今世紀エヴァンゲリオン   作:イクス±

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新年明けましておめでとうございます。
お久しぶりです、年内投稿を掲げて置きながらギリギリ?間に合わせることができなかった負け犬でございます。


あぁ・・・


私は来た!(採集決戦のその向こうへ)

私は見た!(手フェチ殺人鬼の死に様を)

ならば後は勝つだけの事!(年内投稿完遂)


とか言ってかっこよく投稿したかったなぁ・・・


あ、今回のテーマは「シンジくんの失敗」なので割とシリアス多めです。

それと時間かけただけに文字数は前回の約二倍となっておりますので、ゆっくり暇な時によんでいってね!


第拾四話「人類の希望、誰かの絶望」

その日、とある場所のとある密室。

真っ暗な密室の中心に設置されているSFでお馴染みの光る机を囲むようにして座る、六つの影があった。

その陰の持ち主達はそれぞれの目の前に置かれていた資料に目を通す。

 

 

 

『第3新東京市街戦』中間報告書

責任者 作戦課長 葛城ミサト一尉

《その結果として我々の損害は極めて少なく、未知の目標に対し経験ゼロの少年が初陣に挑みこれを完遂せしめた事実、碇シンジ君の功績は特筆に値するものである。》

 

第3使徒及び初号機におけるA.T.フィールドの発生を確認。

初号機、目標のA.T.フィールドを侵蝕。

使徒、殲滅。

迎撃施設、一部破損。

エヴァ初号機、破損は見られず。

 

鈴原トウジの作文より抜粋

《わいの妹はまだ小学2年生で、こないだの騒ぎで死にかけました。逃げるときに瓦礫の下敷きになって、それに気づかんかったアホな大人たちに置いてかれてしもうたんです。そんな妹を助けてくれたのがあの怪物をぶっ倒してくれたロボットのパイロットでわいの友達、シンジでした。アイツは妹と町の住民を一気に救ってみせたくせに全くけったいな態度を見せないヒーローの手本みたいな奴なんです。わいはいつか絶対この恩を返したいと思っております!》

 

 

 

第4の使徒。シャムシエル襲来。

当時、地対空迎撃システム稼働率48.2%。

第3新東京市、戦闘形態への移行率96.8%。

 

洞木ヒカリの手記(役割はクラス委員長)

《いつもは友達と学校とかで避難訓練ばかりやってたから、今更って感じで実感なかったです。男の子は遠足気分で騒いでいたし私たちも恐いって感じはしませんでした。何より、怪物と直接戦うはずのシンジくんが全然恐がって無かったのですから、それは当たり前なのかもしれません。》

 

使徒、第3新東京市上空へ到達。

第二次直上会戦。多少のアクシデントに見舞われるも、使徒、殲滅。

NERV、原型を留めた使徒のサンプルを入手。

だが、分析結果の最終報告は未だ提出されず。

 

 

 

第5の使徒。ラミエル、襲来。

難攻不落の目標に対し、葛城一尉、ヤシマ作戦を提唱、承認される。

一人目の適格者《ファーストチルドレン》エヴァ零号機専属操縦者、綾波レイ。

凍結解除されたエヴァ零号機にて、初出撃。

同深夜、使徒の一部、ジオフロントへ侵入。

NERV、ヤシマ作戦を断行。

 

相田ケンスケの個人資料より抜粋

《シンジは簡単そうに言うけど、あの土壇場でA.T.フィールドの活用法を思いついたのは本当にすごいと思うし、それを即座に実行に移す行動力も飛び抜けている。いや、この場合は想像力かもしれないがとにかく異常だ。しかし異常だからこそ、僕等の日常は変わらずに存在しているのだと思う・・・と、トウジに話したら「お前が言うなお前が」と言われた。解せぬ。》

 

ヤシマ作戦、完遂。

エヴァ零号機、初号機、共に無傷。

パイロットにも異常は見られず。

 

 

第6の使徒。ガギエルに遭遇。

2人目の適格者《セカンドチルドレン》エヴァ弐号機専属操縦者、惣流・アスカ・ラングレー。

エヴァ弐号機にて、初出撃。

この時3人目の適格者《サードチルドレン》も同乗、共にシンクロを実行。成功を収める。

A.T.フィールドを応用した海上での近接戦闘。

旧伊東沖遭遇戦にて使徒、殲滅。

 

 

少しの時が過ぎ、全員がその素晴らしい結果が記された資料に目を通し終わる。

が、その資料の内容とは裏腹に室内はどこか重い空気が立ち込めており、誰もすぐに口を開く様子は無かった。

また少し時間が過ぎた後、代表するようにして長方形の机の先端部分、所謂誕生日席と呼ばれる場所に座った老人、秘密結社ゼーレの中心人物であり人類補完委員会議長キール・ローレンツが話し始める。

 

 

「・・・今回、予定より早く会議を開く事になったわけだが、その理由はすでにここにいる全員が理解していると信じている」

 

 

相も変わらず重苦しい様子で言い放たれたその言葉に、続くようにして一人の議員が口を開いた。

 

 

「先の戦闘での国連海軍の被害がヤバい件について」

 

「それは君の国の話だろう!」

 

「左様。黙っておれ」

 

「ちょ、おま」

 

 

再び辺りに静寂が訪れる。

最近、何故か妙な言葉を口走るようになった可哀そうな議員を他の議員達が養豚場の豚を見るような目で蔑む中、キールがため息を吐きながら話を進める。

 

 

「・・・サードチルドレン、碇シンジについてだ」

 

 

その言葉と同時に机の中央にスクリーンが投影され、そこにはクラスメイトと談笑しながら登校するシンジの様子が映し出された。

 

 

「彼の力は素晴らしい、ここまでの戦闘データを見ても他のチルドレンとは比べ物にならん」

 

「左様。未知の敵に対してほとんど無傷で圧勝、まさに人類の希望ですな」

 

「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」

 

 

戦いの疲れなどまるで感じさせず楽しそうにしているシンジを見ながら議員は思ったことを口にする。

もっとも、心の底から思ったことを口にしている者はただの一人もいないのだが。

シンジへの賞賛は、老人たちによる唯の皮肉だった。

 

 

「だが、我々にして関してはそうも言ってられん」

 

「結果はシナリオ通りだ・・・だが過程があまりにも綺麗すぎる」

 

「まだ一度も暴走していないのだろう?彼女はいつ目覚めるというのだね!」

 

「どちかと言うと大問題だな」

 

「このままではシナリオから大きく外れてしまうぞ!」

 

 

議員達は次々に己の感じた不安をそのままにぶちまけ、相乗効果のようにしてそのテンションを上げていく。

最初は特定の誰かへ向けてのものではなかったその言葉達は、次第にキールの反対側に位置する誕生日席・オルタに座ってじっとしているその人物へと矛先を集めていく。

 

 

「我々のシナリオはどうなるのかね!」

 

「君の息子だろう、どうにかならないのか!?」

 

「左様。これは責任問題になるかもしれんぞ」

 

「あーもうめちゃくちゃだよ!」

 

 

「・・・」

 

 

言葉の集中砲火を喰らってもゲンドウは顔色を変えない。

しかし動揺して無いわけでも無かった。

最初から今まで一番静かだったのは彼だったが、一番内面穏やかじゃないのも彼だったのだ。

しかし幸いにも、同じ計画を進める者だというのに彼らはあまり親しくない。

最初から悪かった顔色に気づく者などここには居なかった。

 

 

「問題ありません、全てはゼーレのシナリオ通りに」

 

 

結局、その後もゲンドウはそれ以上の事は言わずにそのまま集会は終了した。

ゲンドウは不満を隠そうともしない議員達を残してその場を後にすると同時に、端末を取り出し加持に連絡を入れる。

 

端末のコールを聞きながら、ゲンドウは先ほどのスクリーンのシンジを思い出す。

集会が終わり、役目を失ったスクリーンが消えうせる直前。

曲がり角を曲がり、スクリーンに背を向けていたシンジが突然振り返り、確かにこちらを見たことを―――

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

「つまりや、わいは次はこう来ると・・・ん?どうしたんや急に振り返りおって」

 

「新手のスタンド使いの攻撃かぁ?」

 

「いや、そろそろアスカが追いつくころかなーって」

 

 

僕は振り返ったままそう答える。

負けず嫌いのアスカのことだ、置いてかれたままでいるのを嫌がってきっと全速力で追いかけてくる。

彼女のスペックの高さから僕の想像する普通を二回りぐらい上回る速度で走ってくると仮定すれば、きっともうすぐそこの角を・・・

 

と、そこまで考えたところで視線の先にあった僕等が先ほど曲がってきた曲がり角から茶髪の美少女が飛び出してきた。

 

 

「いたぁーっ!!」

 

「うわ、ホントに来よったで」

 

「何か薄ら寒いものを感じたのは俺だけか?」

 

「失礼だなぁ」

 

 

そんな会話をしているうちにアスカは僕等の元へ到着して、膝に手を突き肩を上下させ荒くなった息を整えていた。

どうやらアスカでも家からここまでの距離を全力疾走するのは辛かったらしい。

 

 

「お疲れ様、アスカ」

 

「んな事いう前に・・・まず置いてくなっての・・・」

 

「僕が必死で起こしたのに起きなかったアスカが悪い」

 

 

あの海での戦いの後、なんやかんやで僕等と同じようにミサトさんの家に住むことになったアスカは、空き部屋が無かったためにレイと同室で寝ることになった。

そんな女子部屋で眠るアスカは今朝、いくら呼んでも起きてくる気配が無かったために僕はリビングの机の上にアスカの分の朝食を用意してから玄関先で待っていた二人と共にさっさと登校してしまったのだ。

まぁ家を出るときには動く気配がしたから遅刻の心配も無かったしね。

 

 

「起こしたって・・・アンタまさか部屋に入ったんじゃないでしょうね!?」

 

「部屋の外から呼びかけただけで、そんな自殺行為はする気にもなれないよ」

 

「ならいいわ、ってレイはどうしたの?いつも起こしてくれるのに・・・」

 

 

アスカとレイは結構仲がいい。

 

ミサトさんの家で初めて二人が顔を合わせた時に、僕の妹だと説明するとアスカはそれを普通に信じてしまった。

実の妹では無いんだけどそれと同じかそれ以上に大事にしていると言うと、アスカはとても驚いた顔を見せた。

なんでもアスカが言うには、僕等はかなり似ているので本当の兄妹にしか見えなかったそうだ。

余計な知識無しで見ると似ているのだろうか?少し実感がない。

そして似ていると言われたレイはそれを嬉しく思ったらしく、それでアスカの印象が良くなった・・・のが原因かどうかはよくわからないけどとにかく二人はすぐに仲が良くなった。

 

まぁ、仲が悪くなる理由なんて特に無いわけだしね。

 

 

「レイは借りた本を返すために僕より早く学校に行ったよ、多分今頃図書館で本でも選んでるんじゃない?」

 

「そういえば昨日の夜そんなことを聞いた気が・・・まぁいいわ、この話は終わりよ!」

 

 

事前に早く出ることを聞いていたらしいアスカは自身の不利を悟ったのか話を切った。

隙があるのか無いのかわからない女の子である。

 

話を終えたアスカはいつものようにずんずんと先頭に立って歩き始めたので僕等もそれに続くように歩き出す。

僕は振り返りもせずに前を歩くアスカから目を逸らし、僕等そっちのけで話を進めていたケンスケ達の会話に混ざることにした。

 

 

「で、僕等が話してるうちになんか新しいの思いついた?」

 

「俺は特に何も・・・」

 

「わいはあるで!「とにかくとんでもなく強い奴」ってのはどうや!?」

 

「コレどう思う?シンジ」

 

「結構あり得ると思うよ?もしかしたら幹部的な存在がいるかもしれないし」

 

「えー・・・?」

 

 

「ちょっとちょっと、何アタシ抜きで面白そうな会話してんのよ!」

 

 

横に並んで相談するように歩いていた僕等がその声に促されるように前を向くと、先ほどの無関心っぷりがウソのように笑顔のアスカが期待に目をキラキラさせながらそこにいた。

どうやら、僕等の会話から楽しそうな気配を感じとったらしい。

 

 

「この後に来る使徒を予想してるんだ」

 

「これに纏めてるんやで!!」

 

「・・・アンタらバカァ?」

 

 

僕の後に続くように自信満々で表紙に「よげんのしょ」と書かれたノートを見せられたアスカは一転して渋い顔を見せそう言った。

 

確かに何の説明も無く聞けばそう言われてもしょうがない話だろうね。

 

 

「次に来る使徒なんて予想できるわけないでしょ?」

 

「それは違うよ!」

 

 

僕はびしっとアスカを指さして強く否定する。

側でケンスケが「BREAK!」とか言ってるけど気にしないで僕はアスカに話かける。

 

 

「な、何が違うっていうのよ?」

 

「僕等は次に来る使徒を予想するなんて言ってないよ」

 

「せやせや、この後に来る使徒をわい達は考えとんのや」

 

 

そう、トウジ言う通りの「後」に来るかもしれない使徒を予想しているんだ。

 

 

「・・・ってことは何?アンタ達はいつ来るかもわからない使徒を何の根拠も無く妄想し続けてるってわけ?」

 

「言い方はアレだけど大体あってるかな」

 

 

一応根拠が無いわけじゃ無いんだけど、二人にも言ってないしアスカに伝える必要は無いかな。

 

 

「・・・何よ?」

 

「何でもないよ」

 

 

無駄に鋭いからオチオチ考え事もできやしない。

まぁケンスケレベルでは無いけど言いたいことをすぐに察してくれるからありがたいんだけどね。

 

 

「曖昧な部分は数でカバーってことで、思いついたのを手当たり次第にコレに纏めて同時進行でソレの攻略法を考えてるってわけさ」

 

「初見で相手にするより、似た相手を想定して先に攻略法を用意しておけばかなり有利になるからね」

 

「せや!わい等の希望シンジのための全力サポートってやつや!!」

 

 

ケンスケ、僕、トウジの順番でそう締めくくる。

仮想使徒を考えてるのは9割僕とケンスケなわけだけど、トウジの好きなように言わせて置こう。

 

アスカはそれを聞くと一瞬顔を顰めた後、すぐにいつもの勝気な顔に戻ると自信満々といった感じで言い放つ。

 

 

「フン!全部無駄になるっていうのにご苦労なことね」

 

「なんやと?何が言いたいんや!」

 

「どんな使徒が来たってアタシがアクセルシンクロですぐに倒しちゃうから無意味って事よ!」

 

「ほ~お?そんなら次の使徒戦楽しみにしといたるわ!」

 

「なによ!」

 

「なんや!」

 

「「ぐぬぬぬ・・・!」」

 

 

通学路のど真ん中で腕を組んで睨みあっている仲のいい二人。

そんな二人を僕とケンスケは被害が及ばない様に距離を保って眺めていた。

 

先の戦いの後に一応、ちゃんとアクセルシンクロの元ネタが存在することを伝えたんだけど、アスカ曰く「カッコイイし気に入ったから良い」だそうだ。

彼女は僕と同じ「使徒戦エンジョイ勢」なのだろう。

多分僕が何も言わなくてもそのうち気に入ったアニメやらスポーツから技の名前を拝借して使っていたに違いない。

 

ホント、殴られなくてよかったよ。

 

腕を組んで睨みあいながら歩くという無駄に器用な事をやっている二人から少し距離を取って後ろに続く僕とケンスケ。

いつもの事だけど、学校に着くまでには止めなきゃなーと考えていると前を歩く二人には聞こえないような小さな声でケンスケが話しかけてきた。

 

 

「言わなくていいのかよ?」

 

「何がさ」

 

「使徒うんぬんの根拠だよ、別に無いわけじゃないだろ?」

 

 

前の話を盛り返すというのはケンスケにしては少し、いやかなり珍しい事だった。

何故そんなことを聞くのかと考え込もうとしたところで、今は答えるべきだと思い直し口を開く。

 

 

「別に態々言うような事じゃないと思うけど・・・僕の仮説なんだし」

 

「シンジの仮説とそんじょそこらの仮説はわけが違うだろ」

 

 

そんなことは無いと反射的に否定しかけて、止める。

何故なら一応その仮説は結構自信があるものだったからだ。僕と周りの違いは置いておいて。

 

僕等が言っている仮説とは《全ての使徒が何らかの形での繋がりを持っている》というものだ。

最初にこの仮説が思いついたのは二番目の使徒戦の真っ最中、光の鞭で投げ飛ばされた時だった。

一番目の使徒戦で僕が多用したバックステップを誘導して態と使わせ、ジャンプしてから着地までのその隙を突くという実際にやってのけた作戦は、当たり前だが最初の使徒戦を二番目の使徒が知っていないと成り立たない。

僕が誘導されたと勘違いしているだけという可能性ももちろんあるけど、後ろに飛び退いた後の使徒の対応はあまりに早かった。

だから勘違いという線はほぼ無いと思う。

 

使徒が情報を共有していると考えると、今までの使徒の姿にも何処か思うところが生まれてくる。

 

最初の使徒はなんというか、すごくシンプルだったような気がする。

やってきた技と言えば掴みかかりとそこそこの強さのビームと自爆。

もしかしたら僕がさっさと倒し過ぎたせいで披露してない技とかあるのかもしれないけど、色々と標準的で偵察係染みているように思えた。

特に自爆する辺り。

 

次の使徒は今思えば、先の戦いをすごく意識していたように感じる。

さっき取り上げた部分もそうだけど、前回の使徒への主な攻撃方法であり死因の近接攻撃を露骨に牽制した姿をしていた。

まぁ結局無理やり近づいてナイフで一突きだったんだけどね。

 

そして次の使徒、「もう絶対に近づかせんぞ!」という感じだった。

が、しかし僕とレイの華麗なコンビネーション、そしてNERVのサポートの前には無力で二番目と同じように一撃で沈んでいった。(外したのは含めない)

 

最後に一番新しい海の使徒だけど、これは大変だった。

前にも言った、いや考えたような気がするけど今までで有利だった場所を殆ど潰して来たんだから。

アスカの怒りの一撃でコアを見つけ出してからは、あっという間だったけどね。

 

こんな風に学習している前提で考えれば、次に来る使徒も自ずと見えてくる。

僕とケンスケの予想の中で一番有力なのは《一撃で死なない使徒》だ。

今までの使徒はコアを狙われたら大体一撃かすぐにやられていたので、次はここをカバーしにくる可能性が一番高いと考えているのだ。

 

これはあくまで仮説の上に立つ予想だ。

それに使徒がどんなふうに情報を共有していて、しかもその情報をもとに新たに使徒が生まれているのかすでに居る中から条件に合っている者を寄越しているのかわからないなど、不確定な部分が多すぎる物だ。

 

だからこれは例外であるケンスケを除く他の人たちには伝えない。

 

 

それに、なによりだ。

 

 

「自信満々に言って間違ってたら恥ずか死ぬ」

 

「それが本音か」

 

「うん」

 

 

速攻で暫定する僕の横でケンスケは呆れ顔でため息を吐いた。

 

だってしょうがないじゃないくぁ!(久しぶり)

今までだって色々考えてきたけど、それを基本誰かに言ったりはしてこなかったんだから!

 

 

「・・・まぁ俺が煩く言えるような事じゃないかもしれないけどさ、できるだけ早めに言ってくれよ?」

 

「なんでさ?」

 

「俺らの希望であるシンジが考え無しのバカだと思われてんのはいい気分じゃないってことだよ」

 

「ケンスケまでトウジみたいな事を・・・」

 

 

ケンスケの言葉に苦笑しながらAAの「御冗談を」みたいなポーズをしながら話を続けようとしたが、最後まで言い切ること無く途中で僕は口を閉じた。

その理由は簡単、辺りにもはやお馴染みとなった使徒襲来を知らせる警報が鳴り響いたからだ。

 

警報に逸早く反応したアスカはバッと振り返ってこちらに走り寄り、トウジもそれに続いて走り出すのが見える。

 

 

「シンジッ!」

 

「一体何がフラグだったのか・・・」

 

「んな事言ってる場合かッ!!」

 

 

今日もアスカのツッコミが光る。

普段ならここからさらに2、3個ボケを重ねていくのだがアスカの言う通りそんな場合ではない。

僕はすぐに思考を切り替えて話を進める。

 

 

「どうするアスカ、このまま行く?」

 

 

僕等をNERVに送り届けるように指示されたらしいNERVのボディガード達が姿を現して走ってくるのを横目で確認しながらアスカに問う。

本当ならこのまま案内されるがままにNERVに直行するのが一番なんだけど、兄としてレイに対して何も言わずに先に行くのはどうにも気が進まなかった。

するとそんな葛藤を見抜いたのか、アスカが口を開く前にトウジが割り込むようにして答えた。

 

 

「綾波はわい等に任せとけや!」

 

「ここから全速力で学校に走れば、同じくNERVに向かう綾波とかち合うだろうしな」

 

「シンジ達は先に行くようにわい等が説得したって伝えるから問題なしや!」

 

 

そんな事を言ってサムズアップをするトウジとケンスケに、同じくサムズアップして軽くお礼を言ってから少し機嫌が悪くなったアスカと共にNERVへと向かう。

その場を後にする時に後ろから、

 

 

「というわけでトウジ!後は頑張れ」

 

「お前は来んのか!?」

 

「この世には言い出しっぺの法則というものがあってだな・・・」

 

 

とかなんとか聞こえたが気にしないことにした。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「アスカ、着替えるの遅いよ」

 

「うっさいわね、アンタが無駄に早すぎるのよ!」

 

 

時は少し過ぎ、NERV内部の更衣室前にて。

アスカよりも先にプラグスーツに着替え終わったシンジは女子更衣室の前に立ち、中にいるまだ着替えている途中のアスカに呼びかけていた。

 

 

「着替え終わったんなら先に行ってて!レイが来たらどうすんのよ!」

 

「そんなレイが入るときに中を覗くなんてセコイ真似しないってば・・・」

 

「いいから行け!」

 

「はいはい・・・」

 

 

シンジはしぶしぶといった感じでその場を去り、誰もいなくなった廊下に扉越しで籠ったため息だけが静かに木霊する・・・かと思われた、が。

 

 

「やぁアスカ、お着替え中かい?」

 

「か、加持さん!?」

 

 

声だけで扉の向こうに立つ存在が誰かわかったアスカは今までとは比較にならないスピードで着替え終わり、加持の前に姿を現した。

加持の現れる速さから、シンジがこの場にいた時からすでに加持がこの近くに潜伏していたことは明白であったがテンションが異様に上がりまくっているアスカはそれに気づけない。

それも計算のうちといった様子でおかしな様子を微塵も見せない加持は、そのままアスカとの会話を進めていく。

 

 

「加持さんはどうしてここに!?」

 

「人類代表として使徒と戦う勇者を激励しに来ただけだよ、シンジくんはいないのかな?」

 

 

アスカはその言葉を聞いて思わず顔を顰める。

なんとなくだが、加持の言う勇者はまるで自分では無くシンジだと言われているように感じてしまったからだった。

 

 

「シンジはうるさかったので追っ払ったんですよ」

 

「う~んそうか、彼にも声を掛けたかったんだが・・・」

 

「アタシがいるからいいじゃないですか!」

 

 

自分が目の前にいるというのに憧れの人は他の奴の話ばかり。

そんな状況にイライラしたアスカはつい感情に任せて声を荒げてしまった。

加持はそんなアスカを見てニコリと笑うと、アスカが望む言葉を口に出す。

 

 

「それもそうだな、ごめんなアスカ」

 

「い、いえ!アタシもおっきな声出しちゃってすみません」

 

 

チョロイ。

誰がとは言わないが、確かにそう思った。

 

 

「言うのが若干遅くなったが、応援してるよアスカ」

 

「はい!アタシに任せてください!!」

 

 

もしここにシンジかケンスケがいたら、アスカにブンブン揺れる犬の尻尾がついているのを幻視しただろう。

それほどにアスカは自分のほしい言葉を受けて喜んでいた。

だが、次の言葉でその尻尾はだらりと項垂れることになる。

 

 

「シンジくんもいることだし、心配ないさ」

 

「・・・」

 

 

あげて落とす。

アスカが受けた仕打ちはまさにソレだった。

予想だにしなかったその言葉に固まっているアスカを気にせずに、加持は聞かれてもいないというのにペラペラと話を続ける。

 

 

「シンジくんは本当にすごいね、NERVのスタッフ達はずっと彼の話題で持ちきりだよ」

 

「『あの子がいれば大丈夫だ』『シンジくんが負けるところを考えられない』『もう彼一人で十分なんじゃないかな?』」

 

「シンジくんの戦闘記録は見たけど、俺自身もそう思っちゃいそうなくらいの戦果だからね」

 

「それにこの間彼が語った《アクセルシンクロ》・・・だったかな、それも革新的なものなんだろう?」

 

「本当に感心させられるよ」

 

「もちろん、そんなシンジくんと同じくらいにアスカもすごいと俺は思うけどね」

 

 

コイツ絶対激励するつもり無いだろ。

その余りにも露骨過ぎるシンジに対しての賞賛と、取ってつけたような意味成さないゴミみたいなフォローに、もしこれを聞く第三者がいたらそう突っ込まずにはいられなかっただろう。

 

そんなクソフォローを聞いたアスカは固まっていた状態から再起動を果たすと、淡々と感謝を述べその場を走る様に去っていった。

加持に背を向け突き進むアスカの脳内を支配するのは、彼女のプラグスーツのように真っ赤な感情。

憧れの人にいいように褒められるシンジに対しての嫉妬と怒りだった。

 

前回の使徒との戦いで、最初は運良く使徒に勝ち続けてきた自分の踏み台としか認識していなかったシンジ。

しかし戦いの最中でシンジの今までの勝利は決して偶然などでは無かったのだと悟りその認識を改め、強敵をともに倒したことで仲間意識を持っていた。

だがその仲間意識もコッチに来てからは段々と鳴りを潜めていくこととなる。

 

その原因はアウェイ過ぎるこの環境にあった。

 

未知の強敵を次々に倒していくヒーローというのは不定期に襲来する怪物達に日々心をすり減らしていく人々にとっては劇薬のようなもので、そのシンジの戦いを知るNERV職員達やクラスメイト達からの信頼は凄まじいものになっていた。

特にNERV職員なんかは、最初こそ平和のために中学生を戦わせることからの罪悪感から事務的な関りしか無かったものの、シンジがNERVの闇を知ってからは信用できる人を見極めるために多くの職員達と関わろうとするようになったため、今ではシンジと話した事が無い職員の方が珍しいという状況になっており信仰に似たものを獲得していたのだった。

最初は恥ずかしそうに賞賛を受け取っていたシンジもアスカが来る頃には慣れ始め、簡単に対応できるまでになっていたのだがそれを横で見せられるアスカはいい気分ではなかった。

 

しかしアスカも天才の部類、そんな周りの反応もシンジのやってきたことを考えれば当たり前だろうと理解して不快には思うものの決して表に出すことは無かった。

だが、シンジに対する鬱憤が確実に溜まっていっていた。

 

そして今、アスカはキレていた。プッツンしていた。

味方だと信じていた加持までもがシンジを褒めるようになった今、もうアスカは我慢などすることはしない。

仲間だとか一部認めているだとかそんな感情はもうアスカには無い。

 

シンジは敵だ!倒すべき敵!!

 

加持のあまりにもおかしい言動に疑問を抱く余裕などアスカには無い。

唯々シンジに対する真っ赤な敵対心で感情は完全に支配されてしまっていた。

 

そんな内も外も真っ赤に染まったアスカの背中を見送った加持は一仕事終えたという風にため息を吐き、端末を取り出して耳に当てた。

 

 

「・・・終わりましたよ、全く。こんな面倒な事ばかり押し付けることはやめてくれませんか?」

 

 

加持は愚痴を吐きながら事の顛末を説明しつつ、アスカを追いかけるように彼もその場を後にした。

 

 

・・・そして、そんな内も外?も真っ黒な加持の背中を見送るように見つめる赤い瞳が一つ。

 

 

「・・・やっと、いなくなった」

 

 

更衣室の前から邪魔者が居なくなったのを確認し加持の死角に位置する曲がり角から出てきたのは、トウジの伝言を受け取り一人でNERVに遅れてやってきたレイだった。

さっさと更衣室に入り、シンジよりも遅くアスカよりも早い速度で着替え終わったレイはふと、先ほどの結局一から十まで聞くことになってしまった会話を思い出して、一言呟く。

 

 

「・・・わたしの名前、一回も出てこなかった」

 

 

この事実はレイにとっては地味にショックだった。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

突然だけど、僕こと碇シンジは今少し困った状況に置かれている。

 

あらゆる準備が終わり、エントリープラグの中で出撃指示が下されるまで秒読み状態の中僕は自分を落ち着かせるために、今一度頭の中で状況を整理することにした。

 

まずは左を見てみよう。

 

体を操縦席の背もたれに預けたまま首だけを左に向けた僕の視線の先には、外部カメラから映し出された弐号機の横顔・・・の少し手前辺りの空間に投影されている弐号機の操縦席の映像がある。

今までの訓練ではこれを通してアスカと連絡を取り合ったりしたのだけど、今日は露骨なまでに不機嫌なアスカの様子が映し出されていた。

 

先に言っておくけど僕は悪くない。

だって僕は悪くないんだから、じゃなくて心当たりが無い。

 

この「少し目を離した隙に機嫌悪くなっているアスカ」という状況から感じるデジャヴに従って推測をすると犯人は加持さんだということになるけど一体何がしたいんだろうか?

(先の戦いで合流前に何をしていたのかは戦闘後にアスカから聞き出していた)

しかしヒントが全くないこの状況ではこれ以上推理しようがないのでひとまずこの問題は置いて置き、ぐるりと首を180度回転させもう一つの問題へと顔を向ける。

 

先ほどとは逆方向の右を向いた僕の視線の先には反対側と同じ位置に投影された零号機の操縦席の映像があり、そこに移るレイは何処か沈んだ顔をしていた。

レイと家族になったあの日から時は経ち、少しずつ感情が表に出るようになってきたレイだがそれでも付き合いが短い人から見れば常に無表情に見えるらしいレイ。

そんなレイが今は誰が見てもわかるくらいに暗いオーラを纏っていた。

 

これに対しても言わせてもらうけど僕は悪くない。

そう、心当たりがないのだ。

 

いや、一応トウジ達に伝言を託したとはいえ置いて行ったのは少し申し訳なく思ったけど、それでここまで落ち込むとは思えない。

仮に気にしているとしてもレイはその程度の事で燻ってしまうような妹では無いと兄として断言できるので僕に何かしら文句を言ってくるはずだ。

つまりレイは僕に言うまでもない何か、または言うことができない何かが原因で落ち込んでいると考えられる。

 

普段なら兄として放っておくわけにもいかないのだが、状況が状況だ。

 

エントリープラグに乗る前に話せればよかったんだけどレイが来たのは僕等が搭乗した後だったから無理だし、今ここで聞き出すのはリスクが高い。

内容的に話したことが記録されるここではまずいものかもしれないし、その行動が反対側のアスカを刺激してしまう可能性もある。

僕は「今はまだ私が動く時ではない・・・」と働かないお兄様のセリフで自分を落ち着かせながら前を向きなおした。

 

困った状況に置かれている・・・というか挟まれていることを再確認した僕は頭の中を整理する前と同じ、ひたすら出撃指示を待ち続ける作業に没頭する。

 

今この瞬間だけは無駄に早い自分の思考速度が憎い。

状況整理の真の目的である出撃までの現実逃避がまるで成されないまま考えることは無くなってしまった。

いや、本当は考えることは山ほどある。

管理局、じゃないNERVの黒い部分だとか母さんがどんな状態で初号機の中に存在しているのかとか当事者として色々と悩まなければならないことは沢山あるのだが、いつか言ったように僕は「嫌いなものは後回しにする派」だ。

今の段階じゃ憶測でしかものを言えないとかそんな感じのしっかりした理由もあるにはあるが、やはり

一番の理由は「嫌だから」だった。

確かに僕は展開の先読みは好きだが、誰が好き好んで自分を取り巻く真っ黒な状況を看破したいというのだろうか?

いや、できるのならばやったほうがいいのは僕自身しっかりと理解している。

理解してるけど・・・まだ、いいでしょ?

だって使徒は今回のを含めてもまだ5体目、襲い掛かる新手のスタンド使いにしたって仮面ライダーの敵にしたってまだまだ序盤もいいとこだ。

であればまだソレをする必要は無いだろう、僕は空気が読めるチルドレンだから展開を壊す真似はしない。

そうだ、いつぞや「自分の力で都合のいい展開を引き寄せる!」みたいな事を言ったけど「都合の悪い展開」に関しては何にも言ってないからほっといたって大丈夫さ。

まだ、まだ慌てる時間じゃない・・・はずだ。

 

そんなこんなで主人公にあるまじき醜態を頭の中で晒すことによって時間を潰すことに成功した僕は、ついにミサトさんに出撃許可が下りたことを知らせる通信を受けたのだった。

 

 

『三人とも、準備はいいわね?』

 

「はい!」

 

「・・・いいわ」

 

「・・・ええ」

 

 

三体のエヴァが地上に続くリフトに固定された後の最後の確認。

それに対して僕がいつものように返事をする中、二人は相変わらずの温度差を保ちながら答える。

しかしさすがに二人とも戦闘が始まればきっと変わってくれるはずだ、僕はそう信じてる。

 

そう考えないとやってられないだけなんだけどね。

 

そして三体のエヴァはリフトで地上に運ばれ、リフトから解放されると同時にかなり遠くに佇む使徒に対してそれぞれ作戦としてミサトさんに伝えられていた戦闘態勢に入る。

零号機はいつかお世話になったライフルを使徒に向けて狙いを定め、弐号機は薙刀のような武器を構え腰を低くしている。

それに対して僕は素手で何かこうそれっぽいポーズをして構えているだけ。

一応戦闘に於いて使用できる武装がいくつか用意されていたのだけど、ミサトさんからは「最初は素手で、あとは柔軟に対応していって!」と言われたからだった。

 

何か僕だけ雑な気がするのは決して気のせいではないと思う。

 

・・・でもまぁ、今はそんなことは重要ではない。

今この瞬間に重要なのは、アレな状態の二人に対して命令が下っているということだ。

さすがの二人もミサトさんの命令を無視して勝手な行動をしたりはしないだろう。

さらには「今回は使徒についての情報が少ないから慎重に行きましょう」というリツコさんからのありがたーい言葉も貰ってるし、きっと大丈夫はずだ。

うん大丈夫さ、今回の使徒戦は僕が注意していれば何の問題も無く終了するはずだ―――

 

 

『お先!貰うわよ!!』

 

 

―――と思ったけど全然そんなことは無かったぜ!!!

 

 

『アクセルシンクローッ!!!』

 

 

僕の気づかないうちにクラウチングスタートのような体勢に移行していたらしいアスカは、ロケットのように飛び出していくとその途中でシンクロ率を引き上げ異常な加速をつけて使徒に突撃していった。

無いとは思いつつ予測していた展開に僕は茫然としてしまいそうになるのを何とか堪え、レイにアスカの援護をするように頼んでから数秒遅れてアスカを追うように走り出す。

 

 

「何してるんだよアスカッ!!」

 

『アンタは黙ってアタシが使徒を倒すところを見てなさい!』

 

 

走りながら前を行くアスカに問いかけるが、取りつく島もない返答を返されたので僕は指令室へ繋がっている無線に意識を切り替えた。

その態度からアスカの異変は大きく僕に関係しているらしいことがわかった今、彼女を止めることができるのは作戦本部長であるミサトさんしかいないからだ。

 

というかミサトさんは何をしているんだ!?

アスカが命令無視してからすでに数秒経った!

茫然とするにしたってそろそろ再起動して叱責をとばしてもいい頃合いのはずだ!!

 

そう考えた僕の耳に、予想通り再起動したらしいミサトさんの声が聞こえてくるが、その内容は僕が期待したものとは真逆の物だった。

 

 

『―――そうね、ここでアスカの地上戦を見ておくのもアリかもしれないわね・・・このまま行きなさいアスカ!』

 

 

・・・はぁー(クソでかため息)

ホンマつっかえんなぁッ!辞めたらこの仕事?

 

思わずやさぐれてしまったが僕は悪くないと思う。

仲間の命令無視が不問にされた(っぽい)ことは喜ばしい事なのかもしれないが、全然嬉しくない不思議。

いや、不思議でもなんでも無いか。

 

僕は注意をアスカの方へ戻すと母さんに呼びかけ、彼女と同じように加速して赤い背中を追う。

しかし意識をアスカから逸らしていた数秒で弐号機との距離はそれなりに広がり、アクセルシンクロの精度が高い僕でも彼女が使徒に到着する前に追いつくことが不可能なのは、火を見るよりも明らかだった。

 

 

『貰ったッ!』

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「やったわ!!」

 

 

NERV本部の指令室にて、アスカの全力を込めた一撃で真っ二つにされた使徒をモニターで確認したミサトは思わずといった声を出し、それにつられるように周りのスタッフ達も歓声を上げた。

最初はシンジを差し置いて勝手な行動を起こしたアスカに一抹の不安を覚えたスタッフもいたが、人類の敵が一撃で打倒されたのを見て素直に彼女の事を褒め称えていた。

そんな歓声を聞いたアスカは地面に薙刀のような武装、ソニックグレイブを突き立てると誇らしげな表情をして体から力を抜いた。

遠距離から援護をしていたレイもまた、歓声とアスカの様子を見て心の中で静かに彼女を称えながら使徒に向けていた銃口を下し武装解除しようとして―――そこで兄の、シンジの様子に気づいた。

 

誰もが勝利を確信し安堵のため息を吐いたり脱力したりしているこの状況で、戦闘時と変わらずに何も言わず只管にアスカの元へ向かうシンジの様子はとても異質だった。

レイとほぼ同時にシンジの様子に気づいたアスカも不可解そうな表情をして自分のいる場所を目指す初号機を、そして険しい顔のままそれを操縦するシンジを見ていた。

 

スピードに乗った初号機が弐号機、そして使徒との距離をドンドン詰めていく中、レイは下ろしかけていた銃口を倒れている使徒に向け直す。

兄が突拍子も無い行動に出るのはいつもの事だが、それらには必ずと言っていいほど意味があった。

今回の兄の行動にも意味があるとすれば、この場に置いてその意味を追求するのは難しくない。

 

戦闘は終わっていない。

使徒はまだ・・・倒されてはいないのだ。

それが、敬愛する兄に倣って思考し導き出したレイの答えだった。

 

アスカはそんな初号機と零号機の様子を見て、自分が倒した使徒に対して他の二人が警戒を緩めていないのを鋭く感じ取る。

せっかく勝利に余韻に浸っていたところに水を差されたアスカの心境は、戦闘前と同じかそれ以上に煮えたぎっていた。

 

 

 

そんなに自分の栄光に泥を塗りたいのか!

 

 

そんなに自分の邪魔がしたいのか!

 

 

そんなに・・・アタシが信じられないの?

 

 

 

アスカの目から一滴だけ流れた涙は、流した本人にすら気づかれないままLCLの中に溶けていく。

自分が泣いたことに気づかないアスカは、もう目と鼻の先まで近づいてきている初号機を操縦するシンジに怒りのままに怒鳴りつけようとする。

 

 

ドガァッ!!!!!

 

 

そしていざ叫ばんとしたところで、走り寄ってきた勢いのままに自分が真っ二つにした使徒の片割れを思い切り初号機が蹴とばしたのを見てアスカは唖然とした表情で固まることとなった。

シンジが使徒の元まで辿り着く過程でこの戦闘を見ている全ての存在が初号機の行動に違和感を覚え、注目していたがためにNERV本部のスタッフ達もアスカ同様に固まり、すごい勢いで吹き飛ぶ使徒の片割れから目を逸らせば辺りはまるで時が止まったような状態にあった。

そんな固まった空気の中いち早く動いたのは、なんとケンスケ・・・なわけもなく、意外にも蹴り飛ばされなかったほうの使徒だった。

 

今初号機はかなりの勢いをつけて使徒を蹴り飛ばしたがために少し体が地面から浮きバランスが崩れた状態であり、しかも位置的に初号機の死角に倒れていたので動かれてもシンジはそれに気づくことは難しいだろう。

 

自身の片割れに突然攻撃を仕掛けた存在が大きな隙を晒している。

これを使徒が逃さないわけが無かったのだ。

 

何の抵抗もせずにアスカの攻撃を受けた様子からは全く想像できない俊敏さで初号機に襲い掛かる使徒。

しかしその攻撃は初号機に届くことは無かった。

何故なら動いた次の瞬間にはずっとライフルを構えていたレイがそれに反応し、奇しくも初号機と同じような隙を晒すこととなってしまった使徒を正確に狙撃したからだった。

そしてレイの攻撃で怯んだ使徒はその間に体勢を立て直しその存在に気づいたシンジが繰り出す渾身のパンチによって、片割れとは別々の方向へ吹き飛ばされることとなった。

 

 

「レイ、助かったよ!」

 

「気にしないで、お兄ちゃん」

 

 

華麗な連携によって使徒が吹き飛ばした後にその会話が行われている場所が戦場でなければほのぼのとするやり取りを兄妹がしている中、時が止まっていたように動かなかった周りの人々はやっとのことで動き始める。

 

 

「一体どういうこと!?」

 

「し、使徒反応未だに健在!そして反応が二つに増えています!?」

 

「んなもん見ればわかるわ!!」

 

「まるで意味が分からんぞ!」

 

「解析急いで!!」

 

「なんなのだ、これは!どうすればいいのだ?!」

 

 

正に阿鼻叫喚、瞬く間にそんな状態に陥ったNERV本部。

そんな状況を抑えるために、そして何が起こったのか正確に知るために作戦本部長であるミサトはエヴァに通じる無線のマイクを取る。

まるで使徒が健在であることを知っていたかのような行動を起こしたシンジに話を聞くために。

しかしミサトが聞くよりも早く、このパニックに台風の目にいるといえるだろうアスカがシンジに問いただしていた。

 

 

「アンタ!なんでッ・・・」

 

 

安心したように力の抜けた表情をしているシンジにアスカは感情のままに問いただそうとするが、その言葉は途中で詰まることとなった。

何故使徒が生きていることを知っているかを問うべきなのに、何故自分の事を信じられなかったのかと怒鳴りつけそうになったからである。

この状況でそんな事を問うのはあまりにも滑稽で筋違いだったがために、アスカは荒れ狂う感情をプライドで蓋をして無理やり押し込めたのだ。

 

そんなアスカの様子を見たシンジは、彼女が言いかけた内容が前者の方であると錯覚してしまいそのままに用意していた言い訳を口にする。

 

 

「別に知ってたわけじゃないよ、ただアスカの攻撃を使徒が避けようともしなかったのが気になってアスカにもしものことが無いように動いただけさ」

 

 

普段のアスカならコレに対して文句を言いつつお礼を言ったのだろうが、今の彼女にとって的外れなその言い訳は火に油を注ぐこととなりただでさえ不機嫌丸出しなアスカの顔にさらに影が増えることとなった。

そんなアスカの表情を見てやっちまったことを悟ったシンジは何がいけなかったのか、何が言いたかったのかを導き出そうと考え込むが、その答えが出る前にそれを打ち切って後ろに飛び退いた。

視界の端に収めていた使徒の片方が起き上がり、そしてこちらに目標を定め動き始めたのに気付いたからだった。

 

レイは片方に向けてライフルを再び打ち始め、アスカは先ほど使徒を攻撃した武器とは別の槍状の武器を構えレイが攻撃している方とは別の方の使徒に向かって投擲する。

そしてシンジは飛んだ先で入手したライフル二丁をいつかの使徒戦でやったように両手で二丁拳銃のように構え、臨機応変に両方の使徒へ攻撃を始めた。

三人の攻撃はどれも見事に使徒に直撃するが、少し怯むだけでとてもダメージが入ってるとは思えなかった。

近寄って直接攻撃を加えれば状況は好転するかもしれない、と誰もが一瞬考えるがそれを指示したり行動に移したりする者はいない。

リツコを筆頭とした解析班が必死に使徒の情報を探っている今この状況での最善の行動は、解析が終わるまで現状を維持することだからだ。

接近攻撃、または一定以上のダメージを与えられることによって際限なく増える使徒である可能性がある以上、現状を維持するには遠距離攻撃を続けるのが最も有効だといえるだろう。

そして三人がそれぞれの役割を果たし、使徒が最初の場所からほとんど動くことを許さずに時間を稼いだことによって解析班は使徒の特性を導き出すことに成功した。

 

 

『解析結果が出たわ!』

 

 

無線から聞こえたミサトの声に、三人は攻撃の手を緩め耳を傾ける。

攻撃が緩んだのをこれ幸いと使徒が体勢を立て直すのをモニターで確認しながら、リツコは時間を取らないように簡潔に解析結果を告げた。

 

 

『まず、懸念していた二回目以降の分裂だけどその心配は要らないわ。分裂前と分裂後を比較しながら解析してみたら元々コアが二つに分かれる仕様だったことがわかったの。だから分裂する数は有限で今の二体が限界だからここからさらに増えることはまず無いわね』

 

 

それを聞いたシンジとアスカはほぼ同時にため息をつく。

そのため息は懸念していた最悪の状況がただの妄想で終わったことによる安堵からくるものだった。

しかしその後に説明するリツコの声色が沈んだものになったのを聞いて二人は表情を硬くする。

 

 

『それで攻撃が意味をなさない理由だけど・・・恐らく二体の使徒はお互いがお互いを補い合っているんだと考えられるわ』

 

『それってどういうことなの?』

 

『あの使徒は二体同時に致命傷を与えるか、元の一体に戻った瞬間に攻撃するかしないと全てのダメージが無効化されるってことよ』

 

『「なんてインチキなの!?」』

 

 

リツコによる使徒の特性に関する説明に対して思わずといった調子で声を上げるアスカとミサト。

その二人の言葉はここにいるほとんどの人間の心情を代弁したものでもあった。

「特定の条件下でのダメージの無効化」という能力は、アニメや漫画の中ではあまりにもありふれ過ぎた能力と言えるだろう。

この戦いを見ている人間の三分の一は何かしらの創作物で見て知っているであろう、そんな能力だ。

 

しかし知っているから取り乱さないかというと、決してそうではなかった。

 

簡単な話、あまりにも今更な話ではあるが二次元と三次元の間、もしくは空想と現実の間を隔てる壁というものは誰もが想像しているよりも高く、そして誰もが夢想しているよりも厚いのだ。

「あり得ないなんて事はあり得ない」という、たとえ元ネタを知らずとも多くの人が知っているような有名なセリフも、それを心の底から暫定している者など二次元の中を除いて誰一人として存在していないのだ。

故に、現象の無効化などという反則的な力を現実で見せられればたとえ知識で知っていようとも取り乱す。

もしかしたら知っている人の方が取り乱しやすいなんてこともあるかもしれないが・・・いまはどうでもいい話だ。

とにかく普通の人は、常識の上に立っている人は全員今現在誰一人として例外なく取り乱していると理解してもらいたい。

もしこの場にケンスケがいたら彼だって例外無くパニックになるであろう、そんな場面だと。

そんな大変な状況でもしも平然としている存在がいるとしたら、間違いなく異常認定されるであろうそんな場面だ。

 

 

だから、決してアスカや他の皆さんを責めないであげてください。

 

 

「なんだ、そんな能力だったのか」

 

 

だから、決してコイツを普通だと思わないでください。

 

 

「その程度の能力なら」

 

 

だから、決してコイツを称えようとしないでください。

 

 

「どうにでもなるさ」

 

 

決してコイツに餌を与えないでください、図に乗って非常に危険(めんどう)ですので。

 

 

 

 

 

「何か打開策があるの!?」

 

 

三人がやられてしまった時のために用意していたN2爆弾を使っての一時撤退を指示しようとしていたミサトは、何でも無いようにそう告げたシンジに食い気味に問いかける。

それに対しても彼は、またもや何でもない様に答えた。

 

 

『まぁ一応は・・・つまるところ、片方が死ぬときにもう片方が死んでれば倒せるんですよね?』

 

「えぇと、リツコ?」

 

「あってるとは思うけど・・・」

 

 

それは一体どういう意味で言っているの?と続けようとしたリツコだったが、その言葉を口に出すことはかなわなかった。

何故なら次の瞬間に、モニターの中のシンジが勝利を確信したような笑みを浮かべて「それなら行けます!任せてください!」と断言していたからだった。

それを見たリツコは苦笑して考えることを放棄すると、同じく苦笑してこちらを向いたミサトと視線を交わした。

リツコが自分と同じ結論に達したのをそれで理解したミサトはマイクに口を近づけハッキリとした声で指示を出した。

 

 

「シンジくんに任せるわ、好きにやりなさい!!」

 

『っ、はい!!』

 

 

全く、これじゃ作戦本部長である私の立場が無いわね・・・と困ったような笑みを浮かべたミサトの口から零れたその言葉は、使徒の片方に狙いを定めるシンジの耳には届かなかった。

シンジは先ほどの弐号機のようなクラウチングスタートの体勢をとるようイメージしつつ、他の二人に言葉を投げかける。

 

 

「レイとアスカはもう一体の方を頼んだ!」

 

 

そう言うと同時に初号機は使徒に向かって一直線に走り出す。

ある程度近づくと使徒の目が光り、それに一瞬遅れる形で怪光線が飛んでくるがそれを初号機は走りながら使徒に向かって跳躍することによって危なげなく躱した。

そしてそのまま飛び掛かった初号機は使徒を押し倒し、仰向けに倒れた使徒に対して馬乗りのような体勢で押さえつけた。

 

 

使徒は自身に乗りかかる初号機に対して怪光線を放とうとするが、顔面(?)を殴られることによって無理やり中断させられた。

 

 

「要は、すごく優秀なヒーラーが二体同時に襲って来たってだけの話なんだよね」

 

 

初号機は自身を引きはがさんと襲ってきた使徒の腕を、地面に縫い付けるように殴りたたき伏せた。

 

 

「ここがゲームの中で、しかもターン制とかだったらそれでもすごく面倒臭いんだけど・・・生憎ここは現実でルールなんて皆無だ」

 

 

何とかして逃れようと身を捩る使徒を、初号機はその体に無数の拳を叩き込むことで黙らせた。

 

 

「まぁ、何が言いたいかいうと、だ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――貴様がいくら回復しようと関係の無い処刑法を思いついたッ!!」

 

 

使徒が正常に機能する目の役割を持つ器官で最後に見た光景は、視界を埋め尽くすようにして自身に襲い掛かる無数の拳だった。

 

 

「アクセルシンクロッ!!!」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッッ!!!」

 

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴッッ!!!

 

 

殴る。殴る殴る。殴る殴る殴る。只管殴る。

拳で。肘で。掌で。とにかく殴って殴って殴りまくる初号機。

何時ぞやのオラオラから威力、精密さ、重さともに増したそれを地面を背にした逃げ場の無い状態でくらった使徒は、合計百回ずつの無駄無駄とドゴドゴの中でいったい何度致命傷を負ったのだろうか。

しかも百回なのは文字だけの話で、実際の所は区切りの良さなど全く気にせずに永遠と殴り続け使徒をミンチよりもひでぇ状態にしてしまっていた。

 

この惨劇を目の当たりにすれば、いやでもシンジの先ほどの言葉の意味と思いついた作戦の内容を理解させられた。

いくら死なないとはいえ致命傷という言葉がゲシュタルト崩壊しそうな有様の使徒はもう死んでると言っていいだろう。

故に今の使徒の状態を言葉で表せば、「死に続けている」ということになる。

つまり今この瞬間もう片方の使徒を再起不能にすれば、「同時にとどめを刺す」という絶望的とも思われた条件を見事達成できるというわけなのだ。

 

戦略もくそも無い圧倒的な力技だが、シンジは確かに希望をこの場にいる全員に示して見せた。

後は、レイとアスカがもう一人の使徒にとどめを刺すだけだ。

 

二分の一になった使徒(弱体化してるかは知らないが)に二人掛りだ。

こんなもん楽勝だろうが!一瞬で勝負がつくのは当たり前だよなぁ?

勝ったな、風呂入ってくる。

 

きっと、誰もがそんな事を考えたのだろう。

それがいけなかった・・・というわけでもないが、やはりダメだった。

 

シンジの言葉を受けたレイはすぐさまもう片方の使徒に狙いを絞り、自らの役割である使徒の妨害に努めた。

しかしアスカは・・・微動だにしなかった。

そして今この瞬間、全員にシンジの作戦((ちから))の内容が知れ渡った今でさえ動くことは無かった。

 

弐号機のエントリープラグの中で顔を俯かせ、動きたくても動けないといった風に体を震わせるアスカ。

アスカの内面は自分から伸びた鎖によって雁字搦めにされ動けずにいた。

 

理性ではわかっている。

今ここで動かなければ自分をさらに追い詰めることになるだけだと、体面なんて捨てて人類のためにシンジの作戦に乗るしか無いのだと。

本能でもわかっている。

今ここで動かなければ後で自分は絶対に後悔することになると、というかそんな後すら訪れずに人類が滅ぶ可能性すらあるのだと。

しかしプライドがアスカを許さなかった。

加持の罠とシンジの勘違いによって限界近くまで刺激されたソレは、アスカの理性と本能に真っ向から対抗し押さえつけるまでに成長し根を張っていたのだ。

 

そんなアスカの状態に正しく気づくことができたのはこの場で三人だけ。

人間の感情に飛びぬけて詳しいリツコと、ある意味今の状態を引き起こした原因であるシンジと加持だった。

 

モニターに映るアスカの様子を指令室の入り口付近で見ていた加持は静かに冷や汗を流す。

碇指令から指示された今回の行動。

どんな事を企んでいて何故彼らが仲良くなると不都合なのかはわからないが、アスカを刺激するだけなら特に難しいというわけでも無いし、自身の目的のため借りを作って置いて損は無いと実行に移したが・・・

タイミングがあまりにも悪かった、今回の使徒だけは仲間割れをさせるべきでは無かった!

この使徒を倒すにはお互いに協力し合うことが必要不可欠だとかなり早い段階で見抜いていた加持は、自身の軽率な行動を静かに反省していた。

 

ところ変わって初号機のシンジ。

初戦とは違い、強烈なラッシュを他の事を考えながらでもできるくらいに操縦に慣れたシンジは、アスカの様子を見てぼくのかんがえたかんぺきなさくせん(ちから)のお粗末さ加減に嘆いていた。

 

シンジはまず、この使徒の攻略法を考えるに当たって敵の能力をゲーム風に例えることから始めた。

そしてそこからゲームによくあるルールを取り払い、自重抜きで勝率が十二分に有り尚且つ自分がやってて楽しい作戦を経てたわけだが、最初の「ゲーム風に例える」という部分がいけなかった。

ヒーラーうんぬんの発言からわかってもらえると思うが、シンジはまず自分たちの状況を丸ごとRPG系のゲームに当てはめて考えた。

敵に集中するあまり、RPG系の基本である「戦闘員全員を自分の好きなように動かせる前提」が当てはまらないことを見落としたまま作戦を立ててしまったのである。

まぁRPG系の戦闘でも操作できないお助けキャラだったりとか、行動不能の状態異常だとかが存在するが先ほども言った通り、敵に集中するあまり味方の状態が頭の中からすっぽ抜けてしまっていたのだ。

 

嘆きながらもラッシュを続けていたシンジだったが、腕が疲れを訴え始めたことにより嘆くのをやめ思考を前へ向ける。

生身でラッシュをしているのと同じくらいに疲れる、というわけではないが両手をずっと上に挙げ続ける程度には疲れるのでいつまでもやれるわけではないし、レイも巧みにもう一方の使徒を妨害し続けているが少しづつこちらに近づいて来ているようだ。

このままではいけない、と焦るシンジ。

そしてリツコの声にも歯を食いしばるのみで碌な反応もできないでいるアスカを見て、彼はついに決断した。

 

何をしてでもアスカに動いてもらう。

その結果、誰かの思惑通りに僕等の仲が落ちるとこまで落ちてしまったとしても、絶対に修復して今まで以上に仲良くなってみせると。

 

シンジだって男だ。

可愛い娘とは仲良くなりたいし、できる限り嫌われたくないのである。

しかし、シンジは今この瞬間、その気持ちを投げ捨てた。

シンジは覚悟を決め顔を引き締めると、この煩いラッシュ音の中でも聞こえるように通信機器の音量を引き上げる。

そして言葉一つ一つに全力で『凄み』を込めながら全力で叫んだ。

 

 

「アスカッ!よく聞け!!」

 

「『自分一人の力だけで勝負を決めたい』とか『華麗で優雅にとどめを刺したい』とか!」

 

「そんなミサトさんの作るカレーにも匹敵するくだらない考えが命取りになるんだよッ!!」

 

「この僕にはそれはないさ・・・あるのはたった一つの思想だけだ!」

 

「『勝利して平穏を手に入れる』!!」

 

「それだけだ・・・それだけが満足感だッ!!」

 

 

がむしゃらに叫ぶシンジと、信じられないといった風な驚愕の表情で顔を上げたアスカの視線が画面越しに交差する。

そしてシンジはそんなアスカの視線から目を逸らさずに、とどめの一言を無慈悲に告げた。

 

 

「過程や・・・方法なんて・・・どうでもいいんだァーッッ!!!!」

 

 

その叫びが無線を通じて辺りに響き渡った次の瞬間、弐号機は弾かれた様に駆けだしてレイの妨害を受ける使徒に急接近した。

 

 

「オラァァアアアーーッッ!!!」

 

 

そして使徒の目の前まで近づきソニックグレイブを思い切り振り上げると、アスカは雄叫びのようでありながら何処か悲鳴を思い出す声を上げながら思い切り振り下ろした。

それに合わせシンジも「勝った!死ねいッ!!」と言いながら思い切り拳を叩きつけ、その拳はすでにボロボロだった使徒の体をコアごと突き抜けた。

そして二体同時にとどめを刺された使徒は、もう先ほどのように再び動き出すことは無く、そのままミサトの作戦終了という言葉によってこの戦いの幕は下ろされたのだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「・・・遅いなぁ、アスカ」

 

 

僕は真っ暗になった自分の部屋でベッドに寝転がった状態でそう呟いた。

いったい今は何時なんだろう。

ベッドに寝転がって消灯したのは11時頃だったと記憶しているけど、かなりの時間眠れずにこうしているので現在の正確な時間はわからなかった。

少しベッドから降りて机の上にあるスマホを取れば時間はわかるが、僕が今一番気になっていることは別のことだ。

とてもじゃないが体を起こす気にはなれなかった。

 

 

「・・・遅いなぁ、アスカ」

 

 

数時間、数分、数秒。

どれだけの間、寸分違わぬこのセリフを繰り返し口にしたのだろう。

わかっているのは一つだけ。

アスカはまだ家に帰って来ないという事実だけだ。

 

使徒との戦いが終わった後、エントリープラグを下りた僕はすぐにアスカが居るであろう別の搭乗口に方向へ向かった。

それは戦いが終わってエヴァの格納庫に戻るまで、ずっと俯いた状態で表情が確認できなかったアスカの様子を確認するためであり、一言謝るための行動だった。

ぶっちゃけ様子の確認なんか二の次だ、あの時はとにかくアスカに謝りたかった。

もちろん有名すぎる元ネタがある言葉ではあったが、アスカに暴言を吐いた事は変わりない。

そう、女の子に暴言を吐いたのだ・・・僕が。

フェミニスト、もしくは最近ハロエリが可愛いFGOに出てくるDr.ロマンのようなヘタレである僕が人生で初めて女の子に暴言を吐いたのだ!

僕は死にそうなほどの罪悪感に追われていた。

 

それで楽になれると考えるほどお気楽な思考回路はしていないつもりだけど、一刻も早くアスカに謝りたかったんだ。

 

しかしそれは叶わなかった。

ミサトさんに行く手を阻まれたからだ。

 

 

「アスカは少し用事があるから、レイと先に帰ってなさい」

 

 

・・・わかってはいた。

戦闘中に立ち止まるのは人類の命を背負う僕等には許されない行為なのだと。

その許されない行為に何にも罰が無いということは無いだろうと。

ミサトさんの真面目な顔を生で真正面から見たのは久しぶりかもしれないな、なんて現実逃避染みたことを頭の片隅で考えながらミサトさんと視線を交わす。

目を見て僕がミサトさんの言った言葉の深意を正しく認識しているのを認識したのか、少し悲しそうな顔をして言葉を続ける。

 

 

「・・・どんな事情があったとしても、あそこで立ち止まることはとっても危険なことなのよ」

 

「でも「見逃すわけにはいかないの、責任者としても、家族としてもね・・・わかってちょうだい」・・・はい」

 

 

自分でも何を言おうとしたのかはわからない。

しかしその内容がどうであれ、悲痛そうな表情でミサトさんにそう言われてしまえば黙るしかなかったであろうことはわかる。

そのあと僕は「大丈夫よ!私も好きにやれ、なんて言っちゃったわけだし大事にはさせないから」と無理に笑うミサトさんに見送られその場を後にして、更衣室前でレイと合流しそのまま二人で僕等の家に帰り今に至るわけだ。

・・・眠れるわけが無かった。

 

 

「・・・遅いなぁ、アスカ」

 

 

何度目かわからない回想を終えた僕はまた何度目かわからないセリフを吐き、とうの昔に傷の数を数え終えた天井を見つめる。

そしてまたループの様に回想に入ろうとしたところで、玄関のドアが開く音が僕の耳に届いた。

その音の主は何も言わずに靴を脱ぐと、そのままリビングへと移動する。

もしこの人物がミサトさんだったのなら、ドアを開ける時に小さく「ただいま」というはずだ・・・何度か聞いているからわかる。

しかしそれは今回聞こえなかった、つまり今リビングにいるのは、帰って来たのはアスカだということになる。

 

アスカが帰って来た。

その事を理解した僕は安心するのと同時に、今日の疲れが津波のように押し寄せてきたのを感じ思わず目を閉じる。

ダメだ・・・ダメだ、眠っちゃいけない。何のためにここまで起きてたと思ってるんだ。

謝らなきゃいけないとわかっているのに、今まで眠れなかったのが噓みたいに眠い。

僕は起き上がろうと体に力を込めようとするがうまくいかず、結局そのまま眠気に負ける形で夢の中へと落ち―――

 

 

「シンジ、起きてる?」

 

 

―――てはいかなかった。一瞬で目が覚めた。眠気なんて吹き飛んだ。

 

 

「う、うん、起きてるけど?」

 

「・・・中に入っていい?」

 

「いいよ、うん、全然いいよ」

 

 

咄嗟に返事を返しながら起き上がりベッドの端に座る僕、その頭の中は一転してメダパニ状態に陥っていた。

 

まさかアスカの方から来るとは!一体何故だ・・・彼女は気まずく無いのか?少なくとも僕はすっごい気まずいぞ!というか僕の部屋にアスカが入ってくるなんて初めて、では無いな!元から勝手に漫画持ってったりしてプライベートなんて無いに等しかったしそこはおかしくなんか無い・・・ん?ああそうか一発殴らせろとかそういう感じか!うんいいよドンドン殴ってくれていい!さぁ!バッチコイ!

 

そんな大混乱の渦の中で溺れる僕だったが、ドアを開けて入って来たアスカの様子を見て頭の中は速攻で沈静化した。

なんというか、すごくしおらしいのだ。あのアスカが。

たっぷりとミサトさんに怒られた後だと思うから状況的に考えればおかしくは無いのかもしれないけど、しおらしくなっているアスカというのは途轍もない違和感を感じるなぁ。

 

 

「え、と・・・どうしたの、かな?」

 

 

沈静化した(混乱していないとは言ってない)

まず謝罪しようと思っていたのに、僕の口から出てきたのは別の言葉だった。

確かに僕の中でアスカに対する罪悪感と一二を争うレベルで彼女の行動に対する疑問が膨れ上がっているけど、最初に謝るべきだと回想の中でアレだけ思っていたじゃないか僕のバカ!

僕の頭の中でのランキングの第三位が自分に対する嫌悪感で決定しようとしている中で、アスカは僕の質問に対する返答を口にする。

 

 

「・・・今日、ここで寝てもいい?」

 

「」

 

 

絶句した。

咄嗟の返事が出ることも無く、疑問の声が上がることも無く、唯々絶句した。

 

・・・なんでそーなった!?

 

僕が硬直状態に陥っているのを見て、アスカは顔を真っ赤にしながら慌てて捲し立てる。

 

 

「べ、別に変な意味じゃないわよ!?ただ、その・・・レイを起こすのも悪いし、い、今あっちの部屋に行くのは気まずいし・・・」

 

 

最後の辺りはもうギリギリ聞こえるか聞こえないかの音量で非常に聞き取るのが困難だったが、なんとか聞き取った僕。

そんな僕からひと言。

 

 

「・・・ちょっと何言ってるかわかんないです」

 

「はぁ!?」

 

 

「はぁ!?」じゃねーよ「はぁ!?」じゃ。

なんか知らないけど、僕の中で大切な何かが切れた。というか壊れた。

 

 

「な、何がわかんないっていうのよ!」

 

「レイと会うのが気まずいって所、普通僕と会う方が何倍も気まずいと思うんだけど?」

 

 

多分僕の中で壊れたのは暫定ランキング一位のアレだ。

まさに死ぬほどの罪悪感に襲われていたというのに、被害者ともいうべきアスカがソレについて気にもしてない様子で意味の分からないことを宣うのだからしかたないのかもしれない。

いや、しかたなくはない、何処か自分でも理不尽な事を言っていると理解している。

理解してるが暴走しているに等しい僕は止まらないのだ。

 

少しいつもの調子に戻ったアスカは何かを隠すように顔を逸らして捲し立てる。

というかいいの?そんな大きな声出しちゃって・・・会うのが気まずい相手が起きてくるよ。

 

 

「い、いいの!アンタはいいのよアンタはっ!!」

 

「なんでさ?」

 

「そ、それは・・・っ!」

 

「それは?」

 

「・・・そ、それは」

 

 

彼女への負い目なんてなんのその、空気なんて最初から読む気も無いと言わんばかりにどんどん追い詰めていく僕にさすがの彼女も観念したのか、諦めたようにその理由を語った。

 

 

「・・・アンタにはもう、敵わないって認めちゃったから」

 

「―――」

 

 

それは、彼女が決して言うはずのない言葉だった。

 

先ほどは少し調子が戻ったなんて思ったが決してそんなことは無かった。

それどころか、僕は今アスカが本人かどうかすら疑い始めている。

失礼過ぎることだとは理解しているが、それでも疑わずにはいられなかった。

 

 

「・・・顔に出てるわよシンジ、残念だけどわたしは正真正銘アンタの知ってるアスカよ」

 

「だ、だって」

 

「自分だってらしく無いこと言ったのはわかってる・・・でもアンタに張り合ってるのが「らしいアタシ」なら、もうそのアタシは死んだも同然よ」

 

 

苦渋の判断で認めるとか、開き直って認めるだとか、カカロットお前がナンバーワンだとか。

そういったライバル的なアレではなく、アスカは完全に諦めていた。

この長くて短い時間の中でどうしてそんなことになってしまったのか、僕は問わずにはいられなかった。

そして僕の問いに、アスカは僕の横に座ってから静かに答え始める。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

最初に見たシンジの印象は「冴えない奴」

 

あの時口にしたまんまの印象だったわ。

ちゃちゃを入れてきたケンスケのせいで思うように言いたいことが言えなかったけど、多分そのままだったら悪口の2つや3つを言ってバカにしてたと思うの。

 

 

「こんなに冴えない奴がアタシと同じ所にいるなんて納得できない!」

 

 

そう思ってたから。

事前に加持さんやミサトから活躍っぷりを聞かされてたから、猶更ね。

ホントは活躍の度合いからして、ぽっと出の私が同じ所にいるわけなんか無いのに、ね。

 

 

でも海上での使徒戦が終わって見るとシンジの印象はガラリと変わっていた。

そうね、「中々やる奴」ってとこかしら?あの時のアタシじゃそこらへんが限界ね。

 

自分の機体でもないのにシンクロしてみせる驚異的な精神力と、同じく自分のでもないのにサポートを完璧にこなす技量。

あと、会ってすぐの私に順応してみせた柔軟性もずば抜けてると言っても過言じゃないわね。

そんなにシンジはすごいのに、あの時のアタシはまだ自分が勝ってるって信じていたわ・・・

本当に、心の底から。

 

 

そしてここでの生活が始まるわけだけど、ハッキリ言って辛かったわ。

シンジの評価だって「気に食わない奴」まで落ちてた。

 

確かにレイという友達もできたし、楽しいことだってたくさんあった、でもやっぱり辛かった。

頼りにされてるシンジを見ると、自分が劣ってるって思い知らされてる気がしたわ。

人類の希望ってシンジが言われるたびに、じゃあアタシは?って考えちゃうの。

アタシはまだ一回もこの町で戦ってないからしかたないってわかってるはずなのに、どうしても気に食わなかったの。

確かに何度も横で聞いているうちに多少は慣れたわ・・・でもやっぱり気に食わないのには変わりなかった。

 

 

「後でその場所にいるのはアタシ、人類の希望だってアタシなんだから!」

 

 

そんな風に、ずっと自分に言い聞かせて毎日を過ごしてたわ。

・・・そうね、だからこそ自分の晴れ舞台になるはずだった今日の戦いで、あんなことになっちゃったんでしょうね。

 

 

今日は朝から機嫌が悪かった。

誰よりも使徒との戦いを待ってる癖して、アタシはなんの準備もしてないんだって朝のアンタ達との話で自覚させられちゃったんだもの。

 

そして待ちに待った使徒がやって来て、加持さんから激励?を受けて。

もう我慢できなかったわ・・・今までため込んでたものが一気に爆発する感覚だったわ。

 

 

「アタシが、アタシの力だけで使徒を倒すんだ!!」

 

 

そんな感情でいっぱいになって自分でも自分を止めることができなくなってた。

 

その結果が『アレ』よ。

 

自分の頭の中がぐちゃぐちゃになって動きたくても動けない。

そんな状態になっちゃって、それをよりにもよってシンジに助けられた。

 

それにあの言葉・・・そう、過程や方法なんて!ってやつよ。

 

アタシはなんてバカだったんだろうって思い知らされたわ。

人類の未来をかけた大切な戦いで、バカみたいな事気にしてバカみたいなことやってるんだもの。

 

そこでやっと、アタシは自分がシンジに勝てないのは当たり前だってことが理解できたのよ。

そもそも、勝ち負けを気にしてる時点でどうしようも無いってことに、ね。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「・・・まぁ、こんなところね」

 

「―――」

 

 

言葉が出なかった。

というか、なんていえばいいんだろうコレ。

 

結果として、彼女は僕の言葉を真摯に受けとめ自分を見つめなおし成長した・・・様に見える。

多分覚醒回とかそんなのなんだろうが、何か違う。コレジャナイ感が凄まじい。

例えるならば・・・そう、例えるならばグレイモンがスカルグレイモンに進化してしまった感じだと言えばわかりやすいだろうか。

いや、まだなんか違う気がするがそんな感じだ。

未だ混乱状態にある頭では答えを出すことはできないが、アスカの考えは何かが間違っていると僕のスキル『直感(偽):A』が囁いているのだ。

 

絶対にこのまま話を終わらせるわけにはいかない。

 

今は聞きに徹してアスカの一言一言に注意を払おう。

 

そしてなんとしても彼女の言葉の中に違和感の元を見つけ、それを正さなければ、論破(ロンパ)しなくてはいけないのだ・・・!

 

 

「やっぱりアンタは人類の希望だわ」

 

「的確に相手のダメなところを突いた叱責なんてそう簡単にできるものじゃないもの」

 

「今まで、迷惑かけたわね」

 

「アタシも心を入れ替えて、ゼロから始め直すから・・・」

 

 

「それは違うよッッ!!!」

 

 

見つけた。

まるでアスカらしくない言葉の数々で頭が変になりそうだったが、それでも根気強く聞くことでやっとおかしな点に気づくことができた。

 

 

「い、いきなりどうしたのよ・・・?」

 

「アスカ、無理しなくてもいいんだ」

 

 

今彼女は無理をしているのかもしれない。

僕はそれを気遣う・・・振りをする。

不意を突くために。

 

 

「ア、アタシは無理してなんか・・・」

 

「嘘なんかつかなくてもいいよ」

 

「ッ、だからアタシは無理してなんかいないわよ!!」

 

「あぁ、今言ったのはそっちの事じゃないんだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――僕に負けたのを認めたって部分だよ」

 

「ッ!!!」

 

 

アスカは完全に不意を突かれたのか大きく目を見開いてこっちを見ると、動揺しているのを隠すためにすぐに視線を逸らし平静を装った・・・が、もう遅い。

僕は彼女の言っていたことの一部が心にも思ってない嘘だったのだということを確信した。

 

 

「・・・デタラメ言わないでくれるかしら」

 

「それは僕のセリフだよ、アスカ」

 

「・・・」

 

 

アスカは視線を合わせようとしないままで押し黙る。

 

多分、全部が全部嘘だったってわけじゃなんだろう。

むしろほとんどが本当の事だったはずだ・・・だがもちろん、違う部分もあった。

それがアスカが僕に負けたことを認めた、というところだ。

真実を織り交ぜた嘘って言うのは本当に気づけないから怖いものだよね、僕自身もよく使う手だから痛いほどわかるよ。

 

僕がそんな感じの事を言い切るころには僕は立ち上がってアスカの前に立ち、彼女はベッドに座ったまま俯いていた。

好き勝手言ったのにも関わらず、僕に対して文句の一つも言わないアスカ。

しょうがないから僕が話を続けようとしたところで、もごもごとした声が耳に入る。

 

 

「なんで、わかったの」

 

「・・・」

 

「なんで、嘘だってわかったのよ!?」

 

 

その言葉は途中で悲鳴のようなものに変わっていた。

そして言葉を紡ぎながらこちらに向き直り、アスカの目元に涙が溜まっているのを確認した僕は正直に白状する。

 

 

「君の言ってることがめちゃくちゃだったからだよ」

 

「・・・え?」

 

 

そう、めちゃくちゃだ。

最初にアスカが長々と語った部分を聞かされた後は、言いようのない違和感を感じていただけで特にコレといった疑問は持っていなかった。

きっとそこまでは順調に僕を騙せていたのだろう、結果的にその時点ではわからなかったわけだから。

しかし、元々アスカの性格は人を騙すのには向いていないものだったのでそこで限界が訪れた。

しゃべってるうちに彼女自身が熱くなり、結果的に無理する形となってボロが出た。

僕と勝負することがおかしい、という話だったのにゼロからやり直すなどというおかしな話になってしまっていたからだ。

そこから僕はこの話の根底自体が嘘という可能性にたどり着き、カマをかけてみた結果正解だった。

 

というようなことを説明すると、アスカはスッと立ち上がり目に明確な怒りを宿し僕と視線を合わせてきた。

 

 

「それは違うわ」

 

「何ッ!?」

 

 

アスカの物言いに僕は思わず声を上げる。

いつもの彼女なら僕が驚いたのを見て気を良くしたりするのだが、今のアスカはニコリともしない。

アスカは今、怒っていた。

 

 

「呆れた・・・まさか偶然で嘘を見破るなんて悪運の強い奴ね」

 

「確かにあの時アタシはアンタに助けられたわ、一応感謝だってしたし、言葉の内容に思うところがあったのだって本当だわ」

 

「だけどアンタの言う通り、アタシはアンタに負けたなんてこれっぽっちも思っちゃいないわ!」

 

「でも、他人から見たら・・・アンタやミサト、リツコや他の職員から見ればアタシは完全に負けていた」

 

「どう見てもアタシの負けだった!!」

 

「自分で負けだのなんだの言うのは簡単!痛くも痒くも無いわ!!だってそんなの微塵も思っちゃいないんだから!!」

 

「でも他人から言われるのは嫌・・・!アタシが負けたって他人から言われるのは嫌なの!!」

 

「リツコやミサトから散々言われたわ!!シンジと張り合うのはやめなさい、いい加減にしなさいって!」

 

「目が言ってたの!諦めろって!勝てるわけがないんだって!!」

 

「その上アンタからも同じようなこと言われたらなんて考えると限界だった!」

 

「だから認めてやったのよ!アタシから!!」

 

 

僕は魂の叫びというべきソレに唯々圧倒されていた。

他人がここまで感情的になり、それを真正面から受け止めたのは初めての経験だった。

アスカの叫びは終わらない。

 

 

「アンタさっきアタシがゼロからやり直すのはおかしいって言ったわよね?」

 

「全くおかしくなんかないわ!何も知らないくせに偉そうなこと言わないでよ!」

 

「アタシは小さい時からエヴァに乗って訓練してきたの、アタシにとってはエヴァは全てなのよ!」

 

「そのエヴァで負けたらゼロから始めなきゃいけないのは当たり前なの!!」

 

「だって私にはエヴァしかないんだから!!!」

 

 

「それは違うよッッッ!!!!」

 

「ッ!?」

 

 

気が付けば僕はアスカに負けないくらい大きな声で叫び返していた。

それは原作《ダンガンロンパ》にだって無い、渾身の論破(ロンパ)だった。

それが思わず出てしまうくらいに、彼女は僕が許せないことを言っていたのだ。

 

 

「何が・・・何が違うっていうのよ!?」

 

「アスカ!君は可愛いッ!!」

 

「・・・は?」

 

 

空気が凍ったのを感じたが、僕の中はこれ以上ないくらいに熱くなっているので無視して続ける。

 

 

「君はクラスで一二を争うくらいに可愛いのはもちろんのこと、街を歩けばすれ違った人が軒並み振り返るくらいの超美人だッ!」

 

「ちょっ!アンタいきなり何言って」

 

「髪だって僕が今までの人生で見た中で一番艶やかで綺麗だし、声だってすごく透き通っていて聞いているだけで安心できる!!」

 

「ア、アンタいい加減にッ」

 

「それに頭もいい!僕が解けない問題なんかその内容さえ理解すればすぐにやってのけるし、すでに大学だってでている!」

 

「もうやめっ」

 

「日本語もホントは外国語のはずなのにスラスラしゃべるし、さらには運動神経もいい文武両道を簡単にこなす完璧超人、いや美人だ!!」

 

「っ、っ」

 

「まだまだ言い足りないけどここでやめておこう!そんな色々できるアスカが、自分にはエヴァしかないなんて悲しいこと言うなよッ!!」

 

「あ、あぁ・・・それが言いたかったわけね・・・」

 

 

僕は迸るパトスを口にし終えると、なんか知らないけどアスカがぐったりしていた。

あるぇ~?なんかイメージと違う。

いや、こんなこと言われた相手がどんな反応するかなんて想像もつかないけどさ。

 

 

「アンタ、自分がとんでもなく恥ずかしいこと言ってるって自覚あるの・・・?」

 

「そりゃ後で一人になった時に転がりまわって悶絶する程度には恥ずかしいこと言ってるってわかってるよ」

 

「あぁ、わかってるのね・・・」

 

「でも、全部本気で思ってることだから後悔はしないよ」

 

「ッ!!」

 

 

後になってから「あの時しっかりと気持ちを伝えてれば~」なんて言うことになるのはまっぴらごめんな僕は、ここまで言って自分が言いたいことをほとんど言い終えたのを感じて一息吐く。

 

いやホント、後になってテンションが元に戻った時が怖いね!

言った通り後悔はしないんだけどさ。

 

しばらく真っ赤になって固まっていたアスカだったが、しばらくすると大きなため息をついて脱力し僕のベッドの上に寝っ転がった。

 

 

「なんかもうアンタのせいで話を続ける気が失せちゃったわ・・・今日はもうこのまま寝るわ、アタシ」

 

 

などと宣わって僕のベッドを完全に占領したアスカを見た僕はため息を吐きつつ、押し入れから布団を取り出して敷いていく。

 

 

「というか、この部屋で寝るってのは嘘じゃなかったんだね」

 

「レイんとこ行くのが気まずいのはホントなのよ」

 

 

そんなことを話ながら布団を敷き終えた僕はすぐに寝っ転がり寝る態勢に入る。

なんか舞台裏みたいな雰囲気で収まっちゃったなぁ、なんてことを考えながらそのまま寝ようと目を閉じるが、ふと思うところがあったので目を開ける。

 

 

「ねぇ、アスカ起きてる?」

 

「まぁ怒鳴りあった後すぐに眠れるわけないわよ」

 

「道理だね」

 

 

僕は寝る前にアスカにどうしても言っておきたいことがあった。

 

 

「アスカはさ、僕に負けたなんて思ってないって言ったけど、僕もアスカに勝ったなんて思ってないよ」

 

「正直に言えば、どうしても勝ち負けを意識して考えられないんだ」

 

「アスカは僕にとって初めての頼れる仲間だったからね、どうあがいても背中合わせで戦うことを望んじゃうんだよ」

 

「レイは・・・なんていうか、やっぱり僕が守らなきゃいけない存在って認識なんだ」

 

「初見の時も怪我してたし、その後も見事に妹枠に収まったし、やっぱりどうしてもそんな風にしか見ることができないんだ」

 

「だからアスカは僕にとっては初めての存在なんだよ」

 

「言い方を変えれば、いつぞやケンスケが言ってた通り初めてを奪われたってことになるかな・・・非常に癪だけど」

 

「まぁそんな感じで、アスカを助けたとしても勝ち負け関係なく純粋に嬉しいとしか考えられないんだよね」

 

「これでも精神的には結構柔軟だったつもりなんだけど、どうしても無理なものがあるんだって思い知らされたよ」

 

「うん、僕にとって色々な初めてを齎してくれたアスカは、まさに僕の希望だったんだ」

 

 

僕にはアスカの真意はわからない。

 

僕にはアスカの言った、人類の希望になりたいという言葉が嘘か本当か、

結局わからなかったから僕の判断が正しかったかの答え合わせはできないだろう。

 

でも、それを抜きにしても―――

 

 

「僕にとって、すでにアスカは希望なんだよ」

 

 

―――これだけは、どうしても言いたかったんだ。

 

 

 

「僕の言いたかったことはこれで終わり、長い事時間とってごめんね?おやすみ」

 

 

僕はそう言って締めくくったが、アスカに反応は見られない。

途中で寝てしまったんだろうと当たりをつけた僕は、また自分のセリフを振り返り恥ずかしい事を言ってしまってる自分に呆れ返りながら、アスカが居る方向とは逆方向に寝返りをうつ。

すると寝たはずのアスカの声が耳に届く。

 

 

「・・・やっぱり、シンジには敵わないわね」

 

「アスカ?」

 

「大丈夫、今度は嘘じゃないしゼロから始めるなんてことも言わないから心配しないで」

 

「え、え?」

 

「じゃ、おやすみ」

 

 

僕が言いたかったのは完全に不意打ちとなった最初の言葉が聞き取れなかったから、もう一回言ってほしいってことなんだけど・・・まぁいいか。

後の言葉から何を言ったか大体想像できるし、丸く収まったみたいだし。

いい加減眠いし・・・もう、眠・・・・・・

 

 

その夜、僕の意識はそこで途絶えた。

 

 

そしてその次の日の朝、昨日の事が嘘のように機嫌がよくなったアスカと共に、目元にクマを作って明らかに不機嫌なレイに頭を下げて謝るのだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「・・・なるほど、アスカがその日のうちに帰ることができたのは加持さんが庇ったからだった、と・・・」

 

 

戦闘の次の日の夕方、僕は誰よりも早く学校から家に帰り一人リビングで自身が纏め上げた情報を眺める。

機嫌が良くなったアスカに聞かされたのだ、加持さんが庇ってくれたお陰で帰れたのだと。

しかしその前にレイからアスカを刺激したのも加持さんだと聞かされている。

でも加持さんは誰かに指示されてそれを実行に移しただけで、黒幕は別にいる、と。

 

僕は全ての情報を総合して加持さんの罪に対して判決を下す。

 

そして僕は、0.1秒ほど悩んでから電話を取り、ミサトさんに電話を掛けた。

 

 

 

加持さんがクロに決まりました。

これよりおしおきを開始します・・・なんてね。

 

 

 

その少し後、NERV本部にミサトさんの怒鳴り声が響き渡ったらしいことを、後でマコトさんに聞いた。

 




シンジくん的に実行犯はクロ。

なんだろう、最後の所アスカを軽く慰めて終わる程度で終わる予定だったのにどうしてこうなった。
作者の中のシンジくんがアスカとの蟠りを今夜で決着をつけると駄々をこねたのがいけなかったんやなって。


FGOしながら書いたのもいけなかったんでしょうね、所々影響受けてるし、なんか途中でアスカが人理焼却式杉田みたいなこといいそうになりましたし。


次回もできるだけ早く投稿できるよう頑張りますので超気長に待ってね!

あと、感想お待ちしております!
では!今年も宜しくお願いします!
みなさんも良いお年を!

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