン・ツェルプストーよ。よろしくね、サツキ」

「はい。こちらこそ」

 

気さくに話しかけてくるお姉さんのキュルケに五月は微笑みます。しかし、ルイズは不機嫌なままです。

訳あって、ルイズはキュルケとはあまり仲が良くはありません。キュルケが今、ここにいるというだけで不愉快を感じるほどなのですから。

 

「それからこの子はわたしの友達のタバサよ」

 

キュルケの隣には青い髪の眼鏡をかけた少女が杖を抱えたまま静かに本を読んでいます。

しかし、タバサは本から視線を外さないまま挨拶もしません。

 

(何だか寂しそう)

 

タバサの顔と瞳を見て、五月は自然とそのような印象を抱きました。

 

「きゅるきゅる」

「ああ、それとこれがわたしの使い魔のサラマンダー・フレイムよ」

 

キュルケの足元で体を伏せたまま喉を鳴らしているのは大きなトカゲです。尻尾の先に火を灯し、口からは炎の吐息を漏らしています。

 

「へぇ、可愛い」

「あら、あなたにはこの子の良い所が分かるようね」

 

意外にもイグアナや恐竜といった爬虫類などが好きな五月にはサラマンダーは心をくすぐられるようです。

五月が頭を撫でてやるとフレイムは気持ち良さそうにきゅるきゅると鳴きます。

 

「いい加減にしなさいよ! あんた達ぃ!」

 

そんな様を見つめていたルイズは、イライラとしていましたがついに堪忍袋の緒が切れたように憤慨しました。

 

「あたしの進級がかかっているっていうのに、他人事みたいに呑気にして!」

 

そうです。ルイズがここまでイラついているのは、自分の合否の結果についてでした。

使い魔の召喚自体はできましたが契約はまだしていません。二年生に進級するためには平民であろうとルイズは召喚した五月と契約をしなければならないのです。

しかし、五月は契約をする気はないようですし、しかも自分のいた場所に帰ろうとしているのです。

そうなってしまえばルイズは使い魔を持つことができず、落第してしまうのです。……それは、ルイズにとっては最悪の未来です。

 

「大体、あんたが大人しく契約をしないから悪いのよ! あんたが使い魔になっていれば……こんなことには……!」

 

五月を睨みつけるルイズの目には、涙がじわりと浮かび上がっていました。

 

「ルイズちゃんには悪いとは思ってるわ。でも……わたしにだって自分の生活や仕事もあるし、ずっとあなたの使い魔になるっていうわけにはいかないの」

 

あくまで五月は一生ルイズの使い魔になる気はありません。見知らぬ場所にいきなり連れてこられてそれまでの生活を全て捨てるなんてことはできません。

ましてまだ五月は小学五年生なのです。転校を何度も繰り返して、生活の環境が変わることは慣れていますが、それも程度というものがあります。

 

「そういえば、サツキってオモテノマチって所から来たって言ってたわよね。仕事って何をやってるの?」

「うん。わたしの家、一座をやっていて色々な町を周りながらお芝居をしてるの」

「ふ~ん。旅芸人の一家……面白そうじゃないの」

 

キュルケは五月の話に、興味津々といった雰囲気です。五月も屈託なく話をしてくれるキュルケとすっかり打ち解けていました。

しかし、ルイズは相変わらず顰め面でそっぽを向いています。

 

「あんたが何をやっていたにせよ、勝手に帰るなんてことは認めないからね。絶対に!」

 

せっかく自分が召喚した相手は平民。しかもその平民は自分との使い魔の契約を拒み、帰ろうとしているのです。

自分の言うことをまるで聞いてくれないという光景と現実に、気位の高いルイズは納得できませんでした。

 

「困ったなぁ……」

 

対する五月も、ルイズがここまで使い魔の存在に固執することに困惑していました。

そんな中――

 

「ミス・ヴァリエール。オスマン学院長がお呼びでございます。至急、学院長室へ来てください」

 

コンコン、と扉をノックする音と共に外から女性の声が聞こえます。

その声を聞いた途端、ルイズの顔から表情が消えていきました。ついにこの時が来たか、といった顔です。

 

「……何やってるのよ! とっとと付いてきなさいよ!」

 

癇癪をあげるルイズに五月も立ち上がり、後ろを付いていきます。

扉を開けると、そこには緑髪の眼鏡をかけた綺麗な女性が立っていました。学院長の秘書を勤めるミス・ロングビルです。

 

「ちゃんと進級できることを祈ってるわ。ルイズ~」

 

からからと手を振りながらキュルケはルイズ達を見送ります。しかし、ルイズは肩越しにキュルケを睨みつけていました。

 

 

 

 

魔法学院の中央に立つ一番大きな塔の最上階に学院長室があります。

ルイズ達はロングビルの後ろについて長い長い階段を上がっていき、目的の部屋へ辿り着きます。

 

「オスマン学院長。ミス・ヴァリエールをお連れしました」

「うむ。入りたまえ」

 

部屋の中から声がかかり、ルイズ達は中に足を踏み入れます。

 

「失礼します」

 

ルイズはしっかり入室の挨拶をして入室し、五月も後に続きます。

部屋の奥の大机の前にはコルベールが待っていました。

そして、机で席についているのは立派な髭を蓄えたおじいさんです。

 

「ほう。この子が、ミス・ヴァリエールが召喚した平民の少女とな?」

「はい。ハナマル・サツキと言うそうです」

「うむ。お初にお目にかかるの。ワシがこのトリステイン魔法学院の長、オスマンじゃ。人はオールド・オスマンと呼んでおる」

 

コルベールに一度確認を取ったオスマン学院長は五月と向かい合い、自己紹介をします。

 

「さて……ワシも教師を続けて色んな生徒やその使い魔達を見てきたものじゃが、人間が召喚されるとは前代未聞の事態じゃ」

 

水ギセルをふかしながら喋るオスマンはどこか飄々としています。

しかし、そんな態度に対してルイズはガチガチに固まったままです。

 

「サツキくん、と言ったの? 聞けば君は、遠い所からミス・ヴァリエールにこうして呼び出されたわけなのじゃが……どうしても使い魔になる気はないのだね?」

「はい。わたしのお母さんもお父さんも、友達もみんな心配しているでしょうから」

 

オスマンの問いに対して五月はきっぱりと自分の本心を答えます。

 

「しかし、君の故郷は恐らくここより遥か遠い異国であろう。自分の力のみで帰ることが果たしてできるものかね?」

「わたしだけじゃ無理です。帰る道も分からないし、そもそもここがどこなのかすら分からないんです」

「それでも君は、自分の故郷に帰ると言うのだね?」

 

オスマンは飄々としつつも威厳のある眼光で五月を真っ直ぐに見つめてきます。

 

「わたしは、わたしの友達を信じています。きっと、みんなわたしのことを助けにきてくれるはずですから」

 

五月が使い魔になろうとしないのも、友達を信じているからこそです。きっとみんなは来てくれる。迎えに来てくれる。そして、みんなで一緒にあの表野町へと帰るのです。

キテレツの発明は時空さえも飛び越える奇跡をもたらしたのですから。

 

「ふ~む……まあ、今回の件はこれまでに全く前例が無かったものじゃ。人間に使い魔の契約を行うとはっきり言って、どうなってしまうのか分からんし、今まで通りのやり方で儀式を執り行うというのは少々危険かもしれん」

 

オスマン学院長は五月の言葉を聞いて深く熟考し、そう答えます。

 

「それにサツキくんには、帰るアテがあるようじゃ。たとえ契約を結ぶことができたとしても、恐らくそう長くは共にいられまい」

 

そして、今度はルイズの方へ視線を移しました。オスマンに見られるルイズはさらに緊張した面持ちになります。

 

「よって、ミス・ヴァリエール。今回は特例により、君の進級を認めるとしよう」

「……! ほ、本当ですか!?」

 

オスマンの言葉に一瞬、ルイズの頭は真っ白になりました。しかし、すぐに顔をパッと輝かせます。

 

「何、君は使い魔の召喚自体はしっかり成功したのじゃからな。ギリギリ、合格といった所じゃよ」

「……あ、ありがとうございます!」

 

ルイズは深く頭を下げて合格を告げてくれた学院長に感謝しました。

 

「サツキ君。君の故郷からの迎えというのは、いつ頃来るのかな?」

 

そんな中、コルベールは五月に尋ねます。

 

「それは分かりません。……でも、キテレツ君ならそんなに時間をかけずに私を見つけてくれると思います」

「ずいぶん変わった名前の友達だね……しかし、何か君をすぐに見つける手段でもあるみたいだね」

 

コルベールはちらりとルイズと五月を交互に見比べました。

 

「では、迎えがくるまでの間、ミス・ヴァリエールの元に給仕としてこの学院に留まることを認めましょう」

「え、ええ?」

「ミス・ヴァリエールが呼び出した以上、君が彼女を監督するんですよ」

 

驚くルイズにコルベールは教師らしい態度できっぱりと言いました。

五月としてはお手伝いさんとしてしばらくルイズの世話になるくらいなら別に構いません。

しかし、ルイズは微妙な様子で五月を見つめています。

 

「よろしくね、ルイズちゃん」

「ご主人様、と呼びなさい。これからあんたはあたしの世話になるんだから」

 

平民にここまで気安く話しかけられているのは気に入らないのでした。

使い魔の契約では、はじめてのチュウを同じ女同士でやらなければならなかったのですが、それをやることすらありませんでした。

 

 

 

 

五月が魔法学院へ滞在することになった翌日の朝、王都トリスタニアのセント・クリスト寺院の裏側でのことです。

 

「うわああああっ!」

「痛ってえ!」

 

そこは何にもない静かな場所で物置き場となっていましたが、突然空間に光の鏡が現れるとその中から五人組の子供達が飛び出てきたのです。

五人を投げ出した鏡はそのまま消えてしまい、地面に投げ出された五人はぐったりと倒れたままでした。

 

「大丈夫? みんな」

「え、ええ……」

「ここ、どこなの?」

 

キテレツはみんなの安否を確認します。みよ子もトンガリも、無事なようでした。

 

「ブ、ブタゴリラ……重いナリ……」

 

コロ助はブタゴリラに押し潰されて苦しんでいました。何しろ大量の野菜の入ったリュックを背負っているのですから。

冥府刀を使い、異次元空間を流されてきたキテレツ達がやってきたのは人通りの少ない寺院の裏のようです。

冥府刀をリュックにしまい、起き上がったキテレツ達は寺院の表へと出てきました。

 

「どこかの町みたいね」

 

目の前に広がるのは大勢の人々が行き交う通りでした。

 

「見て、お城が見えるよ!」

 

トンガリが指差した遥か先には、トリステインの王宮が見えています。

 

「ここ、本当に良い次元なのか? タイムスリップしただけじゃねえだろうな?」

「異次元。見た所、中世のヨーロッパみたいな雰囲気だけれど……」

「それはないよ。ここは間違いなく、異次元……っていうより、異世界だね。ほら、あの看板を見て」

 

困惑するブタゴリラとトンガリですがキテレツが指したのは、道の一角に立つ看板です。

一行はその前に駆け寄りますが、そこに書いてある文字は日本語や英語でも無ければキテレツの世界のあらゆる国のものではありません。

 

「何て書いてあるナリか?」

「さあ……さっぱり読めないよ。でも、ここが僕達のいる世界とは全く違う世界であることは確かさ」

「とにかく、この良い世界のどこかに五月がいるんだよな? 早速、行動開始だ。ちょっと、すいませーん!」

 

ブタゴリラは道行く人に話しかけますが、通行人はおかしなものでも見るような顔をします。

何人かはブタゴリラに受け応えをしますが、逆にブタゴリラが困った顔をしていました。

 

「な、何だよ。さっぱり言葉が通じないぜ」

「おっと。ここじゃ僕達の世界とは言葉が違うんだ」

 

キテレツはリュックから耳栓のようなものを五つ取り出します。

 

「みんな。これを耳に入れて」

「通詞機ね。分かったわ」

 

これは通詞機という発明品で、耳に入れることで母国語以外の言葉を翻訳し、さらには喋ることができるようになるものです。

 

「あー、すいません。俺の言葉分かりますか?」

「何でえ、べらぼうめぇ! 人が忙しい時に話しかけるんじゃねえ! こっちゃあ急いでるんだ!」

 

通詞機を耳に入れたブタゴリラは再度、通行人の一人に話しかけると今度はしっかり話が通じました。

ブタゴリラが話しかけた人は悪態をつくと歩き去っていきます。

 

「ブタゴリラ。ペンと、ノートかメモ帳を持っていない?」

「え? ああ、持ってるぜ?」

 

キテレツに尋ねられてブタゴリラはリュックの横ポケットからペンとメモ帳を取り出します。

 

「トンガリ。これに二枚、五月ちゃんの似顔絵を描いてくれないかい?」

「お安い御用さ!」

「そっか、まずは情報集めという訳ね」

 

どうやらキテレツはまずは町の人達から情報を集めることにしたようです。似顔絵を通行人に見せて、それを頼りに五月の行方を探る作戦です。

絵が上手いトンガリならば五月の似顔絵を描くことなんてお手の物です。惚れている相手ならば尚更です。

 

「よぉし、できた!」

 

わずか数分でメモ帳には正確な五月の可愛い似顔絵が描かれました。

 

「それじゃあ、僕とみよちゃんとコロ助でここら辺をあたってみるからブタゴリラとトンガリは向こうの大通りの方を頼むよ」

 

そして、ここからは二手に分かれて情報集めが始まります。少しでも五月の手がかりを見つけるためにはその方が効率が良いのです。

 

「二人だけで大丈夫?」

「任せろって。しっかりと包丁集中してくるぜ!」

「情報収集!」

 

みよ子が心配する中、ブタゴリラはトンガリの肩を抱いて胸を叩き、張り切ります。

 

「連絡用にトランシーバーを渡しておくから。何かあったら連絡してくれ」

「分かったよ」

「よっしゃ! 早速、行動開始だ!」

 

トンガリがキテレツ自作のトランシーバーを受け取り、一行は二手に分かれて情報集めを始めます。

 

 

 

 

大通りが広がるトリスタニアのブルドンネ街を歩くブタゴリラとトンガリの二人は五月の似顔絵を道行く人達に見せて尋ねていきますが、何も情報は得られません。

どんなに尋ねてみてもみんな、「知らない」「見たことがない」と言うばかりです。

 

「五月ちゃん……大丈夫かな……」

 

五月の身を心配するトンガリは五月の似顔絵を見つめながらがっくりと肩を落とします。

こんな見ず知らずの世界にやってきてしまって、きっと泣いているのではないか、酷い目に遭っているんじゃないかと不安に駆られます。

 

「へえ~、こいつは良い野菜だ! うちの店で売り出したいくらいだぜ!」

「お、分かるかい! ボウヤ! こいつは今売り出し中の野菜だよ!」

 

トンガリが塞ぎこむ中、ブタゴリラは女主人が営む野菜市場の店先に出ている野菜を見て感嘆としていました。

 

「ブタゴリラ! 僕達は遊びに来たんじゃないよ!」

「良いじゃねえか。せっかく良い世界に来たんだから、少しくらいは見て回ったって。おばさん、つかぬことをお聞きしますがこんな女の子を見ませんでしたか?」

「う~ん……見たことない顔だねぇ……」

「俺達の友達なんですよ! もし見かけたら、知らせてください!」

 

トンガリからひったくった似顔絵を見せますが、やはり情報は得られません。

 

「こんなんで五月ちゃんが見つけられるのかなぁ……」

 

この先が思いやられるとトンガリは深く溜め息を吐いていました。

 

「ほええ~……すごいのね。これが人間の町なのね……」

 

ふと、トンガリの目の前を通り過ぎるメイド姿の青髪の女性は子供のように目を輝かせて、行き行く人々や軒を連ねる屋台を物珍しそうに見回しています。

トンガリはその女性の存在にすら気づかないほどに落胆しており、ブタゴリラは相変わらず異世界の野菜にはしゃいでいました。

 

 

 

 

ブルドンネ街に比べると若干、人通りが少なめなチクトンネ街をキテレツ達三人は歩き回ります。

しかし、こちらでも有力な情報は何も得られず、時間だけが過ぎていきます。

 

「はひぃ~~……疲れたナリね……」

 

コロ助はクタクタにのようで、疲れた顔をしています。

道行く人達は通りがかる度にコロ助が珍しいのか、ちらちらと振り返ってきました。

 

「もしかしたら、五月ちゃんはこの町にはいないんじゃないかしら?」

「うん。これだけ人に聞いても何の手がかりがないからね。その可能性は高いよ」

「ブタゴリラ君達と合流しましょう」

 

キテレツはトランシーバーを手にすると、ブタゴリラに連絡を取ることにします。

 

「もしもし、トンガリ? ブタゴリラ? 聞こえる?」

『キテレツ。そっちはどう? 何か分かった?』

 

トランシーバーからはトンガリの声が聞こえてきます。

 

「全然ダメ。トンガリ達の方は?」

『こっちも手がかりなしさ。……ちょっと、ブタゴリラ! 何やってるんだよ!』

「二人とも、あんまり目立つようなことはしないでよ?」

 

この世界は一体、どういった世界なのかすら分からないのです。下手に目立つと、何が起きるか分かりません。

 

「おじさん、こんな女の子を知らないナリか?」

 

コロ助はキテレツが連絡をしている間でも熱心に五月の似顔絵を通行人に見せては尋ねていました。しかし、結果は同じです。

ところが、それが十人ほどを超えた時、それまでとは違う反応が返ってきました。

 

「……この子は、どこかで見たことがあるね。ボウヤの友達かね?」

 

コロ助が話しかけた老紳士は、間違いなくそう言いました。その言葉に、コロ助の疲れた顔が一気に変わります。

 

「まことナリか?」

「ああ。案内してあげよう。……こっちだ」

 

老紳士に招かれ、コロ助は意気揚々と付いていきます。

 

「あっ! コロちゃん!」

 

トランシーバーで連絡中のキテレツの傍にいたみよ子がコロ助が見知らぬ男についていくのを目にして、慌てて追いかけます。キテレツはすぐには気づきません。

 

「あっ! みよちゃん! コロ助!」

 

十秒ほど遅れて二人が路地に入っていくのを目にしたキテレツも急いで追いかけ始めます。

 

「のわあ! 何するナリー!」

「きゃああっ! 離し……ムグッ!」

 

路地に入りかけた所で、キテレツは二人の悲鳴を耳にしました。

キテレツの顔が青ざめます。

 

「みよちゃん! コロ助!」

「キテレツーっ! 助けてナリーっ!」

 

キテレツが路地に入って見たのは、みよ子とコロ助が二人の男に捕まっている所でした。

コロ助はチョンマゲを掴みあげられ、みよ子は口を塞がれて抱かかえられています。

 

「ずらかれ!」

「うわぁ!」

 

男二人は火打ち式の短銃を抜いて、キテレツ目掛けて発砲しました。

命中精度が悪いのと、キテレツが驚いて尻餅をついたおかげで弾は当たりませんでした。

しかし、みよ子達はそのまま男達にさらわれてしまいました。

 

「みよちゃん……」

 

キテレツは青ざめた表情で愕然とします。自分が目を離してしまったおかげで、二人はさらわれてしまったのです。

この異世界では何が起きるか分からないと、理解していたはずなのに。

キテレツは小汚い路地でがっくりと肩を落としていました。

 

 


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