この作品のトライドロンのイメージは仮面ライダージョーカーカラーとなります
『いいかね?雄之介。私がジョーカーだ!』
「いやいやいや!?僕がジョーカーだけど!?」
運転している雄之介とジョーカーさんとの醜い喧嘩。
ヴァーリは状況を掴めていない、或いは関わるつもりがないのだろう。
頬杖をついてトライドロンが走る中で景色が見えては飛んでいくのを眺めている。
アンとしては運転中の喧嘩を止めて欲しかったのだが、どうやら、それは頼めなさそうだ。
「ねぇ、えっと、」
『ジョーカーさんでいい』
「ジョーカーさんは、名前ってアザゼル先生に付けてもらったの?」
『ああ。私の肉体であるトライドロンの製作者であるアザゼルから言われたのは、雄之介のサポートをして欲しいということだ。しかし、私は彼に求めたよ。私自身の名前を。ナビゲーションシステムというだけでは味気ないからね』
ジョーカーさんのダンディな声がトライドロンの車内を広がり、反響する。
先ほどから風景を見ていたヴァーリの目が若干、動いたように見える。
そしてジョーカーのエンブレムが雄之介の方を見た。
眼球が電子信号であるので見当たらないが、確かに雄之介の方を見ているというのがアンには分かった。
あまり感情を荒げない雄之介、そんな雄之介が珍しく語調を荒げているのは『ジョーカー』の名前に誇りがあるからだろう。
滝でのライダーキックの鍛錬を行っていたのだって、その誇りを汚さないように精進しているのだと思う。
それで自分を傷つけて欲しくないと思うのはいけないことだろうか?
顔にこそ出さないものの、アンは雄之介を案じていた。
『私を起動させる起動キーがガイアメモリのジョーカーと聞いてね。ならば、私も名乗るしかないじゃないか。ジョーカーさんと』
「スーパーカーさんじゃ駄目だったの?」
『なんだね、その超母さんなのは』
アンのネーミングセンスが爆発し、車内が凍りつく。
雄之介の真後ろに座っていたヴァーリはそっと手を肩に置いた。
ドンマイ
ヴァーリとしては気遣いのつもりだったが、雄之介はそれに気づけなかった。
背後から忍び寄るのは自分の性に合わないので好まないが、今回はなんだか申し訳なかった。
そしてちょっぴり悲しかった。
『雄之介、君がジョーカーを名乗るならば住み分けと言うことでどうだね?』
「住み分け?」
『うむ。私を呼ぶときはジョーカーさん、君がジョーカーを名乗るときはそのまま。それで手を打とうじゃないか』
「異議なし」
雄之介が納得すると、ジョーカーさんは納得したように赤い電子の波を変化させて喜びを表現した。
ひとまず落ち着いたようなのでアンは安心した。
元々、雄之介が穏やかでのんびりとしている性格だからと言うのもあるけれど。
しばらくトライドロンを走らせていたところ、トライドロンに乗る前に渡された資料にあったミノタウロスの生息地へとやってきた。
今日のミノタウロス討伐はどうやら霜降り肉の採取らしい。
その場で雄之介とアンとヴァーリに捌く必要はないとのことでトライドロンの装備のフックロープとソリで牽引させるなりして持ってきて欲しいとのこと。
「じゃあ、えっと……」
『気軽にジョーカーさんと、「いや、待ってくれ」』
『どうした、雄之介?』
「ジョーさんというのはどうだろう?」
『ふむ、妥協点だな。あと、気軽に話しかけてくれていい。私は君のパートナーと思って欲しい。それが私が作り出された理由でもあるからな』
ふと浮かんできたジョーカーというのを縮めた第二の提案。
こんなとき、ここで提案したのがアンでなくて良かったと思う。
アンの爆発しているネーミングセンスならば、ジョーカーさん改めジョーさんの賛同を得るのは難しかったろう。
自分のまともなネーミングセンスにほろりとする雄之介、なにか失礼なことを言われた気がしたアンだった。
「ほら、そろそろ着くんじゃないか?」
ゴホン、と咳払いしてヴァーリが前方に人差し指を突きつける。
たどり着いてしまったらしい、ミノタウロスの縄張りに。
ミノタウロス。
その名の意味はミノスの雄牛でミノス王の妻のパシパエがなにか失礼なことをしてしまい、白い美しい雄牛とパシパエの間に生まれた牛頭人身の獣人であるとしか知らない。
ここは数が多いらしく、高級食材として有名なミノタウロスはお歳暮には最高の品として好まれるとのこと。
『アレがミノタウロスか。雄之介、』
「どうしたんだよ、ジョーさん」
『味の方はどうなんだ?』
ミノタウロスを取って来いとこれまで言われてきた雄之介だったが、そういえば、この年までミノタウロスの肉は食べたことがなかった。
外見は牛頭人身の獣人、アンはあまり食べてみたいとは思わないイメージだし、ヴァーリのほうは訓練で倒すことはあっても食うために殺すことをしなさそうだ。
だったら、この場で食べたことのある者はいないんじゃなかろうか?
「僕は食べたことないなぁ。アンはどうかな?」
「私もないよ。美味しいとアザゼル先生に聞くんだけど、太りそうだから思わないだけかもしれない」
「俺はあるぞ」
『白龍皇の光翼』を車内で展開しながらヴァーリはひょっこり混ざりこんでくる。
意外だ。
あまり食には拘らなさそうだというのに。
「アザゼルに旨いモン食わせてやる、って言われてな。拾われた直後だったが、舌の上で蕩けるような味わいだったのをよく覚えている」
「アザゼル先生がねえ……」
『雄之介、彼は……』
「気にすんなって、ジョーさん。僕もだけど、アンやこのヴァーリだって色々あるんだよ」
察してくれ、とジョーさんに言うとジョーさんはしばらく唸った後、頷く動きをした。
不思議なコミュニケーションを行うカーナビだが、このコミュニケーションにはこれから慣れていくしかないだろう。
雄之介にそこまで言われたならば引き下がるしかないが、かくいう雄之介だって表情や反応には曇りが見られる。
アザゼルに高性能AIとして生み出されたジョーさん、僅かな感情の機微も察することは出来るのだ。
「私とヴァーリは降りて狩りに行くけど、ユーくんはどうするの?ジョーカーメモリを抜いたら、ジョーさんまたスリープモードに入っちゃうんじゃ?」
「そういえばそうか。やはりメモリを抜くとスリープモードに?」
『いや、そうならない為の策は講じてあるとのことだ。私としては、これからトライドロンのドライバーとなる君にトライドロンの性能を見せておきたいというのがあるね。それにパートナーのドライビングテクニックも気になる。先ほどの運転は普通に目的地に向かう為だったから比較的安全だったが、戦地における運転を見ておきたい』
「俺は先に行っている。できるだけ早く頼むよ」
ならば、とジョーさんの提案はトライドロンの性能を披露しておきたいとのことだった。
アザゼルに頼まれていたのはミノタウロスの肉の採取、それにトライドロンの性能のテストだった。
ここで乗らない手はない、こんなカッコいいマシンを免許をとった祝いで貰えるのなら。
ヴァーリが車から降り、ミノタウロスのほうへと走り出す。
野獣のような獰猛な笑みを浮かべ、徒手空拳と魔力を織り交ぜた特殊な武術はヴァーリの特色でジョーカーに変身した雄之介でもヴァーリの神器の力さえ使わない状態であればギリギリ互角に立ち回れる。
シンプルにヴァーリは強いと思える戦士だ。
「じゃあ、見せてくれないか?トライドロンの性能って奴を!」
「私も先に行ってるよ」
新しいスーパーカー、それもアザゼル特性となればどんな能力を持っているのか気になるのが雄之介のサガ。
振り回されることはあれど、興味を持つことや目を輝かせているのはアンとしても好ましい。
魔剣創造で二振りの夫婦の剣を作り出し、アンはひらりと手を振りながらヴァーリの後に続く。
普段の自分達のコンビネーションや雄之介がいれば負けることはない、という信頼感ゆえの言葉。
『OK、Start yourengine!トライドロンの能力を見せよう!』
その日、ミノタウロス狩りの日でありながらトライドロンの初陣ともなった。