それが仮面ライダー   作:ふくつのこころ

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アンていうのはTSした木場です、お察しのとおり


何故カーナビと会話できるのか?

「……今回、お前が乗るのはこれだ!」

 

 仕事の話をしよう、とアザゼルに言われた雄之介とアンとヴァーリが連れて来られたのはアザゼルのプライベートのピットである。

 黒と紫のカラーリングの施されたスポーツカー、ダークブラックなところがカッコよく、アザゼルがリモコンでヘッドライトを操作するとまるで『ジョーカー』の複眼のように赤く光る。

 

「凄い!え、これ車!?」

「ああ、これはトライドロンと言う。オフロードまでばっちりだ、今回の仕事にちょうどいいだろ?」

「で、これ運転するのは?」

 

 トライドロンと呼ばれた車の周囲を雄之介が回ると、アンとヴァーリが顔を見合わせる。

 アンは雄之介が嬉しそうなので誰が運転してもよかったが、かねてより運転を知らないヴァーリが運転できるはずもなく。

 そもそも車をはじめて見たので雄之介ほどとはいかないものの、興味深そうに見てはいた。

 

 雄之介は運転席に座りたくてウズウズしていた。

 感性がアザゼルと同じベクトルにあるのは知っていたし、アザゼルはロストドライバーの先代所有者であるソウキチがあまり興味を示さなかったので現所有者の雄之介もまた愛弟子ならば性格までそっくりかと思えば、そんなことはなかった。

 

 むしろ、アザゼルがかつて書いた黒歴史ノートでなくても開発した人工神器(セイクリッドギア)を見せてみると同様の反応を見せたので仲良く出来るなと確信した。

 力に対してストイックなのはいいが、ヴァーリは男のロマンを知らなさ過ぎる。

 その点、雄之介はよく飛びつく。

 

「ユー、お前が運転するんだ!」

「僕がですか!?」

 

 ビシッ、と人差し指を突きつけるアザゼルはとある組織の上層部のようにサングラスが目を覆って光っているように見えた。

 繰り広げられる茶番、アザゼルに押し付けられたニホンのトクサツとやらに影響されたやりとり。

 そういえば、いつだったか『ジョーカー』の奥の手であるライダーキックの練度を上げる為に滝を割る修行をさせられていた雄之介がいた。

 心配してアンが見に行ったときだったが、何故かアザゼルが鬼のような形相をして雄之介を叱っていた。

 あのあと、アザゼルと雄之介はアンに説教を受けた。

 

「アン、どうしてユーはあんなにテンションが高いんだ?たかが運転できるってだけだろ?」

「ユーくんはああいうのが好きみたいだからね。夢中なものがあるというのはいいと思うよ。ヴァーリも強い相手と戦いたいでしょう?それと同じ」

「そんなものか……」

 

 いまいち要領を掴めていないヴァーリだが、その満面の笑みで大方を察したんだろうなとアンは理解した。

 雄之介とほとんど同じくらいには分かりやすいのだ、ヴァーリは。

 

 その後、雄之介の熱意に押されて雄之介がトライドロンを運転することになった。

 そういえば以前、人里のほうに用があるといってしばらく帰ってこなかったのは免許でも取りに行っていたのだろうか。

 一度だけ見たことあるが、雄之介の変身する『ジョーカー』はどちらかというとバイクに乗るヒーローっぽかったはずだ。

 

 野暮かもしれないがバイクに乗ったほうが映えるのではないか、と思いながら助手席に座るアン。

 ヴァーリの方ははじめての車が雄之介の運転で大丈夫なのか、と尋ねてみたところ「乗り物内での戦闘を考慮しておくと、慣れておいて損はない」とのこと。

 つくづく戦うことばかり考えている。

 

「一応、オートで運転してくれる機能もあるが、ユーとしては自分で運転したいだろうから最低限のサポートでいいだろ?」

「はい。ありがとうございます、総督!」

「いいんだよ、気にすんな。それでもっと褒めろ。今回の仕事としちゃあ、ミノタウロスの討伐だ。バラキエルの奴へのお歳暮ってやつだな」

 

 以前ならば、もっとそれらしいことをしたいとごねたこともあったヴァーリだったがアザゼルのお話という名の洗脳によって素材採集さえもトレーニングと認識できるようになったことで文句は言わなくなった。

 むしろ、はじめての車から見える風景にそわそわしているようにも見える。

 しばらくは車は一人で乗っていたという雄之介、はじめて助手席に乗るのが自分だと思うとアンは胸の高鳴りを押さえられなかった。

 

「じゃあ、気をつけて行って来い。プロトトライドロンでの走行は良かったからな、上手く活用できたら、ユーの免許祝いだ。やるよ」

「本当ですか!?」

 

 アザゼルがピットのハッチを開けると、雄之介は鼻息を荒げん勢いだ。

 そんなに嬉しかったのかなと思いつつ、自分がいることを忘れて欲しくないアンは、

 

「安全運転でお願いね、ドライバーさん」

「任された!」

「じゃあ、行って来いお前ら」

 

 トライドロンが返事の代わりに走り出すと、その後ろ姿を見送りながら一人残されたアザゼル。

 

「……アレくらいガキは分かりやすくなくちゃなあ。正義だなんだってより、人を助けたい。結構じゃねえか、ユー。お前のまわりにはもちろんオレもいるし、アンもいる。まわりに頼るのは悪いことじゃないんだぜ?ゆめゆめ忘れねえようにな」

 

 かつて、バラキエルの妻の元にその実家から娘の朱乃を不浄として刺客を送り込んできたことがあった。

 そのとき、“偶然”居合わせた雄之介が黒いボディに紫のライン、紅い一対の複眼を持つ超人『ジョーカー』となってプロの陰陽師相手に立ち回った。

 同世代の子供と接することが少なかった雄之介、教育に良くないだろうということでアザゼルが朱乃に引き合わせる意味合いも込めて連れて行った。

 

 まだアザゼルが気づいていなかったのだが、雄之介は度を越えたお人よしだった。

 自分が傷つくのを顧みず、自分から危険に飛び込んで行って人を渦中から救い出そうとする。

 そんな性質の持ち主だった。

 雄之介の身を案ずる周囲からすればたまったものではない。

 一度、無茶した負傷したヴァーリの元に『ジョーカー』に変身してヴァーリを傷つけたトロールの元に向かっていって力加減を間違え、地面に小さなクレーターをライダーパンチの不発で作り出してしまい、その隙を見逃さなかったトロールによって怪我を負わされた。

 その隙を逃さなかったヴァーリが負傷しながらも仕留めたことで事なきを得たが、雄之介はあまりにも自分の身を軽く見ていた。

 

「……ガキってのは面倒臭ェや」

 

 ポリポリと髪をかきながら、部下の帰還を待つこととしようとアザゼルはピットから神の子を見張るものの事務所に戻った。

 

                  JOKER

 

「おい、凄いぞ、ユー!風景が消し飛んでいる!」

「スピードとか大丈夫なの?これ」

「問題ないって。ジョーカーメモリ挿せば、サポートもしてくれるみたいだし」

 

『JOKER!』

 

 車のキーを入れる箇所の他にある大きなUSBメモリ、ガイアメモリを挿入する箇所がある。

 そこに走行中に挿しながら起動を待つと、テンションの上がっているヴァーリの声が聞こえる。

 

『TridronControlSystem』

 

 そして浮かび上がるエンブレムのようなもの。

 イメージはまるで『ジョーカー』のようだった。

 

『フム、おはよう。そしてはじめまして、私はこのトライドロンのコントロールシステム。好きに呼んでくれたまえ。あ、さん付けは忘れないようにね。特に候補がなければ、ジョーカーさんと呼んでくれたまえ』

 

「えっ?」

 

 カーナビがナビゲートする為の音声があるのは構わない。

 音声がないとナビゲートできないからだ、そこは認める。

 しかし、まさか自らジョーカーと名乗るとは。

 アンは運転している雄之介を見てみるが、

 

「いや、僕がジョーカーなんだけど……」

『呼び捨てにするのはいただけないね、雄之介?』

「あっ、そっちなんだ」

 

 譲れないものがあるらしい、ジョーカーさんと雄之介。

 突込みどころはそこじゃないんだよなぁ、と思うアンであった。

 




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