・・・ありがとうドクシャ=サン・・・
・・・今までの空白はこのために・・・
アイルビーバック!(出ていく時に言うべきセリフ)
私は帰ってきた!!
色々と忙しかったのもすべて終わってこの度十弐話を投稿することができました!
(何がとは言わないけど合格したぜ!)
さて今回の話は、なんとシンジくん自重回!
かなりアレな内容となってますが・・・ゆっくり読んで行ってね!!
レイがシンジの妹になってからしばらく経ったある日の朝。
部屋に差し込む朝日を一身に浴びながらスヤスヤと眠っていたシンジは、何の予備動作も無く突然飛び起きた。
「鼻糞付いた指でアッチ向いてホイを仕掛けて来るなケンスケェェェエエ!!!」
掛ける意味が無さそうな薄い布団を跳ね除け、上半身だけ起こし絶叫するシンジ。
叫び終わるとガクッと脱力して俯き、荒くなった息を整えた後に何か恐ろしいものを探す様に辺りをキョロキョロと見回す。
そしてしばらくすると自分の見た物が夢だとようやく理解したのか、安心した表情でベッドに倒れ込んだ。
「出会いがしらに一発お見舞いしてやろうか・・・?」
シンジの中で誰かにワンパン叩き込む事が決定した所で、シンジの部屋とリビングを仕切る扉が開く。
「お兄ちゃん?」
扉を半分開け顔を出したのはレイだった。
部屋を覗くレイはいつもより何処か眠そうな表情をしており、それを見たシンジは自分の叫び声で起こしてしまったのだろうかと思考する。
そして横目で時計を見やり現在の時刻が妹の起床時刻よりも早い事を確認することによって、予想を確信に変えた次の瞬間レイに申し訳なさそうに謝っていた。
この間僅か一秒ほど、思考速度が無駄に速いシンジにしかできない芸当だった。
ちなみにだがレイはすでにシンジの部屋には寝泊まりして居らず、壁が間を隔てた隣の部屋に自分の荷物ごと移動している。
物置状態だった部屋を整理するのが一日で終わらなかっただけで、シンジの部屋で寝たのはあの一日だけだった。
シンジの謝罪を聞き、問題無いと返したレイはふと何かに気づいたようにリビングを振り返る。
そして数秒眺めた後に自分が気づいた事柄をシンジに伝えた。
「葛城一尉が起きてないわ」
「え、ホント?」
これはシンジの大声で起きなかったのか?という意味では無い。
熟睡したミサトがその程度で目を覚ますことは無いという事は二人ともすでに承知の上。
二人が疑問に思ったのは、ミサトがこの時間になってもまだ起きていないという事に対してだ。
「今日はミサトさんが朝食の当番だったはずなのに・・・」
立ち上がりながら言ったシンジの言葉にレイもコクンと頷き同意する。
どうせお酒の飲み過ぎで起きられないだけだろうと当たりを付けながらシンジはリビングに移動する。
そんなシンジがリビングで最初に見たのは、テーブルに積まれたビールの空き缶の山だった。
何の捻りも無く予想通りの展開。
シンジはそれ少し不満に思うが、予想外の展開なんて来られたら逆に困るとすぐに思い直した。
特に今日はね、と自分の考えに一言付け足しながらシンジはレイにミサトの様子を見てくるように頼む。
「今日の進路相談、大丈夫かなぁ・・・」
シンジのひとり言は誰もいなくなったリビングの中で、誰にも聞かれることなく消えていった。
・・・
のそのそと起きてきたミサトさんに朝食を出してから学校に向かった僕こと、碇シンジ。
そんな僕の学校生活はケンスケとのクロスカウンターから始まった。
「いやおかしいやろ!?」
「やるな」「おまえこそ」的な感じで不敵に笑い合っていると、さっそくツッコミが使命を果たさんと意気揚々と近寄ってきた。
「来たか、ツッコミ」
「いっぺんしばいたろかケンスケェ!」
同じことを考えていたであろうケンスケはその心の声を思わず口に出してしまったらしく、ツッコミもといトウジに肩を掴まれガクガクと揺さぶられていた。どうどう。
トウジをケンスケから引き剥がしながら宥めると、数秒後にはトウジも落ち着きを取り戻した。
それに対して「やれやれだぜ」みたいな事を言いたくなってしまったが、ここでまたトウジをキレさせると流石にグダって来てしまうので自重することにした。
「スゥー・・・ハァー・・・で?さっきのはなんなんや」
「1」
大分落ち着いてきた所でトウジは大きなため息を最後に、仕切りなおす様にそう切り出した。
僕とケンスケはトウジの言葉に顔を見合わせるとお互いを指さしてほぼ同時に答えた。
「ケンスケが鼻くそついた指であっち向いてホイ仕掛けてくるから・・・」
「シンジが間違えて焼きそばじゃなくて焼きサバを買ってくるから・・・」
「いつの話やソレ・・・昨日そんなことしとらんかったやないか、絶対夢か嘘やろ」
腕を組みながらムスッとした態度でそう告げてくるトウジ。
夢で合ってるとトウジに伝えると、さっきと同じくらい大きなため息を吐いて肩を落とした。
「2」
「夢の事で殴り合うとかお前らアホやろ・・・いや知っとったけどな」
後半何が面白いのかにやっと笑いながらそう言ったトウジに思うところがあった僕は、何かを思い出した素振りを見せた後に申し訳なさそうな顔をして話し始める。
「実は、トウジに謝らなきゃいけない事があるんだ・・・」
「あ、俺も」
「え、あ、なんや?どないしたんや?」
続く様にして顔を伏せたケンスケと同じすごく申し訳なさそうな表情をしてるであろう僕を見て、トウジは一体何なんだと目に見えて焦りだす。
「実は夢のことなんだけどな・・・」
「な、なぁんや夢かいな!お前ら夢でもわいの扱い雑そうやからなぁ!」
どうせ転ばしたとかそんなんやろ!な?と気丈に振る舞いながらも、チラッチラとこちらを見て夢の中の自分はどんな目にあったんだ、早く言えと目で訴えてくるトウジ。ちょっとうざい。
そんなトウジを尻目に僕はケンスケにアイコンタクトで合図して、タイミングを合わせ苦言を呈した。
「「トウジの事、つまようじで刺し殺してごめん」」
「お前らそれは無いやろぉぉおおお!?!!」
教室のほぼど真ん中でトウジは大絶叫した。
「いやさすがにおかし過ぎるやろ!あのくっだらない流れで殺傷事件が起きとるのもおかしいしそもそもなんでつまようじで人が死ぬんや!?」
「まぁトウジだし・・・」
「わしゃスペランカーか!!雑っつーかもうそんなレベルやないやんか!?んでお前ら絶対打ち合わせしとったやろ!!!」
その言葉を聞いて、僕は顔には全く出さないながらもさすがトウジだと心の中で感心した。
トウジの言うとおり登校中にLINEで
(夢がアレだったから殴らせて?)
(じゃあ俺も殴るわ)
(つまりクロスカウンターか)
(トウジどうする?)
(じゃあつまようじで)
(把握した(*´ω`*))
(流行らないし流行らせない)
みたいなやり取りをしていたからだ。
まぁそれをトウジに教えるつもりは無いから適当に誤魔化すんだけどさ。
「はぁー・・・全くお前らの相手してると疲れるわ・・・」
「3」
「でも退屈もしないでしょ?」
「限度ってもんがあるやろ・・・」
本当に疲れた様子のトウジとまだまだ余裕のある僕等。
これから進路相談があるというのに全くいつもと変わらない光景だった。
・・・あとさっきからケンスケが何かを数えているけど、トウジの溜息を数えてるっぽいね。
面白いのかそれ。
「全くおのれ等は・・・今日ぐらい静かにできへんのかいな!今日はミサトさんが来るんやで!?」
「そういえばそうか!笹食ってる場合じゃねぇ!!」
「ゑ?」
「「え?」」
ケンスケまでトウジに同意してテンションを上げる様を見て、つい素で疑問の声を上げてしまう僕。
不思議そうに見てくる二つの視線をスルーして、なんで二人の中のミサトさんはそこまで評価が高いんだ?と考えるとすぐに気が付くことができた。
そうか・・・外面だけ見ると美人なのかあの人。
僕の場合はあの如何にも古臭いポーズの写真が初めて見たミサトさんだったからなぁ。
今考えると僕の中のミサトさんの評価って「センスが古そうな美人」から始まって「方向音痴な人」「家事が壊滅的な人」「女性として終わってる人」的な感じでどんどん落ちていて一回もプラスになった事無いね。気づかないのも道理だね。
いや、いい人なんだけどね?
さて、真実を黙っておくのが二人のためにも、そしてミサトさんのためにもいいんだろうけど・・・
ざんねん ! しんじ の こうかんど が たりなかった !
「ミサトさんってアレで結構だらしない所あるんだよ?」
・・・でもまぁ、迷惑はかけられてるけどそれでもお世話になってるわけだし、少しオブラートに包んで言うことにした。
「・・・マジか」
「そ、そんなん関係あらへんわ!あんな美人さんやったらバッチコイやで!!」
「やめとけってトウジ、杏Pのシンジが許容できないレベルって相当だぞ」
「・・・そうなんか?」
「ちっひ押しのお前じゃ無理な事は確かだ」
が、一を聞いて十を知るレベルで察したケンスケに台無しにされてしまった。
それにしてもすごい説得力だね今の。
ぐうの音も無いよ。
「やっぱどんな人にも欠点てあるんやなぁ・・・はぁ」
「4」
そしてこの後ミサトさんがカッコつけて登場し学校中が騒がしくなるのだけど、僕達三人だけは普通のテンションだったのは語るまでも無い。
・・・
『ハイ、ハイ、ハイ!』『『『『ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!』』』』
『かもね♪』『『『『かーもね!ハイ!』』』』
三者面談も、そしてその後のエヴァのシンクロテストも問題なく済ませた僕はNERVのエレベーターに乗りながらゲームをしていた。
イヤホンをしてリズムゲームに没頭している僕の横ではミサトさんとリツコさん、そしてオペレーターのマヤさんとマコトさんが四人で固まって話をしていた。
・・・まぁ、こんなことを考えてる時点で没頭している『フリ』なのは誰でもわかるだろう。
音量をギリギリまで小さくしてゲームの方へ向けている僕の意識は半分以下にし、他は全てミサトさん達の会話を聞くことに集中していた。
それではゲームの方が疎かになるのが当たり前なのだろうが、僕はたとえ画面を見なくともハイレベルな結果を叩き出すほどにこのゲームはやりこんでいるので問題ない。
万が一疑われるような事があってもリズムゲームで最高得点を叩き出しているのを見せれば疑いは掛からないだろう。
意識し過ぎだとはわかっているんだけど、三体目の使徒を倒してから続けているこの・・・スネークごっこ?が結構楽しくてやめられなくなっちゃってるんだよねぇ。
「スネークしてる僕かっこいい!」・・・みたいな。
バレたらすごく恥ずかしいのはわかってるんだけど、それなりに結果が出てるからやめられない。
「そういえばミサト、アレは予想通り明日やるそうよ」
「・・・はぁ、わかったわ」
「え?アレってなんですか?」
「なんでしたっけ・・・そうだ!ジェットアローンの完成披露会、ですよね?」
「あぁ、通産省や防衛庁とかが協力して作り上げたとかいう対使徒のロボットですね、完成したんですか」
「そうよー、今から憂鬱だわ・・・」
そうそう、ちょうどこんな感じに思いもよらない情報が・・・
「ロボットだって!?」
「シンジくん!?」
日本の技術で作られたロボット。
そんな美味しい話題に僕が飛びつかないわけがなかった。
「シンジくん聞いてたの!?」
「そんなことはどうでもいいんです!それよりもロボットですよロボット!!」
「シ、シンジくん!気持ちはわかるが少し落ち着いてくれ!」
「マコトくんわかるんだ・・・」
そりゃそうでしょうよ!
もし日本人の男性で日本製ロボットと聞いて興奮しない不届き者がいるのなら、そいつにはオリーシュ直伝『タンスに小指をぶつけやすくなる呪い』をくれてやる!(オリーシュは僕らの心の師匠。いいね?)
「それでその、なんとかの完成披露会?には僕が同行することはできないんでしょうか!?」
「・・・どうするの?リツコ」
「公の場だからダメよ。それに付いてきたって碌な事がn・・・ちょっと待って」
何処か疲れたような表情で拒否しようとしたリツコさんは途中で何かを思いついたように目を細め、顎に手をやり後ろを向いてしまった。
・・・どうやら何かブツブツと呟いて考え込んでいるようだ。
突然リツコさんの様子が変わったのをミサトさん達も不審に思ったのか、みんな静まり返ってリツコさんの背中を見つめる。
どうしてもその言葉の内容が気になった僕は、なんとか聞き取れないかとその場で身を乗り出してリツコさんに意識を集中する。
すると「計画の変更は・・・しなくていいわね」「面白くなりそうだわ・・・」などと言っているのが聞こえてきた。
初めてNERVにやってきたあの日、初見で僕に大きな衝撃を与えたリツコさんを僕はかなり警戒している。
いや、金髪黒眉水着白衣だからって警戒するのはおかしいかもしれないけど、結果としてその判断は間違いではなかった。
他の人と違い、明らかに分からない部分が多いからだ。
関わりのある人物が極端に少なく、リツコさんの親友を自称するミサトさんも過去のリツコさんはともかく今のリツコさんはよく知らない様子だったからだ。
そして止めは、少し前にオペレーターの皆さんと談笑している時にマヤさんが言った「そういえば先輩(リツコさんの事)って、司令のとこよく行くんですよねー」という言葉だ。
その発言で周りの空気は凍り、マヤさんも言ってからまずいと思ったのか必死で撤回していたが「それが逆に信憑性を高めている」というのは微妙に同志のかほりがするマコトさんの談である。
つまり何が言いたいのかというと・・・
黒幕(仮)のガールフレンド(仮)とか警戒しないわけないじゃないですかヤダー!
そんな人の「面白い」事なんて碌でも無いことに決まってるじゃないですかヤダーー!!
頭の中で絶叫しながらもリツコさんから目を逸らさずにいる僕。
すると次の瞬間リツコさんはくるっと振り返って僕の方を向き、口を開いた。
「・・・そういうことだから同行を認めるわ、宜しくねシンジくん」
「・・・ふぁい」
しっかりと返事をしなかったのは、頷くことしかできない僕の僅かな抵抗である。
自分で言い出したんだもん!断ることなんてできないよチクショウ!!
僕は心底楽しそうな笑みを浮かべてこちらを見るリツコさんから逃れるようにゲームを再開する。
そしてふと、某万屋さんの『一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼす』という言葉を思い出して、苦労するであろう未来の僕に向けて頭の中で土下座をして謝り倒していた。
・・・
過去の僕よ。
ストレスが溜まっていてなんとかして溜飲を下げたいって時に、そんな殴る前に謝られたんじゃ殴るに殴れずストレスは溜まるばかり・・・つまりは逆効果だ。
「まさか、科学と人の心があの化け物を抑えるとでも?本気ですか」
「ええ、勿論ですわ」
「人の心と言う曖昧なものに頼っている限り信用できませんなぁ」
「祝、JA完成披露記念会」と書かれた看板が吊るされたステージの上に立っている、時田という人と僕の隣にいるリツコさんがマイクを通して言い争っているのを半目で眺めながら、僕はコップに注いだジュースをちびちびと飲んでいた。(ミサトさんは横で鬼の形相をしている)
エレベーターでミサトさんは何をそんなに嫌がってるんだと頭の片隅で疑問に感じていたけど、今ならハッキリ理由がわかる。
いわばここは相手側が用意したNERVの吊るし上げ祭りの会場だったのだ。
ここにたどり着くまでにすれ違った人たちの視線が不可解だったことから疑いはじめ、会場にやってきて『ネルフ御一行様』と立札が置かれた机だけに飲み物や食べ物が置かれていないのを見て、僕はそれを確信した。
こんなところに誰が来たがるというのか。
・・・でもまぁ、僕は来なければよかったとは思わない。
確かに嫌な思いは現在進行形で味わっているよ?
リツコさんの言い分に対して全く持って見当違いの反論を自信満々に話す、あの時田という人の顔を見てると僕が言われてるわけでもないのに腸が煮えくり返る思いだ。
だけど、その憎たらしい顔を僕の行動によって歪ませることができると考えると・・・我慢できないほどでは無い。
Q1,なぜ僕はここにいるのか?
A,元を辿れば僕が言い出したからなのだけど、最終的にはリツコさんが許可を出したからだ。
Q2,なぜリツコさんが許可を出したのか?
A,それはこの状況を僕に台無しにさせるためだ。
ここまでくれば何をさせたいかなんて丸わかりだし、あの時エレベーターでリツコさんが考えていた事だって簡単に予想できる。
多分「公の場だからダメだ。来ても碌なことが無い」と言おうとして途中で切ったリツコさん。
きっとNERVを好意的に思い信じきっている(様に見える)僕では、馬鹿にされてじっとしていることはできないとか考えたのだろう。
当たり前だ、公の場で騒ぐような子供を連れて来たとなれば品が疑われる事になるのだから。
しかしリツコさんは話している途中で思いついてしまった。
別に騒がれたとしても問題無いのではないか、と。
むしろ騒いでくれた方がこちらとしては都合がいいのではないかと考えたのだ。
相手のペースも崩せるし自分の気も少しは晴れるだろうしで一石二鳥、それに言い訳だってエレベーターで僕が考えたように「子供」だからでどうにかなるし、連れて来た責任だってそこまで大きく問われないだろうと。
品を疑われたとしてもじっと耐えるよりはマシだとリツコさんが考えそうな事は、顔をしかめ悔しそうにしている今の様子を見ればすぐに分かった。
そして今リツコさんは、悔しそうにしながらも同時に焦っていた。
他の人から見ればただ難しそうにしているようにしか見えないだろうけど、レイで鍛えた観察眼を持っている僕には丸わかりだ。
きっとリツコさんの計画では僕はすでに我慢の限界を超え、体裁を投げ出して野郎オブクラッシャーしてるのだろうけど現実は違った。
僕はリツコさんの考えを早めに察することで後に待つ『お楽しみ』の存在に気づくことができた。
故にマラソンとかで辛い時によく使われる、『あの電柱までは頑張る作戦』と同じような形で我慢することができた。
まぁ詰まる所、僕は『まだ』騒がないだけであって騒ぐ気は満々だという事だ。
リツコさんの心配は不要なものだってことだね。
・・・まぁ僕の感情を利用しようとした事に関しては何も思わないわけじゃないし、無償でやるつもりも無い。
事が済んだ後に、リツコさんにはそれ相応の清算をしてもらう予定だ。
そんなことを考えていると、周りから大きな笑い声が上がった。
軽く周りを見回すと、言いたいことは言い終えたらしくとても楽しそうな様子で周りの参加者と一緒に笑う時田博士と、悔しそうに顔をしかめながら椅子に座るリツコさんが目に入る。
時田博士に散々言われた上に、僕が計画通りに動かなかったことで二倍悔しい!という所かな?
そんなリツコさんを見てると、いくら警戒している相手とはいえ少し良心が疼いてしまう。
だけどそんなことを考えている場合じゃない、行動を起こすならば今だからだ。
時田博士や周りの人が最高に「ハイ!」になってる今こそ僕が待ち望んでいたタイミング!
そして動き始めようと目線を逸らそうとしたときに、こちらを見たリツコさんと視線が交わる。
僕に対する困惑が込められたリツコさんの目を見つめながら、僕はにやりと笑って頷く。
するとリツコさんは驚いた表情をした後に僕と同じように笑い小さく頷いた。
それは僕の考えていることを一瞬で理解した、リツコさんからのGOサインだった。
今度こそ僕はリツコさんから視線を逸らし、俯く様にして顔を手で覆う。
ステンバーイしながら僕は頭の片隅で、誰かに向けてるわけでもない答え合わせのようなものを思考していた。
Q3,どうしてここまで騒がずにじっとしていたのか?
A,前に、どこぞのカレー曹長が言っていたからだ。(元を辿ればその敵だけど)
「相手がスッカリいい気になったトコロで一気に突き落とすのが超クールだ」と
・・・全くもって、同感だ。
・・・
その瞬間、NERVに対する大きな嘲笑で包まれていた会場は凍りつくように静まり返った。
「こんなにも部外者とNERVの人で意識の差があるとは思わなかった・・・!」
そんな言葉が、壇上にいる時田博士に聞こえるかどうかギリギリの音量で、シンジの口からとても悲痛そうに言い放たれたからだ。
シンジの表情は俯き、両手で顔を覆っているため確認することはできない。
それに対して壇上で楽しそうに笑っていた時田は、その表情を引き攣らせながらシンジを見ていた。
どうやら、しっかりと聞こえていたようだ。
黙って大人しくすることもできない子供を連れて来たNERVに対しての嫌味がいくつも時田博士を脳内を駆け巡るが、口から出る直前でそれを飲み込んだ。
NERV関係者にパイロットが付いて来ると直前で報告を受け、大人の余裕を見せつけいい印象を持たせようと考えていたのにも関わらず、いざ赤城博士に嫌がらせを始めると調子に乗ってしまいパイロットの少年の事などすっかり忘れ好き放題言ってしまったことを思い出したからだった。
そして今からでも遅くは無いかと考え直した時田は、次のように言った。言ってしまった。
「何か、言いたいことがあるなら遠慮せずに言いたまえ・・・パイロットくん?」
大人の余裕を見せつけようと、シンジに発言権を与えた時田。
顔を覆う両手の下でシンジはとても楽しそうに顔を歪めてから、シンジは両手をどけてゆっくりと立ち上がる。
大勢の前の前で晒したシンジの表情はとても悲しそうに歪められたものだった。
中性的な少年の悲痛な表情は、先ほどまで嘲笑していた者たちのなけなしの良心を大きく揺さぶった。
そこでシンジはいったん俯き、大きな深呼吸をしてから顔を上げる。
その表情はさっきと打って変わって自信に満ち溢れており、時田はその力強さに圧倒された。
「さっきの時田博士が言ったことで気になることがあるんですけど、いいですか」
「・・・なにかね?」
開戦である。
「さっき時田博士は、リツコさんの質問に対して「JAは150日間連続して稼働が可能だ」と切り返していましたよね」
「それがどうしたのかな?」
先ほどのように圧倒されるわけにはいかないと、比較的強く返した時田の言葉に対してシンジはすぐには答えなかった。
そこに生まれた間は、少し前に放送されていた某ドラマに登場した執事の「お嬢様は馬鹿でございますか?」というセリフの前の間を彷彿とさせた。
「そんなことはどうだっていいんだ、重要な事じゃない」
「は?」
たっぷりと貯めてから言い放たれた言葉は、さっきまでの丁寧な物言いとはかけ離れていたがために聞いていた者達を呆然とさせた。
そんな周りを全く気にせずにシンジは続ける。
「今まで僕は三回怪物と戦って来ましたが、一度だって活動時間で不便を感じたことはありません」
「っ・・・」
「だから150日動けるとか言われても、今一ピンと来ないんです」
第四使徒との戦いでうまく立ち回り、原作と違ってアンビリカルケーブルを切断されていないシンジは活動時間で追い詰められた経験は一度も無かったのだ。
「いつか役に立つはずだ・・・!」
「「いつか」なんて曖昧な事言われてもこっちは納得できませんよ」
「っ!!」
何処か先ほど自分が言った言葉を彷彿とさせる言い回しで返され、羞恥に顔を歪ませる時田。
子供にそんなことを言われる筋合いはないと感情に任せて言おうとしたところを、先に話し始めることで防ぐシンジ。
「あと、さっきも言ったはずですけど重要なのはそこじゃありません」
「なにぃ?」
「リツコさんが聞いたことは「リアクターを内燃機関として内蔵することに対しての安全性」だったはずですよ」
「っ!!」
言外に質疑応答も満足にこなせねぇのか?と言われた時田は、それがあまりにも正論だったが故に言葉を詰まらせた。
時田も反論が思いつかなかったわけではない。
だがその思いついた内容が「攻撃を受けなければいい」だとか「人類を守るためには仕方がない」などといった、目の前の少年に燃料を注ぐようなものばかりだったのだ。
多少的を射てなくとも自信満々に切り返せば、体裁を気にして食い下がって聞き返すこともできないリツコとは違い、シンジはこの場では失うものは何も無いに等しいが故にその反論を控える道理は無かった。
だからこそ時田は適当なことを言って場を流すなど、とてもではないができなかった。
どうすればいいのかと黙って考え込む時田。
そんな彼への救いの手は、意外にもシンジから差し伸べられた。
「・・・次の質問に移っていいですか?」
「あ、あぁ許可しよう」
応答がいつまで経っても来ないので、シンジはあからさまに呆れたという表情を作って次に移ることを提案した。
その表情に思うところが無かったわけではない時田だったが、窮地から逃れるためにこれ幸いと飛びついた。
たった一つの質問で追い詰められ、参りかけていた時田は気づかない。
「子供の質問に答えられず黙り込んだ」という事実がどれだけ参加者に影響を与えていたかを。
それを全て理解して次の質問、いや次の攻撃に移ったシンジの計画性を。
だがシンジの計画とて全てが計画通りに進んでいるわけでもなかった。
なんというか・・・明らかに時田がダメージ受け過ぎだったのだ。
たった一つでそこまでか!?と問いたくなるぐらいに衝撃を受けている様子の時田に、シンジはかなり計画を繰り上げることにした。
霧が濃くなりそうなセリフを交えて着実にじわじわとダメージを与えていくのを取りやめ、最後のトドメをぐだぐだしないうちにちゃっちゃと刺してしまおうというのだ。
「確か、A.T.フィールドの実装も時間の問題だと仰っていましたよね」
「それがどうかしたのかね?」
「えと・・・怪物、使徒と戦うための兵器なんですよね?」
「だからなんだというのだ!?」
心底不思議そうな顔をして問うシンジに、追い詰められ余裕がない時田は激高した。
別にシンジはそれを狙ってそんな表情をしているわけではない。
この質問はトドメでもあり、シンジのJAに対する最大の疑問でもあった。
つまりシンジは演技をしているわけではなく、文字通り心の底から不思議だと思っているのだ。
「じゃあなんでA.T.フィールドを全く研究していないんですか?」
「・・・は?」
そのシンジの質問は、それを聞いていた発表会の参加者にとってはとても不可解なものだった。
時田博士はA.T.フィールドに関して「時間の問題」だと言ったのにも関わらず、シンジは「全く研究していない」と言い切ったからだ。
もちろん時田も言い返す、が、その様子は明らかに不自然だった。
「な、何を勘違いしているn「してるんですか?」っ!!?」
「絶対に研究してないですよね」
「何を根拠にそんなことをっ!?」
泡を吹きそうな勢いで激高する時田をシンジは冷めた目で見つめる。
その二人の様子を会場にいる人間は固唾を飲んで見つめることしかできないでいた。
「何を根拠にしているかは・・・情報の守秘義務があるので言えません」
「っ!!ふざけるn「ですが!!」あぁっ!?」
「僕は絶対の自信を持って宣言しましょう、あなたはA.T.フィールドの研究を一ミリたりとも進めていない!」
シンジの勢いに完全に圧倒されている時田をビシッと指さし、シンジは今までにも増した大声で宣言した。
「何故なら!少しでも研究していたのなら絶対に「あんなこと」は言わないからだっ!!!」
論破ッ!!という文字が後ろに見えそうになる勢いで言い放ったシンジ。
そこにいる誰もが、シンジが絶対の確信を得るような言葉を時田が言ったのだと信じ込む。
そしてその中でリツコだけが納得した顔でほくそ笑んでいた。
「(そうよね・・・本当に少しでも研究していたのなら、絶対に「人の心なんて曖昧なものを~」なんて言ったりしないわよね)」
もしここで守秘義務など気にせずにシンジが理由を述べていたら、先ほどと同じように曖昧だとか信用できないだとか言われてここまでの説得力は発揮できなかっただろう。
シンジの判断はこの場に於いて最適なものであった。
誰もがシンジの勢いに飲まれて動けないでいる中、時田がか細い声で話し始める。
「だから・・・だからなんだ」
「え?」
そう聞き返したのは誰の声だったか、そんな気の抜けた声の後に時田は先ほどまで固まっていたのが嘘かのように大声で喚き始めた。
「だからなんだというのだ!?そんなものはJAには必要ない!そんなものが無くともJAは戦える!!!」
開き直ってシンジに向けて怒鳴る時田。
その様子に会場は騒然となった・・・が、シンジは全く動じずに鬼の形相で自身を睨む時田を相変わらずの冷めた目で見つめていた。
「A.T.フィールドはいりませんか」
「いらないと言っている!!」
「そうですか、じゃあJAはポジトロンライフル並の攻撃ができるんですね?」
「もちろ・・・はぁ?」
なんでもないことのように言ったシンジの言葉に、勢いのままに答えようとした時田はその言葉の意味を理解した瞬間、気の抜けたような声を出してしまう。
その様子に、シンジは冷めた表情になってから初めて別の表情を見せる。
それは悪戯に成功した子供のような笑みだった。
「だってそうでしょう?そうでなければ話になりません」
「確かにA.T.フィールドが無くたって使徒は攻撃できます」
「ですがそれはN2爆弾やポジトロンライフルだったからで、それより弱い兵器じゃ相手のA.T.フィールドを越えられず掠り傷一つ付けられません」
「だからこそ攻撃できるようにするためにA.T.フィールドが必要だったんですが・・・」
「いらないんですよね?必要ないんですよね?」
「じゃあそれらに匹敵するほどの攻撃をJAはできるんですよね!」
「だって「完成」披露発表会ですからね!まさか使徒に傷一つ付けられない状態のままで「完成」だなんて言ったりしないですよね!?」
「そんな攻撃をJAはできるんですか!それともやっぱりできないんですか!?」
「そこん所どうなんですか!?時田博士!!」
「え?・・・あ、あぁ・・・え?」
さっきまでの冷めた様子がまるで嘘のように笑顔で捲し立てるシンジに、時田はまともな反応ができないでいた。
そのシンジの勢いと反論ができない自分に押しつぶされそうになった時田は眩暈を覚え、壇上でふらふらと後退をする。
これは現実なのか?と働かない頭の片隅で時田はぼんやりと考える。
ふと手で顔を触ると、冷たい感覚の後に灼熱のような熱を感じた。
・・・あぁ、私は汗をかいているのか。いつの間に汗をかいていたのだろうか?
伝う汗はこんなに冷たいのに、肌はその汗が蒸発しそうなほどに熱かった。
きっと、私には見えないがトマトのように真っ赤に染まっているのだろう。
そしてまるでフルマラソンを走破したかのように息も荒いようだ。
意識がぼうっとして、自分の事なのにまるで他人事のように感じる。
どうしてこうなったのかと考えようとしても、そんな難しいことを麻痺した脳みそは考えてくれないようだった。
「さぁ!!時田博士!!!」
ふと、自分をこんな状況に陥れた元凶の声が聞こえた。
嬉々とした表情で自分にトドメを刺そうとする少年の顔が目に入る。
しかしその声を聴いても、その顔を見ても先ほどのように烈火のごとく怒ることはできなかった。
一度冷静になって考えれば、悪いのは自分だった。認めよう。
悪いのは私だった。謝る。謝るから―――
「『できる』のか!『できない』のか!ハッキリと言葉に出して貰おうッ!!」
―――もう、勘弁してくれないか。
時田は真っ白になり、その場で膝を付いた。
・・・
「ざまぁみろってのよコンチクショー!!」
発表会の会場と同じ建物の中にある待合室の中で、ロッカーをガンガン蹴りながら笑うミサトさんをドン引きしながら、会場からくすねてきたジュースを飲んでいた僕は、ちょっとやりすぎたかなーと後悔していた。
最初はアトリーム語を適当に混ぜながら淡々と質問して会場の空気を悪くしてやろうぐらいの気持ちだったんだけどさ。
あまりにもいい反応するんだもん時田博士、途中で歯止めが利かなくなっちゃったんだよね。
トドメのジョジョネタの後にリツコさんに止められて退出してなかったら、もっと暴れてたかもしれないしね。トドメなのに。
さらに思い出すと、最近ちょっと調子に乗り過ぎていた気もするなぁ。
自重することも覚えねばと深く反省していると肩に手が載せられたので振り返ると、リツコさんがとてもイイ笑顔で立っていた。
「よくやってくれたわシンジくん」
「期待には応えられましたか?」
「ええ、予想以上よ」
僕はそう言って微笑むリツコさんの目の前に、ピッと人差し指を立てた。
それを見て意図を測りかねているのか眉を顰めるリツコさんに、僕はニヤリと笑って言った。
「貸し1です」
「っ!」
意図に気づいたリツコさんは目を見開いて驚き、顔を見つめてくるが僕はその表情を崩さない。
確かに利害は一致していた・・・だけど僕はあの時、何もしないでじっとするという選択肢もあったんだ。
その中で僕はリツコさんの事を尊重し、行動を起こした。
ケチ臭い事を言う様だけど、これは確かに『貸し』になる事柄だと僕は考えている。
さて、リツコさんはどうだろうか?
「・・・ふふっ、そうね。わかったわ、いつかしっかりこの借りは返すわね」
「いよぉっし!」
「あら、そんなにうれしい?」
「こういうやり取りに憧れてましたからね!」
「そう、よかったわね」
「はい!」
憧れていたのも間違いではないけど、本当の目的は別の所にあった。
リツコさんは見た目に反して・・・いや見た目通り?まぁとにかくプライドが高い人だと思う。
そんな人が『借り』がある人物に対して不利な行動をするか。答えは否だ。
つまり僕に『借り』がある間、リツコさんが僕に不利な行動をする可能性はとても低くなるということだ。
少なくとも、表立っては。
限りなく黒に近いグレーだったリツコさんに楔を打ち込むことができたというのは、とても大きい成果だ。
今回の事で僕自身も今までより警戒されるようになるだろうけど、それを含めてもお釣りがくるような成果だと思う。5円くらい。
心から笑ってリツコさんと話していると放っておかれて寂しくなったのか、ミサトさんが会話に割り込んできた。
そしてこれからどうするかという話題に切り替わるまで、それほど時間がかからなかった。
「で?どうすんのよリツコ」
「もちろん帰るわよ、これ以上いる意味は無いわ」
「え?JAの試運転はこれからなのに?」
「僕は嫌ですよ、あんなに騒いだ後会場に出戻りするなんて」
「あぁーそれもそうね・・・じゃ、帰りましょうか!」
そういってズンズンと歩き出したミサトさんの後ろを歩きながら、僕はエレベーターのリツコさんの言葉を思い出す。
あの時リツコさんは計画の変更はしなくてもいい・・・とかなんとか言っていた。
話の流れ的に考えると僕のやったこととその計画の目的は同じだと考えられるから、多分JAの発表会を台無しにする計画はすでにあったのだと思う。
そしてその計画は変更される事無く始動していて、それを唯一知っているリツコさんは「帰ろう」と言ったんだ。
こりゃ帰るしかないっしょ!というわけで、JAを見たい気持ちを押し込めてリツコさんの意見に賛同したというのが先ほどの行動の理由である。
まぁもし僕らが巻き込まれる前提の計画だったらアウトなんですけどね・・・
そんな感じで考え事をしているうちに会場に来るときに乗ってきたオスプレイ的な何かの元へとたどり着いたのでリツコさん達の後に続いて乗り込んだ。
そして飛び立ち、どんどん小さくなっていく建物を見ながら何かセリフを言いたくなった僕は、外を眺めながら小さく呟いた。
「楽しい発表会でしたね・・・」
この後何事も無くNERVにたどり着き、そして家に帰りレイとゲームをして寝たのだった。
そして次の日、ミサトさんからあの後JAは試運転で暴走したが被害が出る前に収まったと聞かされた。
それを聞いて一つの確信を得た僕は、いやーあの時帰っててホントよかったわーと笑うミサトさんの後ろで、その報告書を眺めていたリツコさんをジト目で睨む。
すると僕の視線に気づいたリツコさんは「やっぱりわかる?」と言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべたのだった。
はい!シンジくん自重(を覚える)回でした!
さらに詳しく言えば、自重(してもらうために本人が後悔するくらい暴れてもらった)回ですね!
暴走し過ぎなシンジくんですが、次回からは大人しくなる・・・ねーよ。
まぁとにかくです!
調子に乗るだけでは世界など救えないのがこの世の道理!
つまりは自重を覚えたシンジくんに敵はいないという事ですね!!(超理論)
というわけ(?)で人類の未来のために犠牲になった時田博士に敬礼!(`・ω・´)ゞ
・・・さて、次回の十参話ですがいつになるんでしょうねー。
まぁさすがに今回よりは早く投稿できると思います、よ?
ではまた会いましょう!さらばっ。